【遊戯王】ドラゴンマスター・サワダ   作:おならむし

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31:昨日の敵は今日の友

 

◇あらすじ

激突するドラゴン・オブ・ルインとカイリュー。カイリューのりゅうせいぐんが不発に終わったことにより、勝敗はドラゴン・オブ・ルイン擁するサワダに軍配があがる。

 

──────────

 

 「……っし、勝ったぜ」

 

 荒涼とした遺跡の入り口にて、サワダが息を整えながらデュエルディスクをオフにする。ドラゴン・オブ・ルインの漆黒のシルエットが霧散し、戦いを終えた空気だけが辺りを満たしていた。

 

 一方、敗北したオオツカは地面にへたりこみ、肩を落として天を見上げるように叫ぶ。

 

「ぐああ~……俺の負けかあ。ブタ箱行きなのかあ~」

 

 作りものめいた嘆息ではあるが、実に落ち込んだ様子を見せている。サワダはそんなオオツカをちらりと見やり、わずかに苦笑した。

 

「……まぁ、ブタ箱行きはやめとくよ。あれは売り言葉に買い言葉みたいなもんだしな」

 

 その言葉にオオツカは「え? 本当?」と目を見開く。安堵というよりは、半信半疑な顔つきでサワダを見上げる。

 

「だって、落ちてるデュエルディスクの数、マジでとんでもない量だ。こんな人数、いくらお前の《ポケモン進化デッキ》でも逆立ちしても倒せるわけねえんじゃねえか?お前のデッキ、結構運への依存がデカいだろ」

 

「……それはまあ、確かにね。たまにいいコイントス引けても、さすがにそんだけの連戦じゃ無理かな」

 

 オオツカは苦笑いを浮かべ、再び地面にべたんと座る。妙に飄々とした性格の奥に、思わず納得してしまう謎の説得力があるのが可笑しいところだ。

 

 サワダは「それに、正直あんたのデュエル……けっこう面白かったしな」と呟くと、ふいに視線を遺跡の奥へ向けた。

 

「さて、まだ奥を目指さないとな。終焉の王・シマダってやつが復活してるかもしれないし、イシイの野郎もどこに潜んでるかわからねえ……」

 

 そう言い残して歩を進めようとするサワダだったが、オオツカがスッと手を伸ばして袖を引き留める。

 

「おいおい、やめといた方がいいって。見てみなよ、もう西の空が赤くなってきてるだろ? 霧が濃いし、日が沈んで夜になったらもっと危ないぜ。足元もグシャグシャだし、君みたいに疲れてるやつが無茶したら……はっきり言って遭難モノだぜ?」

 

 言われてみれば、夕日が山並みに沈もうとしている。すでに足を踏み入れている遺跡群は広大で、踏破するにはかなりの時間がかかりそうだ。サワダは自分の肩の痛みや息切れを思い出し、だんだんと気力が削ぎ落とされているのを感じていた。

 

「……確かに。こんな状態で突っ込んだら道にも迷いそうだし、危険かもしれねぇな……」

 

 シマダの恐怖が脳裏にこびりついて焦燥感は募るが、あまりに無謀な行動をしても命を落とすかもしれない。そう考えたサワダは歯がゆそうに唇を噛みつつ、どうしたものかと思案を巡らせる。

 

「じゃあ、宿とか泊まる場所、あるのか? この辺りは廃れまくってて、まともな施設が残ってる気がしないんだけど。事前に調べてもロクに情報が出てこなかったし」

 

 サワダが肩をすくめて尋ねると、オオツカは待ってましたとばかりにほがらかに笑う。

 

「そこだよね。安心しろ。おれが泊まってる宿があるんだ。一見さんお断り的な感じのね。名前は“ダークウッドの庵”って言うんだ、ベッドも無駄に多くてさ。とりあえずそこで休むといいよ。金もいらないさ、俺の言いがかりから始まっちまったし、全面的に俺のせいってことで」

 

「えっ……マジかよ。でも、それなら助かる」

 

