僕はげきからマホイップと世界を巡る   作:三笠みくら

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UAが2026を突破しました。縁起がいいね!

感想いっぱいくれ。


からいじゃなくてつらい

 

 

僕のおじいちゃんは、笑わない人だった。

 

いつも不機嫌でしかめっ面、口を開いても誰かの悪口ばかり。そんなおじいちゃんが、僕は嫌いだった。それでも足が悪くて1人なので、仕方がなく同居していた。

 

そんなおじいちゃんは、いつもポケモンリーグの番組を見ていた。ジムリーダーにチャンピオン、全員の悪口を言っていた。完全にいちゃもんだったけど。

 

なんでもおじいちゃんは昔、はがねジムのジムリーダーだったらしい。それは強かったらしいけど、いかんせん本人の言っていることなので真偽はわからない。僕にとっては、どうでもいいことだと思っていた。

 

 

ある日。おじいちゃんが僕を呼んで、ささやいた。

 

 

「お前は、ガラルで1番のトレーナーになるんだ」

 

 

意味はわからなかった。でもその時の声が、顔が、肩に置かれた手が。気持ち悪かったことははっきりしていた。

 

 

それから少しして。おじいちゃんは僕を勝手にトレーナーズスクールに入れた。当然お母さんは怒った。けれどおじいちゃんには全く届かなくて。当時の僕は、ポケモンの勉強ができる楽しい場所なんだと思って了承してしまった。それがいけなかった。

 

おじいちゃんは、それからというもの僕に執着するようになった。何をするにもついてきて、指図してくる。かけてくる言葉は僕を否定して叱るものばかり。テストで100点を取れないと怒鳴られた。宿題を少しでも遅くすれば怒鳴られた。誰かと遊べば怒鳴られた。だから、友達もいなくなった。

 

 

その理由は、すぐに分かった。

 

 

テレビに映るチャンピオン・ダンデ。それを恨みがましく指差して、おじいちゃんは言った。

 

 

「いいか。お前はチャンピオンになるんだ。誰にも負けない、チャンピオンに、ならなければいけない。」

 

 

ああ。その言葉で、僕は理解した。おじいちゃんは、チャンピオンになりたいんだ。でも年老いた自分にはできない。だから、孫の僕を使ってその夢を叶えたいんだ。なんて、みじめなんだろう。

 

 

それから少し。僕がポケモンリーグの試合を見て、はしゃいでいた時のこと。ジムリーダー・ポプラさんの繰り出したマホイップ。そのポケモンがかわいいんだと、おじいちゃんに伝えた。その時。

 

おじいちゃんの顔が、険しく、赤黒くなっていって。

 

 

ごちん。

 

 

気がつくと、床に倒れていた。何が起きたのかわからなかった。でも、頬が痛かった。おじいちゃんの方を見ると、息を荒くして手を上げていて。殴られたんだと、分かった。

 

その後すぐに異変を察してお母さんが戻ってきて、それはものすごい口論に発展した。お母さんは必死におじいちゃんを責めて、僕を庇っていたけれど。おじいちゃんには何を言っても通じていなかった。おじいちゃんはまるで子供の癇癪のように喚いて、暴れて。その時に理解したんだ。

 

 

この人には、何を言っても無駄なんだって。

 

 

 

それから、僕はおじいちゃんに逆らうことはしなくなった。外で友達と遊ぶこともしなくなったし、ひたすらに勉強をした。マホイップの関連グッズを集めるのは許された。マホイップを褒めたことじゃなくて、ポプラさんの名前を出したのが気に食わなかったみたいだ。

 

相変わらず実技は怖くてダメだけど、筆記の成績はいいのでなんとかおじいちゃんも許してくれていた。それに流石のおじいちゃんもスクールの中まではついてこないので、スクールでクラスのみんなと楽しく過ごしていた。彼女が来るまでは。

 

 

「アローラから来ました、ルセです。みんな、仲良くしてくれたら嬉しいです」

 

 

