【遊戯王】ドラゴンマスター・サワダ   作:おならむし

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18:禁忌の召喚法・シンクロ

 

 

◇あらすじ

弟子入りを賭けたカワベとのデュエルだったが、

ドラゴン・オブ・ルインのコントロールを奪われ、カワベに完敗したサワダ。

ついにはカワベのLPを1ポイントも削ることが出来なかった。

 

──────────

 

 絶対的な火力を発揮したドラゴン・オブ・ルインを逆手に取られ、サワダは一瞬でライフを削りきられてしまった。勝負はカワベの圧勝。道場の空気は静まり返り、サワダは地面に膝をつきながら肩で息をしていた。

 

 なすすべもなく完敗した事実が、若さゆえの悔しさとなってサワダの瞳を潤ませる。まともに相手のライフを削ることもできず、ライフを1ポイントすら削れなかった屈辱に、拳を握りしめたまま顔を上げられない。

 

「くそっ……何も……通じなかった、俺の攻撃……」

 

 その姿には、技量不足を痛感した若さがにじみ出ていた。カワベはローブの裾を揺らしながらサワダに歩み寄り、ゆっくりと視線を落とす。厳格な顔立ちはほとんど表情を変えないが、微かに柔らかな色が混じっているように見える。

 

「確かに、今のお前では私の戦術を突破することはできまい。……だが、安易に力を求めているわけではないと伝わってきた」

 

 カワベの静かな声に、サワダはちらりと顔を上げる。苦々しさが消えぬままの表情だが、その耳はカワベの言葉をしっかり捉えていた。

 

「どうやら助けたい誰かがいて、そのために本気で強くなろうとしているのだろう。ならば、お前は私のもとで修行するがいい。自分の選んだ道が正しいものかどうか、今はまだ分からぬだろうが……行動しなければ何も変わらん」

 

 その言葉は、一蹴してきた冷たい態度とは明らかに異なる温かさを帯びていた。サワダは、「修行、させてもらえるんですか……?」と戸惑い混じりに問い返す。するとカワベはわずかに頷き、道場の奥を指し示すように身を翻す。

 

「なに、私もこんな辺鄙な場所で独り研鑽しているだけではつまらんからな。必要があれば、“超魔導剣士”の名に恥じぬよう、徹底して叩き込んでやろう」

 

 その声に背中を押されるように、サワダは地面に落ちたカードを拾い集めながら顔を上げる。その瞳には再び火が宿っていた。

 

 アラキがサワダに駆け寄り、肩を貸しながら応援するように言葉をかける。

 

「よかったじゃねえか、サワダ。ここでなら、もっと強くなれるかもしれない。俺も一緒に修行するから、頑張ろうぜ」

 

「……ああ、アラキ。カワベさん、ありがとうございます。本気で食らいつくんで、よろしくお願いします!」

 

 道場の木の床には、熱い決意を秘めた足音が微かに響いた。サワダは目に悔し涙の名残を浮かべながらも、心はすでに前を向いている。

 

──────

 

 その夜、道場の奥にある簡素な居間で、カワベ・サワダ・アラキの三人は夕食を共にしていた。畳敷きの床に座り、鍋料理が湯気を立てる様子は、修行道場とは思えないほど穏やかだ。

 

 ただし空気には重々しい緊張感が漂っている。アラキが口を開き、これまでの経緯をカワベに説明していたのだ。

 

「……それで、サワダのドラゴン・オブ・ルインが“次元帝イシイ”という存在に狙われているらしく、何度も刺客が送り込まれているんです。最初にイシイ本人がサワダを襲撃し、その後はコガやキタムラという手下が……」

 

 ひとつひとつの単語を噛みしめるように語るアラキの言葉を、カワベは眉をひそめながら黙って聞いている。隣ではサワダが、父のノートをカワベへと手渡した。

 

「これが父のノートです。 “ケイスケ”って名前なんですが、どうやら“次元帝”と深い因縁があったみたいで……暗号みたいな走り書きや力の研究がたくさんあって、自分だけじゃ解読できなくて」

 

 ノートの紙質は劣化が進んでおり、文字の一部が滲んだり裂けたりして判読困難な箇所も多い。カワベはローブの袖をまくり、読める範囲を丁寧に追っていく。

 

「確かに暗号めいているな。筆跡からは、よほど焦りや激情に駆られて書いた形跡が分かる……。なるほど、“イシイ”と“ドラゴン・オブ・ルイン”に関する記述がこのあたりに密集しているのか」

 

 ページをめくるたびに、サワダの父が残した激しい感情がビリビリと伝わってくるようだ。これほどの思いを抱えてイシイと対立していたとなると、相手側──“次元帝”も相当な確執があったに違いない。

 

