デンレゼが足掻く度に不幸になるケッコンの悪魔さん   作:Nera上等兵

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22話 トラックでGO!で始まる特異4課の総攻撃!

“東京悪魔収容センター”は、創設から今日に至るまで悪魔が逃げ出した事は一度もなかった。

…というのは建前で、そもそも逃げ出す気が無い悪魔か、研究目的に収容された悪魔しかいない。

少なくとも人類に対して悪意ある悪魔がここを襲撃して来ない時点で利点がないのは確かだ。

 

 

(許可があれば、悪魔でも堂々と侵入できるのもどうかと思うが…)

 

 

なお、結婚の悪魔は立場があるとはいえ、大した身体チェックも受けずに堂々と侵入できた。

悪魔に脱走された事はないが、悪魔に侵入されたり、堂々と悪魔を連れ出す事は良くあるらしい。

人間界で築き上げた権力と人脈さえあれば、いくらでも出し入れ可能な悪魔の預け所。

そんな場所であった。

 

 

(まあ、施設自体はどうでもいい…)

 

 

この施設の敷地面積は、東京ドーム50個分、皇居で例えると約2個分に匹敵する。

余談であるが、東京ドームの面積を別で例えると一辺が約216メートルの四角形。

もしくは、直径約244メートルの円の面積、約4.7ヘクタールとも表現できる。

だからどうしたと思うのだが、実際にただ広いだけの場所だから困る。

 

 

(大したもんがないからな)

 

 

地上にある施設は、職員が暮らす宿舎や勤め所を除けば、迎撃システムしか存在しない。

無駄に真面目なお役所仕事の日本人らしい陸の孤島としか表現しようがない建設物しかなかった。

 

 

(面倒くさい地下迷路こそが厄介なのかもしれない)

 

 

その一方で、ミノタウロスの悪魔でも閉じ込めているのかと思うほどの地下迷宮が存在する。

日本版クノッソス宮殿、迷路の悪魔と契約して作ったダンジョン。

いろんな呼び名があるが、これも結婚の悪魔からすればどうでもよかった。

 

 

(未来の悪魔か、あいつ嫌いなんだよな…)

 

 

結論を言えば、結婚の悪魔としては、早川アキに未来の悪魔を会わせたくなかった。

自分にとって都合が良い未来に向かわせる為に悪魔にすら寄生する悪魔。

はっきり言って狐の悪魔に次ぐ悪魔から嫌われている悪魔であった。

 

 

「未来最高!!未来最高!!未来サイコー!!オマエも未来最高と叫びなさい」

 

 

無駄にハイテンションな未来の悪魔を見て苛立った結婚の悪魔は指をピクリと動かす。

 

 

「未来最高!!お前もそう思うよな?」

「おっと!!それはダメだ!!最高の未来じゃない!!」

 

 

どう足掻いても自分が惨殺される未来を感じた未来の悪魔は両手を突き出して命乞いを始めた。

可変できる未来に関しては、未来の悪魔の行動で分かりやすい。

 

 

「という訳だ、こいつは自分にとって都合が良い未来を選ぶ悪魔らしい悪魔だ」

「なんでオマエまでここにいるんだよ!?…よし、分かったから!落ち着いて話し合おう!」

「別に脅しているわけじゃない。なんかぶち殺したくなっただけだ」

「コワ!?マジコワ!?気に喰わないからってそれはないだろ!?」

 

 

悪魔は別の悪魔と契約する事はできないが、実力で無理やり力を使わせる事が可能だ。

ここで無理やり未来の悪魔に譲歩させる事も可能だったが、結婚の悪魔にその気はない。

なんかムカつくからぶっ殺したいというのが本音だった。

 

 

「で?俺はお前と契約しに来たんだが…お前は契約する気があるのか?」

「……過去最悪な態度だぞオマエラ!?…すみません、やる気あるので殺意飛ばさんといて…」

 

 

早川アキからすれば、このやりとりすらどうでも良かった。

自分の力になるか、それとも無駄に終わるのか知りたいだけであった。

あんまりな態度に未来の悪魔は苦言の一言が飛び出したが、目の前に居る悪魔に黙らされた。

 

 

「いいのか!?俺と契約できなくても!?わざわざ…ここまでお越し頂きありがとうございます」

「じゃあ、先に自分がこいつの腹の中に頭を突っ込んで未来とやらを見てもらおうか」

「頭を突っ込まなくても分かる!俺をぶち殺す未来しか感じねぇんだが!?」

「なんだ、別に腹の中に頭を突っ込まなくても未来が見えるんだな。先に言えよ」

 

