デンレゼが足掻く度に不幸になるケッコンの悪魔さん   作:Nera上等兵

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12話 永遠の悪魔サヨナラバイバイ、俺はみんなと外に出る

肉塊の悪魔を拷問してからどれだけ時間が経ったか分からない。

時計は全て止まっており、外の世界も見る事は叶わない。

幸いにも、今回は時間を目視できる手段が存在している。

 

 

「1滴ずつ垂らしたつもりだったけど…かなり溜まったね」

「えぇ、少なくとも2日は経過してますね」

 

 

浴槽に溜まった水を見て姫野は溜息をつく。

傍に居たアキもその水量から数日が経過したと判断した。

 

 

「いつになったら出れるんだろう…」

 

 

最初こそすぐにでも悪魔は音を上げると思っていた。

だから楽観視していたのだが、いつまで経っても閉じ込められたままだ。

 

 

「そろそろ限界ですよ…」

「そうだね、どちらかというと空腹より水が飲めないのが辛いね…」

 

 

どの時代でも兵糧攻めというものは辛いものだ。

特に水に関しては常に摂取しなければ、自然と出て行ってしまう。

 

 

「い、いつになったら…帰れるんでしょう…か!?」

 

 

布団を被って小刻みに震えるコベニの声から室内から聴こえてくる。

それを断言できるには根拠が無さ過ぎた。

 

 

「おりゃああああ!!まだ死なぬか!!」

「あ、悪魔はいいな…俺はもう……」

 

 

廊下では相変わらずパワーが暴れているが、空腹に負けている荒井は弱音を吐いている。

代わり映えしない光景というものは人間の精神を病む。

凶悪犯であろうが、薬物中毒者であろうが、独房に1週間放置するだけで発狂する。

それほどまでに【何も変わらない】という光景は、人間にとって弱点になりえる。

 

 

「姫野先輩、悪魔が言っていた事、覚えています?」

「デンジを悪魔に喰わせる契約って奴?」

「はい、デンジを喰わせたら他のデビルハンターは外に戻してくれるという契約です」

 

 

エレベータ騒動で気が散っていたが、あれから悪魔は何度も連呼していた。

「デンジを喰わせる代わりにそれ以外を外の世界に帰す契約を結んでやる」…と。

 

 

「アキ君はやる気なの?」

「明らかにおかしな契約です、デンジの死が悪魔の得になるならやりませんよ」

 

 

よく考えてみれば、おかしな話である。

何故かデンジのみを指名している。

コウモリの悪魔の例であれば、どちらかという食べやすい女を狙うはずである。

つまり、デンジの死によって悪魔にとって利点があるという事になる。

 

 

「あー眠い……」

 

 

廊下で寝転んでいるデンジはやる気がない。

いくら交代で休んでいたとしても変わらない光景に飽きてしまったのだ。

 

 

「せめて食料さえあれば……」

 

 

姫野は後悔している。

虚言癖で自分勝手な魔人を残して食料を部屋に放置した事に…。

見事にパワーに全部喰われてしまったせいで空腹で思考が乱れていた。

 

 

「ねえ、アキ君なら外に出る作戦ってあるの?」

「どうしようもなくなったら刀を使います」

 

 

一応、奥の手が残っている。

しかし、それを使えば、必ず寿命が削られてしまう。

 

 

「それはダメ」

 

 

アキの提案に姫野は拒絶する。

彼女としては、デンジを殺してでも使わせる気はなかった。

 

 

「姫野先輩…」

「どうしたの?」

 

 

その時、コベニが包丁を構えてやってきた。

嫌な予感はしたものの姫野はあえて触れなかった。

 

 

「デンジを殺して悪魔に渡しませんか?」

 

 

ついにこの時がやってきてしまった。

悪魔と契約を結んでこの世界から脱出しようとコベニが告げた。

 

 

(確かに悪魔は約束を守る…だから状況を打開するには…)

 

 

悪魔が使う契約は、別の悪魔ですら捻じ曲げられない強い力を発揮する。

契約を片方が守れば、もう片方も絶対に守らなければならない。

守れずに破った方は必ず死ぬのだ。

 

