◇あらすじ
修行の日々を送るサワダとアラキ。
力押しに拘るサワダをアラキが諫め、たびたび衝突が起きていた。
そんな中、カワベは力押しに拘るサワダの姿を、『シンクロ』に溺れた”タカナシ”……かつての自分の同志と重ねていた。
──────────
修行の日々は激しく、サワダとアラキはカワベの指導のもと、連日デュエルの訓練を積んでいた。時折、短い休憩を挟むが、そこでも二人はカードや戦術の研究をやめない。
そんなある日の休憩時間。カワベがふと「ドラゴン・オブ・ルインを見せてみろ」とサワダに声をかけた。サワダは戸惑いつつカードケースを取り出し、あの漆黒のドラゴンを差し出す。
「このカード……やはり“加護”のようなものを感じる。どうやら、特定の人間を拒絶する力が込められているらしい」
カワベはカードを光にかざし、静かに言葉を紡ぐ。いままでサワダも漠然と“父の形見に守られている”感覚を覚えていたが、こうして他者に断言されると不思議な気分になる。アラキが興味深そうに顔を近づけた。
「加護……? どういう意味なんですか?」
「推察だが、これまでのお前たちの話を総合すると、この加護は“次元帝”と呼ばれる存在を拒むように作用していると思われる。カードに宿る防護結界のようなものだ。ノートの件と照合すると、おそらくはサワダ、お前の父親が施したのだろう」
その言葉に、サワダは校舎裏でのデュエル――初めてイシイに襲われた時を思い出す。ドラゴン・オブ・ルインが不可思議な光を放ち、イシイの攻撃を弾き飛ばすような出来事があった。
「……やっぱり、あの時、俺を守ってくれたのはこのカードだったのか。父さんが残してくれた力なのか……」
サワダは改めて父親の思いを痛感し、カードを見つめる瞳に切なさが混じる。アラキはそれを見て、少しだけ感慨にひたるように呟いた。
「お前の父さん、すごい人だったんだな……。イシイの攻撃を防ぎきるような加護を残すなんて」
しかし、カワベの声は厳粛だった。
「だが、その加護は弱まりつつある。もし完全に消滅すれば、次元帝たちが直接お前を攻め立てるのを止められなくなるだろう」
サワダは一瞬、心臓を掴まれたように息を詰める。今までは“父の加護”がイシイをどこか遠ざけてくれていたかもしれない。しかし、それが失われれば――。
「加護が消えたら……イシイに正面から狙われるってことか……」
唇を噛んで下を向くサワダ。アラキが心配げに「おい、考えすぎるなよ」と肩を叩くが、サワダは胸の中で焦りを募らせていた。
――――――
カワベが言った「いずれ加護が消えれば、今まで以上に危険になる」という警鐘が、サワダの心を騒がせていた。思えばイシイが直接サワダを確実に仕留められずに退いていたのは、このカードの加護が理由だったのか。
となれば、加護が消えたときの自分は、イシイの猛威を真正面で受けることになる。彼の強大さを思い出すだけで、背筋に冷たいものが走る。
「コガを助けないといけないのに、俺がこんなことじゃ……。一日でも早く、加護なんかに頼らず戦える力を手に入れなきゃ……」
サワダは昼の訓練を終えたあと、道場の廊下でアラキと顔を突き合わせた。アラキは「そんなに焦っても、自分を見失うだけだろ?」と声をかけるが、サワダはうまく受け流すように視線を逸らす。
「悪い……でも時間がねえんだ。コガを封印したキタムラもイシイも、いつまた攻めてくるか分からない。俺が力をつけるしか道はないんだよ」
その表情は脅迫観念に追い詰められているようにも見える。アラキはそんなサワダを心配して、「一度落ち着けって。戦況を見極める術を……」と説得するが、サワダは「うるさい、わかってる」と言葉を投げるばかり。
――――――
焦りや不安からか、サワダの態度は日を追うごとに攻撃的になり、力技に寄ったデュエル戦術ばかりを試行するようになり、アラキとの衝突も日を追うごとに増えていく。
「おい、気持ちは分かるが落ち着けって……まずは攻撃の為の布陣を……」
「うるさい……! 加護がなくなれば即アウト……そう考えると、少しでも速く攻撃力を底上げしたくなるんだ……! イシイの繰り出してきた次元モンスター……戦術でどうにかなるレベルじゃない……!」
日が進んでも諦めることなく、幾度も落ち着きを取り戻そうとさせるアラキにそう叫ぶサワダは、あくまで自分の道を貫こうとする。
「勝つには速攻で超火力を叩き込むしかないんだ! お前だって見てただろ!? ここには火力をあげるための戦術資料がたくさんある!! 俺は一刻も早く必殺の火力を身につけなきゃならないんだ!」