 

自発的に悪魔と契約した結果、重い代償を支払う羽目になっても自己責任となる。

だからどんな代償を人間に支払わせても、部外者の悪魔にどうこう言われる権利も権限もない。

ただ、ムカつくからぶち殺したいという理由であれば、別にやっても構わない。

それをできるほどの権限と実績を結婚の悪魔は持ち合わせているのだから。

 

 

「こいつは契約内容を確認してから契約を結ぶタイプだ。気に喰わんかったら拒絶しても構わん」

「了解しました」

 

 

ここまで早川アキにお膳立てをしておいた。

糞みたいな選択肢が提示されたら【断る選択肢】もあると彼に示したのだ

 

 

(こいつが協力するとなると碌な事が起きんから失敗に終わる方が良いのだが…)

 

 

わざと嫌われるような真似をしたのは、契約の失敗する可能性を上げる為である。

未来の悪魔と契約したとしても、得られるのは未来視だけ。

もちろん、使いようによってはかなり強力なのだが、悪魔に都合が良いという条件が問題だった。

 

 

(どうしたもんか…)

 

 

部屋から退室すると天童と黒瀬が何かを言いたそうにしていた。

しかし、結婚の悪魔としても早川がどうなるのかは分からないので迂闊な事は言えなかった。

 

 

「……先輩、未来の悪魔と契約を締結しました」

 

 

10分後に退室した早川アキの姿を確認すると右目に未来の悪魔が潜んでいる気配がした。

それ以外には特に問題なさそうだった。

 

 

「…なるほど、よっぽど酷い死に方をするようだな」

「えぇ、未来で最悪な死に方をするって言われました」

「理由は聞いたのか?」

「どうせ短命です。自分の死で奴を討伐できるなら問題ありません」

「そうか」

 

 

未来の悪魔が早川の右目に住まわせるだけで力を貸すという事は、相応の代償がある。

結婚の悪魔も結婚の条件次第で分け与える力を変えるのですぐに彼の未来を察した。

 

 

「……自分を信頼している上司に殺される未来じゃないって事は確かだな」

「はい」

 

 

なので試しに早川を殺そうと不意打ちで右手を突き出すと彼は辛うじて回避してみせる。

まさかの味方殺し未遂で京都組の2人は驚いているが、早川は事情を察してくれた。

だから彼の厚意に甘えて更に本気で攻撃を繰り出そうと決めた。

 

 

「…数秒先の未来しか見えないらしいな」

「仰る通りです」

 

 

今度は隙があるが、絶対に回避できない攻撃を仕掛けようとすると早川は両手を挙げて降参した。

なので彼の修行法は決まった。

 

 

「最高の判断力か、最善の行動か、最適の思考。どれが大切だと思う?」

「最悪の未来で死ぬまでに発生する死亡事故の未遂を防ぐ以外ありません」

「よろしい、ならば最低限の未来視以外は使わないで済むほどの反射神経と気転の修行をしよう」

 

 

どうせ、いつか死ぬのだ。

早川自体は銃の悪魔を殺せれば、地獄に堕ちて苦しんでも良いと覚悟を決めた。

ただでさえ短い余命に全てを捧げる彼の瞳に迷いはない。

 

 

「コワッ!?やっぱ、特異課の連中イカレてるわー」

「意外と君には適任かもよ?」

「かんにんしとぉくれやす~!?命がいくらあっても足りへんわ」

「同感」

 

 

何が起こったかさっぱり分からなかったが、特異課に転属したらすぐに死ぬ事は理解できた。

それだけでも黒瀬にとっては収穫だったし、天童も頷いて彼の意見に賛同した。

それからというもの、デンジとパワー、早川、そして荒井は必死に修行に耐え続けた。

特に文字通りに必ず殺されるデンジと死にかけるパワーは何度も逃げ出そうと思っていた。

 

 

「やっぱ、ギャフンと言わせてぇ…」

「やられっぱなしはなしじゃぞ…」

 

 

100回以上殺されても、頭の中に思い浮かぶのは、先生と呼べという岸辺のムカつく顔である。

どうにかして彼に傷を負わせないと人生の負け犬どころか、ワンワンのうんち未満になる。

 

 

「いっそ、犬のうんちを使って戦うか?」

「ウヌにしては良い案じゃ!ワシらの攻撃は回避できても犬のうんちは踏みおったからのうー!」

「一言余計だ」

 

 

少なくとも犬のうんちなら彼に一矢報いれる事ができるのだから。

 

 

「お!」

 

 

ここでデンジは閃いた!

