デンレゼが足掻く度に不幸になるケッコンの悪魔さん 作:Nera上等兵
公安対魔特異4課の長であるマキマは、ヤクザの組長が滞在している別荘を訪ねた。
理由としては、部下や同僚を殺しまくった件に関する落とし前をつけにきたのだ。
「公安のお客さんだ、高い茶用意しろ」
組長としても逃げる気はない。
自分の息子や組員の家族を守る為にどんな手を使っても生き残るつもりだった。
「ご協力ありがとうございます」
無駄に豪華なソファーに座るマキマは舎弟たちの監視の目を気にしていない。
むしろ、自分から逃げようとしなかった彼らに感謝すらしていた。
「東京でうちの若い奴らが勝手にドンパチやっちまったみたいで…何でも答えさせて貰いますよ」
組長としては、落としどころを探していた。
彼としても息子の若頭が良く分からん女に誑かされたのは知っていた。
それでも人間の屑でも救ってやるという信条で何とか暴走は免れていた。
しかし、カタギで生きていく事にした元組長が死んだ影響で全てが狂ったのだ。
「私の指示じゃあないって事も分かって欲しいからね」
これは本当であった。
公安職員を殺してもヤクザ側にメリットなどない。
むしろ、デビルハンターじゃない公安警察と仲良く付き合う事で組織を存続してきたのだ。
「聴いた話によるとこの沢渡という女が黒幕でな」
まずは写真を差し出して今回の事件の黒幕は、沢渡アカネに押し付けた。
先に事実を提示する事で話の信憑性を増やしたうえで後の交渉の材料としたのだ。
「この女の仲介にウチの若い奴らが騙されて銃の悪魔と契約しちまったらしい」
元々ヤクザは銃器を所持していたが、13年前に発生した銃の悪魔襲撃事件で全てが変わった。
今まで護身武器として愛用された銃器は、悪魔の手先だと恐れられて大半の勢力が手放した。
ただ、10年前以上の出来事で風化してしまい、若い奴らは気軽で戦える銃器に目が眩んだ。
「契約内容は?」
組長に差し出された写真を
「銃の悪魔に2万円を支払う代わりに契約者は銃と弾が貰えるんだとよ」
ピースサインで金額を示した組長は、内心では実際は違うと分かっている。
(どうせ、海外から仕入れた銃なんだろうが…なんで公安を襲う必要があるんだ…)
伊達に悪魔と極道の世界で生き残っていない組長は、今回の事件が茶番だと分かっている。
ソ連やアメリカ製の銃器が平然と若い組員に侵食していると気付いていた。
それでも止めなかったのは、ロシアンマフィアや中華マフィアの侵攻に備える為。
「悪魔の世界にも金が必要なんかなあ、案外、銃の悪魔は人間の欲望に寄生してるかもなぁ」
いくら銃の悪魔でも、人間が銃を使用しなければ自分の恐怖を示す事はできない。
それが悪い事だと分かっていたとしても、人類は銃を手放せないのだ。
日本だって警察が銃器を所持してなければ、他国のマフィアに蹂躙されていただろう。
「…組に居る銃の悪魔と契約している方々の氏名をここで書いてもらいます」
「おおいいよ、しばらくムショに入れて頭を冷やさせてくだせい」
ここで重要なのは、銃の悪魔と契約した若い奴らを刑務所にぶち込んで欲しいと告げる事。
これにより、銃の悪魔の手先として殺害されるのを防ぐと同時に誠意を示す。
ついでに息子自体は契約していないので、これで言い逃れするつもりだった。
「我々も協力を惜しみません。組織復興の献金をするので更生の方、よろしくお願いします」
いくら馬鹿共といえ、組の未来を担う連中が全滅すれば組織として成り立たなくなる。
組長が協力を惜しまないという発言は、それほどまでに重かった。
マキマを監視している舎弟たちも組長の発言を聴いて動揺よりも驚愕しているほどだった。
