デンレゼが足掻く度に不幸になるケッコンの悪魔さん   作:Nera上等兵

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3話 ある日、廃工場の中、デンジに出会った

マキマと公安の職員を乗せた公用車が目的地である廃工場に到着した。

既に何者かが先行したのか1台の自家用車が駐車している。

 

 

「…車種はおそらく初代トヨタカ〇ーラ!今時2ドアの国外仕様の逆輸入車を乗るなんて珍しい。自動車登録番号標は、東京312(サンヒトフタ)、ま、82(ハチフタ)ハイフン306(サンマルロク)。陸運局に車両情報照会しますか?」

「それは警察の仕事だから放置して」

 

 

結婚の悪魔が窓から駐車している車を一瞥(いちべつ)し、情報を述べるが、マキマによって一蹴された。

これも悪魔なりの嫌がらせであるが、逆に言えばそれを許されているのは使える情報だからだ。

 

 

「行くよ」

 

 

後部のドアが開いてマキマが車外に降り立ってそのまま工場の入口へと進む。

彼女の後を追随する2名の公安職員の後に続いて結婚の悪魔も歩いていく。

 

 

(懐中電灯は…一応必要か)

 

 

ちょうど朝日が辺りを照らしており、入り口の内部もしっかり見える明度となっている。

それでも奥に何がいるか分からないので懐中電灯を構えて彼らの後方に展開した。

 

 

(ホント、鼻が曲がりそうだ…)

 

 

正面に空いていたシャッターから工場に入ったマキマが足を止める。

追随した部下たちもその凄惨な光景を目にしたが、さすがに訓練されているので動揺はない。

 

 

(どんだけゾンビにされたんだよ……行方不明者がまた増えるな…)

 

 

結婚の悪魔が懐中電灯で奥の方を光で照らすと更に死体がある事が分かった。

 

 

「先を越されたね」

 

 

正面に居るマキマの一言はどの意味で言っているのか結婚の悪魔には分からなかった。

普通なら公安より先に民間のデビルハンターによってゾンビの悪魔は討伐された。

そう考えると納得できるのだが、マキマにボコられ続けている結婚の悪魔はそうは思わない。

 

 

(なんかあるな?)

 

 

懐中電灯で他に異変が無いかと光を照らしていると…。

上半身が裸で両腕と頭がチェンソーと合体した化け物が居る。

全身に返り血を浴びているのでこの死体の山を築いたのはこいつだと確信できる。

なにより上半身が微かに呼吸で動いているので生きている様だ。

 

 

「生きているのがいますね」

 

 

同僚の1人が状況を報告するとマキマはその化け物に向かって歩き出す。

そして平然と立ち続ける化け物の前で立ち止まると躊躇なく声をかけた。

 

 

「キミ、変わった匂いがするね、人間でも悪魔でもない匂い」

 

 

マキマの発言に背後に展開していた2名の同僚が困惑する。

結婚の悪魔の嗅覚判定だと【目の前の化け物】は人間と示した。

ただ、意識をすると胸部から悪魔の匂いがほんの僅かだが感じられる。

 

 

「キミがこれやったの?」

 

 

マキマが訊ねると目の前の化け物は、何かを呟いてそのまま後方に倒れかけた。

するとマキマは化け物の背中に腕を回して優しく抱きしめて彼を支える。

 

 

(メインヒロインみたいな事をやってるなこいつ…)

 

 

まるでマキマの愛によって化け物が人間に戻るワンシーンを見てしまった。

彼女が抱き着いた瞬間、具現化していたチェンソーはドロドロに溶けて素顔が見える。

ちょっとだけ顔が整った金髪野郎は、今の状況が信じられないような顔をしている。

というか、マキマの胸が当たって喜んでいるまである。

 

 

「人だ…」

 

 

