デンレゼが足掻く度に不幸になるケッコンの悪魔さん   作:Nera上等兵

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24話 早川 & 荒井 VS 蛇の悪魔 & 戦車の悪魔

早川先輩と軽口を叩いた荒井ヒロカズは、銃の悪魔のブローカー女に投げナイフを投擲した。

もちろん避けられてしまったが、悪魔に命令する存在の気を逸らした。

それだけで十分だった。

 

 

「今だ!!」

 

 

早川先輩の号令の下、荒井は共に敵前逃亡し、近くにあった部屋に転がり込んだ。

本当はやってはいけない行動だが、それほどまでに勝ち目がなかった。

 

 

「俺が戦車の悪魔と銃を構えた女相手ってバランス悪くないですか?」

「そうだな」

 

 

部屋の外から聴こえる銃撃音が自分たちの末路を知らせてくれる。

荒井の小言を聴いていた早川アキは、念の為に所持していた発煙筒を通路に投げ込んだ。

 

 

(最高の判断…)

 

 

右目から見える数秒先の未来からは、自分たちに向かって砲撃される未来は見えない。

既に荒井は窓際にクライミングロープを取り付けて脱出路を確保した。

移動の邪魔になる為、背負った鞘に納刀し、そのまま窓に向かって走り出す。

 

 

「外から撤退!先導する」

「了解」

 

 

脱出路を確保したと判断した早川は、縄を掴んで外に脱出し、1階下の窓を蹴破った。

荒井も過酷な登山訓練により、先輩よりもスムーズに1階下のフロアに退避する事ができた。

 

 

「チッ!」

 

 

しかし、敵側も予想していたようだ。

敵の姿を発見したクワガタの悪魔が早川たちが居る場所に勢いよく突っ込んでくる。

 

 

「伏せ」

「はい!」

 

 

早川と荒井はとりあえず伏せると頭上を悪魔が通過し、窓の外へと飛び出した。

 

 

「オラァ!」

 

 

それを確認するまでも無くドアを開けた早川は抜刀し、荒井も拳銃を取り出して警戒する。

金属製のドアを閉めて通路を確認するが、他に敵の姿はなかった。

 

 

「ああ、そうか…」

「うわ……」

 

 

そのまま敵や悪魔を待ち伏せしようとした瞬間、爆発音と共に目の前にあった天井が崩れた。

近くにあった自動販売機の影に身を潜めるが、上から降って来た存在の正体は分かっている。

 

 

「ヘビ、尻尾」

 

 

契約者の命令で蛇の悪魔が尻尾を振り回してフロア全体を破壊した。

幸いにも早川たちを負傷させる事は無かったが、このままだとジリ貧なのは間違いない。

 

 

「コン!」

 

 

荒井が召喚した狐の悪魔の左脚が蛇の悪魔と激突し、その衝撃で更にフロアが崩壊した。

大量の書類が宙に舞い、観葉植物が倒れ込み、自動販売機が横転し、缶ジュースで床を埋める。

まさに激戦地を知らせる惨状であった。

 

 

「戦車の悪魔、機関銃取り出し!」

 

 

よっぽど沢渡アカネは自分に恥を晒させた存在にブチ切れていたのだろう。

蛇の悪魔がぶっ飛んだのを見て戦車の悪魔から機関銃を召喚し、銃座に乗って銃撃を開始した。

 

 

「マジかよ」

「ちょ!?」

 

 

まさかの銃撃にびっくりしてさきほど飛び出した部屋に逃げ込んだ2人であったが…。

 

 

「なら話が早い」

 

 

わざわざ自分から位置を晒してくれる上にその場から動かないと教えてくれているのだ。

先客であるクワガタの悪魔の頭部に刃を突き刺して早川はそのまま引き摺って移動した。

ほふく前進をしている荒井を位置を確認し、邪魔にならないと判断!

