デンレゼが足掻く度に不幸になるケッコンの悪魔さん   作:Nera上等兵

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35話 悲しい事実に気付いたデンジ君

野茂さんや対魔2課の協力のおかげでなんとか脱出できた。

公用車を運転する早川アキはさっそく車内無線に手を出した。

 

 

「…な、なんだこれ!?無線がイカレていやがる!!」

 

 

一通り操作したものの無線の送受信ができないと発覚した。

もう一度電源ボタンを押し直すと爆音が鳴り出して慌てて電源を落とした。

 

 

「どうするの?」

「ここで交戦するわけにもいかないだろ?安全な場所まで撤退するぞ」

「いいねそれー」

 

 

天使の悪魔の質問に対してアキは即答した。

街中にもムカデの大群が出現している以上、交戦しても利点が無い。

だからといってデビルハンター東京本部に辿り着くのも難しい。

 

 

(一旦、対魔3課と合流するか…!)

 

 

仕方なく運転席の窓から車上にパトランプを乗せて転落防止用のロックをかける。

そしてサイレンアンプを操作して警光灯を作動させてサイレンも鳴らした!

これにより、道路交通法第39条および同法施行令第14条の規定に基づき“緊急車両”となった。

 

 

「警察みたいだねー」

「公安のデビルハンターは公安警察の一種だから警察だぞ」

「そーなの?」

「そうだ」

 

 

天使の悪魔は他人事で話を進めるが、アキの表情は暗い。

緊急車両と判断した民間人の車両が次々と道を譲ってくれる。

既に消防車や救急車、複数のパトカーとすれ違っており、自分の独断が正しいか未だに迷った。

 

 

「で?これからどうすればいいの~?」

「お前は2人に血を飲ませてやってくれ」

「え~~仕方ないな…もう」

 

 

まずはデンジとサメの魔人に血を与える必要がある。

助手席に座る天使の悪魔に命じて血を分けるように命じた。

素直に悪魔が命令に応じたのは、悪魔と交戦する気がないからであると分析!

 

 

(考えろ!考えるんだ!次に何が来るか…!)

 

 

「未来最高」と呼べば右目に宿る未来の悪魔が未来を見せてくれるのは知っている。

公安一悪魔嫌いと自称するアキからすれば絶対に頼れなかった。

係長と同じく悪魔の力を極限まで使わずに自力でなんとかするつもりだ。

 

 

(とにかくムカデの悪魔にデンジをやるわけにはいかない…!)

 

 

早川アキは、デンジとビームを瀕死にしたのはムカデだと勘違いした。

だから都市部とは真逆の方向に車を走らせた。

まるで東京都区部(東京23区)から脱出するように練馬区の西に向かっている。

 

 

「ビーム!」

「はい…」

「チェンソー様とやらが大切なら俺と口裏を合わせろ」

「え……」

「デンジは、祭りで楽しんで道路の真ん中で寝ていたら車に轢かれたと言え!」

 

 

デンジが祭りを大切にしていたのは分かっていた。

なので虫の息であったサメの魔人にさきほどの出来事を黙らせる事にした。

 

 

「いいの?」

「ああ、真実についてはマキマさんが伝えてくれる。今は余計な事をさせないのが大事だ」

 

 

デンジは馬鹿だがアホではない。

恐怖心は無い代わりに人並みの感情があるし、悩んだり悲しんだりする。

早川アキは、馬鹿な同郷人に気をつかって情報を検閲しようと試みていたのだ。

 

 

「はっ!?」

「ねえねえ、チェンソー君が蘇ったよ?」

「そうだな」

 

 

先にチェンソー人間に血を与えた天使の悪魔は、彼の胸部に生えたスターターロープを引いた。

チェンソーの起動音と共に肉体が元に戻り、数秒後にデンジは目覚めた。

その様子を天使の悪魔を運転手に報告すると彼は肯定した。

 

 

「デンジ、お前何をやっていた!?」

「はえ!?」

「ムカデの悪魔が街中で暴れまくってんだ!それなのにお前は暢気に道路で寝てやがって!!」

「…え!?」

 

 

