デンレゼが足掻く度に不幸になるケッコンの悪魔さん 作:Nera上等兵
銃の悪魔をぶっ殺すには、まず居場所を突き止めないといけない。
しかし、世界中の軍隊やデビルハンターが探しているのに未だに発見されていないのだ。
だから銃の悪魔の肉片を集めて合体しようとする動きで居場所を突き止める必要があった。
「ホントにここでいいのか?」
「間違いない!悪魔がここに居るとワシの鼻が示してるのじゃ!」
血の魔人であるパワーと共にデンジは公安に通報されたホテルの前までやって来た。
金髪のおっさん曰く、このホテルに潜む悪魔とやらに銃の悪魔の肉片が反応したらしい。
ついでにパワーがこのホテルに悪魔が居ると騒ぎ立てている。
彼女の発言に関しては信用していないものの、デンジはさっそくホテルに突撃しようとしていた。
「なんでお前らがここに居るんだ!?」
「それはこっちの台詞だ」
しかし、早川アキと眼帯女、なんかオドオドしている女と真面目そうな男と遭遇した。
「俺の獲物を横取りする気か!?」とデンジが牽制する前にアキが逆に発言を繰り出した。
「俺たちは通報を受けて駆け付けた。なんで合流の指示を受けていないお前らがここに居る?」
「金髪のおっさんがよ、ここに銃の悪魔の肉片を取り込んだ悪魔が居るって教えてくれたんだ」
「なんだと!?」
デンジの発言を受けて慌ててアキが銃の悪魔の肉片を取り出すと確かに反応した。
明らかに自分たちよりも多くの情報が伝達されている事態に彼は動揺する。
「確かに強力な助っ人が現場集合するって言ったけど、まさかあなたたちがそう?」
「そうそう、大正解!」
「ワシらの手に掛かれば、銃の悪魔など瞬殺じゃ!その肉片で甘える悪魔など雑魚にすぎん!」
その理由について姫野は少ない情報で推理する。
確かに現地で助っ人が合流すると聴いていたが、詳細なメンバーは聴かされていない。
親指を突き立てて舌を出して笑う2人の姿を見て確信した。
「アキ君、嵌められたね。私たちが同行を拒絶すると読んでいたみたい」
「くっ、あっさりと編入を外せたのはそういう事か」
早川アキは
それに対してマキマさんはあっさりと受け入れたが、何のことはない。
そもそも現地で編入させるつもりなので、最初からそのつもりだったのだ。
「まあ、そう怒るなって!先輩から差し入れがあるぜ!」
「ワシは輸血パック、デンジは携行食と懐中電灯をもらったのじゃ!人望っていいものじゃな」
差し入れを入れられるほど偉くなったと勘違いするデンジたちは喜んでいたが、実際は違った。
デンジの行動に激怒した結婚の悪魔は、ホテルに潜んでいる悪魔の正体を看破していた。
なので少しでも長期戦になって彼らが苦しんで死ぬように大量の携行食を用意したのだ。
ところが、マキマの妨害により、公安対魔特異4課の4名を合流させられたのが実情である。
「他に何か言われたか?」
ただ、無意味にデンジたちを派遣していたとはアキは思っていなかった。
どこか他人事で話す彼らに重要な情報が知らされていないか質問をする。
「ホテルの中は広いから長期戦になるかもって言われたのじゃ!!」
「そりゃあ、こんな中でかくれんぼしたら探すの大変だしなァ!!」
彼らの話は大した事が無かった。
(長期戦?)
だが、アキは見逃さなかった。
確かに高級ホテルの階層と部屋数から調査する箇所は膨大となる。
もちろん、2人だけで挑むならそうなるし、合流して共闘すれば短時間で悪魔を発見できる。
このまま合流して6人で挑めば、更に短時間で悪魔を討伐する事が可能だった。
(俺らの実力なら短期決戦で終わらせられるとマキマさんは思っていたのか…?)
