デンレゼが足掻く度に不幸になるケッコンの悪魔さん   作:Nera上等兵

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33話 対魔2課 VS ムカデの悪魔(に化ける結婚の悪魔)

公安対魔2課の訓練施設で5タテをした早川アキは野茂さんに声をかけられた。

彼には恩があり、生意気な新入りを打ち負かせてほしいというお願いでここに来た訳だが…。

 

 

「野茂さんの頼みは断り切れません」

「今からでも2課に戻って来い。特異課なんか血生臭い話しか聞かないぞ」

 

 

アキが初めて公安に所属した時の上司が野茂さんであった。

しかし、彼の元では銃の悪魔と交戦ができないと判断し、頭を下げて特異課に転属依頼を出した。

その時に岸辺隊長を紹介してもらい、甘ったれの自分を鍛え直すきっかけになった恩人である。

 

 

「順当に行けば5年後には俺が副隊長になる。そうなったら本気でお前を誘うからな」

「……ありがとうございます」

 

 

野茂さんの本音と自分への気遣いが混ざった提案に一瞬だけアキは無言を貫いた。

自分は1年も生きる事はできないという現実に彼の提案に乗る事を躊躇ったのだ。

それでも恩人の発言にアキは感謝した。

 

 

「岸辺隊長や姫野にもよろしく言っておいてくれ」

「はい!」

 

 

手を振って別れたアキは、ソファーに座っていた天使の悪魔を連れて通路を歩く。

 

 

「ねえねえ人間君、5年後には死んでますって言わないの?」

「…どこから聴いた。そんな話?」

「パワーちゃん」

「…あのクソ悪魔。お前は他言無用で頼む。あいつは俺がしばき倒す」

「りょーかい」

 

 

右手の親指を突き立てて歯を見せて笑う血の魔人の姿を思い浮かべた早川アキは…。

帰ってきたら殴り倒すと決意して天使の悪魔に口止めをした。

 

 

「キミはいいなぁ、僕も早く死にたいな~」

「死んだところでお前は地獄に還るだけだろ?苦しみは消えないはずだ」

「でも記憶はリセットできる。嫌な思い出とおさらばできると思うと良いと思わない?」

 

 

相変わらず天使の悪魔と価値観が合わずに仲良くなれない。

 

 

「アキ!下に来いすぐにだ!!」

 

 

小言を言おうとした瞬間、野茂さんからの発言を受けて早川アキは現場に急行する。

 

 

「ビーム!?」

「この魔人が対魔特異課と呟いていたが、知り合いか?」

「は、はい!」

 

 

そこには口から血を噴き出しているデンジとボロボロになったサメの魔人が居た。

野茂さんの発言を肯定したアキは、さっそく質問を繰り出す事にした。

 

 

「デンジは…悪魔にやられたのか?」

「やられた!あいつがこっちに…来る!」

 

 

ビームは結婚の悪魔に言われてここに来ただけである。

あくまで念の為であったが、何故か爆弾の悪魔が追跡を振り切って襲撃してきている。

それを伝えるには、ビームには時間が無さ過ぎた。

 

 

「あ!キタ!ボムきた!!」

 

 

詳細を訊こうとするとビームが騒ぎ立てたので早川と野茂は玄関を見る。

 

 

「あのー!すみません!」

 

 

女性の声が聴こえる。

残念ながら姿は良く見えないが、ビームの発言からあいつが元凶だと察する事ができた。

 

 

「そこの美女!すまないが、それ以上近寄るな!」

 

 

野茂は念の為に警告を行なった。

 

 

「ここは対魔2課の訓練施設だ!緊急時を除き民間人の立ち入りは禁止されている!」

 

 

既に敵だと分かっているが、魔人の状況証拠だけでは動かぬ証拠になり得ない。

人間に化けた悪魔と交戦する為の状況証拠を作る為にわざわざこんな発言をした。

 

 

「すみませ~ん!助けてくださ~い!悪魔に襲われていま~す!」

 

 

男なら一瞬だけでも視線が固定されるノースリーブのニーソ女子から笑顔で助けを求められた。

デンジならあっさり騙されたかもしれないが、ここに居るのはベテランのデビルハンターである。

 

 

「ほー、ずいぶんな笑顔で襲われているもんだな」

 

 

