【遊戯王】ドラゴンマスター・サワダ   作:おならむし

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21:デュエルアカデミーの因縁

 

◇あらすじ

シンクロモンスターを操るタカナシとのデュエルに挑むアラキ。

タカナシはシンクロモンスターによる連続コンボを決め、攻撃を仕掛けるもアラキは何とか耐え凌ぎ、ヒーロー・オブ・ホープの攻撃力を大幅に上げることに成功。

しかし、攻守反転の魔法により形成は逆転、アラキは敗北してしまう。

 

──────────

 

 激しいデュエルの末、アラキはタカナシの猛攻に完敗した。膝をついて肩を押さえたまま、痛みに耐えているアラキを見下しながら、タカナシは獣のような笑みを浮かべている。

 

 上空には夕闇が広がり、薄暗い路地にはアラキの荒い息遣いだけが虚しく響く。タカナシは勝利の余韻に浸るように少しあたりを見回したあと、口を開いた。

 

「……伝えておけ。カワベにな」

 

 口調は淡々としているが、その瞳には噛み殺せない復讐心が宿っている。アラキは呼吸を整えようとするが胸が痛く、声を出すのが精一杯だ。

 

「な、何を……」

 

「明日、俺はかつての因縁の地……“デュエルアカデミー跡地”で待っている。必ず来させろ。カワベも、ついでにお前の仲間もな。来なければ……もっと被害が拡大すると思え。」

 

 掠れた声で問い返そうとするアラキより先に、タカナシはローブを翻して歩き去ろうとする。ちらりとアラキの姿を振り返り、「せいぜいそれまで生き延びろ」と嘲るように吐き捨てると、闇に溶け込むようにその姿は消えた。

 

 タカナシが去ったあと、アラキはふらつきながら路上に崩れ落ち、呼吸を荒くする。体中に痛みが広がり、瞼が重く閉じそうだ。

 

 近くにいた通行人が「あ、あれ……人が倒れてる?!」と驚き、スマートフォンを取り出して救急車を呼ぼうとしている。アラキの意識は遠のきつつあったが、最後にタカナシの無慈悲な言葉が頭をよぎり、悔しさで拳を握る。

 

「デュエル、アカデミー……跡地……必ず、サワダや、カワベさんに、伝えなきゃ……」

 

 そう思うと同時に、アラキの視界は完全に暗転した。

 

──────

 

 程なくして、救急車が到着。アラキは緊急搬送される。負傷の具合がどれほど重いかは未知だが、意識不明のまま病院へ運び込まれる様子に、周囲の人々がざわめき始める。

 

 倒れたアラキの荷物を見て、近くの住民が中に入っていたメモやディスクを確認し、道場への連絡を試みてくれたことで、カワベとサワダのもとにも「アラキが倒れて搬送された」という一報が入る。

 

 サワダの顔色が一気に青ざめる。

 

「アラキが……倒れた!? なんで……」

 

 カワベも軽く眉をひそめ、「とにかく病院だ。行くぞ、サワダ」と静かに告げる。サワダは激しい不安を抱えながら、カワベと共に急いで病院へ向かった。

 

──────

 

 夜の病院は明かりが落ち着いた照明に包まれ、無機質な白さが冷え冷えしく感じられた。サワダとカワベが受付を通してアラキの病室を訪ねると、そこにはベッドで安静にしているアラキの姿があった。

 

 医師の話によると、命に別状はないが、相当な打撲や消耗を負ったため、しばらく安静が必要とのこと。それを聞いてサワダはほっと胸を撫で下ろす一方、アラキが苦しむ表情を見て歯噛みする。

 

「アラキ……誰が、こんなひどい仕打ちを……」

 

 アラキはゆっくりと瞼を開き、サワダとカワベの顔を認めると、かすれた声で応じた。

 

「すまねえ……俺、あの男……タカナシってやつにやられちまった……。やっぱり、ヤバい奴だ……」

 

 サワダはその名を聞いて表情をこわばらせる。一方、カワベは顔を曇らせながらも落ち着いて問いかけるように声をかける。

 

「タカナシが、そうか。お前はどこで奴に襲われた? 何を言われた?」

 

