デンレゼが足掻く度に不幸になるケッコンの悪魔さん   作:Nera上等兵

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29話 DATE A FRESH -デート・ア・フレッシュ-

早速、早川アキは天使の悪魔とバディを組んでパトロール任務をこなす。

…こなすはずだったが、すぐにこの悪魔の厄介さが露呈する。

 

 

(全然動く気配がしない…)

 

 

アイスを食べさせると約束した事で何とか天使の悪魔を同行させた。

しかし、3つのアイスを喰わせてもなお、彼は動く気配がない。

公共のベンチを独占するように座ってアイスを舐める姿は怠惰の悪魔かと思うほどだ。

 

 

「3つも食べたら充分だろ?さっさとパトロールに行くぞ」

「アイスを食べたら疲れた。食べるのも労力がいるのは分かるよね?今日はこれで終わりだよ」

 

 

デンジやパワーですら飴を与えれば、働いたり、何かをやってくれる。

だが、この悪魔はなんだ?

飴を与えてもそれを当たり前と認識し、ただひたすらに飴を舐めるだけの存在だ。

 

 

「銃の悪魔の居場所は分かってる。その遠征に参加するにはデカい悪魔を討伐した実績が必要だ。俺のバディになってくれた以上、最低限でもいい…手を貸してくれ」

 

 

最近、デンジやパワーのおかげで忍耐力が増したと実感した。

パワハラを受けても動じない鋼の心を手に入れた気がするアキは天使の悪魔にお願いをした。

 

 

「え~~!?うーーーん…もう1個、アイスを食べたら考えるってどうかな?」

 

 

見た目は天使の輪っかと翼を生やした中性的な美少年だが、中身は本気で腐っていた。

例えるなら親の(すね)(かじ)っているニートが「明日から本気です」と断言するみたいなもんだ。

 

 

「立て。お前が使えないと俺が報告すれば、お前は悪魔として処分されるぞ?」

「ん~~。働くくらいなら死んだ方がマシだよ。特に僕が動く事態なんて厄介な事しかないよ」

 

 

天使の悪魔が自発的に動く時は人命が失われるか、それに匹敵する事態が発生している時である。

平和が大好きな悪魔は、自分が動く事態がどういう事か理解しているからこそやる気がないのだ。

 

 

「よし分かった。俺と同行してくれれば小遣いをやろう。食後の運動くらいはやるよな?」

「なるほど、確かに全身が冷えていたし、運動自体は悪くないね」

 

 

なんとかして天使の悪魔をベンチから立たせたアキは、この悪魔と相性が悪いと思った。

だからといってコベニやヒロカズにこいつを押し付けるのも無理だと分かっている。

―こんな堕落しきった悪魔を公安が残している理由もすぐに知る事となる。

 

 

(クッソ…)

 

 

天使の悪魔が生成したとされる刀の切れ味は抜群だ。

民間のデビルハンターが返り討ちに遭ったと通報を受けて駆け付けたアキは豚の悪魔を討伐した。

確かに悪魔本人がクソみたいな性格でもこれを作ってくれるだけで生半可の警官よりは役に立つ。

 

 

「悪魔は処理しました!皆さんは悪魔の血肉に触れないようにお願いします」

 

 

野次馬や見物人は悪魔が死んだと知った瞬間、挙って悪魔の死体現場にやってきた。

それを牽制した早川アキは、念の為に悪魔の脳と心臓に刃を突き刺して死んでいるか確認した。

 

 

「うわー美味しそう。これで焼肉にしない?」

「ダメだ、もうじき処理班が来る。それを見届けたら今回の仕事は終わりだ」

 

 

悪魔の死骸の前に座り込んだ天使の悪魔は、落ちていた木の枝でつっつき始めた。

Dr.スラ〇プの則〇アラレがうんちを枝で突く行為に似ているが、それはどうでもいい。

 

 

「へい、人間くん」

「どうした?」

「飛び出した胃で遊んでいたら消化途中の人間を見つけたよ」

「なんだと!?」

 

 

