デンレゼが足掻く度に不幸になるケッコンの悪魔さん   作:Nera上等兵

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17話 101匹ワンちゃんに勝てるわけないだろ!

E班から「C班がマキマを始末した」と情報展開を受けて襲撃犯たちは迅速に動いた!

事前に念入りの訓練と幾度と練り直した作戦が油断した公安職員相手に功を奏する!

見事に目的を達成した沢渡アカネは、契約で欠けた爪を見ながらトランシーバーで連絡を取る。

“チェンソーマンの心臓”を確保した以上、長居は無用だった。

 

 

「こちら沢渡、練馬西大ビル付近でチェンソーを確保した。F班応答どうぞ」

 

 

しかし、路地裏の後方で展開するF班の応答を得られなかった。

既に発砲してから合流したので駆けつけて来た警察の追手から逃走しているのかもしれない。

 

 

「三島、なにやってんだ!早くしろ!」

「上半身だけとはいえ重いんだよ。誰か手伝ってくれ!」

 

 

トヨタ・ハイエ〇スにチェンソー男を運ぼうとしている三島シュウゾウは助けを求めていた。

運転席で救援要請を聴いた菊川ノボルは、要領の悪さにハンドルをトントンと指で叩く。

それを見た長嶋モトムは、拉致に苦戦している三島に近寄って運搬の手伝いをする事になった。

 

 

「普通に頭の取っ手を掴めばよくねぇ?」

「あ…」

「お前の坊主頭の中に何が詰まってんだよ!考えれば分かる事だろ!?」

 

 

何故か三島がわざわざチェンソー男の両脇を持って引き摺るように運んでいた。

普通にチェンソー頭にある取っ手を掴めと長嶋が告げると彼も気付いた様だ。

 

 

「サツが来る前に一仕事…」

 

 

慌てて頭の取っ手を掴んだ三島を見て長嶋も両腕を掴んで運ぼうとする。

その刹那、パンと弾けた音と共に三島が地面に叩きつけられた。

 

 

「ん?」

 

 

目の錯覚かと長嶋が思う暇も無く右頬を強打された衝撃で拉致用の車両と激突した!

井上タカシは何事かと拳銃を構えるが、両手の痛みと共に銃を叩き落とされた。

それと同時に路地裏で後始末をしているはずのヤクザの孫が車両に激突した!

まるでハイエ〇スは拉致に使用する為の車ではないと示すように…。

 

 

「何事!?」

 

 

不意打ちを受けた沢渡アカネは拳銃を構えるが…。

超高速で唸る何かに銃を弾き返されてしまった。

その勢いで上半身だけになったチェンソー男は何かに巻き付かれて路地裏に向かって飛んだ。

 

 

「デンジ君!助けに来たよ!!」

 

 

千葉公安対魔1課に所属する因幡ナオミは、千葉県で地元最強のデビルハンターと評される。

緑髪のサイドテールに公安職員では珍しい膝丈のスカートを履く彼女は鞭を得物とする。

新体操のリボンを振り回すノリで見事に敵対勢力の一時的な無力化とデンジを奪還してみせた。

 

 

「し、死んでる…」

 

 

だが、下半身を失って時間が経過していたデンジが生きている訳も無く…。

悪魔だからまだ生きているだろうと当てにしていた因幡は予想を大きく外す事になった。

 

 

(ええええ!!?私の管理下で死なれるとマキマさんに怒られるだけじゃすまないんだけど!?)

 

 

拳銃を構える集団よりマキマが怖い因幡は、鞭で引き寄せた彼を地面に置いた。

ヤクザ共が銃を構え直す中、血塗れの白狼が彼らを牽制するように唸りをあげて近づいていく。

 

 

「と、とりあえず起きて!!昼だよーッ!!」

 

 

デンジの胸部にあるスターターロープを引っ張れば、傷が再生できる。

公安対魔特異4課の係長からそう知らされていた彼女は藁にもすがる思いでロープを引っ張る!