「貴方の組だけではなく他の組の方もお願いします」
だが、公安職員の女が放った一言で台無しとなった。
「お嬢ちゃん、アンタさぁ……」
一見すると何でもやるヤクザにも暗黙の了解というものが存在している。
自分の組員を売るという禁忌の選択肢を選んだ組長もこれには反論する。
「な~~~んもわかってねぇなあ」
例え抗争している組だとしてもやってはいけない禁忌がある。
「そんな事知ってても、告げ口がバレたら組同士で戦争がおこっちゃうよ…」
それは仁義を捨てる事。
戦争にも最低限のルールがあるように他所の組まで情報を売るのはご法度である。
ここまで譲歩したのに更に踏み込もうとした女はデビルハンター故に知らないのだろう。
普通の公安警察ならここで引き下がって手を打ってくれるというのに…。
「国民の安全の為です。ご協力お願いします」
それでも赤髪女は他所の組まで売れと唆して来る。
怒りを抑えられない組長は葉巻に点火して煙を女に吹きかけた。
「嬢ちゃん、“必要悪”って単語を知ってるかい?」
光で照らされた場所には必ず影ができるものだ。
全ての人間が真っ当な生活を送れるとは限らない。
名門の歌舞伎俳優の子が演歌歌手になれないように生まれた時から人生が決まる場合がある。
「確かにヤクザは悪党だ。だが、必要だからこうやって存在しているんだよ」
よっぽどの事が無い限り、ヤクザを監視している公安警察も実力行使をしない。
何故なら、少なくともカタギに手を出さないルールを守っている彼らを潰せば…。
中華マフィアやロシアンマフィア、ギャングたちの暗躍を許す事となる。
「今回の事件もソ連が絡んでいると俺は思っている。何故なら合法的にヤクザを潰せるからな…。銃撃事件で回収した銃を見たはずだ。どう見てもソ連で製造された粗悪品だったろ?」
ヤクザは日本文化が生み出した暗部ではあるが、それでも日本に対して愛国心も誇りもある。
だが、他所の国の連中はそれを配慮しない。
ヤクザ同士で潰し合えば、必ず奴らは漁夫の利で全てを奪い取って日本に侵食して来る。
「今回の事件は俺の落ち度だぁ、だから銃なんか憑りつかれた若いモンを全て売るつもりだった。だが、他所の組の連中に関しては、お前ら自身で交渉して来い。俺は無駄な争いは嫌いなんだよ」
葉巻をふかす組長は、若い公安デビルハンターの女にアドバイスをする。
誠意と仁義を示しつつ代替案を提示し、なんとか交渉を上手く終わらせるコツを伝授した。
「デビルハンターが悪魔から国民を守るように俺たちも海外マフィアからカタギを守ってんだよ。公安警察や税務省が俺たちを本気で潰さねぇのは相応のリスクがあるってわけだ」
未だに警察や公安デビルハンターなどの国家公務員が銃を捨てない理由は1つしかない。
先日発生した銃撃事件で反撃ができなくなり、相手にやりたい放題されるからだ。
相手を牽制する抑止力というものは、少なくともカタギでは持ち合わせる事ができないのだ。
「まあ、デビルハンターは学のない馬鹿揃いと聞くし、分からないのも当然か」
公安警察というものは、本来警官の中でも選りすぐりのエリートしかなれないものだ。
だというのに公安デビルハンターはアホみたいに死ぬせいで馬鹿やクズが多くなった。
同じく公安警察なのに公安デビルハンターの扱いが悪いのもそういった理由がある。
「…すまん、これも俺のミスだ。別管轄の仕事を押し付けられたのは同情するぞ」
実際に間近でアホ思想を展開した女に思わず組長も本音を漏らしてしまう。
真面目な公安警察の仕事を公安デビルハンターにもできると期待してしまったのはまずかった。
それも自分の落ち度だと組長は素直に謝罪した。
