デンレゼが足掻く度に不幸になるケッコンの悪魔さん 作:Nera上等兵
深夜の学校に潜入し、デートを繰り広げたデンジが何食わぬ顔で執務室にやって来た。
さすがに寝不足なのか反応が鈍いが、対応する結婚の悪魔としては、どうでもよかった。
「カメラを預かるぞ」
「どーぞ」
「……なあ、このカメラを少し弄ったか?」
「ほわああ!?」
とりあえず、フィルムを交換したのは分かっている。
だからそれについて暗に触れるとデンジは思いっきり動揺した。
「どうした?」
「なんでもありませーん!」
目をそらして口笛を吹く姿は、とても漫画らしい表現で逆に悪魔の方がびっくりする。
カメラを利用する際に様々なルールを伝えたが、フィルム交換についてはあえて触れなかった。
もし、デンジがフィルム交換するのであれば、悪意ある何者かが入れ知恵をしたと分かるからだ。
(自分に内緒でフィルム交換した時点で黒だと分かるしな)
レゼの入れ知恵でフィルム交換という知識を得た彼だが当然、これはやってはいけない。
従来のフィルムカメラでは、撮り終えるまでフィルムを交換できないのだ。
フィルムが感光し、写真が白くなってもいいのならフィルム交換をしてもいい。
ただ、それをするくらいなら普通にフィルムを使い切った方がいいだろう。
(まあ、素人でもフィルム交換はできなくもない)
裏を返せば、感光しないようにフィルムを交換できて二重露光をしない技能があれば可能だ。
だから結婚の悪魔は、撮影を趣味としないレゼがこの技能を披露したのを知ってスパイと疑った。
…疑っていた。
「なあ、いつも同じカフェで撮影してるんだが、何かあるのか?」
「ええ?」
「早川家の食卓は撮らない癖にカフェでの料理を撮るのが気になってな」
「お前、カフェで何かやってんのか?」と暗に告げるとデンジはめちゃくちゃ動揺した。
デンジとしても反論したそうな雰囲気を出しているが、如何せん何にも言葉が出ない様だ。
「……どうせお前の事だからカフェの店員さんに惚れたんだろ?違うか?」
「そーです!!」
「だろうな、そうじゃなかったらお前が律儀に同じカフェに毎日行くとは思えん」
馬鹿正直なのがデンジの良い所である。
あっさりと白状したので追及は避ける事にした。
「……言っておくが、公安警察は警察以上に執拗で執念深い組織だ。隠し事はできないと思え」
「はい…」
「既にマキマさんには、カフェの件に関しては通達してある。さすがにこれは誤魔化しきれん」
「そうですか……」
デンジにレゼとの恋愛は不可能だと自覚させた。
そもそもデンジにカメラを渡したのは一般の生活を送れないのでせめて思い出作りをさせたのだ。
「で?深夜の学校デートはどうだった?」
「な、なんで!?」
「だから公安を舐めるな。今訊きたいのは、お前がレゼとのデートが楽しめたのかという事だ」
ここまで色々言ってきた悪魔は、デンジがレゼと結婚したいのかという気持ちの方が重要だった。
「めっちゃ良かった…マキマさんとのデートと同じくらいにドキドキの連続だったぜぇ!」
「お前、それを誰にも話すなよ?刺されても知らんぞ…」
とりあえず、他の女の名を出すのはご法度である。
取り出したトンファーバトンでデンジの右肩を軽く何度も叩いて警告を行なった。
「お前が全裸になってレゼと一緒にプールで泳いでいるのは知っている。監視してたからな」
「マジか…」
「ついでにお前が今日の祭りでもデートするのを知っている」
「マジで?」
ここで重要なのは、上司を巻き込んでいるとデンジに認識させる事だ。
これにより、自分だけではなく係長も罪になると罪悪感を持たせる事に成功した。
「たった3つだ、これさえ守れば、お前はお祭りデートができる。聞きたいか?」
「はい!」
まあ、やっちまったもんはしょうがない。
とりあえず、デンジを庇う事にした結婚の悪魔は、大切な事だけを守らせる為に彼と向き合う。
「公安を絶対に辞めるな、レゼと一緒に幸せになれると思うな、エッチは禁止、以上だ」
「キスは!?」
「キスくらいならいいだろう」
「マジで!?」
武器人間という特別な存在であるデンジは、公安に所属する代わりに人権が付与されている。
なにより、武器人間の特性上、人間として幸せになれる事はない。
それをデンジに認識させる為に結婚の悪魔は、わざわざ約束をさせた。
「それだけでいいっすか!?」
「ああ、デートを楽しんで来い!」
デンジには、今まで罪悪感があった。
金髪のおっさんやマキマさんに秘密でレゼとデートをしていたのだ。
だが、ついに公認になった事でデンジは本気でお祭りデートを楽しむ事ができる!
