デンレゼが足掻く度に不幸になるケッコンの悪魔さん   作:Nera上等兵

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28話 助けてマキマさん!この娘好きになっちまう

無事にマキマさんとのデートを終わらせたデンジの動きは軽やかである。

目に見える全ての景色が自分を祝福しているようであった。

 

 

(ドキドキするって事は俺、人の心あるじゃ~ん!)

 

 

悪魔の力を手に入れて人生が変わった青年は、自分には人間の心があると自負する。

ちょうど、目の前に募金を呼び掛ける団体を見つけた。

以前であれば、そのままスルーをする。

 

 

「悪魔被害を受けた子供たちに募金をお願いします!」

「心があるから募金もできるぜ」

 

 

心に余裕があると誰かを見る事が出来る。

デンジは財布から1円玉を取り出して募金箱に入れた。

たかがこれだけと思われがちだが、募金をする事が大事である。

 

 

「ありがとうございます!募金をして下さったお礼にお花をプレゼントしています」

 

 

たった今、デンジが募金をした事で後方に歩いていた人物も財布に手をかけた。

勇気あるデンジの行動を評価するように女性から白いガーベラの贈呈を受ける。

 

 

「キレイだな」

 

 

たかが花、されど花、彼に取って名の知らぬ花であったが、このままでは落としてしまう。

 

 

「え?」

 

 

だからデンジは白い花を飲み込んでその場を立ち去った。

あまりにも奇行過ぎてガーベラを贈呈した女性は周りの仲間と向き合う事となった。

 

 

「キレイって思えるのも心があるからだし、余裕があるからだなー」

 

 

首からぶら下げたカメラとズボンのポケットにある財布以外に持つ余裕はない。

飲み込んだ物を吐き出せる特技があるので胃の中に仕舞う事にしたのだ。

 

 

(やっぱ、マキマさんの誘いに乗って良かったぜぇー!モヤモヤが消えちまった!)

 

 

最近、金髪のおっさんしか相談する相手がいなかったが、マキマさんも頼れる。

その事実を知ったデンジは、マキマさんとエッチより結婚を前提とした付き合いがしたい。

それを考えるようになった。

 

 

(暇になれば、いつも思い浮かぶのはマキマさんだけ……)

 

 

瞼を閉じれば、マキマさんの何気ない笑みが思い浮かぶ。

 

 

(俺んの心、マキマさんだけのもんになっちまった…)

 

 

デンジの心はマキマさんに支配された。

うんこ流さない女の胸を揉んだり、酔っぱらい女とゲロキスしたが、心はマキマさんだけ許す。

 

 

(絶対に他の人を好きになったりはしねぇ!!)

 

 

心に誓ってデンジはマキマさんだけを愛すると決意した!

 

 

「うえ!?」

 

 

その瞬間、ゲリラ豪雨が東京都の全域を襲撃した。

一瞬でずぶ濡れになって目の前に居たサラリーマンがカバンを頭の上に掲げて走り去る。

 

 

「逃げろー!」

 

 

まるで空襲から逃げるようにデンジも走り出した。

 

 

「水だ!!水だ水だ!キャキャキャ!!」

 

 

だが、サメの魔人であるビームは豪雨を受けて地面から飛び出した。

地面や壁を泳ぐことができる魔人であるが、一般人に見られるとまずい。

 

 

「ビーム。てめぇはひっそりしてろ!誰かに見られたら表を歩けなくなるじゃねぇか!」

「はい!」

 

 

人間の死体を乗っ取った悪魔なので一応、人間っぽいが明らかに無理がある行動だ。

だからビームを叱ったが、背びれだけを地面に出す姿を見てデンジは思う。

 

 

(なんで魔人ってアホみたいな名前してるんだ?)