逆に煽っているのかと思うほど猫なで声で助けを求める美女に野茂は【黒】だと判断した。

 

 

「アキ、お仲間を連れて後ろに下がってろ。安藤、本部と副隊長に連絡!2課を全員集めろ!」

「は、はい!承知しました!」

 

 

早川と安藤に指示を出した野茂は前に出て不審人物の顔をしっかりと確認する。

 

 

「ん?あの美女、どっかで見た事あるような?」

「…こんな時までナンパ癖はつまらないですよ」

「いや、本当にどっかで見た気がする…」

 

 

アキにはナンパと勘違いされたが、野茂は心外である。

どこかのゴシップ紙に載った写真に写っていた人物に見えた。

 

 

「まあいい、加藤。田辺!アイツを殺せたら奢ってやるぞ。人間だと思わずに悪魔と扱え!」

「「了解!」」

 

 

とりあえず仕留めてからじっくりと確認する事にした。

 

 

「すみません、後は頼みます!」

「貸し1」

 

 

ぶらぶらと頭を揺らす不審な行為からこのまま放置するのは危険と判断!

即殺ができる加藤と田辺に指示をして早川からの声援に指1本で応えた。

 

 

「うお!?」

 

 

ところが、震度5を超える地震が発生し、転倒しないように必死に耐えるのが精一杯だった!

場所は変わって訓練施設のトイレで童帝ツクシは立ちションしてたせいでズボンが濡れまくった!

 

 

「うおおおお!?こんな時に!?」

 

 

童帝38歳、彼女無し歴=年齢さんは、またしても同僚に馬鹿にされると思って憂鬱になった。

その時!手洗い場と後方にあった洋式便器で爆発音が発生した!

 

 

「…は!?」

 

 

急激に増加した血塗れのムカデが発する圧力で下水道管が耐え切れずに破裂したのだ。

そのせいで空中に投げ出された下水と排泄物が童帝に降り注いだ。

 

 

「OH!モーレツ!」

 

 

思わず股間を両手で抑えてチンチンを隠す間抜けになったが、ある意味で運が良い。

この後、発生する殺し合いに参加しなくて済んだのだから。

滝のように雪崩れ込むムカデの大群がトイレの外に向かう光景は見なかった事にした。

 

 

「な、なんじゃこりゃあ~!?」

 

 

玄関で臨戦状態で待機していた野茂は大声で叫ぶしかなかった!

地面が割れたと思うと噴水の代わりに大量のムカデが噴き出したのだから!

 

 

「野茂さん!!」

「ああ、思ってよりもヤベェのが来やがった!!」

 

 

この場に集まったのは、3億匹のムカデである。

普通のムカデだけなら…良くはないが、虫なので人間の叡知と武器で勝てると確信はする。

 

 

「おい嬢ちゃん!早くこっちに来い!」

「……え?」

 

 

咄嗟に動いた野茂は、さきほどまで不審人物だった女の腕を強く引っ張った。

困惑する彼女の意志など確認する暇もなく無理やり玄関に連れ込んだ。

 

 

「あぶねぇ…」

 

 

さきほど女が居た場所に5m級のムカデが降って来た。

それどころか、上空を覆うほどの数が居るムカデの中にチラホラ巨大な奴が混じっている。

 

 

「おいおい!とんでもねぇもんを連れて来てくれたな!!」

 

 

両腕を構えた野茂は、推測で敵が“ムカデの悪魔”か“大群の悪魔”だと判断する!

さきほどまで警戒していた女は無抵抗だったので無害だと判断してしまった。

 

 

「やるぞオマエラ!!」

 

 

リーダー格と思われる5m級のムカデの前に立ち塞がった野茂は鼓舞する為に叫ぶ!

急いで武器を取り戻った連中も合流し、やる気満々であった!

 

 

「対魔2課に喧嘩売った事、後悔させてやれ!!」

「「「「うおおおおおおお!!」」」」

 

 

野茂の号令に武器を構えた彼らに怯えはない!

全国に展開する公安対魔課でも1、2位を争う精鋭なのだから!

 

 

「打て!」

 

 

真っ先に先鋒の阿笠がリーダー格と思われる5m級のムカデに四又の槍を突き刺した!

号令を告げると、ムカデは宙に浮いてそのまま呪いの悪魔に噛みつかれて殺された!

