デンレゼが足掻く度に不幸になるケッコンの悪魔さん   作:Nera上等兵

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34話 勝手に戦え!結婚の悪魔同士の殺し合い!

デンジ君を乗せた車を取り逃がした挙句、結界に閉じ込められたレゼは焦っていた。

 

 

(どうしよう…)

 

 

見渡す限りの地面と空が全てムカデになっており、血の小雨が降り注いでいる。

外界から切り離された“血塗れのムカデの結界”の中は、文字通り地獄絵図だった。

幸いなことに公安のデビルハンターに守られているから辛うじて存命を許されている状況だ。

 

 

「野茂さん!これ以上の足止めは不可能です!!」

「なら、陰湿なお人形ごっこをする本体を倒すまでだ」

 

 

カビの悪魔の力でムカデ人間の関節にカビを生やして動きを妨害する加藤が叫ぶ。

それに対して野茂は30m級のムカデを見据えて両腕を構えるが、彼は浮かない顔をしている。

 

 

(彼らが傍に居るから私は生かされている…か)

 

 

明らかに場違いに強そうな30m級のムカデであるが、何故か建物に激突した後から動きが鈍い。

その証拠にムカデ人間も圧倒的な有利であるはずなのに戦況は拮抗している。

…はずだった。

 

 

「田辺!止せ!!これ以上やると死ぬぞ!!」

「奴らに一矢報いるなら本望です!」

 

 

更に20体の増援が追加されたムカデ人間を見て自分を捧げてムカデ共にカビを生やすようだ。

必死に仲間が「田辺と呼ばれた男」を制止しており、誰も保護した女の子を見ていない。

その様子を見ていたレゼは、地面に生えているムカデを咀嚼して必死に血を補給する。

爆弾の能力は無敵に見えて貧血になりやすく継戦能力がないのでこうするしかった。

 

 

(まだいける…いけないとまずいの!!)

 

 

本来あれば公安職員を殺害して血を摂取するつもりだったが、都合良く雑魚のムカデがいる。

だからムカデを片っ端から咀嚼して血を取り込むレゼの心配は1つだけだ。

ムカデを食べる姿を見て民間人じゃないと判断されて見捨てられる事である。

 

 

「クッソ!!」

 

 

保護している女の子が敵だとは公安対魔2課の面々は夢にも思っていない。

どうしようもなくなった野茂は最後の手段に出ようとしていた。

後ろでバリバリとムカデを咀嚼している女を確認する余裕などなかった。

 

 

「コン!」

 

 

何者かの契約で狐の悪魔が出現した瞬間、結界に穴が空いたとレゼは察した。

急いで血を取り込もうとするが、ムカデはまずくて食が進まない。

 

 

(あ!)

 

 

どうするべきか迷い、周囲を見渡すと醤油差しが転がっていた。

日本で遭遇し、刺激に感激した調味料でムカデを調理してみる。

地面がムカデになっており、獲りたい放題であるので誰も気にしないだろう。

 

 

(早く追わないと…!)

 

 

できるだけ早くここから脱出しないといけない。

だが、少しでも血を補給しないとあの化け物と応戦できる気がしなかった。

ズルズルと血を取り込む時間を増やす彼女であったが…。

 

 

「うぎゃああああああああああああああ!?」

 

 

ムカデの大群に捕食される狐の悪魔の悲鳴を聴いて時間が無いと思った。

でも、やめらない止まらない。

絶妙な塩辛さとムカデの感触がレゼを虜にする。

 

 

「アチョー!!」

「ひええええ!ごめんなさい!ごめんなさい!死んでください!!」

 

 

狐の悪魔の使い手が結界を破った影響により次々と増援が到着した。

公安に所属する悪魔や魔人は生き生きと活動しており、祖国と運用が違うとしみじみと思う。

そう思いながら醤油の塩辛さに我慢しつつ血を(すす)り続けた。

 

 

「はあ……」

 

 

ついに大量のムカデを使役していた存在が顕在化した。

思いっきり溜息をついており、彼としても事態の収拾がつかなくなったのだろう。

 

 

「あ、あんたは特異4課の…」

 

 