 

 

「ふん!」

 

 

勢いよく刃を振り払い、クワガタの悪魔を部屋の出口に向かって投げつけた。

哀れな悪魔は自慢の装甲を銃撃で破壊されながら向かい側にあったドアに激突した。

 

 

「舐めるな!!」

 

 

ついに部屋に集中射撃しようとした沢渡であったが…。

ついでに投げられた手榴弾を目視した瞬間、慌てて戦車の悪魔の影に身を潜めた。

 

 

「今だ」

 

 

当然の事ながら拳銃の発砲ですら許可制の日本で手榴弾を使用できるわけがない。

見事にレプリカに騙された女の隙を見逃さずに早川と荒井は部屋の外へと飛び出す。

 

 

「あぐ!?」

 

 

因幡仕込みの銃撃で敵対女の左手を射抜いた荒井は投げナイフを構えて後方を警戒する。

既にダメージから復帰した蛇の悪魔が居るが、狐の悪魔と同じタイプのようだ。

追加の代償を支払わなかったせいでどこかへ消えていった。

 

 

(なるほど…)

 

 

前回は遠視だったのでそこまで重視しなかったが、蛇を行使する代償は爪のようである。

物を握るには爪が必要なので、蛇の悪魔を行使すると必然的に銃器が使えなくなる。

ようやく勝機が見えた早川だったが、事態はまだ好転したとは言えない。

 

 

「ヘビ、尻尾!」

「コン!」

 

 

蛇の悪魔の尻尾と狐の悪魔の右足が激突し、ただでさえ悪かった足場が完全に崩壊した。

荒井の袖が血で染まりつつあるが、戦車の悪魔が下の階に落下したのは幸いだった。

 

 

「戦車の悪魔、ジャンプ!」

「マジかよ!」

 

 

…と思っていたらテロリストの女の命令で戦車の悪魔が飛び上がって来た。

 

 

「戦車の悪魔、火炎放射!!」

「なんでもありか!?」

 

 

無駄に風通しが良くなったこの場所で放火は危険である。

10個ある砲塔の1つから火炎が噴き出したが、強風に影響して早川たちの居る場所から逸れた。

さきほどの戦闘で散らばった書類や観葉植物を燃やし、建物全体に被害が及ぼうとしていた。

 

 

(出番まだかな…)

 

 

荒井がナイフ投擲技術とロープクライミング技術を披露する中、白狼の悪魔は出番を待っていた。

厳密に言うと結婚の悪魔が化けた白狼である“ケンケンモドキ”が出番を待ち望んでいる。

 

 

「戦車の悪魔、放水!!」

 

 

さすがに沢渡アカネもここで焼け死ぬのを危惧したようである。

せっかく火炎放射があるのに放水によって台無しになり、下の階にある電子機器を悉く破壊した。

ヤクザが直営していた高層ビルは完全に機能を停止し、もはや解体する以外に価値はない。

 

 

「ふむふむ、激しく戦っているな。テレビ受けも間違いなし」

「計算された爆発はともかく悪魔同士の戦闘の余波で近隣の住宅に被害が出ましたけど?」

 

 

その様子を地上で見守っていた岸辺隊長と因幡副隊長は状況を確認し合っていた。

既に下層にいたゾンビは全て掃討し、生き残っていた組員の大半は拘束されている。

だが、雇われたデビルハンターの話があったのに未だに進展がない。

 

 

「デビルハンターがもっと暴れると思っていたが……」

「既に係長が鎮圧したと報がありました。それ以上の続報はあり得ません」

 

 

岸辺としては、先行した係長の能力を把握したいと思っていたが…。

因幡の報告によって驚異的な肉体再生能力以外に情報を得られないと知った。

 

 

「もっと派手に暴れてくれないと…」

「ビルが燃えたり、放水したりしてるのにまだ望むのでしょうか?」

「……なんか辛辣な発言が多くないか?年寄りに気を遣ってくれ」

 

 

それより、自分の部下である因幡副隊長と仲良くなれずに淡々と報告されるのが嫌だった。

クァンシですら自分の実力自体は認めてくれたのにここまで塩対応されると泣けてくる。

 

 

「後任を任命してさっさと隠居してくれると助かります」

「じゃあ……いや、やっぱやめておく」

 

 

ここで「隊長になれ」と命じること自体が彼女の目的だと岸辺は勘付く。

公安対魔特異4課の幹部たちはお互いを信用はしているが、信頼はしていない。

目の前に居る女副隊長が悪魔だと察しているのに放置するしかないという歯痒さ。

 

 

「とりあえず、教え子たちが…」

「…岸辺隊長、記者から説明を要求しております」

「お前がやっておけ」

「承知しました」

 

 

虎穴に入らずんば虎子を得ずのノリで公安対魔特異4課に入ったら化け物しか居なかった。

唯一、正常な人間に戻りつつある早川アキも係長の訓練で何かされたに違いない。

 

 

(どうしたもんか)

 

 

マキマを排除するにはどうすればいいのか。

ビルから時折降って来る書類やガラスなどの破片を見上げながら岸辺は物思いにふける。

地上では最強のデビルハンターが静観を決め込む中、早川は未だに悩み続けていた。

 

 

(何の代償を支払ってる!?)

