デンレゼが足掻く度に不幸になるケッコンの悪魔さん   作:Nera上等兵

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15話 RE:エッチ未遂から始まる同盟婚活

千葉公安対魔1課の因幡ナオミは焦っていた。

酔っ払いまくって暴走している姫野が住む高層マンションの一室まで来たのは良かった。

 

 

「姫野、デンジ君の家はここじゃないよ~。大人しく放しなさい!」

 

 

何故か姫野がデンジを抱き枕にしており、引っぺがすのに苦戦していたのだ。

近所迷惑なので大声や音を立てる訳にもいかず…だからといって力づくも難しい。

 

 

「守衛さんも協力してよ」

「で、ですが…」

 

 

仕方なく高層マンションを警備している守衛を呼び出したが、彼は怖気づいていた。

原因としては、似た様な事例で介抱したら、住民に訴えられた裁判があったからだ。

女性が「この人、痴漢です」と一言叫べば、無罪であっても男の人生が破滅するのだ。

よっぽどの馬鹿でなければ、泥酔した女性を介抱する男は存在しない時代になった。

 

 

「私が証人になるからさ、いいから手伝って」

「む、無理です…」

「…この役立たず」

 

 

“セクハラの悪魔”とか“冤罪の悪魔”を恐れているかと思うほどのへっぴり腰である。

あまりにも木偶の棒過ぎて姫野に別のマンションに移転するように提言したくなったほどだ。

 

 

「変態」

 

 

しかも姫野が寝言で男にとって致命傷になりえるワードをさきほどから叫んでいるのだ。

その気になれば、姫野からデンジを引っぺがす事も出来たが、逆に守衛が邪魔になる。

 

 

「もう勝手にしなさい」

 

 

せめて早川アキを抱けよと思った因幡は、抱き着く姫野からデンジを取り返すのを諦めた。

とりあえず、役立たずの守衛をマンションの運営会社に通報するとして()()()にも報告する。

既成事実が発生する可能性は限りなく低いが、0パーセントと否定できる根拠はない…と。

 

 

「デンジ君の耳にピアスが付く事に賭けておくわ」

 

 

姫野とデンジのコンビをベッドにぶち込んだ因幡はドアを閉めて部屋から去っていた。

彼女の後を追いかけるのは、運営会社に通報しないでほしいと懇願する守衛のみ。

当然、通報されてすぐに代わりの人材が配置される事になったのは語るまでもないだろう。

 

 

「……あれ?」

 

 

深夜3時にデンジは口に違和感を覚えて目覚めた。

 

 

(ほえ!?)

 

 

何故か下着姿の姫野が口に含んだ水をデンジに口移しで放出していたのだ。

ゲロの次は水であるので、前よりはマシであるが文字通り、寝耳に水がかかった。

 

 

「ありゃああ!?デンデンデンデン虫?じゃなかったデンジくぅん?なんでここにいるの?」

 

 

酔いが少しだけ醒めた姫野は、自分の部屋にデンジ君が居る理由が分からない。

2時間前に目覚めていたら因幡からツッコミを入れられたが、残念ながら彼女はここにいない。

 

 

「ははん、私がつれてぇきちゃったヵぁ…んれ?」

 

 

水、水というから水を飲ませたのだ。

いや、自力で飲めないと思って口移しで飲ませてあげた。

そこまで覚えているのだが、発言主がアキ君では無くデンジだと気付いた。

 

 

「うおおお…なんだこれ」

 

 

デンジ自身は濃厚なキスが続いて寝起きながらも身体の調子がおかしい。

姫野のゲロがもたらしたアルコールが彼の中で悪影響を与えていたのかもしれない。

少なくとも車酔いも含めて気分は良くなかった。

 

 

「ねえ、君ってマキマさんの事、ラブでしょ~おお?」

「くらくらするぅ…」

「話が通じないなぁ、お通じは通じるのひぃいなんで通じないのぉ」

 

 

デンジのほっぺを人差し指で突っついて反応を愉しむ酔っぱらいは本音を漏らしてしまう。

 

