【遊戯王】ドラゴンマスター・サワダ   作:おならむし

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12:デュエルバーサーカー乱入

◇あらすじ

川原で繰り広げられるサワダvsコガの再戦。

サワダはコガの繰り出したエースモンスター【デスフロッグ・エンペラー】の撃破に成功したものの、【バーニング・フロッグ】のバーンダメージによって敗北してしまう。

 

──────────

 

 デュエルが終わった川原には、乾いた風が吹き抜けている。コガのバーニング・フロッグによるバーンダメージでサワダのライフはゼロとなり、サワダは地面に片膝をつきながら荒い呼吸を整えていた。

 

「まさか……俺が、ここまでやられるとは……」

 

 切り札であるドラゴン・オブ・ルインも、ライトニング・ドラゴンもまだフィールドにいた。それでも、コガは“バーン”という手段で勝利を奪っていった。

 

 アラキは言葉を失い、サワダの側へ駆け寄ろうとするが、コガはその前で立ち止まり、辛そうに顔を歪める。

 

「……ごめん、サワダくん。僕には、どうしても守らなきゃならないものがあるんだ」

 

 そう小さく呟いたコガの声には、先ほどまでの陽気さはなかった。表情もどこか引きつったように見え、瞳には苦悩が宿っている。

 

 彼はデュエルディスクを外しながら、サワダへ視線を向けて腕を伸ばす。

 

「……だから、ドラゴン・オブ・ルインを貰うよ」

 

 かすかな“次元の歪み”のような雰囲気が、コガの周囲に漂った。まるで空間そのものがしんと静まるかのごとく、重苦しい気配が立ち込める。するとドラゴン・オブ・ルインが、不思議な力で引き寄せられるようにサワダの元を離れ、ゆっくりとコガのほうへ移動を始めた。

 

──いや、ただ引かれているだけじゃない。

 

 カードは抵抗するように反り返らず、むしろ静かに角度を正していく。まるで敗北を受け入れ、勝者へと歩み寄るかのように。

 

 サワダの指先から離れる瞬間、カードの縁が微かに脈打ち、そこに宿る“意志”が、コガの実力を認めたのだと告げている気がした。

 

「何だ……これは……?!」

 

 サワダは息を切らしながら、痛む体を起こす。目の前でドラゴン・オブ・ルインがコガへ吸い寄せられるように浮かんでいく光景は、まるで悪夢だった。

 

 だが──その“引力”の質に、覚えがある。

 

 次元帝イシイ。あの男が纏っていた、空間の奥行きをねじ曲げるような気配。

 

 かつてイシイはドラゴン・オブ・ルインを厄介そうに見ていた。そして今、コガの周囲に滲むものが、それと同じ輪郭を持っている。

 

(まさか……コガは──)

 

 サワダの背筋を、冷たいものが走った。

 

「ドラゴン・オブ・ルインを……ってことは……」

 

 サワダは唇を噛み、引き寄せられていくカードを見つめた。さっきまでの軽い笑い声が、胸の奥で嫌に反響する。

 

「……まさか。お前──次元帝イシイの仲間なのか……?」

 

 口にした瞬間、疑いは形を持ってしまった。自分の声が、逃げ道を塞いでいく。

 

 声が震える。怒りより先に、信じた分だけの痛みが込み上げた。

 

「あんなに、楽しそうにデュエルしてたのに……! お前のこと、いい友達になれそうだって思ってたのに……!」

 

 サワダの動揺した声が川原に響く。ショッピングモールで気さくに話しかけ、あの軽妙で陽気なデュエルを見せてくれたコガ。その姿と、今の冷たい雰囲気があまりにもかけ離れている。

 

「……ごめん」

 

 コガはそれ以上、何も弁解しない。まるで覚悟を固めたかのように、手を伸ばしたままドラゴン・オブ・ルインを引き寄せようとする。

 

 だが、カードがコガの手元へ到達しようとした刹那──。

 

「っ……!」

 

 コガは苦しげに息を飲み、腕を止めた。ふと見上げると、サワダが必死の形相で、まるで“カードを引き留める”ように指先を伸ばしているのがわかる。

 

 指先が、あと少しでドラゴン・オブ・ルインに届く──その瞬間だった。

 

 コガの視界が、ふっと裏返る。

 

──────

 

 川原の薄闇も、風の音も、すべてが遠のき、代わりに“知らない空”が広がった。灰色の雲が裂け、地平線の向こうまで炎が走る。何千、何万という叫び声。地を揺らす爆音。

 

──戦争だ。いつの時代かも、どこの国かもわからない。ただ“終わり”の匂いだけが、肌にまとわりつく。

 

 その中心に、いた。

 

 虹色に輝く竜。

 