 素直に驚きながらも、思わぬ好都合にサワダは少しだけ胸を撫で下ろした。イシイを探すにも、シマダの手掛かりを追うにも、まず体力を回復する必要がある。それに、この遺跡には何らかの危険な仕掛けがあるかもしれない。

 

「よし、じゃあ、悪いけどお前の宿、頼むわ。道案内してくれないか?」

 

「もちろん! んじゃ、行くぜ~」

 

 オオツカが気軽に立ち上がり、背伸びをしながらまた飄々と歩き出す。なんというか気の置けない雰囲気の男だが、なんだかんだ意外と世話好きでもあるらしい。

 

 デュエルディスクをカバンにしまい込んだサワダは、荒涼とした遺跡をもう一度見返し、「また来るからな……」と小さく心の中で呟いた。まだ不可解な謎が残る遺跡周辺だが、ひとまず日が沈む前に退避が最優先という判断だ。

 

 こうして、まさかの邂逅となった“ポケモンマスター”オオツカと、世界の運命を背負う“ドラゴンマスター”サワダ。うさんくさい疑い合いから始まった二人は、いまだよく分からない奇妙な絆が生まれかけている──そんな気配を感じさせながら、夕闇に包まれる森の小道を並んで歩いていくのだった。

 

──────

 

 夕闇が迫る森を抜けた先に、小さな看板とランタンがぽつんと揺れる建物があった。オオツカの案内でたどり着いたその宿は「ダークウッドの庵」という名で、一見して静かな山小屋のようにも見える。かつてはハイキング客なども訪れたのか、宿自体はそこそこ立派なつくりをしているが、周囲にはほとんど人影がなかった。

 

 オオツカが玄関を開けるや否や、廊下のランプが淡く光り、少しばかり古い内装が現れる。風呂と食事のサービスは最低限しかないらしいが、とにかく屋根の下でゆっくり眠れる場所があるだけでもありがたい。

 

「ここさ、結構部屋余ってんだよ。変に広いわりに利用者が全然いなくてさ。広告全く打ってないせいでね。ダブルのベッドもツインのベッドも空きまくり。おれはあっちの部屋で勝手に休んでるから、君はどこでも好きに使っていいよ」

 

 オオツカはノンビリと案内しながら、部屋の鍵を手渡す。サワダは「へえ、意外と洒落てるかもな」と室内を一瞥して、やっと身体を休められることに安堵のため息をついた。

 

「助かったよ。ここら辺の事あまり良くわからなくて、宿を取ってなかったんだ……つか、全部おごりってことでいいのか? 金とか払わなくていいのか?」

 

 サワダが念のため尋ねると、オオツカは笑いながら「気にすんなって。デュエルでボコられたし、補償として無料でどうぞ」と手を振る。

 

「それよりさ、先にシャワーでも浴びてきなよ。俺はちょっと……酒、飲むから」

 

「酒って、こんなとこで?」

 

 サワダが目を丸くするのを尻目に、オオツカは鞄から缶チューハイやら瓶ビールやらを取り出す。どうやら“ポケモンマスター”たる彼は、どこへ行くにも大量のアルコールを常備しているようだ。

 

「んじゃ、おれは先にプシュッと……くぅー、たまらんわぁ。ハハッ」

 

 アルコールを口にした途端、オオツカの頬はみるみるうちに赤く染まり、足元もフラつき始める。サワダはあまりの酔いの早さに苦笑しつつ、軽くシャワーを浴びて疲れを流すことにした。

 

──────

 

 シャワーを終えて部屋に戻ると、オオツカはとっくにいい感じに出来上がっていて、道中で手に入れたとかいう珍しい酒瓶まであけている。テーブルの上には何本もの空き缶・空き瓶が散らばり、早くも危ういテンションになりつつあった。

 

「お、おい……大丈夫か? 飲みすぎじゃねえか?」

 

「へへへ、大丈夫~。おれ、アルコールで元気が出るタイプだからぁ~……。えへー」

 

 すっかり上機嫌のオオツカを前に、サワダは呆れを通り越して呆然とする。

 

「ふう……そうだ、寝る前にあんたのカードを見せてもらってもいいか? さっきデュエルで遠目で見た感じ、普通のカードとフォーマット違うように見えたんだが。それにポケモンデッキってやつ、ちょっと気になるんだよな」

