デンレゼが足掻く度に不幸になるケッコンの悪魔さん 作:Nera上等兵
騒がしいパワーを放置して上階を目指すのに罪悪感などない。
1階ごとにドアを開いて周りを見渡してエレベーターで上の階層に向かうだけ。
「いねぇな」
またしてもスカだと感じたデンジは慣れた手つきでボタンを押して扉を閉めた。
もはや緊迫感などなく欠伸をして腕を伸ばす。
そして再びスターターロープに手をかけてドアが開くのを待った。
「ん?」
チーンと鳴り響き、ドアが開くといつもと違う光景が見えた。
今度は黒髪のもみあげ男と左右に拳銃を構えた男たちが居る。
「なんだ外れか」
目の前のモミアゲマンが生け捕りにする対象だと忘れていたデンジはドアを閉めた。
雑魚如きにチェンソーになって無双する気はなかったのだ。
しかし、デンジと因縁があるヤクザの孫としては、この対応は予想外だった。
「待てや!!」
すぐさまエレベーター前のボタンを押して強制的に開けようとするが…遅かった。
そのまま上に登ってしまったのでヤクザの若頭は作戦の変更を余儀なくされた。
「お前ら!エレベーターを停止させろ!」
「は、はい!」
さすがに外部からエレベーターを停止させるとなると機械室でしかできない。
その為、トランシーバーを使って屋上に居る仲間に説明する羽目になった。
「あれ?」
最上階に着いてもボスらしき人物はいなかった。
しかし、さすがに屋上なら誰かいるだろうとデンジはエレベーターから出た。
「なんだよ。つまんねぇな」
頭のてっぺんが黒くて他は金髪の女、黒髪のモミアゲマンを捕まえる事。
それがデンジたちに課せられた仕事であった。
なのに未だに遭遇しないので彼は不機嫌になった。
「お!お菓子があるじゃーん!」
人の物を取ると泥棒になるが、ゾンビだらけなら管理していないだろう。
来客用と見られるスナック菓子の袋が置いてあったのでむしゃむしゃと咀嚼する。
「そういや、ここ。ヤクザの家か。俺んの家よりすげぇでけぇな…」
指に残った油を舐め取った彼は、ここが父親が借金していたヤクザの本拠地だったと思い出した。
今更であるが、あまりにも豪華な建物のせいで自分に因縁がある場所だとは思えない。
「なんで金を貸すと金がここまで増えるんだ?意味わかんねぇ…」
なんでお金を貸すとお金が増えるのかデンジには理解できない。
“てすうりょう”とか“しょうかいりょう”とか“りし”とかで報酬で色々差し引かれていた。
「あ……そういや、他の借金どうしたっけ?」
更にデンジはヤクザ以外にも借金していたのを思い出した。
トマトの悪魔を討伐した報酬をヤクザに差し引かれて7万円。
そこから生活費以外にも別の借金も返済していたのだ。
「金髪のおっさんを信じるしかねぇな」
最近、彼がマキマさんの次に偉いポジションを奪われた係長だとデンジは知った。
それはともかく、おっさんが子供に借金を返済させるのはおかしいと言っていた。
そしてチャラにしてくれたと言ってたので二度と借金を返済しなくていいはずである。
「……変な気分だ」
2ヶ月くらい前まではポチタと一緒に貧乏ながらも毎日を必死に生きていた。
今では空腹に悩む心配はないが、自分の命を狙われているという状況になった。
狩る立場のデビルハンターが逆に人間や悪魔から狙われるという不思議な感覚。
「まあいっか」
ポチタのおかげでマキマさんと出会って人間らしい生活をしているのだ。
バタバタと階段から駆け上がる音を聴いたデンジはスターターロープに手をかけた。
「俺たちの邪魔ァすんなら死ね!」