 

 

悪魔の契約は何かしら契約者にデメリットがある。

 

 

 

(何か戦車の悪魔に気に入られているのか…?)

 

 

だが、悪魔が気に入れば僅かな代償を支払うだけで強力な悪魔の力を行使する事ができる。

もちろん、欠点もあるが、同じ悪魔なのに契約者によって契約が大きく違うのはよくある事だ。

早川アキの右目に住み着く未来の悪魔による未来視もそうであった。

 

 

『戦車の悪魔、釘放出!!』

 

 

今度は大量の釘を戦車の悪魔が放つと分かったので荒井に合図を送る。

彼は頷いて切り札を使うようである。

 

 

(これで出番だな!)

 

 

放置され続けて来た因幡から荒井に押し付けられた白狼もこれには期待する!

 

 

「ふん!」

 

 

またしても投げ込んだのは手榴弾っぽい何かであった。

さきほどのレプリカで騙された沢渡は、見向きもせずに公安のデビルハンターを凝視する。

 

 

「戦車の悪魔、釘ほうぅうう!?」

 

 

早川が見せられた未来を再現しようとした彼女は炸裂した閃光弾で視力を一時的に失った。

 

 

「今だ!」

 

 

ここで寿命武器を構えた早川と荒井が動く!

戦車の悪魔なので貯水タンクと砲塔が束ねられた姿をしており、人力で切断できる部位は無い。

 

 

「オラァ!!」

「ふん!」

 

 

刀を振り下ろした早川が戦車の悪魔の右目を、荒井は左目を小太刀で切り裂いた!

これにより武器召喚しかできなくなった戦車の悪魔は大幅に弱体化する事となる。

 

 

「こちら沢渡!片道応答せよ。どうぞ」

《こちら片道、聴こえています。どうぞ》

 

 

その間に沢渡はトランシーバーで屋上に待機する片道タカノリに連絡をした。

 

 

「今からの銃の悪魔の力を与える。沢渡に全てを捧げると言え。どうぞ」

《了解!沢渡に全てを捧げる。言いました。どうぞ》

 

 

奥の手を披露するのかと早川と荒井は無線相手に会話する女に距離を取って警戒した。

 

 

「戦車の悪魔、片道タカノリの全てを捧げる。復活しろ」

 

 

片道と沢渡の関係は、一方的な彼の一目惚れであり、彼女自身に恋愛は興味ない。

だが、わざと仲良くしておいて2人だけの秘密とほざいて起死回生の一手を仕込んだ。

 

 

「こいつ…!味方を犠牲にして悪魔の力を行使しやがった!?」

 

 

目の前に居る女が無線相手の全てを悪魔に捧げたと知った早川は憤怒する。

銃の悪魔のブローカーという情報は知っていたが、ここまでクズだと思わなかった。

 

 

「男ってみんな馬鹿、少しだけ特別扱いするだけで簡単に騙されるからね」

 

 

ついでに自分の爪を全て再生させた沢渡は、ちょんまげを生やす黒髪男を煽る。

これで少しでも近づこうとすれば、蛇の悪魔の餌食となる。

厄介なのは拳銃であるが、同じく童貞っぽい相方はさきほどの崩落で銃を落したようだ。

 

 

「というわけで死んで」

 

 

再び戦車の悪魔に乗り込んだ彼女は、銃座にある機関銃のトリガーに手を伸ばす。

 

 

「くっ!」

 

 

荒井に目配せした早川は散開して少しでも生き残る可能性を増やそうとするが…。

 

 

「危ない!」

「うお!?」

 

 