アキパイセンの発言を聞いたデンジは耳を疑った。

確かレゼと祭りでデートして楽しんでいたはずだ。

間違ってもその辺の酔っぱらいみたいに道路で大の字になって寝転んでいなかった。

 

 

「待てよ…!…あれ?」

 

 

反論しようとしたデンジだが、ぶら下げていたカメラがないのに気付いた。

もしも、あのカメラがそのまま公安に回収されると困る。

一般女性のレゼが公安にマークされる事になるからだ。

 

 

「な、なあ!俺のカメラ知らねぇ!?」

「知らん!無様に車に轢かれたお前の死体にはそんなもんはなかったぞ」

「いや、車にやられたつもりはねぇが…」

 

 

間違ってもデートしていた女の子に殺されましたなどとデンジは言えなかった。

もし、それがバレればレゼを殺す為に公安のデビルハンターが総員で動き出す。

馬鹿だが間抜けではない彼はそこまで考えていた。

 

 

「とりあえず寝とけ!」

「え!?」

「それとも今まで起こった出来事の報告でもするのか?」

「しませぇーん!寝まーす!!」

 

 

ここまで考えて頭が痛くなったデンジは、アキパイセンの提言通りに寝る事にした。

 

 

(呆れるほど単純だな…)

 

 

すぐにいびきを立てて寝た彼にアキは呆れを通り越して憧れすらあった。

フロントガラス越しに見えた看板には『多摩湖』*1が近い事を示していた。

 

 

「人間君、ちょっと聞いていい?」

「どうした?」

 

 

サメの魔人に血を飲ませた天使の悪魔は、運転手に自分が思っていた事を質問する事にした。

 

 

「デビルハンター東京本部から遠ざかっているけど、本当に道はあってるの?」

「いや、このまま対魔3課の施設がある西多摩郡*2に向かうつもりだ」

「奥多摩まで行くの?」

「田舎のネズミが好きなお前にはピッタリな場所じゃないか」

 

 

家族を銃の悪魔に殺されたアキは対魔2課の野茂さんと逢うまでまともな精神状態じゃなかった。

銃の悪魔を殺す夢は変わっていないが、少なくともユーモアを言えるようになった。

だからこそムカデの大群に立ち向かった彼らの事が心配になってしまう。

 

 

「…もしかしてムカデが敵だと思ってる?」

「むしろなんで敵じゃないと思った?」

 

 

デンジが目覚めないように小声で会話をする早川アキは天使の悪魔が言いたい事が分からない。

さっきだって放水に耐えた5m級のムカデが消防車2輌を破壊していたのだ。

どう考えたって人類の敵にしか見えなかった。

 

 

「ムカデは味方だよ。血の匂いで分かる」

「……は?」

「そうだよねビーム?」

「正解!」

 

 

だから天使の悪魔やサメの魔人の発言が信じられなかった。

 

 

「というか、ムカデの悪魔に偽装するなんて結婚の悪魔は何を考えてるんだろ?」

「銃の悪魔の仲間が暴れるから皆を避難させるって…」

「ふーん、ムカデから聴いたのか。僕は知らなかったなー」

「待て待て!お前ら、何を言っている!?」

 

 

銃の悪魔の仲間!?あのムカデの悪魔が結婚の悪魔!?

とんでもない情報が羅列して知らされたアキの頭はパンクしそうだった。

 

 

「あれ?爆弾女から逃げる為に車を走らせたんじゃないの?」

「はあ!?」

「レゼって女、マジで強い。あの結婚の悪魔と交戦して生き残るほど強い…!」

「待て待て!まずは話を整理するぞ」

 

 

すぐにでも胸ぐらを掴んで情報を訊き出したい気持ちを抑えたアキは改めて口を開く。

 

 

「さっきの話、本当なのか?」

「間違いないよ、あの血の匂いは結婚の悪魔だ」

 

 

まずはムカデの悪魔の正体は結婚の悪魔で民間人を避難させる為に暴れさせた事!