最期まで戦い抜くと決意した野茂を筆頭にムカデと交戦していたデビルハンターたちの動きが止まった。

これはまずいと脳内では思いつつレゼはムカデを食べるのをやめられない。

祖国ではまともに食事をしたことが無い彼女は、これでもかなりマシな飯であったのだ。

 

 

「そっちが敵だ!!すぐさまその場から退避しろ!!」

「「え?」」

 

 

ついにムカデを喰っている事の誰も違和感に気付かない公安職員に激怒したのか。

今まで交戦していたムカデの集合体である金髪の壮年男がレゼに向かって指を差して命令を下す。

 

 

「な、お前…ムカデを…」

「まさか…」

 

 

ようやく保護していた民間人がムカデを捕食しているのに気付いた公安職員たちが慄き始めた。

周囲からの扱いを見て自分を指摘した化け物に反論できる余地がないとレゼは判断!

 

 

「バレちゃしょうがないか…ボン!」

 

 

あっさりとピンを抜いて取り押さえようとした公安職員たちを爆風で吹っ飛ばす!

 

 

「ぎゃあああああああああああ!?」

「うぎゃああああああああああ!?」

 

 

あくまでも爆風で吹き飛ばすだけで殺すつもりはなかった。

だが、ムカデの血を取り込み過ぎて威力が上がっていた様だ。

取り押さえに掛かった2人どころか、少し離れた場所に居た2名の職員を絶命させた。

 

 

(こ、こんなはずじゃ……)

 

 

できるだけ殺人を避けていたレゼは、改めて爆弾女に変身したが、内心では慄いている。

無関係の人を殺さないと考えた彼女の願いはもう叶わない。

それもさきほどまで自分の命の恩人であるならば尚更だ。

 

 

「もうちょっとパワーアップできると思ったのに…」

 

 

苦し紛れの嘘も、自分を鼓舞するには力不足だ。

またしても恩人を殺してしまったレゼの覚悟は揺らぎつつあり、状況は悪化する一方だ。

 

 

「なるほど、これは自分のミスだな。しっかり尻拭いをするとしよう…!」

 

 

なにより、トンファーバトンをそれぞれの手で握り締めた化け物が苛立っている。

この場に居る全員が意図せずに失敗し、これ以上何も失わないように足掻こうとする。

たった、それだけの為に死人を更に増やそうとしていた!

 

 

(これならどう!?)

 

 

半日も経ってないのに2回も遠距離起爆が失敗したのでレゼは手前を起爆させる事にした。

だが、化け物が左足を強く踏み込んだだけでアスファルトが捲り上がり大きな壁となった。

その勢いは凄まじく周囲の下水道管は破裂し、水柱が100カ所以上発生した。

 

 

「で?投降する気は?」

「ない…!」

「なら抹殺するまでだ」

 

 

公安対魔2課に所属する職員を爆風から守った公安対魔特異4課の化け物は最終通告をする。

前にもやったはずだが、周囲の目を気にしており、改めて建前を作ったようである。

当然のことながら生かす気が無い提案じゃないのでレゼは拒絶する事しかできなかった。

 

 

「シャア!!」

 

 

これすら時間稼ぎだった。

頭上から降って来た暴力の魔人が放つ踵落としをレゼは右腕で受ける羽目になった。

 

 

(あ、危なかった…)

 

 

武器人間になっていなかったら即死していただろう。

彼女の足場が大きく凹んで亀裂が迸り、衝撃波が地面を駆け抜けていった。

 

 

「嘘ォ!?俺のマジ蹴りだぞ!?マジでか!?」

 

 

まさか受け止められると思わなかった魔人は距離取ってビビり散らかしている。

 

 

(この…!)

 

 

だが、レゼからすればデンジ君の為に用意した勝負服が破れてご立腹だ。

両足に減り込んだアスファルトの破片のせいで靴はダメになり、短パンも少し破れた。

勝てないならせめてこいつだけでも巻き添えにしようとする彼女であったが…。

 

 

「コベニちゃ~~~ん!作戦変更!このお方、俺たちよりずっと強い!戦略的撤退!」

「待てよゴラァ!!」

 

 

双剣を握る女性職員に両手を口に構えて呼び掛けた魔人はさっさと敵前逃亡した。

これには、すぐに連携しようとした特異4課の係長もご立腹!

