デンレゼが足掻く度に不幸になるケッコンの悪魔さん   作:Nera上等兵

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36話 発想次第ではA級映画になり得たサメ映画

サメの魔人であるビームは、偉大なるチェンソー様の元に辿り着いた。

下半身を失っており、連続爆破により表皮が黒焦げになった死骸と化していた。

 

 

「チェンソー様!?」

 

 

街中で暴れていた2m級のムカデを持ってきたビームは主の下に跪く!

そして血塗れのムカデを引き千切って噴き出した血をチェンソー様に飲ませた。

 

 

「おお!すげぇ!!」

 

 

血を飲ませた後、スターターロープを引っ張るとヴン!!という爆音と共にデンジは復活した!

 

 

「普通の悪魔なら死んでいるはずなのに…さすが、チェンソー様!!すげぇ!すごい!!」

 

 

主が復活した事に喜ぶビームであるが、当のデンジは素っ裸になっている。

いくら肉体が復活しても、服装までは復活しなかった。

少年漫画と違って現実世界ではズボンやパンツが丈夫じゃないからね、仕方ないね。

 

 

「チェンソー君、ムカデの血はもっと欲しいかい?」

「ん?ああ、じゃんじゃん持ってこい!……そのままかよ!?」

 

 

寿命武器を地面に刺した天使の悪魔の問いかけにデンジは元気そうに答えた!

だが、全長50mmのムカデをそのまま渡されて反応に困った。

 

 

「喉越しはどう?」

「最悪だァ!!」

「ならよかった。これ以上悪化しないって事だからね」

 

 

どうせなら美少女の血を飲みたいと一瞬思ったデンジは必死に頭を振った。

美女や美少女が死ぬ事なんて勿体ないし、なによりそれを望むと糞野郎になると思ったからだ。

天使の悪魔の発言は、デンジが人間を喰らう悪魔にはならないと暗に示していたりする。

 

 

「チェンソー君、分かっていると思うけどキミは選択しないといけないよ」

「何を?」

 

 

なにより、デンジは選択しないといけないと天使の悪魔は告げる。

 

 

「キミの彼女に大人しく殺されて被害を抑えるか、彼女を殺すかだ」

「なんかどっちも選びたくない選択肢だ!他に選択肢はねぇのかァ!?」

 

 

レゼに殺されるか、レゼを殺すか。

頭の中では分かっていたが、いざ現実で突きつけられるとデンジも答えが出ない。

どっちも嫌なのだが、それが叶わない事も分かっていた。

 

 

「って言っても、もう遅いよ。“結婚の悪魔”が彼女を惨殺するだろうね」

「ケッコンの悪魔ぁ?なんだそれ?」

「公安に所属する悪魔の1体で最も人間に優しく、そして最も人を殺している悪魔だよ」

 

 

天使の悪魔は、結婚の悪魔と何度かバディを組んだが、未だにあの悪魔の本質を掴めていない。

分かっている事は、歴代の契約者の姿に化けられる事と、填めている結婚指輪が変化しない。

なにより、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()という意味不明な悪魔だった。

 

 

「あーあ、頭が……なんじゃあのムカデはァ!?」

「僕も初めて知ったよ。結婚の悪魔ってあんなデカいムカデも生み出せるんだね」

「マジかよ!?」

 

 

寝起きならぬ()()()で目覚めたばかりのデンジは天使の悪魔の言葉が中々耳に入って来ない。

だが、視界を覆い付くするほどのバカでかいムカデの姿を見て仰天した!

相変わらず解説する天使の悪魔だが、デンジは今の話を聞いて気になった事がある。

 

 

「じゃあ、レゼはどうなる?」

「台風の悪魔と一緒に殺されるんだろうね。ホラ、自然公園にムカデが集まり始めた」

「意味分からん」

「キミの彼女に誰も近づかせないって事、僕たちはここで見ていればいいみたいだね」

 

 

未だに状況は掴めなかったが、このままぼーっとしていたら二度とレゼに会えないと分かった。

確かにボコボコにされたが、会話が成り立っていたのでまだ説得できると思った。

 

 

「……チェンソー君、そろそろ時間みたいだ。ここから退かないとムカデが襲って来るよ」

「へぇー」

 

 

今のデンジが死力を尽せば、何とか倒せるかもしれない30m級のムカデが近づいてきた。

どうやら警告する為に向かっている様で近寄らない限り、攻撃は来ないだろう。

だから天使の悪魔は、安全な場所に向かうべきだと彼に移動を促した。

 

 

「あのムカデは門番ってわけだな?」

「まあ、そうだね。あの程度を倒せないならキミが彼女に勝つのは不可能だろうね」

「なあ、ビーム!」

「はい、チェンソー様!!」

 

 

だが、デンジは気付いた!

要するにケッコンの悪魔がレゼを殺す前に先に倒せればいいって事に気付いたのだ。

IQ134の伏さんに匹敵する完璧な閃きを得たデンジはすぐに行動に移す!

だから自分を…いや、チェンソーの悪魔を慕っているサメの魔人の名を呼んだ。

 

 

「ビーム!!()()()()()()()()を教えろ!!」

「はい!!」

 

 

このままでは勝てないとデンジの頭でも分かる。

でも、どうすればいいか分からないので先人の戦い方を真似しようと考えた。

レゼからも言われたが、チェンソーを振り回す以外にできる事があると思った!

