デンレゼが足掻く度に不幸になるケッコンの悪魔さん 作:Nera上等兵
夜間の学校デートは不思議が一杯だ。
階段の数が登った時と降った時で合わなかったり、音楽室にある額縁に違和感があったり…。
そもそもここは高校の校舎ではなく中学校の校舎だったりするのだが、些細な問題である。
「うん、水が綺麗で良かった。これなら泳げるよ」
学校によっては6月下旬までプールが清掃されていない事もあるが、この学校は大丈夫の様だ。
手探りでプールの水面を調べていたレゼは、後方に居るデンジに振り向いた。
「俺、あんま泳げないんだよね」
「じゃあ、泳ぎ方を教えてあげるよ」
「……え?」
デンジは泳いだ経験自体はある。
主に理不尽な借金取りから逃走する時くらいだったが…。
そんな経緯を知らないレゼは、迷いもせずにポロシャツと短パンを脱いでしまった。
月光と民家が放つ光に映る下着姿は、童貞であるデンジにとって刺激が強すぎた。
「脱ぎなよ。服着てると沈んで泳げなくなるよ?」
「エ、エッチ過ぎじゃないすか!?」
女の子の下着姿などエッチな本や二次元のエロ画像しか見たことが無い。
マキマさんと違ってレゼは貧乳であり、おしりもそこまで大きくはない。
だが、初めて女性の下着を目撃したデンジには効果が抜群だ!
(マジでやるの!?)
男デンジ、女性の下着姿はエッチする時のマキマさんで初めて見ると思っていた。
ところが、あっさりとレゼの下着姿を見たデンジはすぐに視線を逸らした。
このままレゼを見続けると、今度こそマキマさんに面目が立たない。
「泳ぎたくなりたいんじゃないの?」
「な、なりたいです…」
必死に視線を逸らすデンジに質問をするレゼに彼は抵抗すらできない。
まるで蜘蛛の巣に引っ掛かった蝶のように足掻く事すらできなかった。
「あ」
そしてデンジはついに見てしまった。
(乳首だ!初めて見た!下!下!モザイクじゃない!うわああああ!マ〇コは本当にあったんだ!)
ついにレゼは下着すら脱ぎ捨てた。
さすがに暗いのでそこまではっきりと裸体は見えないが…デンジは女の子の全裸を目撃する。
ラピ〇タを発見したパ〇ーの名台詞がとんだエッチな心の叫びになってしまった。
「どうせ、暗くて見えないよ。デンジ君も裸になっちゃお」
堂々と裸体を見せつけるレゼは、デンジも裸体になるように呼びかける。
(落ち着けデンジ、これはコウメイの罠!ここで脱いだらマキマさんを裏切っちまう!!)
だが、しかし!このまま言われた通りにすれば、今度こそマキマさんを裏切る。
視界の前に両手を突き出して必死にレゼの裸体を見ないようにするデンジだが…。
「ホラホラ、そのままだとカメラも壊れちゃうよ」
しかも、デンジには、首からぶら下がっているカメラがある。
その気になればレゼの裸体も撮影が可能だった。
さすがにそれをする気はなかったが、デンジは運命の決断をする羽目になった。
(マキマさんか、本能んに従うか!うおおおおおおおおおおお!?)
デンジの脳内には、マキマさんとレゼの2人が交互に映る。
欲望に対して必死に堪えようとするデンジだったが…。
(畜生)
「脱いだらサービスしてあげる」の一言であっさりとデンジは全裸になった。
胸部から垂れるスターターロープがデンジがただの人間ではないと無言で物語っている。
「な、なにをやってんだこいつら…」
不審な動きをしたレゼを狙撃しようとした結婚の悪魔もびっくりである。
せっかく無人の学校で獲物をおびき寄せたのにレゼは全裸になった。
何故かデンジも全裸になった事実が悪魔の判断と思考を狂わせる。
「冷たいよ!ホラホラ早く来なよ。カワイイ女の子も待ってるよー」
先にプールで泳ぎ始めたレゼは手を振ってデンジを招いていた。
自分の命を狙っている刺客など認識していない。
(ダメだ、デンジ!行ったら俺の心まで行っちまう…)
頭もチンチンも混乱しており、現実離れした光景にデンジは必死に祈る。
最後の理性を解放すれば、どうなるか分かり切った事だ。
「きゃー溺れちゃう。たすけてー」
棒読みで助けを呼ぶレゼの呼びかけにデンジは耐える。
外気に触れたチンチンもビンビンしてる!
