デンレゼが足掻く度に不幸になるケッコンの悪魔さん 作:Nera上等兵
デンジ、多分16歳。たった今、人生の最盛期であったのに最大のピンチを迎えている。
姫野さんとファーストキスができると思ったら、なんとマキマさんが来たのだ。
(どうする!?俺!?どうすればいい!?)
デンジの手元にあるカードは以下の通りである。
【素直に打ち明ける】
【スルーしてキスしてもらう】
【マキマさんの唇も俺のもんだあああああ!】
【話をそらす】
【何も考えずにバクバク食べる】
【ハーレムだぜ!いっそ女の子を全員だきしめる!】
【金髪のおっさんを呼んでもらう】
【そんなことよりおうどんたべたい】
【逃げる】
意外と選択肢があった。
カードの切り方で今後の人生が変わる。
(今は一旦話をそらすしかねええええ!)
デンジは馬鹿だがアホではない。
キスは諦めたくないが、マキマさんの前でやるのは難しかった。
だからといって現実から逃げる気もなかった。
「マキマさん!俺さあ、銃の悪魔のなんちゃら拾いました!」
なので話を逸らす事にした。
「うん、報告を受けているよ。キミの夢に一歩前進したね」
とりあえず銃の悪魔の話題を出して何とか気を逸らす事に成功した。
「前までこんなペースで銃の悪魔の肉片を持つ悪魔は現れませんでした。この間、デンジを狙った悪魔といい最近の悪魔の様子がおかしいですよ」
しかも、早川アキが知ってか知らずか援護射撃までしてくれた。
銃の悪魔を嫌っているのに援護射撃とはこれ如何に?
(ナイスだ!アキパイセン!!)
とにかく親指を突き立てて先輩に感謝するデンジだったが…。
「マキマさん、デンジの事、何か知っているんじゃないですか?」
酒に酔っても冗談を言わないアキが放つ異様な雰囲気に気付く事は無かった。
もちろん、マキマは早川の発言の意図に気付いている。
ジャッキを手に取って生ビールを飲み干した彼女は一呼吸置いた後、口を開く。
「私より飲んだら教えてあげる」
これはマキマからの宣戦布告である。
「すみません、生ビール2つお願いします」
さっそくアキは店員にビールを2つ注文した。
「私もソレやるぅ~!生もう1つ!!」
姫野も参戦してデンジの秘密を訊こうと試みる。
「よかったね。新人君、めちゃくちゃ愛されてるじゃん」
「え?何が?」
千葉公安対魔1課の因幡ナオミがデンジに声をかけるが、彼は全く気付いていない。
「デンジ君の為に先輩たちが頑張っているって事」
「そーすっか」
それより他所の部署の女職員のおっぱいが気になった。
スーツを纏う公安のデビルハンターでは珍しく腰丈のスカートの下から覗く脚も気になったが…。
血抜きのせいでこの場に居ないパワーの胸より揉みたい気持ちで一杯だ。
「ん?」
「どうしたの?」
「指に着けてるの。なんすっか?」
そしたら、因幡の左手の薬指に填めているリングっぽい何かが気になった。
思わず質問してみると彼女は少し照れたように小声で名前と用途を教えてくれた。
「これは結婚指輪、好きな男性と一緒に生活していくっていう証拠みたいなものよ」
「へえーー」
今までマキマさんとエッチしたいとデンジは思っていたが、新たな選択肢も増えた。
ケッコンユビワという物をマキマさんにプレゼントするというのもありと感じたのだ。
(ケッコンすれば、マキマさんとエッチし放題じゃね?俺…もしかして天才!?)