彼女がどの表情でそれを述べたのかは分からない。

ただし、結婚を司る悪魔からすれば、彼女がやった抱擁は愛を示すものだと分かる。

少なくとも化け物形態の時点で愛情表現できるほど愛らしいみたいである。

 

 

(趣味が悪い…)

 

 

王道漫画であれば、ここから化け物はマキマと一緒に悪魔退治する物語が幕を開ける。

なんて事はあり得ないと結婚の悪魔は分かるからこそ懐中電灯のスイッチを切った。

 

 

「悪魔による乗っ取りの可能性は?」

「ないね、乗っ取りは顔見ればわかるもん」

 

 

部下の問いに対してマキマは即座に否定する。

もちろん、結婚の悪魔も不本意であるが、彼女と同じ意見である。

悪魔が人間の死体に憑依して誕生する“魔人”と交戦経験があるのも根拠だった。

 

 

(どうせ公安の地下行きなんだろうなー)

 

 

公安の職員の生存率を上げる為に結婚の悪魔は地下から出る事を許された。

裏を返せば、契約した公務員を死なせまくれば、永遠に地上に出る事はない。

その為、目の前に居る少年に同情し、せめてもの手向けに合唱をする。

 

 

「私はゾンビの悪魔を殺しに来た公安のデビルハンターなんだ」

 

 

メインヒロイン面した赤髪女が何か宣っているが、結婚の悪魔は無視をした。

隣に居た同僚にジェスチャーを見せて事後処理の一報を入れさせた。

 

 

「キミの選択肢は2つ」

 

 

聞き覚えがある選択肢を聴いて結婚の悪魔は確信した。

 

 

「悪魔として私に殺されるか、人として私に飼われるか?」

「……は?」

 

 

まるで金髪の青年の窮地を救うような発言に思わず結婚の悪魔は声を漏らす。

 

 

「飼うならちゃんと餌を与えるよ」

 

 

色々ツッコミを入れたくなったが、あえて結婚の悪魔は言葉を発さない。

どうせこの流れだと…あの少年は魅力的な提案を選択してマキマの飼い犬になるのだから。

問題なのは、こいつの世話と監視までしろと言われるのはきつい。

ただでさえ契約者のフォローをしないといけないのに余計な仕事を増やされたくない。

結婚の悪魔はその想いで頭が一杯だった。

 

 

「最高じゃあ…ないっすか…」

 

 

マキマによって惑わされた新たな被害者の声を聴いて結婚の悪魔はこっそりと溜息をつく。

この魔性の女は、どれだけ人や魔人をたぶらかすのか。

同じく男女を惑わす結婚の悪魔すらドン引きする彼女の行動は未だに理解できない。

 

 

「それじゃあ車に戻りましょう。あなたも手伝って」

「は、はい!」

 

 

同僚の1人がマキマと一緒に半裸男を廃工場前に駐車してある公用車に運ぶ。

 

 

「この子は後部座席に座らせます。あなたは助手席に座ってください」

 

 

いざ、助手席のドアに手をかけた結婚の悪魔はマキマの発言を聴いて振り返った。

まるで自分を置いて行くような発言に小言を言ってやろうかと思ったが…。

 

 

「君はトランクで寝ていてね」

「現場検証の為に残ってもよろしいでしょうか?」

「ダメ」

 

 

暗にお荷物扱いされた結婚の悪魔は適当な建前で同行を拒否したが、あっさり断られた。

僅かな視線の動きによる「確保した人物を監視しろ」という命令を拒絶できないようだ。

だったらトランクに入れるなよ…と反論したいができない。

 

 

(どうぞ、ごゆっくりお二人で楽しんでください)

 

 

ただし、確保された金髪君はマキマに恋をしているようだ。

結婚の悪魔としては男女の交流を邪魔したくないのもあり、素直にトランクに入った。

そして運転手にドアを閉めてもらい男女の交流とやらを愉しむ事にした。

 

 

「なんかすみません、俺んのせいでお仲間さんが変なところで寝るなんて…」

「気にしなくて良いよ。彼はそういう特殊な仕事をしてるから」

 

 

「お前のせいでな!!」と反論したい結婚の悪魔だが、必死に我慢する。

マキマの本性と実力を知れば絶対に触れたくないNo.1の女でも!

