◇あらすじ
川原で繰り広げられるサワダvsコガの再戦。
サワダはコガの繰り出したエースモンスター【デスフロッグ・エンペラー】の撃破に成功したものの、【バーニング・フロッグ】のバーンダメージによって敗北してしまう。
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デュエルが終わった川原には、乾いた風が吹き抜けている。コガのバーニング・フロッグによるバーンダメージでサワダのライフはゼロとなり、サワダは地面に片膝をつきながら荒い呼吸を整えていた。
「まさか……俺が、ここまでやられるとは……」
切り札であるドラゴン・オブ・ルインも、ライトニング・ドラゴンもまだフィールドにいた。それでも、コガは“バーン”という手段で勝利を奪っていった。
アラキは言葉を失い、サワダの側へ駆け寄ろうとするが、コガはその前で立ち止まり、辛そうに顔を歪める。
「……ごめん、サワダくん。僕には、どうしても守らなきゃならないものがあるんだ」
そう小さく呟いたコガの声には、先ほどまでの陽気さはなかった。表情もどこか引きつったように見え、瞳には苦悩が宿っている。
彼はデュエルディスクを外しながら、サワダへ視線を向けて腕を伸ばす。
「……だから、ドラゴン・オブ・ルインを貰うよ」
かすかな“次元の歪み”のような雰囲気が、コガの周囲に漂った。まるで空間そのものがしんと静まるかのごとく、重苦しい気配が立ち込める。するとドラゴン・オブ・ルインが、不思議な力で引き寄せられるようにサワダの元を離れ、ゆっくりとコガのほうへ移動を始めた。
──いや、ただ引かれているだけじゃない。
カードは抵抗するように反り返らず、むしろ静かに角度を正していく。まるで敗北を受け入れ、勝者へと歩み寄るかのように。
サワダの指先から離れる瞬間、カードの縁が微かに脈打ち、そこに宿る“意志”が、コガの実力を認めたのだと告げている気がした。
「何だ……これは……?!」
サワダは息を切らしながら、痛む体を起こす。目の前でドラゴン・オブ・ルインがコガへ吸い寄せられるように浮かんでいく光景は、まるで悪夢だった。
だが──その“引力”の質に、覚えがある。
次元帝イシイ。あの男が纏っていた、空間の奥行きをねじ曲げるような気配。
かつてイシイはドラゴン・オブ・ルインを厄介そうに見ていた。そして今、コガの周囲に滲むものが、それと同じ輪郭を持っている。
(まさか……コガは──)
サワダの背筋を、冷たいものが走った。
「ドラゴン・オブ・ルインを……ってことは……」
サワダは唇を噛み、引き寄せられていくカードを見つめた。さっきまでの軽い笑い声が、胸の奥で嫌に反響する。
「……まさか。お前──次元帝イシイの仲間なのか……?」
口にした瞬間、疑いは形を持ってしまった。自分の声が、逃げ道を塞いでいく。
声が震える。怒りより先に、信じた分だけの痛みが込み上げた。
「あんなに、楽しそうにデュエルしてたのに……! お前のこと、いい友達になれそうだって思ってたのに……!」
サワダの動揺した声が川原に響く。ショッピングモールで気さくに話しかけ、あの軽妙で陽気なデュエルを見せてくれたコガ。その姿と、今の冷たい雰囲気があまりにもかけ離れている。
「……ごめん」
コガはそれ以上、何も弁解しない。まるで覚悟を固めたかのように、手を伸ばしたままドラゴン・オブ・ルインを引き寄せようとする。
だが、カードがコガの手元へ到達しようとした刹那──。
「っ……!」
コガは苦しげに息を飲み、腕を止めた。ふと見上げると、サワダが必死の形相で、まるで“カードを引き留める”ように指先を伸ばしているのがわかる。
指先が、あと少しでドラゴン・オブ・ルインに届く──その瞬間だった。
コガの視界が、ふっと裏返る。
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川原の薄闇も、風の音も、すべてが遠のき、代わりに“知らない空”が広がった。灰色の雲が裂け、地平線の向こうまで炎が走る。何千、何万という叫び声。地を揺らす爆音。
──戦争だ。いつの時代かも、どこの国かもわからない。ただ“終わり”の匂いだけが、肌にまとわりつく。
その中心に、いた。
虹色に輝く竜。
神話のように美しく、それでいて背筋が凍るほどの威圧感をまとった巨体が、空を裂いて降り立っている。
そして、その竜の“正面”に──もう一体。
青と白を基調にした冥王めいた巨影が、拳を武器のように構え、黙して立っていた。顔は兜で隠され、表情は読み取れない。ただ、そこにあるのは暴力そのものの気配。
互いに一歩も譲らず、ただ見据え合う。
──戦場は凍りついたように静まり返り、次の瞬間が来ることだけを、世界が息を殺して待っている。
──────
「っ……!」
現実が、跳ね返るように戻ってくる。
川原。冷たい風。目の前で停止したドラゴン・オブ・ルイン。伸ばした手が震えているのは、寒さのせいではない。
(僕は……何を見せられた……?)
