デンレゼが足掻く度に不幸になるケッコンの悪魔さん   作:Nera上等兵

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18話 タダより高い物はないが、命は金より安い

京都公安対魔1課の天童ミチコと黒瀬ユウタロウは、京都駅で待機している。

東京からやって来るマキマ課長の護衛の引継ぎと京都支部の案内をする為だ。

 

 

「さっきの話、マジですか?」

「ウチらも大丈夫かいな…」

 

 

ただ、彼らは新幹線が停車する前から不安であった。

さきほど同僚が「東京で特異1課2課3課4課が一斉に銃で襲撃された」と報告を受けたからだ。

念の為に京都府警と協力して駅構内で身体検査を行なっているが、それでも動揺している。

 

 

「マキマさん、死んでませんよね?」

「もし、死んでいたらJR東海*1が先に責められるし、東京本部の不手際だから問題ない…はず」

 

 

悪魔と戦う為に腹を括った2人であったが、人間と殺し合うのは想定外である。

今度は自分たちも命が狙われるのではないかと感じているし…。

 

 

「でも、新幹線から襲撃犯がでてきたら?」

「あらくたい事は苦手なんやけどな、そん時はそん時や」

 

 

なにより、新幹線に襲撃犯が潜んでいる可能性があるせいで気が気でない。

天童はやる気であるが、黒瀬は正当防衛とはいえ殺人をできるか不安であった。

 

 

「停まった」

 

 

ついに新幹線が停車し、ドアが開いた。

何も知らない民間人が新幹線に乗ろうとすると緊急のベルが駅構内に鳴り響き、誰もが動揺する。

 

 

《お客様に申し上げます。当駅に到着いたしました新幹線のぞみ 新大阪行きですが、車両点検を実施する影響によりご乗車できません。お客様にはご不便をおかけしまして――》

 

 

アナウンスと共に駅員と鉄道警察隊が乗客たちを誘導し、公安職員に緊張が走る。

 

 

「ふぅ、京都の駅弁も食べたいんだけど無理そうだね」

 

 

新幹線のドアから出てきたのは、何事も無く駅に足を踏み入れたマキマとその護衛たちであった。

マキマに至っては、真っ先に口から飛び出したのは、駅弁の話である。

これには、さきほどまで気を張っていた京都の公安職員も驚きを隠せない。

 

 

「黒瀬君、天童ちゃん。新幹線内で悪魔の襲撃に遭った。至急、調査員を車内に派遣しておいて。それと会食は中止、速やかに悪魔対策を実施するよ」

 

 

異様な空気を察したのか、マキマは自分を出迎えてくれた職員たちに悪魔が出たと報告をする。

 

 

「マキマさん!東京で特異課の職員が次々と銃撃を受ける事件が発生しております!!」

「そうなの?」

「犠牲者多数と聴いております!マキマさん、お怪我はありませんか!?」

「私も護衛も問題ないけど、組織的な犯行となると厄介だね」

 

 

黒瀬と天童は、特異課の襲撃事件についてマキマに尋ねると彼女は知らない素振りを見せた。

それを横で見ていた結婚の悪魔は、吐き気を通り越して身震いすらあった。

 

 

(うわ、マジで記憶を上書きするように振舞ってやがる…頭100%パワーかよ)

 

 

悪魔の襲撃事件は結婚の悪魔の自作自演であるが、銃撃事件に関しては関与していない。

一応、デンジが借金していたヤクザに不穏な動きがある事は知っていた。

しかし、どれだけの銃器を保有しているのか分からなかったし、大規模襲撃も知らなかった。

だが、マキマは知っていたにも関わらず、特異課に関しては切り捨てているような感じがした。

 

 

「副隊長、ここまでの護衛、ありがとうございました。捜査にご協力をお願いします」

「承知しました」

 

 

公安のデビルハンター4個班規模の実力に匹敵する副隊長はここで編成を外された。

ありもしない悪魔に関する検証をさせられるのは、仕組んだとはいえさすがに同情する。

 

 

「秘書官、あなたはデビルハンター京都支部に向かい報告をお願いします」

「承知しました」

 

