デンレゼが足掻く度に不幸になるケッコンの悪魔さん   作:Nera上等兵

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サムライソード篇
13話 新人歓迎会やろうぜ!パワーお前の席ねぇけど


悪魔は人間の恐怖で強化されるが、逆に悪魔が人間を恐れる時がある。

理由は様々であるが、歴戦のデビルハンターである岸辺先輩からアドバイスを受けた事がある。

部下や後輩から慕われている姫野は、未だに彼の言葉を一言一句、鮮明に思い出せる。

 

 

「悪魔が恐れるデビルハンターはなあ…頭のネジがぶっ飛んでいる奴だ」

 

 

共同墓地でバディだった佐原の墓に献花した時であった。

その時の自分の精神状態を読んで彼なりに気遣ったかもしれない。

 

 

「佐原はまともだった。だから死んだ」

 

 

佐原の墓の前で跪いて献花をしている姫野は、最初は嫌がらせかと思った。

 

 

「木ノ内も昴も佐々木もまともだったな」

 

 

わざわざ共同墓地で歴代の相棒の苗字を思い出させるように連呼されたのだ。

 

 

(私に非道になれと…!?)

 

 

コンビを組んだ相棒が死ぬ度に増えていく遺族から責められる日々。

本人は…不本意であるかもしれないが、デビルハンターになれば戦死は避けられない。

だからそれなりに覚悟して任務を遂行していたはずだが、遺族からすれば関係ない。

振り上げた拳と怒りは、発散しやすい相手に向かうのが自然の摂理なのだから。

 

 

「まともだから悪魔の攻撃を恐がっちまう。恐怖が悪魔の力になるからな」

 

 

それはデビルハンターじゃなくても常識である。

姫野だってそんな事は知っていた。

 

 

「一緒に仕事してみてアキの奴はどうだ?まともか?」

 

 

岸辺先輩の発言の意図くらい分かる。

バディを組んだ早川アキは今のままだと早死にすると暗に告げていたのだ。

 

 

「銃野郎を殺そうとしている人がまともなワケないじゃないですか」

 

 

答えは決まっていた。

確かにアキは銃の悪魔の為なら寿命を削る“呪いの悪魔”と契約した。

銃の悪魔が討伐できるのであれば、彼は喜んで命を捧げると確信できるほどのイカレポンチ。

今まで生き残って来た強者である姫野ですら真似できないほどの凶人に見えた。

 

 

「お前も同類だろ?銃野郎をぶっ殺す為に公安に入った」

 

 

確かに姫野も銃の悪魔を討伐する為に自分から進んで公安に入った。

だが、相次ぐ相棒の死とそれに伴う遺族からの叱責や暴行は想定外だった。

 

 

「その頭んネジ、ぶっ飛んでいるか?」

「ぶっ飛んでいません」

 

 

悲しみや怒りといった感情や後悔や悩みといった人間の弱さ。

それらを失ってしまえば、果たして人間といえるのだろうか。

少なくとも姫野は悪魔を討伐する為に民間人を犠牲にする狂人にはなれなかった。

 

 

「なるほど、人間として100点だ、どこでも自慢できるぞ」

「そんな事ありません」

「ただな、素直で単純っていうのは、悪魔からしても利用しやすくて好都合ってこった」

 

 

早川アキの先代となる佐原は人質を取られたせいで何もできずに嬲り殺しにされた。

自分の攻撃が全く通用しなかったり、民間人に化けていた悪魔に殺された。

 

 

「だがネジがぶっ飛んだ奴は予想外の動きをする。悪魔でも理解できんモンは恐がるモンだ」

 

 

岸辺先輩の発言は正論に近い。

人質ごと悪魔をぶっ殺せば、佐原は死ななかった。

悪魔の目撃現場で怪しい動きをした民間人を殺せば、背後から奇襲される事はなかった。

罵倒しながら詰め寄る遺族に中指を立てて逆に煽れるほど性根が腐っていれば悩みもなくなる。

 

 

(デビルハンターとしては正解だけど…ネジを完全に外せば…それは悪魔と変わらない)

 

 