以前、ゾンビの悪魔とヤクザに嵌められて殺された時、ポチタと契約して蘇生された。
その時は、ポチタと自分の願いを邪魔する奴は全てぶっ殺すつもりだった。
「動くな…ぶべらっぱ!?」
拳銃を構えて突撃してきたスーツ男を思いっきり蹴り飛ばした。
「お前らが動くな!!」
拳銃を拾ったデンジは試しにグリップを握って銃口をヤクザ一行に向ける。
「待て待て。少し話をしないか?」
「ああん?」
するとリーダーっぽい男が両手を突き出して降伏するような態度を取った。
「まず俺が誰か分かるか?」
「知るかよボケ!!」
もみあげマンが何か言っているが、デンジからすればどうでもいい。
すぐさま左手でスターターロープを引っ張ろうとした。
「お前の命の恩人であるヤクザの孫だ」
「命の恩人!?」
だが、若頭は交渉を続行した。
上着の胸ポケットから写真を取り出してデンジに見せつける余裕すらあった。
そのあまりにも勇敢な姿に組員たちは腕で顔を隠して泣いた。
「馬鹿かよ!!俺の命の恩人は、ポチタとマキマさんに決まってんだろ!!」
チェンソーを生やした影響か人間性が薄まっているデンジは彼を罵倒する。
デンジにとって恩人といえるのは、ポチタとマキマさんだけ。
あとは一緒に仕事をする公安職員が少しだけ仲間意識がある程度である。
「そうか、身体だけじゃなくて心まで悪魔になっちまったか」
「はぁ?」
ヤクザの孫は、目の前で対峙する元債務者が恩知らずにもほどがある糞野郎と理解した。
だから挑発した。
「確かにゾンビだったかもしれない。だが、元人間だ。人を殺して心が痛まないのか?」
「おうおう、ゾンビと爺さんを殺してすみませんでした!…これでいいか!?」
「やっぱりお前に人の心はねぇな。だから復讐されるんだよお前は…」
女子供を数える事しか殺した事が無い爺ちゃんは、まさに正義のヤクザと呼べる存在だった。
頼めば何でも買ってくれて甘やかしてくれる一面もあれば、厳しく教育してくれる一面もあった。
とにかく祖父が大好きでたまらない若頭にとって、デンジは不俱戴天の仇そのものだった。
「俺の爺ちゃんを殺した事!地獄で懺悔しろ!」
「お前が1人でやってろよバーカ!!」
左手を抜いて切断面から刃を見せた瞬間、ヤクザの孫の額から刃が生えて来た。
そして前みたいに瞬間移動でデンジに斬り掛かろうと独自の構えを見せた。
「ああ!?出たなソレ!!それズルいんですけど!?」
さすがのデンジもこの構えで瞬殺された事は覚えている。
「なんてな」
「ぐわあああああ!!?」
デンジの こかんしゃげき!
こうかは ばつぐんだ!
ヤクザの まごは たおれた!
「お前!!よくも若を!!」
「ひでぇええ!!」
「人の心とかないんか?」
なのでうんこ座りしている武器人間の股間に向かってデンジは発砲した。
さすがに人間に向かって発砲するのはデンジも躊躇った。
だが、自分を殺しに来る悪魔モドキなら話は別だった。
「だって人間じゃないなら話は別だろ?」
ヤクザの連中からの罵倒に対してデンジは聞く耳をもたない。
もしも、自分の心臓を狙って来る存在が美少女だったら殺されてもいいくらいだった。
よりによって糞みたいなヤクザの孫が人外になったので簡単に引き金を引いて発砲したのだ。
「ふざけんな…、情け知らずの…ドブカスが…!」
まさかの発砲にヤクザの孫も対応できなかった。
股間を押さえてうずくまるその姿は、辞世の句ですら間抜けに見えた。
「ライオンの悪魔!!俺たちの左腕を捧げる!!若を撃ったこいつを殺せ!!」
ついに怒りのボルテージを越えた組員たちは悪魔と契約する事を宣言する!