 

ところが、ここで結婚の悪魔は焦った。

 

 

「マキマ課長、ここは小官が代わりに向かいます」

「ダメです」

 

 

マキマに散々振り回された結婚悪魔は、とにかく彼女から離れたかった。

なのに秘書官が京都支部に行ってしまうと、必然的に自分がお供になってしまう。

急いで提言したが、即答で彼女に拒否されてしまった。

 

 

「今回の事件の狙いは、私たちの足止めと戦力分散だと思うの」

「失礼ですが、本件と小官が京都支部に向かえない理由と関係あるのでしょうか?」

 

 

たった今、マキマが放った発言を聴いて結婚の悪魔は確信した。

 

 

「近隣の公安対魔課に救援要請と部隊展開をしてもらいたいの」

 

 

要するにマキマは、公安対魔特異課に所属する職員の大半を切り捨てたのだ。

おそらく指揮系統が拮抗しており、各課の課長がマキマを警戒していた。

公安対魔特異4課の活動を定期報告する際に上司と共に課長が席を並べているのが証拠である。

 

 

(そうなるように仕組んだくせに良く言うな…)

 

 

ところが、所属する職員の大半を失えば、必然的にライバル部署が弱体化する。

ヤクザの件も口止めしたのは、こういった策略もあるのだろう。

相変わらずマキマの野望が読めない結婚の悪魔は更に彼女を警戒した。

 

 

「特に千葉公安対魔1課と宮城公安対魔2課は対人護衛のエキスパートだからね」

「日下部さんですか…まあ、やってみます」

 

 

金髪オールバックのお堅いあいつとは結婚の悪魔とは相性が悪い。

千葉県の因幡は、結婚の悪魔から分裂した本体の一部なのに…もっと相性が悪かったりする。

それでもこれでマキマから逃げれると思った結婚の悪魔は命令を承諾するしかなかった。

 

 

「黒瀬君、法務省から終身刑以上の犯罪者を30人ほど連れてきて」

「は、はい」

 

 

マキマが黒瀬に終身刑の犯罪者を要求した。

 

 

「天童ちゃん、近くにあるできるだけ標高が高い神社を1つ借し切って」

 

 

更に天童に標高が高い神社の貸し切り要求をしたので何をしたいのか悪魔は分かった。

 

 

(一応、人権が認められている囚人を犠牲にするのか…まあいいけど)

 

 

ハンムラビ法典には、同害復讐というものが記述されている。

目に目を歯に歯を…人を傷付けた場合は同等の罰しか与えてはならない。

要約するとそうなるが、実際は違う。

 

 

(人は生まれながら対等にはなれない。人が罰するより重い制裁は天罰のみ…か)

 

 

京都公安組の黒瀬と天童は、罰の悪魔と契約している。

しかし、マキマが使役しようとしているのは、格上である“天罰の悪魔”である。

 

 

(どっちを選ぶのか気になる…)

 

 

本来ならば、悪魔であるマキマが同じ悪魔と契約する事は不可能だ。

ただ、何事にも例外が存在する。

 

 

(まあ、第三者を介して悪魔に命令するんだろうが…)

 

 

悪魔が別の悪魔の力を利用する方法は、3つのやり方が判明している。

一番分かりやすいのは、格上の悪魔が格下の悪魔に命令する事。

例えば、傍若無人に振舞う血の魔人パワーは、マキマの命令には素直に従う。

これは契約では無いので守らなくて良いが、力関係の差で押し切る事ができるのだ。

 

 

(やり方が気に喰わん…マキマに天罰が落ちねぇかな…)

 

 

もう1つは、マキマがやろうとしている代理契約だ。

第三者を利用して当事者ではないのに悪魔の契約を結ぶやり方だが、人間でも可能である。

日本語では【自己契約】と呼ばれており、代理人として第三者と契約を結ぶ行為を示す。

だが、これは悪魔がもっとも嫌うやり方であり、必ず破滅するやり方であった。

 

 

(まあ、こっちに害がない限りどうでもいいが…)

 

 