ブクブクとレゼは沈んで行ったが、底に足が着いてわざと口から上だけ水面から出す。
そして未だにプールに入ろうとしないデンジを見つめた。
「ははん?もしかして泳げないからプールが怖いんだな~?」
ついにレゼは挑発をしてきた。
彼女から叩きつけられた挑戦状、挑発に乗るのも乗らないのもデンジ次第である。
「ぐっ!」
男デンジ、ついに決断の時だ!
果たして彼が下した決断とは…!
「ウらあ!」
ついに全裸デンジ、高く跳んでレゼの元に飛び込みました。
「урааа」という掛け声にレゼにとっても効果が抜群のようであった。
デンジの股間をじっくり眺めるレゼの表情は恍惚しており、マジでエロ女に見えた。
「なあ、デンジを狙撃して良いか?」
「ダメ」
スナイパーライフルを構えた結婚の悪魔は、サメの魔人にデンジへの発砲許可を求めた。
当然の如く狙撃を却下されたが、既にレゼの行動を監視していた悪魔たちにやる気はない。
無人の学校のプールで水遊びをする全裸の男女を観察して何が楽しいというのか。
「というか、チェンソー様がレゼに奪われてるじゃん。ビーム、眷族としていいのかこれで?」
「マジでシャーク!」
「ショックな?」
「でも幸せならOKです!」
「眷族の鏡だよあんたは……自分にはとても真似できないな。つーかカラス邪魔…!」
結婚の悪魔は、チェンソーマンの眷属ではないのでこの状況についてはムカつく以外にない。
だが、眷族視点から見れば、レゼとかいうぽっと出の女が、主君の愛を奪っているのは事実だ。
なので結婚の悪魔は、熱心なチェンソーマンの眷属であるビームに現状を質問した。
彼なりにショックを受けているようだが、左手の親指を突き立てる姿に結婚の悪魔も感心する。
「セラフィムさんはどう……あのー噛まないでくれません?」
ついでにセラフィムに質問すると結婚の悪魔の右手を無言で噛みついた。
どうやら失礼な質問だったらしい。
さっきからカラスが鬱陶しいし、長居しない方がいいようだ。
「分かりましたよ、撤収します」
さすがにチェンソーマンの心臓を狙う刺客が全裸になってデンジと一緒にプールを泳がない。
ハニートラップだと警戒していたセラフィムはあっさりと結婚の悪魔と敵対した。
そのせいで結婚の悪魔も引き下がるしかなく、後は彼らが通報された時の対応をするくらいだ。
「さて、レゼの抹殺計画は無くなったわけだが…明日からビームはどうする気だ?」
「チェンソー様を見守る!」
「そうか」
とりあえず、噛みついた右手から体内に侵入したセラフィムに我慢しつつ結婚の悪魔は質問した。
想定された返答が来たので悪魔も手を打つ。
「なら、自分も一緒に参加していいか?」
「チェンソー様の邪魔をしないならいいよ」
「どうも」
久しぶりにセラフィムとバディを組んだが、やっぱり狂犬過ぎて嫌だった。
同じく体内に潜む蜘蛛の悪魔であるプリンシが大人しいと感じられるほどの暴れん坊だ。
おかげさまで人間体から無駄に出血し、行動しにくいのでさっさとセラフィムと別れたい。
それが結婚の悪魔の本音であった。
「にしても嫌な天気だな」
「なんで?」
「結婚に悪天候は必要か?」
「要らない」
「そうだろ」
さっきから頭をつつくカラスを追い払った結婚の悪魔は監視部隊を撤退させる。
暗雲に覆われた夜空を見てため息をつきながら公舎の屋上から脱出した。
「あはははは!つめたーい!」
「どうだ!まいったか!」
その事実を知らないデンジとレゼは簡単な水遊びをしている。
お互いが全裸となったというのに子供に戻った気分ではしゃいでいた。
「ねえ」
「ん?」
少しだけ盛り上がった後にレゼから声をかけられたデンジは彼女と向き合う。
「教えてあげる。デンジ君の知らない事、できない事、私が全部教えてあげる!」
そこには水面に浮かぶレゼが両手を差し伸べてデンジを誘っていた。
もし、映画なら激しく盛り上がるところだが、ここは現実世界である。
場を盛り上げるBGMは流れないし、この光景を見ている観客も居ない。
「おねがいしまーす」
差し出された手を重ねて指を交えたデンジはレゼから泳ぎ方を教わった。