人道から外れるほどデビルハンターとして正解であっても人間としては不正解である。

そう言い返そうと思ったら、スキャットルを取り出して飲酒する師匠の姿が見えた。

 

 

「師匠、酒の飲み過ぎですよ」

 

 

姫野は知っている。

彼もまた、知り合いが死ぬ度に飲酒する量が増えている事に…。

だからあえて酒の話題を振った。

 

 

「ハイ、それまとも。日々の積み重ねがネジを緩めるんだ」

 

 

心は一度壊れれば、元には戻らない。

だから誰もが溢れ出す感情に蓋をして耐えようと努力する。

 

 

「毎月、バディの墓参りをしているようじゃネジは固いままだぞ?」

 

 

そのままの状態だと行動に躊躇いを発生させるから前を踏み出す必要がある。

バディの死によって婚活も諦めてしまった彼女にとって死ぬ事が幸福にすら思えた。

 

 

「…ああ、すまん。年寄り特有の語り癖って奴だ。自分より酒に酔いたいから俺は帰るぞ」

 

 

これは先輩としても師匠としてのアドバイスでもなかった。

 

 

「アキはまだまだ雑魚だから鍛えておけよ」

「ゆっくりやりますよ」

「ゆっくりじゃダメだ」

 

 

これは警告、もはや一刻の猶予もないと警鐘を鳴らしていた。

 

 

「アキの野郎は本気で肉片を集めている。アイツァ、その内、銃の悪魔とやり合うぞ」

 

 

銃の悪魔を討伐しようとする者は後を絶たない。

そして銃の悪魔を追い求めた先には、死しか残されていない。

真面目に取り組んでいた奴ほど早死にし、姫野も半ば諦めたから生き残っているに過ぎない。

それほどまでに“銃の悪魔”の名前は、前途有望な若者を早死にさせる呪いなのだ。

 

 

「嫌だ」

 

 

早川アキを死なせたくなかった。

死ぬんだったら自分が先に死にたかった。

 

 

「嫌だ、嫌だ嫌だ嫌だ…」

 

 

岸辺先輩が共同墓地から去ってもなお、独り言を姫野は呟く。

 

 

(銃の悪魔と戦ったらアキ君は絶対に殺される…)

 

 

姫野は危惧をしていた。

 

 

(アキ君は、真面目で格好良くてなにより優しくて…)

 

 

誰かの為に進んで行動して後悔しない男の子。

 

 

(普通の人だから…)

 

 

自分に怒りをぶつけていた遺族に軽い復讐をしたのも彼だけだった。

【してやったぞ】という顔にどれだけ救われた事か。

それほど誰よりも優しい子だからこそ早死にしてしまうと分かってしまう。

 

 

(あの子みたいに頭のネジがぶっ飛んでいれば違ったかもしれない…)

 

 

なにより、実際に頭のネジが緩々な奴が幸せをゲットできたのも事実だ。

誰からも馬鹿にされながらも誰よりも泥船から真っ先に足を洗ったチャラ男を思い出す。

 

 

(結婚の悪魔と契約を結んで無双した子みたいに…)

 

 

結婚の悪魔は、結婚の期限を設ける代わりにその期間中に力を分け与えるという悪魔である。

要するに「自力じゃ結婚できないから悪魔の力を使って結婚しろ」という押し付けをしてくる。

それでも悪魔の力を借りたい公安職員ならば、もっとも契約したい悪魔NO.1に君臨する存在だ。

 

 

(私も契約して力が欲しかった…)

 

 

一番の利点は、結婚するまでの期間を契約する希望者が決められるという点だ。

契約期間中に結婚できなければ死に至るが、そもそも悪魔の契約を破ると死ぬものである。

大半の悪魔が勝手に条件を指定して理不尽な代償を支払うというのに…。

双方の同意を得る必要がある結婚の名を冠するからこそ最も優しい契約をしてくれる。

 

 

(そうすれば佐原君も救えたはずだった…)

 

 

よって夏休みの宿題と自由研究を夏休み前までに終わらせられる人物なら事実上、踏み倒せる。

だって契約期間中に結婚すればいいのだから。

 

 

(あの子みたいに…)