なんかゾンビの悪魔のせいで酷い目に遭った少年にとっては救世主なのだ。

まあ、どんな感じにああなったか知らんけど!

 

 

「あっ……俺んのハラが鳴っちまったっす」

 

 

大きな腹の音が車内に鳴り響いた。

どうやら彼は何も喰っていないらしい。

 

 

「そうね、私たちも朝まだだったね。パーキングエリアで適当に食べよ」

 

 

廃工場に着く前に結婚の悪魔から徴収した携行食を喰った奴が言う事ではない。

ただし、一緒に食べるという点では化け物扱いされかねない彼の心情を和らげる。

そう考えればマキマの放った嘘は、優しい嘘である。

 

 

「すみません、俺カネねぇんですけど」

「好きなのいいなよ。私、お金出すから」

「え!?いいんですか!?マジで!?」

「あとでこっちの経費で落とすから気にしないで」

 

 

公務員が民間人を保護した場合、相応の対応をしなければならない。

例えば、交番で保護された迷子にお菓子を買って献上するとする。

その時は警官の自腹であるが、しっかり関連書類を出せば経費で落ちるのだ。

知らんけど。

 

 

「それと半裸のままだと目立つから私のを着なさい」

 

 

ついでにマキマが羽織っていた黒色のジャケットを半裸の少年に渡したようだ。

おそらく青春を迎えた彼の第一感想は、『良い匂いがする』とかそんなもんだろう。

婚活女子に化けていた結婚の悪魔と交際した男性が残り香を楽しんでいたのを思い出す。

 

 

(いい奴だったよ)

 

 

ついでに余計な事まで思い出した。

いざ、結婚という時にワニの悪魔に胴体を千切られて交際相手が無念の死を迎えたのだ。

さすがにあの時は激怒して全身の皮を剥ぎ取って脳を弄り回す拷問をした挙句に捕食した。

 

 

(命乞いをするアイツの姿、傑作だったなー)

 

 

踊り食いする時のあいつの表情は傑作だったと結婚の悪魔はニヤニヤと笑ってしまう。

なんなら役所の終業時間後に婚姻届が受理されないと死ぬと宣告するより楽しかった。

 

 

「パーキングエリアに到着しました」

「休憩時間は50分、上にも報告しておいて」

「了解しました」

 

 

どうやら高速道路のパーキングエリアに駐車したようだ。

だからといってやることは変わらない。

マキマの命令の通り、金髪の子の監視を続行するだけである。

ところが、またしても厄介事があると気付いてしまった。

 

 

(また悪魔かよ…)

 

 

最近、悪魔との遭遇率が上がっている気がする。

地獄で大量に悪魔が死ぬ事態が起きているのかと思うほどである。

 

 

「何が食べたい?」

「行ってから考えてもいいっすか?」

 

 

それよりマキマが気付かないフリをしているのに違和感がある。

まるで「どうぞ襲ってください」といわんばかりに放置している。

それどころか食事について無駄に話題を振っている有様だ。

 

 

(絶対に裏があるな…)

 

 

金髪の子に夢中らしいが、それで見逃す程度の女ならすぐにでも脱走している。

少なくとも彼女から逃げられないと自覚しているからこそ素直に従っているのだ。

 

 

(……格下過ぎて全然気づいてないのか…?)