攻撃を中断して逃亡した魔人に呼び掛けるほどに彼の醜態に激怒した!

 

 

「じゃあ、そういう事で!係長、後はよろしくお願いします」

 

 

ムカデの壁を避けて扉が開いていた適当な民家に逃げ込んだ魔人は顔を出して挨拶をする。

そして何事もなかったように扉をバタンと閉じてどこかへ行ってしまった。

ムカデの結界を抜けて侵入してきた魔人は民家の不法侵入で去っていったことになる。

 

 

「ひいぃぃぃ!!ごめんなさい!ごめんなさい!!仕事辞めますから許してくださぁいい!!」

「コベニ!!お前も何やってんだ!?」

 

 

奇襲が失敗したどころか、さきほどの衝撃で腰が抜けたコベニはすぐに爆弾女に命乞いをした!

武器を捨てて無様に土下座をした挙句、デビルハンターを辞職するとまで告げた。

 

 

「せめてやられたフリをしろ!!ここで命乞いするな!!」

「ひいいいいいいいいい!!ごめんなさい!!ごめんなさ~い!!」

 

 

公の場で公然と醜態を晒す馬鹿共にさすがの上司も本気でこいつらも殺すべきか迷うほどだった!

とりあえず、目の前の爆弾女が敵だと判断した公安職員が狐の悪魔を召喚しようとするが…。

 

 

「出ない!?」

 

 

何故か狐の悪魔から応答がないせいで契約で召喚する事ができなかった。

 

 

(あれ?)

 

 

一方、この娘を人質にすれば危機を脱出できると思い始めたレゼであったが…。

 

 

「いやああああああああああ!!食べないで食べないで!!私、美味しくないですよおおお!?」

 

 

モン〇ターボールを投げれば捕獲できそうな女は、あっさりとムカデの大群に攫わ…保護された。

血塗れになった彼女は喚き散らすが、これ以上の醜態を晒さない為に口を塞がれた。

涙目になったが、それ以上発言すれば上司に殺されるなど思っておらず、命拾いしたと言える。

なお、これはムカデたちの独断であり、本体である係長の意志ではなかった模様だ。

 

 

「はあ……ある意味息が合うバディだったな」

 

 

ボロボロになったムカデ包囲網を再構築させる為にムカデの主である係長は指を鳴らす。

さきほどまで合体していたムカデ人間は解体されて1万匹のムカデがムカデの大群に合流する。

 

 

「な、なあ!?これ、ホントにあんたの力なのか!?契約にしちゃ規模がデカすぎるぞ!?」

 

 

名も知らぬ対魔2課の職員がムカデの動きを統べる特異4課の係長に恐る恐る質問した。

職場が違うとはいえ同じ組織から派生した職員のはずなのに人外に見えたようだ。

 

 

「ああ、そうだ。ついでに貴公らに警告しておくか」

 

 

口と両瞼から血を垂らし始めた係長は、職員の質問に応えるかのように口を開いた。

 

 

「公安対魔2課に告ぐ!速やかにこの場から撤退せよ!後退しなければ命の保証はしない」

「な、なにを…」

「公安対魔2課に告ぐ!!撤退せよ!!撤退せよ!!死にたくなかったらさっさと失せろ!!」

 

 

警告を復唱した係長が指を鳴らすと、周囲に展開していたムカデの大群に変化が訪れた!

790万匹のムカデが合体し、400m級のムカデとなってこの世に顕在した!

着地した衝撃で訓練施設を中心に大きく地面が揺れて駐車場に大規模な地盤沈下が発生する!