 

「あんな糞女なんか、やめておきなよぉー。アキ君もデレデレぇしちゃってさ。もう全くぅ」

 

 

マキマにアキ君の心を取られてしまった姫野は嘆く。

 

 

「もおおぉ!牛、ぎゃはははは!はあ、しんど…」

 

 

牛の真似をしても何も変わらないのでデンジの顔を見る事した。

 

 

(おっ、意外と可愛いジャンけっと)

 

 

ここで姫野は悪い事を思い付いた。

アキ君がマキマさんに取られたのなら今度は自分がデンジ君を取れば良い。

NTRだ!とか言われそうだが、そもそも寝てから言えと言ってやるつもりだ。

 

 

「ねえ…しちゃう?」

 

 

興味本位から出てしまった邪心だった。

本来ならこんな事を言わないはずだが、デンジ君を気に入っているのは事実である。

なので半分寝ぼけているデンジの耳元で小言でエッチのお誘いをした。

 

 

「…し、…しちゃうって?」

「性行為」

 

 

デンジは一応、本能で何が起こるか分かっていた。

しかし、改めて聞き返すと単刀直入に言葉のダイレクトアタックを受けた。

 

 

「万歳」

 

 

姫野の発言に思わず両手を挙げてしまう。

まさかのエッチができるという事で自分は死んで死後の世界に居るかと思った。

いや、既に1回は死んでいるが、それでもこんなに簡単にエッチしていいのか。

 

 

(しちゃっていいのか……?)

 

 

マキマとエッチするには銃の悪魔を討伐する必要がある。

一方、飲み会に参加してゲロを流し込まれただけで姫野先輩とエッチできる。

比較するとあまりにも軽い代償過ぎて何かがあるのかと疑ってしまう。

 

 

(マキマさんになる予定だったファーストキスを怪我した女に…初めてを捧げていいのか?)

 

 

急募、金髪のおっさん。

対して好きじゃなかったのにいつの間にか愛を育んでいたらしくエッチが可能です。

このままエッチしてもいいでしょうか…と言いたくなるほどデンジは混乱してしまった。

 

 

(あっ、カワイイ)

 

 

上半身を素っ裸にされたデンジは微笑んでいる姫野が可愛かった。

そのせいでズボンを逃がそうとする姫野に抵抗する事ができなかった。

 

 

「おりょ?」

「ん?」

 

 

ところが姫野がポケットを弄って何かを取り出した。

 

 

「チュッパチャッパス~!?汚ぇえ!?」

 

 

それは舐めかけの棒付きキャンディだった。

デンジはマキマさんが舐めていたキャンディをそう簡単に噛む事ができなかった。

だからポケットに入れて冷蔵庫に保管しようと思っていたのだ。

 

 

「それ俺の!」

「えぇえー?いつもらったのぉ?」

「マキマさんが酔い止めと一緒にくれた!」

「ふーん」

 

 

そんな事をすれば早川アキに怒られるのは分かっていた。

でも、勿体なくてすぐに舐めきる事ができなかった。

 

 

(ダメだ、あれだけ俺の事を想ってくれるマキマさんに…)

 

 

なにより、マキマさんとエッチするのは確定事項であった。

もちろん、銃の悪魔をぶっ殺してからになるが、それでも楽しみはある。

銃の悪魔の肉片を集める度に喜んでもらえるのだ。

 

 

「ひ、姫野パイセン!」

「どうしたの?」

「俺、未成年っす!さすがにまずいって!」

「んん?……無理ならいいっか」

 

 

未成年をアピールすると少しだけ残っていた理性が働いたのか。

それ以上、デンジを誘惑せずに姫野先輩は下着姿で爆睡した。

 

 

「ごめんなポチタ……でも俺、初めてを捧げるのはマキマさんがいいんだ…」

 

 

人生で初めてエッチする機会は自分の意志で拒絶した。

でも、ポチタに話しかける様に独り言を呟いたデンジは後悔していない。

 

 