 

 

「阿笠!もっと自分の命を大切にしろ!」

「く、くそ!野茂さんー!!こいつら!!全部、別個体になってます!!」

「なんだと!?」

 

 

呪いの悪魔と契約して生成された武器は、4回突き刺して号令を告げると必ず相手を殺せる。

最初に号令を唱えた人物の寿命と引き換えにするほど強力であるが、大きな欠点が存在する。

 

 

「じゃあ、カビや呪いじゃ相手が悪いな!!」

 

 

発動条件を整えれば人間を殺せるが、突き刺した個体であって人間という種族は殺せない。

要するに別個体だったり、同じ存在でも別の意志が宿って居れば、殺しきる事ができないのだ。

カビの悪魔も一個体しか効果がないので必然的に即死攻撃が無効となる強敵と判断するしかない。

 

 

「コン!!」

 

 

狐の悪魔の左前脚を出現させて迫って来るムカデの津波を薙ぎ払った。

大半のムカデは通常個体の強度のようであっさりと粉々になった。

 

 

「マジかよ!?」

 

 

しかし、粉砕したはずのムカデの肉体が再生したのを見て野茂は気付く!

 

 

「さては、こいつらを操っている奴がいるな!!」

 

 

さっさと物量で押せばいいのにムカデの侵攻は遅かった。

野茂や部下たちは遠隔操作している影響だと判断する。

 

 

「野茂さん!後ろ!!」

「クソッタレ!!」

 

 

ところが誰かの発言を聞いて振り返ると室内からムカデの大群が迫って来るのが見えた!

しかも、さきほどの女の子を狙っていると確認した野茂の動きは速かった!

 

 

「コン!」

 

 

美少女をお姫様だっこした紳士は、予め出現させた狐の左脚に飛び乗って笠木*1の上に避難した。

玄関の屋根に乗っただけだが、すぐに2階に避難できるポジションを確保した。

 

 

「……嬢ちゃんさ、どっかでお札を引っ剥がしたりとかしてねぇよな?」

 

 

高台にいるからこそ分かる。

ムカデの大群は訓練施設を包囲しているだけでなく街中に出現していると…。

しかも、わざわざ一斉にムカデの顔が自分の方に向いたので事情は大体察した。

 

 

「してません」

「そうかい」

 

 

次々と狐の悪魔の前脚や後ろ脚が出現し、ムカデの群れを粉砕していくが倒し切れていない。

それどころか近隣に出現したムカデの津波が合流し、訓練施設全体を覆い尽くさんとしている。

 

 

「おいおいおい!!そんなんありか!?」

 

 

しかも、一部の大群がまとまって1体の巨大ムカデとなって顎を見せつけた!

180万匹が合流して誕生した30m級のムカデが玄関の上にある笠木に向かって突っ込んでくる!

 

 

「コン!」「コン!」「コン!」

 

 

部下が出現させた狐の悪魔の前脚に次々と飛び乗って回避をした野茂だが、反撃ができない。

いつのまにか20億匹まで膨れ上がった“ムカデの津波”は無駄な回避行動を嘲笑うようである。

 

 

「野茂さん!!」

「来るな!!こいつの狙いはこの子だ!!」

 

 

直属の部下が2階の窓を開けて救出しようと試みたが、野茂は拒絶した。

下手に建物に入れれば、今度こそ退路がなくなると危惧したからだ。

 

 

「だが、この悪魔の正体が分かった気がする!」

「…というと?」

 

 

ただ、ムカデが合体するのを見て野茂は気付く!

 

 

「このムカデの大群そのものが、“集合的無意識”で動いてる!つまり、集合体恐怖症を発症させて人間を捕食するのが“ムカデの悪魔”の目的であり、本能だ!」

 

 

…などと考察を立てるが、何のことはない。

ムカデの悪魔に全てを押し付ける気満々である結婚の悪魔が生み出した偽者の大群である。

 

 

(そうなの!?)

 

 

なお、全てを取り込まれたムカデの悪魔は、野茂の発言を聞いてびっくりした。

ちなみに()()()()()()のせいでムカデの恐怖が増しているので案外、良い環境だったりする。

練馬区を中心に板橋区、中野区、新宿区、杉並区などでムカデに恐怖する人間が続出したのだ。

 

 

(もっとやれ!僕ちんの恐ろしさを教えてやれ!)