最後は、結婚の悪魔が別の悪魔と契約するフリをするのに活用している方法である。

ただ、別にそんな事を考える為に公衆電話の前にやって来たのではない。

千葉公安1課に電話をして受信者の声を聴いた結婚の悪魔は暗号を送る。

 

 

「緊急コードUnknown(アンノウン) Siren(サイレン) occurred(オカード) 8(ハチ) 0(マル) 0(マル)、因幡副隊長に繋いでほしい」

《承知しました》

 

 

公安のデビルハンターには緊急時に発するコードが存在する。

これを公の場でやれば、本来ならば情報漏洩として罰せられる。

しかし、横で聴いていた人物が同じ事をしても通じない暗号であった。

だって、これは結婚の悪魔同士にしか通じない暗号なのだから。

 

 

《こちら因幡ナオミ、()()()()()に喧嘩を売るとは良い度胸してるわね?》

「仕方ないだろ?マキマから緊急命令を下されたんだから」

 

 

結婚の悪魔が化ける通信士に代わって同じく結婚の悪魔が化ける因幡が対応した。

 

 

「公安対魔特異課の銃撃事件についてだが」

《えぇ、聴いてる。…で?たったそれだけで連絡を寄こしたワケじゃないでしょ?》

「デンジの身柄を保護して欲しい。至急で」

《はあ?正式命令が出ていないのに何でやらないといけないの?あんた馬鹿?》

 

 

要件を伝えると因幡から馬鹿にされてしまった結婚の悪魔は内心でブチ切れた。

同じ結婚の悪魔なのに相性が最悪なのは、マキマを警戒し、独立心をもたせたからだ。

そのせいで同じ存在のはずなのに時には殺し合いをするほど仲が悪かった。

 

 

「マキマさんからご指名だ。至急、デンジの安全を確保して欲しい」

《分かりました…とでも言うと思った?私の管轄じゃないからゆっくり行くね》

Connect(コネクト)

《…ふふふふ、あとでしばき倒してあげるわ》

 

 

最低限の情報を伝達した結婚の悪魔は公衆電話の受話器を降ろす。

周りを見渡せば、公衆電話の近くにどこからか入り込んだカラスが闊歩していた。

 

 

(マキマの手先か…)

 

 

さきほどのやり取りをカラスが監視しているのに悪魔は気付いていた。

なので禁じ手を使って無理やり因幡ナオミに情報伝達をした。

さすがに嗅覚でバレるギミックではないと確信しているが、油断できない。

 

 

〈マキマと合流しろ〉

「喋るんかい!?まだ宮城公安に情報展開してないぞ」

〈はよ行け〉

「…了解」

 

 

だが、さすがにカラスを通じて命令してくるのは予想外だった。

有無言わさずに合流しろと言われたのでしぶしぶと結婚の悪魔はマキマとの合流を急ぐ。

一方その頃、千葉公安支部では無理やり情報を伝達された因幡ナオミが怒りのあまり震えていた。

 

 

「な、なにかあったんですか?」

「あなたも来なさい」

「は、はい」

 

 

激怒した彼女は、自分から派生した通信士を召集し、血判が捺された書類を手渡した。

 

 

「ああ、予め渡されていたんですか……あ、すみません」

 

 

通信士は渡された書類を見てすぐにやるべき事を理解した。

ただ、声に出してしまったので睨まれた彼は謝る事しかできなかった。

 

 

「支度するからあなたは先に襲撃犯の元に向かって情報を攪乱させなさい」

「了解」

 

 

派生元の命令を受けた通信士は慌てて同僚と上司に頭を下げて早退した。

そしてデビルハンター千葉公安支部の建物から出た彼は溜息をつく。

 

 

(ようやく白狼に戻れる…)

 

 

結婚の悪魔との契約を守れずに死んだ契約者に化けるイェーガーは不本意の人間体を解除する。

101匹居る白狼の1匹のロールプレイをしてたのだが、因幡によって無理やり人間にされていた。

ようやく自由になれたのに未だに短気の彼女に付き合いといけないのが苦痛だった。

そのまま地面に消えていく彼が最後に見たのは、相変わらず平和な日常生活を送る人々だった。

 