「銃の悪魔をぶっ殺す…その日まで……我慢しような…」

 

 

チュッパチャッパスのコーラ味に向かって呟く姿は第三者からすれば不気味すら思える。

だが、当の本人は本気であった。

 

 

「デンジ君、おはよう」

 

 

声をかけられて瞼を開けるとそこはいつもと違う寝室であった。

姫野先輩が居た時点で早川アキのアパートではないと分かっていた。

しかし、朝日の光で照らされた部屋は意外と物が片付いていてすっきりしていた。

 

 

「朝ごはんって食べれそう?」

「食べる!食べる!!」

 

 

何かを言おうとしたが、朝ごはんが出されると知ってデンジは快く返答した。

ベランダに誘われて外に出るとそこには、丸いテーブルと向かい合うように椅子が2個あった。

 

 

「お好きな席に座ってね」

「じゃあ、ここにする」

 

 

一番近かった椅子に座るとテーブルを挟んで置いてあった椅子に姫野が座る。

早朝のそよ風は心地よく、昨晩の気持ち悪さが吹き飛ぶようであった。

 

 

「これ、なんすっか?」

「サンドイッチだけど…知らないの?」

「ゴミ箱を漁っていた時にそんな名前のプラスチックごみを見た様な…」

 

 

そして見た事ない料理を指差してデンジは料理名を訊く。

すぐに姫野が返答するが、料理名を知ってもピンと来ない様だ。

 

 

「へえ、ホームレスの達人じゃん」

「ちゃんと家はあったんすよ!人間として最低ですけど俺は――」

 

 

姫野はデンジと雑談していると自分とは違う世界で生きて来たと知る。

既にアキ君からデンジの事を聴いていたのだが、思った以上に壮絶な世界で生き抜いた。

特に金玉を売り飛ばした事があると言われて真顔で彼の顔を見たほどだ。

 

 

「人を見下して食べる飯はうめぇな。今度ベランダでやってみよっと」

「そんな事したらアキ君に怒られるよ~?」

「おやつの時にやるよ」

 

 

とにかく純粋で何かをやれば満足する。

常人なら当然である事ですら彼にとってご褒美になっているようだ。

 

 

「ねえ、昨晩の記憶がほとんどないんだけど…その私が君に乱暴しなかった?」

「誰がゲロ女とやるかよ、初めてはマキマさんとやるって決めたんだ」

 

 

そして本題を質問するとなんとか留まったようである。

とりあえず、半ば安心し、少しだけ勿体ない気がした。

 

 

「あーよかった。未成年に手を出したらさすがに逮捕だからね」

 

 

未成年の男子学生にわいせつ行為をやって逮捕される女教師は僅かだが居る。

まるでエロゲーの世界観であるが、実際に成人女性が未成年に手を出す事もある。

自分の氏名がテレビや新聞に載せられずに済んだと知って姫野は安心した。

 

 

「…デンジ君ってすごいと思うよ。普通だったら気まずくなる雰囲気だよ?」

「そうすっか?タダで飯が喰えるならいくらでも寄りますよぉ?」

 

 

美味しい物を食べれば満足できる体質は姫野からすれば羨ましい。

後悔する事が合ったりストレスでやけ食いをしても虚しくなるだけだから。

 

 

「…そういや、デンジ君もマキマさんの事、好き?」

「超好き!マジで大好き!!」

 

 

マキマに対する好感度はゲージを振り切っているようである。

しかし、姫野はそこまでマキマが誰からも好かれる存在だと思えない。

 

 

「…例えば、マキマさんの性格が糞でも好き?」

「糞好き!!」

 

 

なにより誰もがこう言うのだ。

マキマさんは命の恩人だから裏切れないと…。

でも、具体的な事は誰も言ってくれない。

そう考えると大した事を言っていないデンジ君は意外と主体性があると思えるほどに…。

 

 

「ふ~~~ん」

 

 

ここで姫野は閃いた!