 

 

4ヶ月以内に結婚すると契約したチンピラ小僧は、その圧倒的な力で悪魔相手に無双した。

常人ではありえない身体能力と肉体再生能力を駆使したその姿は【血塗れのチンピラ】だった。

あっという間に2億円を稼いで電撃結婚で寿退職をしたという伝説は、未だに語り継がれている。

それに魅入られた職員たちは続々と短期結婚の契約を結婚の悪魔と結んだ。

 

 

(破滅できずに生きていけるのに…)

 

 

そして結婚の悪魔は、公安管理下にいながらも最も公安のデビルハンターを喰った存在になる。

タダより高い物はないとは言うが、結婚の悪魔との契約には契約者の裏を突く代償があった。

それは、自分の力じゃないからこそ…制御できない力で契約者が自滅するという代償だ。

「力が欲しいか?」という問いかけをしてくる悪魔に碌な奴がいないのは、そういう事だった。

 

 

(……私がやらなきゃ)

 

 

諸事情で結婚の悪魔と契約できなかった姫野は、自力で早川を救おうと決意した。

 

 

「アキ君、一緒にさ。民間に転職しない?実は良い額でお誘いを受けているんだ~」

「飲みに行くならいくらでも付き合いますけど、絶対に民間には行きませんよ」

 

 

でもダメだった。

 

 

「銃の悪魔の元に辿り着くには、公安のデビルハンターが最善の道ですから」

 

 

姫野では早川アキを説得する事ができなかった。

彼もまた死に急ぎ野郎として散っていく事であろう。

そもそも頭のネジをぶっ飛んだ奴を直接見たわけではない。

だから説得できなかったと考えるしかなかった。

 

 

(すごい……)

 

 

だが、姫野は出会ってしまった。

自分たちでもどうしようもない悪魔に挑み続ける頭のネジをぶっ飛ばした奴が。

 

 

(この最高にネジがぶっ飛んでいる男なら…)

 

 

不死身の存在を見かけてデンジは拷問し放題と叫ぶほど好戦的で自分勝手だった。

猛毒を受けて心臓を捧げた悪魔の要望を一蹴し、何時間も肉体を破壊し続けるその姿!

 

 

(銃野郎を殺せるかもしれない)

 

 

既に一度、死んだせいかデンジの頭はどこか狂っていた。

どんなに追い詰められても臆さない精神力と奇抜な発想力と行動力。

なにより、いくら肉体が欠損しても血を飲ませれば復活するという化け物っぷり。

 

 

(この子を歓迎してあげないとね)

 

 

森野ホテルから脱出し、病院で診察を受けた姫野はアキ君に相談する事にした。

 

 

「新人歓迎会?」

「うん、親睦を深めて今、抱えている問題をできるだけなくしましょう」

 

 

荒井君もコベニちゃんもデンジを信用も信頼もしていなかった。

だが、あれほどの戦いっぷりに銃の悪魔を殺すという彼の意志くらいは信用したはずだ。

だから姫野は、デンジを4課の一員として歓迎会を開く事をアキ君に提案した。

 

 

「問題ですか?」

「荒井君とコベニちゃん、悪魔に屈しそうになった事に後悔して公安を辞めるって言ってるの」

「来る者は拒まず、去る者は追わずは、公安のデビルハンターのモットじゃないですか」

 

 

公安のデビルハンターが恐怖に屈して辞職する事はよくある事だ。

むしろ、悪魔と遭遇させる前に新人いびりで強制的に退職させたアキは当然だと思っている。

戦えない覚悟ならば、大人しく辞めてくれた方が彼としても助かるからだ。

 

 

「私も悪魔に屈しそうになってデンジ君を殺そうとしちゃったし…」

「俺もデンジと同居してなかったら即座に生贄にしましたよ」

「ねぇ!私たちって薄情でしょ?だから仲間意識を持つ事が大事だと思うの」

 

 

相手に背中を託すという者は中々できるものではない。

バディを組んでいる相手すら信用できずに独自の判断で動いてしまう事が多い。

それでも姫野は語る。

 

 