嬉しさのあまり彼は変なダンスをしていた。
「本当に分かってるのか?」
「分かってます!マジで分かってます!」
「……ホントか?」
デートができると知って浮かれているデンジの発言に悪魔は半信半疑である。
複製の女相手に揺れてしまうこいつが「約束を絶対に守る」と言い切れるのか。
「大丈夫!!」
「……ならいい、ホラ。さっさと見回り任務に行ってこい。いつも通り午前までだ」
「了解です!」
どうせ、好きな子が更にできて悩みまくるデンジの姿を思い浮かべた結婚の悪魔は溜息をつく。
廊下に待機させていたビームを連れてデンジが退室したのを確認し、机と向き合った。
(さて、上層部にどうやって報告するか…)
公安上層部や政府からの干渉をなんとか防いでいるが、それも限界に近い。
何故かデンジに御熱心な上の連中の思考を悪魔は理解できない。
(いっそ、事件に巻き込むか?)
上の連中は、とにかくデンジの存在をバラしたくない様だ。
マスコミどころか警察すら圧力をかけているのでよっぽど知られたくないらしい。
なのでマキマが提案する「チェーンソーマンの存在を明らかにする」という案も悪くない。
(それにしても…デンジに恋する女がいるとはなー)
本来であれば、やたらとデンジに接触するレゼについて調べるべきである。
だが、盗聴した会話のやりとりや実際のデートを見て問題ないと判断した。
「くっそ、もう1回やっていい!?今度はデンジ君に勝てるんだから!」
「いいぞ、今度は俺はもっと!点数を稼いでやるよ!」
お祭りデートでも射的の結果にレゼは本気で悔しがってデンジに再戦を願った。
その様子を見た結婚の悪魔は、デート自体に問題ないと判断する。
(ビームに会いに行かなきゃ…!)