 

(デンジ君を悪魔に差し出すしか…)

 

 

デンジを差し出せば、元の世界に帰す契約をすると悪魔は告げている。

もしも、悪魔側が契約を反故すれば、どんなに無敵な悪魔でも死に至るのだ。

だから起死回生の一手として、デンジを差し出すのは悪くない。

 

 

「デンジ君、私の為に死んで!!」

「待ちなさい!」

 

 

だが、いきなり攻撃するのは悪手である。

同士討ちになりかねない事態に姫野は慌ててコベニの後を追う。

 

 

「うおおっ!?」

 

 

さすがに味方が刃物を持って襲撃して来るとはデンジも想定してなかった。

コベニから逃げようと後退りしたものの廊下の壁にぶつかる。

このままでは迫りくる刃物を回避する事はできないだろう。

 

 

「ぐっ!!」

 

 

身を挺してデンジを守ったのは、早川アキであった。

完全に振り下ろす体勢だったので下手に動かすと状況が悪化すると判断!

左手を突き出して刃を受け止める事となった。

 

 

「ア、アキ君!?」

「大丈夫です、先輩からもらった止血帯があります。それに…ここで死ぬ気はありません」

 

 

早川アキがなんでこんな奴を庇ったのか自分でも理解できていない。

 

 

「確かにこいつは刺されてもおかしくない胸糞悪い奴ですが、銃の悪魔を殺そうとしている」

 

 

それでも理由はある。

銃の悪魔を殺そうとする同志はいくらでもいる。

デンジもその1人に過ぎなかった。

 

 

「俺一人じゃ銃の悪魔を殺せないんだ……奴を殺すには…立ち向かう気概があるデビルハンターが1人でも多く欲しいんです。例え礼儀知らずのガキでも魔人でも悪魔の手を借りてでも…」

 

 

早川アキと最初にバディを組んだ奴は、同じく銃の悪魔の討伐する事を夢見ていた。

だが、あっさりと彼は死んだ。

死因は、カニの悪魔の装甲に歯が立たずにあっさりと首を切られてしまったから。

それからというもの、アキとバディを組む奴は役立たずだった。

 

 

「俺の寿命を減らしてでも…デンジは殺させません」

 

 

だから心を鬼にして配属された新人を悉く暴力で追い払った。

しかし、デンジはそれに耐え抜いたどころか自分を出し抜く力を持っていた。

彼の気転と行動力を認めていたアキは、デンジを殺させる気はなかった。

 

 

「わ、私のせいじゃない!あなたの…アナタのせいなんですよ!大人しく喰われないから!」

 

 

ゴーストの右腕で拘束されたコベニは涙目でデンジを罵倒する。

 

 

「アナタが生きていなければ、何も問題無かったの!」

 

 

コベニの放った一言がデンジの心を突き刺した。

借金返済の為に生きてきた彼は、時折何の為に生きているのか分からなくなった。

友達のポチタの為?ハンバーガーを食べる為?女とイチャイチャする為?

 

 

「ふーん」

 

 

社会の底辺の中でも最底辺だと最近知ったデンジに手を差し伸べる奴は居なかった。

全てが自己責任で、失敗すれば死ぬという現実に彼は生き続けた。

 

 

「あ~~ハイハイ!じゃあ、喰われてやらぁ!」

 

 

自暴自棄のように発言したデンジの様子を見てコベニは安堵する。

 

 

「正気かお前!?」

 

 

身を挺してデンジを守ったアキは思わず彼に呼び掛けたが…。

 

 

「当然、俺も抵抗すっからよおー」

「ほう、なんじゃ戦うのか」

 

 

デンジは最期の時を迎えるまで戦う気であった。

どうせ、ゾンビの大群に襲われた時点で死んでいたはずの命である。

パワーの発言を聴いてデンジは頷いた。

 

 

「もし、俺が悪魔を倒しちまったらさ、チューしてくれよ…まだ忘れてないからな」

 

