【遊戯王】ドラゴンマスター・サワダ   作:おならむし

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4:謎の男・次元帝

◇あらすじ

転校生・アラキの戦士デッキに苦しむサワダだったが、

土壇場で【ドラゴン・オブ・ルイン】を引き当て、その力を発揮。

逆転勝利をおさめ、校庭は熱い余韻に包まれる。

 

──────────

 

 放課後の校庭を熱気で包んでいた人波が引いていく。クラスメイトたちも満足そうに「いやー、いいもの見せてもらった」「アラキも強かったけど、サワダはやっぱすげえな」と口々に語りながら教室へ戻っていった。

 

 最後まで校庭に残ったのはサワダとアラキ、そして実況役を買って出たナカムラだけだったが、ナカムラも「いや~、大満足だわ。俺は先に撤収する。二人とも熱々のうちに仲直りでもしとけよ~」などと言い残し、軽い足取りで姿を消した。

 

 残された二人は、夕陽が赤く染め上げる校舎裏へと移動する。そこにはまだ、さっきのデュエルの高揚感がかすかに残っていた。

 

 アラキは壁にもたれかかり、軽く息をつく。やや荒い呼吸からして、激戦の余韻が抜けきっていないようだ。サワダはそんなアラキの様子を横目で見ながら、ポケットに収めたカードをそっと触れる。

 

「正直、お前の攻めはキツかったわ。あと一歩で俺が押し切られるとこだったな」

 

 サワダが淡々と言葉をかけると、アラキは鼻を鳴らしながら笑う。

 

「力押しってやつを、あんなレベルでぶつけてくるとは思わなかったな。まあ、こっちも戦士の連携は得意でさ……でもそれを上回る火力で粉砕されたんじゃ、何も言えねえ」

 

 彼は腕を組み、悔しそうな面持ちを浮かべながらも、その瞳にはどこか充実感が宿っている。

 

 しばしの沈黙が校舎裏を包む。茜色の空を仰ぎ見ながら、アラキがつぶやいた。

 

「ま、負けちゃいるが、ここで終わるつもりはないからな。サワダ、お前の“パワー”、なかなか気に入ったぜ。次こそは、それを上回る戦術を組んで勝ちにいくからな」

 

 サワダは苦笑する。アラキの生意気な態度は変わらないが、その言い方には憎めない誠実さを感じる。

 

「まあ、俺もお前と戦うのは嫌いじゃない。いつでもかかってこいよ」

 

 二人は目を合わせると、互いに軽く笑みを交わした。その瞬間、アラキが急に思い出したように言葉を継ぐ。

 

「そういや、最後に出してきたあのドラゴン……ドラゴン・オブ・ルインっていうのか? 高火力もすごかったけど、なんか尋常じゃない雰囲気があったな。ただもんじゃねえだろ?」

 

 彼の声は先ほどまでの挑戦的な響きから、少し好奇心に満ちたトーンへ変化していた。サワダは一瞬、カードに触れる指先を固まらせる。

 

「あれは……父さんの形見なんだ。よくわかんねえけど、父さんが大事にしてたカードでな、不思議な力があるらしい。普段は使わないんだけど、今日は何だか使う気になった……っていうか」

 

 サワダ自身、確信めいたものはないままに言葉を探す。アラキは「ふぅん」と相槌を打ちつつ、どこか興味深そうにサワダを見ていた。

 

 ややもすると、気まずい沈黙が訪れそうなところで、アラキがふっと目線を上げる。

 

「父さんの形見、か。なるほどな。……まあ、深い事情は知らねえが、そのカードには何か強烈な力が宿ってる感じがしたよ。おかげで実力の差を思い知らされたわ」

 

「実力ってほどのもんじゃねえさ。ただ今日は、なんか“勝たなきゃならない”って思っただけでさ──」

 

 サワダが言いかけて言葉を濁すと、アラキは軽く首を振る。まるで「いいんじゃねえの?」と言わんばかりの表情をしてみせる。

 

 その瞬間、二人の視線がかち合う。夕日の光が強く射し込み、校舎裏のコンクリートには二つの影が伸びていた。

 

「ま、なんか知らねえが……悪くない相手だったよ。サワダ」

 

「ああ、こっちこそ。お前、思ったより悪いヤツじゃなさそうだ」

 

 そう言って笑い合う二人の間には、自然と緊張が溶け、代わりに奇妙な連帯感が生まれていた。

 

 サワダはカードをポケットにしまいながら、心の中で“こいつとはまたいずれ勝負することになるだろうな”と感じる。アラキもまた、負けっぱなしで終わる気はないだろう。

 

「……んじゃ、そろそろ帰るか。明日からはクラスメイト同士だし、険悪なまんまもなんだしな」

 

「はは、確かにな。次は負けねえからな」

 

 夕暮れの風が、二人の間をさらりと通り抜けた。

 

 放課後の校庭が一瞬だけ映るようにして、薄暗い茜色が世界を包む。その中で、サワダとアラキは何とも言えない相棒のような空気を漂わせ、校舎へと向かって並んで歩きはじめる。

 

 こうして、転校初日から衝突したかに見えたサワダとアラキだったが、デュエルを通じてお互いを認め合う“ライバル”としての絆を芽生えさせたのだった。

 

 

──────

 