喉の奥がひりつく。
“奪う”はずだった。イシイの命令は絶対で、家族のために従わなきゃならない。──なのに、今の光景は、命令に従う指を鈍らせるのに十分すぎた。
(これでいいのか? 本当に……)
コガの脳裏に、別の映像が重なる。
さっきのデュエルで、追い詰められても歯を食いしばって立ち上がったサワダの顔。
悔しさを飲み込みながらも、カードを握り直して前へ出た、その姿。
無謀でも、未熟でも、彼は確かに“諦めずに”戦っていた。
(……あの姿が、この竜の影と重なる。この竜は、まだ何かを秘めている。僕じゃない。サワダくんなら──きっと、その先へ届く。なのに、僕の手でそれを奪ってしまうのか……?)
胸が痛いほどに締めつけられ、コガの腕はついに前へ出ない。
あと一歩で届くのに。届いてしまえば、もう戻れない気がした。
コガは息を殺し、震える指先を──ゆっくりと止めた。
胸が痛むほどの葛藤がコガを襲い、腕が震える。先ほどまで何のためらいもなかったはずなのに、ドラゴン・オブ・ルインが間近に迫った瞬間、コガの心は激しく揺れた。
カードがすっとコガの目の前で停止する。あと一歩手を伸ばせば完全に奪い取れるというのに、コガは動けない。
「……コガ!」
アラキが振り絞るように声を上げ、サワダが必死に立ち上がろうともがく。だが、コガは二人を振り返ろうとせず、硬直したまま、苦悶の表情を浮かべていた。
やがて、コガはゆっくりと腕を下ろし始める。それに呼応するように、ドラゴン・オブ・ルインがスッと力を失うかのように、サワダのもとへと舞い戻っていった。
「……ごめん、サワダくん……」
コガが小さく呟きながら目を伏せる。守らなくてはならない大切な人たちがいる、その事実がコガの行動を縛っているのは間違いない。だが、サワダのドラゴンに宿る力と意志に触れた今、どうしても完全に奪うことができない。
「これは……」
ドラゴン・オブ・ルインがサワダの足元に戻ると、サワダは思わず床に手をついて胸を押さえる。ひどく疲れたが、それでもカードが戻ってきた安堵感で何とか意識を保っていた。
コガの唇が微かに震える。迷いは消えないが、少なくとも今は奪うことをやめた──それがわかると、アラキもほっと息をついた。
「……コガ、何なんだよ……」と、サワダは震える声で問いかける。
だけど、コガは何も言わない。腕を下ろしたまま静かに川面を見つめ、まるで自分に言い聞かせるようにうつむくばかりだった。
こうして、ドラゴン・オブ・ルインをめぐる第二戦は、サワダの敗北で幕を閉じたものの、コガはついにカードを奪いきることなく立ち尽くしている。激しいデュエルがあった川原には、静かな風の音だけが切なく吹き抜けていた。
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暗く染まりかけている川原に、沈黙だけが漂っていた。コガは奪おうとしたドラゴン・オブ・ルインを結局自ら手放し、サワダは地に膝をついたまま。アラキがその場をどう収めればいいか分からず、二人を交互に見回す。
そのとき──突然、夜の空気を裂くように荒々しい笑い声が響き渡った。
「ケッ、ずいぶん楽しそうにやってんじゃねぇか、コガ」
聞き覚えのない男の声に、サワダとアラキはハッとして振り返る。コガは驚愕の面持ちでその声のほうを見つめ、目を見開いた。
「キタムラ……!?」
視界の先にいたのは、獣じみた雰囲気をたたえた男。筋肉質で乱暴そうな姿勢をとり、その口元には凶暴な笑みが浮かんでいる。ローブも着けず、むき出しの両腕には古傷のような痕がいくつも残っていた。
サワダとアラキは、同時に息を呑んだ。
コガが口にした名前──それが、この男の正体を知っている証拠だったからだ。
サワダは歯を食いしばり、膝に手をついたまま男を睨み返した。
「一体、何者なんだ……!?」
問いかけに答えるように、コガが一歩だけ前へ出る。