すぐさま会議室から飛び出したライオンの悪魔はデンジを噛み殺そうとした!
「おお!やっぱ、つええええ!!銃つえええええ!!」
なお、デンジによって14発の弾丸を顔面に撃ち込まれたライオンの悪魔は死んだ。
まさに瞬殺。
そりゃあ、銃の悪魔って恐れられるな…デンジすら思うほどに圧倒的だった。
弾倉が空になったベレッタM92を床に投げ捨てた彼はスタータロープを引っ張る!
「でもよ!!やっぱ、こうじゃなきゃマキマさんが褒めてくれねぇんだよォ!!」
発砲されて負傷したデンジだったが、両腕と頭からチェンソーを生やして肉体を全回復させる。
これを見たヤクザたちの動きは速かった。
「若、血を…」
弾丸を撃ち切った彼らは左腕の切断面から垂れる血を若頭に飲ませようとする。
「させるかボケ!!」
すぐにデンジは2人の男を蹴り飛ばし、武器人間に血液を与えるのを阻止した。
これで目の前の男に切り札が無い限り、デンジのやりたい放題になる。
「お、おまえ…銃の悪魔…倒すんじゃ…」
「勝てばいいんだよ!勝たないと生き残れねぇからなァ!」
薬指の代わりに両腕のチェンソーをフル稼働させるデンジはヤクザの孫に罵倒した。
実際、ここまで頭のネジがぶっ飛んでなければ、銃の悪魔は絶対に倒せない。
一部の公安デビルハンターが銃を使っていると金髪のおっさんに教えられた影響もあるが…。
本音はこれだった。
「虎の悪魔!!俺の命を捧げる!!あいつを殺して若の仇を取れ!!」
「やっぱ、そうこなんくっちゃあ!!やりがいがねぇ~~んだよ!!」
ついに若頭の為に自分の命を捨てた組員まで現れた。
冷静に考えれば、退路がないのにここまで抵抗する意味はない。
そんな事を考えられないから無駄死にしていくのだ。
「うおおおおおおおおお!!」
前脚に虎の顔面がくっついている虎の悪魔とデンジは激戦を繰り広げた。
その隙に股間を押さえて這い蹲っているヤクザの孫は犠牲者から血を吸おうとする。
「うおおおおお!?」
ところが、早川一行と沢渡アカネが率いる悪魔たちが交戦したせいでビルが揺れた。
それどころか爆音と共に下の階層が破壊されてデンジたちは戦いどころではない。
「逃げるが勝ちだああああ!!」
真っ先に天井を破壊してデンジは屋上に脱出した。
そこには立派なヘリポートがあったが、何故かヘリコプターは壊れていた。
「ここなら存分に戦える!!」
デンジの後を追って来た虎の悪魔は、前脚の頭にある口から超音波をぶっ放した。
「うえっ!?」
まさかの音響攻撃にデンジもびっくりするが、それだけだった。
「うっせっよおおおおお!!」
「ぎゃおおおおおおおおおおおおお!?」
難聴になると思ったデンジによって虎の悪魔は無残にも解体された。
「デンジ!!今度こそ決着をつけるぞ!!」
本箱の下敷きになったせいで中々復帰できなかったヤクザの孫が屋上に訪れる。
既に武器人間になっており、殺る気満々であった!
「…って!?悪魔を喰うな!!」
「おせぇんだもん」
屋上に隠れていたヤクザの一員からライターをもらったデンジは焚火をしていた。
ついで解体した虎の悪魔で焼肉を楽しむ余裕っぷりを見せていた。
さすが岸辺隊長に認められた男である。
この行動を予想できなかったヤクザの孫は思わずツッコミを入れてしまった!