浴衣を身に纏い、団扇を扇ぎながら戦利品を片手にサメの魔人が潜伏している場所に向かった。
「結婚の悪魔、どうだった?」
「戦利品、たくさんゲットしたよ!」
黒髪の美女に化けている結婚の悪魔は、あっさりと係長に化け直した。
そして、じゃがバターやフランクフルト、わたあめや焼きそばをビームに手渡した。
「チギュウ!悪魔の方!」
「“ムカデの悪魔”ならさくっと捕食した。祭りに浮かれているのは人間だけじゃないらしい」
「チェンソー様の邪魔する奴!全員、倒す!」
「ああ、おこわい!」
この世に誕生したばかりのムカデの悪魔であったが、あっさり結婚の悪魔に捕食された。
まだ人を殺していない糞雑魚ナメクジ以下だったので祭りが始まるまで身を潜めていたのだろう。
デンジ=チェンソーマンではないはずなのだが、ビームはデンジを狂信的に慕っている。
「金魚、食べる?」
「食べる!」
金魚すくいでゲットした戦利品を差し出すとビームは嬉しそうに金魚を食べ始めた。
金魚を咀嚼する彼の姿を見て他の悪魔もここまで単純なら助かると結婚の悪魔は毎回思う。
「お、デン…チェンソー様が移動を開始したな。デートの終わりまで見守るぞ」
「行くー」
ついにデートはクライマックスに突入した。
もうじき、花火が打ち上がって夜空を華やかにしてくれる。
糞みたいな暗黒な人生を送って来たデンジにすら明るく灯してくれる事だろう。
「盗聴開始、ビームも聞くか?」
「聞く聞く」
デンジとレゼに気付かれない場所に陣取った監視員たちは盗聴を開始した。
むしゃむしゃと屋台で手に入れた料理を食べており、まるで映画を鑑賞しているようだ。
実際、デートを見守るのが今回の目的なのだから別に問題は無かった。
《実はこの場所、カフェのマスターに教えてもらったんだ。花火が一番見えるんだけど人が来ないマル秘スポットなんだって》
《へぇー》
《…これで2人っきりになれたね》
《そーだな》
この雰囲気だと告白かそれに匹敵するカミングアウトが来る。
会話の記録をしつつ、ビームを見ると真面目な顔で見守っていた。
まさに眷族の鏡である。
《いろいろ考えたんだけどさ、やっぱり今のデンジ君の状況、可笑しいよ》
《16歳で学校にも行かないで悪魔と殺し合いさせるなんて国が許して良い事じゃない》
ついにレゼと名乗る女がデンジに本音を告げた。
これは想定していたので今朝に念入りで釘を刺したのだ。
《仕事やめて……私と一緒に逃げない?》
ここでレゼが放った発言に結婚の悪魔は違和感を覚える。
(あれ?告白じゃないのか?)
てっきり、デンジに告白して玉砕される流れになると思っていた。
まるでスパイがデンジを誘惑するような発言に悪魔は本気で困惑した。
「チェンソー様、失恋しちゃうの?」
「マキマさんと一緒に仕事をする以上、そうなるな」
「見逃す!ダメ?」
「ダメ」
ビームはチェンソー様と慕うデンジの恋が叶わないと察した様だ。
結婚の悪魔の袖を引っ張ってどうにか失恋を回避させようと試みている。
だが、それができたらこんな事になっていない。
《だって…私、デンジ君が好きなんだから》
デンジの手を取って詰め寄ったレゼは本気のようだ。
少なくとも嘘をついている状態では無かった。
《……なんでそこまで悩んでいるの?デンジ君は私の事、嫌い?》
《好きィ!!》
だが、デンジは上手く返答できない。
そのせいでレゼに勘付かれた。
「しゃあねえ、ちょっとフォローしてくるわー。後片付けはよろしく頼む」
「チェンソー様の為に頑張れ」
「あーあーがんばるよー」
男女の恋愛なんかぶっちゃけ興味がないが、デンジはここで失恋するのは可哀そうである。
上司としてフォローするべきだと実感した悪魔は、身を乗り出してデンジの元に向かおうとする。
「お、イイネ。青春じゃん」
「キスーキスー」
そしたらレゼがデンジにキスをしたのを目撃した悪魔たちは内心で盛り上がる!
結婚の悪魔はガッツポーズをし、ビームに至ってはその場で踊っていた!
「「…血?」」
だが、その直後に2人から血の匂いがしたのでビームと結婚の悪魔はお互いを見る。
明らかに異常事態だったので自分の鼻が可笑しくなったのかと勘違いしたのだ。
「「は?」」
急いでデート光景を見返すと、尻餅ついたデンジを見下すレゼが口を開く。
さきほどまであったはずのデンジの舌が彼女の口内にあった。
「火薬!?」
「
ここでようやく監視員たちは、レゼが人間じゃないと気付いた!
ビームに至っては、ようやくその匂いから彼女の正体を見抜いた!