 

 

パワーとかビームとか覚えやすいが、名前としてどうなの的なネーミングセンスである。

公安に名付け親が居るかもしれない。

それはともかく雨でずぶ濡れになったまま帰ると早川パイセンに叱られる。

どこか雨宿りしようとデンジは走り出し、ビームも後を追う。

 

 

「ここだ!!」

 

 

大通りに飛び出すとガードレールの傍に公衆電話があった。

すぐさま電話ボックスに逃げ込んだデンジはひとまずここで待機する事にした。

中に入れないビームは道路の片隅でじっとしている。

 

 

「雨が止むといいが…」

 

 

さすがにこのままずっと電話ボックスに居ると職務怠慢で怒られるのはデンジも分かる。

傘を持って来れば良かったと後悔した。

 

 

「わー!ひー!」

 

 

デンジと同じく豪雨に打たれる女性が電話ボックスに入って来た。

電話以外の用途でスーパー〇ンやスッパ〇ンが着替える以外にもこんな用途があるようだ。

 

 

「どうもどうも、すごい雨ですねー」

 

 

雨に打たれたせいでびしょ濡れになった前髪のせいで素顔がしっかりと見えない。

ただ、こんな狭い空間で女の子と密室で2人っきりになるのはデンジは初めてであった。

 

 

「あ、ああ…」

 

 

それでも目の前の女とは雨宿りする程度の縁でしかなくこれ以上の進展はあり得ない。

だってデンジはマキマさんだけ好きになるって決めたのだから。

 

 

「あははははは!!」

 

 

黒色のチョーカーに右手を当てている女性は、デンジの顔を見た瞬間、急に笑い出した。

確かに間抜け面だったかもしれないが、初対面の女に笑われると思わなかった彼は苛立ちが勝る。

 

 

「…んだよてめぇ」

 

 

とりあえず、こいつを馬鹿にしてやろう!

そう考えたデンジであったが…。

 

 

「はあ!?なんで泣いてんの!?」

 

 

さすがに初対面の女の人に泣かれると思わなかったデンジは本気で困惑する。

 

 

「いやいや、すみません!アナタの顔、死んだウチの犬に似ていて…」

「ああ!?俺犬かよ!?」

 

 

やーい!おまえんの顔!死んだワンちゃん!!

そんな事言われてもデンジにはどうしようもない。

 

 

「ごめんなさいごめんなさい!」

 

 

さすがに紫色の髪の女性も失礼だと思ったのか頭を下げて謝罪を繰り返した。

 

 

「うえっ!?」

 

 

その様子を見たデンジは両手で口元を押さえて吐き気に必死に耐える。

 

 

「だ、大丈夫ですか!?」

 

 

今度は泣いていた女性が困惑し、必死に手を差し伸べようとしていた。

 

 

「おええっ!おえ!?ゲッ!!」

「ま、待って!ハンカチハンカチ!」

 

 

その場に蹲って何かを吐き出そうとする金髪の青年に女性はポケットの中を探る。

予想外の行動に困惑したのもあるが、このまま吐かれると困るからである。

 

 

「うえ!?」

 

 

だが、デンジは胃の中にあった白い花を口から取り出そうとしただけである。

 

 

「タラーン!」

 

 

以前、グラサン男の超魔術とかいう手品で駄々を捏ねていたパワーが大人しくなった。

その時の放送を思い出したデンジは、泣いていた少女に白い花を見せつけた。

 

 

「ええっ!?…わっ、手品だ!」

 

 

さきほどまで涙を流していた女性は、目の前の花を見て驚いた。

手を差し伸ばしてきたのでデンジは珍しく紳士らしく花を手渡した。

 

 

「種も仕掛けもないんだなコレが」

 

 

通常の手品なら口から花を出すように見せかけるが、今回はそんなトリックはない。

胃液と唾液で濡れている白い花は、雨天のおかげで汚さを誤魔化す事ができた。

 

 

「ありがとう…」

 

 

女の子から発せられた感謝の言葉を聞いてデンジは思った。

そういえば、デビルハンターの仕事以外で女性から感謝された事はなかったと…。

 

 

(悪くねぇな…)

 

 

優しく白い花を掴みつつ頬を赤く染めて笑顔で自分の顔を見ている女の子は可愛かった。

マキマさんが居なかったら惚れていたかもしれない。

 

 

「あ……雨、止んだよ」

 

 

風景が見えるガラス張りの電話ボックスで2人っきりになるのもこれで終わりである。

そのまま名も知らぬ女の子は電話ボックスから飛び出してしまった。

せっかく2人っきりの世界だと思ったのに…変な夢を見ていたようだとデンジは自覚する。

 

 

(あだだだ…!)

