デンレゼが足掻く度に不幸になるケッコンの悪魔さん   作:Nera上等兵

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11話 無限のパワー=大惨事≒ノーベル賞

悪魔が潜むホテルに侵入したのだから罠にかかるのは想定内のはずだった。

しかし、今までの経験や過去の記録でもあり得ない事が起こっていた。

 

 

「時計が8時18分で止まってます」

 

 

早川アキの報告を受けて姫野は確信した。

 

 

「時間が止まっている可能性があるわね、これだと救助隊も気付かないかもしれない」

 

 

最初は、悪魔が作り出した能力で8階のフロアに閉じ込められたと思っていた。

ところが、全ての時計が停止しており、まるで時間が止まった空間に閉じ込められたようである。

…それだけならまだマシだったかもしれない。

 

 

「でも水も電気も使えます」

「それが厄介ね」

 

 

もしも、自分たち以外の全ての物が停止しているなら話は早い。

この空間を閉じ込めた悪魔も動きを停止しているので殺せばいい。

無駄に体力を消耗させてから人間を襲う悪魔の常套手段を逆に利用してやれば良いのだ。

 

 

(要するに自分たちが介入した物だけが動くって事…)

 

 

だが、水も電気も使えるという事は、最悪の答えを導き出す事になる。

 

 

「もしかしたら私たちに関わる物だけが動ける空間かもしれない…」

 

 

言わば、夏休みの自由研究で捕獲された虫が入れられる透明な箱そのものだ。

そこでは、虫を捕らえた主が介入するか、虫自身の行動以外では変わらない世界。

外の世界では巡り巡る景色が変わるというのに死ぬか主が解放するまで出られない空間である。

そんな世界に閉じ込められたと実感した姫野は必死に言葉を選んだつもりだった。

 

 

「…って事は、このまま私たち、死んじゃうんだ…お腹ペコペコで死んじゃうんだ」

 

 

後悔したが既に時遅し、姫野の発言を聴いたコベニが真っ先に心を折られた。

他者に流されやすく大家族故に個々の意志が弱くなりがちの彼女の扱いは大変だ。

 

 

「コ、コベニ!気張れ!まだすぐに死ぬって決まった訳じゃない」

「でも、いつか死んじゃうんですよ!?私たち、死んじゃうんです!!」

 

 

バディである荒井がコベニを励ましているが、彼女の心に届いていないようだ。

交戦する気になれば、公安職員でも上位の実力者なのだが、メンタルが貧弱なのが玉の傷である。

 

 

「ガハハハッハ!なんじゃその面は!!いいぞもっとやれ!!」

 

 

涙と涎を垂らすコベニの姿を見たパワーは、その可笑しさのあまりに噴き出してしまった。

 

 

「お、おい何の真似だ!?」

「人間が怯える姿を見るとな!スカッとするのじゃ!」

 

 

両手で腹を押さえて笑い転がるパワーに荒井は抗議するが、無意味に近い。

極度に悪魔に怯えている彼女の姿は、無関係の悪魔すら悦びをもたらす行為であったのだ。

 

 

「コベニちゃん…悪魔は恐怖が大好物なの。恐がっていたら悪魔の思うつぼだよ」

「でも恐いんですぅ!」

 

 

必死に姫野はコベニを抱き寄せて優しく語りかけるが、何も進展しなかった。

 

 

「コベニ!デンジを見習えよ!こんなピンチの時に堂々と寝てるんだぞ!?」

 

 

やむを得ず荒井は、ベッドで堂々と寝ているデンジを指差してコベニに告げる。

いつ、悪魔が襲撃して来ても可笑しくない状況下で熟睡する彼の姿は滑稽すらあった。

 

 

「いや、それも人としてどうかしてると思うが…」

 

 

話の流れから「デンジを見習え」という場面であるが、アキからすればそれも良くないと思った。

荒井が無理にデンジを褒める前にツッコミをしたアキは、自分の考えを述べる事にした。

 

 

「一度、情報を整理してみます!」

 

 

さっそく全ての部屋を確認したアキは、この場に居る全員にまとめた情報を伝達する。

 