「ヤバイヤバイ…」
「ビーム、隙を見てデンジを奪還、早川アキのいる訓練施設に向かえ!」
「ビィーム」
デンジの様子を見る限り、口内に残った舌と出血で喉が塞がっている。
本来なら自重で垂れる舌を手で抑えないといけないが、デンジは不死身である。
いっそ、彼の死体をビームに奪還させる事にした。
(クソ!!始末しておけばよかった…!)
完全に判断ミスしたと悪魔は後悔するが、大切なのはこれからどうするかだ!
「今だ、行け」
完全にレゼが油断した瞬間を見抜いた悪魔はビームに指示を出す。
カメラに気を取られていたレゼを出し抜いた彼はそのまま崖から降りて道路に向かった。
(デンジ…お前の事を言えないな…)
その気になれば跡形も無く粉砕する事も可能であった。
ただ、デンジが楽しそうにデートを送っていた姿を思い出して手加減してしまった。
「まんまと騙されたよ…」
柵を破壊するだけの結果に終わったが、牽制はできたので2個のトンファーバトンを構え直す。
そしてどこの刺客か確認する事にした。
「…
大英帝国、イタリア、アメリカ、中国、ドイツ、ソ連。
手当たり次第に反応しそうな単語を告げるとソ連が引っ掛かった。
アメリカに軍事力で劣るソ連は悪魔を兵器にして運用しているので間違いなくソ連の刺客と見た。
「KGBか、NKVDの亡霊か、
ソ連軍参謀参謀情報局は12局までしか存在しないが、噂では13局があると聴いた事がある。
それが
孤児を利用した人体実験部隊とされるが、実情は悪魔を兵器に転用する為の組織かもしれない。
少なくとも武器人間になったヤクザの孫の背後関係に居たのは、ソ連で間違いない事は確かだ。
「な、なんのことかな~!」
「まあ、お前がどこに所属してるのかはどうでもいい」
それにしても、この刺客、明らかに動揺し過ぎである。
日本でロシア語に触れる機会などまずないとはいえ、スパイらしくない。
「
「
念の為に投降を呼びかけたが、レゼに拒絶された。
そのおかげで始末できると確信した結婚の悪魔は、結婚指輪から血を地面に垂らす。
これで爆弾の悪魔をこの世から抹消できる準備は整った。
「
皮肉にもロシア語を教えてくれたゲルマン人のスパイを始末した際の発言をレゼに告げた。
このままギミックで苦痛なく死なせようとした瞬間!
「ハーイ!ニポンのミナサン!こっちデスヨー!」
警官のコスプレをした金髪女が老人会を引き連れて花火が良く見える現場に訪れた。
平均年齢72歳、「まだまだ現役!」と本人たちは宣う北春日部老人会の皆さんだ。
「…は?」
即死攻撃を仕掛けようとした結婚の悪魔は思わぬ勢力の登場で攻撃を中断した。
よく見るとイケメンの外国人が警官のコスプレをして誘導しており、そういうツアーらしい。
医療スタッフの姿も見えるところから相当、無駄に金をかけているようだ。
(ふざけんな…)
ここで力を行使すると寿命間近とはいえ老人会の皆さんと介護役を巻き添えにする。
別に刺客のせいにしてもいいが、マキマに絶対にバレるので通常攻撃に転換するしかない。
「ボンッ!」
その隙に刺客は首にあったピンを引き抜くと頭部が爆発した!
衝撃で腕の一部も欠けたが、周りに飛び散る肉片に混じって異物が生える!