さすがに悪魔と魔人が同じ事を肯定したら信じざるを得ない。

 

 

「どうする人間君?このまま奥多摩まで逃げるの?」

「一旦、考えさせてくれ」

 

 

天使の悪魔の提案にアキは即答する事ができなかった。

ちょうど、狭山自然公園前にあった駐車場が見えたのでそこで車を停車させた。

 

 

「人間君も大変だね」

「そうだよ」

 

 

とりあえず、自分の考えを信じて車を走らせる事にした。

 

 

「しょうがない。このまま3課まで行くぞ」

「えー、帰ろうよ」

 

 

顔馴染みが居ない場所は嫌いな天使の悪魔は駄々を捏ねるが…。

 

 

(うるさくて眠れねぇ…)

 

 

ここまで騒音の中でデンジが眠れるわけがなかった。

せっかく寝たのに声で起こされた彼は瞼を閉じて寝ているフリをしているだけだ。

 

 

「……あれ?車、走らせないの?」

「畜生…勝手にヤな未来を見せやがったな……!」

「へ?」

 

 

アキパイセンと天使の悪魔が何か気になる事を言っている。

とりあえず、何が起こったのかデンジなりに考えてみる事にした。

 

 

「バケモンが……!」

 

 

どうやら化け物が出たらしい。

悪魔が大っ嫌いなあいつが言うんだから相当ヤバいに違いない。

 

 

「私の実力を見せる為に殺して見せた。でも、これ以上の人殺しはしたくない」

 

 

ところが、レゼの声が車外から聴こえてデンジは目を覚ました。

 

 

「デンジ君を車から降ろして去りなさい」

 

 

後部座席に座ってシートベルトを填めるデンジは、フロントガラスに悪魔が見える。

いつも自分を見て頬を赤くしながら笑みを浮かべた女の子に見えなかった。

 

 

「やるもんか!!」

「…うお!?」

 

 

車を運転している早川アキが急発進した衝撃で全身が前に傾いた。

すぐに後部座席に身体が押し付けられてハリウッド映画並の運転を見る事となった。

直後、後ろで爆発音がしたと共に車の上に何かが落下する音が聴こえた。

 

 

「レゼ!!」

「……そうだよ!」

 

 

着火した右手で車を爆散させようとしたレゼはデンジの発言で攻撃を中断させた。

できるだけいつもと同じ返答をしてみせたが、実際に通じるとは思っていない。

 

 

「お前ん!俺のカメラ知らねぇ~か!?」

「……知らない~よ?キミの仲間が持ってたんじゃないの~?」

「それじゃまずいだろ!?」

 

 

何故かカメラの話が出て来たのでレゼも困惑する。

寿命武器を生成して柄を両手で握り締める天使の悪魔も困惑したし、アキも驚いた。

 

 

「なにがまずいの~?」

「俺んとお前が写った写真が公安にバレたらただじゃすまねぇぞ!?」

「おま!?そんな事をやってたのか!?」

 

 

デンジは素直にレゼに身バレの危険性を述べたが、レゼとしてはもはやどうでもいい。

名も顔も組織も割られた以上、隠す必要が無かった。

その一方でデンジに常識を教えているアキからすれば衝撃的な情報だった!

 

 

「お前!!だから全然知らないのに優しくしてくれる女を信用するなって言っただろうが!!」

「しょうがねぇだろ!?レゼが大好きになっちまったんだもーん!!」

 

 

アキとデンジが口喧嘩する中、天使の悪魔は無言で天井に向けて槍を構えた。

 

 

「そうだよねー!祭りデートも楽しそうだったしねー」

「だからよおおおお!!もう一回デートしようぜえええ!」

 

 

だが、デンジがスターターロープを引いた事で状況が変わった。

 

 

「チェンソー君!?まだ戦える血の量じゃないよ!?」

「やめろデンジ!!まだそんな血ィを与えてねぇぞ!?」

「知るか!!俺はデートの続きをするんだァ!!」

 

 

天使の悪魔と早川アキがデンジの行動を咎めるが、彼は引き下がらない。

エンジンを吹かして再起動したデンジは真上にあるルーフをチェンソーで切り裂き始めた!

 

 

「フン!」

「ホイ!」

 

 

少しだけ切り裂いたルーフをデンジが蹴り飛ばすとレゼはそれを殴り飛ばした!