そのせいで笑い飛ばしていた舎弟たちは気まずそうに振舞っている。
「ではこれを」
「うん?」
さきほどまで作り笑いをしながら話を聞いていた女デビルハンターは紙袋を机の上に置く。
「端金じゃあ、仲間は売れんよ?もっと上層部を巻き込んで来い。話はそれからだ」
ただし、お金となれば話は変わる。
悪魔のせいでヤクザも苦しんでおり、悪魔の力を借りようとするのもそういった原因がある。
組長としては組員を暫く養える大金をもらえるなら気に喰わない組の情報くらいは売る気だった。
「これはお金じゃありません」
紙袋を置いた女は淡々と中身について報告をする。
「ここに居る皆さんの…父や母、祖父や祖母、兄弟や姉妹、恋人や奥さんの…」
個人情報で脅す気かと組長は無駄にゆっくりと話す女職員の話を聞いていた。
「目です」
「め?」
ヤクザの風習としては、指詰めという文化が存在する。
小指を切断する事で誠意や謝罪を示し、許しを請うというものである。
ただ、目と聞いてピンと来なかった組長は、恐る恐る紙袋を開いて中身を確認した。
「うっ!?うわああああ!?」
そこにあったのは大量の眼球であった。
ご丁寧にも視神経まで根こそぎ残しており、本物だと嫌でも分かる。
「ご安心ください。公安には目を元通りにできる人が居ます」
組長が取り乱した瞬間、赤髪の女は彼を安堵させる為に選択肢を提示する。
「ご協力してくれるのであれば、その人を紹介します」
つまり、他所の組の情報を売る以外に選択肢はないと暗に告げた。
「てめぇ!?……うっ!?」
舎弟の1人が拳を振り上げたが、女が睨んだだけで彼の顔にある穴という穴から出血した。
脱力して座り込む舎弟は殺されはしなかったが、周りに勝ち目がないと示す役割を果たす。
「貴方の言う必要悪というのは、悪事を行なう自分を正当化する言い訳です。その言い訳は社会に必要ありません。そもそも私は交渉しに来たのではありません。命令をしにきたのです」
ここでマキマはソファから立ち上がって自分と向き合うヤクザに本性を現した。
「必要悪というのは、常に国家が首輪をかけて支配しているものです」
支配の名を冠する女悪魔は、必要悪というものを説く。
「何が正義で何が悪なのかは、憲法や法律、もしくは後世の人物や評論家に定義を委ねるとして…強大な悪がいるからこそ自分たちの正しさを示せるものではありません」
確かに他国の勢力は脅威だからといってヤクザのやり方が正当化されるものではない。
だからこそ法治国家の日本は、憲法や法律によってさまざまな規制をし、規則を定めている。
「…貴方の主張を受け入れるのであれば、国家ぐるみの悪行や人権侵害は犯罪になりませんよね?何故なら多少の犠牲に目を瞑っても正義の為に必要なのですから」
要するに犠牲を強要するのであれば、相応のリスクを負わなければならない。
後世まで悪名を轟かせるなり、別の正義に断罪されるなどのリスクを受け入れる必要がある。
「国家を作るには国民が必要ですが、法律は必要ありません。支配するなら暴力で充分ですから」
弱者を切り捨てて良いなら別に悪を生かす必要もない。
「それにまだ気付いていないようですが、これは交渉ではありません。命令です」
なにより、自分の掌の上で踊っている組長に彼女は命令する。
「大人しく捕まりなさい」
「分かりました」
するとさきほどと打って変わって組長は、白旗を揚げて投降した。
マキマに両手を差し出すと彼女はカバンから手錠を取り出して彼の手首に填めた。
「貴様!なにをした!?」
組長の忠臣である舎弟が懐から拳銃を取り出して彼女に銃口を向ける。
「隣にいるおっさんの頭を撃ちなさい」