 

 

電話ボックスの傍にある地中で待機しているビームは背びれを猫に弄られて本気で嫌がった。

何故か猫は執拗にサメの魔人を虐めるが、もしかしたら遊び道具として認識しているのかもしれない。

 

 

「私、この先にある二道っていうカフェでバイトしているの。来てくれたらお礼をしてあげる」

 

 

それはともかく女性は白い花のお礼をしたいようだ。

第一印象は悪くないが、なんか騙されている気がする。

 

 

「絶対に来てね!」

 

 

指を差して念を押す彼女を見たデンジは虚脱感に(さいな)まれた。

ただでさえ仕事をサボっているのにマキマさん以外に女の人が好きになりそうだったから。

ビームも待たせているし、別に今日来てほしいとは言われていない。

 

 

「……ビーム、もう少しだけ我慢できるか?」

「できる」

 

 

公安のデビルハンターは公安警察の一種…つまり警察の仲間である。

警察の任務は、国民の生活と秩序を守る以外にも誰かの役に立とうする事がある。

要するに地域貢献ではあるが、人の心があるデンジは女の子の好意を無下にできなかった。

 

 

「これでよし」

 

 

とりあえず、女の子と出会った電話ボックスと猫に弄られるビームの背びれを撮影した。

そのままデンジはビームを引き連れて女の子が向かうカフェに向かった。

 

 

(ここか)

 

 

遠回りでカフェに向かう女の子と違ってデンジは屋上や屋根を使ってカフェの前に辿り着いた。

さきほどの手品で驚いてくれたので先回りして更に驚かそうという魂胆…はなかった。

 

 

「ごめんください」

 

 

なんで謝るのと物をくれという言葉を組み合わせるのかデンジにも分からない。

ただ、お店に入る時とかに言うセリフらしいのでそのまま発言しただけである。

またしてもビームは外でお留守番となったが、彼はこれでも幸せであった。

 

 

「お、珍しいね。路地続きで迷ったのかい?」

「ちょっと腹減ってここに来た!」

「そうかい、タオルがあるから拭いておきな。ここで風邪を引かれたら商売あがったりだからね」

「あーざす!!」

 

 

カフェの店主は、そこまで商売が上手くいっていないのか頬が少し痩せこけていた。

それでも客には優しいし、どこか人生で苦労した感を醸し出す姿は金髪のおっさんを思い出させる。

 

 

「今日は災難だったね、いきなりの豪雨だから大変だっただろ?」

「そのおかげでここのバイトさんと電話ボックスの中で会ったぜ!」

「なるほど、だから遅刻してるのか」

 

 

タオルで全身を拭き終えたデンジは席に腰掛ける。

あとは、バイト女を待つだけである。

その時、別の場所から扉が開く音がした。

どうやら勝手口から入って来たようだ。

 

 

(お礼ってなんだろ)

 

 

デンジの興味はお花を渡した代わりにもらえるお礼である。

その為にビームも仕事も放置してこのカフェに来たのだ。

 

 

「マスター!すみません、遅れました!」

「遅刻した分だけ給料から引いておくからね」

「ケチ」

 

 

猫鈴の長袖Tシャツの上にエプロンを重ねた女の子は別の魅力を放っている。

店長との雑談からも良好な関係に見えた。

 

 

「4番テーブルにお水ね」

「ケチケチケチケチ!」

 

 

マスターの指示に対して未だに女の子はケチくさいと連呼している。

実際、この店は繁盛しているとはいえず、マスターの趣味かもしれない。

デンジなりに色々考えてみたが、これ以上は頭が痛くなったので考えるのをやめた。

 