天使の悪魔に呼びかけられたアキはどうせ碌でもない話だと思っていた。

だが、彼の発言を受けて刀を構えたまま、被害者がいる場所に近づく。

 

 

「どうやら返り討ちに遭って悪魔に喰われた民間のデビルハンターみたいだね。下半身がないし、結婚の悪魔と“結婚の契約”するくらいしか生き残る術はないよ」

「……結婚の悪魔と知り合いなのか?」

「まあね、でもこんなのと契約しないよ。つまり、死ぬしかないね。ご愁傷様」

 

 

結婚の悪魔の話は早川アキも聴いた事がある。

肉体能力の向上や肉体再生能力を付与する代わりに結婚する期限を定める契約を結ぶ悪魔だ。

珍しく肉体の部位や寿命を要求しない悪魔であるが、何故か破滅する契約者が後を絶たない。

それでも期限内に結婚すれば、代償を踏み倒せる悪魔として公安のデビルハンターでは大人気だ。

 

 

「なあ、結婚の悪魔はどんな姿をしてるんだ?」

「あいつは姿や性別に拘ってないから分からないよ。少なくとも本来の姿を1回も見た事が無い」

 

 

結婚の悪魔は、履行できずに死んだ契約者の姿をしている事が多い。

人間形態で分かりやすい特徴としては、シンプルな結婚指輪を左手の薬指に填めている。

それ以外ではマキマクラスの嗅覚がないと所見ではまず見抜けない。

事前情報があった天使の悪魔すら一度騙されたほどだ。

 

 

(岸辺隊長より普通に強いんじゃないかな?)

 

 

公安対魔特異4課の中では、岸辺隊長に次いで天使の悪魔が強いと評判であった。

ただ、結婚の悪魔とバディを組んだことがある天使の悪魔としては、それは嘘だと分かっている。

なにせ“結婚の契約”は、結婚の悪魔が持つ力そのものを人間に分け与えるものなのだから。

 

 

(なにより分裂して弱体化してるしね)

 

 

天使の悪魔も最近知った事なのだが、結婚の悪魔は自分の肉体を分割してわざと弱体化していた。

まさか公安対魔特異4課の係長と副隊長が同じ悪魔だとは誰も思うまい。

珍しく考え込む天使の悪魔に何か思うところがあったのか早川アキも追及はしなかった。

 

 

「ころ……こおして…ころして…」

 

 

すぐに被害者は死んだと思ったが違った。

虫の息である元デビルハンターは辛うじて言葉を発し、死を懇願していた。

全ての毛が抜け落ちて表皮を失っているが、痛覚は失っていないようであった。

 

 

「お前の力なら楽に殺せるはずだ。死なせてやってくれ」

 

 

天使の悪魔は直接触れる事で寿命を吸い取る事ができる。

苦痛なく生物を殺めることができるので瀕死の彼を楽に救う事ができるのだ。

だからアキは天使に力を行使しろと命じた。

 

 

「…え?やだよ」

 

 

しかし、天使の悪魔は相方の提案を拒絶した。

 

 

「…僕は天使である前に悪魔だよ?人間は苦しんで死ぬべきだと思ってる」

 

 

人間と悪魔は友達になれない。

その事実を突きつけられたアキは、瀕死の人物に近づいた。

そして刃を額に突き刺して捻って介錯した。

 

 

「フリでもお前と仲良くなれないらしいな」

「らしいね」

 

 

刃に着いた血を振って落として納刀したアキは天使の悪魔に本音を告げた。

悪魔としても仲良くなる気がないらしい。

双方とも自分の為にバディを組んでいるので仲良くなれないのは当然であった。

 

 

(おかしいな……)

 

 

一方その頃、仲良くなる気が無いのに勝手に足が動く男が居る。

二道というカフェでバイトしている女の子が気になっているデンジである。

 

 

「あ、お客様だ!」

「ちーす!」

 

 

立派な常連客になったデンジは、レゼの呼びかけに手を振って近くにあった席に座った。

午後からは客が来ないという事で彼女は机に本を並べて勉強しているようである。

 