とっても華麗に泳ぐ姿からエロよりも尊敬が勝った。
まるで人魚姫だと彼は思ったが、彼女の待遇から考えると間違ってはいない。
「ホラ、息継ぎ。息継ぎ!」
「プハッ!」
「そうそう上手、上手!」
クロール、平泳ぎ、背泳ぎ、短時間であったが、レゼのおかげですぐにデンジは上達した。
もはやエロさなんか彼らには関係ない。
たった一晩の夜間学校デートを楽しんでいる思春期を迎えた男女でしかない。
この水泳は、低気圧によってもたらされた大雨が降るまで続く事となった。
「止みませんね……」
校舎の窓に打ち付ける大雨は全ての証拠を洗い流すようだ。
ちなみに荒井ヒロカズは、洗濯物を取り込み忘れて翌朝に涙目になった。
クッソどうでもいいが、それほどこの大雨は唐突だった。
(これもデートか)
デンジはマキマさんとは違うデートを経験した。
マキマさんとレゼとのデートは単純には比較はできない。
だが、一段と大人の階段を登ったと自覚する彼は無言で窓を見つめていた。
「デンジ君」
「なんかあったのか?」
「田舎のネズミと都会のネズミ、どっちがいい?」
「なんだそれ?」
いきなりレゼから2種類のネズミの話をされてデンジは困惑した。
同時期に別の場所で雨宿りをしていた天使の悪魔も早川アキに同じ質問を繰り出した。
「イソップ童話の1つだよ」
その場に居ないはずのデンジの質問に答える様に天使の悪魔は発言を続ける。
「田舎のネズミは安全に暮らせるけど、街中にある美味しい食べ物を絶対に得る事はできない…。一方で都会のネズミは美味しい物が食べれるけど人や猫に殺される危険が高いんだ」
「懐かしいな、俺も親から教わった童話だ。だけど急にどうした?」
早川アキも知っている童話であった。
住めば都というように人や動物は、自分に合った住処を選ぶ。
誰かに強要されたり、自分の身にあった生活ができなければ破滅するという意味合いもあった。
だが、急に天使の悪魔が童話を例にしたのだから、アキもびっくりした。
「僕は、田舎のネズミを選んだんだ。…だけどマキマに捕まってさ、都会に連れて来られたんだ。僕の心はいつも田舎にあるのさ、都会のキミに付き合って危険な目はゴメンだね」
「……あのなぁ」
天使の悪魔曰く、平和が一番なので死地に行こうとする早川アキと一緒に居たくない。
だったら係長と一緒に行けと暗に告げていたのだ。
それに対して早川アキも口を開く。
「俺だって田舎のネズミだぞ?都会のネズミと一緒にするな」
「意外だね、銃の悪魔に復讐する為にここにいるんじゃないの?」
「確かにそうだ」
早川アキは銃の悪魔を討伐する為なら命すら捧げる。
それは前評判通りであった。
「でもそれは、俺みたいな被害者を出さない為なんだ」
「銃の悪魔を殺しても地獄に還るだけだよ?本当の意味の死はあり得ない」
「だから銃の悪魔を倒すんだ。二度と復活しないように封印してやる」
早川アキには夢がある。
二度と銃の悪魔によって犠牲になる人が出ないように銃の悪魔を永遠に封印する事である。
「それは大層な夢だね。…で?僕と関係あるの?」
「俺は無理を強要しない。でも、俺の夢に協力してくれるならお前にも手を貸す」
「人間くん、中々面白い事言うね」
天使の悪魔としては、目の前の人間の発言が気になった。
悪魔の願いが絶対に叶えられないと知っているのにどうする気なのかと…。
「俺は田舎のネズミに都会を強要しない田舎のネズミさ」
「なるほど、僕の夢に近い存在だね。田舎過ぎても困るから」
ここでようやく天使の悪魔は、目の前の相方の考えを少しだけ理解した…気がした。
「俺ぁ、都会のネズミがいいな」
同時刻、レゼから簡潔な田舎のネズミと都会のネズミの童話を聴かされたデンジは返答した。
「え~?田舎のネズミの方がいいよ~!平和が一番ですよ」
レゼとしては平凡な生活に憧れているようだ。
デンジからすれば、普通の一般人ならそうなると納得はしている。
公安のデビルハンターを続ける以上、自分の方が可笑しいと自覚はしていた。
「都会の方がウマいもんあるし、楽しそうじゃん」
でも、安全が保障されるほど平和な田舎には映画館はあるだろうか?