「お前!!ここまでビルが悲惨になっているのになんだその行動は!?」
「えー、逆にあそこまで暴れている場所に帰ると思うか?」
デンジとしても、下の階でとんでもない存在が暴れているのは察した。
さすがにめっちゃ強い悪魔は先生たちに任せた方がいいと判断した。
「やっぱ、デンジ!この俺の手によって!!死ななければならないっ!!」
「もう死んでるぞ!」
「二度と蘇生できないほどバラバラにしてその焚火で焼き尽くしてやる!!」
「やれるもんならやってみなァ!!」
肉を喰って元気100倍になったデンジはスターターロープを引っ張って武器人間となった。
武器人間同士の一騎打ちが今、始まる。
「正義のヤクザ…いや、爺ちゃんの名にかけてお前を殺す!」
「勝った奴が正義だ!!アンパ〇マンで習わなかったのかァ!?」
お互いが目の前の存在を殺そうとしていた。
ただ、一方は赤ん坊から小学生低学年を虜にする国民的なキャラクターを例に出した。
「アンパ〇マンの名を汚すな!!」
「ならワンパ〇マンにしてやんよ!!」
意外と孫はウブなのかアンパ〇マンを汚すなと罵倒する。
デンジもそう思ったのか、代わりに彼をワンパ〇マンにするつもりだ。
「オラァ!」
「死ね!」
「クソが!!」
「クソくらい流せ!!」
「流してる!!」
お互いに頭と腕から武器を生やしている存在である。
だからお互いの実力は互角かと思いきや、そうじゃなかった。
「前より動けるようだな!?」
「そりゃあ悪魔の肉喰ったからな!!」
まずは、ヤクザの孫はデンジよりも武器人間としての経験が浅い。
溺愛されて育成された彼は我慢など無縁の生活を送って来た。
そのせいで自分の思考と行動は正しいと盲信している隙だらけの男であった。
「はあ!?」
「義務教育を受けていない俺んより馬鹿だなお前!!悪魔の肉を喰うと強くなるんだよォ!!」
なにより悪魔の肉片を取り込むと悪魔が強くなるとデンジは知っている。
拳銃の発砲方法や実技を教えた金髪のおっさんからの豆知識を得ていたのだ!
「うおおおおおおおお!!」
「くっ!?」
脅威の跳躍力を得たデンジは10m以上も高く飛んで武器人間に飛び掛かった。
その攻撃は今までの比ではなく衝撃波で屋上の床が崩壊した。
「うわあああああああああああ!?」
「ぐっ!?」
まさか屋上が崩壊するとは思わなかったデンジは絶叫するが…。
次々と背中と床が激突するサムライソードはそれどころじゃない。
3階下に落下したサムライソードは動かなくなった。
「ふん、俺の勝ちだ!」
勝利を確信したデンジは武器人間に止めを刺さずに背を向けた。
「ぐああああ!?」
その慢心は致命的だった。
すぐに異変に気付いたデンジは回避しようと試みたが、右腕を切り捨てられた。
しかも、すぐ眼前に刃が迫っていたので左腕でガードした為、またしても腕を失った。
「くっ……」
「勝負あったな」
頭のチェンソー以外の武装を失ったデンジは跪く。
代わりにヤクザの孫が祖父を殺した糞野郎を見下ろす。
「…死ぬ前に俺の爺ちゃんを殺した事…俺に謝罪しろ」
最後に祖父を殺した事に関する謝罪をデンジに求めた。
「はぁ!?ゾンビになってたんだから死んだ事自体は俺のせいじゃない」
デンジからすれば心外だった。
既に死人だったので自分が殺したわけじゃないと反論した。
「俺じゃない。あいつ(ゾンビの悪魔)がやった。知らねぇ。済んだ事をグチグチ言うな」