 

 

「よお!!レゼ!!さっきのデートは刺激的だったぜぇええ!?」

「それはよかった。今度は君がデートに誘ってくれるんだよね?」

「俺んの最強デートに付き合ってくれるのかァあああ!?」

「デンジ君が持つ心臓をくれるならいくらでも付き合ってあげるよ」

 

 

非常事態にも関わらずデンジとレゼの会話はどこかいつも通りに感じられる。

それはお互いに感情がぐしゃぐしゃになり、どこか割り切れていない証拠でもあった。

 

 

「その前に聴いてくれよォ!!痛くてよォ!死にそう~って思いながら…」

 

 

デンジはレゼの発言を聞いて思った事がある。

 

 

「俺んのこんがらがった頭でェ…!」

 

 

自分に助けを求めたょぅι゛ょも!

虚言癖だらけで自分をコウモリの悪魔に売ったパワーも!

自分を永遠の悪魔に売ろうとした包丁使いの小さい女も!

自分にゲロキスをして意図せずに窒息を狙って来た姫野も…!

 

 

「よォ~く!思い返してみたんだけどよォ!」

 

 

自分を助けようとしたガソリンを口に注いだ因幡副隊長も!

花をプレゼントして喜んでくれたレゼも!

それどころか、めちゃくちゃ憧れているマキマさんすらも!

 

 

「俺の知り合う女がさあ!!全員、オレん事殺そうとしているんだけど!!」

 

 

それは今まで出会った女性全員が自分を殺しに来た事実を知ったデンジによる魂の咆哮であった!

マキマさんですら自分が役に立たなくなったり、仕事を辞めれば殺すと断言しているのだ!

ようやく一般人のレゼと出会って安心したのに裏切られた彼はもはやヤケクソになった!

 

 

「みんなチェンソーの心臓ばっか欲しがっちゃって!デンジーの心臓は欲しくねぇのかァ!?」

 

 

それどころかヤクザや悪魔に自分の心臓を狙われている。

そのせいで病気で苦しんでいたデンジの心臓は欲しくないのか?…とレゼに感情をぶつけた!

 

 

「あ~!?俺の心臓が欲しい奴は居ねぇのか!?居ねぇよなァ!!そう思うんだろ!?」

 

 

別にデンジとしてもあんな心臓なんか要らないので答えは求めてなかった。

ただ、女の子と仲良くしたいのにいつも酷い目に合う事実を受け入れたくなかっただけだ!

 

 

「私がデンジ君を好きなのは本当だよ」

「えっマジ!?」

 

 

だが、レゼが放った一言であっさりとデンジは動揺した。

その瞬間、車のクラクションが大きく鳴り響いて2人の意識を現状に戻す!

 

 

「敵の言葉を聞くな!!お前はチョロすぎだ!!」

「…はっ!?アブねぇ!!危うく…騙されるところだったぜぇ!さんきゅー先輩!!」

 

 

早川アキの発言を聞いてデンジは正気に戻った。

自分を殺そうとした女が自分を好きなはずがない!

それを思い出せてくれた先輩に感謝した!

 

 

「どんなワケで俺を殺しに来たか知らねぇが!!イイ~モン!!俺にゃあマキマさんが居る!!」

 

 

レゼとマキマさん、どちらを選ぶのか迷っていたデンジにはもう迷いはなかった!

厳しくても優しいところがあるマキマさんだけを愛する事にした!

元より低学歴のチャラ男っぽいデンジだったが、自暴自棄になったせいで余計にそう見える。

 

 

「……マキマ?ああ、道理で護衛も上司も強いわけだ…!」

 

 

デンジの発言を聞いて元から逃避劇をするのは無理だと分かった。

 

 

「デンジ君、あの魔女に飼われちゃってるのかー。なら一緒に逃げても無駄だったか。あーあー」

「俺もキスするんじゃなかった!あーあー」

 

 

失恋した元カップルが相方を軽いノリで貶めている発言を2人はした。

既にデンジはマキマさん一筋になったが、レゼはそうもいかない。

左腕を握っている右手の握力が増して一瞬だけ全身が震えた!

 

 

(私とデンジ君は同じだと思ったのに全然違ったねえ!!)

 

 

同じ武器人間で学校に行った事がない同士、もしかしたら運命かもと思った。

なのに武器人間と祖国に尽くすこと以外は全然違った。

後がなくて誰も守ってくれない自分と違って彼には未来があって守ってくれる人がたくさん居る!