プスンと音を立てたと同時にチェンソー頭から普通の人間に戻ったデンジは目を覚ました。

 

 

「あ、あれ?」

 

 

スターターロープを引っ張った事でデンジが蘇生したと同時に傷口からの出血は止まった。

しかし、聴いていた話と違って身体が元に戻らず、相変わらずデンジは上半身だけのままだ。

 

 

「もう1回!!」

 

 

再度ロープを引っ張るが、ガス欠の音がしただけでチャンソーが生えないし、肉体も復活しない。

これを引っ張ればデンジの身体が元通りになると聴かされていた因幡は本気で困惑した。

 

 

「……え?なんで!?」

 

 

なんでデンジが元通りに復活しないのか彼女は理解できない。

無意識に鞭を2回振って13発の銃弾を弾き返してもなお、動揺が隠せなかった。

 

 

「痛っ!?」

 

 

一方、弾かれた銃弾が地面に跳弾し、右肩を掠めた沢渡はたまったものではない。

漫画やアニメで剣士が銃弾を弾くシーンを見た事はあるが、鞭で弾かれるとは思わなかった。

しかも、一斉に撃ったわけでもない5人がかりの射撃を鞭を2回振っただけで全て防がれたのだ。

まともに彼女と対峙したら勝ち目がないのは明白である。

 

 

「ヘビ、丸呑み!」

「ガルム!!」

 

 

まずは目の前に居る白狼を排除しようと沢渡アカネは蛇の悪魔をけしかけた!

それと同時に因幡も白狼の名を呼んだ!

 

 

「うっ…!?」

 

 

使役する悪魔同士の戦闘の結果、蛇の悪魔が瞬殺されて対向車線の先にある雑貨ビルに激突した。

慌ててヤクザたちが発砲するが、体毛で弾かれているわ、銃弾を噛んで受け止める技量があった。

要するにこの場にいる全員の力をもってしても、体長3m級の白狼に勝ち目など無い。

 

 

(嵌められた!!)

 

 

ここでようやく沢渡は、自分たちが罠にかかったと理解した。

今思えば、C班からマキマ討伐の続報を聴けなかった時点で疑うべきだった。

だが、後の祭りである。

 

 

「ねえガルム、デンジ君が元通りにならないの!?なんでだと思う!?」

 

 

なお、因幡からすれば、なんでデンジが復活しないのかという理由の方が大事だった。

これには、失禁して地面を濡らすヤクザをすぐにでも噛み殺そうとしたガルムも困惑した。

しかし、契約通りに従う白狼は、彼女の元に駆け付けた。

 

 

「あっ!思い出した!!」

 

 

ここで因幡は、こうなる事態を想定して事前に道具を用意していたのを思い出す。

多くの知り合いが殺された事と同期の姫野が瀕死に追い込まれたせいで正常な思考ではなかった。

正気に戻る為に頬を両手で軽く叩いてから跪いた彼女は、腰にあるポーチから水筒を取り出した。

 

 

(あ……パンツだ)

 

 

ちょうどデンジの視線の先で膝丈のスカートを履く彼女が跪いたので…。

黒色のストッキングで引き締まる魅力的な太ももの先にあるパンツをデンジは目撃する。

黒色のリボンが見える紐パンであり、最近になって下着業界からショーツと呼ばれる物であった。

 

 

(うおおおおおおおおお!ラッキぃいいいい!死んだ甲斐があったぜ!!)