 

姫野先輩にチューの約束を忘れていないと言い残してデンジは悪魔へと向かっていく。

 

 

「勝つ算段はあるのか?」

 

 

デンジの背後からパワーが呼びかけると…。

 

 

「こいつってチェンソーを恐れているみてぇだ!そうじゃなかったら自分の手で殺すからな」

 

 

どの悪魔も人間を殺せるならすぐに殺す。

ゾンビの悪魔といい、筋肉の悪魔といい、自分で殺せるならすぐに殺しにかかるのだ。

それができないのは理由があるからだ。

 

 

「それにこいつを拷問してた時、痛いって言ってやがったんだ!」

 

 

デンジとパワーは目の前に居る悪魔を拷問させて命乞いさせる競技を行なっていた。

しかし、休憩や交代のせいでいつからか、攻撃を仕掛けるだけに終わっていたのだ。

そのせいですっかり忘れていたが、ようやく思い出した。

痛がっていたから拷問をしていたという事に…。

 

 

「だったらよ~アイツが死にたくなるほど痛めつけて自殺させりゃあいい」

 

 

永遠に苦しむなら死んだ方が良い。

ヤクザのデビルハンターとして活動していたデンジの脳裏に浮かんでいた経験である。

 

 

「なるほど、ワシも手伝うか?」

 

 

1人で戦うより2人で戦った方が早く終わる。

そう思ったパワーは共闘を提案するが…。

 

 

「はぁ?何言ってんだ。貸しなんかコリゴリだ!」

 

 

嫌われ者には慣れているデンジは、パワーに貸しを作る気はなかった。

借金のせいで散々な目に遭った彼は、借りを作るのは懲りている。

それどころか何のメリットも無いのに自分を庇ってくれた黒髪の先輩を見る。

 

 

「テメェ、俺を庇いやがって…余計な事するんじゃねぇよ」

 

 

誰かに庇われるのは初めてであったデンジは照れ隠しで目をそらしてしまう。

それでも、自分を庇ってくれた先輩に彼なりの感謝の言葉を告げる。

 

 

「外出れたら、貸し借りなしだからな」

 

 

スターターロープを引っ張ったデンジは、額と両腕が弾けてチェンソーが生える。

エンジン音と共に動き出したチェンソーは、床に落ちていた懐中電灯を切り裂いた!

 

 

「斬っても殴っても千切っても死なねぇなら……毒でも死なねぇよなァ!!」

 

 

デンジのせいでマジで死にかけた結婚の悪魔は、彼とパワーを死地に送った。

その際に少しでも苦しむように多くの携行食と悪魔にも通じる毒を渡した。

そうとも知らずにもらった毒で勝負をするつもりだ。

 

 

「チェンソー!」「まだ懲りぬのか!」「無敵だと言っているはずだ」

 

 

少しずつ強化されている永遠の悪魔は、チェンソー男を罵倒する。

しかし、デンジには勝機があった。

 

 

「確かによ!!24時間365日も攻撃できるかって言われたらできねぇけどよ!!」

 

 

中身は人間である以上、いつかは限界が来てしまう。

 

 

「毒ならどうだ!?」

 

 

(シキミ)の毒は幽霊や魔人にも効くらしい。

なら痛覚が残っているこいつに使用するとどうなるか。

 

 

「うぎゃああああ!!」「いだあいいい」「なにこれ!?なにこれ!?」「いやああああ!!」

 

 

想像以上に効果抜群だった。

 

 

「ヒャハハハハ!!テメ~のそん苦しい顔、最高だぜぇ~!!」

 

 

めちゃくちゃ苦しみ始めた永遠の悪魔を見てデンジは歓喜した。

まるで悪魔のように笑いながら肉塊を切り裂いて血肉を捕食し始めた。

 

 

「まじいいいいいいいい!!てか!!いでぇえええええええええ!!」

 

 

残念ながら、ただでさえ不味い血肉が毒で汚染されたのだ。

幸いにも、すぐに吐き出したおかげでデンジは死ぬことは無かった。

怒りが更に爆発したデンジは更なる行動をする!