何故か圧し掛かって来た荒井に床に押し付けられてしまった。

頭上を弾丸が飛んだと思った瞬間、銃撃音が鳴り響き、薬莢が床や壁に落ちる音も聞こえた。

 

 

「何事だ!?」

「新手です!」

 

 

荒井の真意を問うと最悪な返答を得られた。

ガンガンと何かがぶつかる音と床や壁が大きく崩れる音が聴こえた。

それがそいつの正体であろう。

 

 

「ダンゴムシの悪魔、契約した分は働いてもらうからね」

 

 

肉体が全回復した沢渡は、鋼鉄よりも硬い甲殻を持つダンゴムシの悪魔に命令する。

 

 

「こいつらを無様に殺せ」

 

 

ヤクザの組員4人を生贄にしたおかげで無償で手を貸すこの悪魔もまた強い。

少なくとも未来視で動きが見えないほどには素早かった。

 

 

「硬っ!?」

 

 

天使の悪魔が生み出した寿命武器はかなり特殊であり、幽霊の悪魔にもダメージを与える代物だ。

その小太刀を投擲したのにあっさりと装甲で弾き返す姿を見て…荒井は自分の死を意識した。

 

 

(オラァ!!早く召喚しろ!!ケンケンモドキと考えてアオーンって鳴けばいいんだよ!!)

 

 

ドアの隣にあるチャイムを連打するノリで召喚を促すケンケンモドキであるが…。

 

 

(ま、まだ死ぬつもりは…)

 

 

悪魔の行為が自分の死が近いと実感させるものだと知らせる悪循環に陥った。

 

 

「うお!?」

「くっ」

 

 

ただでさえ床が大規模に崩壊しているのに新手の悪魔が暴れ回ったせいで更に床が陥没した。

そのおかげで銃撃とダンゴムシの超高速連打を回避できたのだが…。

 

 

「うっ…」

 

 

2階下に落下した荒井と早川は既に交戦を続行できるほどの体力は残っていない。

爆発や崩落に巻き込まれないように後退するのが精一杯だった。

 

 

「逃がさないよ。ヘビ、尻尾!」

 

 

自分が出せる全ての切り札を使用する沢渡に配慮も遠慮の気持ちも無い。

蛇の悪魔を利用して無事に2階下に降りた彼女は戦車の悪魔を操縦して公安職員を狙う。

 

 

(最高の判断…)

 

 

未来視によって自分の死が見えた早川アキは後方を走っていた荒井を押し倒す。

お互いを抱き合う形で床に転がるが、ダンゴムシの悪魔に一網打尽にされるところだった。

 

 

「はぁはぁ…」

「悪魔が3体なんてズルいっすよ…」

「なら悪魔を盾にするまでだ…」

 

 

落ちていたガラス片で両腕が傷だらけになった早川は、クワガタの悪魔を両手で構える。

代わりに先輩の刀を握り締める荒井の顔には困憊しきった表情しかなかった。

 

 

「いくぞ」

「はい」

 

 

蛇の悪魔とダンゴムシの悪魔に挟撃されて機関銃を構えるクソ女から逃げられない。

ならば、最期を迎えるまで戦い抜こうと2人は走り出そうとしたその瞬間!

 

 

「た、助けてくれ…」

 

 

なんと顔面に返り血を浴びたデビルハンターが下の階から激戦地にやって来た。

ここまで上階で激戦をしているのに彼がここに来たのは理由がある。

 

 

「沢渡さん……話が違う…」

「……なんだ?」

 

 

知り合いが何かを伝えようとしているせいで沢渡も攻撃を中止した。

何があったのかと問い合わせようとすると…。

 

 

「あれは悪魔じゃない…け、けっくぁwせdrftgyふじこ!?」

 

 

どこかでハンドベルが鳴った瞬間、デビルハンターの肉体に異常が発生した。

まるで人体の内部に大量の泡が発生し、外に出ようとして泡が膨張しているようだった。

どんどん体内から膨れ上がったコブみたいな物体に人体が覆い尽くされて肉団子状態となった。

 

 

「な…なに……が…ま、マキマ以外にも……ヤバいのがいるの…?」

 

 