デンジ君をけしかけてマキマさんをデートに漕ぎ着けさせれば何かが変わるのではないかと。

確信はないが、少なくとも妄信的に彼女を信頼している野郎共の頭を破壊できるのでは?

 

 

「よし、私がデンジ君とマキマさんをくっつけてあげようか?」

「ええ!?マジで!?」

 

 

デンジが求めそう提案をするとあっさりと彼は嬉しそうに喜んだ。

本当に単純すぎてアキ君並に可愛く見えてしまう。

 

 

「マジマジだよ~。デンジ君、私と極秘で同盟を組もうじゃないか」

「同盟って?」

「目的の為に一緒に協力したり、行動する事だよ~」

 

 

今まで諦めていたが、よく考えてみればアキ君はデンジ君を必死に育てている。

もしも、デンジ君に対する家族愛がマキマへの愛を上回る時…思い出してくれる。

自分とアキ君が愛し合っていたという事実を思い出してくれると期待した。

 

 

「つまりね、マキマとくっつくように協力するからさ。私とアキ君をくっつけてよ」

 

 

それにデンジの行く先には、必ずと言ってもいいほどアキ君の姿がある。

だから共に行動すれば、きっと双方の夢が叶いやすくなる。

 

 

「あいつんのどこが気に入った?」

「顔」

 

 

悪そうな顔をしたデンジに正直に姫野は白状した。

寝顔が一番好きなのだが、それを見る機会はもうないだろう。

そう諦めていた自分に姫野は叱責したいくらいだった。

 

 

「は~~ん、分かった。同盟を組もうぜ」

「そうこなくっちゃ!」

 

 

双方の利点が一致した事でデンジと姫野は同盟を組んだ。

あえて名前を付けるとしたら恋愛同盟ってやつになりそうである。

 

 

「じゃあさ、こんな感じに2人っきりになったらね。友達感覚で名前を呼び合おうよ」

 

 

ここにいるのは、ひたすら恋愛したくてしょうがない男女である。

そこに歳の差も体格も性別も関係なかった。

 

 

「さすがにアキ君の前で呼び捨ては難しそうだけどね」

「そりゃあそうだ。だってアキだって姫野が好きみたいなんだから」

「……へへへ、そっか。嬉しいなー」

 

 

久々にアキ君の内情を知った姫野は高層マンションのベランダから景色を見下ろす。

地上を歩いている人間がアリのように見えて確かに見下してもしょうがないと思えた。

中々面白い経験をした姫野は再びデンジの顔に向き合う。

 

 

「場所を教えるからさ、たまには朝ごはんを食べに来なよ。アキ君やパワーちゃんと一緒にね」

「どの道、アキに言わないといけねぇからな。一緒に来るぜ」

「楽しみにしてるよー」

 

 

最近、猫でも飼おうかと思っていた姫野だったが、その必要はなさそうだ。

だって猫以上に面白くて癒してくれそうな存在が目の前にいるのだから。

 

 

「……マキマさんもこねぇかな」

「さすがにマキマさんを呼ぶのは難しいかもね。取り巻き揃えて今日から出張だし…」

 

 

早朝からマキマは部下たちと共に京都に向かって出発した。

きっと帰って来ると更に大騒動に巻き込んでくると確信している。

 

 

(事故で足止めにならないかなー)

 

 

だからこそ姫野は不謹慎であるが、マキマに何か事故が起きないか期待した。

それから2時間後、新幹線300系電車での車内は当然のように混雑していた。

 

 

「やけに嬉しそうですね」

 

 

マキマの護衛の1人が結婚の悪魔が化ける公安職員に質問した。

 

 

「駅弁を食べるのが愉しみでな」

 

 

結婚の悪魔はマキマと同行すると聴いてテンションがマリアナ海溝の底より下がった。

しかし、当日に駅に集合すると頼れる仲間が2人も居たのだ。

 

 

(おお!!これでマキマの虐めや対応をしなくて済むぞぉ!!)