 

(勉強って面倒だよな、そう考えるとデビルハンターって楽だ)

 

 

義務教育を受けずに公安のデビルハンターになったデンジは勉強と無縁になった。

そう思っていたのだが、金髪のおっさんは近々、漢字ドリルを持って来るそうだ。

彼曰く、最低限の漢字が書けないと女にモテないぞ…という事だが、そうでもないらしい。

 

 

「お客様~!こっちの机で食べませんか?」

「勉強中だろ?俺は飯を喰ったらすぐに家に帰るつもりだぜ」

「えーつまんない~!」

 

 

人間の心があると教えてくれたマキマさんを裏切れない。

デンジの心はマキマさんの支配下に置かれたのに何故か勝手に足と口が動く。

 

 

「カレーとアイス、あっ、チャーハンもお願いします」

「今日は抹茶アイスがオススメだよ」

「じゃあ、それで」

 

 

デンジはわざとらしくレゼを無視してメニュー表を手に取った。

そしてカタカナで書いてあるメニューを適当に注文し、マスターの意見も聞き入れた。

確かに昼飯を食べに来たのは確かだが、彼の本命は昼飯ではない。

 

 

「私のご指名は無いんですか~?」

「ここ、そういう店じゃないだろ?」

「あれれれ、可笑しいな。常連になるほどココ、おいしくないよ?」

「いや、おいしいよ」

 

 

天真爛漫で軽度なボディタッチをしてくる小悪魔が目当てなのだ。

世界中がこんな女悪魔だったら世界平和になるというのに…と学が無いデンジはそう思った。

少しだけいじけた店員のレゼに対してマスターが反論するが、それはどうでもよかった。

 

 

「仕事の終わりの飯がうめぇんだよ」

 

 

デンジは充実した人生を送っていると実感している。

打ち解けた先輩や同僚、そして憧れの女上司とのやり取りとパトロール任務。

そしてちょっとした日常に触れる事ができるレゼとの関わりが最近のルーチンである。

パワーも日常の一部じゃないかって?知らんな。

 

 

「仕事ばっかりで偉いですけど、私も構ってくれませんかー」

「レゼは勉強中だろ?俺なんかに構っていいのか?…というか店員なのにそれでいいのかぁ?」

「デンジ君以外に客がいないんですから良いですよー」

「いや、よくないよ!?」

 

 

レゼは学生らしく合間を縫って勉強をしている。

カフェのマスターはレゼの主張を反論するが、止めさせていないので何かあるのだろう。

気になる女の子をあえてスルーするムーブを決め込むデンジであるが、限界に近い。

 

 

「確か16歳だっけ?その歳で学校に行ってない方がおかしいと思うな~?」

「ぎむきょういくじゃないから良いだろ?」

「えー16歳でデビルハンターの方がヤバいと思いますけどね」

 

 

ここ数日、レゼと会話していて自分の日常と他者の日常が違うと知った。

さすがに悪魔や魔人と過ごす職場は可笑しいとは思っていたが…。

 

 

「学校を行かないでデビルハンターなのは珍種だよ!珍種!」

 

 

何かと関わって来るレゼのおかげで自分の境遇が可笑しいと認識している。

金髪のおっさんも言っていたが、小学生の時から借金を返済するのは可笑しい。

そう言ってくれたレゼの発言がデンジの心に響いてしまい、完全に彼女に魅了された。

 

 

「でも、こうやってレゼに出会えた!そう考えると悪くねぇと思うんだがな~?」

「ふ~ん、そんな事言われたら反論しにくいなー」

 

 

レゼは少し褒めるだけでめっちゃ喜んでくれる。

なので語彙力が無くて対人関係がほとんどないデンジは、ここで恋愛経験を稼いでいる。

そして来たるべき日にマキマさんをデートに誘う男になる…という建前でここに来ている。

 

 

「よし、こっちで勉強しようっと!つめてつめて!」

 

 