違和感があったのは、先輩と違ってマキマさんが「長期戦になる」と言わなかった事だ。
「なおさら、派手にぶっ殺してやらねぇとな!さっさと行くぞ」
「ソレいいのう!ワシによこせ!それワシのものにする!いや、ワシの物じゃないか!?」
それよりこいつら、先輩に対する敬意どころか馬鹿にしている素振りすらある。
「お前ら、先輩に対する敬語はどうした?」
「はあ?」
「ん?」
改めて自分たちの立場を分からせる為にアキは質問をする。
それに対してデンジも魔人も「意味が分からん」と言わんばかりに適当な返答をした。
「なんのメリットもねぇのにテメェなんかに敬語を使うかよぉ!」
「人間は愚かで傲慢じゃのう!それが仲間に対する態度か!?」
それどころか普通に喧嘩を売って来た。
敬語やマナーは、第三者や目上の人に敵対されにくいという利点がある。
その利点を真っ先にぶち壊す彼らの姿を見たアキは無言でポケットからガムを2つ取り出す。
「ハヤカワセンパイ」
「センパイ」
ガムに釣られた2人は日本語を勉強したばかりの外国人が発言するような片言を述べる。
パワーに至っては、デンジの発言を適当に復唱しているような感じまであった。
「よし」
「やりぃ」
「楽勝じゃな」
それでも前よりマシになったと判断したアキは彼らにガムを渡す。
本音を隠す気すらない2人を見て荒井は思った。
(こいつらが来ない方がマシかも…)
好き放題に暴れられたらホテルに潜む悪魔が無駄に警戒するかもしれない。
あくまでも悪魔討伐が優先となるが、生存者を発見した場合は確保して撤退も必要であった。
時と場によっては、撤退も必要な任務であるので他人事で動く彼らを同行させたくなったのだ。
「早川先輩、これから一緒に悪魔と戦う仲間として…そいつらに背中を任せていいんですか?」
チンピラと魔人、自分の命を託して共闘するには信用が無さ過ぎた。
当たり前の心配をする荒井の本音を受けてアキも自分の考えを述べる事にした。
「当然、こいつらに背中は任せない。悪魔駆除には基本、この二人を先行させる」
「おい!それってYO!真っ先に死ぬ奴じゃんか!」
「労働安全衛生法違反*1じゃ!人権侵害じゃ!労働基準局*2に行って告発してやる!」
デンジとパワーを先行させて囮にし、悪魔の出方によって対応を変えようとした。
もちろん、彼らは抗議し、パワーに至っては自己保身の為か無駄に賢く感じる。
「お前らに人権はない。悪魔から寝返ったり逃げたら殺す」
度々言われている様にデンジとパワーには人権がない。
公安に協力しているから行動に支障がない程度の人権を認められているに過ぎないのだ。
「めっちゃキレてるじゃ~ん。朝のアレのせいだな」
「あのイタズラは、さすがにやりすぎたのう」
一応、アキから事実を指摘された彼らは心当たりがあるのか。
ヒソヒソと何かについて相談していた。
「あれはイタズラってレベルじゃねぇ!ぶち殺すぞ!ゴミ共が!!」
「……一体、何があったというの」
寝ていたアキの鼻に猫のウンコをくっつけたイタズラ。
単純である故に子供のイタズラのレベルが越えているとアキは激怒した。
さすがにその事を職場で話さなかったのでバディである姫野も彼に怒りに困惑する。
(このままじゃ埒が明かないわね)
横で話を聞いていた姫野は、ホテル前に到着してから何も進展していないと実感する。
「おいおいおい!コウモリに殺されかけたと思ったらすぐ仕事だ!せめてご褒美をくれ!」
さっきアキからガムを貰っていたくせに貪欲なデンジは褒美が欲しいと喚き立てる。
「なるほど、じゃあ私が人肌脱ぐわよ!」
「こわ、人間の皮膚を剥ぐなんて恐ろしい女じゃのう…」
だから姫野はご褒美をあげる事にした。
なんか血の魔人が意味が分からない事を言っていたが完全にスルーする。
「今回の悪魔を討伐した人には、なんと!私がほっぺにキスしてあげます~!」
男にとってご褒美になりそうな事をたった一言告げただけだった。
「え!?」
「ええ!?」
デンジはともかく予想外の荒井が姫野の一言で反応した。
いくら姫野さんが好きだからってわざわざ反応する必要は無いはずだが…。
「やめてください!結婚前の乙女がホイホイと淫らに自分を売るなんて…」
顔を真っ赤にして反論する姿は、年齢=彼女歴なし=童貞を示していた。
(こいつに姫野さんのキスを渡すものか!)