ただし、被害者からすれば地雷原でタップダンスするほどに挑発した返答となった。
「お前のせいだ、諦めろ!知らなかったで!済むと思うなよ!!」
居合の構えをしたサムライソードに迷いは無い。
「頭にチェンソーがある!まだ戦えるぜ!!」
「馬鹿が…!!」
デンジも挑発する余裕はあった。
そのせいで更に激怒したサムライソードは…。
「救援に来たぞ!」
「デンジ無事か!?」
時間をかけすぎたせいで結婚の悪魔と血の魔人の救援を許した。
「……俺の作戦通りだ!」
「嘘つけ!!」
さすがにデンジの嘘は通用しなかった。
「こやつは?」
「敵だ。一応、言っておくが生け捕りにするからな?」
「分かったのじゃ!」
無駄に角を生やしたパワーは係長の言葉をしっかり聴いたつもりである。
「“サウザンド テラ ブラッド レイン”!!」
1000兆 血の雨という技名を叫んだパワーは大量の血の武器を目の前に敵に投擲した。
実際は200個の血槍がヤクザの孫に向かって飛来していった。
「ぎゃああああああああああ!!」
結婚の悪魔による護身武器で大半の血武器は粉砕されてついでにパワーも殴打された。
「生け捕りって言ってるだろうが!!」
「だから捕まえる為にやったのじゃ!!」
明らかに殺す気満々だったパワーに説教する結婚の悪魔は…。
「ぎゃ!?」
呆然としていた武器人間の左アキレス腱に落ちていた血槍を投擲した。
これにより、サムライソードは身動きが取れなくなった。
「今だ!デンジ!!」
「おう!!」
仲間の援護を受けたデンジは両足をチェンソー化して目の前の武器人間を縦に真っ二つにした、
前に市街地で自分にやられた事をやり返したのだ。
「だから生け捕りって言ってるだろうが!!」
「いてぇええ!?」
実際は武器人間は不死身なので生け捕りにする必要はない。
以前、ヤクザたちが上半身だけになって絶命したデンジを運んでいたからも分かる。
ただ、命令は生け捕りだったので命令を背いたデンジの頭を殴打した。
「だ、だって、こいつ!不死身なんですよ!?」
「命令は守れ!」
こうしてサムライソードと銃の悪魔と契約している沢渡アカネの身柄を確保した。
唯一逃した戦車の悪魔を除けば、公安対魔特異4課の大勝利となった。
(まあ、茶番なんだが…)
パトカーに乗せられる沢渡の頭に向かって超高速で破片を飛ばした結婚の悪魔はほくそ笑む。
見事に命中し、頭が粉砕されて絶命した彼女は、蛇の悪魔の契約の影響だと処理される手筈だ。
その結果を見届ける事をせずに公安対魔特異4課が居る場所へと足を運ぶ。
(問題なのは、どこまでマキマが絡んでいるのか……)
デンジを格安のデビルハンターとして酷使していたヤクザの構成員の大半は逮捕された。
これにより、今度こそ借金という因縁からデンジは解放される事となった。
後の展開を考えるのであれば、即死できた沢渡アカネも幸せであった。
(むしろ、銃の悪魔の行動すら怪しいんだが……そう簡単に尻尾を掴ませてくれねぇな…)
結婚の悪魔としては、デンジの成長も特異4課の活躍も興味はない。
どうやってマキマの悪行を暴き出すべきか、思考を巡らせていた。
「お、お前ら…!どういうつもりだ!?」
パンイチで両腕を拘束されて座らされているヤクザの孫は納得できない。
蘇生されてそのままムショ送りにされるかと思ったら、人権を侵害されていたからだ。
「公安に所属しない。もしくは力を貸さない悪魔は全て敵と認識してるからよ」