 

「ここか?」

 

 

悪魔なので血の匂いに敏感とはいえ、銃撃の際に付着した血の匂いを追うのは大変だった。

なにせ女性の生理から発生する血の匂いがそこら中から漂って来るからだ。

それに仕事上、複数の血の匂いが付着する医師など職業人と区別しなければならない。

 

 

(こいつか)

 

 

4回ほど失敗して今度はトランシーバーを持っている黒髪のおっさんを発見した。

嗅覚のおかげで複数の人物の血が漂っていると分かる。

見かけからして医師でもないし、人の血に触れる職業に就いているとは思えない。

 

 

(いただきます!)

 

 

ターゲットが周りの視界に映らないタイミングで白狼は作戦を決行した!

 

 

「むがっ!?」

 

 

余所見をしていたおっさんの首に噛みついてそのまま路地裏に引き擦り込む。

その勢いで予め開けていたマンホールの穴から下水道に逃げ込んだ。

 

 

「あ、あああ…」

 

 

呼吸ができなくて虫の息になった人間に悪魔は対峙する。

そして人語を話す為に公安職員の姿に変身した!

 

 

「我は結婚の悪魔、結婚をするまで力を貸そう。傷ついた肉体も治してやる」

 

 

どうせ使い捨てになるので悪魔は、結婚の契約期間を短く設定した。

首から垂れる血がコンクリートを赤く染めて垂れた一部が下水と混ざり合う。

 

 

「早くしろ」

 

 

痙攣を始めた男に軽く蹴りを入れたイェーガーは契約を促した!

 

 

「あ、ああ…」

 

 

死にたくない男は、自分を殺そうとした悪魔と契約を結んだ瞬間、傷口が無くなった。

 

 

「あ」

 

 

そして死んだ。

1時間以内に結婚しないと死ぬ代わりに力を貸して怪我を治すという契約にしたつもりだった。

実際は、1秒以内で結婚しないと死ぬ代わりに力を貸して怪我を治す契約をしてしまったのだ。

 

 

(やべえええええ!!)

 

 

情報を聴き出す前に殺してしまい、イェーガーは動揺した!

久しぶりの契約だったせいでミスってしまった。

普通に悪魔として失格なのだが、それよりどうやって情報収集するべきか分からない。

契約したら脅迫して情報を引き出すつもりだったので頭を抱える!

 

 

(俺は悪くねぇっ!俺は悪くねぇっ!)

 

 

鳥取県出身の職員に化けていたせいで会話中でも鳥取県の事ばかり考えてしまった。

鳥取県は好きだが、鳥取県のお役所が嫌いなのでそれをぶっ壊す事を考えただけである。

鳥取県本庁舎を消滅させたい = 1秒で結婚しないと死ぬ代わりに力を貸す契約になっただけ。

そんな事を考えた悪魔は、本体から派生した因幡の血をしっかり継ぐ他責思考の化け物だった。

 

 

「あ、身体を調べればいいじゃん!俺って天才!」

 

 

さっそく今さっき死んだ犠牲者の持ち物をイェーガーはチェックする。

トランシーバーの他に地図やメモ帳、公安職員のスケジュール表まで見つけた。

 

 

「ふむふむ、なるほど…」

 

 

持ち物をチェックしていたイェーガーは思った。

 

 

(暗くて何も見えねぇ…)

 

 

マンホールから注ぐ光源があるとはいえ、下水道の空間の大半が真っ暗である。

そのせいでそれらしいのは発見したが、文字までは見えなかった。

仕方なく犠牲者を捕食したイェーガーは血を取り込んで彼の肉体に変身した。

 

 

「イェーガー、インしたお」

 

 

梯子を登ってマンホールの穴から出て来たイェーガーは癖で決まり文句を言う。

同僚の白狼たちに見られたら怒られてしまうが、どうしても癖として出てしまうのだ。

だって、しょうがないじゃないか。

そうなるように【本体の半身】が性格と癖が別々になる様に仕向けたのだから。

そう言い訳して今日も因幡ナオミに怒られていたのを思い出す。

 

 