 

 

「……全く、特異課の上層部はいろんな意味で全員頭おかしいな」

「同感です。副隊長殿…」

 

 

超巨大なムカデの着地による衝撃に耐えた副隊長の発言に野茂補佐官も同意するしかなかった。

 

 

「何をしている!さっさと後退しろ!死にたくなかったな!!」

「はいいい!!」

「うわああああ!?」

 

 

続けて副隊長が後退を命令すると対魔2課の職員たちは持ち場を捨てて逃走を開始した。

副隊長と野茂もゆっくりと後退りしており、特異4課の上位実力者の実力を推し測るようだ。

 

 

「荒井、蜘蛛の悪魔。お前たちも後退しろ」

「りょ、了解です!!」

「承知しました」

 

 

さきほどと打って変わって優しく後退を命じたところを見る限り、直属の部下なのだろう。

そう考えたレゼは、自分の状況を嫌でも理解した。

 

 

(あ、終わった……)

 

 

ここまで爆弾女は空気だったが、こうなったのには理由がある。

少しでも動けば、何もできずにぶっ殺されるのを理解していたからだ。

それだと公安職員を巻き込むので今まで生存できていた。

その味方が後退した以上、レゼの生存を保証する物などなくなった。

 

 

「コン!」

 

 

今度は4階のビルに匹敵するほど大きい狐の悪魔の頭が出現した!

何故か血塗れになっているが、ムカデといい何かギミックがあるのだろう。

レゼは間一髪、攻撃を回避するが、出現した狐の悪魔の口の中には大量のムカデが潜んでいた!

 

 

「くっ!?」

 

 

口から放出されたムカデの津波が時速100kmを越えてレゼに襲い掛かる。

必死に爆発で回避するが、数が多すぎて振り切れない。

 

 

「ムカデ先輩、ムカデ兄貴、目の前に居る爆弾女を仕留めろ」

 

 

その元凶である化け物が巨大なムカデたちに爆弾女の抹殺を命じる。

回避行動するのに専念して隙だらけの獲物に負ける事は無いと確信しているように…。

 

 

「せめて…!!」

 

 

さきほど摂取した血を用いて燃料気化爆弾を生成したレゼはムカデに向かって放出した。

結果、執拗に追跡をしてきたムカデの大群には有効だった。

だが、400m級のムカデは直撃を喰らってもびくともせずに顎を開いて高速で突っ込んでくる。

 

 

(はやっ!?)

 

 

時速300kmで突っ込んでくる400m級のムカデの速度にようやく気付いた時点で手遅れであった。

このままデンジの心にトラウマを残したまま無様に死ぬはずだったレゼは…。

 

 

「はぁ…」

 

 

唐突に出現した血塗れの白狼の前脚で超巨大なムカデが殴り倒されて命拾いをした。

 

 

「因幡の白狼だ!!」

 

 

誰かがそう叫んだが、レゼはそれどころじゃない。

何度も邪魔されて堪忍袋の緒が切れたのか、化け物の様子が可笑しかったのだ。

警戒するレゼと対面する結婚の悪魔は既に正気ではない。

 

 

(もういい!!マキマにバレても構わん!!今度こそ奥の手を…!)

 

 

今までマキマに仕返しをする為に自分をわざと弱体化させたり、奥の手を隠した。

しかし、さきほどから失態が続いて苛立っている結婚の悪魔はいつになく短気になった!

いっそ、逃げきれていない自分の部下や対魔2課の構成員を巻き込む奥の手を使おうとした!

 

 

(我が血を主に…)

 

 

左薬指に填めた結婚指輪をハンドベルに変えて全身から血を噴き出す!

そして今までとは比べ物にならない強力な代償と引き換えに即死攻撃を仕掛けようとしたその時!

頭の中でハンドベルが鳴った!

 

 

(くそがああああああああああああああああ!!!)

 

 

即死攻撃を仕掛けようとする度に邪魔が入る。

今度は、新規契約の通知であった。

 

 

(誰だよ!?“触媒契約”をばら撒いたアホは!!)

 

 

悪魔が人間と契約する時、双方が直接面会しなくても契約が可能な場合がある。

分かりやすく説明すると、早川アキが持っていた呪いの刀みたいなもんである。

物体を通じて人間と交渉し、契約を結んだり代償と引き換えに力を行使するのが“触媒契約”だ。

今回はそういった道具を利用する事で契約が可能となる触媒契約の申請がいきなり押し寄せた。

 

 

(ああ、鬱陶しい!!)

 

 

悪魔というのは、世界で一番契約にうるさい存在である。

よって契約が可能になった場合、無視できずに契約と向き合う必要があった。

その為、爆弾女のレゼを殺害するより契約内容を向き合わざるを得なくなった。

 

 

(あの!!なんで味方にぶたれるんですか!?)