荒井ヒロカズ22歳、趣味は俳句で彼女絶賛募集中サンは真っ先に悪魔を討伐しようと決意する。
「キスなら俺はいいや、もし上手く俺が悪魔をぶっ殺したらもらおうくらいにするぜぇ」
「あれ!?」
ところがデンジはそこまで本気にしなかった。
これには姫野は首を傾げて荒井に至っては恥をかいただけで終わった。
「俺は、初めてのチューする相手が決まってるんだ。その人の為に銃の悪魔の肉片を集めてよぉ!銃の悪魔をぶち殺すまでキスはしねぇって決めてんだ!」
デンジには夢がある。
銃の悪魔を討伐して憧れのマキマさんとエッチをする事である。
キスでも抱擁でもズッコンバッコンでもやりたい放題できるのだから限定する必要はなかった。
「それになぁ~!エッチな事は理解し合った人間同士の愛があってやるから気持ちがいいんだ~。名前も知らねぇあんたの唇なんて興味ないね」
パワーの胸を揉んだデンジは理解した。
好きでもない女のおっぱいを揉んでも気持ちよくならないと知ったのだ。
だから憧れのマキマさんと親交を深めて銃の悪魔を討伐した暁にズッコンバッコンすると決めた。
「へえ~~!!」
ところが、デンジの発言に姫野の乙女心に火が付いた。
攻略しにくい相手こそ感情を引き出させるのが大好きな彼女はデンジの耳元で告げる。
「じゃあ、デンジ君が悪魔を倒したらベロ入れたキスをしてあげる」
たった一言でデンジの覚悟は揺らいだ。
舌を出してチンピラのように喜ぶ姿に荒井はドン引きする。
「俺はお前よりデビルハンターをやってるんだぜ!うおおおおおお!!」
真っ先にデンジが手斧を持ってホテルの入り口に突撃した。
「はああ!?ワシの方がレベル上げが得意じゃが!?」
何故かゲームの話になったパワーもデンジの後に続く。
「うおおおおお!あの馬鹿に姫野さんはやらん!!」
そして姫野の父親ぶっている荒井ヒロカズ=キスされたいサンも突入する。
「ま、待ってください~!」
ついでに空気であったコベニも相棒の後を追う羽目になった。
「本当にやるつもりですか?」
「約束を守らない奴はクズだと思っているの。だって悪魔未満になっちゃうじゃない」
「……よく分かりませんが、確かに契約を守る悪魔よりクズってなりますね」
ホテル前に残されたアキは姫野にキスをやるか尋ねると普通にやるようだ。
彼女曰く、約束を守らない奴は悪魔未満のクズらしい。
その言葉を聴いたアキは脳内で反芻しながら慎重にクリアリングを心掛ける事にした。
「単独行動は危険だ、止まれ!止まれって言ってるだろう!」
「あーあー!聴こえねぇなァ!」
一部屋ずつ確認する必要すらなかった。
デンジと荒井が競うように廊下を駆け抜けているのだから。
突入部隊が分断して各個撃破されるくらいなら共に進んだ方がマシだった。
「俺は半年間、姫野先輩に鍛えられた!よく分からんチンピラにキスは渡さん!」
「退けよ!俺とてめぇじゃ背負っているモンが違うんだよぉ!」
一応、自分が悪魔を討伐した証拠を見せる為か、そこまで距離を取ろうとしない。
むしろ、先行した先でお互いの肉体に触れあって動きを妨害している有様だった。
この事態を受けて早川アキは、姫野先輩の新人がデンジと同レベルに感じてしまった。
「姫野先輩、新人たちは使えそうですか?」
「荒井君は…実力不足だけどやる気は充分って感じね、逆にコベニちゃんは、引っ込み事案だけどかなり動けるかな。少なくともお互いの長所と短所を補える名コンビだと思うわ」
現状に関してアキから質問された姫野は、教育を施している新人たちの特徴を告げた。
荒井が依頼人や民間人と交渉をし、いざとなれば残業してでも仕事をきっちり終わらせる。
逆にいざとなれば頼りになるコベニは、基本的には役に立たないので彼のサポートをする。
その名コンビっぷりは、様々な新人を見届けて来た姫野ですら舌を巻くほどであった。
「アキ君の方は?」
「血の魔人は強いですが、裏切る可能性がまだあります。デンジに至っては知らない事が多すぎて未知数ですが…マキマさんたちから評価されていますので弱くはないはずです」
逆に姫野から新人について質問されてしまったアキは現状を簡潔に報告した。
姫野先輩と違って未だに後輩を信じ切れていない。
ここでも実力差を感じてしまい、彼は唇を噛み締めたくなった。
「ここにいる新人たち、4人。生き残ると思う?」
ぼそりと呟いた姫野の一言は、現在の公安デビルハンターの現状を暗に示していた。