 

 

デンジが女性のパンチラを目撃したのは、これが初めてではない。

しかし、暴風でスカートが捲れたり、視線の先で階段を登るミニスカ女子などほぼ偶然であった。

なのでここまで合法的にスカートの中にあるパンツをじっくり覗けるのは生まれて初めてだった。

 

 

「デンジ君!!大丈夫!?」

「いたいいたい!!いたいよー!マジで死んじゃうううううぅっ!」

「ええっ!?」

 

 

本気で自分を心配してくれる因幡先輩の発言にわざとデンジは痛がるフリをした。

こうする事でもっと優しくしてもらえると期待していたのだ。

それにマキマさんとは違う良い香りを嗅いでズボンの股間が勃起したので発情していたまである。

 

 

「今、助けるからね!」

 

 

ここでデンジは、珍しく自分を心配してくれる女の人とエッチができるかもと期待した。

もしかしたら噂に聞く“じんこうこきゅう”とやらを彼女がしてくれると思っていたのだ。

 

 

「ごぼ!?」

 

 

その期待は、口に流し込まれたガソリンによって粉砕される事になった。

 

 

「ちゃんとエンジンオイルを配合したガソリンだから安心してね!」

「ごぼぼごぼぼおおおおおッ!?」

 

 

チェンソーに使われる燃料は、ガソリンとエンジンオイルを混ぜた混合燃料となる。

ガソリンが50、エンジンオイルが1の比率、もしくはガソリンが25、オイルが1。

チェンソーごとに割合は多少変わるが、因幡は自作した混合燃料を彼の口に流し込んだのである。

 

 

「うん、元気になってよかった!真面目に計算して作った甲斐があったよ!」

 

 

喉と胃が激しく痛む衝撃で痙攣するデンジの姿を見て因幡は彼が元気になったと勘違いした。

もちろん、これは彼女の勘違いによって発生した致命的なミスである。

 

 

「やっぱ、チェンソーの原動力は燃料だよね!」

 

 

なんでこうなったか?

それは、彼女が契約している悪魔たちがそれぞれの好物を与えると喜ぶからだ。

白狼たちだったらお肉、首刎ねのカットバニーならチモシー*1とペレットで満足していた。

なのでチェンソーの悪魔なら混合燃料を与えれば、元気になると勘違いしてしまったのだ。

 

 

「こんどこそ復活してよね!」

 

 

デンジの好物で腹を満たしたと勘違いする因幡は、スターターロープを手にする。

 

 

「お前、頭おかしいんじゃねぇか!?」

「そいつ悪魔だぞ!?」

「ひでぇ…!こいつ、ガソリン飲ましてやがる…!」

「通ぶるノンケ相手に確実にマウント取れる俺しか知らないガソリンの味を知りやがった!?」

 

 

一連の様子を見て首を激しく振る白狼はおろか、敵対していたヤクザですら抗議する有様だった。

因幡のバディとなった魔人も全力で首を振っているが、彼女は違和感に気付いていない。

 

 

「あれ?」

 

 

またしてもロープを引っ張ったのにプスンと音を立ててデンジの肉体は回復しなかった。

一応、顔面が破裂して額から小さなチェンソーが生えてきたもののそれだけで終わった。

 

 

「ごぼごぼぼおお」

 

 

自分の苗字を知らないデンジ、多分16歳、彼女歴なし=年齢。

ファーストキスがゲロだった翌日にガソリンを飲まされるという拷問を受ける羽目になった。

前世でどれだけ酷い事をしたらこうなるのか理解できないほどに女運が無いどころか悪すぎた!

口や傷から噴出した混合燃料の量からして必死にポチタが放出作業をしているのに違いない。

偶然、現場を通りかかったネズミも騒動を受けてびっくりしたのかデンジの方を見ている。

 

 

「なんで!?」

 

 

自分の行動が本気で正しいと思っている因幡は、好転しない状況に困惑する!

気を失っている早川アキと当の本人以外の全員が原因を知っているというのに…。

 

 

「ガルム!なんでデンジ君が復活しないの!?」

 

 

理由が分からない彼女は、自分と契約している悪魔に質問するほどに追い詰められていた。

悪魔が契約外の行動をする必要はないが、ガルムと呼ばれた白狼は何とか彼女に伝えようとする。

血を飲ませれば、完全に復活すると言いたいのだが、残念ながら狼なので声として伝わらない。

 

 

「アオーン!」

 

 

自分の身体を振ってばら撒いた血を飲む事でデンジに血を飲ませて欲しいとジェスチャーを送る。

 

 

「なるほど、わかった!」

 

 

それを見た因幡は、自分が何をすればいいのか理解した!