ノートを畳んだレゼは隣の机からデンジと同じ机にやって来た。

無意識に座るスペースを作った彼は興味がないフリをする。

そんなデンジの心境を見抜くように優しく右肩に触れた。

 

 

「ねえ、本当に勉強に興味ないの?少しくらいなら教えてあげてもいいよ?」

 

 

学校の先生より実習生の方が教え方が上手い場合がある。

それは必死に教える内容を計画して実行しているからだ。

手探りだからこそ、素人から教わる内容の方が分かりやすい時があるのだ。

 

 

「…漢字は読めるようになりたいかな」

 

 

漢字ドリルで勉強する事になるが、どうせならレゼに教えて欲しかった。

風の噂に聞くマンツーマン指導って奴だ。

そう思っていたデンジはうっかり口に出してしまった。

 

 

「漢字読めないの!?じゃあ、教えてあげる!」

 

 

最近、デンジは自分の体が自分の制御下にないと感じる事が多い。

銃の悪魔をぶっ殺してマキマさんとイチャイチャするのが目的だというのに…。

隣の席に座っている女の子に大切な何かを踏み込まれている感覚がしてしょうがない。

 

 

「問題ジャジャン!これはなんと読むでしょう?」

 

 

やたらと嬉しがっているレゼは、持ち込んだノートに漢字を書いて横に座るデンジに見せた。

その漢字はデンジすら見覚えがあるものだった。

 

金玉

 

とても女の子が出す質問では無かった。

前から分かっていたが、レゼはエロい事に興味があるようだ。

 

 

「キンタマだろエロ女!」

「なんだ分かってるじゃん」

 

 

デンジは下ネタが大好きである。

ちゃんとした学校生活を送らなかったせいで下品な単語を覚える時期から抜け出せていない。

同学年の外国人からFuck(ファック)!とかcacete(カセーチ)!とか鸡巴(ジーバー)などの単語を教えてもらう経験はあるだろう。

デンジはその段階で精神の成長がストップした悲しき人物であった。

 

 

「唯一、キンタマだけは読めるんだよ!」

 

 

金玉を片方売り飛ばした時に漢字を書いたので印象に残っていた。

そのせいで未だにこの漢字の読み方は分かる。

10万円もしなかったし、どの用途で使用されているか考えもしなかったが!

 

 

「アハハハハハ!なんじゃそりゃ!」

 

 

人懐っこいレゼが大胆に笑う姿に分け与えた食パンで喜んだポチタの姿を重ねたデンジは…。

 

 

「レゼとなら学校に行きたかったなー。なんか楽しそうだし…」

 

 

ポチタが女体化して人間になればレゼになったのかもしれない。

自分の発言を聞いて首を軽く傾げて微笑む彼女の顔がポチタの笑顔に見える。

 

 

(何言ってんだ俺は…何考えているんだ俺は…!)

 

 

デートするならマキマさんだけだし、ポチタ以上の存在は居ないし、なり得ない。

なのにレゼと過ごす日々は、日常のはずなのにどこか非現実的な光景と想いを作り上げていた。

 

 

(あっ…)

 

 

よっぽど嬉しかったのかレゼは左脚でデンジの右足を絡めて近づいて左腕を彼の肩にまわした。

抱き寄せられたデンジは歴戦のデビルハンターらしくないほど無防備になった。

 

 

「行っちゃいますか?夜」

「夜?」

 

 

頬を赤くしてどこかに行こうと提案するレゼにデンジは質問をした。

どこに行くのか分からないし、そもそも夜にやる事など限られるからだ。

 

 

「一緒に夜の学校探検しよ?」

 

 

ここでデンジは、またしても女性からデートのお誘いを受けたと実感した。

マキマさんと違って直接的に言ってないが、学校に通っていないのに行くのはルール違反だ。

所謂(いわゆる)、イケナイ遊びとか度胸試しに近い2人っきりのデートになる。

 

 

「……します」

 

 

自分の事が好きな女の子が大好きなデンジは、レゼの提案を断れるわけがなかった。

だって自分が大好きなレゼのお誘いを蹴れば、きっと二度とデートに誘われる事がなくなるから。

もちろん、警備員や地元の住民に発見されてもまずいが、だからこそ夜の学校探検が楽しくなる。

 

 

(心はマキマさんの物なのに!!体が言う事を聞かねぇ!!)