かつて校舎裏で戦ったイシイの”次元モンスター”。特にエースモンスターの【次元の支配者ゼロディウス】の圧倒的な能力。考えれば考えるほど恐怖感に襲われる。父親の加護が無かったらと思うと……全身に冷たいものが走り、ゾッとする。
アラキは歯がゆさを感じながらも、彼の頑なさをどう崩せばいいかわからず、ひとまず見守ることにした。
そんな光景を、道場の廊下から少し離れた場所でカワベが見やっていた。ローブの袖を握りながら、小さく息をつく。
(加護を失ったときの脅威が、サワダをここまで駆り立てているのか……だが、焦りばかりでは本当に勝つ力は得られん……)
常軌を逸した焦燥感に対して師匠として口を出すべきか、あえて今は静観すべきか。カワベは難しい表情で微かに首を振り、日々の修行を続けさせることを決める。その背後で吹き抜ける風が、焦るサワダと不安を抱えるアラキの行く末を暗示するように揺れていた。
――――――
時は夜。サワダがドラゴン・オブ・ルインの加護弱体化に焦燥感を抱いている頃――
その頃、どこか別の場所では、薄暗い研究所のような施設に一人の男がいた。長いローブの裾を引きずり、数多くのモニターや器械が並ぶテーブルを睨むように操作している。
顔に浮かぶのは、憎悪と狂気を宿した険しい表情。禁じられたシンクロに傾倒し、その先へと手を伸ばし続けるこの男こそ、かつてカワベと肩を並べた“同志”――タカナシである。だが、とある事件を境に関係は歪み、今ではカワベへ底知れぬ恨みを抱いていた。
「いいぞ……。奴を潰すための“シンクロ”が洗練されてきた……」
タカナシはメモの束を片手に見やり、破れかけた研究ノートや古代文字の資料を読み漁っている。目には明らかに恨みの炎が宿り、唇をかみながらも執着のまなざしで机上のカードを睨む。
すると、研究所の薄暗い奥から小さな振動が起こり、空間が歪むかのように霧が立ちこめた。そこから静かに姿を現したのは、タキシード風の衣装をまとい、冷然とした雰囲気を醸し出す男――“次元帝”イシイだ。イシイはタカナシに近づくと、まるで研究成果の一部を興味深く見定めるように周囲を見回す。
「ずいぶん熱心に研究を進めているようだな、タカナシ」
タカナシは一度手を止め、振り返りざまに、鋭い瞳をイシイへ向けた。
「……そろそろ来る頃だと思っていた」
タカナシは操作の手を止めず、モニターの明滅だけを見つめたまま言い放った。冷笑が唇の端に貼りつく。
「なぜそう思った?」
イシイの声は静かだった。
タカナシは一瞬だけ目を細める。
「簡単だ。お前の“駒”が壊れたからだ――コガは、もう使えない」
指先が、カチ、と硬い音を立てて止まる。
「そもそもコガとキタムラは相容れなかった。あの二人を同じ盤に置いた以上、どちらかが壊れるのは時間の問題だ」
タカナシはゆっくりと椅子から身を起こし、ようやく振り返った。鋭い眼差しがイシイを射抜く。
「そして――腕の立つデュエリストは、制御不能な奴等しか残っていないだろう。……俺を除けばな」
タカナシの挑発じみた推論を受けても、イシイは眉ひとつ動かさない。薄い笑みを深めるだけで、まるでそれすら計算のうちだと言わんばかりだった。
静かに一歩近づき、淡々と切り出す。
「“超魔導剣士”の元に、“ドラゴンマスター”が弟子入りしたらしい。お前の”アンデットシンクロ”の力を、借りたいと思ってな」
「ドラゴンマスター……ああ、お前がご執心のドラゴン使いか。なるほど、そいつを始末し、例のドラゴンを手に入れろってわけだな」
タカナシは、まるですべてを把握しているかのような口調で言い、記憶をたどるように机上のメモに目を走らせる。イシイは薄く笑みを深めながら、タカナシに一歩近づいた。
「そうだ。“超魔導剣士”カワベの所に行くのなら、お前ほど適任な者はいない。そうだろう?」
その言葉にタカナシは、一瞬だけ苦い表情を浮かべる。脳裏をよぎったのは、カワベと決別する原因となった“あの事件”の記憶だ。
握り拳を固く締めたあと、一息で言い放つ。
「……いいだろう。俺は“シンクロ”の真髄を極めるため、ここで研究し続けてきた。カワベと“弟子”を潰すのは、俺にとっても悪くない用事だ」
彼の口振りには、もはや一片の迷いもない。周囲に積まれたメモや廃棄されたデバイスの数々は、この研究所を拠点に『アンデットシンクロ』の最終段階を完成させた証しだ。
イシイは無言で手元に魔術的な文書を取り出し、机に置いた。
「これは今回の件の資料だ。ドラゴンマスターの所在や、そいつが“超魔導剣士”に弟子入りした経緯が細かく書かれている。あとは好きに動けばいい」