 

 

「チェンソーがちゃんと稼働しないのはアレが足りないせいなんだね!」

 

 

ようやく彼女は、下半身を失っている彼に足りない物があると気付いた。

 

 

「大丈夫、すぐに補給させてあげるよ!」

 

 

ついに因幡はポーチからナイフを取り出して鞘から抜いた刃をデンジに見せつける。

誰もが彼女がナイフで自傷して彼に血を分け与えると信じていた。

 

 

「潤滑油も必要だったね!うっかりしてたわ!」

「ぎゃあああああああああ!?」

 

 

続いて取り出したボトルの蓋をナイフでこじ開けた彼女は、デンジの顔に潤滑油をぶちまけた!

どうやらチェンソーが上手く動かないのは、潤滑油が足りないと思ったらしい。

大量の潤滑油が額から生えたチェンソーに注がれたと同時にデンジの両目に入り込んだ!

 

 

「うわぁぁぁああああ!?がぁぁ!!ああっ…!目がっ…!目がああぁぁあっ!!」

 

 

眼球の刺激から思わず両手で双眼を押さえたデンジは悲鳴をあげながらその場で転げ回った。

 

 

「チギャウ!!チギャウ!!」

 

 

その様子を見ていた魔人は必死に抗議をするが、彼女の耳には届いていなかった。

マキマから正式の許可を得るまでデンジと接触できないので物理的に距離が離れていたのだ。

 

 

「あれ?また間違えた?」

 

 

デンジの様子や周りから呆れられている視線を感じてまたしても間違えたと因幡は自覚する。

 

 

「あいつ!この子がチェンソーの悪魔と合体してるって言ったじゃない!私に嘘をついたの!?」

 

 

公安対魔特異4課の係長からデンジが“チェンソーの悪魔”と合体していると知らされていた。

いきなりの救援要請を受けて因幡は急いで混合燃料を作った上で念のために潤滑油も用意した。

それなのに事態が好転しなかったので係長に化ける結婚の悪魔に責任転嫁する!

騒動と無関係のはずのネズミすら見下された感じがした彼女は、大きな隙を作ってしまった。

 

 

「はっ!?」

 

 

この騒動で目覚めた早川アキは、ぼんやりする視界の中、ヤバい物を見てしまった。

 

 

「い、因幡先輩!!」

「ああ、アキ君!聴いてよ。あんたんとこの係長がね!」

 

 

事態の深刻さに気付いていない因幡は、目覚めたばかりの早川に愚痴を言おうと口を開いた。

 

 

「危ない!!」

「……え?」

 

 

刃物人間が居合いの構えをしているのを目撃した早川は姫野先輩の同期に危険を教えようとした。

だが、遅かった。

 

 

「舐めやがって…」

 

 

一瞬で8m以上の距離を移動したヤクザの孫は、双剣に付着した血を振って地面に落とす。

それと同時に座り込む因幡は右肩から左腰に掛けて血が噴き出し、自重で肉体がズレ始めた。

 

 

「ごふふふっ…ごほっ!?」

 

 

大量の血で内臓を圧迫されて前屈みになった因幡は、偶然にもデンジの口に近づいていた。

そのおかげで口から噴き出した大量の血が彼の口の中に注がれる事となった。

 

 

「あばばばばばばっ!?」

 

 

今度は不意打ちで大量の吐血を飲む羽目になったデンジは息ができなくなった。

肺まで血が流入し、何度も咽て痙攣する羽目になった。

 

 

「因幡副隊長!?」

「因幡先輩!!」

 

 

その様子を目撃した荒井と早川は、彼女の名を呼ぶ事しかできなかった。

自重でズレた彼女の上半身は、大きく2つに分かれて地面に転がる。

 

 

「ああ、びっくりした」

 