カフェは?ラーメン屋は?焼肉屋さんは?酒場は?
レゼと出会えたのも都会だった。
普通の生活を送りたいデンジであるが、少なくとも刺激が無いのは御免だった。
「キミは食えて楽しけりゃいいのか?」
「ああ」
窓を見つめるレゼは、いつもと違って砕けた口調でデンジに質問した。
その違和感にデンジは気付く事はなかったが、即答はできた。
デンジからの返事を聞いたレゼは窓をから視線を動かさなかったが笑みを作った。
「じゃあ明日さ。近くで祭りがあるんだけど、一緒に行かない?」
本来の予定はこれで終わりだった。
だが、純粋なデンジに感化されたレゼは更なるデートを提案した。
「きっと楽しいし、美味しいものがたくさんあるよ」
「…仕事が終わってからならいーよ」
レゼの提案をデンジが断れるわけがなかった。
デンジの顔は、無表情に見えて必死に何かを我慢している状況だった。
「いえーい!やったー!約束ね!」
これでもう一度、レゼとデンジはデートができる。
まさに青春、デンジの人生で絶頂期とも言える。
「ちょっとおトイレに行ってきま~す」
レゼが教室から出て行ったのを確認したデンジは窓に向かって呟く。
「超糞かわいい……」
今晩だけで様々な経験をしたのでデンジの頭はオーバーフローした。
だからといってマイナスになる事は無く、ひたすらデートの余韻を味わっていた。
(ゴミみたいな俺んに似合わないくらいに…)
ただし、デンジは内心でレゼと恋が成立するとは思ってなかった。
自分は武器人間、レゼは一般人。
その違いは天と地くらい差があった。
(でも、いいよな?幸せになってもいいよな?)
全てはマキマさんに出会ってから人生が大きく変わった。
だからマキマさんは恩人であり、絶対に裏切れない存在だった。
(どうしよう……目ぇをつむると……2人になっちまったよー!?)
マキマさんとデートしてからマキマさんしか考えられなかった。
だが、レゼとのデートのおかげで彼女も気になってしまう。
まさに罪深い女たち、デンジの脳内HDD(容量100MB)には入りきらない情報量だ。
「なあ、ポチタ。好きな人が2人もできちまったよ。誰だと思う…?」
ついに心の中で留めておけない気持ちをデンジは言葉に出して吐き出す。
思い浮かべるのは、エッチな本で見た下着姿のヒロインたちだ。
ピンク色で統一されたガーターストッキングにフリルの下着を履いている姿を思い浮かべる。
「天使は違うぞ。アイツ男だって。なんか勿体ない気がするが…」
天使の悪魔は小柄だし、顔も整っているから一見すると美少女に見える。
だが、男だ。
それだけでデンジからすれば論外だ。
男は男、生物が持つ性器で線引きをするのは大切である。
「小さい女も顔は地味に整っているが、あいつは俺を殺そうとしたからな…」
東山コベニという苗字も名前も思い出せないデンジは、彼女を好きになれない。
顔だけはいいが、性格はクソだし、そもそも接点がある時は碌でもない時だ。
よって彼女もデンジの好きな人になり得ない。
「因幡副隊長もダメだ。アイツ、俺にガソリンを飲ませた挙句、油をかけたのを謝ってねぇ」
緑髪のサイドテールが印象的な因幡ナオミもデンジは好きになれなかった。
確かにスカートの中のパンツをじっくり凝視したとはいえ、ガソリンを飲ませる女はきつい。
そして未だに謝罪がないのはどうかと思ってる。
「パワーは今でもたまに俺を殺そうとするし、ナルシストで自己中で虚言癖もちの差別主義だし…野菜は食わねぇわ、うんこはたまに流さねぇし、風呂に入らねぇ時があるんから臭い時があるし…人の血をごっそり啜って来るわ。最悪の奴だ…でも面と体は良いんだよなー」
パワーに至ってはバディなのもあるが、詳細な情報も知っているので評価がボロクソになる。