 

 

「さすが俺、軍師のなんとかこうめいみたいに天才になっちまったぜぇー!」

「まだ馬鹿をやる余裕があるのか…」

「おい待てよ!?虚言癖のお前にドン引きされたら俺の頭が終わった証拠じゃん!?」

「なんじゃ、ようやく自覚したのか?」

「よし、あいつぶっ殺したらお前もぶった斬る!!」

 

 

パワーの態度に反論したデンジの思いついた秘策とは…。

 

 

「ぎゃあああああああ!!?」

「やっぱ、馬鹿だったか」

 

 

自分のチンチンをチェンソー化して岸辺に奇襲するという手段であった。

さすがに自分のチンチンを武器化する奴はいないだろうというデンジなりの発想である。

発想は悪くなかったが、相手が悪すぎた。

 

 

「俺のチンチン、なくなっちまったよ!?金玉は失ってもチンチン失った事ないのにぃ!?」

「ああ、宦官(かんがん)*1って奴じゃな、ワシが総理大臣になった暁には秘書として雇ってやるぞ」

 

 

当然ながら岸辺に返り討ちに遭ったばかりか、局部を失ったデンジは股間を両手で抑えていた。

プルプルと震えながら自分の下半身に目を向けて今年一番に衝撃的な事件だと認識するほどに…。

 

 

「チンチン…俺のチンチン、チーン!俺のチンチン死んだ。俺はもうダメだおしまいだ」

「チンチン失っても意外と元気そうじゃな?死に過ぎて麻痺したか?」

 

 

意外とチンチンを失っても喋る余裕があるデンジにパワーも素直に驚いた。

何度も激痛で苦しんだせいで痛覚自体が麻痺しているせいなのかもしれない。

 

 

「つーか、やけに頭が良くねぇ?小学校すら行ったことない癖に…」

「ワシはノーベル賞を開発したパワーじゃぞ?いずれ宇宙大統領になる存在…」

「余所見するな」

 

 

敵の目の前で会話をしていたパワーは「グエー死んだンゴ」と言って倒れ込む。

…そんなキャラじゃないだろうと無慈悲な追撃を顔面に喰らって悶絶する羽目になった。

珍しく巻き添えを喰らわなかったデンジだが、チンチンを失った悲しみにより心は曇ったままだ。

 

 

「チンチンがそんなに大事か?」

「はい」

「命よりもか?」

「はい!!」

「チンチンより大切なモンがあるだろ?」

 

 

岸辺なりのアドバイスでデンジにアドバイスを与える。

すぐに殺されると思ったデンジは少しだけ考えて口を開く。

 

 

「女とエッチすることおおおおお!?」

「全く…世話がやけるな」

 

 

それが遺言となり、デンジは108回目の死を迎えた。

溜息をついた岸辺は、魔人とチェンソー人間を輸血パックで復活させる。

ついでに経費で落とすのが面倒になったので結婚の悪魔が化ける係長に手続きを全部投げた。

 

 

「…はぁ?知らんが?」

 

 

悪魔は激怒した。

かの傍若無人に振舞う岸辺隊長をこの世から除かなければならぬと決意した。

自動小銃と対物ライフルに加えて手榴弾と燃料気化爆弾を携えて岸辺にお礼参りに行った。

その日、岸辺の隠れ家が跡形も無く吹っ飛んだり、運悪く遭遇した海の悪魔が瞬殺されたりした。

 

 

「今日の修行はなしだよ」

「え?」

「お?」

 

 

マキマさんからそう告げられたデンジとパワーはお互いを抱き締め合って喜びを分かち合う。

なんでそうなったかは知らないが、デンジたちには関係ない。

毎日の訓練で精神的に参っていた彼らにとっては、束の間の休日となった。

だが、当事者たちからすれば、たまったものではない。

 

 

「デビルハンターとして1000点だ」

「うっせぇよ!!」

 

 