 

「俺たちは、8階で悪魔と遭遇するまで問題無く探索ができていました」

 

 

7階まで問題無く探索で来ていたという事は、そこまでは悪魔の管理下ではないという事だ。

ホテルに突入した直後に催眠で眠らされていない限り、現実であったと示している。

 

 

「そして8階で悪魔と遭遇して交戦した」

「なんじゃ?悪魔を倒したせいでこうなったと言う気か?」

 

 

更に8階で悪魔を討伐した事実を告げると、不機嫌になったパワーが口を挟む。

空間に閉じ込めた状態で悪魔を自分が殺したせいで元に戻っていないと危惧したのだ。

 

 

「悪魔を殺せば空間が元に戻るはずだから、むしろ死んでないんじゃないかな」

「はあ?ワシは確かに雑魚を殺したのじゃ!ウヌの目は節穴か!?」

 

 

自分のせいで閉じ込められたと言われたくなかったが、姫野の発言で違うと気付いた。

その影響か、今度は自分が正しいというパワーは、姫野の発言を否定する!

 

 

「あっ、右目は節穴だったか。すまんすまん!」

 

 

デンジと同じく義務教育を受けていないはずだが、頭の回転は意外と早い。

すぐに喧嘩が売れそうな事実を見つけたパワーは眼帯を付けている姫野を馬鹿にした。

 

 

「今度余計なことを言うと野菜をぶち込んで口を縫い合わすぞ」

 

 

当然の事ながらバディを馬鹿にされて激怒した早川の発言によってパワーは無理やり黙らされた。

野菜をポイ捨てしたら、剥いた皮を口の中にぶち込まれたトラウマはまだ残っていたようだ。

 

 

「コホン、失礼しました。話を戻します」

 

 

姫野先輩の前で叱責してしまい、恥ずかしさのあまりに咳払いをしたアキは、更に話を続ける。

 

 

「それから8階のフロアから出られなくなりました。まるで鏡の中にいるように…」

 

 

悪魔を討伐してから9階に登ろうとした時、衝撃的な事実が発覚した。

どうやっても8階から脱出できずに閉じ込められたという異常事態。

本来であれば、なにかしらの弱点があるはずなのに未だにそれを発見できていなかった。

 

 

「一応、宿泊客が残したと思われる荷物を発見しましたので、ここは仮想空間ではないでしょう」

 

 

このホテルの従業員や宿泊客の何名かは既に避難できており、通報自体はできていた。

現時点で何人がこのホテルに取り残されているかは不明であるが、救いはある。

すなわち、どこか抜け道があると推測はできるのだ。

 

 

「ですが、取り残されている生存者は未だに発見できておりません」

 

 

しかし、閉じ込められたフロアも含めて生存者自体の痕跡は発見できていない。

取り残された民間人や先に到着した民間のデビルハンターの生存は絶望的である。

 

 

「姫野先輩、ここまでの情報で思いつく悪魔って何か思いつきますか?」

 

 

基本的に悪魔というのは、自分の名に関する能力や技能を持ち合わせている。

ただ、ヒントがあっても悪魔の正体を未だに掴めないアキは姫野先輩に質問をした。

 

 

「うーん、おそらく“概念系”だと思うんだけど…」

 

 

この世に出現する悪魔の特徴を大きく分類すると、5種類に分ける事ができる。

“生物系”、“物質系”、“道具系”、“法則系”、“概念系”…どれも厄介な悪魔ではある。

今回のケースだと、時間停止やループが関係するので“概念系”か“法則系”に絞られる。

今回は、通常の法則でこの空間が作られたと思えないので“概念系の悪魔”だと姫野は推測した。

 

 

「概念系…というとループとか時間停止の悪魔なんでしょうか?」

「そうだと思うんだけど…」

 

 

それぞれの系列の悪魔には、致命的な弱点が存在する。

例えば、コウモリやヒルといった“生物系”の悪魔は捕食しないと現世を生きられない弱点がある。

今回の場合は、空間を弄っている悪魔さえ殺せば、元の世界に帰れるはずだった。

 

 