 

 

なので格上の悪魔に捕食されたムカデの悪魔(本物)は、偽者の暴走を応援していたりする。

余談であるが、近隣の埼玉県や茨城県、神奈川県でもムカデの大群が出現している。

そのせいで日本の中心である首都圏が大混乱に陥った。

 

 

「あっ!車!」

 

 

親切な公安職員に助けてもらっているレゼは気付いた。

左後部座席に瀕死のデンジを乗せた車が出口に向かって走る姿を!

 

 

「そのまま行け!!」

 

 

早川が運転する車の逃走を援護する為に2課の4人がムカデの大群の前に躍り出た!

片手の拳を残った手で抑えるように念じて巨大なカマキリの鎌を2本召喚する!

そして思いっきり薙ぎ払う事で逃走経路を塞いでいたムカデをぶっ飛ばす事に成功した!

 

 

「ありがとうございます!」

 

 

例を告げたアキはそのまま道路に飛び出して大混乱になった街の中へと車を走らせた!

野茂の手を振り払ったレゼも急いで後を追おうとするが…。

 

 

(よし、逃げたな!)

 

 

早川たちが逃げられるように手加減をしていたムカデの悪魔は、再び訓練施設からの退路を塞ぐ!

というより、わざとぶっ飛ばされるように命じていたのだ。

 

 

(これで終わりだ!)

 

 

結婚の悪魔の真骨頂は、戦闘力ではなく強力な結界術である。

街中で爆弾の能力で暴れられるくらいなら訓練施設に閉じ込めようと決めた。

想定外だったのは、もうじき廃止される公安対魔2課の連中に妨害されたくらいだ。

 

 

(血塗れの結婚式場にようこそ。まあ、会場はムカデでできてるんだけどな!)

 

 

5億匹のムカデを犠牲にして訓練施設とその周囲を覆う結界術を展開した。

既に近隣の住民は、ムカデの大群で追い払ったので巻き込まれた民間人は存在しない。

 

 

「な、なんだこれは…!」

「血だあああああ!?」

 

 

公安対魔2課の構成員たちは誰もが目の前に広がる光景に動揺する。

ムカデが空と地面を覆い尽くして血の小雨が降り注ぎ始めた。

 

 

「……アキだけでも脱出できたのは不幸中の幸いってとこか」

 

 

似た様な経験をしている野茂は、左腕の震えが止まらない。

一部の悪魔が使用する結界術だと見抜いたのだ!

 

 

「コン!!……ダメだ召喚系は全滅だ!!」

「結界術ですか!?」

「ああ、そうだ!」

 

 

名も知らぬ公安職員の会話の通り、これは結界術の一種である。

週刊少年ジャンプで後に連載されるアフロ主人公の必殺技、“聖〇毛領域(ボー〇ボ・ワールド)

もしくは、更に後世で連載される作品に出て来る“領〇展開”と呼ばれる結界術と似ている。

要するに自分の都合が良い空間に敵を引き摺り込んでボコボコにする大技である。

 

 

(そりゃあそうだ、自力で脱出したいならこの空間を支配してみろ!)

 

 

誰もが思った事だろう。

強力な空間支配能力を使える“永遠の悪魔”が地獄で殺されて現世に出現しているのかと…。

答えは単純明快で、格上の結界術を使用する悪魔に上書きされて殺害されたからだ。

だから“ムカデの結界”を内部から破壊するには結界を上書きするしかない。

 

 

(“老いの悪魔”を引っ張り出さない限り、上書きできんがな)

 

 

元財務省の長谷川タダシとかいう老害が崇める老いの悪魔ならこの結界を突破できる。

だが、この場に居ないので結婚の悪魔以外で内部から結界を解く事は不可能である。

 

 

(さて、公安諸君!実戦訓練だ!頑張って撃破してくれ)

 

 

合計36人の公安職員を確認したので2m級のムカデ人間を120体生み出した。

さすがに殺す気はないが、おまけで作り出した存在に苦戦する程度ではどの道、長生きできない。

30m級のムカデ先輩に20体のムカデ人間を指揮下に置いて残りは職員たちにぶつける事にした。

 

 

「なんだこの能力!?」

「ふ、ふざけんな!!勝てるかこんなん!!」

「来るぞ!!迎撃しろ!!」

 

 

結婚の悪魔は、新生公安対魔特異2課になる彼らの実力を試す為にムカデ人間をけしかけた!