結局、岸辺隊長と結婚の悪魔は双方とも無傷で戦闘を終えたが、戦いの余波で富士山が半壊した。

幸いにも山開き前だったので全面戦争に巻き込まれた悪魔たち以外に犠牲者が出る事は無かった。

これにより日本で標高が最も高い山は、山梨県にある“北岳”となる。

後に南アルプス市の一部となる芦安村*2が静岡県の富士市に謎の自慢をする以外に勝者は居ない。

 

 

「俺との戦闘ついでに…“山の悪魔”と“海の悪魔”と“雪の悪魔”を無力化して捕縛するなんてな」

「こいつらを利用して殺してやろうと思ったのに…」

 

 

手の内をバラしてでも結婚の悪魔は岸辺を殺そうとしたが、如何せん、マキマが厄介過ぎた。

彼女の抑止力によって隠れ家1つと富士山の半壊と悪魔3体の捕縛で2人は妥協し、終戦した。

翌日、岸辺隊長と係長が同じ机で向き合って仕事をする姿を確認したマキマが発言を繰り出す。

 

 

「仲良くなれて良かったね」

 

 

他人事のように言うマキマに双方とも手を出す事はない。

新たな手の内を考えている化け物たちには彼女の挑発すら耳に入らなかったのだ。

 

 

「荒井君もどうなっているか気になるなー」

 

 

更にマキマは挑発するが、双方とも反応が乏しかったので諦めて自室に戻っていった。

その翌日、荒井ヒロカズは因幡ナオミ副隊長と共に谷川岳の登頂を登りきった。

 

 

「これで登山は終わったけど、問題なのは帰りなのは分かるよね?」

「はい。分かっております」

 

 

谷川岳は、世界最高峰のエレベストよりも犠牲者を出しており、“人喰い山”と評される事もある。

素人でもアクセスしやすく中途半端な覚悟で挑める手軽さが却って死人を増やしていた。

谷川岳での犠牲者だけで8000メートル峰14座で発生した死者の合計を遥かに上回るほどに…。

 

 

「道に迷ったと思ったら沢を降りずに来た道を戻る事、限界だと思ったら無茶をしないで休む事、それ以外にも言いたい事はたくさんあるけど、君なら大丈夫だよね」

「大丈夫です」

 

 

荒井ヒロカズは因幡ナオミの指示の下、無茶な訓練をこなしてきた。

バディだったコベニが退職し、姫野先輩が脱落した以上、自分しかデンジを守れない。

そもそも自分の身すら守れないからこうやって修行しているわけだ。

 

 

「もちろん、困ったら私に相談してね。それまでは()()()()()()()()()()()から」

 

 

姫野先輩の同期はとても厳しかったが、彼女も同じ訓練をやってのけるので文句すら言えない。

それどころか、カメラを取り出して写真を撮ったり雑学を話す余裕まであった。

 

 

「休憩終わりー!荒井君が先導して私をスタート地点まで連れて行ってね」

「了解です」

 

 

登頂を達成した感動も、彼女にとってはどうでもいいらしい。

何枚か写真を取って満足したのか荒井に下山を促す。

 

 

「ん?」

 

 

ここで荒井は違和感を覚えた。

何故か登頂ルートと逆の位置、人気が居ない場所に誘導されていたと気付いたのだ。

 

 

「うっ!?」

 

 

殺気すら感じる余裕はなかった。

最初のマラソンで彼女が言っていた『当たり前を否定する』を実践しただけ。

急いで身を翻すと1秒前まで自分が居た場所に煌めく刃が見える。

 

 

「うわ!?」

 

 

荒井を殺そうとしたのは、因幡ナオミ本人である。

彼女は本気で荒井を殺そうと不意打ちで攻撃を仕掛けた。

有無言わさずにナイフを横払いしたと見せかけて彼の顔に向かって投擲した!

 

 

「が!?」

 

 

荒井は辛うじて両手でナイフの柄を掴んだが、負傷してしまい地面を血で濡らした。

 

 

「合格!よく私が荒井君を本気で殺そうと気付いたね」

「な、なんで…」

 

 

それを見た因幡は喜んだが、荒井はその場に座り込んで震えてしまう。

姫野先輩の指導の下、悪魔との戦闘で実戦を積んだつもりだったが…。

今回の不意打ちほど恐ろしいものはなかったのだ。

 

 

「言ったでしょ?先輩や上司のミスで死因になり得る負傷の4割を占めてるって」

「だから攻撃したんですか?」

「人間って目的を達成した直後ほど油断するものだからね、荒井君はよく対処したよ」

 

 