「アキ君、肉片の反応は?」

「それが全く反応していません」

 

 

ところが、どこにその悪魔が潜んでいるのか分からない。

もしも、透明な水槽に囚われており、水槽の外に悪魔が居たとしたら完全に詰んでしまう。

 

 

「さっき倒した悪魔って見つけた?」

「いいえ、討伐した際に飛び散った血以外は発見できませんでした」

 

 

肉体を破壊する事で8階のフロアに閉じ込めたとでもいうのか。

死骸の痕跡が消えており、更なる謎を生む事となった。

 

 

「ウヌらは馬鹿じゃな」

 

 

色々と早川と姫野が悩んでいると、ベッドで横になっていたパワーが口を開く。

あまりにも偉そうな口調だったので打開策があるのかと2人は期待した。

 

 

「悪魔はな、人間どもが必死に足掻いて苦しんでいるのを見るのが大好きなのじゃ!」

「…そうだな」

 

 

悪魔に正論を言われてしまってはアキも反論できない。

 

 

「だから人間が手を出せない場所で見下してるのじゃ」

「…というと?」

 

 

ただ、パワーには悪魔の居場所に心当たりがあるようだ。

 

 

「ついて来い、ワシが手本を見せてやる」

 

 

そう言われてしまっては、従うしかない。

アキと姫野は頷いて小言でコベニと荒井に指示をした。

そして男2人で爆睡しているデンジを運びながらパワーの後に続いた。

 

 

「ここじゃ」

 

 

パワーが指差したのは、当時は安全とされて信頼があった日本製のシンドラーエレベータだ。

外観上は特に問題なさそうだったが、何故かスイッチを押しても反応しない。

もしも、これが悪魔の仕業じゃなければ、後年で死亡事故が起きなかったかもしれない。

それはともかく、人力で開くのは不可能であったので詳細の調査を諦めた場所であった。

 

 

「確かに中を見てないが……同じくループしてるんじゃないのか?」

「甘い、甘すぎる。これだから人間という奴は」

 

 

アキの報告を聴いてパワーは鼻で笑う。

鼻にかけた発言は、今すぐにでも顔面を殴ってくださいと言っているような感じすらあった。

 

 

「見ておれ」

 

 

まるでゼリー飲料パックを飲むように輸血パックを飲み干したパワーは唇を腕で拭く。

真っ赤に汚れたシャツからは、彼女が人外だと改めて示すようであった。

実際、血を司る血の魔人は、血を取り込む事でパワーアップできるとアピールしている。

 

 

「ふん!」

 

 

そしてエレベータの扉同士が接着している箇所に両手で無理やりこじ開けた。

あっさりと開くドアを見て半信半疑だった早川アキですら素直に驚くほどである。

自分を甘く見ている人間共に振り向いてパワーはニヤリと笑った。

 

 

「いいか、悪魔は人間が手を出せない場所で見下すのが大好きなのじゃ!」

 

 

悲惨なデスゲームが繰り広げられている映像を見て楽しむ黒幕そのもの。

勧善懲悪とは別物であるが、社会競争で生き抜く人類も似た様な感情を抱く事がある。

それは、親のスネかじりで30年以上の引き籠りが人知れず破滅するのを見る快感に似ている。

自分より劣る存在を安全に見下せるという愉悦は、大半の人間に備わっているものだ。

 

 

「だからな!ワシが…」

 

 

人間を見下しているパワーは慢心し過ぎた。

文字通り足元と後ろがお留守だった彼女は、調子に乗って後ろに向かって飛び跳ねる。

 

 

「あ」

 

 

そのままシャフトと呼ばれる縦に長い空間に落ちて行った。

 

 

「うわああああああああああああ!!?」

 

 

重力加速度に基づいて落下する時間が長くなるほどパワーは落下速度を増していく。

しかし、永遠にループする環境なのでスロットマシンで回転するリールみたいに見えた。

 

 

「ボタンを押すと変わるのかしら?」

 

 

面白がった姫野は、エレベーターの手前に設置されている上下ボタンを何度も連打する。

連打したところでパワーの落下が変わるはずも無く。

 

 

(なんでワシがこんな目に!?)