 

…はずだったが、あっさりと傷を跡形もなく修復した因幡は何事も無く立ち上がった。

 

 

「あ、もしかして…!」

 

 

それどころか、他人事のように再び座り込んだ彼女は、再びスターターロープを引く。

すると、エンジン音と共にデンジの頭が破裂してチェンソー頭となり、下半身も生えて来た。

 

 

「ああもう!!血を与えて復活するなら早く言いなさいよ!!滅茶苦茶恥をかいたじゃない!!」

 

 

常人ならとっくに出血性ショックで死んでも可笑しくないほど流血したのに彼女は他人事である。

それどころか、さきほど自分の肉体を切り裂いた刃物人間に怒りをぶつけるように抗議した!

 

 

「は、はああ!?」

 

 

ヤクザの孫としても、なんであの女が未だに生きているのか理解できない。

手下であるヤクザたちも信じられない気持ちで一杯だったが、すでに手が動いていた。

 

 

「あ!?うっ!?ぷぺらあぁ!?」

 

 

公安の女デビルハンターの異様さを見て感じた恐怖のあまり、弾が尽きるまで連射を続けた。

因幡ナオミは銃弾の雨を受けて上半身に5発、額に直撃した弾丸で目玉と脳髄が飛び出した。

 

 

「ああ、痛い…」

 

 

しかし、あっという間に彼女は破裂した顔面を元通りに再生して鞭を構えて立ち上がる。

一応、痛覚があるようだが、注射器が刺さった痛み程度しか感じていない素振りを見せた。

誰がも驚愕する光景だが、身内の白狼だけは「またかよ」という呆れた視線を送っている。

 

 

(こ、これが…結婚の悪魔の力!?)

 

 

銃の悪魔のブローカーを務めている沢渡アカネだけはその力に心当たりがあった。

結婚の悪魔という概念系の存在が結婚する期間を設ける代わりに力を分け与える事に…。

契約によっては、契約者に肉体の再生する能力が付与される事も知っていた。

 

 

(でも、ここまで鈍感なあいつがそんな契約をする!?)

 

 

ここまで肉体再生を付与されるという事は、想像を絶する契約期間の短さを意味する。

ところが、彼女の性格や行動からして絶対に契約が守れないのは明白だった。

 

 

「おんまえらああ!!俺んが動けない事を良い事にぃ!!好き放題しやがってぇ!!」

 

 

ついでに復活したデンジは両手のチェンソーをフル稼働させて爆音を周囲に撒き散らす!

彼の怒りに共鳴するかのように高速で動いて唸る刃は、ヤクザたちを無意識に後退りさせた。

 

 

「なんだ!?座りやがって!」

 

 

そしたら変な帽子を被って額と両腕から刃を伸ばした男が座り込んでいた。

誘い受けという単語は知らないものの挑発しているという事は、彼の頭にも理解できた。

 

 

「遅い」

 

 

ヤクザの孫が一言発言した次の瞬間!

 

 

「ぐべらっぱああげっがあああああ!?」

 

 

斧で薪を叩き割るようにデンジは肉体を縦に割られるように切断された!

幸いにも少しだけズレたおかげで、彼は辛うじて肩を含めた右腕と右脚を失うだけで済んだ。

 

 

「な、なんでえええええぇ!?」

 

 

あっさりと返り討ちに遭ったデンジは地面に倒れ込もうとしている。

その間にも緑髪の女デビルハンターにも危機が迫るが…。

 

 

「あっそ」

 

 

超音速で振り回された鞭によって汚名返上を果たそうとした孫はあっさりと返り討ちに遭った。

奇しくもデンジと同じく縦に切断されたが、胴体が真っ二つになったので悲惨さは段違いである。

 

 

「…ってデンジ君!!死んじゃだめよ!?私の為にも生きて!!」

 

 