 

 

係長という役職でありながら実際は副隊長に毛が生えたほどの権限しかない。

なのに複数の課と交渉する中間管理職なので下手すれば隊長より激務であった。

しかし、この場に揃ったのは最低でも副隊長格であり、同格に近い存在だ。

 

 

(特に秘書官!お前には期待してるぞ!!)

 

 

特に新幹線の指定席でマキマの隣に座る秘書官はエリートである。

そんな彼から通路を挟んで座る結婚の悪魔は、駅弁2つを膝の上に乗せていた。

何があっても真っ先に彼が対応する以上、悪魔はその指示に従えば良い。

 

 

(自分は何もしなくていいからな!!)

 

 

そんな事を考えていたら無意識に口角を釣り上げたのか。

窓際に座る副隊長に指摘されてしまっただけである。

 

 

(ゾンビの悪魔を討伐する時みたいだな…!この頼もしさは…!)

 

 

思えば、デンジと出会った時が公安職員でもトップクラスの実力者揃いだった。

最低でも副隊長であり、リーダーがマキマという豪華さは今思えば信じられない。

少なくとも結婚の悪魔が同僚と呼べるほどの階級の護衛に満足していた。

 

 

「京都に何時に着くんだっけ?」

「あと30分ですね」

 

 

なんか赤髪の女職員が申しておりますが、すぐに秘書が即答する。

何と素晴らしい存在なのだろう。

マキマも人間相手は手加減してくれるのでこっちに飛び火する事はない。

さっそく結婚の悪魔は、一番上に置いてある駅弁を食べようとした。

 

 

「じゃあ、駅弁を食べれる時間があるね」

「…1時に会食がありますよ」

 

 

窓際に座っている女は立場故に気軽に駅弁すら自分の意志で買えない。

いやー偉くなるのも短所があるもんだと結婚の悪魔はしみじみと思う。

 

 

(降格してぇな…)

 

 

むしろ、責任と仕事量の重さから副隊長に降格したくなったほどだ。

 

 

「ちゃんとそれまでにお腹を空かせておきますよー」

 

 

おそらく軽食になるので駅弁を食べても問題はないはずである。

問題なのは、京都支部の部下を通してその情報を知ったお偉いさんはどう思うだろうか。

自分たちが用意した最高のおもてなしより平凡な駅弁を評価していると感じてしまうだろう。

秘書官がマキマを窘めているのは、そういった理由もあるのだ。

 

 

(ざまあああああああああ!!)

 

 

昨晩まで酷い目に遭った悪魔はようやく合法的な復讐ができそうであった。

さすがに両手を振って舌ベロを出して煽りはしなかったが、駅弁は自分しか持っていない。

そして自腹で買った以上、同僚がこの弁当を渡す事も無いと確信があった。

 

 

(堂々と喰ってやるよ!!)

 

 

窓際に座っている副隊長に軽く会釈をして駅弁を開封しようとする!

ちゃんと美味しく頂く予定なので文句の1つもマキマに言わせないつもりだった。

 

 

「それにちゃんと私の分の駅弁を買ってくれたし」

「…え?」

 

 

マキマがとんでもない事を言った気がして通路を見ると…。

通路を挟んで座る秘書官の席の向こうからマキマがこっちを見て来る。

これには自腹で駅弁を買った結婚の悪魔もご立腹!

 

 

(はああ!?ふざけんな!!これは自分の駅弁だああああ!!)

(私にください。これは命令です)

(誰が従うかよ!?見ろよ、みんながこっちを見てるじゃないか!)

(くれないの?この空気感で?)

(うるせぇよ!)

