7:カエル使いとの出会い
◇あらすじ
イシイが去った校舎裏に残ったのは、恐怖と“次元の破滅”、そして父・ケイスケの名だった。
その夜、サワダは研究ノートを読み返し、父が隠していた不穏な真実の気配に震える。
迷いながらも彼は屋上で決意する──父の形見を守るため、自分の意志で戦う、と。
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次元帝・イシイとの邂逅から、数日が過ぎた。
サワダは相変わらず学校へ通い、クラスメイトたちと日常を送ってはいるものの、心のどこかに重苦しいものを抱えたままだ。
「“次元の破滅”って、いったい何なんだ……」
休み時間、廊下を歩きながらも、サワダは心の中でずっとその言葉を反芻していた。イシイが言い放った“世界の均衡を乱す力”──ドラゴン・オブ・ルインは、父が大事にしていた形見だと信じている。しかし、その力が本当に危険なものであるかもしれないと思うと、否定しきれない自分がいる。
──守ると決めたはいいが、具体的にどうすればいい? 封印するのか、それとも常に携えて見張るのか……誰かに相談? どれも決め手に欠ける。動けば危うく、動かなければ狙われる──答えが出ないまま、時間だけが過ぎていく……。
仲間と話しながらも、どこかうわの空。授業の合間に視線を落とす先は、いつも胸ポケットに仕舞われたカードへ。手のひらに伝わる感触が、妙に生々しく感じられた。
まだ大きな行動を起こす段階ではないと自分に言い聞かせながらも、常に不安が消えず、淡々とした日常に混じる小さな違和感がサワダを苦しめている。数日前に起こったあの出来事──霧のように現れたイシイとのデュエルは、どこか夢だったかのような錯覚すら覚えるほど曖昧なのに、胸のざわめきだけは現実感を増していた。
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放課後になり、クラスメイトが部活動や帰宅のためにぞろぞろと教室を出ていくなか、サワダはひとり机に突っ伏していた。校舎の窓から差し込む夕陽が、傍らのデスクを赤く染める。
そんなサワダを見つけたアラキが、鞄を肩にかけながら近づいてきた。
「おい、サワダ。今日は随分と元気ないじゃないか。あれ以来、お前らしくないぞ。悩みがあるなら言ってみろよ」
アラキは先日のイシイとの遭遇もあってか、サワダの様子を気にかけているようだ。生意気な口調は変わらないが、その視線には確かな友情が宿っている。
サワダは父の形見のカードをかすかに握りしめ、「……別に言うことなんてねえよ」と一度はそっけなく答える。だが、アラキの表情を見ていると、そう突き放すのも悪い気がした。
「まあ、その……あのイシイとかいう奴のことを考えるとな。正直、やっぱり不安っていうか……。父さんが残したカードをあんなふうに言われて、どうすりゃいいんだか。俺にも全然わかんねえし」
口調はあくまで軽いが、サワダの心は大きく揺れていることを示していた。アラキは軽く頷き、遠くの夕陽を見つめるように視線を窓へとやった。
「でも、お前はあのイシイにだって、ちゃんとカードを握り返したじゃないか。怖そうな奴だったけどさ、最後まで退かないお前の姿は、俺の目にはしっかり映ったぞ。だから、まあ……俺はその姿を信じてるってわけだ」
まっすぐな言葉に、サワダは一瞬だけ目を伏せる。それでも悪くない気分だ。怖がる自分を誰かが認めてくれている安心感が、ふわりと心に染み渡る。
「アラキ……ありがとな」
声を潜めるように呟くサワダに、アラキは「ははっ、お前らしくねーな」と言いつつ、笑みを浮かべた。
空気がどこか和んだところで、アラキが思いついたように口を開く。
「なあ、気晴らしにどっか行かね? このまま暗い顔で家に帰ったって、何もいいことないだろ。そうだな……“グランド・フォート・モール”でも行ってみないか?」
「グランド・フォート・モール……あの大きいショッピングモールか」
校区外れに最近できた大型商業施設、通称グラフォ。多彩なテナントが入っており、週末ともなると若者が多く集まることで知られている。アラキは「暇つぶしになるさ」とさらりと言い、サワダも特に予定がないので断る理由もない。
「確かにな……まあ、何か買うものがあるわけじゃねぇけど、行ってみるか」
「よし、決まりだ。じゃあとっとと行こうぜ、サワダ」
二人は教室を出て、夕陽がオレンジ色に染める廊下を歩く。
ふとサワダは、胸ポケットのドラゴン・オブ・ルインをもう一度確かめるように触れた。イシイの言葉が頭をよぎるものの、アラキに引っ張られる形で、ほんの少しだけ気持ちが軽くなった気がする。
「何があっても、まずは自分で動いてみるしかないのか……」