高速で唸る鞭を地面に叩きつけた因幡は、ようやくデンジを心配した。

さきほどは、自分が駆けつけた時点でデンジは死んでいたとマキマに報告するつもりだった。

しかし、ここで彼が死ぬと完全に自分のせいになると思った因幡の行動は早かった。

 

 

「アオーン!」

 

 

両手の手首をくっつけて狼の牙に見立てたポーズを取り、狼の遠吠えのような鳴き声を放つ。

するとさきほど彼女がばら撒いた大量の血から白狼が次々と生えて来た。

 

 

「ウォーウルフ分隊!そこで倒れている人物の口に血を与えてあげて!」

 

 

10秒足らずで80匹の白狼が血塗れの地面から生えてきた。

すぐさま因幡が倒れているデンジを指差して血を分け与えるように指示をする。

血塗れになっている8匹の白狼はデンジの口に向かって吐血をして血を分け与えた。

 

 

「あ…」

 

 

ようやくヤクザたちは気付いた。

既に道路にも建物にも白狼が包囲しており、脱出は不可能であったのだ。

しかし、因幡のせっかちさと短気の性格のせいで活かしきれていなかった。

たったそれだけのおかげで自分たちの余命が伸びていたと理解してしまった。

 

 

「思い出した!そこの不審者たち!」

 

 

ここでようやく因幡は次にやる事を思い出した。

デンジの胸部に生えているロープを引っ張りながらヤクザたちに向かって呼びかけた!

 

 

「殺人未遂と銃刀法違反!それとたくざんの罪に問われている!速やかに銃を捨てて投降するなら基本的な人権と5体満足を保障してあげるわ!これは最終警告よ!ささっとお縄につきなさい!」

 

 

スターターロープでデンジを再起動させて無事に死なせなかった因幡は大声で警告する!

しかし、彼女から呼び出された白狼たちは守る気がないようにヤクザたちとの距離を縮めていく。

 

 

「ヘビ、回収!」

 

 

その隙に沢渡アカネは蛇の悪魔に命じてサムライソードを回収し、ワゴン車の傍に置いた。

 

 

「ふーん、あくまで抵抗する気なんだ。せっかく警告してあげたのになー」

 

 

口とは裏腹に生かす気がない因幡は、既にやる事は決まっていた。

 

 

「101匹の白狼の大群から逃げられると思ってるの?」

 

 

同期を殺されかけて知り合いを殺されまくったのによく我慢したと褒めたいくらいに…。

彼女は目の前に居る襲撃犯たちを殺したがっていた!

 

 

「フェンリル分隊!ウェアウルフ分隊!()()()()()()()()()()()()()喰ってあげなさい!」

 

 

暗に「踊り食いをしてできるだけ死ぬのを遅くなるように喰え」と16匹の白狼に命じた。

彼女の発言が終えたと同時に地面に鳴り響く鞭の音によって狼の群れが動き出した!

 

 

「公安のデビルハンター4個班に匹敵にする副隊長に喧嘩売った事!あの世で後悔しなさい!」

 

 

ついに本音が飛び出した因幡副隊長の命令の下、白狼の群れがヤクザに襲い掛かる…はずだった。

 

 

「あれ?」

 

 

ところが、いざ噛みつこうとした白狼たちは怖気づいたように後退りしている。

何事かと因幡は思ったが、すぐに理由を理解した。

 

 

「そっか、()()()()()()()のね!じゃあ私の命令は無効って事か!」

 

 

意味深の発言をした因幡に誰もが困惑した。

次の瞬間、運転手である菊川ノボルの肉体は衣服を残して弾け飛んだ。

水飛沫をあげるように噴き出した血は、その場に降り注いで彼が存在した痕跡を作り出す。

 

 

「これは…」

 

 

民間のデビルハンター出身の沢渡は、この惨状を引き起こせる化け物を知っている。

 

 

「な、なんだ頭が…変…」

 

 