 

 

「ふざけんなぁあああああ!!もっと!毒を喰らいやがれえええ!」

「やめでええええ」「ゆるしてえええ」「勘弁してええええ」

 

 

(シキミ)の果実1個で大騒ぎする悪魔に20個の果実をぶち込んでやった。

すると肉塊が次々と爆散し、デンジの肉体を返り血で汚していく。

 

 

「許してください」「私の急所です」「私の心臓です」「早く殺してください」

 

 

意外とあっさりと永遠の悪魔は自分の心臓をチェンソーマンに捧げた。

これはもちろん、パワーを即死させてやるという結婚の悪魔の計らいであった。

まさかこんな風に使用するとは思っていなかったが…。

 

 

「ああん!?聴こえねぇなァ!?」

「許してください」「なんでもしますから」「殺してください」「痛いの嫌だ!!」

「聴こえんなァ!!」

 

 

なお、激怒したデンジは悪魔の自殺願望を無視して攻撃を行ない続けた。

 

 

「ころしてください」

「まだだ!!まだ殺さねぇ!!」

 

 

2時間が経過してもデンジは肉塊に攻撃を仕掛ける!

 

 

「おねがいします」

「もっとぉ楽しもうぜェ~~!!嫌われ者同士!!永遠に仲良くしようなあああああ!!」

 

 

心臓以外に肉塊がほとんど残って居なくてもデンジは攻撃の手を緩めない。

 

 

「ころして…ころして…」「すみませんでした」「生まれてすみませんでした」

 

 

12時間が経過しても、デンジは肉塊に攻撃を仕掛けまくる!

毒のせいで心臓以外の肉塊が無くなっても関係なかった。

少しでも痛みが長引くように職人芸と呼べるほどの掠り傷を増やしていった。

 

 

「ゆるしてくださいなんでもしますから」

「なんでもするって言ったな!!もっと遊ぼうぜェ~!!」

「いやあああああ!!」

 

 

18時間前から永遠の悪魔は、自分の急所である心臓をチェンソーマンに捧げている。

それなのにデンジは、悪魔の心臓を破壊しない程度に切り裂いて傷を増やし続けた。

無駄に再生能力があるせいで癒える暇も無く苦しみが永遠と続く。

 

 

「なんか喋れよ!!」

 

 

ついに永遠の悪魔は激痛のあまり、ミジンコ未満の思考の力に陥った。

痙攣するしか能がない状態になり、さすがのデンジも抗議する!

 

 

「虐めたい放題の永遠機関が完成したと思ったのによぉ!!」

 

 

鼓動以外の反応を示さなくなった永遠の悪魔の心臓は、ついに死を迎える時がやってきた。

 

 

「プール入っているみてえで気持ち良かったのによお!!」

 

 

デンジと永遠の悪魔が一騎打ちを開始してちょうど24時間が経過した頃!

永遠の悪魔と名乗りながら永遠の苦しみから逃げ出した敗北者はついに終わりを迎える。

精神的に追い詰めて弄ぶ悪魔は、皮肉にも精神が病んで発狂を越えた先で殺される事になった。

 

 

「つまんねぇな!」

 

 

永遠の悪魔が死んだ事で無限ループする空間は解除された。

これで更に調査する事も撤退する事も可能になった。

 

 

「終わった…の?」

 

 

最初こそはデンジの奮闘に感激していた姫野だったが、22時間も経過すれば疲弊する。

早川アキと一緒にベッドで寝ていた彼女は、デンジの叫び声で目が覚めた。

 

 

「なんじゃ大した事なかったのう」

 

 

パンツの中に隠してあったクッキーを食べるパワーは他人事で呟く。

荒井ヒロカズと東山コベニに至っては、お互いに寄り添って喋る気力も無かった。

 

 

「終わったぞ!!俺んの勝ちだあああああ!!」

 

 