「ふむふむ…」

 

 

かなり念入りに計画が練られたようで読めば読むほど頭が痛くなってくる。

とりあえず、さきほど殺した男はE班に所属していたようだ。

そして公安職員を殺しまくる事で機能不全に陥らせるのが目的だと分かった。

それ以上は、イェーガーの頭では理解できない。

 

 

「お!」

 

 

一旦、因幡に報告しようと思った瞬間、重要な情報が書かれたメモを発見した。

新幹線に忍び込んだC班がマキマが仕留めたか否かで作戦が大きく変わると理解した。

それにG班がデンジの心臓を確保するという情報が分かれば、後は問題無かった。

 

 

「こちらE班、G班どうぞ」

 

 

うっかり屋だが頭の回転が早いイェーガーは、さっそくトランシーバーで()()と連絡を取った。

 

 

《こちらG班、E班どうぞ》

「C班からマキマを仕留めたと報告があった。どうぞ」

《さきほどからC班と連絡つかず、どうぞ》

 

 

結婚の悪魔(本体の半身)が千葉公安対魔1課に連絡を寄こした時点でマキマは生きている。

そう考えたイェーガーは、デンジ拉致担当のG班及び通信を傍受している連中に誤情報を流した。

 

 

「京都駅から徒歩で脱出し、現在逃走中との事、どうぞ」

《了解、拉致作戦を決行する。どうぞ》

「幸運を祈る。以上」

 

 

通信を終えたイェーガーは、何食わぬ顔をしてE班の班員と合流した。

さすがに長く場を離れ過ぎたせいで怪しまれたが…。

 

 

「トイレに行ったら警官が職務質問してきたから撒いて来ただけだ」

 

 

たった一言告げただけで彼らはあっさりと納得し、場所の移動を促してくれた。

わざわざ隠れ家に案内してくれた間抜けたちに敬意を払って全員気絶させた。

 

 

「…という事だ」

「…やけに上手くやったな?お前らしくない」

「お前らと違って馬鹿な連中を相手にしまくってるからな」

「へえ…」

 

 

同じく白狼出身のバスカヴィルに怪しまれたが、上手く乗り切った。

人間形態を想定しない白狼をロールプレイする結婚の悪魔はどこか馬鹿である。

 

 

「やるじゃん、因幡副隊長に伝えておくぞ」

「へへへへ、よろしく」

 

 

人間形態になるとIQ80前後の境界知能*2しかない彼らはあっさりと嘘に騙される。

伊達にIQ100じゃないイェーガーは唯一、人間として生活できると因幡に褒められている。

騙されて地面に潜り込む同僚を馬鹿にする彼は、形だけは手を振って見送った。

 

 

「俺の仕事おわり」

 

 

必要な任務をこなしたと自覚するイェーガーであったが…。

 

 

「お!?無料だって!?」

 

 

化粧水のサンプルが無料という看板を見つけてしまい、あっさりと女に化けた。

出店したばかり化粧水専門店が、女性客を集める為にキャンペーンをやっているようだ。

 

 

(化粧水ゲットして因幡にプレゼントした見返りに有給申請をしまくってやる)

 

 

なので無料で化粧水を貰う為に若い女に擬態したイェーガーは専門店に入った。

もちろん、タダより高い物はない。

サンプルを貰う為には氏名と固定電話番号、年齢や住所まで書かないといけなかった。

どうやら2回目以降にぼったくりをするようで売春を斡旋している痕跡があった。

しかし、とっくの昔に死んでる女契約者に化ける悪魔はさくっと難関をクリアした。

 

 

(やっぱ、馬鹿は扱いやすくて助かる)

 

 

期限切れの免許証に違和感を覚えない時点でその程度の輩なのだろう。

見事に化粧水をゲットした女性は満面の笑みを浮かべてビニール袋を撫でた。

 

 

(もう1回行くか!)

 

 

どうせ使い捨ての住所だし、本人確認の際に免許証と顔と氏名が一致していれば問題なかった。

つまり、別の人物に化けて入店すれば、また化粧水をゲットできる。

素敵なアイディアを思いついたらすぐに決行するのが、イェーガーの信念だ!