(知るか!!)

(えぇっーー!?)

 

 

400m級のムカデ兄貴は自分を生み出した存在に切り捨てられて動揺する!

真面目に仕事をしたはずなのに仲間にボコられた挙句、この扱いだ。

どうすればいいのかさっぱり分からなかったせいでその場でプルプル震えている有様だ。

 

 

(ムカデ兄貴!ムカデ先輩!!何をやっている!!さっさとあの女を殺せ!!)

(は、はい!!)

(うおおおおお!!)

 

 

その姿を見た結婚の悪魔は更に怒りで頭が可笑しくなりそうだった。

辛うじて残った理性で命令をし、30m級と400m級のムカデはすぐさま攻撃に転換した!

さきほど攻撃を仕掛けた白狼は、創造主と同等の存在に睨まれて冷や汗を掻いて静観している。

 

 

(まただあああああああああ!?)

 

 

今度も400m級のムカデは2匹の白狼に殴打されて地面に叩きつけられる!

その余波で訓練施設と周囲の建物が倒壊し、施設に残っていた公安職員が圧死する羽目になった。

30m級のムカデに至っては既に瞬殺されていた。

 

 

(ムカデを討伐せよと言われてきましたが、合ってますよね?)

(因幡さんに命じられて駆けつけました!!)

 

 

爆弾の悪魔の全力をもってしても傷1つ付けられない超巨大なムカデですら白狼の敵ではない。

意気揚々と味方であるムカデを攻撃しながら結婚の悪魔に報告する白狼たちであったが…。

さきほどから邪魔しかされていない悪魔からすれば、敵であった!

 

 

「邪魔だ!!」

「ハップルパフゥウウウ!?」

「イ゛ェアアアアアアア!?」

 

 

係長に化ける結婚の悪魔は、今まで蓄積された怒りをぶつけるように2匹の白狼を殴打する!

哀れにもぶっ飛んだ白狼の“スコル”と“ハティ”は東京都の夜空を彩る星の一部になった。

 

 

「ワン!?」

「バウ!?」

 

 

なんで結婚の悪魔の命令に従ったのに結婚の悪魔にぶっ飛ばされるのか白狼たちには分からない。

ムカデの包囲網を突破して訓練施設跡地に到着した白狼は次々と行動を停止させた。

同じく包囲しているムカデも同士討ちによる動揺で完全に攻撃する機会を見失う。

そのせいで隙ができてしまい、レゼが逃げ出す余裕ができた。

 

 

(なんか分かんないけど!今がチャンス!!)

 

 

実情は、マキマを警戒し過ぎて完全に情報共有していないのが裏目に出た。

おかげで爆発と共に宙を浮かぶレゼは、取り込んだ血が示す方に飛んでいく!

それを追おうとするムカデと白狼たちがぶつかり、彼女を取り逃がす失態を犯した。

 

 

(クソクソ!!プリンシ!!お前!!後で覚えてろ!!)

 

 

大量に寄せられた“結婚の契約”の内容を目に通す結婚の悪魔は元凶に呪う。

婚姻届に見せかけた簡易契約をプリンシにばら撒かれてこうなったと理解したからだ。

どうやら自分と分裂体の動きを観察する為にこんな真似をしたようである。

3分で全ての契約内容を見終わる頃には、抹殺対象は地平線の彼方に消えていた。

 

 

「クソッタレ…」

 

 

すぐに後を追おうとするが、今度は瞬殺できない存在の介入を受ける羽目になった。

 

 

「私のハティちゃんとスコル君をよくもぶっ飛ばしてくれたわね!?」

「やかましい!!」

 

 

超音速で振り抜かれた20mの鞭を蹴り飛ばした係長は因幡副隊長の発言を一蹴する。

その余波で11体の白狼と18億匹以上のムカデが成す術無くぶっ飛んでしまった。

 

 

「な、な、なにをやってんだ…!?」

 

 

一応、民間人が犠牲にならない程度には手加減をしていたらしい。

瓦礫や建物の影に隠れて見守る公安職員の前で公安対魔特異4課の職員同士で交戦が発生した!