 夕焼けに染まる校舎裏で、お互いを認め合ったサワダとアラキは並んで歩き出した。放課後の校舎はすでに人影がまばらで、どこか物寂しい。

 

 ふたりが昇降口へ向かおうとした矢先、突如として周囲の気温が下がったような気配が走る。風が止み、空気が妙に重く感じられた。

 

「……何だ? この空気……」

 

 アラキが立ち止まり、警戒するように周囲を見回す。淡い霧が足元を這うようにして広がりはじめ、真っ赤だった空が、まるで闇夜のように暗く沈んでいくかのようだ。

 

 そして、霧の奥からゆっくりと人影が現れた。黒いローブをまとい、長い前髪で鋭い瞳を半ば隠した男。その姿は不気味なほど、静かな威圧感を放っている。

 

 サワダは思わず構えの姿勢を取り、アラキも一歩身を引く。

 

「何者だ、お前……」

 

 サワダが低い声で問いかけると、男はわずかに口元を歪めた。

 

「ドラゴン・オブ・ルイン……その継承者──ドラゴンマスターは、どうやら貴様のようだな」

 

 男の冷たい視線がサワダの胸元──まさに“形見”のカードを収めたポケット付近を見据える。背筋に寒気を覚えたサワダは、心臓がドクンと高鳴るのを感じた。

 

 ──まさか。これまで封じてきたドラゴン・オブ・ルインを、今日使ったせいで目をつけられたのか。嫌な想像が脳裏をかすめる。

 

「継承者……? 何言ってんだよ、あんたは」

 

 アラキが不審そうに横から声を挟むが、男はまるで聞いていないかのように続ける。

 

「貴様のそのカード……世界の均衡を乱す力を秘めていると知っているか?」

 

 その言葉に、サワダの頭の中で父の研究メモや「次元の力」という断片的なワードが思い返される。胸ポケットに手をやりかけるが、まるでそこを見透かしたように、男──イシイが薄く微笑んだ。

 

「自己紹介が遅れたな。私は“次元帝”イシイ。次元を統べ、新たな世界を編む者……先ほど、この一帯で“ドラゴン・オブ・ルイン”の気配が目を覚ました。微かな揺らぎだが、私を呼ぶには十分だった。」

 

 サワダは悟った──さっき使ったせいで、やはり“見つかった”のだ。嫌な想像が現実へと裏返るのを自覚した瞬間、背筋が冷え、指先からすうっと血の気が引いていく。

 

「この世界の均衡を乱すカード……ドラゴン・オブ・ルイン。貴様が使い続けるなら、いずれ甚大な被害をもたらす可能性がある。そんな危険を野放しにするわけにはいかない。排除させてもらおうか」

 

 そう言うなり、イシイはローブの袖から黒いデュエルディスクのような装置を取り出し、腕に装着する。見慣れたディスクとは異なり、何やら異形のデザインだ。

 

 サワダは思わず目を見張り、アラキも思わず「何だ、あれ……」と呟く。

 

「まさか……デュエルを仕掛けてくるのか?」

 

 サワダは胸の鼓動が高まるのを感じながら、そろそろと自分のデュエルディスクに視線を落とす。

 

 イシイは冷淡な視線を走らせながら、淡々とデッキをセットした。

 

「『次元の破滅』が訪れる前に──そのカード、ドラゴン・オブ・ルインを排除する。継承者よ、覚悟しろ……ドラゴンマスター・サワダユウジ 」

 

「ドラゴン・オブ・ルインが……世界を乱す……? ふざけんな。父さんの形見を、そんな言い方するんじゃねぇよ!」

 

 サワダの声はかすかに震えていた。だが、イシイの底知れぬ威圧感を前に、引き下がるわけにはいかない。自分自身も正体を知らない“形見”の力ではあるが、そんな不躾な評価を許せるはずがなかった。

 

「サワダ、どうする!? こいつ、何だか普通じゃねえぞ」

 

 アラキが困惑混じりに叫ぶ。けれどサワダは歯を食いしばるように笑い、アラキに背中を向けてデュエルディスクを構える──ポケットのドラゴン・オブ・ルインを再びデッキに差しながら。

 

 勝てるかどうかはわからない。だが──ドラゴン・オブ・ルインだけは傷つけさせない。それが今のサワダの揺るぎない意志だった。

 

「俺は絶対に、このカードをお前の好きにはさせない……!」

 

「フッ……その意気込みがどこまで通用するかな」

 

 イシイがカードを掲げた瞬間、霧はさらに濃度を増し、校舎裏の輪郭が溶ける。空気がひずみ、足元の感覚さえ遠のいていく。サワダは身震いを押し殺してデュエルディスクに手を添え、ドローの姿勢をとった。

 

 物陰ではアラキが思わず息を呑む。二人を隔てる空気は極限まで張り詰め、さっきまでの勝負の熱が、未知の恐怖すら焼き払うように胸中で焔となる。

 

 ──次の瞬間、電子音が鋭く鳴り、LP 4000のゲージが一斉に点灯した。異様な霧のただ中、サワダと“次元帝”イシイのデュエルが、いよいよ始まる。

 

「「デュエル!!」」

 

──────────

 

◆次回予告

イシイの“次元”を操る未知のデッキに翻弄されるサワダ。

そんな最中、ドラゴン・オブ・ルインに異変が……?

次回「VSイシイ──父の形見を守れ!」

デュエル、スタンバイ!

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