「買い物の帰りに襲われて……やつは『デュエルアカデミー跡地で待つ』って。明日、そこに来るように……来なければ他の奴にも被害が出るって……」

 

 アラキは苦しそうに眉をひそめながら、タカナシとのデュエル内容を伝える。アンデットシンクロの圧倒的な連携、カワベと同等かそれ以上の戦略、そしてカワベへの深い恨みを匂わせる態度──どれも尋常ではない。

 

「正直、力の差がありすぎた……。奴はいつでも人を封じたり、容赦なく叩き潰す用意がある……」

 

 それを聞き終えたカワベは、厳しげな視線を落としながら「これ以上被害が出る前に、受けて立つしかないようだな」と決意を固める。古くからの因縁を抱えるタカナシとの対峙を避けては通れないのだろう。

 

「カワベさん、俺も行きます!」とサワダが声を荒げる。

 

 カワベはサワダの方を一瞥し、「止めても無駄だろう」と言わんばかりに溜息を漏らし、しかしすぐに頷いた。

 

「好きにしろ。タカナシを放置していては、また誰かが犠牲になるかもしれん。共に行くのは悪くない判断だ」

 

 サワダは激しく頷く。アラキはベッドの上で「すまねえ、サワダ。俺の代わりに……」と悔しげに言いかけるが、サワダは「言うな。お前は怪我を治して待ってろ」と励ますように言葉を返した。

 

 医師の説明ではアラキはこれから精密検査が必要らしい。また、無理に動いても再び倒れる可能性があると警告されている。アラキは腕を握りしめながら、視線を落とす。

 

「くそ……こんな状態じゃ役に立てねえ。あいつを止められなかった……ほんとにすまねえ」

 

「気にすんなって。お前が生きててくれただけで十分だ。……次は俺たちがタカナシをどうにかする」

 

 サワダの声には、タカナシへの怒りとアラキへの安堵が入り混じる。カワベもまた口数は多くないが、「無理はするな」とだけ言い残し、アラキの肩を叩いた。

 

 こうして、タカナシとの決戦へ向けてサワダとカワベは準備を整えることになる。コガを助ける道のり、そしてイシイの脅威への対抗策を模索する彼らに、新たな試練が待ち受けているのは明白だった。夜の病院の窓から見える町の明かりが、どこか不気味に揺れているように感じられた。

 

──────

 

 アラキの救急搬送から一夜が明けた。怪我を負ったアラキは病院で安静を余儀なくされ、意識を取り戻したときに伝えたのは「タカナシがデュエルアカデミー跡地で待つ」という因縁じみた伝言。

 

 翌朝、サワダとカワベは、道場を出てデュエルアカデミー跡地へ向かう。長い坂道を下り、いくつかの廃工場を抜けたその先に、半ば崩れかけた鉄門がそびえ立つ。かつては華やかだったはずのアカデミーを象徴していた校門は、いまや塗装が剥げ落ち、雑草が生い茂る廃墟と化している。

 

「ここが……デュエルアカデミー跡地……」

 

 サワダは、荒れ果てた校舎の面影を眺めつつつぶやく。隣を歩くカワベは肩にかかったローブを揺らしながら、厳しい表情を崩さない。

 

 アラキから事前に聞いた話によると、タカナシはかつてこの場所で生徒としては破格の才能を見せつけたという。しかし後に“禁じられたシンクロ”を研究、それが問題視され、結果的にタカナシが追放されたことがアカデミー凋落の始まりだったと。

 

「当時は評判の高い学校だった。しかしタカナシの行為……『禁忌のシンクロ研究』が明るみに出てから、外部の信頼を失い、やがて生徒の数も減って……廃校に追い込まれた。」

 

 そう話すカワベの口調には、隠しきれない苦い思いがにじむ。サワダはちらりとその横顔を見やり、胸の奥がざわついた。

 

 迷いながらも、サワダは口を開く。

 

「……カワベさん。ひとつ聞いていいか。タカナシは、なんでそこまでしてシンクロ召喚を研究したんだ? 危険だって分かってたはずなのに」

 

 カワベはしばらく答えなかった。荒れ果てた校舎を見上げ、それから低く口を開く。

 

「……あいつは、入学当初からずば抜けていた。頭の回転、判断の速さ、デュエルの構築力……どれを取っても別格だった」

 