1万体のムカデを凝縮した人間形態なので人間と同じ強度と実力はある。

 

 

「構え!!」

「「「「ハッ!」」」」

「安藤マサキ及び射撃許可申請者による許可、願います!」

「許可する!!」

 

 

さすがに銃を持ち出した対魔2課であるが、そもそもこの場に居るムカデには再生能力がある。

脚の関節や頭部を撃ち抜いたところで少しだけ足止めするのが精一杯だ。

別にこれが目的なのではないのであるが、爆弾女から遠ざける以外にも用途を見出そうとした。

 

 

(お!罰の悪魔の力だ!)

 

 

罰の悪魔の契約は、罪深き人間が自罰する事で償いする代わりに相手に罰を与えるものである。

契約者の特徴としては、咎人の印である傷が頬や鼻にあり、ものすごく分かりやすい。

たった今、3体のムカデ人間が【罰】の攻撃で死んだ。

契約者の様子を見る限り、罰の悪魔に赦されるまで一生右腕が震え続けるのだろう。

 

 

(殺せ!!殺せ!!ムカデで殺せ!!)

(うっせぇよ!!)

 

 

それよりも捕食したムカデの悪魔がさきほどから調子に乗っているのが気になっていた。

結婚の契約をした剣士がムカデ人間の脚を次々と切断する姿に集中したいというのに…!

 

 

(おまっ!?)

 

 

爆弾女の様子を確認しつつ、戦況を俯瞰した結婚の悪魔は驚愕した!

結婚の契約を結んだ別の契約者が呪い(カース)の武器を持ち出したのだ。

あくまで結婚をする為に自分の力を貸したのであって早死にさせるつもりはなかった。

 

 

「あれ!?」

(ん?)

 

 

ところが、契約者がムカデ人間に武器を刺して号令したのに呪いの効果が発動しなかった。

これには当事者である人間どころか、結婚の悪魔も首を傾げた。

状況を整理する為にムカデの動きを極端に遅くして分析する時間を稼ぐほど衝撃的だった。

 

 

(あ、なるほど!)

 

 

すぐに結婚の悪魔は、呪いの悪魔の契約が不発になった理由を理解した。

 

 

(可哀そうに…長く生きれないんだな)

 

 

悪魔の契約は、必ず契約者と悪魔が契約を結び、守れなかった場合はどちらかが死ぬ。

ところが、悪魔の契約が重複すると別の悪魔の契約が守れない場合がある。

 

 

(余命と寿命は違うはずなのに競合するのか…)

 

 

例えば、3年以内に結婚しないと死ぬ契約をした契約者が寿命が1年になる呪い武器を使うとする。

結婚の契約は余命、呪いの悪魔は寿命を条件に契約している。

 

 

(普通にするな…)

 

 

結婚の契約は、期限内に結婚できるように力を貸すけど守れなかったら契約者が死ぬのが代償だ。

例では、3年以内という条件で力を貸した以上、自得である死に方以外は想定していない。

悪魔の契約は、別の悪魔の契約で上書きできない以上、それは絶対だ。

だから【寿命を1年にする契約】を【結婚の契約】が妨害し、結果的に不発に終わった。

実際は多少の誤差があるが、原理としてはこうなる。

 

 

(なるほど、だから結婚の契約者に呪い(カース)の武器を持たせたのか)

 

 

悪魔と契約者の契約は、基本的には何人たりとも当事者以外で介入する事も上書きもできない。

だからさきほどの職員の寿命は、結婚の悪魔には分からない。

ただ、頭上に出ている結婚の契約のカウントダウンを見る限り、2年ほどしか寿命がなさそうだ。

 

 

(自分の契約を寿命の保険にするなああああああ!!)

 

 

うっかり早川アキは自分の寿命を2年ほどにしてしまった。

だが、結婚の契約で予めそれより長く設定していれば、それより減る事は無い。

その原理を間近で見た結婚の悪魔はご立腹だ!!

 

 

(ムカデ先輩!何をやっている!!さっさと爆弾女を殺せ!!)