 

 

視線だけでこんなやり取りをしているが、分が悪かった。

なにせ秘書官や副隊長が憧憬の眼差しで悪魔が化ける職員を見ているのだから…。

彼らの頭の中では、マキマさんの思考を読んで前もって買ったと思っているのだろう。

そんなワケねぇよと暴露したいが、立場というものがある。

 

 

「コホン、景色を楽しそうに眺められていたのですぐには召し上がらないのかと…」

 

 

なので適当な建前で逃げようとするが…。

 

 

「いいから早くください」

「…承知しました」

 

 

ついに本音を漏らしたマキマにしぶしぶと駅弁を差し出す羽目になった。

今までの経験からこれ以上、彼女を怒らせると碌な事が起きないのは分かっている。

仕方なく立ち上がった悪魔は、通路を挟んだ席に座る秘書官に駅弁を差し出す。

そのまま問題無く駅弁はマキマの手元に渡った。

 

 

(ふーん)

 

 

ちょうどその時、マキマが座っていた前後の席で乗客に動きがあった。

会話の流れからどんな弁当か気になる事はあるだろう。

現に周囲の乗客も通路に佇む公安職員を見ていた。

ただし、シンクロ競技みたいに息を合わせて自分たちを覗き込む真似はしない。

 

 

(はあ……)

 

 

誰もが一瞬だけ余所見をした瞬間!

マキマが座る前後の指定席に居た4人が一斉に立ち上がった。

そして前もって構えていた拳銃で秘書官とマキマに向かって発砲した!

更に別の場所でも発砲が起きていたという二段構えである。

 

 

「え?」

「ん?」

 

 

発砲してから2.5秒が経過した頃であった。

マキマたちを始末しようとした刺客たちは目を疑った。

一斉に発砲したはずなのに誰一人負傷していないのだから。

 

 

(お前ら…!)

 

 

公安の職員に化ける悪魔はマキマと秘書官に発砲された4発の弾丸を素手で掴んでみせた。

それどころか、副隊長と自分に向けられた4発の弾丸すらも掴んでいた。

だが、これ自体は想定していたので大した怒りは無い。

銃弾を片手で握り締める結婚の悪魔が激怒した理由は単純だ。

 

 

(よくも秘書官を殺そうとしたな…!)

 

 

自分の苦労を肩代わりしてくれる存在を殺そうとした刺客に殺意を向ける。

ちなみにマキマはどうでもよかったが、見捨てるといろいろとまずいのでとりあえず救っただけ。

片手で握り潰した8発の弾丸を床に捨てた悪魔は、既に行動を終えており、待機している。

 

 

「なっ!?」

「いっ!?」

 

 

すぐさま再度、発砲しようとすると刺客たちの腕に激痛が奔ったと共に拳銃が手元から消えた。

まるで魔法のように拳銃が消えたが、何の事はない。

 

 

(間抜けめ)

 

 

既に拳銃を握ってなかったのに人間の視力と脳の限界でそこにあると錯覚していただけだ。

銃弾を握っていない方の手でトランプの束を扇状に持つように8丁の拳銃を所持していた。

早業のせいで微動だにしていないように周囲から見えている悪魔は笑う。

 

 

「マキマさん、刺客からも大人気のようですね」

「うーん、こんな人気なんて欲しくなかったよ」

 

 

8丁の拳銃を両手で握り締めて球状の物体にした結婚の悪魔はマキマに皮肉を言う。

彼女自身は本音を告げたようだが、悪魔からすれば図々しくて反吐が出る。

自分が慕う秘書官や副隊長を捨て駒にして困らせようとした彼女に苛立ちすらある。

 

 

「誰からも好かれて素晴らしい方だと思いますけどね」

「…ふーん、京都のお偉いさんより酷い事を言うね」

「生け捕りにする気が無い貴女がそれを仰いますか?」

「なんのことかなーうわーなんか変な匂いがするねー」

 

 

会話の最中、手元に拳銃が無いと気付いた刺客はその瞬間、肉体が弾け飛んだ。

手榴弾の様に肉片が飛び散る事も無くむしろ蛇口から漏れた水のようである。

少しだけ血しぶきで壁や座席を濡らして床をゲル状の血肉で染めていく。

 

 

(さて、どうやった?)