 

 

パワーは心の中で嘆く。

誰も助けてくれずにシャフトの中で永遠に落下を続けるのだ。

理不尽な目に遭う理由が自分のせいとは知らずに他責思考になった彼女に救いは無い。

脱出したいと思ったのに何もできないせいで、そのうち、パワーは考えるのをやめた。

 

 

「あ、あの…気付いちゃいました」

 

 

このまま放置してもパワーが苦しむだけで済む。

そのせいで当事者以外は他人事だったのだが…。

怯えているコベニの発言で事態が一変する事となる。

 

 

「このまま魔人さんが落下し続けると光速より速くなるんじゃないですか!?」

 

 

コベニは優秀な兄を大学に行かせる為に親からデビルハンターか風俗の道を選ばされた。

なので、彼女自身はそこまで頭は良くなかったが、高校で習った物理の法則を覚えていた。

 

自由落下は、等加速度直線運動*1をしており、等加速度直線運動の方式は以下の通り。

 

速度=初速度+加速度×時間 (V=Vo+at)

 

自由落下は、初速度と加速度を重力加速度で代入できるので速度を導き出す式が簡略化できる。

 

落下速度=重力加速度×時間 (V=gt)

 

要するにパワーが落下し続ける時間が長くなるほど彼女の落ちる速度が速くなるのだ。

1秒なら約35km/h、10秒落ちれば約352km/h、なんと35秒落ち続ければ音速すら超える。

いずれパワーが光速を越えてタイムスリップしたり衝撃で宇宙を破壊するパワーになりかねない。

こんな狭い空間でそれが発生すれば、自分たちは跡形も無く消し飛ぶとコベニは危惧したのだ。

 

 

(え?)

 

 

義務教育を受けていないデンジやパワーと違って義務教育を受けていた早川アキも驚愕する。

銃の悪魔に家族を殺された彼は、勉強して進学する事よりもデビルハンターの道を選んだ。

そのせいでコベニの発言を聴いて本気で真に受けてしまう。

義務教育を受けただけでは問題がある現実を彼自身が証明してしまっていた。

 

 

「大丈夫よ、ループすること以外は物理法則は正常だからそうならないわ」

「え?」

 

 

アキすらビビった事態に「待った」をかけたのは姫野である。

それなりに頭が良い彼女は知っている。

 

 

「スカイダイビングって聞いた事ある?」

「…あります」

「上空から飛び降りて音速を越えると思う?」

 

 

だから分かりやすく説明する為にスカイダイビングで例えた。

スカイダイビングとは、パラシュートを身に着けて飛行機から飛び降りる行為である。

それで音速を越えて落下するのかとコベニに尋ねた。

 

 

「超えるんじゃないですか?」

「戦闘機のパイロットじゃないのよ、音速を越えたら普通なら意識がなくなっちゃうわ」

「え?」

 

 

実は、高校の物理は、基礎中の基礎しか教えていない。

算数で例えるなら、足し算や引き算といった四則計算みたいなものである。

あくまでも特定の条件下を想定して計算する能力を鍛える科目なのだ。

 

 

「空気抵抗があってね。速度と空気抵抗が釣り合うと落下速度が増えなくなるのよ」

「…どういう事ですか!?」

「分かりやすく言うと、パワーちゃんはどう足掻いても音より速く落下しないって事!」

 

 

実際の自由落下には、空気抵抗があり、速度が増す度に抵抗が増えていくのだ。

空気抵抗は、速度の2乗をするのが一般的とされる。

なので60km/hで落下するパワーが120km/hになると4倍の空気抵抗を受ける。

しかし、血の魔人であるパワーの質量や重力は変わらないのでどこかで限界がある。

 

 

「どれくらいの速度なんですか?」

「時速200kmって聞いたから…音の1/6くらいよ。だから今でもパワーちゃんの姿が見えるの」

 

 

ただでさえ胸パッドを付けていたり、角があったり、Yシャツがズボンから出ている彼女の事だ。

常人より空気抵抗が大きいので体積力と速度に釣り合った抵抗力が一定になりやすい。

よって、デンジが同じ様に落下するよりは、落下速度の限界に早く達した事だろう。

 