見せしめのように人体を肉で埋められた状態は、マキマ以上に悪質な悪魔の仕業に見える。

少なくとも彼女が人間をここまで苦しめてから殺す手段は絶対にしない。

さきほどまで有利だった沢渡は、ようやく自分の立場を思い出した。

思い出した瞬間、またしてもハンドベルが鳴って肉団子が爆散して彼女の顔を返り血で濡らす。

 

 

「……お前の仕業じゃないのか?」

 

 

一応、戦闘が中断したが上階では激しい揺れと振動があった。

デンジと愉快な仲間たちが戦っているのは明白であるが、それ以外にも興味がある。

逃げようとする銃の悪魔のブローカー女に質問してしまうほど早川も動揺した。

 

 

「ダンゴムシの悪魔!こいつらを殺せ!!ヘビ、尻尾!!」

 

 

どうせ死ぬならせめて巻き添えにしてやる。

そう考えた沢渡の命令でダンゴムシの悪魔は動きが鈍い早川たちに向かって飛んでいく。

ついでに蛇の悪魔も彼らを殺す為に尻尾を振ろうとしていた。

 

 

「遅い」

 

 

音速を越えたスピードで動き回るダンゴムシの悪魔を蹴りで粉砕した結婚の悪魔は前を見据える。

死ぬ度に記憶を無くしても因縁が残ったままの戦車の悪魔は新手の正体に瞬時に気付いた!

すぐさま全ての砲口から強風を噴き出してそのまま空の彼方へと消えていき、空がキランと光る。

クワガタの悪魔は既に戦闘不能で役に立たないし、蛇の悪魔は蛇に睨まれた蛙状態となっていた。

 

 

「すまんすまん、少し時間が掛かってしまった」

 

 

文章にすると僅か4行で大きく戦況が変わってしまった。

 

 

「まだやれるか?」

「はい!」

「もちろんです!」

 

 

公安退魔特異4課の係長が指で弾いた瓦礫で蛇の悪魔の下半身が爆散した。

これに加えて係長からの発言に荒井と早川は肯定した。

 

 

「コベニ、そいつは殺すな」

 

 

ところが、早川たちの予想を覆す人物の名を係長は呼んだ。

いつのまにか沢渡の喉元には刃があり、少しでも動こうとすれば喉笛を切り裂かれそうであった。

 

 

「コベニ!?なんで!?退職したはずじゃ…!?」

「お前、公安に残っていたのか…」

 

 

かつてのバディの姿を見た荒井は分かりやすいほど動揺した。

早川も東山が退職したと聴いたのでまさかの人物に驚いた。

 

 

「……もうすぐボーナスが出るので……もらってから辞めようかと思ってます」

 

 

まさにコベニらしい返答だったので本物で間違いないだろう。

 

 

「一応、コイツにも華をもたせたくてなぁ、そのせいで到着が遅れた」

 

 

あの時、公安デビルハンターを殺害した秘策を見せられた結婚の悪魔は失望した。

だからカビの悪魔の使い手2名を惨殺し、ギロチンの悪魔と契約した男をあえて逃がした。

その間に地上に戻って東山コベニとカメラを回収し、再び激戦区に向かったというわけである。

 

 

「か、係長……さっきの攻撃…なんですか?」

 

 

ただ、人体が肉団子になって爆散するのを目撃したコベニは気が気でない。

事情を知ってそうな上司に恐る恐る質問をする以外に彼女を落ち着かせる手段はなかった。

 

 

「うーん、どちらかというと牽制用。本来は殺す用途じゃない」

 

 

新幹線で遭遇したマキマの刺客の末路を見て思いついた技を使っただけである。

しかし、中途半端に苦しめるわ、元に戻そうにも人体がボロボロになるわで使い勝手は悪い。

 

 

「とりあえずだな、こいつには…気を失ってもらうか」

 

 

爆発でひん曲がったトンファーバトンで敵対する女の顎を強打し、脳震盪で気絶させた。

一応、コベニに被害を被らないように慎重に相手を殴ったつもりではあった。

 

 

「…やべぇ、やりすぎた……」

 

 

こいつが暴れたせいで契約者が酷い目に遭ったという事実から少しだけ手加減ができなかった。

上下の歯を13個へし折られた沢渡アカネは二度と美少女と呼ばれる事はなくなった。

それほどまでに複雑骨折による下顎(かがく)崩壊はすさまじい。

暴行した結婚の悪魔も後悔したほどである。

 