モミアゲマンの発言に因幡副隊長が返答をする。
悪魔には人権が存在しないが、特例は存在する。
しかし、公安職員を殺しまくった主犯格の上に武器人間のこいつに特例は与えられない。
「いいっすか俺の大会に参加してくれるなんて!?」
「別にいいよ。私の同期に危害を与えたこいつには良い制裁になるからね」
結婚の悪魔としては、これからデンジが提案した大会を止めないといけない立場だ。
なにせ公安対魔特異4課を巻き込んだヤクザの若頭の制裁大会が開幕するからだ。
「トーナメント表を作ったぞ」
「おお!さすが金髪のおっさん!仕事がはえぇ!!」
なお、結婚の悪魔もストレスを発散したいのでデンジの大会を看過した。
「お、お前ら!!本当に公務員か!?」
ヤクザの若頭は、自分が正義だと信じている。
それでも心のどこかでは必要悪と呼ばれる存在だと認識していた。
ただ、これから自分の身に降りかかる災難は、さすがにあり得なかった。
「只今からデンジ提案の金玉蹴り大会を開催いたします」
いつもだったら阻止する早川も思う所があったのだろう。
自分から主催に行ったのだから。
「デンジ、ルールの説明を!」
「おう、お互いで金玉を蹴り合って大きな悲鳴を上げさせた奴が勝ちだ!」
ルールは単純明快。
ヤクザの孫の股間を蹴って絶叫の音量を競う大会となる。
「おっさん!早くトーナメント表を見せてくれよ!」
「ああ、そうだな」
デンジに急かされた結婚の悪魔は、自作したトーナメント表をみんなに披露する。
以下、実際に組まれたトーナメント表である
Aチーム デンジVSパワー
Bチーム 係長VS副隊長
Cチーム 荒井ヒロカズVS早川アキ
Dチーム 隊長VS東山コベニ
男女どころか悪魔ですら手を組んで1人の男の金玉蹴り大会に参加する事となった。
初戦はデンジとパワーが対決する事となる。
「まずはワシからじゃ!!」
真っ先にパワーは男の股間を本気で蹴り上げた。
結果はチンチンとタマタマが完全に粉砕されて絶叫すらできずに悶絶して終わった。
デンジも蹴ったが、分かり切った結果に満足していない様だ。
「敗者トーナメント戦もあるからな」
「なるほど、思いっきり痛めつけていいってわけか!ウヌも悪じゃのう」
もちろん、この事態を想定していた結婚の悪魔に隙は無い。
どれだけ股間蹴りで苦痛を与えるのか競う大会も作っていた。
(同じ結婚の悪魔同士で男の股間を蹴り合うってどうなの?)
(じゃあ、棄権しろ)
(いいえ、姫野の苦しみを思う存分味わせてやるの!!)
因幡ナオミに化ける結婚の悪魔は係長である結婚の悪魔から分裂した存在である。
それでも姫野が大好きな彼女は合法的に復讐できるのが嬉しいらしい。
わざと石が尿道に突っ込むように蹴り上げて疑似的な尿路結石を若頭に味わせた。
まさに悪魔!
パワーと同じく苦痛を競い合うようであった。
「先輩、俺!負けませんからね」
「ああ、どれだけ成長しているか見届けるつもりだ」
荒井と早川は少年漫画の展開のような発言をしていた。
とっても感動的である。
修行の成果を示すのが、金玉蹴り大会でなければ…。
「さすがに経験の差だったな」
「くっ、もっと精進します」
なんか青春ドラマのワンシーンを繰り広げているが、ただの金蹴りである。
サムライソードマーン!は気を失っているが、左手という鞘を抜くだけで復活する。
因幡にあっさりと意識を戻された若頭は叫ぶ!