 

「いーいーかーらーたーすーけーるーのーじゃー」

 

 

いつまでも落下するパワーが助けを求めるが、一同は無視をした。

デンジに至っては、よっぽど眠かったのか未だに寝ている。

 

 

「ちなみにこんな感じに速度が一定になって速くならない状態を“終端速度”って言うの」

 

 

ここぞとばかりに姫野は、豆知識をみんなに伝授するが、誰も話を聴いていなかった。

早川アキですらスルーしたので、落下するパワーが無害と知った瞬間、興味が失ったのだろう。

 

 

「ちょっと!せっかく真面目に教えてあげたのにその態度は無いじゃない!?」

 

 

余談であるが、質量が大きければ空気抵抗の上限も増えるので終端速度も増しやすい。

光の速度に近づく為には、無限の質量と推進するエネルギーが必要となる。

結論:パワーは光速で動く事はできない。

Q.E.D.

 

 

「おいいいい!いつまでワシを無視する気じゃ!」

 

 

姫野の堪忍袋の緒が切れる前にエレベータから飛び出してきたパワーが抗議する。

 

 

「人間たちよ…」

 

 

その時、何も変わらないはずの8階のフロアで更なる変化が見られた。

8階のフロアに閉じ込めてからちょうど8時間が経過していた。

その為、頃合いだと判断して全ての元凶である悪魔が人間たちの前に出現した。

 

 

「私は契約を交渉する」

 

 

ホテルの空間に干渉している悪魔は、閉じ込められた人間たちに交渉を呼びかけた。

 

 

「うるさいのじゃ!!さっさと失せろ!!」

「今それどころじゃないの!!」

 

 

ところが、姫野とパワーはそれどころじゃなかった。

せっかく悪魔が出現したというのに罵倒した後、仲間と向き合う。

 

 

「えぇ…」

 

 

閉じ込められた人間の恐怖で力を増す“永遠の悪魔”は困惑した。

何故か目の前に居る悪魔よりも、仲間を罵倒する方が優先になっているせいだ。

いろんな人間を見てきたが、ここまでアホそうな連中は生まれて初めてだった。

 

 

「良い?アキ君!荒井君!コベニちゃん!私はね!あなたたちの事を想って!」

「そんなちっぽけな事よりワシを心配しろ!」

「ちっぽけじゃない!!」

「ちっぽけじゃ!!」

 

 

何故か男女3人が床に座らされてお説教タイムが始まった。

女魔人と眼帯女が叫びあう中、目当ての金髪少年は無防備で寝ている。

 

 

「おい人間、人間共!人間共!!」

 

 

何度呼びかけても永遠の悪魔は無視されてしまった。

それどころか口論は激しくなるばかりで永遠の悪魔は蚊帳の外に置かれている。

 

 

「なら心臓をもらうぞ!!」

 

 

目的の人物が無防備で寝ており、仲間の連中は自分を無視している。

この機会を逃すまじと、悪魔は爆睡している少年に近づき始めた。

だが、動くのが遅すぎた。

 

 

「うっせっなあああ!!」

 

 

あまりの騒動にさすがのデンジも目を覚ます。

底辺時代でも寝る事だけは欠かさなかった彼は安眠を妨害されてご立腹だ!

 

 

「んん?」

 

 

とりあえず文句の一言を言おうとしたデンジの視線の先に悪魔っぽい何かが居る。

スライムみたいな生物が部屋の一室から飛び出して廊下に出現していた。

 

 

「とんだなんとかの夏のアレってやつか!」

 

 

目覚めたばかりのデンジの思考は、以下の通りだ。

 

・うるさいからとにかく暴力でみんなを黙らせたい

・でも、そうすると自分が敵対したと判断される

・だったら悪魔を八つ当たりでぶち殺せば良い

・ちょうど目の前に悪魔がいるじゃん

・殺す!

 

 

「ヒャッハー!!悪魔だ!!」

 

 

まるで世紀末世界で水源を見つけたモヒカン野郎みたいな歓声をあげるデンジ!

