【遊戯王】ドラゴンマスター・サワダ   作:おならむし

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9:次元帝の指令

◇あらすじ

フリーデュエルでカエル使いのコガと相対したサワダは、カエルのバーン&直接攻撃に苦戦する。

だが土壇場、サワダは【ドラゴン・オブ・ルイン】を降臨させ、カエル軍団を一掃。そのまま必殺の超火力で勝利を掴み取った。

 

──────────

 

 フリーデュエルスペースに大きなどよめきが広がった。サワダのドラゴン達がコガのカエル軍団を一掃して勝利を収めると、周囲の観客は一斉に拍手や賞賛を送る。

 

 その中心で、サワダは息を整えながらも、どこか腑に落ちない感覚を抱えていた。確かに全力で攻めたのだが、勝負が終わってみると、相手は“予想外にあっさり”やられてしまったように思えてならない。

 

「……危ねえとこだったけど、何とか勝ったか」

 

 サワダは自分のカードをケースへ戻しながら、ちらりとコガの様子をうかがう。敗れたコガは、まるで痛みも感じていないかのように晴れやかな笑顔を浮かべていた。

 

「いやあ、参ったよ。君、ほんとに強いね。ドラゴンデッキのパワーを見事に活かしてあの一撃……。今度は、もうちょっと粘りたいなあ」

 

 そう言ってコガは朗らかに笑うと、「またやろうよ!」とフレンドリーに声をかけてきた。手を差し出すその仕草もどこか陽気で、負けたことに対する悔しさをまったく感じさせない。

 

 サワダも思わず「お、おう……またな」と返事をするが、心の奥で先ほどの違和感が拭えない。あれほど器用にカエルを扱い、あれほど不気味な戦術でライフを削ってきた男が、こんなあっさりした態度で終わるものなのか、と。

 

「もしかして、手を抜いていたとかじゃないよな」

 

 サワダは小声で呟きながら、首を傾げながらアラキのほうを振り返る。するとアラキが苦笑しながら肩をすくめた。

 

「手ごたえがなかったわけじゃないだろ。あのカエル戦術、かなりの実力だったのは間違いないよ。もしお前が少しでもプレイをミスってたら、たぶん逆転されてた」

 

「だよな……確かに厄介だったっちゃ厄介だったし」

 

 アラキがそうフォローすることで、サワダもなんとなく納得しかける。コガ自身からは“遊び”だとか“手加減”など一言も聞いていない。むしろコガは「カエルデッキのすごさを伝えたい」という意志を感じるほど、楽しげに戦っていたはずだ。

 

 コガはカードをしまい終えると、鞄からスマホを取り出し、サワダに向けて言った。

 

「よかったら連絡先、交換しようよ。いつでもデュエルできる仲間が増えるのは嬉しいからさ」

 

 その笑顔にはまったく嫌みがなく、サワダも「まあ、いいか」と受け入れる。交換を終えてアラキの分も訊くと、コガは「嬉しいなあ」と楽しそうに頷いた。

 

 そんなコガを見送るようにして、サワダとアラキは「不思議な人だな……」と、改めて余韻を感じながらフリーデュエルスペースをあとにする。

 

──────

 

 一方その夜。街のはずれにある廃ビルの一室。薄暗い照明と荒れ果てた床が、不穏な空気を漂わせている。

 

 人気のない時間帯、そこに姿を現したのは、昼間サワダとデュエルを交わしたコガだった。明るい笑顔は消え去り、どこか沈んだ瞳で部屋を見回す。悩みがあるとこの廃ビルに足を運ぶ、それが彼のルーティンになっていた。

 

「……まさか、“あのドラゴン”と会うことになるとはね」

 

 コガは小さく呟くと、デッキケースからカードを取り出す。そこには今日使わなかった伏せカードが挟まっていた。

 

 そのカードを見つめながら、サワダのドラゴン・オブ・ルインが圧倒的な火力を発揮したシーンを思い返すように、ゆっくりと目を伏せる。

 

「強力な力を持ってるのは間違いない。でも、まだまだ潜在能力がありそうな気がするんだよな……なんとなくだけど」

 