 吹き込む風が、ローブの裾をわずかに揺らす。

 

「当時、このアカデミーでは“首席卒業生は人生の成功が約束される”とまで言われていた。進む道も、得られる立場も、すべて一段上になる──そう信じられていたのだ。そう、タカナシも、いずれ首席で卒業するのは確実だと見られていた」

 

 サワダは黙って聞いている。

 カワベの視線は、崩れた校舎の奥へ向いたままだ。

 

「だが、あまりにも突出した存在がいると、人は諦めるばかりではない。奮い立つ者も出る。タカナシの才能に触発され、同期たちは努力を重ねた。食らいつき、学び、少しずつ差を縮めていった」

 

「……カワベさんも?」

 

「ああ。私もその一人だ」

 

 短くそう答えたあと、カワベは小さく息を吐く。

 

「タカナシは、自分が絶対の頂点であり続けることを前提にしていたのだろう。だが現実には、周囲が追いついてきた。“圧倒的な才能”だけでは、もう決定的な差にならない──その事実が、あいつを焦らせた」

 

 サワダの眉がわずかに寄る。

 

「それで……シンクロ召喚に」

 

「そうだ。既存の召喚法の延長では、いずれ並ばれる。あるいは追い越される。そう考えたのだろう。だから、他の誰も踏み込んでいない領域へ手を伸ばした。シンクロ召喚は、そのための答えだった」

 

 カワベの声音が、そこで少しだけ重くなる。

 

「シンクロ召喚は強力だ。だが危険でもある。複数の力を一つに束ね、限界の先を引きずり出す召喚法だからな。条件が揃えば、一気に盤面を完成へ寄せられる。……だが、少しでも均衡を崩せば、術者ごと呑み込んで暴走する」

 

「……そんなものに、手を出したのか」

 

「焦りがあったのだろう。追いつかれること、自分が特別ではなくなることへの恐れだ」

 

 カワベは一度、目を伏せる。

 

「私のような者が食らいついたことも、あいつには面白くなかったのかもしれん」

 

 サワダは少しだけ歩調を落とした。

 

「才能で勝てるはずだったのに、それだけじゃ足りなくなった……」

 

「そういうことだ。あいつは“差を保つ”ために、より強く、より危うい力へ手を伸ばした。最初は優位を守るためだったのだろう。だが、気づけばその力そのものに染まっていった」

 

 風が、割れた窓の隙間を抜けて鈍い音を立てる。

 

「そして、そういう人間ほど、自分を止める声を素直には聞けん。忠告も制止も、“自分の価値を脅かすもの”に見えてしまう」

 

 サワダはしばらく黙って歩き、やがてぽつりと呟く。

 

「……追いつかれるのが怖くて、禁忌にまで手を伸ばしたってことか」

 

 そう呟きながらも、サワダの胸には奇妙な距離感が残っていた。

 

 “追いつかれる恐怖”──それは、最初から高みに立つ者だけが抱く悩みだ。自分のように、力の足りなさや、才能の無さを薄々思い知らされながら這い上がるしかない人間には、どこか雲の上の話にも思えた。

 

 だが同時に、そんな焦りが人をそこまで歪めるのかという事実には、言いようのない重さもあった。

 

「恐らくはな」

 

 カワベは短く頷く。

 

「才能がある者ほど、自分が揺らぐことに耐えられない場合がある。タカナシは、まさにそれだったのだろうな」

 

 廃校となった敷地内は荒れ放題だった。壁は崩れかけ、割れた窓の隙間から吹き込む風が、伸び放題の雑草をざわつかせている。

 

 サワダは、アラキを叩き伏せたタカナシへの怒りを胸に抱えながらも、先ほど聞いた話の重さをまだ飲み込みきれずにいた。才能に追われる焦りも、禁忌へ傾いた理由も、完全には共感できない。だが──それでも許せる話ではない。

 

「……それだけの才能があるのに、それを人を傷つけるためにしか使わねぇなんて許せねぇ。俺なんかより、ずっと恵まれてるくせに……そんなやつ、絶対に止める」

 

 荷物を握る手に力がこもる。

 