次に異変が起こったのは、デンジの上半身を運ぶのに苦戦していた坊主頭の三島シュウゾウだ。

頭に異変を感じると発言した彼は、その瞬間、同じ様に衣服を残して弾け飛んだ。

今回は全員が注目していたので、一瞬だけ三島の頭がねじ曲がったのを目撃する事ができた。

 

 

「うわあああああああああああああああ!?」

 

 

ロン毛頭の井上タカシは、大声で発狂し、さきほど降伏勧告を行なった女副隊長に懇願する。

 

 

「俺が悪かった!お願いだ!!助けてくれ!!」

「聴こえないなー」

 

 

しかし、因幡副隊長は、両膝を地面につけて合唱をする井上の命乞いが聴こえないフリをした。

わざわざ片手を耳に当ててもう一度聞くアピールまでして死を恐れる彼を揶揄った。

 

 

「おねええええええ!?」

 

 

頭がねじ曲がった井上タカシの肉体は一瞬だけ風船のように膨れあがって弾け飛ぶ!

 

 

「E班!E班!!話が違うぞ!!マキマが死んでるかC班に確認させろ!!」

 

 

沢渡アカネは、さきほどからマキマ抹殺を担当するC班と連絡が取れなかった。

E班からの報告で「C班がマキマとその護衛を仕留めた」としか聴かされていない!

その為、情報を寄こしたE班にC班と連絡を取る様にトランシーバーに向かって呼びかけた。

 

 

《こちらE班!C班とは連絡が取れて…》

「誰だお前!?」

 

 

今回の実行犯には若い女は含まれていない。

なのに女性の声が聴こえたのですぐに沢渡は声の主が味方じゃないと気付く。

 

 

《はははは、バレちゃったか。あなた達G班以外の実行犯は死んでるぞーどうぞー》

 

 

会話途中で女の声からトランシーバーを持たせた連絡役の声に変化した。

大空ミコトに化ける何か曰く、実行犯で生き残っているのはこの場で全員だと知らされた。

つまり、今回の事件は既にマキマは把握しており、見事に泳がされたと彼女は知る。

 

 

「あの……化け物が…!」

 

 

ついに自分以外で生き残っていた長嶋モトムも弾け飛んだ。

だが、偶然にもサムライソードの死体に大量の血液が降り注ぐ結果となった。

一か八かと復活した左腕から刃を抜くとヤクザの孫は復活して立ち上がった。

 

 

「クソったれ!!また死んじまった!この人でなし!!」

「そんな事、言っている場合じゃない!」

 

 

既に退路は白狼の群れによって閉ざされている。

残っている爪が2枚である以上、単純な攻撃しか蛇の悪魔に命じる事しかできない。

まさに万事休すと思った瞬間、沢渡アカネとサムライソードは、現状打開できる好機を見出した。

物陰でガタガタと震えているオフィスレディを目視した瞬間、2人のやる事は決まった。

 

 

「ヘビ、尻尾!」

 

 

小物を発見した蛇の悪魔は契約者の命じられる通り、尻尾をOLに向かって叩きつける。

もちろん、それはフェイクでサムライソードが彼女を人質にする手取りであった。

…だったら白狼たちが真っ先に守るという思考をする余裕など彼らにはなかった。

 

 

「猿か!?」

 

 

自分達の作戦が間違いだったとすぐに気付いた。

何故なら高速で動く蛇の尻尾に乗っかって駆け出す女など一般人のはずがない。

あっさりとサムライソードの攻撃を躱したコベニは彼の右腕を包丁で切断した!

 

 

「この…」

 

 

すぐに反撃しようと思ったサムライソードであったが、その前に額と喉に銃弾を撃ち込まれた。

更に後ろに回り込んだコベニによって沢渡アカネによる銃撃の盾にされてしまった。

人質にするつもりが、逆に味方を人質にされた沢渡は叫ぶ!

 

 

「クワガタの悪魔!!サムライソードを奪還しろ!!」

 

 

トヨタ・ハイエ〇スに待機していたクワガタの悪魔がフロントガラスを破って飛び出した!