 

 

一斉に発砲した弾丸と拳銃を掴める瞬発力と身体能力がある悪魔ですら攻撃を見破れなかった。

本当に殺すつもりが無かった刺客の肉体が何もしてないのに勝手に弾けたのだ。

 

 

(空気の流れから分析しても8人の刺客が破裂した原因が分からん…)

 

 

だから悪魔の能力で確定であるが、どんな能力が一切分からなかった。

 

 

(服装は残ってるな…)

 

 

唯一のヒントがあるとすれば、服装は無傷という点か。

肉体に影響する悪魔の能力を想定するしかなかった。

 

 

(少なくとも部下たちもマキマも関与してない…)

 

 

周りを見るとマキマの護衛たちがようやく懐にあった拳銃を取り出す姿が見えた。

反応が遅すぎるように見えて奇襲を受けたと感じ取る暇すら与えなかったのだ。

なので自分たちの会話の違和感だけで拳銃を取り出したところを見ると確かに精鋭だと言える。

 

 

「きゃあああああああ!!」

「うわああああああああああ!!」

「いやああああああああああ!?」

「血だああああ!?」

 

 

ようやく何も関係なかった乗客たちが事態を把握して悲鳴をあげる。

しかし、何が起こったか分からずに戸惑うばかり。

なので結婚の悪魔は先手を打った。

 

 

「皆さん!!落ち着いてください!公安のデビルハンターです!!たった今、乗客を狙った悪魔を討伐しました。既に安全を確保しましたが!現場検証と犠牲者の確認の為に動かないでください」

 

 

思ってもいない事なのにマキマのせいで舌先三寸で言い訳をできるようになった。

彼女の無茶ぶりに応え続けた結果、手に入れた技能であるが、全然感謝していない。

むしろ、やる事が多くなるので自発的に発言したくなかったまである。

 

 

「こちらが討伐した悪魔の死骸です。どうか、落ち着いて席にお座りください」

 

 

さきほど両手で作っていた球状の物体を変形させて討伐した悪魔の死骸に見せかけた。

両手で周りの乗客に示して既に車内は安全だと示す。

悪魔が居た証拠を見せられてはパニックになっていた乗客も座る他に選択肢はない。

乗客が落ち着いたのを確認した結婚の悪魔はやむを得ず同僚に指示を出した。

 

 

「副隊長、車掌に悪魔襲撃と悪魔討伐の一報を入れてほしい。新幹線は京都で停車させろ」

「は、はい!」

「秘書官は臨戦状態のまま待機をお願いします」

「了解した!」

 

 

なんで自分1人で結果が分かり切った現場検証をしなければならんのだ。

というか、マキマが仕切れよ…と言いたくなる惨状である。

せめて京都に待機させている職員たちと合流してからやれば良かった。

そう考えてしまうが、無表情で親指を突き立てているマキマに腹が立つ。

 

 

「…それでよろしいですよね?」

「うーん、デンジ君たちが心配だね」

 

 

とりあえずマキマの反応からして問題ないらしい。

 

 

「ねえ、君ならデンジ君を救えるでしょ?」

「……なんで新幹線に居る小官が東京に居る彼らを救えると思えるんですか?」

 

 

ところが、彼女の一言で結婚の悪魔は警戒した。

 

 

()()()()()()()()()()がいるでしょ?」

「小官には、刺客や悪魔に対処できそうな親戚も家族もおりませんが?」

 

 

マキマが何を言いたいのか、公安職員に化ける悪魔は分かっている。

問題なのは、なんでバレたかという事だ。

 

 

「私の鼻を誤魔化せると思った?」

「さすがです」

 

 

やはり見抜かれていた。

薄々勘付かれていると思っていたが、予想より速かった。

この場に居る結婚の悪魔は、【本体の1つでしかない】って事がマキマにバレたのだ。

 

 

「では、その優秀な鼻で…」

「駅弁をじっくりと味わせてもらいます。あっ、会食をキャンセルさせなきゃ…」

「そうですか…」

 

 

せめて検証の協力を要請しようとしたが、暢気にマキマは駅弁を食べ始めた。

まるでこうなる未来を見抜いていたように穏やかに駅弁を食べるその姿は…。

1秒でマキマ以外の乗客を皆殺しにできる悪魔から見ても、得体がしれない悪魔に思えた。

 

 

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