 

「って早っ!?」

 

 

それよりも早く仕事に行かないといけない…という気持ちで一杯だった。

確かに人の心はあるが、それ以前に仕事を放置してはいけないとデンジ自身が強く思っている。

 

 

「私より早くない?なんですぐに辿り着いたの?」

「この辺の道は良く通ってるから。それにお礼をもらいにきただけだぜ」

 

 

いろいろと優しくしてくれるマキマさんだが、仕事をサボる人には厳しいはずだ。

さっさとお礼をもらったら何か注文してすぐに食べてパトロール任務を再会するつもりだ。

とりあえず出された水を飲んだデンジはメニュー表と向き合った。

 

 

「ふーん」

 

 

露骨過ぎるデンジの態度を見た女の子は何を思ったのか。

 

 

「一緒に飲みますか~!へいへいマスター!私と彼にコーヒーを!」

 

 

電話ボックスで雨宿りした関係でしかない男子に隣り合う様に座ったバイト女は…。

やけに馴れ馴れしい態度でコーヒーを2つ注文した。

 

 

「店員でしょあんた」

「いいじゃないですかー。モーニングしか人が来ないんだし」

「もぅ……コーヒー代も給料から引くからね」

「マジでケチ!私がここにお客さんを呼んだのに!」

 

 

マスターもさすがにツッコミを入れるが、もはや慣れているのか。

あっさりとバイトの言われるがままにコーヒーを作り出した。

 

 

「お礼はコーヒーでした!コーヒー好き?」

「飲む」

 

 

結局、大したお礼はもらえなかった。

だが、そのまま帰るのは勿体ないのでまずはデンジはカメラを手に取った。

 

 

「すみません、コーヒーの写真を撮ってもいいですか?」

「別にいいけど、たかがコーヒーだよ?」

「俺、思い出作りをしてるんです。だから興味がある物を写真にしてるんすよ」

 

 

最近のデンジは、とにかく写真を撮る事にしている。

今回も単語として聴いた事があるコーヒーを目の前にしてマスターに撮影の許可を求めた。

この時代には、Twi〇terやイン〇タどころかSNSが手探りで形成される時期であった。

よってコーヒーごときに撮影をする姿は滑稽に見えた事だろう。

 

 

「あれれれ?ここに美少女が居るよ!撮らなくていいのかなー」

「これ、俺んのカメラじゃないから別の人が写るとまずいんですよ」

 

 

両手の人差し指で自分をアピールしている女バイトにデンジは理由を告げた。

金髪のおっさん曰く、同僚はともかく民間人を撮るのはご法度らしい。

 

 

「だから高そうなカメラを持っているんだね。ちょっと触っても良い?」

「ダメ」

「ケチ!」

 

 

デンジとしては、このカメラを誰かに渡そうという気はなかった。

やけに人懐っこいバイトのお願いであっても拒絶した。

 

 

「よし、コーヒー頂きます!」

 

 

そして微妙になった空気を誤魔化すようにコップを手に取る。

湯気が出ているので少しだけ息を吹きかけてデンジはコーヒーを一気飲みした。

 

 

(なんだこの味いいいいいいいいいいい!!?)

 

 

人生では味わったことが無い苦みにデンジは思わず舌ベロを出して必死に悲鳴を堪える。

あまりにも間抜け面過ぎてコーヒーを飲む青年を見つめていたバイト女は笑い出した。

 

 

「なーにその顔~!?絶対、強がっているでしょ~!?」

「強がってない!つーか!よく飲めるな!?こんなんドブ味だよ!ドブ味!!」

「あはははは子供だ、子供がここにいる~!」

 

 

実はデンジはコーヒーを飲むのは初めてではない。

だが、前も飲んだがめっちゃまずい。

コーヒー味の飴はあんなに美味しいのに何で実物はここまでまずくなるのか。

これが分からない。

 

 

「あはははははは!」

 

 

ところが、デンジはここで重要な事に気付いた。

 

 

(あれ?この子、俺にやたらと触って来るし、笑ってくれるし、もしかして…)

 

 

さきほどから隣に座る女の子が自分の肩を触って来るのだ。

確かにお花をあげた事で好感度は稼いだものの、ここまで女の子と距離が近いのは初めてである。

 

 

(もしかしてこの娘、俺んのコト、好きなんじゃねえ……?)