「飲み会なら軽いノリで謝れるし、荒井君たちを引き留める事だって簡単だと思わない?」

「あんたが飲みたいだけでしょ」

「もちろん」

 

 

早川アキにタバコや酒を勧めたのは姫野である。

こうやって同じ銘柄のタバコを吸っているのは、その時の名残である。

少なくとも病院に喫煙室があるおかげ*1でこうやって腹を割って相談できるのはありがたかった。

 

 

「飲み会をやるなら絶対に今週中にしないといけないですね」

「え?どうして?」

「どうせ、飲むならマキマさんと飲みたい」

 

 

それでも早川アキという青年は、マキマと一緒に飲むのを重視していた。

デンジ君を歓迎する飲み会なのだから彼女を連れて来なくても良かったのに。

 

 

「デンジ君が悪魔に狙われたと知って来週に京都に出張して応援を求めるそうですよ」

「そっか…」

 

 

どれだけ姫野が早川に語りかけても彼の心にほとんど響かない。

なのにマキマの事ならすぐに信用してしまう。

いくら命の恩人だとしても、ここまで心酔されると洗脳されているのかと錯覚してしまう。

 

 

「正直さ、デンジ君って何者だと思う?」

「…え?」

 

 

マキマの事を信用していない姫野は、彼女に裏があると疑ってしまう。

悪魔がデンジ君を求めていた事だってそうだ。

自分に怯えていて弱そうなコベニちゃんが有力候補なのにわざわざ彼を指定した。

 

 

「相手の悪魔がデンジ君を知ってそうな素振りがあったし、あんな姿、初めて見たよ」

「実は俺もデンジの力の事、全く知りません」

 

 

デンジが特別な人間というのは、誰の目から見ても明らかだった。

だが、それだけではない。

 

 

「それに上の連中がデンジ君の活躍を隠蔽しているのも気になってるの」

「さすがに悪魔が悪魔を殺したという事実は、日本政府に都合が悪いせいなのでは?」

「そうかもしれないけど…」

 

 

新聞やテレビのニュースでは、デンジ君の活躍が語られる事は無い。

コウモリの悪魔を討伐をしたのは、公安対魔特異4課という情報しか無かった。

 

 

「一番謎なのは、あのマキマさんがデンジ君を気にかけている事」

 

 

なにより他人に興味がなさそうなマキマがデンジを気にかけている事に姫野は違和感を覚えた。

まるで部下たちを飼い犬と接するように扱う感じがして当人そのものを見ていない感じがする女。

だが、何故かデンジ君だけは気にかけており、積極的に彼の為に動いていた。

 

 

「最近、東京に留まっているのは、デンジ君が理由だと思う。だから酔わせて訊いてみない?」

 

 

そもそもマキマ自身の秘密が多すぎて姫野は彼女を信用していない。

凄腕のデビルハンターとして信頼はしているが、それでも疑問点が多すぎて仲良くなれなかった。

 

 

「…あっ」

「どうしたの?」

 

 

ここで早川アキが何かを思い出したように声を出した。

もしかしたら、大切な記憶を思い出したのかと姫野は期待する。

 

 

「パワーの奴、血抜きの一環でデビルハンター東京本部で暫く軟禁されるらしいですよ」

「あらら、確かに角がたくさん生えていたもんね…」

 

 

姫野は期待した発言を聴けずにがっかりしてパワーの事を思い出す。

パワーは輸血パックでパワーアップしたせいか、色んな意味で好戦的になっていた。

その結果、森野ホテルに潜伏していた悪魔の血を啜って新たに角が生えたり、伸びたりした。

血の悪魔なのでこのままにしておくと不味いという事で入院する事も無く強制送還されたのだ。

 

 

「それに先輩もすぐに動けるかどうか…」

「うーん」

 

 

なお、結婚の悪魔が化ける上司も後始末のせいで飲み会に来れそうになかった。

これを受けて姫野は困った。

 

 

「どうしよう……」

 

 

デンジ君の事なら必ずマキマが釣れると確信できるが、このままだと大義名分が崩れ去る。

そこで姫野は出席できない構成員の為に一芝居打つ事にした。

 

 