何でもお願いを叶えてくれるとはいえ、エッチは1回しかできない。
でもケッコンをマキマさんにお願いすれば、同居できるうえに何度もエッチができると思った。
「ケッコンってどうやるんっすか?」
「えーお互いにデートして愛を深めて告白して婚姻届を役所に提出すればいいと思うよ」
「愛を深めればできる?」
「男女間の契約みたいなもんだよ。もちろん愛があればすぐにできちゃうよー」
つまり、デートして更に仲良くなった先に何かを提出すればいいのだ。
さすがにこれ以上訊くと迷惑だと思ったデンジは、話の続きを金髪のおっさんに頼ろうとした。
先輩方だと変に盛り上がるし、マキマさんに相談するのは難しいと思ったからだ。
「もしかしてデンジ君、結婚したいの!?」
だが、せっかちの因幡ナオミはデンジの発言を真に受けた。
デンジからすれば結婚できればいいなー程度の感じだった。
「みんな!!注目!!デンジ君がね!!結婚に興味あるって!」
「おいいいい!!バラすな!?」
それなのにナオミはあっさりと結婚の話を同僚にバラしてしまった。
その瞬間、飲み会は大盛り上がりとなり、ヤジが飛び交う会場と化した。
口笛が鳴り響き、歓声が上がる中、ビールを飲んでいないのにデンジは顔を真っ赤にする。
「なるほど、それなら“結婚の悪魔”と契約するのもいいかもしれませんね」
「ケッコンの悪魔?」
眼鏡をかけて鼻に傷がある円の発言にデンジは正気に戻された。
「なんだ、知らないのか?結婚をするまで力を貸してくれる悪魔さ」
「へえ」
図体がデカい剛力に悪魔の説明を受けたデンジは考えた。
マキマさんと結婚する為に悪魔と契約するのも悪くないと思ったのだ。
ポチタには悪いが、他にも悪魔と契約すれば有利になるかもしれない。
(あれ?これってキスと同じじゃね?)
今まで悪魔と契約したという実感は、ポチタと約束したくらいである。
一生忘れないはずだったのに結婚の悪魔と契約を結ぼうとしている。
そして結婚は、契約の一種だと聴かされた。
つまり、これってポチタに対して浮気になるのか気になった。
「こんなに美味しいごはん、初めて食べました」
「コベちゃん、実家にお金入れているもんね…たくさん食べなよ」
一方その頃、東山コベニはデンジなんか1ミリも興味を持たずに次々と料理を味わっていた。
その様子を見た桜井ヒトミは、彼女の財布状況を察してあえて軽く流す事にした。
「生ビール1つ!!」
「私も同じく追加!!」
アキと姫野は、よっぽどデンジの秘密を訊き出したいのか生ビールを追加する。
「じゃあ、ハイボール1つお願いします」
なお、マキマは色んなアルコールを味わうようだ。
まるで2人に挑発しているかのように…。
「やめなよ、どうせ利尿作用でトイレを借りまくるだけだよ?」
姫野の酒癖が悪いのを知っている因幡ナオミは必死に彼女を止めようとするが…。
「ナオミも飲みなさいよおお!!?お漏らしをしてでもマキマに勝つ必要があるの!!」
「やめてね、さすがにそんな事されたらいろんな意味で困っちゃう!?」
必死に同期を宥めるが、姫野は諦めない。
「お待たせしました…あっ」
「今度はハイボール追加ね!」
店員が持ってきた生ビールを一瞬で飲み干すとハイボールを注文した。
「俺もハイボール追加で…」
ここでようやく荒井が存在感をアピールした。
今まで周りが盛り上がっていたせいで存在感がミジンコ並に小さかったのだ。
しかし、このままだと忘れ去られると思った荒井は無駄に足掻いた。
「あれ?居たの?」
「おいいいいいいいいい!?」
ここで因幡が放った辛辣な一言が荒井にクリティカルヒットする!
「せっかくだから荒井君、デンジ君に自己紹介しなよ」
「ああ、やってやんよ!俺は荒井ヒロカズ22歳!!趣味は俳句です!」
「へえ、そうなんだ!なんか俳句をやってみてよ!」
だから荒井はあっさりと因幡に乗せられてしまった。
御膳立てをされてしまった荒井はマキマさんの前で俳句を披露する羽目になる。
「…少年に~咲き乱れる~赤い薔薇!」
「季語は?」
荒井が五七五の俳句を述べると因幡からツッコミを入れられた。
「赤い薔薇は5月くらいに咲きますのでそれが季語となります!」
「へえ、よく考えてるじゃん。しかもデンジ君に御膳立てしてるし…」
ちなみに赤い薔薇の花言葉は、「あなたを愛す」
何かと愛に飢えているデンジが誰かを愛したい姿を見て名付けたようだ。
これには因幡ナオミも感心し、デジカメを構えた。
「あれ?なんで身嗜みを整えたの?」