 

 

「なんでこうなったんだろ……」

 

 

誰もが思った疑問をレゼは口にする。

メガロポリスと言われる東京都の夜景を眺めながら爆発で空を駆ける少女に迷いがある。

もしも、自分が選択肢を間違えなければもっと穏便に事が済んだと考えてしまったのだ。

 

 

「よお!嬢ちゃん!」

 

 

だが、迷いを感じている暇がないらしい。

 

 

「命の恩人に挨拶もなしで帰るなんて冷たいじゃないか~?」

 

 

カラスの悪魔に騎乗して爆弾女を追いかける野茂。

 

 

「大人しく捕まってくれると上層部に陳謝して君を庇ってあげるよ?」

 

 

同じくカラスの悪魔に騎乗する対魔2課の副隊長が事実上の最終通告を発した。

 

 

「やだ!!」

「だと思ったよ!」

 

 

爆弾女が提案を拒絶すると副隊長は斜めに背負っていた鞘から抜刀し、刃を横に構える。

 

 

(これで撒く!!)

 

 

そもそもレゼは公安職員と交戦する気が無い。

急降下して追手の追跡を撒こうと試みた。

 

 

「ダメかー。あーあー」

 

 

急いで離脱しようとしたレゼの視線の先には大量のナイフが突っ込んでくるのが見えた。

すぐさま爆破しつつ、今度は急上昇して彼らの頭上を陣取ろうと試みた!

 

 

「ふん!!」

 

 

しかし、野茂の踵落としを喰らって地面に叩きつけられる羽目になった。

さきほどの魔人の踵落としほどの威力は無かったが、それでも痛い。

 

 

「この……!」

 

 

すぐに立ち上がったレゼは、目にも止まらない副隊長が放った一閃で首を割かれた!

急いで肉体を再生させようと改めて起爆のピンを抜いたが、何故か爆発しない。

何事かと感じる暇もないまま、今度は投擲されたナイフが心臓に刺さった。

 

 

「“銀の悪魔”が生み出した退魔の刀の切れ味はどうだい?悪魔には効果抜群だろう?」

 

 

仰向けに倒れた爆弾女から生えるダイナマイトの前掛けを踏む副隊長は瀕死の彼女を見下ろす。

わざとらしく種晴らしをしつつ首元に刃を突き付けた。

あくまでこれは代償であり、“銀の悪魔”を讃える言葉を告げているだけである。

 

 

「じゃあ、さようなら」

 

 

改めて首に刀を突き刺して捻り潰してそのまま魚雷みたいな頭を真っ二つに切断した!

心臓と脳を失った悪魔は、根源的恐怖の悪魔かそれに匹敵する悪魔でない限り死ぬしかない。

実際、肉体の再生ができないレゼは、脳髄を地面と空気に晒して死ぬ未来しか残されてなかった。

 

 

「よし、野茂!彼女をバラして運ぶぞ」

「分かりました。…で?合コンはどうします?調理好きの殿方はモテるって話っすよ?」

「しばらくこの子で我慢するっていうのは?」

「勘弁してくださいよー!ネクロフィリアなんか…」

 

 

とりあえず、悪魔の四肢をバラして持ち運びしやすくする必要がある。

だが、人間の姿をした悪魔を解体する以上、軽口を叩いて精神を落ち着かせる必要があった。

 

 

「ボン!」

 

 

僅か20秒だけ悪魔の死体から気を逸らしただけであった。

本当にレゼは死んでいたし、本来なら誰かの助けが無いと復活しないはずであった。

 

 

(あ、危なかった…!)

 

 

さきほど助けがないと復活しない死を経験したレゼは、事前に自分の頭を時限爆弾にしていた。

銀の悪魔の契約で作られた刀で切り裂かれる前に起爆を設定したので難を逃れたというわけだ。

そのせいで対魔2課の精鋭である野茂と副隊長は予想外の不意打ちを喰らう羽目になった。

 

 

「くっ!?」

 

 

すぐに異常を察した副隊長が退魔の刀を振り上げたが、起爆で復活したレゼの方が速い!