「はい」
「え?ああああばあ!?」
ところが、マキマが命令した途端に銃を握り締めた舎弟は、隣の舎弟を射殺した。
殺人事件を目撃した彼女は不敵に笑い、
「傍に居る悪魔たちに殺されるか、大人しく私の指示に従うか、どっちがいい?」
マキマの発言を受けて舎弟の姿に化けていた血塗れの白狼たちが正体を暴露する。
この存在もマキマに支配されていないが、国家により必要悪として働くのを許可された悪魔だ。
「わ、分かった。だからこれ以上は何もしないでくれ…」
「うん、最初からそう言ってくれればよかったのにね」
これにより、この部屋の中で唯一正気であった舎弟はマキマに投降した。
同時刻、国家により例外的にビルの爆破を許可されたトラックが突っ込んだ。
積んでいた爆弾が爆発し、銃の悪魔と契約した気でいる組員たちが消し飛んだ。
「マスコミに公安対魔特異4課の宣伝をさせるのに爆発させていいのか…未だに謎だ」
激突で潰れた10トントラックで自爆した結婚の悪魔は、無事に爆発から生還した。
身体が爆散してもすぐに元通りになるのだから、むしろスプリンクラーの水が厄介だった。
「お、お前…」
「おお、生き残りが居た。どうだ?投降する気になったか?」
右肩を負傷している組員は拳銃を片手で構えて金髪の公安職員に銃口を向けた。
「なるほど、殺人未遂罪を重ねて牢獄で頭を冷やすつもりか、それもいいかもな」
発砲された5発の銃弾を折れ曲がったトンファーバトンで全て弾き返した。
圧倒的な実力差を見せつけて投降する様に呼びかけたのだが…。
「クソが…」
上階に居る仲間と合流して迎撃するつもりのようだ。
「仲間か、いいよな」
悪魔には徒党を組む発想はない。
だから仲間という概念はいつも人間からもたらされる。
「撃て撃て!!」
無防備に階段を登っていたせいで撃たれまくるが、それより仲間について考えてしまう。
自分の野望を手伝ってくれる仲間が欲しいと考えた事は無かった。
だが、実際に自分を分裂させて一緒に任務を遂行すると仲間が欲しくなってしまった。
「いいな…」
肉体に減り込んだ弾丸をそのまま撃ち返すとヤクザたちは驚いた顔をして逃げて行った。
きっと指揮官が優秀なのだろう。
確かに今の現状のヤクザの活動だと未来が無いと考えても仕方が無い。
デンジをデビルハンターとして酷使したヤクザの親玉でさえ悪魔の力に魅入られたのだから。
「支配の対義語は自由だと思っていたが、案外、仲間の絆だったりするかもな」
自動小銃を持ち出して迎撃をするヤクザたちだが、結婚の悪魔の足止めにもならない。
素早く後ろに回り込んで真っ赤に染まった銃口と銃座を掴んでへし曲げて見せた。
「うわああああああああ!!」
「悪魔かこいつううううう!!」
「そうだよ」
悲鳴をあげて逃げ惑うヤクザに発言に便乗してみるが、全然楽しくない。
恐怖に怯える人間の感情が大好物のはずなのに何故か面白みにかける。
「ほら返すぞ」
さきほど撃ち込まれたAK-47の7.62mm口径弾を両手首から発射して威嚇射撃をする。
物陰に隠れる者、反撃を試みて逆に返り討ちに遭う者、自決する者、様々な人物が居た。
「おいおい、どうした?さっさと返り討ちにしてみろよ。その程度の覚悟で立て籠もったのか?」
強力な実力を誇る悪魔は、その力で人間を蹂躙するより、人間を理解しようと試みるようになる。
結婚の悪魔もその1体に過ぎない。
「ホラホラ、早く迎撃しろよ。別に勝てなくても良い。頭を使って撃退してみろ」
もはや、自分の肉体を的にさせて新兵に射撃訓練をさせている教官になった感じがする。
パンパンと両手を叩いて自分の姿を無駄にアピールし、銃弾の雨を全身で浴びていく。