 コガの声は普段の陽気さが欠片も感じられず、むしろ苦悩混じりの低いトーンだ。

 

 静かな夜の空気が耳に張りつく。コガは一人きりの空間で、カードを握りしめながら、わずかに歯を食いしばった。

 

「イシイの言う通りだったってわけか……。それにしても、あのドラゴン……。どうなるんだろう、これから」

 

 一瞬だけ迷いが宿る表情を浮かべ、それでもすぐに頭を振って気持ちを切り替える。

 

「……僕は僕で、やるべきことをやるしかない。彼には悪いけど、これも仕方ない……」

 

 そうつぶやくと、コガは窓の外へと視線を移す。

 

 カエルたちのカードが収まったデッキが、小さく震えるかのように揺れている──それはコガ自身の、言いようのない葛藤を映し出しているかのようだった。

 

──────

 

 夜の静寂に包まれた廃ビルを後にしたコガは、とある人物に会うべくしばらく街の暗がりを歩き続けていた。頭の中は、昼間サワダと交わしたデュエル、そして【ドラゴン・オブ・ルイン】の圧倒的な力が去来している。

 

 しかし、一人考える時間が増えると、彼の意識は自然と過去へと向かっていった──。

 

──────

 

 ──かつて、コガは家族とともに平穏な日々を過ごしていた。幼い頃に両親を亡くした彼を育ててくれた祖父母は優しく、温かい家庭がそこにはあった。しかし、ある日突然、重病が祖父母を襲ったのだ。高額な治療費が必要だと判明し、コガは困窮に追い込まれる。

 

「……どうにかして、治療費を稼がないと」

 

 デュエルで賞金を得ようと必死だった頃の自分が、脳裏に蘇る。どんな大会だろうと片っ端からエントリーし、勝利の賞金をかき集めた。だが、目標には遠く及ばず、焦燥感が募っていくばかり。

 

 ──そこへ現れたのが“イシイ”だった。

 

 霧に包まれたような不気味な場所で、イシイは冷ややかな笑みを浮かべ、「家族を守りたければ私の手伝いをするがいい」と囁いた。その瞬間、コガの人生は大きく変わった。イシイは治療費を工面する手助けをしてくれたかと思えば、同時に家族を“人質”のように扱い、逆らえないように仕向けたのだ。

 

「僕は……家族を守らなきゃならない。それが、僕の命より大事なんだ」

 

 その「手伝い」が、どんな意味を持つのか──最初は分からなかった。ただ、命じられるままに動けば、金は用意された。薬は届き、入院費は支払われ、祖父母の顔色が少しずつ戻っていった。

 

 代わりに、コガの手には“別の汚れ”が付いていった。

 

 イシイは自身の持つ次元の力を、倫理を踏み外した形で実験し続けていた。常識ではあり得ない空間の歪み、辻褄の合わない現象、研究者でなくとも背筋が凍るような異常──それを嗅ぎつけ、追及の手を伸ばす企業や研究機関が現れるたび、コガは“沈黙化”を命じられた。

 

 告発は握り潰され、発表は直前で中止になる。バックアップを取ったはずのデータが、次に見た時には白紙のように空白になっている。会議室の空気が薄く揺らぎ、照明が一拍遅れて点滅し、誰かが「今、何を話していた?」と首を傾げた次の瞬間──最も声を上げていた人間だけが、唐突に失踪する。

 

 血の匂いがしないぶん、余計に悪質だった。相手を殺したわけではない、と言い聞かせられる。だが、口を塞がれた者たちの未来は、確実に折れていった。

 

──────

 

 街灯が弱々しく照らす夜道を歩きながら、コガは心の中で自らを奮い立たせる。

 

 祖父母に笑顔が戻った今でも、イシイの影は消えない。逆らうと家族に危険が及ぶかもしれない──その恐怖が、彼を苦しめ続けていた。

 

「……こんな世界を望んでるわけじゃないのに。だけど、家族を守るためだ……」

 

 コガは足を止め、虚空を睨むように小声で呟く。サワダの“ドラゴン・オブ・ルイン”に秘められた力が、どこか胸を締めつける。あの竜を、イシイが欲している。

 