ここで因幡副隊長に不意打ちで殺されるならどの道、悪魔に殺されている。

岸辺隊長譲りの姫野先輩も厳しかったが、因幡先輩は更に厳しかった。

 

 

「だからここで白狼の1匹を荒井君に再契約して欲しいの」

「白狼?」

「うん、試練を乗り越えた君なら白狼も納得すると思うから」

 

 

ただ、困惑する荒井に対して厳しい試験はこれで終わったと因幡は思っている。

リュックサックからメモ帳を取り出してパラパラとページを捲っていった。

 

 

「あ……」

 

 

さきほど殺しにかかった女とは感じられないほど間抜けっぽい声を出してしまう。

かなり動揺してしまい、緑色の髪を少しだけ弄って気を取り直してコホンと咳ばらいをした。

 

 

「何かあったんでしょうか?」

「いえ、こっちの都合…」

 

 

言葉が震えている因幡であったが、荒井の質問に返答する気はない。

落ちていたナイフで自傷した彼女は、両手の手首同士をくっつけて「アオーン!」と鳴く。

 

 

「ごめん、ケンケンモドキ!呼び出すのすっかり忘れてた!」

 

 

ケンケンモドキと名付けられた白狼は、地面に染み込んだ血から出現した。

デンジたちが銃撃された事件で目撃した白狼と同じく血塗れであるが…。

何故か瘦せ細っていて飢餓状態に見える。

 

 

「えーっと荒井君、この子と契約を更新してね!」

 

 

2年以上も存在自体を忘れ去られていたケンケンモドキには怒りすらない。

因幡ナオミに化けている結婚の悪魔から生まれた存在なのに存在自体を忘れられていたのだ。

 

 

(……もうやだ)

 

 

100匹の白狼は定期的に召集があり、全員がお互いを認識されている。

だから101匹居ると思った白狼たちは1匹だけ欠けているのに気付いていない。

分裂元である因幡もたった今、気付いたくらいに雑な扱いだった。

 

 

「契約の更新?」

「うん、私は101匹の白狼の悪魔と契約している…つまり飼い主と相棒という関係なの」

 

 

なんとなく適当に説明する因幡であるが、さすがに同じ自分を忘れてたのはまずいと思ってる。

 

 

「だから荒井君と契約を結ぶ事でケンケンモドキを君の手で扱えるようになるの」

 

 

少なくとも荒井という目撃者がいなかったら白狼は目の前の女に襲い掛かっていた。

なので必死に建前を述べる彼女は、注意事項を説明するフリをしてこの白狼を荒井に押し付けた。

 

 

「出現させたら1週間以内に生肉1キログラムを用意して食べさせてあげてね!」

 

 

白狼を出現させる方法は、自傷をしたら白狼の名前を頭に思い浮かべる。

両手首をくっつけて「アオーン」と鳴けば、必ず血が落下した場所から白狼が出現する。

そこから指示を出して目的を達成させたら、帰るように指示を出せば姿を消す。

その後に生肉を用意して血を流さずに同じ事をやればいいという話だった。

 

 

「生肉をもらえずに1週間経とうとしていたら白狼が警告してくれるから大丈夫!」

 

 

そういう決まりで悪魔と契約…しているフリをしている。

悪魔は別の悪魔と契約できないが、自分には自分と契約っぽい約束ができる。

存在自体が曖昧で生物どころか物体にもなれるからこそこんな真似ができるだけであるが…。

 

 

「そうそう、契約が更新されて荒井君に移ったから、ちゃんと生肉1キログラムを用意してね!」

「あ、ありがとうございます」

「それとこの契約の件は内緒だから!」

「はい、死んでも口を割りません!」

 

 

普通に荒井ヒロカズは因幡の発言の全てを信じてしまった。

さきほど当たり前を否定しろと言ったばかりなのに…。

 

 

(あーあ、本当に信じちゃった)

 

 

()()()()()()()()()()()()()()()()のは、デビルハンターなら常識だというのに…。

一応、呪い悪魔のように契約者の行動次第で結果を変えるパターンもあるが、事前に説明がある。

人間にとってギブアンドテイクのような契約など悪魔はする訳がない。

 

 

(むしろ、当たり前を否定したから?…まあ、いっか!)