 

 

「愛の反対は無関心」だとどっかのラジオで言っていた。

つまり、デンジにやたらと絡んでくるこの娘は、デンジが好きなのは間違いない。

チンピラみたいな風貌なのに女経験がほとんどない青年は、僅かな期待をしてしまった。

 

 

「私の名前、レゼ。キミは?」

 

 

女の子は名前を紹介してくれた。

こういう時は自分の名を紹介するのが作法というもの。

だが、マキマさんや金髪のおっさんは、やむを得ない状況以外で自己紹介するなと言っている。

それは、デンジが特別な存在というのが大きい。

 

 

「デンジ」

 

 

それでも名前くらいなら問題ないとデンジは思って口走ってしまった。

 

 

「デンジ、デンジ君」

 

 

さきほどから頬を赤くしているレゼは、デンジの名を反芻(はんすう)するように連呼する。

そして彼女はデンジに向き合った。

 

 

「デンジ君みたいな面白い人、はじめて」

「ふ…うーん…」

 

 

首を少しだけ傾げて上目遣いで笑ってくれるレゼは本当に可愛かった。

 

 

(確定で俺のコト、好きじゃん!)

 

 

女の子と仲良くなるきっかけをデンジは知らない。

幼稚園時代の記憶はないし、小学校も通っていなかったので同年代の女の子と接点がなかった。

故に姫野先輩や因幡副隊長といった自分よりも年上の女性と接する事が多かった。

でも、デンジでも分かった。

この子、俺の事が好きだと!

 

 

(どうしよう……俺は俺の事を好きな人が好きだ…!)

 

 

ビームとかいうサメの魔人には好かれているが、それは自分ではない。

早川パイセンや金髪のおっさんも好意はあるが、本当の意味でデンジが好きではない。

ところがこの子は違った。

マジでデンジが好きだと分かってしまう!

 

 

(マキマさん助けて)

 

 

僅か1時間前にマキマさん以外に心を許すつもりはなかった。

絶対に他の人を好きになったりはしねぇ…とまで決意したはずだった。

 

 

(俺、この娘好きになっちまう)

 

 

後光が差したように光り輝くレゼは、今まで碌な人生を送らなかったデンジにとって眩しかった。

彼の脳内では、クラシックっぽい神聖なBGMが流れている。

あれだ、思い出した!登場人物を猫で擬人化した銀河鉄道の夜のアニメで流れていたBGMである!

「ハレルヤ!ハレルヤ!」とか連呼する歌詞の奴!*1

 

 

「デンジ君、どんな仕事してるの?」

「デビルハンターです!今日はパトロール任務をやってました!」

「へえ、すごいじゃん」

 

 

あまりにも自分と住む世界が違う同年代のレゼに質問されたデンジはあっさりと返答した。

 

 

(なにやってんだこの馬鹿は…)

 

 

カメラを通してデンジの会話を盗聴している結婚の悪魔は彼の行動に困惑した。

あれだけ不用意に自己紹介をするなと厳命したはずなのにあっさりと命令を破った。

 

 

「どんな暮らしをしてるの?」

「先輩のアパートで暮らしてます」

 

 

どんどん自分の情報をバラすデンジに悪魔はどうするか迷った。

 

 

(やっぱりなんか怪しいなこの女……)

 

 

実はずっとデンジを尾行していた結婚の悪魔は、電話ボックスのやり取りも確認していた。

さきほど募金をしたデンジを見てお礼の花に細工がされていないか確認もしていたのだ。

 

 

(もし撮影したなら知り合いに調べてもらうか)

 

 

やっちまったもんはしょうがない。

その程度のリスクを承知の上でカメラも貸したし、バディをビームにしたのだ。

問題なのは、どんな感じにマキマに報告するか。

 

 

(泳がせるのも一手か?)