 アラキは続けるように、コガとの一連の出来事を説明した。封印されたコガの苦悩、そしてキタムラという狂戦士の猛威……。それらを静かに聞き届けたカワベは、ノートを閉じ、やや沈んだ表情で推察を語った。

 

「つまり、ドラゴン・オブ・ルインは“次元帝イシイ”から見れば、どうしても放置できない代物ということか。しかも、サワダの父が長年にわたって研究し、イシイを敵視していたようだ。もしその息子が“ドラゴン”を継承していると知れば、執拗に狙ってくるのは当然だろう」

 

 カワベの言葉に、サワダはぎゅっと胸を押さえ、「イシイの野望がどんなものか分からないが、奴らの実力は半端じゃない。コガとキタムラ……どっちもとんでもない強さだったし……」と焦りをにじませる。

 

 カワベはふと息を吐き、「現実的には、まずはお前たちがもっと強くなるしか手はないだろう」と結論づけるように頷いた。

 

「サワダの父は、このノートに“次元崩壊の危機”を匂わせる言葉をいくつも残している。おそらくイシイは、本当に危険な存在だろう。……とはいえ、今この場でノートの暗号を解読し、イシイの狙いを暴き切るのは難しい。紙質の劣化と独自の符号もあるからな。焦らず、まずは強くなることが先決と見ていい」

 

 アラキも「ですよね」と同意し、サワダの肩を叩く。

 

「きっとまた刺客が来るかもしれない。ここで修行して、戦う力を身につけようぜ、サワダ」

 

 サワダは唇をかむように俯き、「俺はコガにも、キタムラにも、ましてやイシイに勝てるような実力じゃない……。でも、もう止まるわけにはいかないんだ」と拳を握る。

 

 その夜、三人は一通りの報告と今後の方針を確認し合い、やがて灯りを消して床についた。寝室代わりの和室は薄暗く、外には虫の音だけが聞こえる。

 

 カワベは隣室で横になりながら、先ほどのデュエルを回想していた。サワダのドラゴン・オブ・ルインは初めて見るはずなのに、なぜかどこかで感じた既視感が胸に引っかかる。

 

(あのカード、私は初めて見たはず……なのに、自分の場に呼び出した時の妙な馴染みは何だ?)

 

 答えは出そうにない。カワベは静かに目を閉じ、「今は余計なことを考えても仕方ない。まずは奴を鍛える」と心中で呟き、そのまま闇の中へと意識を沈めていった。

 

──────

 

 夜が明け、サワダとアラキはカワベの道場の奥へと足を運んでいた。そこは一見雑然としているが、棚にはデッキ強化用のカードや、様々な戦略の資料が詰め込まれており、デュエルの研究室のようにも見える。

 

 古い紙束や本が積まれた一角で、アラキが一枚のメモを拾い上げ、「なんだこれ……“禁じられたシンクロ”って書いてある」と眉をひそめた。書かれたメモには「タカナシ」という名前も並んでおり、意味ありげな殴り書きが目立つ。

 

「この“タカナシ”って誰だ……?」

 

 アラキが不思議そうに見やると、ちょうど近くにいたカワベがローブを揺らしてやってきた。彼はそのメモをちらりと見て顔を曇らせる。

 

「それはかつての“同志”の名だ。……と言っても、いまは完全に道を違えた存在にすぎないがね」

 

 厳しい響きを含んだその口調に、サワダは別の興味を返す。

 

「シンクロって何ですか?」

 

「かつて隆盛を誇り、今は見る影もない──“シンクロ召喚”という召喚法だ。強力な術として広く認知されたが、危険すぎた。

本来の枠組みを逸脱するほどの力を引き出す以上、ひとたび制御を誤れば世界を滅ぼしかねない──その噂と恐れが広まり、やがて忌避され、廃れていった」

 

 カワベはそう語りながらも、深く立ち入ることはせずに言葉を切る。

 

「いずれ何かの形で知るかもしれんが、今は語れることは多くない。……ただ、お前たちが関わるような存在にならなければいいがな」

 

 その表情はどこか暗く、タカナシという名前に対して相当な感情がありそうだとサワダは察する。詳細を聞こうとするが、カワベは手で制するように首を振った。

 

「そんなことより、ここにあるカードを自由に使ってみろ。デッキを改良して戦術を組む……それも修行の一部だ」

 

 軽く視線を送るカワベの言葉に応じて、サワダとアラキはさまざまなタイプのカードが納められている棚を見渡す。彼らは何か強化のヒントが得られるのではと期待し、さっそくカードを吟味し始めた。

 

──────

 

 こうして始まったのは、カワベの指導のもとでの修行生活だった。道場に設置された訓練用デュエル・シミュレーション装置や、夜通しで行われるデュエル考察の時間など、日々のトレーニングは想像以上にハードで濃密だった。