 

 

幼い女の子1人を拉致する事すら時間が掛かるような悪魔である。

近場に強力な悪魔が出現したと感知すれば、愚かな行動を止めるはずだ。

 

 

(格下が…調子に乗るなよ…)

 

 

契約者を5千人以上殺して現在、1万人以上の契約者を抱えている結婚の悪魔は威圧する。

こうすれば、上級悪魔の縄張りと認識した下級悪魔が尻尾を巻いて逃げるはずだった。

 

 

(ダメだ、近くに悪魔が居る事すら気付かないアホ過ぎて威圧できねぇ…)

 

 

しかし、現実は実力差すら認識できないほど野良悪魔なのでマキマが手を出さないとすると…。

 

 

(さては、こいつに野良悪魔の討伐をさせる気か!)

 

 

マキマの飼い犬になる事を決意したならば、悪魔狩りをしなければならない。

しかし、実際に経験豊富なデビルハンターでもあっさり心が折られる時がある。

例えば、さきほど攫われた少女を人質にされれば、返り討ちに遭う可能性があるのだ。

 

 

(やっぱ鬼だろ…)

 

 

その程度で死ぬのであれば、その程度の人生だと評価するしかない。

成人であればそれでもいいが、明らかに未成年の彼にやらせる事じゃない。

 

 

「た、助けてくれー!!」

 

 

せめて提言しようとするが、もう手遅れだった。

娘を攫われた父親が頭から血を流しながら屋台に助けを求めに来たのだ。

これで金髪の少年は、悪魔討伐と少女救出を同時にこなさなければならない。

 

 

「公安のデビルハンターです。何があったんですか?」

 

 

何が起こっているか分かってるくせに手帳を見せるマキマは負傷した男性に質問する。

結婚の悪魔視点では、白々しい行動過ぎて反吐が出るほどだ。

 

 

「悪魔が!!俺の!俺の娘を攫って!!娘を連れて森の方に!!」

「それはいつ頃、発生しましたか?」

「今さっきだ!!お願いだ!!助けてくれ!!」

 

 

素人であればすぐには対処はできないが、この場に居るのは公安の職員である。

 

 

「ご安心ください。必ずお嬢さんを助けます」

「まずは二次被害を出さない為にも一度、屋内に避難しましょう」

 

 

同僚たちがパニックに陥っている父親を優しく宥める。

ついでに返答内容も察したので結婚の悪魔も会話に参加する事にした。

 

 

「本当に大丈夫なのか!?」

「おそらくその悪魔は、娘さんを助けようとする救助隊をおびき寄せる餌にしたのでしょう」

「どういう事だ!?」

「この世に誕生したばかりの悪魔だという事です。早急に対処すれば生存率は8割を越えます」

 

 

とりあえず同僚の支援をする為に結婚の悪魔も根拠に基づいて娘が無事だと断言する。

そしてマキマからのジェスチャーを受けたので同僚2名を彼女の元に向かわせた。

 

 

「なあ、あの子は死んだ家内の忘れ形見なんだよ!!」

「お気持ちは痛いほど分かります。ですが、一番大切なのは娘さんのメンタルケアです」

「…メンタルケア?」

「はい、悪魔に襲われた経験から娘さんはきっと精神的なストレスで体調を崩されます」

 

 

ここで大事なのは、生還するかしないかは別として今後の事を考えさせる事。

民間のデビルハンターであれば、悪魔を討伐して仕事を終えるが公安は違う。

国民の税金で運営されている以上、国民の為に努力する必要があるのだ。

本音を言えば、「税金泥棒」と罵倒されたくないからしぶしぶやっているだけだが…。

 

 

「どうすればいい!?」

「根気強く娘さんと一緒に寄り添う事を忘れないでください。それと絶対に諦めてはいけません。気持ちを強く持つ事が恐怖を糧に動き回る悪魔を追い払う手段の1つですので…」

 

 

悪魔に娘を攫われて絶望している男性を勇気づけているのが悪魔だという事実。

まさか目の前に居る公安の職員が悪魔だと思える方が可笑しいが、それでも思うところはある。

 

 

「返事は?」

「はい!」

 

 