 

 

もっとも、ここで因幡ナオミと白狼が“結婚の悪魔”と名乗っても彼は信じないだろう。

結婚以外の契約ができずに別個体に化けれるわけないという常識を突いた非常識。

マキマからの弱体化を嫌って自分から弱体化した悪魔の強かな一手に過ぎないのだから。

 

 

「ところで私からの試練は終わったけど谷川岳の試練は終わってないからねー!」

「あっ……」

 

 

うまく契約を誤魔化した因幡は、荒井に現実を改めて示す。

谷川岳は悪魔から見てもかなりの難所であったのだ。

無事に遭難して翌日に谷川岳から生還した荒井の顔はどこか一皮剝けていた。

文字通りに顔の皮の一部が剝けていたと突っ込むのは野暮であろう。

 

 

「今のは、100点だったぞ」

 

 

荒井ヒロカズが谷川岳に登頂してから丁度、1週間後、ついにデンジたちがやってのけた。

あの岸辺隊長の左頬に掠り傷を与えたのだ。

 

 

「今日から指導は毎日じゃなくて良い。週に1回とする」

 

 

これで1か月以上続いた地獄の特訓が終わる。

そう安堵したデンジたちだったが…。

 

 

「指導を踏まえて明日に実戦だ。サムライソードと蛇女を俺たち全員で捕まえに行くぞ」

 

 

ここでデンジとパワーは岸辺によって手加減されていたと知る。

それでも訓練の成果は示せたのは、さきほどの台詞からも分かった。

 

 

「新4課のお披露目式だ。もし、失敗すればお前たちは俺とガチバトルの殺し合いとなる」

 

 

なによりもう、自分たちに後がないと知った。

だが、デンジは岸辺隊長の発言に臆さない。

 

 

「そん時ゃ俺は先生を殺さないで見逃してやるよ」

「は?」

 

 

さすがの岸辺でも彼の返答は読めなかった。

 

 

「あんたのおかげで俺は強くなったんからよ!恩は恩で返してぇ!なによりこれでマキマさんとのランデブーが近くなった!銃の悪魔の前座にはちょうどいいぜぇ!!」

 

 

デンジという武器人間は、頭が狂っている様で狂っていないと見せかけてどこかおかしい。

少しだけバディの事を思い出した岸辺は、黙って後ろを向く。

そしてここぞとばかりに襲い掛かって来たデンジたちを返り討ちにして立ち去った。

 

 

-----

 

 

作戦当日、銃の悪魔と契約するヤクザの一団が立て籠もるビルを警察が厳戒態勢で包囲している。

その作戦を起案し、実行まで持ち込んだのは岸辺隊長の手腕であった。

 

 

「神奈川県警より来ました警部補の椎名です」

「公安対魔2課の古野です」

 

 

神奈川県で発生した事件という事で管轄している部隊が展開している。

そんな彼らは、突入作戦尾指揮を執る特異4課の幹部たちに軽い挨拶をした。

 

 

「特異4課の岸辺だ」

「同じく特異4課の因幡と申します」

 

 

赤の他人なので常識の範囲内で自己紹介した岸辺と違って因幡は古野と面識がある。

 

 

(こいつか…)

 

 

自分に告白してきたのはいいものの、扱いが雑過ぎた男を見て因幡は少しだけ視線を逸らした。

かつての契約者が大好き過ぎて死んだ彼女に成り代わっている悪魔からすれば…。

大切な存在を雑に扱った挙句、身勝手にも振ったこいつを許せなかった。

 

 

「さて、さきほど伝えたようにビルの制圧は特異4課に任せてもらう」

 

 

そんな事情など露知らず、淡々と説明する岸辺隊長の姿は、どこか冷酷に見える。

実際、実験部隊として構成されている4課は、いつ公安から除籍されてもおかしくはない。

 

 

「作戦などない。特異4課全員をビルの中にぶち込む」

 

 

それでも「この作戦はないのではないか?」と因幡は思ってしまう。

対魔2課や機動隊の警部補も同じ事を思っているのは表情を見れば明らかだった。

 

 

「そこで協力して頂いている貴方たちに注意して欲しい点が2つある」

 

 

ここで誰もが思っていたガバガバ包囲網にした疑問の答えを岸辺は口にする。

 

 

「今からトラックがビルの中に突っ込んで大爆発するから気を引き締めておけ」

 

 

近隣の交通機関の停止や交通規制を公安対魔特異4課の係長の責任と権限で実施した。

そしてビルを包囲するパトカーや機動隊員、公安職員たちも無駄に道路の端に整列していた。

その理由は単純明快。

 

 

「今、なんて仰られましたか?」

「爆弾を積んだトラックがビルの入り口に突っ込んで大爆発する」

 

 

思わず椎名警部が聞き返すが、岸辺の返答は変わらない。

ちょうど、その役目を命じた存在が高速でトラックを操縦しているのだから。

 

 

(うおおおおおおおおおおおおお!!)