「だからさ、頭を使えよ。銃が効かないのは分かるだろ?」
相変わらず銃撃をするヤクザたちに悪魔は失望する。
一応、生け捕りにするつもりだったが、もう少しまともな抵抗をすると思っていた。
もしかしたら、対魔特異課の構成員は銃が弱点だと結果で示したのが…まずかったかもしれない。
「しゃあない、人類の可能性の為だ。痛いのは我慢してくれよ!」
人類には無限の可能性があると結婚の悪魔は信じている。
なので近くに居た組員の左腕を引き千切って鈍器として振り回して無双を開始した。
銃が効かないなら鈍器で攻撃するようにアピールしたが、逆にドン引きされる事となった。
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若頭と沢渡アカネも勝機があるとは思っていない。
国家権力を本気にさせれば、絶対に勝ち目が無い事くらい分かっていた。
「爺ちゃんの置き土産がある。借金を返せねぇクズ共で作ったゾンビなら足止めができる」
…と若頭は組員に説明したが、相手の実力を知っているので時間稼ぎにならないと思ってる。
その為、沢渡によって何体かの悪魔をこのビルに配備させた。
ただ、彼らは気付かなかった。
「ゾンビ!ゾンビ!!喰いたい放題~!!」
地面や壁を貫通して泳げるサメの魔人がゾンビ相手に無双している事に…。
「腐った肉は好みじゃありません」
蜘蛛の悪魔はゾンビの味が口に合わずに
顔にあるファスナーが不気味さを漂わせるが、これでも人間に友好的な方の悪魔である。
「いやー!死んでいると助かるよ!俺の拳は殺人の為にあるわけじゃないからね!」
新入りである暴力の魔人は、大柄な肉体を活かすドロップキックを仕掛けてゾンビを爆散させた。
その返り血は、頭上に輪っかを浮かべて背中に白翼を生やした美少年のスーツと頬を汚した。
「うわ、上着が汚れた。クリーニングに出せないから困るなー」
人間に敵意はないが、敵意が無いからこそ孤独になってしまった天使の悪魔は悩む。
好戦的な性格じゃないのに戦いに駆り出された挙句、上着を汚してしまった。
「ねえ、そこの君。ハンカチを持ってない?」
少なくとも顔だけは拭きたい天使の悪魔は、黒髪のちょんまげ頭をした青年に質問をする。
そしたら無言でハンカチを渡してきたので悪魔は驚いた。
「よく僕に近づけるね。僕に触れられると寿命を吸い取られるのは知ってるでしょ?」
「布越しなら平気だろ?」
「そうだね、このハンカチを汚す代わりにどこかで恩返しするよ」
早川アキから差し出されたハンカチのみを掴んだ天使の悪魔は自分の頬を拭く。
ティッシュで良くない?と思うかもしれないが、この悪魔にそんな知識などなかった。
「今がその時だね」
上階への階段に繋がる入り口に潜伏していた鉄砲玉が拳銃を構えた。
それを見た天使の悪魔は翼を広げて早川に向けられた弾丸を全て弾いた。
「いたたた。……これで恩返しした事でいい?」
「いいや、こいつを地上に運んでくれ。俺たちは先行するからな」
その隙に裏拳で組員を瞬殺した早川は、天使の悪魔に命令を下す。
「命令されちゃった。まあ殺人をするよりマシだし、恩を返せたからいっか」
天使の悪魔は仕方なく気絶した人間を運ぼうとした瞬間、ゾンビの群れに包囲されてしまった。
「邪魔だよ」
体内にあった寿命で武器を作った天使の悪魔は一振りで11体のゾンビを瞬殺した。
「み、見えなかった。さすが最強クラスの悪魔っすね」
「荒井、行くぞ」
「了解です!」
岸辺隊長に次ぐ実力があるとは知っていたが、実際に実力を目の当たりにしたのは初めてだった。