 

 

(なら最後の仕事をするだけ…)

 

 

ここまで醜態を晒した以上、無事に心臓を奪って祖国に戻っても始末されるだけである。

それでも自分の存在意義を無くしたくないレゼは、交戦を続けるしかなかった!

 

 

「その勝負服だって!俺を油断させる為の奴なんだろ!!俺を殺す為のトラップだろ!?」

 

 

ただ、デンジ君との交渉が決裂するまで本気で祭りデートをしていたのは事実である。

 

 

「エッチだ!ハレンチだ!逮捕だ!逮捕する!ハレンチなんとか罪と殺人罪で逮捕する!!」

 

 

それを否定されたくないレゼは、うっかりと本音を漏らす事となった。

 

 

「この勝負服、デンジ君がエッチしやすいように着込んできたんだよ?」

「え?マジで?」

 

 

本気の殺し合いが発生する前にルーフの上に乗る爆弾女を槍で突き刺そうとした。

だが、デンジがルーフの上に飛び出したせいで天使の悪魔は攻撃を中止する。

 

 

「うお!?」

「うわ!?」

 

 

またしても「ビイイイイイイン!!」とクラクション音が鳴り響き2人は動揺する。

 

 

「デンジ!!下に降りろ!!」

「え?分かった!!」

 

 

アキからの命令で素直にデンジはルーフに空いた穴に戻って後部座席に降りた。

その瞬間、アキは急ブレーキを思いっきり踏み込んだ!

 

 

「ぐええええええ!?」

 

 

シートベルトを填めていないデンジは勢いよく前の座席とぶつかった!

一方、慣性の法則によって急ブレーキがかかった車両の前に飛び出したレゼは地面を転がる。

 

 

「今だ!」

 

 

すぐに車を急発進した早川アキであったが…。

 

 

「クソ!!」

 

 

例のムカデ騒動の影響で車が乗り捨てられていたせいで道路が塞がっていた。

急いでバックをしようとするとデンジがドアから飛び出した!

 

 

「お、おい!?」

 

 

さすがにデンジを置いて発進するわけにもいかず、刀を構えてアキも車両から降りる。

その流れで天使の悪魔も助手席のドアから飛び出して車を盾にするように身を潜めた。

 

 

「さすがチェンソー様!サイキョー!」

 

 

なお、やる事なす事全てが無茶苦茶なチェンソー様を見れてビームは満足していた。

そのせいで車から降りるのに1分かかってしまった。

憧れる当の本人は、自然公園に転がっていった刺客の前に辿り着いた!

 

 

「デンジ君、キミからこっちに来てくれたんだ~!嬉しいな~!」

「今度は俺流のデートをしてやんよ!!」

 

 

優しくしていたとはいえ、自分を心配してくれたのはデンジ君が初めてであった。

チェンソーをフル稼働させながら近寄って来るのにレゼは嬉しそうに彼に語りかけた。

デンジもさきほどのデートの続きをしたいらしい。

 

 

「おいでデンジ君、私たちの戦い方ってのを教えてあげる」

 

 

両脇を締めて両手を差し出すレゼの姿にデンジは見覚えがある。

夜間の学校デートにてプールで泳いでいたレゼが誘ってくれたポーズそのものだった。

 

 

「教えてもらおーか!!」

 

 

またしてもデンジは、自分を誘うレゼの元に飛び込んで行った。

だが、前回と違って自分の本性を曝け出した本気の殺し合いである!

 

 

「うおおおおおお!!」

 

 

とりあえず力づくで殴って黙らせようとするデンジだが…。

 

 

「ぐぎゃあああああああああ!?」

 

 

近接攻撃が爆発になるレゼと白兵戦を挑むのは不利過ぎた。

両腕から生えたチェンソーで爆発攻撃をガードするが、勢いが殺せずに大木に激突した。

 

 

「いててて…」

 

 

今度こそ本気で動こうとするデンジであったが、爆発による急加速でレゼが眼前に居る。

 

 

「なっ!?」

 

 

またしても思いっきりぶん殴られて爆発したデンジは山口貯水ダムまで飛ばされてしまった。

ここは奇しくも荒井ヒロカズのマラソンのゴール地点だが、そんな事デンジが気付く訳が無い。

 