「強い思った奴も弱い奴も1年以内に死ぬか、民間に行きますよ」
「答えになってないじゃない」
「事実を述べただけです。生きようが死のうが、1年も公安に在籍できれば実力者ですよ」
一昔前までは公安のデビルハンターの死傷率は民間と比べて段違いであった。
公安のデビルハンターは、20代前半で家が建ち、20代後半で墓が立つという噂があるくらいだ。
それこそお給料と福利厚生が良いのは、数年以内に死ぬからと世間に言われているほどだった。
「アキ君は死なないでね」
姫野先輩の口癖を聴いてアキは彼女と出会った時の事を思い出す。
岸辺さんからバディを紹介された時、彼女と出会った場所は共同墓地だった。
右目と右腕に包帯を巻いて彼女が佇む墓の前には花束が向けられていた。
「俺は早川アキ、よろしく」
「君は使えるの?」
自己紹介した時、彼女が放った一言を聞いて失礼な奴だと思った。
「私のバディはこれで6人目、全員死んでるの。使えない雑魚だから死んだ」
この意味を後にアキも知る事となる。
「アキ君は死なないでね」
彼女の発言の意味も意図も今も変わっていない。
変わったとすれば、前よりは明るくなったくらいか。
「死ぬ気などありませんよ」
「安心した」
本当は銃の悪魔を殺せるなら死んでも良いとアキは思っている。
だが、それを彼女に告げると約束を破る事になるから黙っていたのだが…。
(まだ変わっていないのね…)
姫野はお見通しだった。
彼がまだ復讐に囚われて自分の破滅に気付かない事に…。
そして嫌でも分かる最悪の未来を変えてくれる存在が居る事も分かった。
「みんな、警戒して。悪魔が来るわよ」
感慨深くなってしまったが、ここは悪魔の根城である。
さっそく悪魔の気配を感じ取った姫野はこの場に居る全員に警告する。
それと同時に廊下の先にある扉が音を立てて開き、中から足音が鳴り響いた。
(予想より弱そうね)
固唾を吞んで見守っていた一同の前に手と足が1つずつくっついた一頭身の悪魔が出現した。
どう見ても銃の悪魔の肉片を取り込んだ悪魔には見えなかったが、用意周到で行く事にする。
「捕まえた」
姫野が契約しているゴーストの悪魔の右手で目の前に居る悪魔を持ち上げた。
事情を知らないデンジやパワーはその光景を騒ぎ立てているのを聴いて説明不足と判断。
さっそく彼女はネタ晴らしをする事にした。
「バトルじゃ!!よし、来た、見た、勝った!!どうじゃワシの勝ちじゃ!!」
なお、悪魔が浮かんでいる疑問よりパワーは悪魔をぶっ殺すのを優先した。
何故か古代ローマの将軍がローマの元老院に簡潔に報告した名言を告げるが、大した意味はない。
デンジと一緒に見ていた教育テレビで覚えた決め台詞を悪魔の討伐直後に言っただけである。
「ワシは超能力者じゃ!あいつを浮かして殺してやったわ!ガハハハハハ!」
「違うわよ、私の右目を食べさせた代わりに契約した“幽霊の悪魔”の力で持ち上げたってワケ」
姫野は右目を犠牲にして“幽霊の悪魔”と契約している。
右腕しか使用できないものの透明で力持ちの上に永続的に利用できるので重宝している。
しかし、これのせいで“結婚の悪魔”と契約が成立しないのは彼女にとって大誤算だった。
「どう?銃の悪魔の肉片に反応があった?」
「強い反応はありません、こいつじゃないですね」
「そっか、振れ具合を見ると上みたいだね」
それはともかく、すかさずアキに肉片の反応を確認させると目的の悪魔ではなかったようだ。
紐でぶら下げられた銃の悪魔の肉片は上に登ろうと上下しているように見える。
このホテルに地下は無いので上の階に目的の悪魔が潜んでいるのだろうと推測できた。
「行きますか?」
「当然」
アキの質問に対して姫野は即答し、デンジたちの後に続いて階段を登って行った。
「なあ、ワシの前でベラベラと己の能力を見せていいのか?」
「だって仲間じゃない。力を知った方が連携ができるでしょ?」
パワーは不満だった。
本当はデンジと2人で悪魔を討伐する予定だったのだ。
さっきも自分が悪魔をやっつけたのに姫野とかいう女に邪魔されたのだ。
「ホントかのぅ~!じゃあワシがお前たちを殺すと言ったらどうする……ぐぇ!?」
自分より弱い相手には強く出るパワーは、オドオドしているコベニに目をつけた。
さっそく自身の血でナイフを作って彼女の首に突きつけようとした瞬間!