 

 

「ひい!?ひやあああああああ!?」

 

 

まさかの新手を見て東山コベニは奇声をあげながらその場から逃げ出した。

見事に瀕死になったサムライソードを奪還したクワガタの悪魔は車内に逃げ込む。

 

 

「せめてこいつだけでも…!」

「きゃああああ!?」

 

 

無防備になった女に向かって沢渡が発砲すると道を塞いでいた白狼たちが盾になった。

 

 

「今だ!!」

 

 

そのおかげで逃走路を確保したと感じた彼女は急いで車に乗り込む!

幸いにもサイドブレーキを降ろしてアクセルペダルを踏めば発進できた!

 

 

「くそがあああああ!!」

 

 

クワガタの悪魔による契約で300mlの血を抜かれた沢渡アカネは運転席で叫ぶ!

見事に返り討ちになった挙句、取引先が全滅するのを確信しながら運転するしかなかった。

ちなみにさきほどの騒動で蛇の悪魔は元の世界に帰したので捕らわれる心配はない。

しかし、爪を全て失ったので爪が生えて来ない限り、二度と戦えなくなった。

 

 

「因幡副隊長!ありがとうございます!」

「私はいいからアキ君の手当てをしてあげて」

「分かりましたぁ。今回の借りはチャラでお願いします」

 

 

窮地を救われたコベニは感激のあまり泣いていたが、すぐに因幡によって移動させられた。

コベニと入れ替わる形で『ワゴン車を逃がしていいのか』と視線を送る白狼たちに語りかけた。

 

 

「あのね、フロントガラスが割れた血塗れの車なんて民間人から通報されるに決まってるでしょ?わざわざ私たちが追いかけなくても勝手に警察が追ってくれるから問題ないの」

 

 

あくまでもデンジを死なせないのが使命であって襲撃犯の殲滅では無いと因幡は告げる。

大半の白狼たちは納得したのか、現場を封鎖する白狼以外は地面のアスファルトに消えていく。

 

 

「ビーム」

 

 

そして地面のアスファルトに身を潜めている鮫の魔人に向かって因幡は小声で話しかけた。

 

 

「街中にある銃を全て回収しなさい」

「ガルルルルル」

 

 

しかし、彼の慕う悪魔を酷い目に合わせたせいか敵対されてしまった。

 

 

「ちゃんとチェンソーマンと面会できるようにアポ取るからやって頂戴」

「……分かった」

 

 

ただ、彼女が放った意味深な発言を受けて鮫の魔人は、しぶしぶと悪魔の命令を聴いた。

 

 

「あなたの鼻は血に敏感だから命令したの。血溜りには銃が近くにあるからね」

「分かった分かった」

 

 

公安対魔特異4課の係長に化ける【結婚の悪魔の半身】と大きく関係する悪魔は笑う。

この悪魔の正体は、半年前に死んだ因幡ナオミのロールプレイをする結婚の悪魔そのもの

絶大な力を持つとマキマに弱体化されるのであえて肉体を分裂させた存在の1つに過ぎない。

 

 

「さて、とりあえずあいつに文句を言わないと…」

 

 

血塗れの白狼も自身の肉体に取り込んだ“白狼の悪魔”の力を用いて生み出した結婚の悪魔。

E班の構成員に化けて誤情報を流したのも、彼女から分離した結婚の悪魔に過ぎない。

あのマキマですら直接遭遇して嗅覚で判断しないと見抜けないほど狡猾に隠されていたのだ。

 

 

「係長になったからって調子に乗るなってね」

 

 

ただ、マキマにバレてもいいように思考は独立しており、分離した本体とは無関係の存在である。

だからマキマの副官である係長がどれだけ酷い目に遭っても、彼女たちは他人事であった。

それどころか、お気に入りの因幡ナオミに恥をかかせた係長に彼女は小言を言おうと企んでいた。

 

 

*1
イネ科の多年草。オオアワガエリとかチモシー・グラスとも呼ばれており、小動物の餌となる

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