 神話のように美しく、それでいて背筋が凍るほどの威圧感をまとった巨体が、空を裂いて降り立っている。

 

 そして、その竜の“正面”に──もう一体。

 

 青と白を基調にした冥王めいた巨影が、拳を武器のように構え、黙して立っていた。顔は兜で隠され、表情は読み取れない。ただ、そこにあるのは暴力そのものの気配。

 

 互いに一歩も譲らず、ただ見据え合う。

 

 ──戦場は凍りついたように静まり返り、次の瞬間が来ることだけを、世界が息を殺して待っている。

 

──────

 

「っ……!」

 

 現実が、跳ね返るように戻ってくる。

 

 川原。冷たい風。目の前で停止したドラゴン・オブ・ルイン。伸ばした手が震えているのは、寒さのせいではない。

 

(僕は……何を見せられた……?)

 

 喉の奥がひりつく。

 

 “奪う”はずだった。イシイの命令は絶対で、家族のために従わなきゃならない。──なのに、今の光景は、命令に従う指を鈍らせるのに十分すぎた。

 

(これでいいのか? 本当に……)

 

 コガの脳裏に、別の映像が重なる。

 

 さっきのデュエルで、追い詰められても歯を食いしばって立ち上がったサワダの顔。

 

 悔しさを飲み込みながらも、カードを握り直して前へ出た、その姿。

 

 無謀でも、未熟でも、彼は確かに“諦めずに”戦っていた。

 

(……あの姿が、この竜の影と重なる。この竜は、まだ何かを秘めている。僕じゃない。サワダくんなら──きっと、その先へ届く。なのに、僕の手でそれを奪ってしまうのか……?)

 

 胸が痛いほどに締めつけられ、コガの腕はついに前へ出ない。

 

 あと一歩で届くのに。届いてしまえば、もう戻れない気がした。

 

 コガは息を殺し、震える指先を──ゆっくりと止めた。

 

 胸が痛むほどの葛藤がコガを襲い、腕が震える。先ほどまで何のためらいもなかったはずなのに、ドラゴン・オブ・ルインが間近に迫った瞬間、コガの心は激しく揺れた。

 

 カードがすっとコガの目の前で停止する。あと一歩手を伸ばせば完全に奪い取れるというのに、コガは動けない。

 

「……コガ!」

 

 アラキが振り絞るように声を上げ、サワダが必死に立ち上がろうともがく。だが、コガは二人を振り返ろうとせず、硬直したまま、苦悶の表情を浮かべていた。

 

 やがて、コガはゆっくりと腕を下ろし始める。それに呼応するように、ドラゴン・オブ・ルインがスッと力を失うかのように、サワダのもとへと舞い戻っていった。

 

「……ごめん、サワダくん……」

 

 コガが小さく呟きながら目を伏せる。守らなくてはならない大切な人たちがいる、その事実がコガの行動を縛っているのは間違いない。だが、サワダのドラゴンに宿る力と意志に触れた今、どうしても完全に奪うことができない。

 

「これは……」

 

 ドラゴン・オブ・ルインがサワダの足元に戻ると、サワダは思わず床に手をついて胸を押さえる。ひどく疲れたが、それでもカードが戻ってきた安堵感で何とか意識を保っていた。

 

 コガの唇が微かに震える。迷いは消えないが、少なくとも今は奪うことをやめた──それがわかると、アラキもほっと息をついた。

 

「……コガ、何なんだよ……」と、サワダは震える声で問いかける。

 

 だけど、コガは何も言わない。腕を下ろしたまま静かに川面を見つめ、まるで自分に言い聞かせるようにうつむくばかりだった。

 

 こうして、ドラゴン・オブ・ルインをめぐる第二戦は、サワダの敗北で幕を閉じたものの、コガはついにカードを奪いきることなく立ち尽くしている。激しいデュエルがあった川原には、静かな風の音だけが切なく吹き抜けていた。

 

──────

 

 暗く染まりかけている川原に、沈黙だけが漂っていた。コガは奪おうとしたドラゴン・オブ・ルインを結局自ら手放し、サワダは地に膝をついたまま。アラキがその場をどう収めればいいか分からず、二人を交互に見回す。

 

 そのとき──突然、夜の空気を裂くように荒々しい笑い声が響き渡った。

 

「ケッ、ずいぶん楽しそうにやってんじゃねぇか、コガ」

 

 聞き覚えのない男の声に、サワダとアラキはハッとして振り返る。コガは驚愕の面持ちでその声のほうを見つめ、目を見開いた。

 

「キタムラ……!?」

 

 視界の先にいたのは、獣じみた雰囲気をたたえた男。筋肉質で乱暴そうな姿勢をとり、その口元には凶暴な笑みが浮かんでいる。ローブも着けず、むき出しの両腕には古傷のような痕がいくつも残っていた。