別の女に変身して同じ様なやりとりをして化粧水をゲットしてみせた。

 

 

(はははははは、やっぱり馬鹿だよあいつらは!12回目で期限切れにようやく気付くなんてな!)

 

 

最終的に化粧水12個をゲットしたら、さすがに怪しまれてしまった。

しかし、彼らは免許証や保険証の違和感に気付いたのではない。

 

 

(しかも結婚指輪がきっかけかよ!予想できなかった!!やっぱ、馬鹿は違うわ!!)

 

 

いくらでも契約者の姿になれる結婚の悪魔だが、左薬指に填めている指輪だけは変えられない。

そのせいでさすがに店長に怪しまれて免許証をじっくりと確認されてしまった。

そこでようやく期限切れを知って大騒ぎしたのだ。

 

 

(どうぞ、街中に歩いている女の手をジロジロ見てお過ごしくださいってな)

 

 

なのでさくっと逃走したが、彼らは結婚指輪という見分け方を知っている。

だから長手袋を身に着けた女に化けて追手を撒いた。

何食わぬ顔をして隠しておいた化粧水を全て回収できた時点であの店に用はない。

後日、店を確認したら予想通り女性不信のせいで閉店してたとさ、めでたしめでたし。

 

 

「あっ、あいつらの存在を忘れてた」

 

 

そのまま帰ろうとしたらE班の連中の事を忘れていた。

さすがにそのまま放置する訳にもいかずに隠れ家に急行した。

 

 

「え?なんで?」

 

 

何故か捕縛していた襲撃犯の肉体が破裂しており、血以外は衣服しか残されてなかった。

血の匂いから生存している者は居ないと分かるが、どうしてこうなったか分からない。

“イェーガー”という名の結婚の悪魔の個体に難しい事を考える機能は備わっていない。

 

 

(マキマのせいか)

 

 

自分の思考を上回る事態が発生する時は、いつもマキマのせいにしている。

せっかく生け捕りにしていたのだが、こうなった以上はしょうがないと開き直った。

上官やマキマに怒られたら、自分にできる事はしたと言い訳するつもりだった。

 

 

「ん?」

 

 

そしたら、それを抗議するかのようにトランシーバーが反応した。

 

 

《E班!E班!!話が違うぞ!!マキマが死んでるかC班に確認させろ!!》

 

 

さすがにバレた様だ。

仕方なくイェーガーは無線に返答する。

 

 

「こちらE班!C班とは連絡が取れて《誰だお前!?》…」

 

 

化粧水を貰う為に女性に化けていたのをここで思い出した。

無線相手の女はかなり焦っており、切羽詰まっている様子。

 

 

「はははは、バレちゃったか。あなた達G班以外の実行犯は死んでるぞーどうぞー」

 

 

わざわざ会話途中で連絡役のおっさんに化けたイェーガーは彼女を煽る。

さぞかし凄まじい悲鳴か罵倒を聞かせてくれる…と期待した!

 

 

「あれ?」

 

 

ところが、あっさりと通信が切れてしまった。

せっかく素晴らしい悲鳴とか罵倒を聞きたかったというのに…。

この後、イェーガーが事の顛末を因幡に報告した結果、怒られたのは語るまでも無いだろう。

 

 

「外してよし」

 

 

神社の参道に佇むマキマの発言によって公安職員全員が目隠しを外した。

視界に映るのは、眩しい日光、そして白装束を纏った終身刑や死刑囚たちだ。

誰もがうつ伏せで倒れて息絶えている。

 

 

(うわ、借金返済の為にやむを得ず銃を手に取った奴まで殺しやがったな…)

 

 

目隠しを外した結婚の悪魔は、転がる骸を見てヤクザと債務者の末路を悟った。

確かに終身刑や死刑囚は税金で飼っていると同意義であり、国民から批判がある。

しかし、法律に基づいて運用しているので問題はないはずだった。

 

 

(総理大臣でもこんな超法規的措置なんか無理だぞ…法律の悪魔も卒倒するなコレは…)

 

 