見えない何かがパワーの首を絞めて持ち上げてしまった。
「こんな事はしたくないんだけどねぇ。やって良い事と悪い事の区別くらいしようね」
「さ、触れん…な、何故…」
何者かに首を絞められているパワーは、その元凶を掴もうとする。
しかし、彼女の手は宙を触れるだけで何も掴む事ができなかった。
「めんどうくさいから仲良くやろうね」
口とは裏腹に次は無いと姫野に釘を刺されたパワーは大人しく従う事にした。
(なんてな!悪魔の囮にしてやるわ!)
なお、全く反省しておらず、めちゃ強い悪魔とぶつけさせて同士討ちを狙おうとしている。
「いつかそのうち喰ってやる」
「俺とキスするんだから食うんじゃねぇよ」
パワーは幽霊の悪魔と強い悪魔を同時に食べようと宣言した。
一方、話の流れを理解していないデンジは、討伐する悪魔の事を言っていると勘違いしている。
まさに名コンビに見えて迷コンビと言われる状態に陥っていた。
「あれ?」
ここで荒井は気付いた。
「俺たち、8階から9階へ行く階段を上りましたよね?」
「そうだが」
荒井の質問に答えたアキは既に違和感に気付いていた。
ただ、荒井の傍にある【8階】の標識を見て確信した。
(なるほど、長期戦ってこれか…)
ようやく先輩がデンジに言っていた意味を理解した。
なんでちゃんと説明していないか疑問だったが…。
さきほどからデンジとパワーの言動と行動を見れば明らかだ。
(こいつらが馬鹿過ぎて上手く説明できなかったんだな…)
違和感に気付いた荒井が慌てて階段を駆け下りていくが…。
「あれ!?」
何故か上階から降りて来た。
すなわち8階の階層自体が何かしらの要因でループしているという事だ。
「荒井君、今…上から降りてきたよね!?」
「いえ、違います。7階に降ろうとしただけなんです!」
心当たりがあるとすれば、さきほど討伐した悪魔である。
「コベニちゃん!ダブルピースでじっとしてて」
「えっ!?アヘ顔ダブルピースをするんですか!?」
「普通にダブルピースでいいの!」
「は、はい!」
動揺し過ぎて別の事を思い浮かべたコベニに指定した姿勢を取らせて姫野は階段を降る。
「あらら、これはまいったわね…」
さきほどの荒井君の行動を再現してしまい、姫野は理解してしまった。
「閉じ込められた!」
概念系や物質系の悪魔には、空間に干渉するタイプが存在する。
例えば、“エレベーターの悪魔”が代表的である。
狭い空間に閉じ込める事で世界から隔絶させた場所にして人間を捕食するのだ。
「悪魔の力で間違いないでしょうね」
そのタイプであれば、幸いにも空間を作る能力の代償で本体が弱くなりがちである。
さっそくアキは、適当な部屋に入室して窓を見る。
「はぁ?何で窓の先に部屋が…」
予想外であった。
本来、密閉空間を作る悪魔の能力には、どこか致命的な弱点がある。
しかし、窓に映っているのは、鏡で反射したような部屋であった。
「なんでじゃ!天井を破壊して登って来たのになんでここに居るのじゃ!?」
「珍しく頭を使ったのによ!」
パワーが天井を破壊し、天井の穴に飛び込んだ彼女は床から頭を出していた。
椅子と机を土台にして彼女を持ち上げているデンジもがっかりである。
「つまり、俺たちは8階から出られなくなったって事か」
アキは既に分かっていた結論を述べる。
本当は否定したかったのだが、ここまでループさせられれば嫌でも気付ける。
銃の悪魔の肉片で強化された悪魔によって閉じ込められたという事に…。
「まずは状況確認が大事ね!ツーマンセルで部屋を確認し合いましょう」
幸いにも6人という人数は心強い。
姫野の提案で班ごとに部屋を調査する事になった。
「おいデンジ!」
「なんだよ!!」
それでもアキは納得できない。
「お前、本当に2人だけでここに居る悪魔を倒そうとしたのか!?」
「そうだが?なんだ?怖くなったのかぁ?全くしょうがねぇ先輩だなァ!」
デンジに馬鹿にされたが、それより気になったのは…。
「懐中電灯を貸せ!」
「……はあ?」
先輩からデンジに支給された懐中電灯だった。
ホテルが停電になって真っ暗になる可能性から渡したと思ったがそうではなさそうだ。
むしろ、その懐中電灯こそが現状打開に繋がる鍵となるとアキは推測した!
