【遊戯王】ドラゴンマスター・サワダ   作:おならむし

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6:サワダの決意

◇あらすじ

謎の光によってドラゴン・オブ・ルインは守られ、デュエルは中断。

そして“次元帝”イシイからサワダの父・ケイスケの名が語られる。

サワダは圧倒的な「次元の力」への恐怖、そして父の名が出たことに対する混乱により立ち尽くしていた……。

 

──────────

 

 イシイが霧のように姿を消したあと、校舎裏には言いようのない静寂が戻っていた。わずか数分前までの激しいデュエルの余韻は、いつの間にか薄れてしまっている。

 

 サワダユウジは、その場に呆然と立ち尽くしていた。まるで時間が止まったように、周囲の景色が目に入らない。アラキが心配げに近づき、サワダの顔を覗き込む。

 

「サワダ、今の男……いったい何だったんだ? すごく不気味な雰囲気だったし、ドラゴン・オブ・ルインが危険とか言ってたけど……」

 

「……わからない。だけど……あいつは、俺のカードを、父さんの形見を、まるで“世界を乱す力”みたいに言いやがった」

 

 サワダは拳を握りしめ、声を震わせる。先ほどの妙な光景が脳裏をちらつき、胸の奥がざわつく。アラキが静かに唇を結んだ。

 

「そんなバカな話、あるわけないだろ。お前は、あのイシイとかいう奴に完全に狙われてるみたいだぞ。あれだけ強かったお前が、まさかこんなに動揺するなんて……」

 

「おい……そこまでハッキリ言わなくても……」

 

 サワダは自分でも気づかぬうちに体が震えているのを感じ、思わず下唇を噛む。

 

 恐怖? 怒り? あるいは別の感情なのか。あの場で味わった底知れぬ力の前では、ドラゴン・オブ・ルインが誇る破壊力さえ通用しないような絶望感を覚えた。

 

「くそっ……俺が震えてるわけねえだろ……」

 

 反論しようとするが、その言葉もどこか不安げに揺れている。アラキはサワダの背中に手を置き、「悪い、変な言い方をしちまったな」と呟く。

 

 だがサワダの悔しさは収まらない。先ほどのイシイの眼差しが、まるで自分を手玉に取ろうとする支配者のように思えて仕方がない。

 

「……ちくしょう。訳も分からないまま、“次元の破滅”とか言われて、父さんの名前まで出してきやがって。まるで俺が……いや、ドラゴン・オブ・ルインが悪いことみたいに……」

 

 その声に混じる震えは、アラキの耳にもはっきり届いた。アラキは何も言わず、ただサワダの横に寄り添うように立つ。薄暗い夕焼けのなか、校舎裏にたたずむ二人のシルエットが長く伸びていた。

 

──────

 

 夜になっても、サワダの胸のざわめきは収まらなかった。夕飯を食べ終えた後、早々に自室へ引きこもり、父の書斎から持ち帰った研究ノートを再び机に広げる。

 

「父さんは、一体何をしてたんだ……」

 

 先日もざっと目を通したはずだが、今夜はイシイが口にした「次元帝」や「破滅」という言葉が引っかかる。ノートのページをめくると、走り書きのように「次元の歪み」「力の暴走」など、聞き慣れない言葉が断片的に記されている。

 

 サワダはページを追いかけながら、父が一人で苦悩していたのではないかと想像して背筋が冷える。

 

「まさか、父さんはあの男──イシイを止めようとしてたのか? でも、どうやって……」

 

 父がノートに挟んでいたメモ用紙には、“ドラゴン・オブ・ルイン”、そして“加護”や“封印”というワードも見られる。あのカードが単なるカードでないことは、サワダ自身もうっすら気づいてはいた。しかし、ここまで大それた内容が書かれているとさすがに動揺を隠せない。

 

「父さん……本当に、俺にはどうして何も教えてくれなかったんだよ」

 

 机の上に散乱するノートを見つめ、サワダは大きく嘆息する。こんなこと、友達や母に言っても信じてもらえないだろう。

 