大量の導火線が両腕に伸びて長手袋のようになり、ダイナマイトの前掛けを生やす。
「チッ!予想通り武器人間か!」
悪魔なら匂いで気付けるが、武器人間は気にしていないと気付けない。
サメの魔人も結婚の悪魔も騙されたのは、刺客が人間の匂いを発していた為である。
「ボン!」
指パッチンと共に高速で飛んでくる火花をトンファーバトンで弾く。
上空に飛んでいった爆発物は時限があるようで花火とは違う爆発を引き起こした。
「な!?」
弾かれると思ってなかった刺客はそのまま肉片1つ残らずに殴打で消滅する…はずだった。
「てんちゅー!!」
「うおおおおお!?」
88歳のお爺さんが日本刀で結婚の悪魔に切り掛かったのでトンファーで斬撃を防ぐ。
下手に弾き返したり、回避すると日本刀を振り回す老人が逆に負傷するのを危惧した為である。
「わしの目が…なんだったか?」
「目の黒い内に!」
「とにかく悪魔を成敗してくれるううう」
「おい!?こっちは味方だ!!」
確かに悪魔なので結婚の悪魔も老人の発言を否定できない。
ただ、下手に動かすと負傷されるので身動きが取れなくなった。
「公安のデビルハンターだ!ひとまず話をきいて…「うるひゃい!!」もおおおお…!!」
「この時代に老いぼれを見たら“生き残り”だと思え」はよく言ったものだ。
剣戟自体は生半可なデビルハンターより上であった。
悪魔と契約せずに自力の技能と戦術で悪魔に挑んで生き残った事はあると結婚の悪魔は分析する。
「情けないね!!あたしも参戦するよ!!」
「誰だお前!?」
「わしも知らん」
「あたしも知らんよ!こんな爺さん!」
「知らんのかい!?」
それはそれとして邪魔なので適当に相手するつもりが、更にお婆ちゃんも参戦し、カオスになる。
そのせいで結婚の悪魔は、爆弾の武器人間を取り逃がす失態を犯した。
「ウギャアアアア!?話とチギャウウウウ!?」
デンジを抱いて必死に逃げていたビームは爆弾女の追撃を受けた。
爆発の衝撃で上空を飛んだ彼は、主人を傷付けないように両足で着地する!
「ヴヴヴ!!」
「ハァハァ……ねえ!デンジ君を置いて逃げるなら見逃してあげるよ」
サメの魔人と思わしき人物に警告するレゼだが、時間が無い。
結婚指輪から垂れた血が発した“濃厚な血の匂い”は、本能が自分の死を知らせるものであった。
北埼玉老人会そのものは知らないが、彼らが居なかったら生還しなかったのは確かである。
「ヴヴヴ!!ヴヴヴヴ!!ヴァア!!」
「あ、そう」
どうやら時間稼ぎをするようだ。
魔人の頭部が鮫に変身し、レゼを襲撃する!
「ボン!」
「ぎゃああああああ!?」
爆発で返り討ちに遭ったサメの魔人は全身がボロボロになって倒れ込んだ。
ただ、もたもたしているとマキマ級に匹敵する化け物と交戦する羽目になる。
(あ、カメラ忘れた…)
ここでレゼは、カメラを現場に忘れた事に気付く。
急いでデンジ君から心臓を抜いて逃亡しないといけないのに…何故か気を惹かれた。
「うわ…」
その間に爆発現場を目撃した車両が停車した。
そこまでなら良かったが、武器を持った3人組が自分を見据えている。
「チキショー祭りに向かうつもりだったのに…」
「うわ、なんか殺してやがるぜ」
「祭り会場で悪魔発見、18時45分戦闘開始!」
喜怒川三兄弟は、偶然にも奇妙な女を発見した。
鹿の悪魔を討伐した賞金で豪遊し、酔いが醒めた後に祭りに向かう途中だった。
リーダーのハジメがトランシーバーで悪魔通報センターに報告を入れて仕事を開始する。
「民間のデビルハンターかな?」
彼らの様子を見てレゼは、公安のデビルハンターではないと判断した。
さすがにここで殺人するとあの化け物と本気で殺し合わないといけない。
「まずは足を奪うね」
先に移動手段を潰そうと指を鳴らして火花を自動車に向かって飛ばした。
「あれ?」
またしても火花が弾かれてしまった。
原因を探ろうとしたレゼは、異音と共に頭が弾け飛ぶ!