「誰か!助けてくれ!!」
だが、彼の願いはかなわない。
「コベニ、俺が手本をみせてやる」
「それより、賞金は出ませんか?」
「5万円なら出せるぞ」
「やる気が出ました」
可愛いけど不憫、でもなんか人としてなんかおかしいコベニは賞金を要求した。
隣で騒ぐヤクザの跡取り息子が馬鹿みたいに見えるほどに彼女はいつも通りだった。
「……俺の勝ちだな」
「敗者トーナメントに賭けます」
絶妙な蹴り具合により岸辺隊長が勝利した。
コベニは賞金が諦めきれないのか。
別のトーナメントに賭けるようだ。
「コロシテ、コロシテ」
50回以上、金玉が粉砕された男の目は死んでおり、戯言を吐くだけの存在になった。
「まーた壊れておる!治れ!治れ!!」
それを見たパワーが男の顔面を殴打し、血塗れにした。
「違うって、左手を抜くだけで元に戻るから!…ホラ、意識が戻った!」
それを見届けてから因幡副隊長がサムライソードを復活させる。
しかし、血が足りないせいで武器人間になる事ができずに意識だけ復活する羽目になった。
「金髪のおっさん、俺!負けねぇから!!」
「そうか…見せてくれ。お前の限界を…」
デンジと対面した結婚の悪魔は彼の成長に期待する。
自分の世話にならずとも1人で生きていける生活力が身に着く事を…。
油断はしてなかったが、手加減したのでデンジが決勝に向かう事となった。
「岸辺隊長、これは譲りませんからね」
「ふむ、言うようになったな」
早川も岸辺隊長に自分の成長した姿を見せる様だ。
さすがに一人前になった弟子に譲ったのか早川が決勝に進出した。
「俺が悪かった!だから…」
「なるほど、決勝戦は3回勝負にしようぜ!」
「ウヌにしては良い提案じゃ!」
「賛成ー!」
「良いと思うぞ」
「別に構わないです」
「デビルハンターとして100点だ」
デンジの提案で決勝戦は、3回勝負となった。
決勝戦で対峙するのは、よりによって金玉を蹴った事がある早川先輩であった。
「皮肉だな、こうやって金玉を蹴り合うなんて…」
「ああ、今度こそ仲良くやろうぜ!」
デンジが提案した“最強の大会”は、公安対魔特異4課の主要人物を大体巻き込んだ。
これにより、早川とデンジがやる予定だった金玉蹴り大会は大規模なものになった。
「死んでいったみんなに捧げる鎮魂歌をこいつで作ろうか」
「そりゃあいい!やってやろうぜ!」
今まで同居してきて少しだけ距離が縮まった感覚自体はデンジにはあった。
しかし、同じ課の人々と一緒に大会を楽しむ事でなんか団結したような感じがした。
「記念撮影をしましょう!」
「確かにそれもそうだな」
副隊長も係長もカメラで大会の様子を撮影し、ヤクザの孫は一生笑い者になる未来が確定した。
タマタマ潰れ87回、チンチン爆散19回、意識飛び29回、ショック死4回を経験した若頭は…。
「タスケテ」
死んでいるとは知らない沢渡アカネの事だけを考える事しかできなかった。
それもどれだけ苦痛を与えるかという条件で実施される【裏の最強の大会】に比べれば…。
今の惨状はマシだったと知る事となる。
「おかしいな…こんなはずじゃなかったのに…」
小動物を支配して状況を確認するマキマは予想と違った展開に驚きはした。
「まあ、今回のお披露目会は成功したと言えるし、些細の問題…か」
本当はデンジ君の存在を世間にバラすつもりだった。
今回は意外とビルの中で騒動が収まった為、その機会はなかった。
「でも、次はそうはいかないよ」
既にマキマは次の手を打っている。
自分の目的の達成の為ならいくらでも彼女は回りくどい事をこなす。
「デンジ君、もう少し普通の生活を楽しんでね。絶対に忘れないほどに…」
ヤクザの別荘で無駄にくつろぐマキマは笑っていた。
その笑みは喜びで発生するものでなく…誰かを蔑むの時に出る笑い方だった。
全てが彼女の掌の上で踊る限り、デンジの未来に救いはない。
「マキマさんも参加させたかったな…」
そうとも知らずデンジは、マキマさんを誘えなかった事に悔いがあった。
デンジはマキマに興味があるが、マキマの興味はデンジそのものではない。
その違いが後の戦いに影響する事を彼はまだ知らない。