 

 

あまりにも人間に化けすぎて嗅覚が人間並みに衰えていると実感がする結婚の悪魔は…。

レゼという女について調べる事と、デンジの行動を観察する事にした。

それにこれ以上盗聴する暇がなかったのもある。

 

 

「来たか……」

 

 

廊下から足音が聞こえて来たのでイヤホンを外して引き出しの中に仕舞った。

そして机の上に両肘を乗せて手を組んだ。

それと同時にノック音が3回した。

 

 

「入室を許可する」

「失礼します!」

 

 

結婚の悪魔が化ける係長の執務室に入室したのは早川アキであった。

 

 

「急な召集で済まないな」

「先輩の事ですから何かあったんでしょう」

 

 

新生した公安対魔特異4課は、悪魔や魔人と人間の職員がバディを組む事になっている。

既に東山コベニや荒井ヒロカズはバディを組んだのだが、アキに関しては難題であった。

なにせ公安一悪魔嫌いと評される彼とバディを組める悪魔や魔人が居るのかと…。

 

 

(尊敬する上司が岸辺隊長以外、全員悪魔と知ったらこいつはどう思うだろうな…)

 

 

まさか人間らしく振舞えるのが、よりによって早川アキが尊敬する人物ばっかりであった。

そのせいで悪魔の掌で踊っているというあんまりの扱いである。

 

 

「お前のバディ相手が決まった。お前と相性は最悪だと思うが、天使の悪魔と組んでもらう」

「天使の悪魔ですか」

 

 

天使の悪魔は、かなり特殊な存在で人間に敵意がないという珍しい悪魔である。

ただし、不真面目であり気怠さを隠そうともしない存在なのでマキマですら手を焼いている。

 

 

「デンジやパワーより問題児じゃないですか…」

「ああ、そうだ。好きなモンを食わせれば少しだけ動く気になる怠け者さ」

 

 

本来は、岸辺隊長に次ぐ実力者であり、本気の殺し合いならば結婚の悪魔も警戒するほどだ。

問題なのは、そこまで本気になる事は絶対にないと言い切れるほどにやる気がないのだ。

 

 

「既に詳細の話はマキマさんから聴いていると思うが…」

「銃の悪魔の討伐遠征をするならば、奴を上手く扱う必要があるんですね」

「その通りだ」

 

 

真面目な早川アキと怠け者の天使の悪魔は相性が最悪である。

じゃあ、どうしてそうなったかというとマキマの興味が大きい。

2人がどんな感じで行動するのか気になる…というだけで編成されたのだ。

 

 

「奴が使えないと判断したら?」

「マキマさんに話を通すから先に自分に報告してくれ」

「承知しました」

 

 

公安の役に立たない悪魔や魔人は処分される。

裏を返せば、アホみたいにマイペースなのに処分されない天使の悪魔は相応の価値がある。

人間の寿命から作り出す特殊な武器もその1つだ。

 

 

「それと先輩、1点お聞きしたい事がありますが…質問してもよろしいでしょうか?」

「問題ない」

 

 

アキの質問内容は既に悪魔は察していた。

それでも彼の意志や考えを知りたいので質問の許可を下す。

 

 

「最近、デンジの奴。カメラを持ち歩いていますが…」

「ああ、漢字が書けないあいつには写真で報告させる方が楽だと思ってな」

 

 

一応、家の主でありデンジの教育担当でもある早川あきにも話は通してある。

それでも彼は、無駄にアグレッシブになったデンジを心配しているようだ。

 

 

「デンジが撮り鉄になったらどうしましょうか?」

「……別に良いじゃないか。迷惑をかける撮り鉄なら暴力で教育すればいい」

 

 