 闘志を燃やすサワダに対し、カワベは「焦るな」と静かに忠告を入れた。そのとき──崩れた校舎の正面あたりから、人影がにじむように現れる。長いコートを引きずり、淡々とした足取りで近づいてくるのはタカナシだった。

 

「カワベ……ずいぶんちんけな弟子を取ったもんだな。お前も偉くなったつもりか? 」

 

 タカナシの声には明確な恨みが滲んでいる。サワダは一瞬で警戒を強め、デュエルディスクに手をかける。

 

 カワベはローブの裾をたなびかせながら、道場で見せるのとは別種の峻厳な表情を作った。

 

「必要があったから弟子を取ったまでの事。孤独なお前には分からないだろうがな」

 

「クク……甘いんだよ、カワベ。お前みたいな堅物が弟子をとるなんてな。あれほど“シンクロ”を否定し、俺を追放しておきながら……そこの弟子とやらも、同じ道に落ちるんじゃねえのか?そいつからは俺と同じ臭いを感じるんだよ!」

 

 挑発的な言葉にサワダはすぐさま噛みつくように声を張り上げる。「ふざけるな……! 俺があんたのような暴走者になるわけないだろ!」と。タカナシは目を細めてその怒りを眺めると、冷たく笑う。

 

「くっくっく、なんとでも吠えるがいい。さあ、カワベ。昔の恨みを清算させてもらう。ついでにそこの”ドラゴンマスター”もまとめて叩き潰してやる──イシイが始末したがってたみたいだからなぁ!」

 

 タカナシの口から飛び出た名前に、サワダが「イシイ……!? お前もあいつの仲間か!」と強く反応する。かつての父の敵であり、コガを傷つけた“次元帝イシイ”の名がここで繋がることに、怒りと驚きが混ざった感情がぐつぐつ煮立つ。

 

 カワベは一瞬だけ視線を伏せ、タカナシを睨みつけるように顔を上げる。

 

「昔の決着をつけたいなら、好きにすればいい。だが、私の弟子を侮辱するのは許さん。この少年は、お前のような力の亡者にはならない。それを教えてやる──」

 

 冷気が混じった風が、崩れたコンクリ壁をなぞるように吹き抜ける。タカナシは勝ち誇ったように笑みを深め、「俺を止めてみろ……。お前ら二人がかりだろうが、無駄な足掻きに終わるだけだ」と吐き捨てた。

 

 そして、その言葉を合図にするかのように、三人のデュエルディスクが電子音を立ててシステムを開始する。

 

 見れば、タカナシ側のディスク画面にはLP8000が表示され、サワダ・カワベの2枚のディスクにはそれぞれLP4000の数値が点灯していた。

 

「2対1のチームデュエルを確認。1人側はLP8000。2人側は各々LP4000としてデュエルを開始します。1人側が先攻となり全てのプレイヤーは1ターン目の攻撃はできません。」

 

 特殊形式のデュエルを感知したデュエルディスクの自動音声がこだまする崩れた校舎跡の広場。サワダはドラゴンデッキを構えるようにディスクを構え、カワベはローブの下から静かに自分のカードを引き抜く。タカナシが口を歪めて笑い、余裕を見せつけている。

 

「絶対に負けない……アラキを傷つけたお前を許さない!」

 

 サワダの声は怒りに満ち、カワベはローブを揺らしながら落ち着いた口調で言葉を返す。

 

「焦るな、サワダ。お前の力を、そして私の力を──合わせてこそ奴に勝機がある。行くぞ!」

 

 こうして、廃墟のデュエルアカデミー跡地で、因縁深いタカナシとカワベ、それにサワダを巻き込んだ三人のチームデュエルが始まる。荒れ果てた校庭には乾いた空気だけが漂い、誰もいない観客席のような廃屋から風だけがヒュウと鳴る。

 

 決戦の火蓋が、今落とされる。

 

「「「デュエル!!」」」

 

──────────

 

◆次回予告

 

サワダ&カワベvsタカナシのチームデュエルがいよいよ始まる。

各人慎重な立ち上がりを見せる中、先に動いたのはタカナシ。

彼はアラキとの戦いでは見せなかった新たなシンクロモンスターを呼び出す。

 

次回「VSタカナシ①──(レベル)10・屍の王」デュエル、スタンバイ!

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