頭を失って即死した彼女は、爆発を受けて炎上する道路の傍にあったガードレールに倒れ込んだ。
「うお!?」
「ひええ…」
「こわ!?」
レゼを瞬殺したのは、喜怒川三兄弟ではない。
「さすが、因幡副隊長!」
「ありがとうございます!」
「やっぱ、副隊長はつええわ…」
祭りに向かうついでに彼らを自家用車に乗せていた因幡ナオミであった。
さすがに自分の車を破壊されたくなかった彼女は鞭で攻撃を反らして悪魔を殺害したのだ。
上空での爆発を見た喜怒川三兄弟は彼女に歓声を送るが、因幡自身は浮かない顔をしていた。
「ああ、もう!!この悪魔の対応をしないといけないじゃない!!」
マキマからデンジが祭りでデートしていると密告を受けた因幡は衝撃を受けた!
自分に内緒でこんなに面白そうな事をおしえてくれなかった係長をぶちのめすと誓う!
そのまま車庫に行こうとすると手続きで遭遇した喜怒川三兄弟と出会って意気投合した!
そして祭り会場に急行しようとしたのだが、今回の事件に巻き込まれたというわけだ。
「18時49分悪魔討伐完了!……浮かない顔をしてんじゃん」
「だって、この悪魔のせいで祭りに行けなくなっちゃったもの…」
「後処理は俺らに任せてくださいよ」
そんな彼女の姿を見た喜怒川ハジメは、自分たちが後処理をすると断言し、親指を立てた。
「え?いいの?」
「俺らが討伐した事になってますからね。事情聴取は任せてください」
スキンヘッドの喜怒川サスケも長男の意見に同調し、同じ様に親指を立てた。
「へへへ、これで貸しはチャラにしてくださいよ~!」
「ありがとうみんな!」
三男のサブロウに至っては、口とは裏腹に強敵を瞬殺した事に感謝していた。
なので因幡ナオミは車に乗り込んで窓から手を振って現場から離れた。
「デンジ君の彼女!どんな人なんだろう~!デジカメで撮ってあげるまで帰らないでよ~!」
まさか今さっき自分が瞬殺した悪魔が彼女だとは思わない因幡は高速で車を駆け抜ける!
一方、副隊長と別れて現場に残った喜怒川三兄弟は現場検証をしていた。
「にしてもベッピンさんだな」
「魔人っぽいし、勿体ねぇな」
とりあえず爆弾の魔人と仮名を付けた彼らは、死体の検分を行なう事にした。
「なあ、このピンなんだ?」
三男が弾け飛んだ首の代わりにピンが生えているのを発見した。
「とりあえず触れるな」
「了解ですー……うわ!?」
長男の命令に従って彼はその場から離れようとした。
そしたら近くにあった頭の破片を踏んづけて転んでしまった。
地面に手を突こうとしたら偶然にもピンに触れてしまい、うっかり抜いてしまった。
「ボン」
「ぎゃああああああ!?」
そのトリガーで発生した小規模な爆発と共に3人組はぶっ飛ばされた!
幸いにも軽い爆風を受けただけなので三兄弟全員が軽症で済んだ。
「……日本ってやっぱ、おかしいよ」
息を吹き返したレゼは、平和とは裏腹に実力者揃いの日本に違和感があった。
ポリポリと魚雷の頭を指で掻いた彼女は、すぐに現状を思い出す。
「復活させてくれてありがとうねー!お礼に殺さないであげる!」
祖国では味わう事が無い人柄に触れた彼女は、民間のデビルハンターを見逃して…。
むしろ、見逃してもらう為に爆発で空を飛んでデンジ君の発する血の匂いを追跡した!