すぐさまスターターロープを引いて爆音と共に額と腕からチェンソーを出現させる!

 

 

「死ね死ね死ね!俺の為に死ねええええええ!!」

「ええっ!?」

 

 

死ね死ね団のテーマを歌うが如く、デンジは永遠の悪魔を切りつける。

さきほどの流れで戦闘になると思っていなかった悪魔は見事に奇襲を喰らう羽目になった。

 

 

「無駄だ!!」「これは私の本体」「じゃない!」

 

 

デンジの攻撃を受けた悪魔は更に図体を大きくする。

その際に生まれた複数の顔が人間に向かって攻撃は無意味だと呼びかけた。

 

 

「ここに」「心臓は無い」「お前たちは」「一生出れない」

 

 

永遠の悪魔は、人間たちに逃げ場も希望もないと告げる。

何度も何度も無意味だと告げる。

 

 

「ここは胃の中だ」「私と契約すれば」「外の世界に」「返してやろう」

 

 

20個の顔を出現させた悪魔は、人間に契約を呼びかける。

ここを出る手段は、自分と契約する以外に脱出する方法がないと告げる為に…。

 

 

「おおっ!?血じゃ!!血が噴き出しておる!!」

 

 

ここで誤算だったのは、輸血パックのせいでパワーアップしているパワーである。

本来の彼女は、自分より格上の存在と遭遇すると逃げる癖があった。

しかし、血を取り込んで調子に乗っている彼女は、すぐさま自身の血で武器を精製した!

 

 

「うおおおおおおお!!」

 

 

20本の血槍を作った彼女は、敵対する悪魔に向かって投げつける。

槍が刺さる度に流血するが、その度に悪魔の肉体が大きくなっていた。

 

 

「無駄だと言っている」「馬鹿だ馬鹿だ!」「慄くが良い!!」

 

 

自分は無敵だと何度も叫ぶ永遠の悪魔だったが…。

 

 

「血のバイキングじゃあああああ!」

「おいいいいい」「喰うなああ!」「食べるな!!」「啜るな!!」

 

 

流血を見て興奮したパワーは、肥大化する血肉を食べ始めた。

すぐさま悪魔は反撃しようとするが、デンジも負けてはいられない。

 

 

「お前をぶっ殺してキスをもらうううんんだあああああ!!」

「何の話!?」「こわ!?」「ガイジかな!?」「ひええええ」

 

 

姫野先輩からのめちゃくちゃ嬉しいキスを貰えることを知ったデンジに隙は無い。

肉体を捕食するパワーに嫌がる悪魔の姿を見て実体そのものはあると判断。

肉塊を片っ端から切り裂いてパワーと自分に返り血を与えた。

 

 

「私は無敵だ」「何故話をきかない」「契約すれば」

「うっせぇよ!!さっさと死ね!!」

「もっと血を飲ませろ!!肉を食わせろ!!」

「ええ~!?」

 

 

永遠の悪魔は自身への攻撃は無意味な行為だと連呼するが、2人は止まらない。

仕方なく更に肉体を肥大化しようとした悪魔だったが…。

 

 

「なんか押し負けてない?」

「所詮、コケ脅しだったんでしょう」

 

 

その様子を傍観していた姫野と早川は、悪魔がデンジたちに圧されていると判断した。

そのせいで恐怖が弱まったと悪魔が無意識に判断してしまい、弱体化に繋がった。

肉体を更に増やすつもりが、どんどん小さくなってしまったのだ。

 

 

「コベニちゃん、お菓子食べる?…あれ?なんでもう持ってるんだ?」

「デンジ君の袋から拝借しました」

 

 

コベニに至っては、デンジが持参してきた携行食を勝手に食べていた。

さすがに荒井も何か言おうとしたが…。

 

 

「チョコレート食べますか?」

「……そうだな、1個もらうぞ」

 

 

悪魔に恐怖するほど敵対する悪魔の力が増すのだ。

だったらピクニック感覚で悪魔と悪魔との闘いを傍観すれば気が楽になる。

 

 

(コベニも落ち着いたし、このままでいいか)

 

 

ましてや、閉じ込められた恐怖で強くなっていそうな悪魔には、効果抜群のはずだ。

コベニからもらったチョコを舐めた荒井は、目の前で起こっている殺戮現場を眺め始めた。

 

 

「私と契約すれば」「お前らは外に出してやる」「デンジの心臓を」「私に寄こせ!」

 

 

それでも永遠の悪魔は、契約内容を告げる。

デンジの心臓を自分に渡せば、外の世界に帰してやると!