「そうだ、あの子を呼ぼう」

 

 

ここで顔馴染みの同期を思い出した姫野は、タバコの火を消して公衆電話に駆け付けた。

慣れた手つきで受話器を取り硬貨を投入し、千葉公安対魔1課の電話番号を押して電話をかける。

その3日後、東京都の千代田区にある酒場にて飲み会が開催される事になった。

 

 

「はい、こんにちは!まだマキマさんが到着していませんが、飲み会を始めさせてもらいます」

 

 

今回の飲み会の主催はマキマとなっている。

しかし、彼女は激務であり到着が遅れる見込みだったので別の人員に任せた。

 

 

「私は千葉公安対魔1課の因幡ナオミと申します!今回は姫野さんから抜擢されて幹事を務め…」

 

 

姫野が顔を合わせた同期の中で唯一生き残った同性である彼女は、飲み会の経験が豊富だった。

急なお願いなのに快く引き受けた彼女は、あっさりと人気の酒場を予約してみせた。

しかも、マキマさんと交渉してくれて当の本人以外はあっさりと酒場に合流する事に成功した。

 

 

「てますが、部外者なのでお気になさらずに!さっそく乾杯しましょー!」

 

 

そんなコミュ力の達人であるナオミだが、欠点としては短気である。

長話を嫌い結論を知りたがる彼女はせっかちであり、どこかネジが外れかかっていた。

今回もデンジの歓迎会とは言わずにさっさと乾杯の合図をしてしまった。

 

 

「人類と公安対魔特異4課の未来が幸せである事を祈って~~~!乾杯!!」

「「「「乾杯!!」」」」

 

 

さっそくジャッキを持って乾杯し合った公安職員たちはビールで喉を潤していく。

デンジはさすがに未成年だったので麦茶だったが、誰かと飲み合うのは初めてである。

さっそく餃子が乗った皿を手に取って興味津々で全て食べようとしていた。

 

 

「ウマい。飲むのは半年ぶりですよ」

 

 

早川アキは同じく生を注文した伏さんにビールの感想を述べる。

 

 

「私も家で少し飲むくらいですね。この場だとちょっと羽目を外してしまいますが…」

「姫野さんよりマシですから大丈夫ですよ」

「いやーそれ、褒めてる?」

「はい。そうです」

 

 

公安に所属して早川アキにデビルハンター本部を案内したのは、伏であった。

彼は一橋大学の法学部を首席で卒業したエリート中のエリートである。

そんな彼がデビルハンターになったきっかけは、銃の悪魔に家族を殺されたからである。

だから早川とは、姫野とバディを組む前まで岸辺先輩と共に世話になった恩人の1人となる。

 

 

「コベニちゃん、どんどん食べていいよ。全部マキマさんの奢りだから」

「やったー嬉しいです」

 

 

コベニに声をかけたのは、桜井ヒトミで眼鏡をかけている(まどか)とバディを組んでいる女職員である。

優しそうな声と華奢な肉体ではそう見えないが、実は空手3段を取得している格闘家である。

頭脳派と見せかけて同じく円も柔道2段と剣道のスペシャリストであり、意外と武闘派コンビとなる。

 

 

「おら!若いんだからもっと頼め!食え!!」

「漢字が読めねぇ…」

 

 

デンジの隣の席に座っている図体がデカい男は、剛力マサノリといいラグビー部に所属していた過去がある。

なのだが、実は学力試験では伏に次ぐトップクラスで普通に東大を卒業している頭脳派でもある。

 

 

「指を差してくれ。代わりに注文してやるから」

 

 

ぶっきらぼうな彼であるが、面倒見がいいと評判で姫野すら舌を巻くほど教え方が上手い。

 

 

「まだ始まったばかりですよ。些か判断が早過ぎるのでは?」

「マキマさんが全部奢るんだろ?だったら色々頼んだ方がいいだろ」

 

 

見るからに頭脳派に見える円は、体操でオリンピックに出場した経験がある。

もちろん頭脳派でもあるが、交渉術にも長ける彼はマキマさんから上との交渉を任されていた。

故に彼の存在は、他部署にも知られており、官民問わず引く手あまたと噂がある。

そんな彼の苦言に対して手を振って問題ないと剛力は断言した。

 