「ここか…!」
どうやら公安の施設に逃げ込んだようだ。
「なら民間人のフリして侵入しよっと!」
さすがにいきなり攻撃を仕掛けて来る事はないはずだ。
死んだせいで少し記憶が飛んだレゼは自分が失態をしているとは気付かない。
「あのー!すみません!」
とりあえず、人間体に戻ったレゼは大声で施設に向かって叫んだ。
「そこの美女!すまないが、それ以上近寄るな!」
残念ながら玄関前に居た公安職員に拒絶されてしまった。
「ここは対魔2課の訓練施設だ!緊急時を除き民間人の立ち入りは禁止されている!」
だが、彼の言い分を信じれば、緊急時なら避難してもいいという事になる。
だって、悪魔に追われているのは事実なのだから。
「すみませ~ん!」
だから悪魔に襲撃されて逃げ込んだ民間人の演技をする。
「助けてくださ~い!悪魔に襲われていま~す!」
レゼ本人としては、愛想がいい女の子のフリをして発言をした。
(あれ~?)
少しだけ待ったが、誰も助けに来ない。
「ダメみたいだな~」
口元に傷がある男性職員に助けを求めたつもりが逆に応援を呼ばれた。
おそらく悪魔と契約している職員の中でも実力者が2名。
後方にも武器を構えた職員が居るので騙す事は不可能だと分かった。
「そりゃダメか~」
よく考えてみれば、サメの魔人に自分の姿を見られている。
なので迎撃されるのは当然であるとレゼはようやく気付く。
「なら仕方ない。さくっと……!?」
やむを得ず皆殺しコースを選ぼうとしたレゼは、とてつもない血の匂いを感じた!
その瞬間!
地面が波打つように縦に揺れたかと思うと今度は横に大きく揺れた!
武器を構えていた公安職員も想定外だったのか混乱して攻撃を仕掛けてこない。
(こ、ここでやるの…!?)
明らかに格上の悪魔と交戦しないといけないレゼは、すぐさま前に向かって走る!
その直後、近くにあったマンホールが異物によって押し出されて空中に飛んだ!
それと同時に対魔二課の訓練施設の複数個所が破壊されて何かが飛び出してきた!
(ム、ムカデ!?)
それは血塗れになっているムカデだった。
ただ、その数は尋常じゃない。
「おい嬢ちゃん!早くこっちに来い!」
「……え?」
さきほどまで自分を警戒していた公安職員に腕を引っ張られると思わなかった。
そのおかげで正体をバラす事無く公安の建物の中に避難できてしまった。
「おいおい!とんでもねぇもんを連れて来てくれたな!!」
死線を潜り抜けてきた野茂補佐官は、目の前にいるムカデの大群を見て両腕を構える!
もはや大群と表現するのも間違っているかもしれない。
この日、東京都の練馬区を中心として“ムカデの津波”が発生した。
「やるぞオマエラ!!」
全長5mmから5m級のムカデ、100億匹で構成された“ムカデの悪魔”が相手だった。
対魔二課の訓練施設に出現したのは、たった3億匹に過ぎない。
それでもあまりにも数が多すぎて全貌が掴み切れずに野茂は冷や汗を掻いた。
「対魔2課に喧嘩売った事、後悔させてやれ!!」
「「「「うおおおおおおお!!」」」」
ちょうどこの施設には、対魔2課を筆頭に1課や3課の職員もそこそこ滞在していた。
いわば、東京対魔1課から3課までの掻き集められる戦力がここに揃っている事となる。
野茂の号令によって、公安のデビルハンターとムカデの悪魔との総力戦の火ぶたが切られた!
(あれ!?)
なお、冤罪の為に【ムカデの悪魔に化けている結婚の悪魔】は本気で困惑した。
油断した瞬間にレゼを始末するつもりだったのに逆に公安に保護されたのだから。
(やべぇ…ミスった)
ここで思いっきり結婚の悪魔は後悔したが、後の祭りである。
報・連・相を怠ったせいで関東地方を大混乱に陥らせる大騒動に発展したのだ。