 

 サワダがそう尋ねると、オオツカは「うん、別にいいよ~」とあっさり承諾。カバンから取り出したカードの束をテーブルにばさっと広げた。

「こんな感じ~。ビリリダマ、ゴンべ、ミニリュウ、ピカチュウ、あとモンスターボールみたいなグッズカード……。ね、何か文字とか変でしょ?」

 

 たしかに、デュエルモンスターズのカードとはまるで違う書式だ。HPやらエネルギー数という概念が載っていたり、技や能力に「コイントスをする」とやたら書かれている。また、オオツカが使っているデュエルディスクでも“何やら独自の処理”をしているように見える。

 

「……なるほどな。こいつらって俺の知ってるカードゲームとはぜんぜん違う。そもそもHPとかって何だよ……」

 

「そこはデュエルディスクが自動で換算してくれるみたい。モンスターの守備力をHP相当にしたり、エネルギーを生け贄コストみたいに扱ってくれる……何か“いい感じ”に動くってわけ。おれも説明しにくいけど」

 

「なんでもありかよ……実際デュエルはできてんだから、ツッコむ気も失せるわ」

 

 サワダはカードを手に取って裏面を眺め、さらに変な言語の記号やロゴマークがあるのを見て首をひねる。

 

「こういうのって、どこで手に入るもんなんだ? 少なくとも市販じゃ見たことないぞ」

 

「さあ。おれはなんか道中で拾ったんだよね~。最初は変な紙切れかと思ったけど、デュエルディスクが読み込んだら動作してくれてさぁ。すげぇ面白いなあ~と思って色々試しまくってたら、ポケモンデッキが完成しちゃったわけ」

 

 オオツカはふわふわとした口調で述べながら、顔を赤らめたまま酒瓶をもう一口煽る。しかし、そのままぐでんと頭をテーブルに落とし、眠りはじめてしまった。

 

「う、うお……おい、いきなり落ちるなよ!」

 

 サワダが慌てて声をかけても、オオツカは「ZZZ……」と盛大な寝息を立てて応答なし。あっという間に意識を失っているらしい。呆れ果てたサワダは、それでも憎めない男だと認識し、そっとブランケットをかぶせてやった。

 

「……めちゃくちゃな奴だな。でも悪いヤツじゃなさそうだ」

 

 そう独りごちて、サワダは自分のベッドの上でカバンを置き、靴を脱ぎ捨てる。部屋の灯りを落とすと、今夜は妙に静かな心地がしていた──久々に“純粋なデュエル”を楽しんだ感覚があるからかもしれない。思えばここ最近は緊迫したデュエルが多すぎた。

 

「……最後に同じように楽しく戦ったのは……コガとだったな……」

 

 ふと、ショッピングモールでのフリーデュエルの記憶が脳裏に蘇る。明るい笑顔で戦い合ったはずが、結局はデュエルバーサーカー・キタムラの襲撃によってコガは封印されてしまった。もう時間がない。ドラゴン・オブ・ルインの加護が消えてしまう前に、コガを救う手段を見つけなければ──。

 

(……今日はゆっくり休んで、明日、もっと遺跡を探索してみよう。シマダやイシイについて何か分かるかもしれない)

 

 そう決心し、サワダは枕に頭を沈める。オオツカのいびきをBGMに、だが心のどこかは不思議と落ち着いていて、深い眠りに落ちていく。

 

 こうして、奇妙な友情(?)が芽生えかけているポケモンマスター・オオツカとともに、サワダは翌日に備えるのだった。夜は更け、月光がダークウッドの庵の窓辺をほんのり照らしている。世界の大きな危機はすぐそこまで来ているが、今は静かな眠りの時間が訪れていた。

 

──────────

 

◆次回予告

サワダが眠りについた夜、かつてコガを封印した男、デュエルバーサーカー・キタムラは遺跡群を徘徊していた。目的は復活した終焉の王と戦うこと。危険な衝動に追われる男に、次元帝イシイが立ちはだかる。

次回「反逆のバーサーカー」

デュエル、スタンバイ!

 

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