惚れ惚れする戦いっぷりに感心する荒井だったが、早川先輩の発言を受けて気を取り直す。
「背中は任せた」
「…ありがとうございます」
血が滲む特訓をしたとはいえ、ようやく姫野先輩のように背中を任せてくれた。
たった一言であったが、これだけで荒井の努力は報われたといってもいい。
背中で生きざまを語る先輩の姿を追って彼は上階に向かう階段を登って行った。
「なあ、エレベーターが止められたらどうする?」
「そん時はそん時じゃ」
「だよなー」
なお、馬鹿2人は堂々とエレベーターを使って上階に登って行った。
さすがにこれを使って侵入する馬鹿はいないだろうという逆転の発想。
…と見せかけて彼らは特に何も考えていなかった。
「サムライソードってどこにいるんだろうな~?」
「こういう時って屋上か地下に居るもんじゃろ」
「地下は居なかった」
「じゃあ、屋上じゃ。ワシを見下している奴に鉄槌を喰らわせてやらなくてはな!」
パワー自身はサムライソードと遭遇していない。
なのでどこまで強いのか知らないし、そもそも面識が無いので手加減も難しい。
だから黒髪もみあげマンを目撃したデンジに頼るしかなかった。
「お」
チーンと音が鳴り響いて7階に繋がるドアが開いた。
この階にしたのは理由がある。
何故ならボタンが細工してあったので何かあると思ったからだ。
(うわ…ゾンビじゃん)
そこには辺り一面を埋め尽くすほどのゾンビの姿があった。
糞雑魚ナメクジ未満のゾンビであるが、デンジにとって良い思い出はない。
「気付いてないみたいだな、ここはやりすごすぞ」
ゾンビの大群の中にサムライソードマンがいるとは思えなかった。
さっさとドアを閉めるボタンを押そうとするデンジはパワーを牽制した。
さすがに自分たちの目的を忘れていないと思ったのだが、改めて釘を刺したのだ。
「ワシの名前はパワー!!」
なお、パワーからすれば、アリア〇ンの外で遭遇するスライムのようなものだった。
「こいつらなら大活躍ができるな…。ウヌは手出し不要じゃ!ワシが先陣を切る!!」
ここで活躍すれば、成果を出せるし、なにより自分が強いとデンジに示す事ができる。
今まで血の悪魔という存在を過小評価してきた彼にようやく強さを見せられるのだ!
大声で叫んでゾンビに自分の存在を気付かせた彼女は、ゾンビの群れに飛び込んで行った!
「…上に参ります」
エレベーターガールってこんな時にも平常心なんだろうな。
そう思ったデンジは、決め台詞を言ってボタンを押し、エレベーターのドアを閉めた。
「どうだ!どうじゃ!どんなもんじゃ!!」
自分の血で武器を生成して二刀流で暴れるパワーは相方がこの場に居ない事に気付いていない。
ファイア、ファイラ、ファイガ、ファイジャみたいな感じに彼女は叫び続ける!
戦〇無双ならぬゾンビ無双で15体のゾンビを葬り去った。
「ガッハッハッハッハッ、弱い!弱すぎる!!ワシが最強でゴメンなのじゃ!!」
これでパワー>ゾンビの大群という格付けチェックが終了した。
「おおっ!?これは強敵じゃ!!だがしかし、レベリングを重ねたワシの敵じゃない!!」
無駄にデカいゾンビを発見したパワーの脳内にボスBGMが流れる。
無駄にクラシックであり、昨日プレイしていたドラゴンク〇ストの影響が垣間見える。
「見ておれデンジ!そして言い伝えろ!」
今までスライムを狩ってきたが、さまようよろいという場違いなボスが出て来たと錯覚していた。
それでも彼女は怯まない。
「パワーが一番最強じゃああああ!!」
さまようよろい に 5000億 パワー ダメージを あたえた!
さまようよろい は たおれた!
パワーは さいきょう を デンジに しめした!