「もしかしたら俺の格好良い姿が映った写真でモテるかもしれないからです」
慌てた荒井がYシャツの皺を伸ばして身嗜みを整える。
こうしておけば、もしかしたら惚れる女の子がいるかもしれないと思ったからだ。
「そんなワケないでしょ。図に乗るな」
「え?」
あっさりと因幡から否定された荒井は落ち込み、その姿を撮られる羽目になった。
(へへへへ、公安のデビルハンターって楽しいな…)
人生のド底辺を彷徨って来たデンジにとってここは心地いいと思ってしまった。
こうやって騒がしい場の一員になれたのは生まれて初めての経験で言葉に表せない。
ただ、これが普通の生活だと思うと、生きていてよかったと思ってしまう。
「姫野さん、ごめんなさい。俺、トイレ行ってきます」
「待ちなさい。レディファーストで私が先に行く」
ビールの飲み過ぎでトイレに行きたくなった早川と姫野が無駄に競い合う。
一応、男女別に別れているのだが、2人は男女共用と勘違いしているようだ。
「IQ130の伏さん、姫野さんの助っ人して参戦する?」
「マキマさん、私のIQは134ですよ。それに酒に呑まれるつもりはありません」
それを見たマキマは伏を煽った。
なお、うろ覚えだったようでIQを間違えているとすぐに彼は指摘した。
「わざわざ訂正を要求するなんてIQの高さを自慢に思ってそう」
「ええ…!?」
円のバディである桜井が煽ると伏は彼女に顔を向けた。
IQだけが取り柄だと暗に言っている様な気がしたのだ。
「パワーの奴も……連れて来なくて正解だったな」
パワーが居ると飲み会が大惨事になる事くらいはデンジでも分かる。
だから彼女が居なくて寂しくはあるが、対処を考えなくていいので心地よくもあった。
そして1時間が経過し、一般客も酒場に来店するようになってくると…。
「ういーーーー」
「っ…」
姫野と早川は酔い潰れて机に突っ伏していた。
それを見た因幡はエチケット袋を用意してどんな事態にでも対応できるようにスタンバイ!
彼女たちが抱えている爆弾がいつ破裂しても問題ないように臨戦状態で待機していた!
「すみません、生ビールをお願いします」
なお、マキマの胃袋と膀胱は意外と凄いらしくて未だにトイレに行かずにビールを注文していた。
大食い競争と違って2リットル以上のアルコールが華奢な彼女のどこに入るのか。
摩訶不思議であるのだが、それだけ酒豪という事だろう。
「デンジ君、歓迎会楽しかった?」
「マジ楽しかった!」
「…そう、満足してくれたなら奢った甲斐があったね」
なにより呂律が普通に回っているので、そもそも酔わない体質なのかもしれない。
酔い潰れてない職員はそう分析したのだが、マキマの質問に答えたデンジは気にしなかった。
「他人の金で食べるごはんは美味しかったです」
「コベニ、マキマさんの前でその発言はまずいぞ…」
コベニの失言を咎める荒井だが、彼女は気にしている様子はなかった。
「姫野起きろ起きろ起きろ~!時間だよぉ!」
机に突っ伏した姫野をポカポカと両手で軽く叩く因幡だが、効果は見られない。
しかし、そろそろ時間なので退席を促すしかなかった。
(あれ?そういえばキスの約束ってどうすんだ?)
ここでデンジはキスの約束を思い出した。
もし、社会人であるならば二次会でやるとか想定するのだが、彼には考えられなかった。
そしてキスについて考えていたせいで因幡の驚いた声を聴く事ができなかった。
「んあ?」
顔を真っ赤に染めた姫野がデンジの背後から無言で近づいて来た。
その勢いで姫野は、彼の顔を両手で固定して接吻をした。
いきなりキスをされると思わなかったデンジは驚愕するが…。
(あ~!?あ…ああ…、マキマさんに見られた!!)
マキマさんにキスを目撃されてしまったのが一番気になってしまった。
しかし、姫野が舌を何度も突き出しており、濃厚なキスは実践してくれるようだ。
これで大人の階段に一歩踏み出したと考える彼だったが…。
「姫野!?それ!!エチケット袋じゃない!!デンジ君の口よ!?」
姫野の同期である因幡が叫んでいる内容に気付く事は無かった。
もし、気付いたとしても既に手遅れだったのだが…。
(柔らかい、しかもあたたかい。なんだこれ…!?)
デンジの口内に何か濃厚で温かい何かが注ぎ込まれていた。
一瞬だけ舌かと思ったが、何故か流動しているので唾液だと思った。
(口の中でとろけていく…気持ちいいけど…これって…)
しかし、すぐに唾液でもないと気付く。
(ゲロだああああああああああ!!)