(でしたら公安職員の殺害許可を!!奴らを生かしたままターゲットを殺せません!!)

(何の為にムカデ人間を貸したと思ってる!!この大間抜けが!!)

 

 

しかも、たった5人の公安職員に30m級のムカデが苦戦しているのも気に喰わない。

集合的無意識として約95億匹のムカデを総括する結婚の悪魔がムカデ先輩に檄を飛ばした。

 

 

「クッソ!!」

 

 

さすがに40体のムカデ人間の猛攻に耐え切れなかった野茂とその配下は致命的なミスを犯す。

回避行動をしようにも逃げ場がなく、背水の陣で多くのムカデ人間に応戦する羽目になった。

 

 

「コン!」

 

 

たった一言呟いただけで戦況が大きく変わった。

背後に美女を庇っていた野茂を襲撃するムカデたちは突如として出現した狐の悪魔に食われた。

 

 

「ちょっと、後ろ失礼。…ギリギリセーフだったな」

「副隊長…!」

 

 

超巨大な狐の悪魔の背後から現れたのは、東京公安対魔2課の副隊長である。

まさかの味方の増援に野茂も驚きが隠せなかった。

 

 

(おい、なんの為に10億匹を遊ばせていると思ってる!!部外者を入れるなって言っただろ!?)

 

 

結婚の悪魔が仕組んだ結界術には大きな欠点があった。

まずは()()()()()()()()()()()()()()()使()()()()ので本来の物と違って大幅に劣化した事。

なにより、こういった結界術は外部からの攻撃に対して極端に弱いのだ。

 

 

(いえ、我々も対処したのですが、さすがに副隊長級は抑えられませんでした)

(ケッ!!)

 

 

10万匹隊長ムカデから言い訳を聞いた結婚の悪魔は心の中で舌打ちをした。

外部から副隊長が結界に攻撃を仕掛けた事で結界に穴が空いた。

これを意味するのは、外部からの介入を許すという事だ。

 

 

「この味は……」

 

 

一方その頃、ムカデ人間やムカデを丸呑みにした狐の悪魔は気付いた。

これは、ムカデの悪魔のフリをした別の悪魔だと…。

そんな間抜け面した悪魔を激怒している結婚の悪魔が見つめていた。

 

 

「うぎゃああああああああああああああ!?」

 

 

狐の悪魔の悲鳴を聴いて副隊長と野茂は改めて現場を見返す。

 

 

「え?」

「…うわ」

 

 

丁度、狐の悪魔の頭部が1000万匹のムカデによって捕食されていたところだった!

「いやー!!食べないで!!」と泣き叫ぶ狐の悪魔はそのままムカデの大群に消えていった。

 

 

「……はあ、今日は合コンだったのになあ」

「俺も連れて行ってくださいよ」

 

 

あっさりと狐の悪魔を返り討ちにしたムカデ軍団に副隊長は軽口を叩く。

野茂も副隊長の発言に乗って何とか場を切り抜けようとしていた。

 

 

「アチョー!!」

 

 

そんなムカデたちを粉砕したのは、屋上から飛び降りて来た暴力の魔人である。

たった1回の蹴りで100万匹のムカデが粉砕されて更に殴打によって500万匹も追加で死んだ!

何事かと残っていたムカデ人間たちが振り向くと、何者かによって胴体が切り裂かれた!

 

 

「ひええええ!ごめんなさい!ごめんなさい!死んでください!!」

 

 

寿命で作られた双剣でムカデ人間を切り裂いて無力化する東山コベニの姿があった。

天使の悪魔によって作られた寿命武器は、劣化した再生能力をもつムカデ人間を確実に仕留める。

やむを得ず、ムカデ人間がコベニに攻撃を仕掛ける羽目になった。

 

 

「させるか!!」

 

 

そんなムカデ人間たちを同じく寿命武器の小太刀で返り討ちにした荒井ヒロカズが居た。

数か月前とは見違えるほどに成長した姿に上司である結婚の悪魔も鼻が高くなる。

 

 

(…なワケねぇだろ!!)