 

(あっ…)

 

 

その時、デンジは気付いた。

メニュー表に書かれていた「キスの天ぷら」のおかげでキスの約束を思い出したのだ。

 

 

「姫野パイセン、キスの件は…」

 

 

さすがのデンジも大声でキスの約束を姫野に告げられなかった。

ビールを楽しむ彼女に近づいて片手を口に当てて小声でキスの件について訊ねた。

 

 

「シラフじゃ恥ずかしいからさ!もっと酔ったらしてあげる!」

 

 

これを聴いてデンジは頬を真っ赤にして喜んだ。

 

 

「濃い奴をぶちかましてあげるからさ~。デンジ君を殺そうとしたみんなを許してね~?」

「ああ、超許します!だって美味しい物たくさん食えるっすから!」

 

 

餃子や空揚げ、フライドポテトといった夢の料理が喰えたデンジは満足した。

いや、濃厚なキスを受けていないので満足しきれていないが、腹はかなり嬉しがっていた。

 

 

「さあ、新人君。みんなに自己紹介をしようっか!バディ相手も教えてあげてね!」

「ええ!?ここでそんな事、していいんですか!?」

 

 

幹事の因幡から衝撃的な発言を受けて常識知らずのデンジすら驚愕する。

民間の施設で悪魔の紹介をしたり、仕事の話をするのはまずいと彼すら思った。

しかし、他部署である彼女はカメラを構えて笑って答える。

 

 

「大丈夫だよ、店の人にも協力してもらってるから、だから早めにオープンしたんだよ」

 

 

本来であれば“ふじもと”の営業時間ではないのであるが、彼女が頭を下げて早期オープンさせた。

そのおかげで従業員以外は関係者しかおらず、彼らも公安職員から信頼される存在である。

なので因幡は胸を張って発言をする。

 

 

「それに主役は君でしょ?ほら写真を撮ってあげるから早く自己紹介しなよ~!」

 

 

既に何枚かの写真を撮った彼女は、デンジに興味津々であった。

 

 

(この子も俺ん事、好きになってくれるのかな…)

 

 

あまりにも夢みたいな光景にデンジも現実だとすぐに理解する事はできなかった。

 

 

「俺、デンジ~~!歳は確か16!趣味は寝る事と食う事!」

「いいね!その調子!!もっと笑って!!」

「こうか?」

「はいチーズ!!」

 

 

だが、嬉しさのあまりに自己紹介はきちんとした。

するとカメラを構えた女が要求してきたので笑ってみせたらシャッターを切られた。

一瞬だけ何が起こったか分からなかったが、写真を撮られたのは初めてではない。

 

 

(やっぱ、よくわかんねぇ…)

 

 

ヤクザに色々言われた写真を撮られたのが最後であった。

今思えば、逃げたら指名手配して無理やりにでも連れ帰る気だったのだろうと分かる。

 

 

「コベニちゃん!カワイイ!!なにその服装!?新人のハートを射抜きにきたの!?」

「ち、違います。服はお姉ちゃんのお下がりで…」

「冗談よ!冗談!コベニちゃんはみんなのアイドルだからねー」

 

 

ただ、ここまで好意的になれたことは無かった。

だから別の女の写真を撮っている彼女に違和感を覚えなかったし、逆に興味をもった。

 

 

「マジかよ16歳でデビルハンターか」

「若っ!?」

「ちょ、下手すれば私んとこの新人よりベテランじゃない?この子!?」

 

 

なによりみんなからの反応からデンジは思った。

 

 

(俺って実はすごいんじゃね?)