悪魔の契約は絶対であり、どちらかが守れない場合は死に至るほどの拘束力がある。

 

 

「俺のハートは好きな人のものだああああ!!」

「お前の心臓を寄こすのじゃ!今なら殺すだけで済ませてやる!!」

 

 

なお、傍観を決め込んだデビルハンターたちに効果がなかった。

それどころか、デンジとパワーは更に調子に乗り出した。

 

 

「こいつを拷問して命乞いをさせるのは、どっちが先か競おうぜえええ!!」

「乗った!!血の悪魔として負けられない戦いじゃああああ!!」

 

 

痛がっている素振りを見せた挙句に弱体化した瞬間を見せてしまったのが運の尽き。

 

 

「なんか食べるとパワーアップするうう!!」

「そうじゃろおお!!ノーベル賞ものじゃ!!ワシを讃えろおおお!!」

 

 

悪魔の肉体に噛みついたデンジはなんかパワーアップした感じがした。

それを言葉に出すとパワーは肯定する。

 

 

「うおおおおお!!ここでレベリングして銃の悪魔を瞬殺してやるう!!」

「ワシの方がレベリングが得意って言ったじゃろううがああああ!!」

 

 

なのでサンドバック状態になった永遠の悪魔をデンジとパワーがひたすらに虐める!

相手が反撃できない糞雑魚ナメクジなら話が早い。

拷問するついでに自分の能力がどこまでパワーアップするかテストする事になった。

 

 

「ふ、ふざけるな!」「話が違うぞ!」「どういう事だ!?」

 

 

地味に失言している永遠の悪魔であったが、誰もそれに気づかなかった。

なにせ永遠の悪魔に攻撃を仕掛ける二人以外は、寝室に戻ったのだから。

一応、ドアの前に立っている2名で廊下の前後を見張っているが、それだけだった。

 

 

「ずるいぞ!」「おかしい!」「そこは共闘しろ」「仲間を見捨てるのか」

 

 

永遠の悪魔に攻撃を仕掛けても無意味だと思わせる。

それがこの悪魔の狙いだったのだが、交代制で休息されると話が変わる。

必死に彼らに呼びかけるが、逆効果となった。

 

 

「なんか言ってない?」

「悪魔の言葉に耳を貸さないでくださいよ…」

 

 

見張り役の姫野と荒井が軽く雑談しながら見張りを続行する。

その間にコベニは布団の上でゴロゴロしており、アキは筋トレを開始した。

 

 

「おのれ!」「私は死なない」「いずれ分かる」「永遠の怖さを」

 

 

永遠の悪魔はそれでも自分が勝つと確信している。

自分の心臓が8階のフロアにないので…いくら攻撃されても無敵なのだから。

しかし、悪魔の力の根源であったコベニの恐怖心が激減した為、更に弱体化する羽目になる。

 

 

「ほーん?」

「なるほど」

 

 

デンジとパワーの前で虚勢を張るのは逆効果となった。

 

 

「じゃあ!!拷問し放題じゃーん!!これでノーベル賞は俺のもんだァ!!」

「ガハハハハハ!!地獄で恐れられた血の悪魔の怖さを存分に教えてやるぅ!」

 

 

悪魔より悪魔らしいデンジの思考と血に飢えたパワーは名コンビであった。

本来ならば、誰かが止めるのだが、ここでは止める者など居なかった。

今までの鬱憤を晴らすべく2人は狂気染みた殺戮を続けて悪魔は泣き叫ぶ羽目になった。

 

 

*1
一直線上を運動し、加速度が一定である運動。ここでは重力のみを想定する

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