 

 

デンジはマキマさんの所有物であると自覚し、彼女の為に働いているまである。

それなのにそのマキマさんを上書きするほどにレゼという女の子が好きになってしまった。

このままだと仕事まで影響すると危惧するデンジだが、成す術はない。

 

 

「カメラも持って行こうよ」

「え?ダメだ!!写真はみんなにも見られるぞ!?」

 

 

だが、カメラを持ち込む事だけはデンジも拒絶した。

こっそりと夜間の学校を探検するのが目的であって写真を撮るのはまずい。

何故なら金髪のおっさんを筆頭とする上層部に写真を確認されるからだ。

 

 

「うん、だからフィルムを交換しよ?」

「え?」

「この一眼レフ、フィルムを手動で交換できるんだ。元通りにすればバレないって」

 

 

レゼ曰く、フィルムを交換して撮影し、カメラを返却する時には元のフィルムに戻す。

そうすれば、公安にもバレないと小悪魔らしい(ささや)きをしてきた。

 

 

「で、でも…」

「それを言ったら夜間の学校探検は不法侵入だよ?それに比べれば優しいもんだよ?」

 

 

厨房で調理するマスターに聴こえない声量でレゼはデンジの思考を誘導する。

確かに金髪のおっさんはフィルム交換を禁止にしていなかった。

 

 

「それに思い出作りをしてるんでしょ?私を撮らないで思い出作りって酷くないかな~」

 

 

そしてレゼは確信を突く。

デンジはレゼを撮影したかったのだが、公安の約束でそれができなかったのだ。

だが、交換したフィルムで撮影すれば2人っきりの秘密になるし、レゼも撮れる。

 

 

「もってく」

「じゃあ、明日の午後10時半にこの店の前で集合しちゃおう。もちろん、みんなに内緒にね?」

「分かった」

 

 

ついにデンジの最後の砦であったカメラですら陥落した。

これにより、夜間の学校デートが明日の晩に開始する事になった。

 

 

(来たか…!)

 

 

一連の会話を盗聴している結婚の悪魔は、スナイパーライフルを手に取る。

さすがに二道を直接監視するわけにはいかなかったので放置していたが、今回は違う。

 

 

(たかがこの程度のやり取りでデートだと?あり得ねぇよ)

 

 

確かにデンジは時折、魅力的なので恋に落ちる事もあるかもしれない。

問題なのは、デンジの話を聞いて普通じゃないと分かるのに関係を変えない異常さである。

公安のデビルハンターの死傷率は、民間と比べて遥かに高いのは周知の事実だ。

 

 

(受験勉強している奴がいつ死んでも可笑しくない男にそこまで尽くす義理は無い)

 

 

カメラに仕込んだ盗聴器でやり取りを聞く限り、レゼは受験勉強をしているようだ。

アルバイトの条件は、最低でも中卒以上なので最低でもデンジと同年代になる。

だからこそ、いくら気に入った異性だからといって夜間の学校に誘う必要はない。

だって、学校の不法侵入が発覚すれば受験資格を取り消しになるのだから。

 

 

「セラフィムさん、出番だ」

 

 

執務室にある椅子に座る結婚の悪魔は腹を撫でる。

そこには、公式で発表されていないが特異4課に所属しているセラフィムが潜んでいる。

マキマの操り人形になった悪魔であり、結婚の悪魔とバディを組まされた存在だ。

 

 

「……そうだ、間違いなく刺客だ。大事になる前に始末するぞ。デンジの為にもな」

 

 

腹の中と会話をした結婚の悪魔は久しぶりにスナイパーライフルの整備を始める。

ゲルマン人の工作員とお付き合いした時に得た技能はまだ現役だと信じたい。

 

 