腹部を右腕に貫かれて起爆された彼は胴体を爆散されて飛んでいった頭が地面に転がった。

 

 

「副隊長おおおおお!!?」

 

 

他の武器人間では時限による細工で復活しないのでこれは完全に副隊長には非がなかった。

レゼとしても、本日に経験した1回目の死が無かったら時限起爆など思いついていない。

野茂が発した凄惨な叫びは、副隊長を殺害したレゼの全てを強く揺さぶるようであった。

 

 

「このおおおおおお!!」

 

 

激怒した野茂が突き出す左手は、同じく突き出された導火線を纏う悪魔の左腕を大きく切り裂く!

――それだけで終わった。

一方その頃、練馬区にある対魔2課の訓練施設から脱出した車は狭山自然公園前の道路を走る。

 

 

「さっきの話、本当なのか?」

「間違いないよ、あの血の匂いは結婚の悪魔だ」

 

 

運転手である早川アキが助手席に座る天使の悪魔からムカデは敵ではないと知らされた。

しかも、ムカデじゃなくて結婚の悪魔そのものだと言われて混乱する羽目になった。

 

 

「どうする人間君?このまま奥多摩*1まで逃げるの?」

「一旦、考えさせてくれ」

 

 

とりあえず、情報を整理する為に近くにあった駐車場に車を停めた。

 

 

(山岳部にある対魔3課に逃げ込むつもりだったが…)

 

 

本来あれば、青梅市を抜けた山間部を走って対魔3課の世話になるつもりだった。

しかし、ムカデの大群が味方であると分かった以上、都市部に戻っても良い気がした。

 

 

「しょうがない。このまま3課まで走らせるぞ」

「えー、帰ろうよ」

 

 

だが、あれほどのムカデの大群が出現したのだ。

帰路に就こうにも渋滞に巻き込まれるのが目に見えている。

一旦、対魔3課に向かおうとアキはサイドブレーキを降ろしてアクセルペダルを踏もうとした!

 

 

「……あれ?車、走らせないの?」

 

 

いきなり硬直して動かなくなった運転手に天使の悪魔は質問をした。

 

 

「畜生…勝手にヤな未来を見せやがったな……!」

「へ?」

 

 

ところが、意味が分からない事を言い出して天使の悪魔は困惑した。

ただ、フロントガラス越しに何かが降って来たので何事かと前を見る。

 

 

「うわ……」

 

 

落下してきた存在は人間っぽいが、生首をそれぞれ構えて見せつけて来ている。

どう見ても敵対する悪魔です。

本当にありがとうございました。

 

 

「バケモンが……!」

 

 

ハンドルを両手で構える早川は、さきほど見せられた未来の光景を再認識し、戦慄した!

野茂さんも副隊長もそう簡単に死ぬタマではないと分かっているからこそ相手の実力を察した。

 

 

「私の実力を見せる為に殺して見せた。でも、これ以上の人殺しはしたくない」

 

 

目の前の悪魔は、女であるようだ。

 

 

「デンジ君を車から降ろして去りなさい」

 

 

ここでデンジを見捨ててれば助かるだろう。

そう考えた早川アキは、アクセルペダルを思いっきり強く踏み込んだ!

 

 

「やるもんか!!」

 

 

車を急発進させて埼玉県立狭山自然公園の方へと走り出す!

とにかく近隣の住宅に被害が出ないようにこうするしかなかった!

 

 

「はぁ……」

 

 

またしても説得が通じなかったレゼは2個の生首を地面に置いて急発進した車を追いかけた。

 

 

「……っ」

 

 

ところで、ギロチンで首を刎ねられても即死できずに少しだけ頭に意識が残るとされる。

爆発の衝撃で意識を消失した副隊長と違って野茂は辛うじて意識が残っていた。

視界が真っ赤に染まっており、深淵に意識が引き摺り込まれようとしているその時!

 

 

「野茂さん、まだ生きたいか?」

 

 

激闘の末、結婚の悪魔(1割)を撃破した結婚の悪魔(半身)が野茂の頭に質問する。

 

 

「少しでも念じれば力を貸すぞ?」

 

 

公安対魔特異4課の係長は生首に自分と契約するか問いかけた。

その表情は、力に飢えている人間に語りかける悪質な悪魔の表情をしていた。

 

 

*1
東京都の最西端に位置する自然豊かな場所。東京都に憧れる若者のイメージを覆すド田舎かもしれない

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