どうやら、少年はマキマから事実を突きつけられたようだ。

まるで今まで餌をくれた主人によって段ボールに入れて捨てられる子犬の表情をしていた。

飼い主に急かされて行動していたのにあんまりの扱いである。

腹を括ったのか、あっという間に悪魔が逃げた森の方角に走り去った。

 

 

「後はよろしくね」

 

 

マキマの一言で2名の職員は、駐車場にいる市民に避難誘導を開始した。

もうじき建物の出入り口は封鎖されてパーキングエリアの出入り口も封鎖されるだろう。

またしても余計な仕事が増えるのは間違いない。

 

 

「ねえ、お願いがあるの」

 

 

なにより碌なお願いじゃないと分かっているのでマキマの呼びかけに結婚の悪魔は脱力感に陥る。

 

 

「あの子が【使えない犬】だったら悪魔もろとも始末して欲しいの」

「ひっでぇ…」

 

 

予想通り、マキマ流の試練が始まった。

優しくするのは、絶望の底に突き落とす為に全力で上げているのかと思うほどである。

 

 

「それは自分の判断でよろしいでしょうか?」

「できるだけ苦しめないやり方を希望するね」

 

 

要するに圧倒的な力で痛覚すら感じさせずに少年を即死させろという事だ。

汚れ仕事もこなす結婚の悪魔だが、少年の心境を考えるとさすがに可哀そうに思える。

だからといって同情する事はしないのでうどんを啜るマキマを無視して森へと向かった。

 

 

(おいおい…)

 

 

悪魔や少年から見えない位置で監視している結婚の悪魔はツッコミを入れたくなった。

 

 

「俺も悪魔とダチだったから分かるんだ…気のいい悪魔もいるって…」

 

 

少年は見事に悪魔に騙された。

少女が両手を広げて弱そうな悪魔を庇った挙句、この子は自分を助けた恩人だと告げた。

しかも、父親から家庭内暴力を受けていて目の前に居る悪魔は何度もその光景を見かけたようだ。

 

 

(だったらここに居る訳ねぇだろ!!)

 

 

忘れてはならないのは、ここは高速道路のパーキングエリアだという事だ。

つまり、少女に庇われる程度の雑魚悪魔がここに来れる訳がない。

 

 

(違和感に気付け!!)

 

 

それに父親から子供を守ったなら返り血を浴びてなければ可笑しい話である。

あれほどの出血であれば、少女か悪魔に付着しているのに外観からは何も見えない。

真っ当な人間ほど血を隠せないので…最低でも意図的に返り血を隠した存在が居るという事だ。

 

 

(なんで遊んでいる事に違和感がないんだ!?ピュアか!?デビルハンターなのに純粋なのか!?)

 

 

なにより問題なのは、父親から少女を連れて逃げたのに暢気に森の中で遊んでいる事実だ。

徒歩10分程度で終わる逃避劇なんかあったら逆に見てみたい。

特に自分が討伐されるリスクを選んで友達の父親に攻撃を行なう悪魔が居たら尚更である。

 

 

(うーん、この程度で死ぬならゾンビの悪魔に殺されているよな…?)

 

 

一見するとすぐには気付けないが、こういった判断ができない者から死んでいく。

それが“デビルハンター”という職業である。

だが、これに引っ掛かる程度の奴がゾンビの悪魔に勝てるとは思えない。

 

 

「でもさ、この悪魔を見逃したら殺されちゃうの。だから逃げねぇ……?」

「あはっ……いいの?」

 

 

見てください命懸けで父親を襲った悪魔が少女に庇われている状態を…。

それを見てまんまと騙されている少年が少女と握手している光景を…。

さきほどから彼女は涙を流しているのにそれを拭かない違和感を…。

 

 

「はははは!はい!オレの勝ち確~!もうお前終わった!」

「な、なんじゃこりゃああああああ!?」

 

 