「デンジ、綺麗な花にはトゲがあるもんだ。女はお前が思うほど優しくないぞ」

 

 

レゼについて調べていた結婚の悪魔は、この時まで彼女が刺客だとは確信できなかった。

一応、レゼという工作員自体は公安のデータベースにはヒットしなかった。

ただし、彼女の行動に不自然な点があったので今まで泳がせていたのだ。

 

 

「さて、どうやってビームに知らさせるかが問題だ」

 

 

レゼを始末するのは容易い。

ただし、デンジに懐いているサメの魔人の反応だけは想定できなかった。

同じチェンソーマンの眷属であるセラフィムですらビームの行動が理解できないのだ。

念入りに対策を練る必要があった。

 

 

-----

 

 

夜の学校に侵入したデンジとレゼはわざわざ新品の運動靴を履いていた。

これにより床を汚す事はなく、堂々と廊下を歩く事ができた。

 

 

「デンジ君は恐くないの?」

 

 

レゼが放った質問には2つの意味がある。

文字通り、深夜の学校は静か過ぎて怖くないのか。

そして、もしバレたらタダじゃ済まないけど大丈夫?という問いかけだ。

 

 

「あ~~…恐いつーか。変な気分」

「なんじゃそりゃ」

 

 

デンジからすればどちらの意味も受け取れなかった。

そもそも学校に行った事がないので何も想像できなかったのだ。

 

 

「…少し怖いから手を繋いでいい?」

 

 

今晩は満月なので月光によりいつもより明るい。

誘導灯もあるので完全に真っ暗ではないがそれでも暗いのは確かである。

さりげなく伸ばしてきたレゼの手を優しく掴んだデンジは彼女と並んで歩く。

 

 

(マキマさん、違うんです)

 

 

心の中でデンジはマキマさんに弁明している。

 

 

(ホントは、手なんて繋ぎたくないんです…でも体が勝手に…)

 

 

マキマさん一筋と誓ったその日にレゼに出会ったデンジは浮気をした。

いや、そもそもマキマさんと付き合っていないので浮気も糞も無い。

「寝取られやんけ!?」という前に「寝てから言え!」と同じ理屈である。

それでも、デンジが求める何かを満たしてくれた女性が増えた事で彼は混乱した。

 

 

(俺はマキマさんとエッチしたいのはマジです。レゼはあくまで仲良くなった女の子です)

 

 

夜間の学校の光景が新鮮なのか、未だにチンチンは反応していない。

すなわち、マキマさん一筋は変わっていないと脳内マキマさんにデンジは言い訳をしていた。

 

 

「ねえ、教室で授業をやってみない?」

「授業ってあの?」

「私が先生になるからデンジ君は座ってね」

 

 

入り口の真上に【3-B】という明示がある教室に2人は侵入した。

そこには教壇と黒板、そしてたくさんの学習机と椅子が並んでいる。

レゼから見て正面の席に座ったデンジは、まるで生徒になった気分だ。

 

 

「では、この問題解ける人!」

 

 

白色のチョークを使って黒板に問題を書いたレゼ先生は生徒に質問した。

 

1+1=

 

今まで借金の返済に着いて考えて来たデンジからすれば簡単であった。

 

 

「はいはい!2!2でーす!」

「正解!天才!」

 

 

即答するとレゼ先生が鼻が高いと言わんばかりに褒めてくれたのでデンジも嬉しがる。

 

 

「次はこの問題!この英語はなんて読むでしょうか!」

 

 

次にレゼが書いた問題は英語である。

 

Big ass

 

デンジの脳内辞書にアメリカ英語は載っていない。

アルファベット?なにそれ美味しいの?