だが、その肩は強張りきっていた。さっきまでの葛藤とは別種の──“今すぐ危険が来る”と分かっている者の緊張だ。
「……近づかないで」
それはサワダたちに向けた警告でもあり、同時に自分へ言い聞かせるような声でもあった。
コガは視線を外さないまま、絞り出すように続ける。
「こいつは……キタムラ。デュエルバーサーカーって呼ばれてる危険人物だ」
「デュエル……バーサーカー?」
サワダが聞き返すと、コガは小さく頷いた。
「デュエルで相手を追い詰めるのが目的じゃない。“壊す”のが目的なんだ。勝つためじゃなく、痛めつけるためにデュエルする……」
キタムラの笑みが、さらに歪む。まるでその言葉を“褒め言葉”として受け取ったみたいに。
サワダは背筋に冷たいものが走るのを感じた。
さっきまでの“奪われるかもしれない恐怖”とは違う。これは──“目の前に災厄が立っている”という感覚だ。
アラキも無意識に一歩、サワダの前へ出る。守るように。けれど、拳は震えていた。
「イシイ様の命令を果たさねぇで、てめぇは何をグズグズやってやがるんだ? まさか、ドラゴン・オブ・ルインを奪わねぇとは……ヘタレたか、カエル使い?」
“カエル使い”という言葉に反応するように、コガの表情がわずかに歪む。サワダは混乱しながら立ち上がり、「この野郎も、イシイの手下なのか……」と苦い声を漏らした。
キタムラ──見たところ、コガを知っているらしいこの男は、ギラリとサワダたちを一瞥し、再びコガへと視線を戻す。
「てめぇがドラゴン・オブ・ルインを奪わねぇなら、オレが代わりに奪うまでだ。だけど、その前に裏切り者は始末しとかねぇとな……?」
その瞳は獣のような凶暴さを帯び、まるで戦うことを心底求める戦闘狂そのもの。コガは緊張で体をこわばらせ、サワダとアラキは手が出せずに固唾をのんで見守るしかなかった。
「キタムラ……なぜここに……!」
コガの呟きを耳にしながら、キタムラはデュエルディスクを強引に腕へ装着し、にやりと口角を吊り上げる。
「オレは待ちくたびれたんだよ。イシイ様から聞いたぜ、てめぇがドラゴン・オブ・ルインを奪う係だったってな? ところがそれをしねぇ。つまり、裏切りってことだろ?」
荒々しい笑い声とともに宣言されるその言葉に、コガは悔しそうに俯く。一方、サワダは「裏切り、だと……?」と混乱しながらも、コガが本当にイシイの配下であることを改めて突きつけられて、やるせない思いがこみ上げる。
「ちょっと待て、コガは……! そもそもイシイの言うことなんか──」
「しゃべってんじゃねぇよ、ガキが。オレはカエル野郎と決着をつけるんだ」
サワダの言葉をバッサリ断ち切るように、キタムラは殺気を含んだ目でコガを見据える。デュエルディスクのホログラムが起動すると、ライフゲージが表示される。
「……行くぞ、コガ。覚悟しとけ。イシイ様に逆らった罰を思い知れや」
夜風に草がざわめき、川原に漂う一瞬の静寂。その中でコガは意を決したようにディスクを構え、深く息を吐く。
「……わかったよ、キタムラ。やるしかないのか……」
アラキは咄嗟に「コガ、待て!」と呼びかけるが、コガの視線は固く決められていた。サワダもそのデュエルディスクの光を見つめ、拳を握りしめる。
「「デュエル!!」」
こうして、“デュエルバーサーカー”キタムラと、コガのデュエルの火蓋が落とされた。宵闇の川原には、いまにも火花が散りそうな緊張感が満ちていた。
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◆次回予告
唐突に表れた”デュエルバーサーカー”キタムラと”カエル使い”のコガ、次元帝の部下同士のデュエルへ。
キタムラのLPを超火力に変換する戦術が、コガのカエルに襲い掛かる。
果たしてコガはバーサーカーの猛攻を凌ぎ切れるか?
次回「コガVSキタムラ──粛清の狂竜」デュエル、スタンバイ!