 ふと、手のひらがほんのり温かいような感覚を覚える。何気なく持ち上げたカード──ドラゴン・オブ・ルインが微かに光を放っているように思えた。

 

「……お前が呼んでるのか?」

 

 カードにまさかの意志があるはずもない。だけど、今はそんな現実的な見方をする余裕もないくらい、サワダは混乱していた。

 

 まるでカードが何かを訴えているかのような錯覚。サワダはぎゅっと握りしめ、苦い笑みを浮かべる。

 

「これからどうしろって言うんだよ、父さん……。父さんが止められなかったんなら、俺なんかにできるのか……」

 

 誰に向けることもできない問いを吐き出しても、返ってくる答えは虚空へ消えていくだけ。

 

 窓の外を見やると、街灯の光が淡く夜道を照らしている。サワダは長いため息をつき、ノートをそっと閉じた。

 

 ──父が残したドラゴン・オブ・ルイン、そして“次元帝”と名乗るイシイから告げられた「世界の破滅」。

 

 強引に絡め取られそうな運命に足を踏み入れたような感覚があるのに、自分にはそれをはねのける自信も見通しもない。胸の奥には焦りと戸惑いが渦巻いていた。

 

「……もう、どうしたらいいんだ」

 

 サワダは机に伏せるようにひじをつき、暗い天井を仰ぐ。ドラゴンのカードは微かな揺らめきとともに、再び沈黙へと戻っていた。

 

 けれど、完全に道を閉ざされたわけではない。そう信じたい気持ちと、“未知なる脅威”への恐怖がせめぎ合い、今夜のサワダはただ、眠れぬ時間を過ごすことしかできなかった。

 

 この先の運命を握っているのが自分だと、サワダはまだはっきり自覚しきれないまま──。

 

──────

 

 翌朝、登校したサワダはいつものように教室の自分の席に向かう。眠れぬ夜を過ごしたせいで気だるさは残るものの、昨日ほどの重苦しい気配は感じられなかった。

 

 気づけば目の前に現れたのはアラキ。彼はいつもの生意気そうな笑みを浮かべ、サワダを見下ろすようにして声をかける。

 

「よう、サワダ。昨日のあのイシイって男にビビって引きこもるんじゃねえかと思ったけど、ちゃんと来てるじゃねえか。まあ、あんな不気味な野郎に負けるお前じゃないだろ?」

 

 ちょっとした挑発にも似た言い回しだが、そこにはアラキなりの気遣いがにじんでいた。サワダはふっと苦笑しながらカバンを下ろす。

 

「別にビビってねぇよ……いや、正直、ビビってたかもしれねえけどな。でもお前には関係ないだろ」

 

 一度言葉を途切れさせてから、サワダは顔を上げ、ぶっきらぼうに付け加える。

 

「……ありがとな。なんか、気にかけてくれてるみたいで」

 

 アラキは一瞬、口元に笑みを浮かべ、「はっ?」とわざとらしく首をかしげる。

 

「別に俺は優しさなんてないぜ。ただ、今度は俺が強くなってリベンジしようと思ってるだけさ。お前に負けっぱなしは性に合わねえからな」

 

「へっ、好きにしろよ」

 

 二人の会話はそっけない調子ながらも、どこか和やかな空気が流れている。アラキはサワダの様子を探るように横目で見ながら、「少しは吹っ切れたように見えるな」と内心で安堵していた。

 

 サワダはうまく笑顔を返す術を知らないまま、荷物を置いて椅子に腰かける。教室のざわめきが日常の平凡さを思い出させてくれるのが、ほんの少しありがたく感じられた。

 

──────

 

 放課後になり、学校が静まり始めるころ、サワダは屋上へ足を運んだ。先日、イシイと遭遇した校舎裏とは違い、屋上にはすがすがしい風が吹いている。

 

 夕陽が傾きはじめ、風の冷たさには秋の気配が混じっていた。

 

「俺がやらなきゃ、誰がやる……だよな」

 

 サワダはぽつりとつぶやき、自分のデッキケースを取り出す。そこには、父の形見──ドラゴン・オブ・ルインが確かに存在している。

 