 

「人間の命を弄ぶ銃の悪魔の手先には相応しい未来ですよ」

「…そうか?」

 

 

ただ、さきほどまで死にかけた早川アキからすれば、女の末路は納得できるらしい。

思わず結婚の悪魔が聞き返してしまうほどには、何かが可笑しい気がした。

 

 

「末路じゃないのか?」

「いえ、未来です」

 

 

貸していた刀を荒井から受け取った早川は、再び背負った鞘に刃を収める。

 

 

「銃の悪魔の手先になるという事は、どんな未来になるのか教える教材となります」

「お、おう…」

 

 

銃の悪魔を本気で憎む早川アキからすれば、この女の末路では満足はしていないらしい。

少なくとも銃の悪魔の手先が増えない事を願っているだけの青年だった。

 

 

「おうおうおう!!ワシが来たからにはもう安心じゃ!!」

 

 

ついでに血の魔人であるパワーもやって来て自身の胸部に指を差して宣言した。

 

 

「血を吸いまくったウルトラスーパー最強のパワーの前じゃ敵なしじゃ!!」

 

 

ゾンビの血を吸いまくった影響で無駄に好戦的になっている彼女は何かを忘れている。

おそらく大事ではないが、仕事で大切な事ではある。

 

 

「ところで敵はどこじゃ?」

 

 

クワガタの悪魔は降伏し、蛇の悪魔は瀕死状態で帰還し、ダンゴムシの悪魔は粉砕された。

 

 

「上にいるだろ」

「なんで?」

「むしろ、デンジと一緒に戦わないのか?」

「あ」

 

 

係長の発言を聞いてパワーはようやくデンジが自分の傍に居ない事に気付く。

 

 

「ワシも戦う。だからウヌも戦おう!」

 

 

とりあえずこのままだと“ゾンビキラーのパワー”という異名だけで終わりそうであった。

偉大なる血の悪魔としては、こんな張りぼてでは満足できない。

だけど、上で戦っている奴が強そうなので強力な味方が欲しかった。

そこで金髪の壮年男性に共闘を要請した。

 

 

「仕方ないな、お前にも活躍してもらわないと困るし…」

「さっすが~、ウヌは話がわかるッ!」

 

 

少なくともデンジが劣勢なので結婚の悪魔も様子を見に行く途中で会った。

血の魔人如きに命令されるのは気に喰わなかったが、背に腹は代えられない。

 

 

「…というわけだ、お前たちはこの女とクワガタの悪魔を連れて岸辺隊長と合流せよ。以上だ」

「了解しました」

「お任せください」

「や、やっと地上に戻れる…」

 

 

結婚の悪魔は部下たちに命令を下し、パワーを連れてデンジとの合流に急いだ。

彼らの雄姿を見送った結婚の悪魔は内心でほくそ笑む。

 

 

(あいつらの管理下にある内には死なせんよ)

 

 

何故かマキマから銃の悪魔のブローカーを死体が残る様に殺せと命令を受けていた。

ところが、思ったよりも早く早川と荒井と遭遇し、沢渡アカネと交戦してしまった。

彼らは彼女の生け捕りを命じられていたので、かなりの縛りプレイとなった。

 

 

(責任を負うのは、岸辺隊長と自分を除けば警官の連中だけさ)

 

 

なので部下たちに手柄を譲るついでに彼女を殺すのは警官に引き渡した後と決めた。

 

 

(それにしても…)

 

 

ここまで考えて結婚の悪魔は疑問に思った事が1つある。

 

 

(荒井の奴、せっかく白狼と契約したのになんで使わなかったんだ…?)

