アローラ地方。4つの島々からなる温暖かつ平和な地方。その気候ゆえリゾート地としての名も高い。けれど俺は。
その闇を、知っている。
島巡り。アローラにおいて、11歳を迎えた子供が挑む通過儀礼。4つの島を巡り、各地にある試練に挑んでいく。その試練に挑むことのできなかった者、もしくは途中で諦めた者は、
皆例外なく、後ろ指を刺される。
俺もそのうちの1人だ。俺はとにかくポケモンバトルというものの才がなかった。タイプ相性も攻撃の種類も、何もかも覚えられない。だから俺は、島巡りを辞退した。
親は俺の決断を尊重してくれた。結局俺は親の仕事を手伝うことになった。けれど想像以上に、島巡りに挑めなかった俺に、世界は厳しかった。
「あそこのお子さん、島巡りに挑めなかったんですって」
「島巡りに挑むことすらできないなんて、大丈夫かなあ」
街を歩けばそう言われる。周囲の視線と声が怖くて、俺は常に俯いて過ごすようになった。親はそんなことを言わず、俺に今までと変わらず接してくれる。それが逆に申し訳なくて、惨めでたまらなかった。
けれど俺の妹には、才能があった。草むらで捕まえたコイルと一緒に、あっという間にそこらで負けなしになっていった。おまけに美人で物分かりもいい。俺にも優しく接してくれる。
「島巡りに挑まなくても、おにいちゃんのことはよく知ってるもの」
妹が笑ってそう言ってくれた時。俺はどれだけ救われただろうか。
それから数年経って。妹は島巡りに挑戦した。妹は瞬く間に島巡りを進めていった。街や新聞は妹の話題で持ちきりだった。俺のことを馬鹿にしてきた連中が、妹目当てで俺に話しかけてくる。俺は何もしていないけど、妹が活躍していくたびに自尊心が満たされていった。
けれど妹は島巡りの間、一度として連絡をよこしてこなかった。とはいえ仕方ない。島巡りは通過儀礼でこそあるが過酷だ。そんな暇などないのだろう。だからそうだ、仕方ない。
新聞にデカデカと載る妹の写真を見る。相変わらず美人だ。ブロンドの髪は艶やかで、青い瞳は海のよう。人形のようと持て囃されていたが、その気持ちもわかるというものだ。新聞のインタビューにも丁寧に答えている。ポケモンバトルだって負けなしだ。そんな完璧な妹が。非の打ち所のない妹が。
ああ、駄目だ。こんなことあってはならない。俺のような底辺が。俺のようなぐずが。お前を妬むなんて、あってはならないんだ。
それからしばらくして。妹は島巡りを完遂した。最後の島クイーンにすら勝った。ポケモンリーグにこそ挑戦しなかったが、妹はアローラでもっとも素晴らしい存在になった。
妹がアーカラ島に戻ってきた。仕事で忙しい両親の代わりに、俺が迎えに行くことになった。やがて船がやってきて、妹が帰ってきた。島巡りを終えて、なんだかより強く、美しくなった気がする。ああ、
「おにいちゃん、ただいま」
「帰ってきたんだな、お疲れさま」
車を走らせて、家に戻る。けれど両親は仕事がまだ終わっていないようで、家には俺と妹の2人きり。妹はキッチンで俺に背を向けて水を飲んでいる。妹は、俺に背を向けている。
不用心だ
油断している
ああ。
今なら殺せるかもしれない。
「おにいちゃん」
「!!」
今、俺は何をしようとした?見ると、両手を伸ばしていた。まさか。違う。何かの間違いだ。だって、妹は俺の
「話をしましょ」
椅子に座るよう言われる。まっすぐに、見つめられる。身動きが取れない。
「おにいちゃんは、コンプレックスを持っているのよね」
「………」
「まあ、仕方ないことだとは思うわ。島巡りで人生が左右されるなんてごめんよね」
「………」
どの口が、言っているんだ。才能のあったおまえが、なんの憂いもないおまえが。知ったような口を……
「前にね、パパとママが話しているのを聞いたの。おにいちゃんも島巡りができたらどれだけよかったかって」
「………」
父さんと、母さんが?あんなに、優しく接してくれたのに?結局2人も、陰で俺のことをそう言っていたのか。違う、違う。仕方ない、仕方ないんだ。2人には迷惑をかけた。だから仕方ないんだ__
「でも“わたしだけ”は、おにいちゃんの味方だから」
「………!!」
手を握られ、まっすぐに見つめられる。妹はなんとも慈悲深く、美しく、優しい微笑みを浮かべていた。膝から力が抜ける。涙が溢れる。
そうだ、俺は認めて欲しかった。味方が欲しかった。それだけだったのに。
「おにいちゃん、辛かったでしょう」
優しく撫でられる。手で触れられた部分が浄化されていくように感じる。
「もう大丈夫よ」
手に縋る。
「わたし“だけ”は、おにいちゃんの味方だもの。」
ああ、俺はなんて愚かだったのだろう。こんなにも俺のことを想ってくれているのに、俺は嫉妬して、妬んで。けれどもうそんなことはしない。妹“だけ”は俺の味方。なら俺も、無力ながら妹“だけ”の味方でいよう。
ああ、ルセ。俺の大切な妹。
青年
島巡りに挑めず、後ろ指を刺される。親の仕事を手伝っている。
妹
完璧な美人。人形のよう。兄のことを大切に想っている?