 昨日までの混乱や恐怖がまったく消えたわけではない。けれど、アラキの言葉を受け、同じクラスメイトから浴びせられる何気ない日常の視線を思い出すと、どこか踏ん切りがつきそうな気がした。

 

「……あんなわけのわからねぇ奴に、父さんの思いまで踏みにじられてたまるか」

 

 デッキケースからカードをゆっくりと抜き取り、ドラゴンの凶暴ながらも神秘的なイラストを見つめる。息を吸い込み、視線をまっすぐに向けた。

 

「ドラゴン・オブ・ルイン……頼むぞ。お前が危険だって言うなら、俺がそれを扱いこなしてみせる。そんで、父さんをバカにしたあいつを……絶対に倒してやる。世界の破滅なんか、させねぇ……!」

 

 夕陽の赤みが、カードの闇色の背景に反射して鮮やかに映える。サワダはカードをそっと握りしめ、胸に当てるようにして思いを込める。イシイの圧倒的なオーラに飲まれそうになった自分が、今ははっきり“やらなきゃならないこと”を認めようとしていた。

 

「父さん……俺は、このカードを守る。だから見ててくれよ。──俺がやるしかないんだよな」

 

 遠くから聞こえる下校時間のチャイムが、屋上の扉越しに微かに響いてくる。

 

 サワダはカードを再びケースにしまい、背筋を伸ばして夕陽を見つめた。重苦しさを抱えていたはずなのに、不思議と体は軽く感じる。風が髪を揺らすなか、オレンジ色の太陽が校舎の向こうに沈もうとしていた。

 

「……よし」

 

 サワダはそう一言呟き、力強くカードを握りしめる。そして、沈みゆく夕焼けを背に、視線をまっすぐ前へ向けた。まるで見えない敵──イシイや“次元の破滅”に挑むと決めたかのように、決意がその瞳に宿っている。

 

 こうして、サワダユウジは初めて“自分の意志で戦う理由”を見つけ出した。今はまだ暗闇の正体を知らないまま、けれども父の形見を支えに、一歩を踏み出す覚悟を固めはじめるのだった。

 

──────

 

 暗転──まるで視界そのものが遮られるように、世界は一気に黒い闇に包まれる。

 

 そこにかすかな光が差し、浮かび上がるのは禍々しい空間。歪んだ柱のようなものがいくつも立ち、底なしの深淵へつながるような床が不気味に波打っている。

 

 その中心に、ローブをまとったイシイの姿があった。先ほど校舎裏でサワダと対峙した時とは違い、今は霧のような靄が全身を這い回り、闇と同化しているかのように見える。

 

 イシイの唇に、冷たい笑みが浮かんだ。

 

「ドラゴンの加護をまとったか……だが、それも長くは保つまい。”終焉の王”の封印さえ解かれれば、あんな子供など一瞬で消し飛ぶだろう……」

 

 その声はどこからともなく響き、次元の狭間を振動させるようだ。ふと、闇の中に微かな輝きが揺らぎ、イシイの瞳だけが鋭い光を帯びる。

 

「ケイスケの遺志を継ぐというのなら……せいぜい踊ってみせろよ、サワダユウジ。お前がどこまで耐えられるか……楽しませてもらおう」

 

 暗黒の空間が一段と深くうごめき、影がイシイの体を包み込んでいく。

 

 冷たく吐き捨てるような声とともに、イシイの姿は闇へ溶け込むように消え失せる。

 

 闇と沈黙だけが残るその場所は、まさに“次元の狭間”と呼ぶにふさわしい。

 

 ──そして、何もない真っ暗な画面に切り替わったかのように、すべてがフェードアウトしていく。

 

 こうして幕を閉じた物語の第一章。しかし、その裏で“次元の破滅”にまつわる深い陰謀は、着実に姿を現しはじめていたのだった。

 

──────────

 

◆次回予告

ドラゴン・オブ・ルインを守ると決意したものの、具体的にどうすればいいかわからず悩むサワダ。

そんなサワダを案じて、アラキは気分転換にショッピングモールへ行こうと提案する。

そこでサワダが出会ったのは……?

次回「カエル使いとの出会い」

デュエル、スタンバイ!

 

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