女の子はみんな良い匂いがするという幻想を見事に彼女はぶち壊したのだ。
まさに“
「ある意味ニャーコとお似合いだ」
猫を擬人化すればパワーになるかもしれない。
「いや、ニャーコに失礼か」
そう思ったデンジだが、ニャーコに失礼だと感じた。
これで残ったヒロインは2人である。
「マキマさん」
ボンキュッボンのナイスバディであり、ミステリアスな女上司であるマキマさん。
「レゼ」
スレンダーボディであるが、人懐っこくて自分をいつも見てくれるレゼ。
「この2人が好きになっちまった…」
マキマさんとレゼが布団の上に乗っかってエロいポーズをしている姿を思い浮かべる。
両方頂くという発想は、デンジには無い。
「え、選べねぇ……」
一般人じゃ絶対に仲良くなれないマキマさんと一般人のレゼ。
どちらかを選べと言われても選べないし、だからといって別れたくない。
今の生活をずっと引き摺りたいダメ男にデンジは成り下がった。
「……幸せは長く続かねぇか」
だが、金髪のおっさんは「幸せは長続きしない」と発言していた。
どちらかが必ず破綻するという意味かもしれないし、自分が生き返らなくなるかもしれない。
なにせ、デンジが生き返れるのはポチタの契約のおかげである。
ずっと生き続ける事ができるという保証はどこにもないのだ。
「ポチタ、俺は本当にお前に夢を見せ続けてるのか?」
ゾンビにバラバラに殺されたデンジはそのまま死体になっているはずだった。
ポチタが「心臓をやる代わりにデンジの夢を見せてくれ」と契約したからこうなっただけ。
もしも、ポチタが満足すれば、デンジは満足してなくても二度と現世に戻って来れなくなる。
「……そうだよな。まだ夢のままじゃいけないよな」
夢には2種類ある。
叶う夢と叶わない夢である。
二度とポチタに会えなくなった代わりにデンジは幸せを手にした。
それが長続きするのかは自分次第。
「よし、決めた!とりあえず明日のデートも成功させてやんよ!」
迷っているばかりではポチタも困ってしまう。
ひとまずマキマさんの事は置いてレゼとのデートを楽しむ事にした。
「…それにしてもおせぇな」
あれから30分くらい経った気がするが、未だにレゼは帰って来ない。
もしも、警備員に見つかったらアラームかなんかが鳴るはずである。
それにこんな大雨の中で学校に侵入する奴は居ない。
「まあ、そんなもんか」
女の子には女の子の都合があるのだろう。
デンジはそう考えて机の上に置いてあったカメラを手に取った。
既にフィルムは従来の物に交換しており、いつでも公安に提出できる。
「俺の幸せってなんだろうなー」
今まで写真を撮って来たが、未だにこれだという幸せは見つかっていない。
レゼとのデートすら幸せというより、困惑と驚きの連続で幸せを実感する暇が無かった。
「女の子といちゃいちゃする事?」
ぶっちゃけ女の子と遊べるだけでデンジは嬉しかった。
でも、いざ遊んでしまうとそれだけだと物足りない。
「家族?」
早川アキと血の魔人であるパワーは家族みたいな関係になった。
これはマキマさんの意向でデンジが人間らしく生きる為にこうなったらしい。
だったらパワー要らないだろうになるはずだが、彼女なりに考えがあるのだろう。
「それともヒーロー?」
アンパ〇マンや少年漫画の主人公みたいに誰かに頼られたりする存在になりたいのか。
確かに頼られて悪い気がしないし、せっかく頑張っているのだから褒められたい。
そういえば、マキマさんもレゼも褒めるのが上手かった。
「ゲームや遊び?」
この世界には娯楽が溢れている。
人生自体はクソゲーと呼べるのにプレイできるミニゲームは星の数だ。
マキマさんやレゼとのデートも一種のミニゲームと言える。
「分かんねぇな…」
未だに大雨が降り続けている。