 

 

岸辺と殺し合った結果、何故かパシリ扱いにされた係長に化ける結婚の悪魔だが…。

よりによってマキマが糞みたいな作戦にGO!を出したせいでトラックでGO!をやらされていた。

 

 

「退け退け退け!!」

 

 

ギアチェンジで高速になったトラックのフロントガラス越しで目的地のビルが見えた瞬間!

10トントラックを暴走させている悪魔は徐行せずに全速力で右折した。

急ハンドルを切ったせいでトラックが一瞬だけ後輪が宙に浮き、転倒寸前となっていた。

 

 

「うわああああ!?」

「なんだ!?」

 

 

建物を包囲する機動隊員や警官たちは暴走するトラックを見て持ち場を離れて急いで退避する。

そんな彼らを見ていない悪魔はヤクザが立て籠もるビルに向かって突っ込むつもりだ!

 

 

(なんでこんな事やってるんだろ…)

 

 

傾いたトラックが無理やり直進した瞬間、サイドブレーキをかけてハンドルを全力で右に切った。

これにより、トラックは急な操作で後輪が空回りし、重心が大きく傾く。

今度はサイドブレーキを解除し、今度はトップギヤをローギヤに入れ直し、急ブレーキをかけた。

そんな無茶な運転をしたせいで傾いたトラックは横転し、そのままビルに向かって突っ込んだ。

 

 

(ほげええええええ!?)

 

 

勢いよく横転した10トントラックがビルの入り口に直進で突っ込む光景に誰もが唖然とする。

もちろん、運転する結婚の悪魔だってこんな事したくなかった。

岸辺の糞野郎が「映画みたいにトラックでビルに突っ込め!」と命令したせいでこうなったのだ。

 

 

(岸辺の野郎!!マキマのあん畜生!!覚えてろおおおおぉぉぉ!!)

 

 

自動小銃や拳銃を構えて物陰で潜んでいたヤクザもこれには驚愕をする。

持ち場を離れて逃げ惑うが、何人か巻き込んであらゆる物を粉砕し、奥にある壁に激突した!

衝撃を受けてエアバックが作動するが、そんなものでダメージを軽減できるものではない。

トラックを運転していた結婚の悪魔の肉体はミンチより酷い状態になった。

 

 

「と、止まった!?」

「か、火事だぁああ!?」

「消火器を持ってこい!!」

 

 

すぐに肉体を再生した悪魔であるが、未だにプレス機に押し潰されている状況だ。

しかも、エントランスフロアにある壁に激突したトラックから燃料が漏れて出火した。

煙を感知したセンサーがスプリンクラーが作動し、ベルがフロア全体に鳴り響く!

天井から水が噴き出す中、ヤクザたちは対応に追われる事となった。

だが、それはすぐに終わる。

 

 

「残念!爆発物はそれじゃない」

 

 

こうなる事を見越してあえて燃料をギリギリまで抜いていたのだ。

 

 

「きゅっとして」

 

 

くしゃくしゃに丸めた紙のように変形した運転席の中に居た結婚の悪魔は信管を作動させた。

一応、爆発の威力を計算したとはいえ自爆なのは気に喰わない。

 

 

「ドカーン!!」

 

 

せめて自爆オチはこれだけにしたいと思った悪魔だったが…。

どうせまたやるんだろうな…と感じた瞬間、視界が真っ白になった。

そしてビルの1階が爆発したが、計算通りに周囲のビルに被害が出ない程度の威力で収まった。

 

 

「特異4課、総員、突入開始!!」

 

 

爆発を見届けた岸辺隊長の号令の下、ついに新生公安対魔特異4課の構成員たちが動き出す。

何故か下水道に流された結婚の悪魔のことなんか彼は気にする事は無かった。

岸辺としては、あの悪魔もマキマに加担する敵なのだから…。

 

 

*1
完全に去勢された官吏のこと。皇帝や女官に遣える存在だが、権力に固執して王のように振舞った者も居た

*2
山梨県の最西端に位置し、山梨県内で最も古い村の1つとされる。現実世界ではこんなマウントをする村ではない

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