タカナシは資料に目をやり、そこには「カワベの弟子――ドラゴンマスター」「戦士使いの少年も弟子として在籍」などの記述がちらほらと見えるのを確認すると、口元に邪悪な笑みを浮かべる。
「戦士使い……“取るに足らんヒヨっこ”が一人いるわけだ。まぁいい……まとめて叩き潰してやる。件のドラゴン・オブ・ルインも、いい実験材料になるだろう。俺のシンクロの足元にも及ばんだろうがな……」
その言葉に、イシイは満足げにうなずく。やがて、もう用は済んだという風にふっと霧の中へ溶け込み、その姿を消した。タカナシは鼻を鳴らしつつ、机に投げ出された資料へ集中しはじめる。
(イシイめ、自分で手を汚さずに俺を使うつもりか……だが構わん。奴からこの研究所を譲り受け、この“シンクロ召喚”をさらに洗練できたのは事実。カワベとその弟子どもを潰すのは、この俺が果たす宿命だ)
脳裏にはカワベへの恨みと、さらなる深みに嵌りたいという欲求が交錯する。タカナシは資料をめくり、呪術的な文字や古代の召喚式を眺め、にやりと笑う。
研究所の薄暗いランプが揺れ、モニターの光がタカナシの邪悪な笑みを不気味に映し出す。そのまま画面がフェードアウトするかのように、闇へと溶けるように場面が静かに閉じた。
こうして、タカナシは“次元帝”イシイからの依頼と自らの復讐心を糧として、再び“超魔導剣士”カワベや“ドラゴンマスター”サワダへと魔の手を伸ばしはじめる。その終わりなき執念が、これからの激戦をより暗い影へと導いていくのだった。
――――――
ある日の夕刻、アラキはカワベ道場の外へ買い出しに出ていた。彼は修行の息抜きに必要な物資を補充しようと町までひとりで向かったのだが、帰り道の途中、そこには人通りも少なく寂れた商店街の裏道が残っていた。
彼が両手に小さな買い物袋を下げて歩いていると、突如として背筋に寒気を覚える。ふと見やる先には、黒いローブを羽織った不気味な男のシルエットがあり、その眼光がギラリと光った。
「……ずいぶんとのんびりしてるな、カワベの弟子風情が」
低く鋭い声が響き渡る。そのローブをまとった男――タカナシは、まるで獲物を見る獣のようにアラキを睨んでいた。アラキは怪訝な顔をしながら一歩後ずさり、持っていた買い物袋を足元へ下ろす。
「お前……誰だ? カワベさんの弟子って、どういう意味だよ」
彼の問いかけにも、タカナシは凶悪な笑いを浮かべるだけ。小さく鼻を鳴らしたあと、声に冷たい感情を乗せて続けた。
「俺の名はタカナシ。カワベから聞いていないか?くく。 」
それを聞いてアラキは思い出す。カワベが持っていた資料やメモの中に書かれていた「タカナシ」の名前。禁断のシンクロ召喚を追求して何らかの問題を起こした――断片的だが、そんな情報をサワダと共有したことが脳裏をよぎる。
「まさか……あんたが、あの“タカナシ”なのか……。なんでここに――」
「答えは単純明快……あのカワベを引きずり出して潰すため。そのためにまずは、お前のような“取るに足らない弟子”を餌にするのが手っ取り早い。さて、カワベが守りに来る前に軽く捻り潰しておくか」
タカナシの言葉にはあからさまな挑発と殺気が混ざり合う。アラキはその身勝手さに怒りを感じ、近くの壁際に荷物を置くと、デュエルディスクを腕にはめた。
「ふざけるな。カワベさんに手を出させるわけにはいかない。俺がお前を止める!」
相手から放たれる異様なオーラに怯みかけるが、アラキは自分を奮い立たせるように言葉を吐く。
タカナシはそれを見下しながら、口の端をつり上げる。
「ふん……俺の”アンデットシンクロ”は容赦しない……カワベに仕込まれたつまらん戦術では俺のシンクロ召喚は防げまい」
「シンクロ召喚……確かにに強力な召喚方法らしいが、関係ない……乗り越えてやる!」
アラキの怒声が狭い裏路地に響く。お互いのデュエルディスクが同時に起動し、ライフゲージが点灯する。タカナシの目には邪悪とも言える喜びが宿り、アラキは背筋に寒気を覚えながらも退く気はない。
「カワベさんを守るためにも、そしてサワダの手を煩わせないためにも……絶対に負けられない!」
「「デュエル!!」」
こうして、アラキとタカナシのデュエルが幕を開ける。誰もいない裏通りで、暮れかけた空の下、二人のカードがぶつかり合う気配がひりつくように漂っていた。
──────────
◆次回予告
商店街の路地裏で始まったアラキと”アンデットシンクロ”タカナシのデュエル。
アラキはエースモンスター【ヒーロー・オブ・ホープ】を軸に、タカナシのシンクロ召喚へ挑んでいく……!
次回「アラキVSタカナシ──連撃蘇生の