肉体を同化された以上、悪魔の発言通り、少年に成す術はない。

事情を知らなければ、こうなった瞬間、少年もろとも悪魔を殺害していた。

ただし、あの規模のゾンビの群れを掃討する実力者がこれで終わると思えない。

ここから何が起こるのか、結婚の悪魔は注意深く様子を伺った。

 

 

「うぎゃあああ!」

「触れている筋肉は自由自在に操れるってわけ!オレは筋肉の悪魔だからよ~!」

 

 

両腕をへし折って悲鳴をあげる少年の姿を見て嗤う筋肉の悪魔の行動は素直に感心する。

少女の声帯と発音に使う呼吸も自由自在に動かせるとは恐れ入った。

こういう想像力も大事だと結婚の悪魔は再認識する。

 

 

(ん?)

 

 

両腕が動かない少年は頭を下げて何かを口で咥えた。

最後の抵抗なのだろうが、なんであそこにアレがあるか分からない。

 

 

(スターターロープ?なんであんなところに生えているんだ…?)

 

 

スターターロープを咥えた少年は勢いよく引っ張ると爆音と共に両腕が変化した。

 

 

「痛たたたたたたたたたた!!」

 

 

筋肉の悪魔は、チェンソーに変化した両腕によってあっさりと肉体を切り裂かれた。

確かに筋肉でないならば、あの悪魔は操れないので効果的と言える。

ただ、それよりも肉体の変化のきっかけに結婚の悪魔は着目した。

 

 

(腕が復活した?そんな事あり得るのか?)

 

 

肉体の再生能力があり得ないほどある悪魔以外は欠損部位は元通りにならないはずである。

なのにスターターロープを引っ張っただけで両腕が元に戻るどころか悪魔の能力が付与された。

 

 

(悪魔でも魔人でもない。なるほど、マキマが目をつける事はある…)

 

 

人間でありながら自分の意志で悪魔の力を使えるのは正常ではある。

だが、自分の肉体を悪魔化にしてその力を行使してもなお元に戻るのは珍しい。

 

 

「よかった!テメェみたいな屑野郎なら思う存分殺しても心が痛まねぇからなああ!!」

「うぎゃああああああああああああああああああああああああああ!!?」

 

 

なにより少年の心臓は悪魔であり、その悪魔は彼の中で生き続けていると分かった。

なにかしらの原因で生きたまま悪魔が人間と同化して共に生きているのだ。

人間の死体を支配して生き延びようとするのでは無く人間と同化して生き続けるという選択肢。

まさに逆転の発想。

 

 

(【使える犬】と報告しねぇとな…)

 

 

とりあえず、少年がこれ以上の失態をしないと分かったので結婚の悪魔はその場を立ち去った。

そして出店に戻ると暢気にフランクフルトを食べているマキマの姿が…。

 

 

「どうだった?」

「公安の犬としては問題ありません」

「まるで他に欠点があるように言うね?」

 

 

どうせ見抜いているのに報告しないといけないという屈辱。

それでも自分に課せられた使命を果たす為に発言を続ける。

 

 

「どうやら少年の胸部に生えているスターターロープがチェンソーの力を行使する鍵のようです。あれを引っ張る事で彼の中の悪魔が覚醒し、契約している悪魔の力を行使するようです」

「分かった、詳細の情報をA4用紙5枚にまとめて明日の定時までに提出してね」

 

 

結局、余計な仕事を増やされてしまった。

その代わり、マキマはこれから少年を優しく出迎えて愛情深く彼を褒めるのであろう。

それを感じ取った結婚の悪魔は歯ぎしりしながら同僚に悪魔討伐の報を知らせに行った。

 

 

「ワン……」

 

 

救急車がパーキングエリアの駐車場に駆けつけた頃に少年は少女を背負って戻って来た。

そして救急隊員に担架で乗せられた少女に向かって手を振り続ける。

 

 

「あ…」

 

 

少女から自分の姿が見えなくなった瞬間、少年は前屈みに倒れ込む。

そうはさせないといわんばかりにマキマが彼を出迎えて抱擁する。

予想通りの行動に結婚の悪魔は表情を崩さないように必死に堪えていた。

 