心の中でそう呟きながら、サワダはアラキに続いて階段を降りていった。大きく息を吐くと、不安の重さがわずかに和らぐのを感じる。
このまま何もできないままじゃ終われない。そんな思いを胸に抱きつつ、サワダは“グランド・フォート・モール”へ向けて足を踏み出すのだった。
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週末の夕方。アラキの提案で訪れたグランド・フォート・モールは、大勢の買い物客でにぎわっていた。フードコートやアパレルショップが並ぶなか、奥まった一角にある“フリーデュエルスペース”だけは異質な雰囲気を放っている。
カードゲーム好きが自由にデュエルを楽しめる場所──そんな解放感あふれる空間の一角で、ある青年が悠々と対戦していた。
「へえ、いい攻撃だね。でもカエルはしぶといよ」
陽気な笑い声とともに、わずかATK100や200程度のカエルモンスターたちがフィールドを占拠している。まともに見れば、どう考えても低ステータスだらけの弱小デッキ……のはずなのに。
青年は軽妙なジョークを飛ばしながら、驚くほど粘り強く相手の攻撃をいなし、気づけば勝利を手にしていた。周囲には数人の観客がいて、彼の奇妙な“カエルデッキ”に興味津々だ。
「弱いカードを使ってるように見えるのに、なんで勝ってるんだ?」
「カエルってあんまり人気ないのに、あの人……すごい強さじゃない?」
ひそひそと交わされる声を尻目に、その青年──コガは汗ひとつかかず、にこやかに相手と握手を交わす。
「いやー、楽しいデュエルをありがとう。カエルの可愛さが伝わったかな?」
「ま、参ったよ……。見た目弱そうなのに、立ち回りが凄かったぜ」
対戦相手が苦笑混じりに礼を言って去っていくと、コガはモンスターカードを丁寧にデッキへ戻しながら、次の相手を探すかのように周囲を見渡した。陽気な笑顔とともに、どこか軽やかな足取り。そこだけ空気が明るく浮き立っているようにも見える。
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サワダとアラキがフリーデュエルスペースに足を踏み入れたのは、コガの先ほどの対戦、まさに終わりかけのタイミングだった。ざわめきを感じ、アラキが指さす。
「なあ、サワダ。あの人……何やら変わったデッキ使ってないか? ウチの学校じゃあんまり見ないタイプだ」
「ん……あれ、全部カエルモンスターか? 攻撃力100とかしか見えねえんだが……」
アラキが「あいつ、一体どうやって勝ってるんだ?」と首をひねりつつ、二人してスペースの中央へ進む。すると、ちょうど勝負を終えたコガがこちらに気づいたように柔らかな笑みを浮かべて近づいてきた。
「おや、新顔かな? ようこそ、ここは“フリーデュエル”大歓迎のコーナーさ。君たちもデュエル、やってるの?」
親しみやすい口調に、アラキが即答する。
「まあ、一応な。どちらかっていうとコイツ──サワダが強いんだけどな。強力なドラゴンを使うんだ」
コガはサワダのほうをちらりと見て、明るい声で続けた。
「へえ、サワダくんっていうんだ。僕はカエル使いのコガ。デュエルは好きかい?」
「まあ、好きっていうか……そうだな、やってみるか?」
サワダの返事を聞き、コガはうれしそうに手を叩いた。ちょうど空いていたスペースへ案内しながら、「フリー対戦だから気楽にね」と肩の力を抜くように促す。
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アラキは荷物を置いて立ち見のポジションを取り、「じゃあ俺は観戦してるわ」と腕を組みながら様子を見守る。
「それにしてもカエルデッキか。面白そうだけど、周りの反応を見る感じ相当手強いんだろ?」
「まぁまぁ、カエルは可愛いだけが取り柄じゃないからね。……よし、整った。始めよっか?」
サワダとコガが向かい合い、デュエルディスクをセットする。周囲の人々も「今度の相手はドラゴン使いらしいぞ」「あのカエルデッキとどんな戦いになるんだ」と、興味津々にちらちら視線を送ってくる。
アラキは胸の内で「サワダが力押しで一気に攻め切るのか、それともコガが粘り勝ちするのか……楽しみだな」と思いながら、二人の動きを見据えた。
「「デュエル!」」
サワダとコガが同時に声を張り上げたその瞬間、フリーデュエルスペースの一角に期待と静かな熱気がこもった。
──こうして、サワダとコガの軽い初対戦が始まるのであった。
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◆次回予告
ショッピングモールで始まったカエル使い・コガとのデュエル。
サワダのドラゴン達は、コガのカエル軍団を攻略できるのか……?
次回「VSコガ──途切れぬカエル軍団」デュエル、スタンバイ!