凶悪な犯罪者の命と引き換えに自分と家族を殺そうとしているテロリストを殺せるとしたら…。

日本国民の8割以上が、犯罪者の命を切り捨てるだろう。

人間というのは、理性や信念より己の安全と繁栄を選択しがちである。

もしも、自分が殺される可能性があるなら、大半の人物は他者を犠牲にして助かろうとする。

 

 

「ここで私ができる事は終わりました。東京に戻りましょう」

 

 

マキマは確かに日本国民を愛している。

それと同時に重視しているのは国家の繁栄と管理された支配である。

日本国民1億人救えるなら1000万人の命を犠牲にできる女だった。

 

 

(嘘つけ!!)

 

 

マキマの発言を受けて思わず結婚の悪魔はツッコミたくなった。

 

 

(なんか隠しているなこいつ…!!)

 

 

マキマの護衛役と抜擢された結婚の悪魔だが、彼女の実力なら必要ないはずだった。

形だけなら悪魔より選りすぐりのエリート護衛集団が存在する。

むしろ、結婚の悪魔を警戒して連れ出したのは明白だった。

それを分かっているからこそマキマの目的を探ろうとしている。

 

 

「どうしたんですか?」

「これで終わったと思われたんでしょうか?」

「えぇ、終わってませんから東京に戻ります」

 

 

珍しく手を差し伸べて来たマキマの手を握ると温かった。

 

 

「まだやるべき事があるのでは?」

「死体の処理ならやってくれますよ」

 

 

どうやら蜘蛛の悪魔もこの場に来ているらしい。

イライラして嗅覚が鈍ってしまったが、それはもはや問題ない。

 

 

(死体なんか集めてどうする気だコイツ…)

 

 

金より命が大切だが、金が無ければ命は守れない。

だが、マキマからすると命より死体の方が重要のようだ。

新鮮な死体であれば、臓器売買も可能かもしれないが、彼女は違う運用をしている。

 

 

(魔人の遺体でテーマパークでも作る気か……?)

 

 

ゾンビに利用するわけもないので消去法で求めるとこうなる。

つい先日、マキマが運用している魔人が死んだ。

それでも死体を回収させたのを見るとよっぽど死体が大事らしい。

 

 

「……そうだ、黒瀬君と天童ちゃんも東京に来なよ」

「え?」

「はい?」

 

 

結婚の悪魔の思考を見透かしたようにマキマは笑う。

 

 

「護衛がたくさん居ると助かるし、今度は私がもてなす番だと思ってるの」

 

 

それは本音だった。

 

 

()()()()()()()も補充しないといけないからね?」

 

 

なにより結婚の悪魔が行なった失態を暗に指摘してきた。

 

 

(なんでお前がその事を知ってるんだよ!?)

 

 

今回の銃撃事件を受けて10名以上の契約者が病院に入院している。

契約者たちには既に力を与えたのだが、死に直面したせいか更に彼らは力を欲した。

別に手術に耐えてリハビリをすれば復帰できるのに彼らは怪我を治せとうるさかった。

 

 

(悪魔が言うのも何だが、悪魔の力に頼り切る組織って碌なもんじゃないな…)

 

 

だから結婚の契約をアホほど短くする代わりに致命傷を癒して末期ガンすら無くした。

わざわざ健康体にしてやったのだから数日から1ヶ月以内に結婚しないと許すつもりはない。

そしたら、せっかく治してやったのに彼らは感謝をするどころか結婚の悪魔を罵倒した。

 

 

「分かりました。東京に戻りましょう」

 

 

そう考えるとまだマキマがマシに見えるし、彼女の行動原理も少しだけ納得できる。

アホな契約者たちの相手で疲れた隙を突かれた悪魔は、マキマに引っ張られて階段を降りていく。

自分の支配を強固とする策略に引っ掛かっていると理解しつつ受け入れるしかなかった。

 

 

*1
京都駅の在来線は、JR西日本が管轄しているが、新幹線に関してはJR東海が管轄している

*2
知能が平均とされる値より低いが、知的障害ではないレベル。数学や倫理的な思考をするのが苦手の事が多い

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