 

 

「ハイ!知らねぇ!!」

 

 

即答したデンジにレゼは答えを述べる。

 

 

「答えはデカケツでした!」

「エロ女!」

 

 

レゼと授業を繰り広げたデンジは少しだけ学校生活を理解した。

こうやって先生と生徒がやり取りして充実した学校生活を送るという事に…。

 

 

「なるほど、学校生活について掴めてきたぜぇー。確かに学校も楽しいな」

 

 

30代のニートが小学生に戻れないように失われた時間は帰って来ない。

死ぬまで公安のデビルハンターとして仕事をするしかないデンジは…。

 

 

「デンジ君って本当に小学校に通った事が無いの?」

「あ?うん。……あっ、自慢じゃないからな」

 

 

レゼから小学校に行った事が無いのかと問われて本音を言ってしまった。

アキパイセンにも言った事があるが、かなりドン引きされたので言及は避けたかった。

それでも、レゼなら話しても問題無いかと思った。

 

 

「それってなんか…ダメじゃない?」

「ダメ?」

「ダメっていうか可笑しいよ」

 

 

相変わらず義務教育を受けていないのは可笑しい。

そう告げるレゼだが、なんか同じく驚きを見せた早川アキとは違う表情だった。

 

 

「16歳ってまだ子供だよ?普通なら受験の為に勉強したり、部活を頑張ったり、友達と遊んだり…それなのにデンジ君は悪魔を殺したり、殺されそうになったりしてるよね?」

「それが仕事だからな」

「今いる公安って本当に良い所なの?私からすれば子供を酷使する場所に見える…」

 

 

デンジはヤクザの借金を返済する為に少年期からデビルハンターの仕事をしている。

だから本気の殺し合いにはなれているのだが、それ自体が可笑しいとレゼが指摘する。

確かに借金返済はなくなったが、高校にも行けずにデビルハンターをするのは変かもしれない。

 

 

「凄ェ良いトコだぜ?1日3回飯が出るし、布団で眠れるんだからな」

 

 

デンジはマキマさんに拾われた事でようやく人間として普通の生活を送れるのだ。

だから今の生活に疑問を思ったことはない。

むしろ、他人事じゃないように真摯にデンジの境遇を受け止めているレゼの方が可笑しかった。

 

 

「それって日本国民なら最低限の…当たり前だよ?」

「うー…ん」

 

 

確かに言われてみると、他人から見た自分は可笑しいとよく言われる。

一般人のレゼが言うのだから間違いないだろう。

それでもデンジは今の生活を変える気はない。

 

 

「でも、そのおかげでレゼと一緒に居られる!それだけでお釣りが来るぜ!」

 

 

どんなことがあっても喰って寝れれば充分だった。

どの道、マキマさんが居なかったら今の生活はない。

だからこそデンジは、彼女を慕っているのだ。

 

 

「それに余計な事を考える過ぎると…頭が痛くなっちまう」

 

 

デンジは昔から深く考えない事にしている。

そうしないと借金返済が進まなかったからだ。

それにレゼが悲しい顔をしていたのでこれ以上の会話をしたくなかったのもある。

 

 

「じゃあ、少し冷やしますか」

「何を?」

 

 

自分の境遇に驚きはされたが、ここまで同情されたのは生まれて初めての経験だった。

だからこそ、デートに誘ってくれたレゼに感謝しつつも、違和感がある。

 

 

「ふふふ、それは後のお楽しみ!それより写真を撮ろうよ!二度と経験できないかもしれないよ」

「レゼ先生!分かりました!」

「素直で結構!」

 

 

フィルムを変えたカメラでデンジとレゼは撮影を開始した。

本来得るべきであった日常を記録に残そうとするように何枚も写真を撮る。

デンジが挙手する姿、レゼとデンジが教室で会話している姿、落書きした黒板も撮影した。

 

 

「デンジ君がまだ知らない世界がここには一杯あるの!それを見つけに行こうか!」

「行く行く!」

 

 

またしても女性が先導するデートに受け身で応えるデンジだが気付かない。

少しでもレゼが変な真似をすれば、結婚の悪魔とその一派によって彼女が殺害される事。

なにより、デンジの心臓を狙う刺客がこの学校に近づいていたのだ。

 

“平和”とは“戦争”をする為の準備期間

 

それを表すように夜空には月光を遮る雲が集まりつつあった。

 

 

 

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