姫野から口移しで大量のゲロを流し込まれたデンジは思い出す。
それはポチタと一緒にゴミ漁りをしていた少年時代の事だ。
「オイ、ポチタ!見ろよ!ネズミが酔っぱらいのゲロに集まってやんのぉ!」
食えそうな残飯を探してゴミ箱を漁るデンジだが、ゲロに集まるネズミが滑稽に見えた。
「ゲロ食うなんて信じられねぇよな!同じ哺乳類として恥ずかしいぜ!ぎゃははは!」
いくらデンジであっても排泄物を食う事は無かったし、ポチタにも食わせなかった。
だから飲尿の経験もないし、公園の水飲み場を借りる事で泥水を啜った事も一度もない。
あくまで人様の生活に拘るデンジは、排泄物に頼るしかない下等生物を見下していたのだ。
(うええええええええええええええええ!?)
たった今、そのネズミと同類になった。
しかも立て続けに悪い事が重なった。
(あああああああああああああああああああああああ!?)
口に入れて問題なさそうな物は何でも飲み込んでしまう癖がデンジにあったのだ。
ごくりとゲロを飲んでしまった彼は涙目になった。
「姫野のバーカ!!あれだけ言ったのに!!」
更にゲロを吐こうとする姫野の口元にエチケット袋を当てた因幡は彼女を罵倒する。
「あらら、すみません!何か拭く物ありますか?」
それを見たマキマは冷静に店員に拭く物を要求した。
ゲロを流し込まれたデンジを見た公安職員の反応は様々であった。
「仕方ありませんね」
「うええ…うっ!?」
おしぼりを手に取って床に垂れたゲロを拭く円。
嘔吐を目撃して吐き気が移って必死に手でゲロを押さえるコベニ。
「あはははは…」
「トラウマだなこれは…可哀そうに…結婚式でやる誓いのキスでも上書きできんなこれは…」
ツボに入った桜井は笑い、剛力はあくまで他人事としながらもデンジを心配していた。
「デンジ、ゲロは身体に悪いぞ!すみませんトイレ借ります!!」
その中でデンジの身を真っ先に心配した荒井は彼をトイレに連れて行った。
「大丈夫だデンジ、両膝を床に着けて前屈みになろうな?」
必死にデンジを励ます荒井は洋式便器の前で彼を前屈みの体勢にさせて頭を便器に近づけた。
こうする事で腹圧がかかりやすくし、異物を吐き出す姿勢になるのだ。
「オエエエエエエエ!!」
優しく揺すってあげるとデンジは便器の中に向かって嘔吐する。
「ゆっくりでいいぞ…」
せっかくの飲み会だったのに最後で台無しになってしまった。
「オエエエエエエ!!」
「全く…姫野先輩は自制心が足りてないんだ……」
終わり良ければ総て良しというが、デンジは今後ゲロについて思い出す事になるだろう。
彼自身には落ち度がないからこそ余計に可哀そうに見えた。
「デンジ君は約束を守ろうとしたのにな…散々だ…」
ディープキスの約束をしており、酔ってからやると言われたので拒否する理由がなかったのだ。
「吐かせるの上手いだろ?酔っ払った母さんを良く介抱したもんだ。ああ、懐かしいぜ…」
そんな母親も悪魔に殺されてしまい、父親は返り討ちに遭ってしまった。
その時に出会ったデビルハンターが姫野さんであった。
だから彼女は荒井の恩人であり、彼女の力になりたいと思ってデビルハンターに志願したのだ。
もちろん、彼女の裏の顔を見て幻滅はしたが、それでも憧れを抱く感情が変わる事は無かった。
「まあ、お前みたいにデビルハンターの素質がなかったけどな、ホント羨ましいぜ…」
しかし、森野ホテルの件で荒井にはデビルハンターとしての素質が無いと気付いてしまった。
本当は最後に姫野先輩に挨拶して退職届けを出そうとしたのだが、これだと言い出せない。
「ううっ?羨ましいだと……こっちゃああよお!?ファーストキスがゲロの味なんだぞ!?」
なお、羨ましいと聴いてデンジはゆっくりと反論する。
みんなは普通のキスをもらえたのに自分だけゲロキスを味わったのだ。
そして彼女とキスをする度にゲロを思い出す呪いを受けたのだ。
「それを……オロオロ……うええっ!?」
ご馳走も飲み物も姫野さんのゲロと混じり合って嘔吐を続ける。
「酔い止めを買って来るからデンジ君を帰らせないでね?」