 

 カワベはサワダとアラキに「相手を観察し、状況を支配せよ」と繰り返し説く。一方でサワダは強攻策を好む性格上、どうしてもすぐに攻め込みたがる。今までとってきたパワーによるデュエルスタイルの強化……そのための資料や装置は確かにこの道場にはある。

 

「もっと強いドラゴンを、もっと強い召喚を……」

 

 サワダの頭の中には、封印されたコガと狂戦士キタムラの姿がちらついていた。コガを救うためには、今の自分じゃ足りない。キタムラ級の相手と互角に渡り合える強さを──と、焦りばかりが募る。

 

「おいサワダ、落ち着けって……」

 

 アラキが隣から声をかけても、サワダは「分かってるけど、もっと火力がないとダメだ」と聞く耳を持たない。訓練用シミュレーションでも、自分の盤面や手札を犠牲にして一気に火力を上げる構築ばかりを試すようになっていた。

 

 結果、短期決戦には強くなる反面、守りが崩壊して負けるケースも散在する。アラキも「そんなんじゃ、結局強敵に勝てる確率、上がらないだろ」と心配しているが、サワダは苛立ちの表情を隠さず「時間がないんだ……」と繰り返す。

 

「コガが封印されたんだぞ。放っておけばアイツはいつまで苦しむか分からない。キタムラだってまた襲ってくるかもしれない……もっと早く、もっと強くならなきゃ」

 

 彼の焦る気持ちを理解しつつも、アラキは「でも、カワベさんの言う“戦局を支配する”って概念を無視し続けると、本末転倒になるんじゃね?」と忠告する。サワダは聞こえていても、心からは受け入れられない。

 

「うるせぇ。そんな理屈みたいな戦い方を一から身に着けてる暇は……とにかく相手をぶち破らないと──もう間に合わなくなるんだよ……」

 

 すれ違うままの二人に、カワベはあえて深く干渉しない。彼なりに理由があるようで、まずはサワダが“自ら”気づくことを待っている様子だ。

 

──────

 

 やがて夜更け、修行メニューを終えたサワダは汗だくのまま畳に倒れ込む。アラキも疲労感を抱えて共に荒い息をついていた。そんな二人の姿を、カワベは無言で見下ろしている。

 

 夜風が道場の隙間からすうっと吹き込むなか、カワベは心中で独白する。

 

(力押しに執着する気持ちはわからなくもない。戦術は言わばデュエリストとしての人格。長年積み上げてきたものを短期間で捨てろ、というのはそう簡単には出来ない)

 

 カワベの視線が、畳に倒れたサワダの拳へ落ちる。指先はまだ震え、爪が畳をわずかに掻いていた。

 

 勝ちたいのではない──“負けたくない”。あの少年にとって力は、矜持であり、怯えを押し殺すための支えでもあるのだろう。

 

 だからこそ、力押しを捨てろと言う言葉は、ただの助言ではなく、自分自身を否定されるに等しい。

 

(しかし、私のかつての“同志”……タカナシもその傾向があった。いつしか踏みとどまれず、禁断のシンクロに耽溺し、その果てに暴走した。力へ執着すればするほど、危うい道に足を踏み入れる危険もある……)

 

 遠い目をするカワベ。タカナシという名の男との苦い思い出が、その脳裏をかすめる。どれだけ周囲が警告しても、“自分”で気づかない限りは変われない──それが彼の経験則だった。

 

 サワダが力に傾倒すれば、タカナシのように禁断の道へ落ちる可能性もないとは言い切れない。だが、カワベはわずかに目を細めて、サワダの横顔を見つめる。

 

(だが、この少年には純粋な目的があるはずだ。焦りも苦しみも、本当に誰かを守ろうとしているからこその感情だ……。そこに自分で気づくまでは、見守るしかあるまい。)

 

 そう思い、カワベはくるりと背を向ける。ローブの裾が道場の木床をさらりと撫で、「今日の修行は終わりだ。休むといい」とだけ口にする。

 

「……ありがとうございました、カワベさん……」

 

 辛うじて聞こえたサワダの声は、悔しそうでもあり、同時に感謝の響きも含まれている。カワベはそれに応えず、ただ静かに歩き去る。

 

 その背中が示す無言の余韻は、師匠然とした温かさとともに、“自分で見いだせ”という厳しさを伝えていた。

 

──────────

 

◆次回予告

サワダたちが修行の日々を送る中、影では次元帝・イシイが薄暗い研究所でとある男と接触していた。

それは『アンデットシンクロ』を操るタカナシ……カワベのかつての同志。

次元帝・イシイの計略が、再び動き出す。

 

次回「アンデットシンクロの策謀」デュエル、スタンバイ!

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