スクールに転入してきた、1人の女の子。まるでお人形みたいにきれいでかわいい女の子だった。誰とでも優しく接して、僕にも優しく話しかけてくれた。このままだったら、多分僕は彼女のことを好きになっていたかもしれない。

 

 

でもルセちゃんは、存外早く本性を表した。

 

 

何がきっかけだったのかはわからない。でもある時から、ルセちゃんは僕につきっきりになった。もちろん、いい意味じゃない。

 

 

「アマネくん、実技の成績良くないんだってね。わたしが教えてあげる」

 

 

そう言って、僕に勉強を教えてきた。苦手だからと断ったけど、彼女は押し切ってきた。いや、無視してきたと言った方が正しいな。

ルセちゃんのバトルは、怖かった。ポケモンに反動のある技を平気で使わせるし、傷ついてもキズぐすりを使わない。それに、何より。

 

ポケモンへの愛情というものが、かけらも感じられなかった。

 

怖くなって、僕は離れようとした。すると、彼女はスマホロトムの画面を見せてきた。そこには、笑顔で接客する両親の姿。

 

 

「わたしね、リーグ委員会の人とちょっとしたコネがあるの。だからちょっと告げ口したら……この小さな料理屋さん、なくなっちゃうかもね」

 

 

ぞっとした。ルセちゃんの声は甘ったるくて、どこか浮世離れした声。それでも、彼女ならやるという凄みがあった。それだけはやめて、と言うと、彼女はうっとりとした笑顔で頷いた。そして、後ろから抱きしめてきた。

 

 

「それでいいの。あなたは、わたしの手のひらの上にいて」

 

 

それ以降、ルセちゃんによる本格的な「教育」が始まった。まず、彼女の前で辛いものを食べるのは許されなかった。せっかくお母さんが持たせてくれたお弁当も捨てられて、彼女の作った栄養たっぷりのお弁当を食べさせられた。

 

左手の薬指をカッターで薄く切られた。傷口から溢れる血を、美味しそうに彼女は舐めた。

 

毎日のように体のどこかを傷つけられた。方法は色々。やけどさせられたり、シャーペンの芯で刺されたり、殴られたり。だから夏でも長袖を着たし、タイツが脱げなくなった。

 

そういうことをする時、ルセちゃんは決まってこう言うんだ。

 

 

「あなたのためなの。あなたは、わたしがいないとダメだから」

 

 

理解できなかった。それでも、彼女の教育を受け入れることはできなくて。1度、反抗したこともあった。でもその時の彼女は、まるで子供の癇癪を見ているような、そんな目で僕を見ていた。気にも留めていなかった。

 

なんというか、ルセちゃんは人間なのかと疑わしくなる。あれだけのことをやっておいて、誰にも怒られていないのは彼女が根回ししているからだ。弱みを握って、都合のいいことを囁いて。いろんな手を使って、邪魔をさせないように。

 

なぜそこまで僕に執着するのかは、わからない。彼女の気まぐれなのか、本当に僕のことが好きなのか。

 

 

少なくとも、僕は彼女には消えて欲しいと思ってる。

 




アマネ
祖父とルセによる虐待、いじめを受けてきたため抑圧気味。萌え袖やタイツのゆるふわコーデに見える格好は、実際は怪我を隠すためのもの。マホミルゲット以降は無敵の人になっていた。

ルセ
アマネをいじめるやばい奴。人の形をした何か。辛いものが嫌いで、アマネが食べようものならすぐに捨てていた。アマネを心身共に追い詰めている。ちなみにマホミルゲット時の課外授業には風邪で不参加だった。

アマネ祖父
50年以上前、ガラルのはがねジムリーダーだった。当時の相棒はニャイキング。とにかく傲慢でプライドが高く、自分以外の全てを見下さないと気が済まない。ジムリーダー時代もその性格のため人気は全くなかった。その後交通事故に巻き込まれ引退。しかし当時のチャンピオン・マスタードとジムリーダー・ポプラに勝てなかったのが心残りで彼らに執着している。アマネを殴ったのもポプラの話題を出されたため。
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