 ──欲している、というより。イシイの野望にとって、あれは「次の段階」なのだ。そう理解してしまう自分が、なおさら嫌だった。

 

 このままでは、サワダと“敵対”する道を歩まざるを得ないのかもしれない。家族のためとはいえ、その事実に心が痛む。

 

 そして何より──自分がこれまで、誰かの声を消す側に立ってきたことが、今になって喉の奥へ重く引っかかっていた。

 

──────

 

 数十分後、コガは目的地へと足を運んでいた。大きな立体駐車場の最上階──深夜近い時間とあって、ほとんど車の姿はない。無機質なコンクリートの壁を打つ風が冷たく、どこか不気味な空気が漂っている。

 

「ずいぶん遅かったな、コガ」

 

 暗がりから声が響く。ローブをまとったイシイが姿を現し、冷たい視線をコガに向けた。コガは険しい表情で一礼するように頭を下げる。

 

「……すみません、イシイさん。少し時間がかかっただけです」

 

 イシイは応じず、まるで探るように鋭い目でコガを見据える。

 

 コガは息を整え、昼間の出来事を素直に報告した。

 

「ドラゴン・オブ・ルイン──あれは想像以上に強力でした。ただ、サワダくんは、まだ使いこなせていない感じもありましたね。パワーはあるけど荒削り……成長の余地は大きいかと」

 

 イシイは鼻で笑うようにして、「ならば、その力を手に入れるがよい。“カエル使い”の戦略で封じ、奪い取ることなど容易いはずだろう?」と告げる。

 

 コガは一瞬だけ表情を硬くするが、言い返せず、深く息を吐いた。

 

「……わかりました。もしもサワダくんが危険因子になり得るなら、それを無効化するのも僕の役目ですね」

 

 しばし沈黙が落ちる。イシイは無表情のまま、しかし冷酷な威圧感を漂わせて一言つぶやく。

 

「間違っても裏切るなど……考えるなよ? 家族を人質に取られているお前には、おとなしく私の言うとおり動くしかない。違うか?」

 

 コガの拳がぐっと握り締められる。まるで身体の芯から震えが生じるように、悔しそうにうつむく。

 

「……承知しています。僕は、家族を守るためなら何だってやりますよ」

 

 イシイは自分のローブの裾を翻し、視線を駐車場の外へ向ける。夜風が霧のように流れ、うっすら月明かりを歪ませている。

 

「ならばよい。ドラゴン・オブ・ルインの力を封じ、私の手に届けるがいい……さもなくば……わかっているな?」

 

 その言葉を最後に、イシイは一度もコガの目を見ないまま階下へ歩み去っていく。足音が遠のき、やがて闇に消え失せる。

 

 コガはしばらく立ちすくみ、無人の立体駐車場に孤独な足音だけを響かせながら拳を解いた。深く息を吸い込み、胸の奥の悔しさを必死に押し殺す。

 

「サワダくん……ドラゴン・オブ・ルイン……。なんで僕が、こんな役回りに……」

 

 苦しみを吐き捨てるようにそう呟くと、コガはそっと瞼を閉じ、家族の笑顔を思い浮かべる。

 

 守るため──それだけが、コガを行動させる理由だった。闇夜の冷たさに震える立体駐車場で、彼は改めて決意を固める。

 

「僕は、何があっても家族を失いたくないんだ……」

 

 静寂の中、コガの足取りだけがコンクリートにこだましながら、暗い夜の街へと消えていった。

 

──────

 

 それから数日後、サワダは夕暮れの帰り道を歩いていた。スマホが軽く振動し、画面を見ると「コガ」という名前が表示される。つい先日、フリーデュエルスペースで交換した連絡先だ。

 

「サワダくん、こんにちは。実はもう一度デュエルしないかと思って──できれば、もう少し静かな場所で……」

 

 そう綴られたメッセージに、サワダは“何だか急だな”と思いつつも気を引かれる。先のフリーデュエルでは、コガがどこまで本気だったのか測りかねた部分もあるし、単純に「もっと見てみたい」という興味が大きかった。

 

「いいぜ。場所と時間、指定してくれ」

 