デンジの叫び声だけが悪魔との闘いに勝利したと示す。

それから勝利を実感した一同は、身支度を整えて1階へと向かっていった。

突入時と違って負傷した早川アキが先行し、パワーとデンジが最後尾を歩く。

 

 

「いやー楽しかったな」

「携帯ゲーム機を持って来るんじゃった」

 

 

他人事で喋るパワーとデンジに先輩である公安職員たちは歩く気力すらない。

ただひたすらに出口に行きたいという気持ちだけが彼らを支えている。

 

 

「出口じゃ!!……ぐええ!?」

 

 

森野ホテルの出口が見えた瞬間、パワーは駆け出して自動ドアにぶつかった。

あまりの速さにセンサーが反応しなかった様だ。

その数秒後に自動ドアが開いて日光がエントランスホールに降り注ぐ。

 

 

「おお!!」

 

 

自動ドアから脱出した公安対魔特異4課を待ち受けていたのは…。

複数のパトカーと救急車を背にして盾を構える機動隊員とその指揮官。

そして金髪のおっさんと気だるそうにアイスを食べている美少年であった。

 

 

「ねえ、作戦を開始する前にみんなが出て来たよ?これで僕の仕事って終わり?」

 

 

頭上には天使の輪っか、背中から白い翼を生やしている美少年は、バディ相手に質問する。

 

 

「そんなワケないだろう…」

 

 

彼の質問に返答したのは、バディを組んだ公安職員に化ける結婚の悪魔だ。

あと5分でホテルに突入しようとしたところ、デンジたちがホテルから出て来た。

疲れ切った彼らであるが、様子からして潜伏していた悪魔を討伐したようだ。

 

 

「でも、悪魔討伐が終わってるよ。僕の仕事は終わったはず」

「それだけで終わると思うのか?」

「うん」

「“天使の悪魔”さんよ、もうちょっと我慢してくれ」

「やだよ」

 

 

本気を出せば、公安のデビルハンターでも最強格である天使の悪魔。

しかし、そのやる気を出せるのは結婚の悪魔ですら至難の業であった。

どうやってこいつを運用していくか悩むが、とりあえず上司として仕事する事にした。

 

 

「先輩!」

「よお、心配して来てみれば、まだ余力がありそうだな?」

「そんな事ありません…」

 

 

それより早川アキは、先輩が救援部隊を手配してくれた事に喜んでいた。

なんとか空元気で乗り越えようとしたが、言葉が続かなかった。

 

 

「その左手の怪我はどうした?」

「こ、これは…」

 

 

先輩から指摘された左手の負傷の原因は、錯乱したコベニの凶行である。

しかし、それを述べたくないアキは何て返答するべきか迷った。

 

 

「…まあいい、色々言いたい事があるが…病院で診察を受けてもらうぞ」

「ありがとうございます」

「ついでに軽食も手配させる。搬送中にゆっくり食べると良い」

 

 

事情を察した結婚の悪魔は、さきほどの返答から何も食べていないと判断。

急速に腹を満たすとまずいと理解して救急隊員にジェスチャーを送った。

 

 

「金髪のおっさん!」

「ん?どうした?」

 

 

見捨てたつもりのデンジだが、意外と元気そうに見える。

誰よりも返り血を浴びて重傷を負っているように見えるというのに…。

 

 

「銃の悪魔の肉片をゲットしたぜ」

「…そうか、お前の夢、また一歩近づいたな」

 

 

銃の悪魔の破片を集めれば、いずれ銃の悪魔の本体に辿り着く。

世界各地に分散した7個のオレンジ色のボールを集めるより苦行の日々となるはずだ。

それでも、デンジはその一歩をやり遂げたので悪魔は賞賛する。

 

 

(……叶わぬ夢を見続けるのも幸せかもな)

 

 

そんな事をしたところで無意味なのだが悪魔は騙し通す。

森野ホテルに潜伏した悪魔が討伐された以上、やる事は限られる。

生存者の救出と悪魔の死体回収である。

 

 

「姫野先輩」

「……なに?」

「他に生存者を連れておりませんが、発見できなかったって事でよろしいでしょうか?」

 

 