 

「デンジ君、応用ができてないよー。チェンソーぶん回すだけじゃダメだよ!」

「んな事!分かってんよおおおお!」

 

 

レゼの実技授業を受けているデンジは、死ぬまでにレゼを打ち負かそうとしていた。

 

 

「もっと自分の力を理解しなくちゃ宝の持ち腐れだよ」

「あ?」

 

 

レゼが自分の腕に向かって指を差したのでデンジは自身の腕を見た。

 

 

「ん?」

 

 

そこにはレゼの左手の人差し指の先端がチェンソーの刃に刺さっていた。

黒い長手袋っぽい導火線から分裂したそれは火花を散らしていた。

 

 

「バン!」

 

 

レゼが決まり文句を言うように発言すると仕込まれていた爆弾が爆発した!

爆炎と黒煙が周囲に巻き散って視界を悪くする。

身を隠すには絶好の機会と言える。

 

 

(バレバレだよ…)

 

 

黒煙の中でチェンソーが稼働する音が聴こえるせいでどこにデンジ君が居るか把握できてしまう。

その正直さもレゼが彼を気にかけた理由でもあった。

 

 

「いでぇ!?」

 

 

見事にスカイアッパーで上空に飛ばされたデンジは…。

同じく爆発で急上昇したレゼに高所を取られてしまった!

 

 

「じゃあね」

 

 

レゼはせめて苦しみが無いように本気で彼を殺すつもりだった!

右脚に導火線の束を生やしてミサイルを形成し、そのまま生徒に向かって全力で蹴り出す!

多重の爆発と共に高速で蹴りつけられたデンジは上空200mから地面に叩きつけられた!

 

 

「ふぅー」

 

 

その爆発は、遠く離れた練馬区の住宅まで揺らすほどの威力であった。

デンジには成す術無く胸部より下を失った。

 

 

「やるねデンジ君、蹴られる前にエンジンを吹かすなんて常人ができる事じゃないよ」

 

 

武器人間はトリガーで肉体を再生できる。

デンジの場合は、胸部にあるスターターロープがトリガーになると彼女は知っている。

だって彼自身が教えてくれたのだから。

 

 

「でも、それだけじゃ勝てないよ」

 

 

上半身の傷痕から腸を生やすデンジを掴んだレゼは、そのまま掴み爆破を繰り返した!

爆発が終わるとデンジは絶命したが、武器人間のままだったので原型が辛うじて残った状態だ。

 

 

「さあ、行こうか」

 

 

このまま爆発して空に飛ぼうとしたレゼは何者かにデンジ君を握っていた左腕を切り捨てられた。

 

 

「…よっぽど死にたいようだね」

 

 

刃を向ける早川アキに迷いは無い。

 

 

(一歩でも判断を間違えると死ぬ…!)

 

 

切り捨てた左腕が連続で爆発すると未来視した彼は、攻撃を回避して背中を切りつける。

 

 

(最高の判断)

 

 

今度は蹴り上げようとする悪魔を天使の悪魔による槍捌きで回避する!

 

 

(最高の判断)

 

 

新手に気を取られた爆弾女の首に刃を突き立てるが、辛うじて回避されてしまった。

だが、すぐに天使の悪魔が彼女を蹴りつけて自爆攻撃を中断させた。

 

 

(さ、最高の…)

 

 

ここまでだった。

未来視が見せる大爆発では回避する術がない。

 

 

「消えて」

 

 

レゼが自爆した瞬間、天使の悪魔と早川アキは何者かに掴まれてしまった。

その勢いで上空を跳んだかと思うと遥か真下で爆発するのが見えた。

 

 

「あっぶね!?」

 

 

近くにあった大木に生える枝に跳び乗ったのは暴力の魔人である。

戦略的撤退をした彼は、味方の窮地を救ったのだ。

 

 

「ごめんな、遅くなった」

 

 

すぐに追撃は来ないと判断した彼は、掴んでいたシャツを放して2人を地面に優しく着地させた。

 

 

「初めて悪魔とダチになりたいと思ったぜ」

「だね、僕もそう思うよ」

 

 

アキと天使の悪魔は軽口を叩きながらこちらに向かって来る爆弾女に備えた。

 