 

 サワダとアラキは、同時に息を呑んだ。

 

 コガが口にした名前──それが、この男の正体を知っている証拠だったからだ。

 

 サワダは歯を食いしばり、膝に手をついたまま男を睨み返した。

 

「一体、何者なんだ……!?」

 

 問いかけに答えるように、コガが一歩だけ前へ出る。

 

 だが、その肩は強張りきっていた。さっきまでの葛藤とは別種の──“今すぐ危険が来る”と分かっている者の緊張だ。

 

「……近づかないで」

 

 それはサワダたちに向けた警告でもあり、同時に自分へ言い聞かせるような声でもあった。

 

 コガは視線を外さないまま、絞り出すように続ける。

 

「こいつは……キタムラ。デュエルバーサーカーって呼ばれてる危険人物だ」

 

「デュエル……バーサーカー?」

 

 サワダが聞き返すと、コガは小さく頷いた。

 

「デュエルで相手を追い詰めるのが目的じゃない。“壊す”のが目的なんだ。勝つためじゃなく、痛めつけるためにデュエルする……」

 

 キタムラの笑みが、さらに歪む。まるでその言葉を“褒め言葉”として受け取ったみたいに。

 

 サワダは背筋に冷たいものが走るのを感じた。

 

 さっきまでの“奪われるかもしれない恐怖”とは違う。これは──“目の前に災厄が立っている”という感覚だ。

 

 アラキも無意識に一歩、サワダの前へ出る。守るように。けれど、拳は震えていた。

 

「イシイ様の命令を果たさねぇで、てめぇは何をグズグズやってやがるんだ? まさか、ドラゴン・オブ・ルインを奪わねぇとは……ヘタレたか、カエル使い?」

 

 “カエル使い”という言葉に反応するように、コガの表情がわずかに歪む。サワダは混乱しながら立ち上がり、「この野郎も、イシイの手下なのか……」と苦い声を漏らした。

 

 キタムラ──見たところ、コガを知っているらしいこの男は、ギラリとサワダたちを一瞥し、再びコガへと視線を戻す。

 

「てめぇがドラゴン・オブ・ルインを奪わねぇなら、オレが代わりに奪うまでだ。だけど、その前に裏切り者は始末しとかねぇとな……?」

 

 その瞳は獣のような凶暴さを帯び、まるで戦うことを心底求める戦闘狂そのもの。コガは緊張で体をこわばらせ、サワダとアラキは手が出せずに固唾をのんで見守るしかなかった。

 

「キタムラ……なぜここに……!」

 

 コガの呟きを耳にしながら、キタムラはデュエルディスクを強引に腕へ装着し、にやりと口角を吊り上げる。

 

「オレは待ちくたびれたんだよ。イシイ様から聞いたぜ、てめぇがドラゴン・オブ・ルインを奪う係だったってな? ところがそれをしねぇ。つまり、裏切りってことだろ?」

 

 荒々しい笑い声とともに宣言されるその言葉に、コガは悔しそうに俯く。一方、サワダは「裏切り、だと……?」と混乱しながらも、コガが本当にイシイの配下であることを改めて突きつけられて、やるせない思いがこみ上げる。

 

「ちょっと待て、コガは……! そもそもイシイの言うことなんか──」

 

「しゃべってんじゃねぇよ、ガキが。オレはカエル野郎と決着をつけるんだ」

 

 サワダの言葉をバッサリ断ち切るように、キタムラは殺気を含んだ目でコガを見据える。デュエルディスクのホログラムが起動すると、ライフゲージが表示される。

 

「……行くぞ、コガ。覚悟しとけ。イシイ様に逆らった罰を思い知れや」

 

 夜風に草がざわめき、川原に漂う一瞬の静寂。その中でコガは意を決したようにディスクを構え、深く息を吐く。

 

「……わかったよ、キタムラ。やるしかないのか……」

 

 アラキは咄嗟に「コガ、待て!」と呼びかけるが、コガの視線は固く決められていた。サワダもそのデュエルディスクの光を見つめ、拳を握りしめる。

 

「「デュエル!!」」

 

 こうして、“デュエルバーサーカー”キタムラと、コガのデュエルの火蓋が落とされた。宵闇の川原には、いまにも火花が散りそうな緊張感が満ちていた。

 

──────────

 

◆次回予告

唐突に表れた”デュエルバーサーカー”キタムラと”カエル使い”のコガ、次元帝の部下同士のデュエルへ。

キタムラのLPを超火力に変換する戦術が、コガのカエルに襲い掛かる。

果たしてコガはバーサーカーの猛攻を凌ぎ切れるか?

 

次回「コガVSキタムラ──粛清の狂竜」デュエル、スタンバイ!

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