ガタガタと窓枠を風で揺らす騒音のせいでそれ以外の音が聞こえにくい。
そのおかげでデンジは独り言を言えているのだが…。
「金髪のおっさんにきいてみるか」
とりあえず、迷ったらおっさんに質問をしている。
何か言えば、とりあえず返答してくれる大人が居て助かっているのだ。
だからこの悩みもデンジは相談する事にした。
「……おそすぎねぇ?」
さすがのデンジもレゼが戻って来るのが遅すぎて疑問に思った。
1人で置いて帰る娘じゃないし、何かあったのかと思い始めた。
思い立ったらすぐ動く事にしているデンジは…。
「バア!」
「わぎゃっ!?」
突然、空いていた扉の影からレゼが飛び出してデンジを驚かせた。
さきほどまで彼女を心配していたデンジは見事に彼女の魂胆に引っ掛かった。
「便所行ってなんでそんなに濡れてんの!?」
だが、1つ致命的な疑問が生じた。
トイレに行っていたはずのレゼの全身がびしょ濡れだったのだ。
デンジからの指摘にレゼもさすがに焦った。
「アレ!!デンジ君!!あれってUFOじゃない!?」
いきなりレゼは意味不明な事を言いながら窓に近づいて指を差した。
だが、一般人代表のレゼが正しいとデンジは錯覚している。
「え!?ユーフォーって何!?」
もしかしたら何かヒントがあるかもしれないと思ったデンジは窓を見る。
すると天気は雨では無くなっていた。
「ごめん、もしかしたら見間違いだったかも…」
「なあ、ユーフォ―って何だ?」
「空よりも上にある宇宙に住む生物が乗っている乗り物だよ」
「えぇマジで!?」
見事にデンジはレゼに騙された。
これで何で彼女がここまで濡れているのか誤魔化す事が…。
「で、なんで濡れてんの?」
誤魔化す事ができなかった。
「えーっと、雨が止んだと思って外に出たら屋根から水が降って来たの~!」
「マジかー」
「マジだよードリフみたいになっちゃった」
丁度、天気が晴れたので適当な言い訳をした。
「大丈夫か?風邪とかにならねぇよな?」
「ありがとう。デンジ君って優しいんだね~」
またしても騙されたデンジはあっさりとレゼの発言を受け入れた。
カメラを通して盗聴しているはずの結婚の悪魔は既に就寝している。
録音機能はないのでレゼ本人しか濡れていた秘密が分からなくなった。
「じゃあ、今日はこの辺でお開きにしよ。次の集合場所はいつものカフェで午後3時とかどう?」
「分かった。必ず迎えるようにする!」
「お仕事、頑張ってねー」
「任せておけ!」
そしてレゼと別れたデンジは帰路に就く。
またしても早川アキに嘘ついたが、後悔していない。
「ん?」
「あれ?」
だが、デンジと早川アキは偶然にも帰路で再会した。
お互いに就寝していると思っていたので2人共驚いた。
「お前がここまで起きているのは珍しいな?」
「そりゃそうだ、こう見えても公安に来る前はこの街の夜で過ごして小遣いを稼いだんだぜぇ」
「まあいい、寝坊で遅刻だけはするなよ」
それでも2人はお互いに何をやっていたのか探ろうとはしなかった。
この時には既に信頼関係が築かれており、詮索する気もなかったのだ。
「パワーが居ないからぐっすり眠れる。だから寝坊しねぇよ」
「そうだな、居ないと居ないで静か過ぎるもんな」
2人はいつもの通りにアパートに戻る。
既に明日は今日を迎えており、あと2時間もすれば地平線から太陽が飛び出て来る。
要するに2人共、寝不足になるのだが…きっと大丈夫であろう。
「次が最後の機会……か」
隠れ家で手紙を受け取ったレゼは、もう後がないと嫌でも分かってしまった。
分かり切っていた事だが、それでも穏便な手で済ませたかった。
「デンジ君、キミなら私の手を取ってくれるよね…?」
レゼの放った一言は誰にも聞かれる事は無かった。
まるで彼女が発する心の叫びのように…。