「うおおおおおおおおおおッ!ワシ最強!!ワシ最強!!」
見事に大型ゾンビを討伐したパワーは大声で決め台詞を言う。
…デンジがこの場に居ない事に気付いたのはそれから30分後の事であった。
「糞ったれ!」
パワーが暴れ出して10分が経過した頃、早川は抜刀し刃を前に構えた。
「残念だけどここで死んでもらうよ」
目的の女を発見したものの近づく事ができない。
蛇の悪魔とクワガタの悪魔を同時に遭遇するのは想定していた。
「さすがにこの悪魔を見られたら孫ですら消えてもらうつもりだったけどね」
だが、戦車の悪魔もこの場に居るのは想定外だった。
これが沢渡アカネの禁じ手であり、切り札であった。
「…先輩、大丈夫です。このために修行してきましたんで…」
「とりあえずヘビは任せろ」
「うわ、責任…重大っす……」
早川アキと荒井ヒロカズは不運だった。
自動小銃を構える女と蛇の悪魔と戦車の悪魔と同時に戦う羽目になるのだから。
「ムッ!?…戦車の悪魔か。懐かしいな…」
強敵の気配を感じた結婚の悪魔は、自分の鼻が衰えていると実感した。
それはともかく戦車の悪魔とやたらと遭遇するせいで何度も殺した実績がある。
そのせいでこの世に誕生する度に大国に酷使されていたが、どうやら今はソ連側らしい。
「お!?」
仕方なくもう一度殺しておこうと思った結婚の悪魔にようやく手ごたえを感じる敵が出現した。
(カビの悪魔とギロチンの悪魔か…)
どうやらヤクザたちは前回の反省を踏まえて悪魔の力を使役するデビルハンターを雇ったようだ。
まずは首に異変を感じた直後に脳内と心臓にカビが出現した。
すぐに肉体を元通りにした結婚の悪魔は、悪魔たちと契約している3人組と向き合った。
「さすがに今のは効いたぞ!やればできるな」
パチパチと拍手をする結婚の悪魔に対してデビルハンターたちには動揺はあっても恐れはない。
これだけで悪魔からすれば、100点中50点を差し上げたくらいだった。
「奴にはギミックがある!おそらくこいつを再生する部位が…」
「正解!」
カビの悪魔と契約しているデビルハンターの発言に結婚の悪魔は嬉しそうに答え合わせをした。
「…で?どうする?投降するなら五体満足で逮捕し、生存と人権を保障しよう」
「舐めるなよ!俺たちに秘策があるんだ!」
「狐の悪魔を返り討ちにした我々に勝てると思うな!」
「ほうほう、良いじゃん。期待できるな…!」
一応、悪魔は基本的な人権に配慮して発言をしたが、心配は無用だった。
彼らの発言と服装にこびりついた血の匂いから公安職員を何名か始末しているようだ。
これでようやく合法的に殺人ができそうで結婚の悪魔は口角を釣り上げる。
「これでよし」
まずは配電盤を破壊してこのフロアの電力を使えなくする。
これにより、監視カメラやセンサーで自分を感知する事はできなくなった。
「え?」
「あ?」
「いつの間に?」
あまりにも早業過ぎて彼らは敵が自分の背後に居るのにすぐには気付く事はできなかった。
「見せてもらおうか、お前たちの秘策とやらを…」
さすがに早川がすぐに殉職するとは思えない。
荒井ヒロカズも因幡が訓練させたのですぐには死なないだろう。…多分。
だから結婚の悪魔は、実力差に気付いてもなお、立ち塞がる彼らに誠意をもって接する事にした。
「安心しろ。
軽口を叩いていた金髪の壮年男性が填めていた結婚指輪から大量の血が噴き出した!
その瞬間、結婚の契約を守れずに死んだ犠牲者の姿から本来の姿に変身する。
「喜べ、お前たちは強い。だから本気で掛かってこい。生き残りたいならな…!」
一応、彼らにも勝ち目がある様に悪魔は本来の姿になって弱点を示したのだ。
マキマに本来の姿を見せるどころか、知らせるつもりはないので、彼らの死は決まった。
そのあまりにも異形な姿は…歴戦のデビルハンターたちを恐怖のどん底に突き落とす事となった。