 

 

白狼の“ケンケンモドキ”が涙目になっているのを結婚の悪魔は確認した。

なにせ自分から分離した存在から更に分離した孫みたいな存在である。

だからこそ白狼を使いこなせれば、もっとまともな戦いになったはずである。

 

 

(まあ、狐の悪魔の方が実績も経験もあるし、優先されるのも仕方ないか)

 

 

新規に契約した悪魔を恐れるのは契約者として正常である。

むしろ、少しだけ怯えてくれた方が悪魔も力を貸しやすかったりする。

なにせ積極的に人間の味方になると恐怖が薄まって弱体化するのだから。

 

 

「おい、さっさとデンジに会いに行くぞ」

「匂いを辿ればいいだろ?先に行ってろ」

「はあああああああ!?ワシに命令する気か!?ウヌは何様じゃ!?」

「上司に決まってるだろ!」

 

 

何かと反発して来るパワーの対応を慣れたものである。

悪魔として格下になっている彼女の命令を結婚の悪魔は聞く事は無い。

適当に返答してトンファーバトンで無理やり黙らせる事となった。

 

 

「そもそもお前からすごく良い血の匂いがしたのに!なんで今、匂わないじゃ!?」

「うるせぇよ!」

「いたっ!?」

 

 

さすがに血を吸い過ぎてパワーアップしているパワーには効果が薄い。

なので今度は強めに殴打すると少しだけ彼女は大人しくなった。

やはり、暴力!

暴力は全てを強制的に片付ける事が出来る唯一の手段である。

 

 

「ワシをぶったな!?まだちょんまげからもぶたれた事ないのに!!」

「うるせぇよ!」

「いたっ!?」」

「つーか、まだって何だ?まだって事はやらかすつもりか」

 

 

地味にこれからぶたれる理由がパワーにあるらしい。

なのでさきほどよりトンファ―バトンでしばくと赤い色の角の1本が折れた。

 

 

「じゃがしかし!!復活するのじゃ!」

 

 

ただ、ゾンビの血を吸い過ぎた血の魔人は肉体再生能力も付与された。

悪魔がある一線を越えると拡大解釈の能力を得たり、戦闘力が増加する。

これでパワーはそう簡単には暴力に屈する事は無くなった。

 

 

「じゃあ、殴りたい放題じゃん。やったぜ」

「うわああああああああ!!マキマに言いつけてやるのじゃー!!」

 

 

そのせいで少しだけ手加減しない悪魔に護身武器で殴られるパワーは涙目になった。

そのまま自分から逃げるように屋上に向かってしまった。

 

 

(パワーの活躍を見せないといけないのも厄介だ…)

 

 

何故かマキマは、パワーとデンジのコンビを期待している。

だからせっかくお膳立てしたのに上手くいっていない。

 

 

(デンジにパワーって必要か?)

 

 

未だに結婚の悪魔は、マキマの思考が読み切れない。

悪魔ということ以外を気にしない彼女が誰かを真剣に考えるのは珍しい。

 

 

(それに…)

 

 

なにより、彼女は最近、自分の配下になる魔人や悪魔を探しているらしい。

この真意も良く分かっていないが、これ自体は公安のデビルハンターの活動でもある。

 

 

「ダンゴムシの悪魔……いや、ダンゴムシの魔人、自分の配下になるか?」

 

 

さきほど死にかけたダンゴムシの悪魔は、死人の肉体に逃げ込んでいた。

そのおかげで魔人になった存在は、遥かに格が上の存在に声をかけられて震えた。

 

 

「ナカマニシテホシイ」

「良い判断だ。少なくとも五体満足と生存権は保障してやろう」

 

 

魔人の誕生する方法は1つだが、手段自体は思ったより多くある。

今回はわざとギリギリまで生かしたおかげで誕生したダンゴムシに魔人は誕生した。

 

 

(パワーに気付かれないで済んだな)

 

 

さきほどパワーを虐めていたのは、ダンゴムシの魔人を殺されないようにする為である。

魔人や悪魔の生け捕りもマキマから命じられている結婚の悪魔は溜息をつく。

 

 

(まあ、すぐバレそうだが…)

 

 

血の匂いはマキマ並に敏感な血の魔人だが、アホなのでいろいろ工作ができる。

今回は、屋上で戦闘しているデンジの下に彼女をむりやり向かわせた。

 

 

(お?交戦したな)

 

 

パワーがデンジと合流したと実感した悪魔は、ダンゴムシの魔人を両手で抱えて階段を降りる。

地上に展開する部隊に魔人を預けた後、デンジたちに加勢をする為である。

これにより、ヤクザの孫こと、サムライソードに絶対に勝ち目は無くなった。

そしてデンジ主催の下、史上最低の大会が開幕する事となる事を彼は知らない。

 

 

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