 

 

今まで社会の底辺だと思い込んでいたデンジは周りの反応を聴いて自己陶酔した。

下手すれば、先輩たちよりデビルハンター歴が長いと気付いた為だ。

 

 

「そうだよ!私たちのピンチを救ってくれた英雄なんだよ~!」

 

 

ついでに抱き着いて来た姫野のおっぱいが当たって嬉しくなったデンジは更に調子に乗る。

 

 

「それにデンジ君は私のキスを楽しみにしてるの!だから死ねないモンねぇ!」

「はいそうですぅ!!」

 

 

褒められ過ぎて有天頂になったデンジは、両手をピースサインして周りにアピールする。

それを笑いながら他部署の女が写真を撮り、更に姫野がポーズをし、更に写真を増やしていく。

 

 

「姫野は酔えば、キス魔になるんだ。この場に居るみんな、姫野にキスされているよ」

 

 

未だに苗字を知らない図体がでかい男によってもたらされた情報!

 

 

(確定キスじゃん!)

 

 

それは、デンジのファーストキスが姫野に奪われると同意義であった。

だが、悪くはない。

右目に黒色の眼帯をしている以外は、特に問題なさそうな大人の女である。

悪く言うとしたら、少し馴れ馴れしいところがあるくらいであった。

 

 

(ポチタ!見てろよ~!!俺がファーストキスするところをよぉ~~!!)

 

 

心臓の鼓動がバクンバクン言っているのでポチタも気になっている様だ。

だからドキドキしているデンジは、思わず本音を漏らしてしまった。

 

 

「今日、俺。ファーストキスしちゃうんだ…」

 

 

自分の背後に居る存在に気付かずに…。

 

 

「キス?」

「え!?」

 

 

なんか良い香りがするなっと振り向いたら憧れの女上司であるマキマさんが居た。

これには型破りで暴走しがちなデンジもびっくり仰天。

座って居なかったら床に尻餅をついて腰を痛めたかもしれない。

 

 

「デンジ君、どういう事?」

 

 

黒色のロングコートを脱いだマキマは首を傾げながらデンジに質問してきた。

一方、デンジは焦った。

 

 

(やべぇえええええ!!)

 

 

女運どころか女と仲良くする機会が無かったデンジでも分かる。

他所の女にキスをされて喜ぶ男を見るマキマさんの顔を想像するだけで恐ろしい。

今までマキマさんに従う犬だと示してきたのに浮気をしていると思われてしまう。

 

 

「誰かとキスするの?」

「しません!!」

 

 

だから嘘をついた!

初めてマキマさんに嘘をついたが後悔はしていない。

 

 

「え~~!?デンジ君。キスしないのおお?」

「しまぁす!!」

 

 

この間、僅か10秒以内の会話である。

まさに漫画やイラストにすれば、2コマ落ちとなった。

 

 

「ふふふ、正直でいいよ」

 

 

マキマからロングコートを受け取ってハンガーにかけた因幡は片手で口元を押さえて笑っていた。

そして真顔でピースをするマキマを撮影し、今度は早川アキと伏のコンビの撮影に向かった。

 

 

(姫野さんとキスするとこ、マキマさんにみられたくねぇええええ!!)

 

 

なお、デンジはそれどころじゃない。

マキマさんとは、銃の悪魔を討伐したらエッチをする約束をしている。

なのにその約束を果たす前に他の女とキスするのはまずいと彼でも確信している。

 

 

(金髪のおっさん!助けてくれ~~!!)

 

 

心の中でデンジは貴重な相談相手であるおっさんが来ることを願った。

だが、彼は来ない。

 

 

(ふざけんなァ!!)

 

 

マキマが京都に出張するので仕事を押し付けられるのはまだ分かる。

しかし、自分も同行させられるので本日中に終わらせろという厳命を受けた。

そのせいで結婚の悪魔は、一切休憩する暇も無く作業を続けていた。

 

 

(しかも迎えに来いって何様だあいつ!?)

 

 

しかも、飲み会に行くマキマの送迎をする羽目になった。

専属の運転手が居るのにわざわざ結婚の悪魔に頼む理由は1つしかない。

 

 

(絶対、裏切ってやるからなああああ!!)

 

 

自分の命令で取り乱している結婚の悪魔の姿を見て笑うのが、趣味だからだ。

しかも、余計な仕事まで増やされているのだからたまらない。

文字通り山になった書類を捌きながら無言で作業する他なかった。

 

 

 

*1
健康増進法改正で2019年7月1日から病院や学校での原則敷地内禁煙=事実上、喫煙の禁止となった

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