「え?マキマ課長自ら酔い止めを買いに行かれるのですか?」
千葉公安対魔1課の因幡ナオミ副隊長は、他部署の課長であるマキマの発言に耳を疑った。
支払いが済んでいないのに店から出て行ったマキマを引き留めた結果、この有様である。
「何か問題でも?」
「……いえ、なんでもありません」
内閣官房長官直属のデビルハンターであるマキマには誰にも逆らえない。
「念を押しておくけど、
「存じております…」
一応、各部署の地位はほぼ同格で公安対魔特異4課の構成員の入れ替えが激しい影響なのか。
今でこそ何とか対等に会話できているが、バランスが崩壊すればマキマの私兵になりかねない。
今ですら意見を無理やり押し付けられる惨状に因幡は唇を噛み締めた。
「はぁ……少し会話するだけで疲れるのに…いつも彼女と接する
マキマの姿が見えなくなった途端、溜息をついて因幡は夜空を見る。
繁華街の明かりのせいで星がほとんど見えなかったが、満月だけは良く見えた。
「因幡副隊長、マキマさんってどちらにいっらしゃいますか?」
「酔い止めを買いに行ったの。だから上司さんが帰ってくるまでデンジ君を休ませましょ」
しかし、荒井の質問に集中力が途切れた因幡は簡潔に返答し、デンジを目視で確認した。
さきほどまで嘔吐した影響か、顔は真っ青だが、意識がはっきりしている。
「しばらく新鮮な空気を吸わせた方が良いわね。荒井君、デンジ君の事、任せてもいい?」
「もちろんです」
「じゃあ、私は姫野さんの面倒を見るね。同性なら過ちは起きても妊娠する事はないから…」
「ちょ!?冗談でもやめてくださいよ」
「ふふふふ、女の子の冗談を軽く流せるようになったら一人前の殿方だよ~!あとはよろしく!」
それを見て大丈夫だと判断した因幡は、荒井にデンジを任せた。
ついでに冗談を述べて彼を揶揄って反応を楽しんだ彼女は店内へと消えていった。
「俺の…ファーストキス……」
「まあ、生きていればいい事あるって…」
荒井もデンジも両親を失ったという共通点がある。
それでも必死に生き延びて来たから今があるのだ。
「デンジ、お前を見て考え直したよ」
「にゃ、にゃにが…?」
「お前が頑張ってるから俺も頑張らないと先輩として情けないと思ったんだ」
退職届を出そうとしていた荒井は、デンジの姿を見て思い直した。
16歳の彼ですら必死に戦っているのだから22歳の自分が尻尾撒いて逃げる事ができなかった。
それに死んでいった弟に似ている気がしてなんか見捨てられてなかったのもある。
「コベニちゃんもなんだかんだ残ってくれるらしいし、もうちょっと頑張ってみるさ」
「どうでも…いいけど…よ、お前、くっつきすぎだろ?」
「いやーこうしないと倒れた時に困るからな。気分がマシになるまで我慢してくれ」
「えぇー!?男と一緒にいるの。いやですヶどぉ?」
右腕を回して自分を寄せている荒井にデンジは抗議するが、彼は聞く耳を持たなかった。
そうこうするうちにマキマさんが大通りから出現し、ビニール袋を持って駆け寄って来た。
「あら、荒井君。デンジ君の面倒をみてくれたの?」
「先輩として当然の事をしたまでです」
「ありがとう荒井君、今回の件はどこかでお礼をしないとね!」
マキマに話しかけられた荒井は背筋をピンと伸ばして興奮しながら彼女と会話をする。
未だに上司と会話するのは慣れないが、忠誠心は間違いなくある。
「問題ありません、自分は支度をしますので失礼してもよろしいでしょうか!?」
「ありがとう。じゃあ、デンジ君と話をしたら会計をするからそれも伝えておいて」
「承知しました!」
上司にデンジの介抱を任せた荒井は店内へと入っていった。
「デンジ君、酔い止めを持ってきたよ。寝る前に水と一緒に飲んでね」
なにやら何かを舐めているマキマは、ビニール袋をデンジに手渡した。
袋を受け取ったデンジであるが、浮かない顔を続けていた。
「マキマさん…俺ぇ、糞みてぇなファーストキスをしちゃいました…」
ゲロのキスを味わったデンジは、これが天罰だと思った。
せっかくマキマさんと約束したのに勝手に他の女に浮気した罰だと…。