その前段階として今回のチームリーダーである姫野に生存者の確認をした。

 

 

「発見できませんでした」

「なるほど、他に生存者は無し。そう判断しても?」

「多分、そうだと思う」

「承知しました。一旦、全員を病院まで移動させます」

 

 

諦めたら試合終了であるが、彼ら以外で生存者は居ないと結婚の悪魔は分かっていた。

だからこそあえて彼女の言葉から「他に生存者ゼロ」と言わせて根拠とした。

 

 

「あとはよろしく頼む」

「了解です」

 

 

知り合いの院長たちに頭を下げて救急車を5台、手配した甲斐があった。

何事も無く今回の英雄たちは救急車に搬送されて病院へと向かった。

 

 

「僕も帰っていい?」

「ダメだ、自分とバディを組んでいる以上、すぐには帰れないぞ」

「えーやだな…僕まで巻き込まないでよ」

 

 

一方、天使の悪魔は相変わらずマイペースの奴である。

彼がその気になれば、永遠の悪魔なんぞ瞬殺だというのに…。

 

 

「……まあ、そうなるな。じゃあ、車に戻ってゲームでもしてろ」

「そうこなくっちゃ。早く仕事を終わらせてねー」

 

 

パイプ椅子に座っていた天使の悪魔は嬉しそうに車へと戻っていった。

この場における最高戦力が不在になった現状は、悪魔掃討作戦が既に終わったと示した。

上も下もやりたい放題する現状に結婚の悪魔は本気でうんざりした。

 

 

「ちょっと待ってください!我々の仕事は既に終わったって事なんですか!?」

「まあ、そうなるな」

「賃金の支払いはしてくれるんでしょうね!?」

 

 

更に問題なのは、結婚の悪魔のツテで召集した民間のデビルハンターたちだ。

やる気満々で来たのに当の悪魔が討伐されてしまったのだ。

このままだと報酬が無くなるのを危惧したのか。

日本刀を所持した青年を筆頭に狩人たちが金髪の壮年男性に詰め寄った。

 

 

(めんどくせぇ…)

 

 

こんな奴らに頼りたくなかったのだが、彼らもまた真摯に仕事に取り組んでいる仲間だ。

既に往復代の交通費を支払っているが、報酬の支払いをする事にした。

 

 

「オラァ!札束ビンタだ!」

 

 

召集したデビルハンターの頬に1人当たり5枚の諭吉で軽く叩いてから渡した。

 

 

「全然札束じゃない!!」

「せめて10万円だろう!?」

「やかましい!!稼働時間30分だから時給に換算すると10万円だろうが!!」

「だったら時給で支払えよ!!」

 

 

5万円を渡されても抗議する民間のデビルハンターたちに結婚の悪魔はうんざりする。

それでも彼らを雇ったのは、悪魔から見ても相応の実力者に他ならない。

 

 

「はははは、お宅も苦労されていますね」

「唐澤警部補殿、お見苦しいところを…」

「警視庁公安部のお偉いさんは全員、頭でっかちですからね。お気持ちは分かりますよ」

 

 

森野ホテル前に駆け付けた第四機動隊を指揮するのは唐澤警部補である。

【鬼の四機】と称される機動隊の小隊を指揮するには優し過ぎる男だった。

 

 

(警視庁公安部……鬱陶しい奴らだよ、ホント…)

 

 

公安のデビルハンターは、公安警察の一部門でしかない。

結婚の悪魔が所属する部署は、警視庁公安部の管理下にあるのだが、これが意外と厄介である。

せっかく公安機動捜査隊という部隊が存在するのに利権とプライドのせいで動かせないのだ。

だからこうやって動いてくれるのは、コネと縁がある第四機動隊の唐澤だけであった。

 

 

「まあ、それだけ法律を遵守しているって事だ。国家の狗として見習いたいものだ」

「まるで私が法律を遵守してないように言いますね?」

「そうだったら表舞台でこうやって堂々としてないさ。お互い胸を張って生きようじゃないか」

 

 