 思わず即答した自分に、少し驚きながらも心が躍る──あの妙に気さくなコガと、もう一度真っ向からデュエルしてみたい。胸の奥で、ドラゴンたちが燃えているような気がする。

 

「なあサワダ、いきなりスマホ見てニヤけてんじゃねえよ。何かあったのか?」

 

 近くにいたアラキが、少し茶化すように声をかけると、サワダは苦笑を浮かべて事の次第を伝えた。

 

 コガが改めてデュエルを申し込んでいるらしい、と聞いたアラキは目を輝かせる。

 

「それ、面白そうじゃねえか。俺も見たい! 連れてけよ」

 

「まあ、別にいいけど。コガも観戦は歓迎するんじゃないか?」

 

 サワダが同意すると、アラキは目を輝かせて「よっしゃ!」と拳を握る。

 

 二人はそうと決まれば早速連絡を取り合い、コガからは「人気の少ない川原で──夕方頃に」と返信が来る。サワダは気兼ねなく「わかった、楽しみにしてる」と返し、再会の約束を交わしたのだった。

──────

 

 翌日、指定された夕方の川原は薄暗い空気に包まれていた。市街地から少し外れた場所で、人通りはほとんどない。サワダとアラキが到着すると、先に待っていたコガが軽く手を振って出迎える。

 

「よく来たね、サワダくん。……あ、アラキくんも一緒なのかい?」

 

 コガは少し驚いたような表情を見せながらも、すぐににこやかに微笑む。アラキは「観戦したくて」と屈託なく答え、「ごめん、邪魔だったら帰るけど」と付け加えるが、コガは笑顔のまま首を振った。

 

「いや、むしろ歓迎だよ。フリーデュエルスペースのときも思ったけど、アラキくんは観察力がありそうだしね」

 

 そんな言葉を交わす一方で、アラキは川の流れを見やりながら小声で漏らす。

 

「にしても、こんな人気のない場所でやるなんて、なんか物騒だな……。誰もいないし、騒いだところで誰にも気づかれないぞ」

 

 確かに薄暗く、雑草が生い茂る川原は、デュエルにうってつけとは言い難い。コガは目を伏せ、少し自嘲するように笑う。

 

「確かにそうだね。でも、今日はちょっと気合を入れてデュエルしたい気分なんだ。周りの人に迷惑をかけないような場所がいいかなって。……あはは、変な理屈かな?」

 

 アラキが言葉に詰まり、なんとなく気まずい空気が流れる。しかしサワダは頷いてコガを真っ直ぐ見据えた。

 

「気合を入れてデュエルする、か。面白いじゃねえか。それならこっちも力を抜くつもりはない。思い切りやろうぜ、コガ」

 

 そう言いながらサワダはデュエルディスクを起動する。電子音が響き、ライフゲージが映し出されると、川辺の空気が一気に熱を帯びていくかのようだ。

 

 コガもまた、自分のディスクを腕に装着しながら微笑みを見せる。先日の朗らかな態度に加えて、今日は何か“意志”のようなものが漂っている。

 

「じゃあ、始めようか。……サワダくん、アラキくん、準備はいい?」

 

「ああ、こっちはいつでもいいぜ」

 

「俺は観客として遠慮なく見させてもらう!」

 

 そこには、風に揺れる草の音と、川の流れの静かなせせらぎ。3人以外、誰も立ち入らない空間。

 

「いくぜ……「「デュエル!」」

 

 サワダとコガが同時に声を上げると、ディスクのライトが闇に鮮やかに浮かび上がる。アラキは一歩引いた場所から息を呑み、次に起こる“本気のデュエル”を見守る体勢を整えた。

 

 こうして、再びサワダとコガの戦いが幕を開ける──。

 

──────────

 

◆次回予告

次元帝が影で関与しているともいざ知らず、川原でサワダとコガの再戦が始まる。

フリーデュエルの時と打って変わって、カエル使いの本気が垣間見える……

コガが巡らせる罠を、サワダは搔い潜れるのか?

 

次回「VSコガ①──君臨、”カエルの皇帝”」デュエル、スタンバイ!

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