 

(……幸せならいいか)

 

 

年上の上司となる女性の胸部に頭を突っ込んだ少年は嬉しそうである。

声は出してないが「すげぇ…良い匂い!」といわんばかりに表情が崩れている。

性欲は結婚に繋がると理解している結婚の悪魔はその光景を見て親指を立てる。

 

 

「キミ、大丈夫?」

「身体から生えたチェンソーで自分の身体も切れちゃって血が無くなったみたいで…」

「うーん、詳しく聴く必要があるけど…先にうどんを食べる?」

「食べます!食べます!」

 

 

見てください。

マキマに裏切られたと思った少年が悪魔と交戦した事であっさりと彼女を信じている状況を…。

まるでマキマがこうなるように悪魔を仕向けたみたいで気持ち悪い。

 

 

「でもフラフラだね。1人で食べれる?」

 

 

そうなるように仕向けた癖に人が悪い。

そもそもこいつは人じゃないが。

だが、少年の立場になって考えると、どんな返答をするのかすぐに分かる。

 

 

「食べれ…食べれません!」

 

 

見事にマキマのおっぱいと香りと優しさに少年は陥落しました。あーあー。

とりあえず女に変身して女性の危険性をたっぷりと教えたい結婚の悪魔だがそれどころじゃない。

 

 

「ということだから今回の件の報告よろしくね」

「…はい」

 

 

これからマキマは、冷めたうどんとフランクフルトを少年に喰わせる必要がある。

実際に交戦した少年は、血を流し過ぎたせいで報告書を書ける状態じゃない。

必然的に報告書と始末書を押し付けられた結婚の悪魔は、すぐさま後ろを振り返る。

 

 

「はい、あーん!」

「あーん!」

 

 

マキマの実力を理解しているからこそ…甘えている少年を見ると寒気がするのだ。

あの女の危険性を理解できずに純粋に惚れているという光景が悪夢に見える。

だからマキマにうどんを食べさせてもらう少年の姿を見ない為に後ろを振り向いたのだ。

 

 

「あの…あなたのお名前は…?」

「マキマ」

 

 

でも、何故か少年はあの女の危険性を知っても彼女に惚れ続ける気がする。

 

 

「マ、マキマさん。す、すっ…好きな男のタイプってあります?」

「うーん……」

 

 

結婚を司るからこそ分かるのだ。

ああ、こいつってこの子が【運命の人】だと…。

ちなみに運命の人は1人じゃないのが厄介なところである。

そして相思相愛でもないパターンがあるのもややこしい。

 

 

「デンジ君みたいな人」

「デンジ君?…俺じゃん」

 

 

それにしても恋してない癖によくもまあ、堂々と嘘を言えるものだ。

結婚の悪魔も興味は無くても、興味があるフリをして嘘をつく事はある。

だが、マキマほど本気で興味がないのに興味があるフリなどできない。

 

 

「う、嬉しいな…」

 

 

“愛”の反対は“無関心”というが本当である。

実際、結婚の悪魔は少年の名前に興味が無くてここでようやく名を知った。

マキマに自分が好きなタイプと呼ばれて喜ぶデンジ君には悪いが今でも興味が無い。

 

 

(なんだろう?この違和感…)

 

 

だが、ここで結婚を司る悪魔は違和感を覚えた。

どこかでマキマが本気でデンジを愛しているような表現を見た気がするのだ。

口だけじゃなくて本当に彼を愛していた瞬間を目撃していたという違和感。

 

 

(まあ、いいや)

 

 

とにかく仕事を振られたので!文句を言いたいけど仕事なので!

余計な事を考えないようにした。

そして上司と新入りの尻拭いの為に余計に働く事となったのだ。

これからも続くどころか、デンジのせいで酷い目に遭い続けると知らずに…。

 

 

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