「いいから貸せ!!」
「うお!?」
困惑するデンジから懐中電灯を取り上げてじっくりと観察した。
一見するとただの懐中電灯であり、スイッチを入れれば普通に点灯する。
ただし、乾電池を入れる蓋に細工をされた痕跡が見えた。
「これか!」
蓋を開けてみれば電池以外にも何かが入っていた。
すぐに取り出すとポリ袋に入った何かが見える。
「これ、毒じゃない?」
「そんな馬鹿な…」
横で覗いていた姫野先輩の一言でアキは落胆する。
おそらく長期戦というのは、救援が見込めずに餓死に追い込まれるというものだ。
ドクロマークにわざわざ「たべるとしぬ」とデンジに分かるように毒と示していたのだ。
頼もしいはずの先輩がデンジたちを見捨てたと知ってしまったアキは思わず本音を漏らす。
「でも“
「…というと?」
だが、墓参りに持ち込む植物の果実を見て姫野は何かが可笑しいと直感で分かった。
そして、すぐにこれを持ち込んだ理由を理解した。
「“
「…それで?」
「触れたら幽霊の悪魔にも通用しちゃう毒なのよ…」
「え?」
その為、諸事情があるとはいえ植物で唯一、毒物及び劇物取締法*3で劇物として指定されている。
一方でその毒性故に獣や邪気を払う力があると信じられており、線香の原料となっていたりする。
「ほう!?ならこの毒があれば幽霊の悪魔なんか怖くないのう!」
ここぞとばかりにさっきの仕返しをしようとパワーが騒ぎ立てる。
幽霊の悪魔とは相性が悪いと思っていた彼女は、この毒で復讐するつもりだ。
「おそらく死体にも効くと思うから魔人ちゃんも死ぬかもね」
「うげええええ!!?」
なお、魔人は人間の死体に取り憑いた悪魔、要するに怨霊が死体を操っている状態である。
当然の事ながらパワーにも通用する猛毒なのだと姫野が告げると彼女は全力逃走した。
「姫野先輩」
「うん、そうだね」
なにより、慌てて逃げるパワーの様子を見て姫野と早川は確信した。
「このフロアに実態がある悪魔が潜伏しているって事ね」
「さすが先輩、やっぱり分かっていたのか!」
当然の事ながら、結婚の悪魔にそんな意図など無かった。
“永遠の悪魔”に苦しめられるデンジとパワーにほんの少しだけ温情を与えただけ。
毒を摂取して死ねば、無駄に生き続けるより楽になるという意味合いで渡しただけである。
「クッション!」
同時期に執務室でくしゃみをした結婚の悪魔は、既に次の手を打っていた。
悪魔討伐が失敗に終わると予測して追加の部隊を派遣する気満々だったのだ。
別にデンジもパワーも助けるつもりはなかったが、さすがに姫野や早川を死なせる気はなかった。
「まあ、あれだけ持たしておけば、餓死する事は無いだろう」
精神的に追い込まれるのは別として食料は過剰に持たせたから大丈夫だ。
割と楽観視していたマキマと同じ意見だった結婚の悪魔は…。
パワーという魔人の愚かさを嫌というほど味わう羽目になる。