「俺はこれからいろんな女性とキスをするたんびにぃ!ゲロの味を思い出すのかと…」
それでもデンジはたくさんの女性とキスするのは諦めきれなかった。
情けない事であるが、マキマさんだけでは満足できない。
「いえ、マキマさんを裏切ってる。違う、俺は変な事言ってますが…ああ…」
いろんな感情がごちゃ混ぜになり、何を言いたいのかデンジも分からない。
しかし、デンジの様子を見て何かマキマは思ったのか。
棒を掴んでしゃぶっていたキャンディを口から取り出した。
「口を開けて」
唾液の糸が飴に伸びているにも関わらず、マキマはデンジに指示をした。
言われた通り、あっさりとデンジが口を開くと…。
「一生、ゲロの味を忘れられないキミにプレゼント」
マキマは棒付きキャンディを優しくデンジの口の中に入れた。
「どんな味がする?」
「
口の中に入ったキャンディはとっても甘くて少しだけ酸っぱさもあった。
優しい上司の質問に返答したデンジは湿っているキャンディを舌で転がす。
「とりあえずファースト間接キスは、チュッパチャップスのコーラ味だね」
マキマさんの一言で間接キスをしたと知った。
「デンジ君は、これから死ぬまでいろんな味を体験するの。ゲロの味で満足している暇はないよ」
マキマの一言で自分がどれだけくだらない事で悩んでいたのかと知った。
だからデンジは、マキマさんの事がもっと好きになったし、もっと知りたいと思った。
「これからお会計するけど…少しだけ待てる?」
「もちろんです!」
お留守番を任された子供の様にデンジはマキマさんの言う事をきいた。
それから5分後、公安対魔特異4課の構成員が退店し、店の前で待機していた。
「ちょ!?先輩!?」
後は挨拶をして別れるだけであったが、予想外のトラブルが発生する。
なんと、酔っ払った姫野がデンジを背負って家に帰ろうとしているのだ。
「姫野!?なにやってんの!?」
トヨタ・ラ〇ドクルーザー プラドを乗りこなす因幡は窓から姫野に呼び掛けた。
「なにぃ~って家に…かえるぅうのよぉおお」
「だったらデンジ君は要らないでしょ!?」
「家にぃ!送ってぇいくのぉ!」
「いいから乗りなさい!!」
もはや正気か怪しい姫野の返答に運転席のドアから飛び出した彼女はあっさりと姫野を捕獲。
後部座席にデンジごとぶち込んでそのまま走り出してしまった。
「私のえいぃに!行くのぉ?」
「飴ちゃんやるから黙ってなさい」
このままだとデンジがあの世にお持ち帰りされそうだったので因幡は姫野に飴を投げつける。
「うぃいい!やったあぁああ!?」
飴をゲットして喜ぶ姫野はそのままガッツポーズをしたまま眠ってしまった。
ちなみにデンジは姫野が行なった激しいアトラクションで気を失っている。
小学校の組体操でやる騎馬戦の10倍過酷な振動に気分を害した彼は耐え切れなかったようだ。
「はぁ…デンジ君の貞操と安全が守れそうで良かったわ…」
限界まで酔っ払うと姫野は何をしでかすか分からない。
赤信号で停車した因幡は、フロントミラーで2人が眠っている姿を見て溜息をついた。
「それじゃあ、アキ君を送り届けたら私の家まで行ってね」
「承知しました」
トヨタ・ア〇ストに乗り込んだマキマは所有者である結婚の悪魔に命令を下した。
部外者である早川が居るので態度や口調で示さなかったが、ハンドルを握った手が震えている。
「そうそう、因幡ちゃんに会ったんだけどね」
「ああ、千葉県の1課で副隊長をやっている子ですね、どうせ姫野さんが呼んだんでしょう?」
わざわざ名前を出すところからして絶対に何かあると結婚の悪魔は確信している。
「
「千葉県にデンジ君が行く事はないので大丈夫だと思いますが…」
やっぱり嫌がらせをしてきやがった。
そう考えた結婚の悪魔は、窓の外に居る部下たちに手を振って車を発進させた。
(直接会って自分の契約者
ある程度は予想がついたが、なんでわざわざデンジの生存を厳命させるか分からない。
…が下手に発言すると更に失態を犯すかもしれない。
必死に無関心を装う結婚の悪魔は早川が住むアパートに向かって車を走らせた。