 

 

公安対魔特異4課の係長である結婚の悪魔は、彼らの介入を望んでいない。

100万匹隊長ムカデに呼び掛けても返事が無いので更に腹立たしかった。

 

 

「こんなに美味しい獲物は初めてです」

 

 

荒井とバディを組んだ蜘蛛の悪魔は、その辺に居たムカデを片っ端から裂けた頭に入れている。

どうやら後で美味しく頂く算段らしく、邪魔なムカデはたくさんの脚でぶっ飛ばしていた。

 

 

(暴力の魔人は新人だから良いとして…プリンシ!!テメェ、分かっててやってるだろ!?)

 

 

悪魔は嗅覚で悪魔を判断する事が可能である。

先日に公安対魔4課に加入した暴力の魔人はともかくプリンシは完全に分かってて攻撃をしている。

 

 

(ええい!!邪魔ばっかりしやがって…!!)

 

 

対魔2課の訓練施設を原点として半径3kmに居る住民を追い払う事には成功した。

だが、民間人の犠牲を避ける事を優先したせいで街を破壊した。

そのせいで余計な介入を招いた!

 

 

「ムカデを殲滅するわよ!!」

 

 

よりによって同じ結婚の悪魔である因幡ナオミとその配下までムカデを攻撃し始めた。

同じ結婚の悪魔が、結婚の悪魔である白狼と共に結婚の悪魔であるムカデを攻撃している。

文章にすると意味不明だが、実際こうだから困る。

 

 

結婚の悪魔(集合的無意識)「なんで自分と殺し合ってるんだよ!?」

結婚の悪魔(ムカデ)   「なんで自分に攻撃されないといけないんだよ!?」

結婚の悪魔(副隊長)   「なんで自分を殺してるんだろ…」

結婚の悪魔(白狼たち)  「なんで同じ自分を攻撃してるんだろ」

結婚の悪魔(金持ち)   「なにやってんだこいつら、馬鹿じゃねーの?」

 

 

これには、高層ビルという安全地帯で酒の肴にする結婚の悪魔も笑いが止まらない。

文字通り、高みの見物をしている2割の本体は、アホみたいな戦いに介入する気はなかった。

 

 

(アホくさ!!)

 

 

マキマを警戒して分裂体との情報共有を怠ったツケを払う羽目になっているのが現状だ。

ついに痺れを切らした全ての元凶である結婚の悪魔(本体の半身)は20億匹のムカデを召集!

集められたムカデたちは一カ所に集められて人間形態を作り始める!

 

 

「はあ……」

 

 

公安対魔特異4課の係長の姿を顕在化させたと同時に20億匹のムカデはこの世から消えた。

肉体再生を司っていた存在が人間になったのでムカデの肉体再生能力も失われた。

 

 

「あ、あんたは特異4課の…」

 

 

ついにムカデの本体が出現したかと思ったら、特異4課の係長だった。

さきほどまでムカデの悪魔と戦っていたと勘違いしていた野茂補佐官は、現状に困惑した。

 

 

「そっちが敵だ!!すぐさまその場から退避しろ!!」

「「え?」」

 

 

係長からの発言に副隊長や野茂、公安職員たちは本気で意味が分からず困惑した。

 

 

「醤油に付けてムカデをムシャムシャ咀嚼する一般人が居てたまるか!!」

 

 

なにより、ムカデを喰いまくっているレゼに結婚の悪魔は激怒していた。

あからさまに可笑しい行動なのに誰も突っ込まないからわざわざ口に出す必要があったのだ。

 

 

「な、お前…ムカデを…」

「まさか…」

「バレちゃしょうがないか…ボン!」

「ぎゃあああああああああああ!?」

「うぎゃああああああああああ!?」

 

 

近くに居たムカデから2個のトンファーバトンを結婚の悪魔が受け取った瞬間!

大爆発が起こり、近くに居た公安職員4名が巻き込まれて殉職した!

 

 

「もうちょっとパワーアップできると思ったのに…」

「なるほど、これは自分のミスだな。しっかり尻拭いをするとしよう…!」

 

 

失った血を補給する為にムカデを食べていたレゼは正体を現した!

真の姿を公安職員に見せつける爆弾女に結婚の悪魔は苛立ちを隠せない!

トンファーバトンを構えて彼女を強襲する事となった。

 

 

*1
階段や手すり、ベランダやバルコニーの外周部の最上部に被せる部材の事、防水層の保護や安全性を高める

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