なお、【上】が馬鹿のせいで公安警察が私物化されているのも事実だ。

警視庁も各都道府県の警察も全て国民の命と安全を守る為に存在している。

それなのに大蔵省から分離した財務省の老害とかのせいで色々と狂っているのだ。

 

 

「…ところで財務省の件、どうなりました?」

「現在も調査中だ、全く…【アレ】には関わりたくないというのに…」

「分かります。本当に分かります」

 

 

なんで権力と栄華を極めた奴ほど不老不死を本気で求めるのか悪魔には分からない。

本来の意味では死ぬ事すら許されない悪魔からすれば、救いにすら見えるというのに…。

日本の歴代総理大臣を影で操っていた長谷川タダシの我儘も困ったものだ。

 

 

「なんか、お金になりそうな話ですね。オレにも噛ませてくれませんか?」

「国家公務員試験に合格して警察庁に最低でも5年勤めれば教えてやるよ」

 

 

若手の民間デビルハンターが声をかけてきたので悪魔は強い言葉で牽制した。

連れて来た民間人の中でもっとも強いのであるが、こういった好奇心は好きではない。

 

 

「それじゃあ、遅いんですよー」

「なら、追加の任務を与えてやる。それでいいな?」

「もちろんです」

 

 

だから彼を追っ払う為にも結婚の悪魔は更に自腹で給料を払う羽目になった。

 

 

「吉田ヒロフミ、お前はここで待機しろ。パイプ椅子に座っても構わん」

「えぇー」

 

 

しかし、結婚の悪魔は彼をここに待機させる事にした。

理不尽な命令に対して黒髪の青年が苦言を呈する前に悪魔は告げる。

 

 

「お前の実力は知っている、だからこそ現場を封鎖している警官たちを守ってほしい」

「確かにオレ1人でも守れますけど、一応理由きいていいっすか?」

 

 

既にここは安全地帯になったとはいえ、警官すら怯えているのだ。

悪魔に対抗できる戦力を配備するのは間違ってはいない。

しかし、それが公安職員の私情も含んでいると分かっているからこそ吉田は理由を尋ねる。

 

 

「ホテルの中で未成年に頼るほどの事態が起きないと確信しているからさ」

 

 

それに対して結婚の悪魔は、吉田の若さを指摘する。

悪魔からすれば、学生は学生らしく生活を送って居ればいいのだ。

 

 

「それに現役の学生に頑張り過ぎると、大人である我々の立場が無い」

 

 

唐沢警部補に視線を送って行動を促す。

数少ない結婚の悪魔と結んだ契約を無事に終えた彼は、部下たちに檄を飛ばした。

すぐにでも出撃できるのを確認した結婚の悪魔は、彼らの前に躍り出る。

 

 

「さて、諸君。我々の雄姿を皆に見せつけてやろうじゃないか」

「「「「ハッ!!!」」」」

 

 

鬼とまで言われた機動隊員たちは公安職員に化ける悪魔の後に続いていく。

 

 

「相変わらずお優しい。未成年だからこそあそこに待機させたんですから…」

「学生が間違った道を進むのを止めて進むべき道を示すのが大人というものだ」

 

 

唐澤警部補と会話をする結婚の悪魔は、無駄に上から目線で会話するのに疲れていた。

しかし、他の悪魔と違って公安の上層部の一員であるのでそうするしかなかった。

最低限の威厳すらなければ、自分の命を託せる存在として認識すらされないのだから。

 

 

「まず我々が手本を見せてやらねば、誰があいつを救えるというのだ」

「ごもっともです」

 

 

背伸びをしている若造が調子に乗って道を誤る時がある。

そのまま放置して手遅れになる前に正しい道を示すのが大人の仕事なのだ。

 

 

(アイス食べてぇな…つーか、同じ悪魔なのに待遇が違い過ぎだろ…)

 

 

天使の悪魔の待遇に憧憬の眼差しを送っていた結婚の悪魔は私情を押し殺す。

そして不安がる機動隊員に先駆けて森野ホテルの入口へと突入した。

 

 

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