何故かデンジが撮り鉄になる事を警戒しているアキに結婚の悪魔は首を傾げる。

確かに引き籠りのおっさんやオタクがやっているイメージが大きいが、別にやってもいい。

何故か同じ構図に拘る行為自体は理解できないが、何かを残したいのはデンジも同じなのだから。

 

 

「デンジが撮り鉄になって国民や乗客の皆さんに迷惑をかけると思うと…胃が痛くて…」

「安心しろ。デンジの撮った写真を査閲しているからすぐに問題を見抜ける」

 

 

電車の全体図を撮りたいが為に私有地の樹木を伐採したり、線路に立ち入る撮り鉄が居る。

オタクという存在が負の遺産と評されるこの時代では、オタク自体が一般向けではない。

 

 

「むしろ、美少女に目が眩んで勝手に撮影していないか心配しているほどだ」

「それもそうですね」

 

 

どちらかというと結婚の悪魔は危惧しているのは、美少女の撮影に拘る事だ。

結婚の悪魔がデンジにカメラを渡したのは盗聴するのが目的である。

しかし、アキに説明した建前である報告書を書きやすくするという目的もあった。

 

 

「査閲して弾かれた写真について閲覧できる許可を頂けませんでしょうか?」

「なんだ、気になるのか?」

「はい」

 

 

ヤクザの孫の股間を一緒に蹴った時から急速にデンジとアキの距離感が縮まった気がする。

普通なら査閲して弾かれた写真など見る事などしない。

それをしようとしている理由は1つしかない。

 

 

「そうか、ならちょっと上に掛け合ってみる」

「ありがとうございます」

 

 

デンジが間違っている行動をしていたらそれを正そうとしているのだ。

例えば、マキマさんに対する失礼な言動や行動などだ。

 

 

「デンジと仲良くするフリはできているか?」

「ばっちりです」

「その調子で天使の悪魔とも仲良くしてやってくれ」

「了解しました」

 

 

デンジとの生活に慣れたアキはどこかが変わった。

今までだったら銃の悪魔を殺す為に寿命を全て捧げるような狂犬だった。

 

 

(だが今では…)

 

 

自分の短い余命を知って自分にできる事を全てする。

そんな男に成長した。

 

 

(銃の悪魔と戦えるようなデビルハンターじゃなくなったな)

 

 

口では銃の悪魔討伐の為の遠征に参加を希望している。

しかし、デンジやパワーにはまだ早いと提言し、彼らを任務から引き離そうとしている。

同居人兼監視員の発言にマキマも頭を縦に振るしかないが、それでも大分まともになった。

 

 

(デンジといい、ヒロカズといい、アキといい。人間って成長が早いな)

 

 

マキマの前で尻尾を振る事しかできないデンジは、今では一人前のデビルハンターになった。

荒井ヒロカズも蜘蛛の悪魔との連携により、悪魔を1体討伐している。

そして早川アキも、きっと悪魔の想定を上回る成長を見せる事だろう。

 

 

(くだらねぇな…)

 

 

いくら人としてデビルハンターとして成長しても死んだら終わりである。

早川アキの右目に潜んでいる未来の悪魔の存在を感じ取った結婚の悪魔は警戒する。

 

 

(すごく悲惨な死に方をする奴の為にお膳立てをするとはな…)

 

 

未来の悪魔が右目に住まわせる代償で未来視をアキに授けた。

それほど好条件には裏があると知っている悪魔からすれば…。

今まさにハニートラップに引っ掛かっているデンジのようにアキも破滅が見える。

 

 

(どうしたもんかな…)

 

 

結婚の悪魔と契約していない彼らを助ける必要はない。

一応、部下なのでしぶしぶやっているだけだが…。

 

 

(自分も破滅しそう)

 

 

何故か自分も巻き添えに破滅すると結婚の悪魔は自覚しつつある。

実際にそれが大当たりになるのだから、嫌な予感というものは的中するものだ。

 

 

*1
ヘンデルが作曲した「メサイア」の第2部: メシアの受難と復活、メシアの教えの伝播 最終曲であるハレルヤ

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