 

「ちょっとタイムタイム!」

 

 

ところが、爆弾女は両腕を伸ばし掌を相手に見せて制止する素振りをみせた。

何事かと改めて彼女の姿を確認すると、さきほどの自爆のせいでほぼ全裸になっていた。

ダイナマイトの前掛けがないと完全に股間が丸見えになるほどだ。

 

 

「こっちは貧血でほとんど裸、そっちは3人で武装もしてるってズルくない?」

 

 

彼女曰く、暴れすぎて貧血になった挙句、武装した2人と暴力の魔人を押さえられないらしい。

 

 

「どうします?なんかハンデあげます?」

「あげない」

「僕もそう思う」

 

 

暴力の魔人の問いかけに対して2人はまたしても意見を一致させた。

あれほど価値観が違うせいですれ違っていたというのに…。

 

 

「だってな!ごめんな!」

 

 

陽気な声で暴力の魔人は相手の要求を却下した事を伝えた。

 

 

「タイム終了」

 

 

だが、これはレゼの想定内だった。

 

 

「レゼ様!台風タダイマ参上シマシタ!!」

 

 

前から協力を要請していた台風の悪魔を出現させたのだ。

これによりいっきに天候が悪化したばかりか人間相手では交戦できなくなった。

 

 

「うわ~!?台風の悪魔はズルくねぇかな~!?」

「マジか…」

 

 

暴力の魔人と早川アキは新手の悪魔に驚愕するが、天使の悪魔はそうでもない。

この後に何が起こるか察しているからこそデンジの元へと向かった。

 

 

「ああ、そうかい。もう来たのか…」

 

 

台風の悪魔と爆弾の武器人間が暴れようとしたその瞬間!

そこら中から濃厚な血の匂いを嗅いだ天使の悪魔は歩く速度を速めた。

 

 

「レ、レゼ様!?ナンカヤバクナイデスカ!?」

「ヤバいどころじゃないよコレ…!」

 

 

台風の悪魔という切り札を出したレゼはすぐに後悔した。

台風の悪魔からすれば、約束を破って敵前逃亡したいくらいである。

 

 

「丁度良い獲物が居るな…!」

 

 

本日の晩からイライラしている結婚の悪魔は強大な力を行使する事に躊躇いは無い。

関東地方に居住する日本国民がムカデに恐怖をする事でムカデの悪魔が強化された。

それにより結婚の悪魔は、全長5mmから30m級のムカデを5000億匹も操作できる。

 

 

「ムカデ長老!ムカデ仙人!出番だ!あそこにいる悪魔を凄惨してしまえ」

 

 

結婚の悪魔はその力を無駄遣いにした。

1000億匹のムカデで構成された全長30km級のムカデ長老を生み出したのだ。

念の為に3800億匹のムカデで構成された全長75km級のムカデ仙人を生み出す徹底ぶりである。

100億のムカデを生贄に結界を作る予定で95億匹のムカデは民間人を避難させる為の囮となる。

 

 

「自分が手を下してもつまらないからな」

 

 

ムカデの大群を使って関東地方に住んでいる悪魔や魔人、38体を惨殺しても怒りは収まらない。

だからアホみたいな力で生み出した存在をどこかにぶつけられるか考えていた。

そこに“台風の悪魔”という絶好の獲物が出てきたのだからたまらない。

肉体を真っすぐ伸ばせば、皇居から東京都最西端にある雲取山*3まで届くムカデ仙人も笑う。

 

 

「さあ、台風の悪魔を惨殺してやろうじゃないか。どれだけ耐えれるかな~?」

 

 

結婚の悪魔の号令と共に30km級と75kmのムカデが台風の悪魔に襲い掛かる事となった!

これにはレゼも台風の悪魔も涙目になった事は語るまでもないだろう。

 

 

*1
東京都にある人造湖。東京都民が使用する生活用水を確保する為に作られた。西には埼玉県と挟む狭山湖がある

*2
東京都の郡(行政区間の一種)、東京都の西端に位置し、都会のイメージにそぐわない山間部と自然が残っている

*3
東京都と埼玉県と山梨県の境界に位置する標高2017mの山。東京都の最高峰となる山でもある

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