 

 

「チェンソー様、…足超速い!…でも移動する時、足だけでじゃない!」

 

 

チェンソー様からの頼みが断れないビームは、昔のチェンソーマンの戦いっぷりを思い出す。

 

 

「チェンソーのチェーンを飛ばして壁に引っ掛けて建物から建物へ…移動してた!」

 

 

ビームの発言を聞いた天使の悪魔は、昔見た映画を思い出す。

両手から蜘蛛の糸を放出して移動するスパイ〇ーマンのイメージを思い浮かべた。

 

 

「そうか!確かにサムライソードは居合で移動してたな!!」

 

 

デンジも心当たりがある。

変な構えをしていたサムライソードマンが瞬間移動で自分を切断していた!

あれも1種の移動手段である。

 

 

「レゼも爆発で移動してた!!」

 

 

レゼも爆発で空を飛んだり、急加速をしていた!

つまり、武器人間はオリジナルの移動手段があるって事にデンジは気付いた!

 

 

「俺も自分の力を応用すれば良いんだァ!!」

 

 

チェンソーにも同じ様に特別な移動手段が存在する!

それが分かっただけでも収穫だった!

 

 

「チェンソー様!天才!!チェンソー様!天才!!」

 

 

身振り手振りでチェンソーマンを讃えるビームの姿にデンジは悪い気がしない!

むしろ、自分の考えが褒められて肯定感が増した彼は更にハイテンションになった!

 

 

「チェーンを使った移動…!そういう事か!そういう事だな!?」

「そういう事!!そういう事!!」

 

 

2人はハイテンションで身振り手振りでチェンソーマンの行動を肯定する!

あまりにも騒ぎまくっている姿を見た30m級のムカデは少しだけ後退りをした。

 

 

「やっぱ、これだよなあ!!?」

「そうです!!そうです!!」

 

 

チェンソーマンの発言に地面に刺さっていた寿命武器を抜いて上下に振るビームが応える!

 

 

「じゃあ、やってやるぜ!!ビーム!!サメになれ!!」

「はい!!」

 

 

サメの魔人は、地面や壁を泳ぐだけではなく一時的であるが、サメの悪魔になれる。

偉大なるチェンソーマンの呼びかけに応えたビームは、サメの悪魔に変身した!

このまま共闘となると考えた彼は、特に疑問を持つ事は無かった。

 

 

「……え?」

 

 

よく考えてみれば、おかしな話である。

チェンソーマンの移動について話をしていたのでビームが鮫になる必要はない。

その答えは、サメの悪魔の口角に引っ掛けられたチェーンが示した!

 

 

「つまり!!こういう事だあァ!!」

 

 

その神々しい姿を天使の悪魔は目撃する事となる。

まるでアルプス山脈を越えようとする白馬に乗ったナポレオンの絵画みたいである。

 

 

「「え?」」

 

 

チェンソーのチェーンを手綱代わりにしてサメの悪魔に騎乗したデンジの姿がそこにあった。

想像していた光景とは違うものを出力されたのでビームもエンジェルも本気で動揺した。

 

 

「俺がチェーンで調教してビームが馬みたいに走るってコトだァ!!」

「…チギャウ…チギャウ…」

 

 

無理に引っ張るせいでチェーンの刃がサメの悪魔の口に突き刺さる。

さすがにこれはビームとしても違うと思ったのか、珍しくデンジの発言を否定した。

 

 

「ねえ、違うんじゃない!?チェーンを腕から飛ばして移動とかするんじゃないかな!?」

 

 

暴風が吹き荒れる中、天使の悪魔は必死にA級映画に戻そうとしていた。

せっかく王道の戦いができるというのに知る人ぞ知るB級映画になってしまったのだから。

別にそれでもいいはずなのだが、少なくともビームの惨状は無視できるものではなかった。

 

 

「あ~!?これが正解だよなあビーム!!」

 

 

だが、デンジの頭ではこれ以上の事は思いつかなかった。

何も疑っていない彼がビームに正当性を求めると…!

 

 

「正解!!正解!!正解!!正解!!」

 

 

自分が頼られて嬉しいビームは、今世代のチェンソーマンの行動を肯定した!

 

 

「走れビームぅうううう!!」

「はい!!正解!!正解!!大正解!!」

 

 

チェンソーマンの号令でサメの悪魔に変身したビームは四足歩行で駆け抜けた!

それを呆然と見送った天使の悪魔は、とりあえず後方へ撤退しようと歩き出す。

 

 

「あれ?武器は?」

 

 

さきほど車のルーフに乗った悪魔を突き刺す為に生み出した寿命武器の槍が見当たらなかった。

 

 

「あ!」

 

 

ここで天使の悪魔は思い出した。

身振り手振りで踊っていたビームがどさくさに紛れて槍を地面から抜いていた事に!

 

 

「待って!!武器を返して!!」

 

 

サメの悪魔が持ち出した武器の返却を求めて天使の悪魔も追いかけた!

 

 

「いくぞビーム!!あのムカデをぶっ殺してリベンジマッチだああああ!!」

「了解!!」

 

 

30m級のムカデを倒せないならレゼに勝てないとさっき言われた。

だからデンジは、わざわざ30m級のムカデをぶっ殺しに行った!

成人男性の身長に匹敵する横幅があるムカデ相手は確かに単独で挑むのはきつかっただろう!

だが、デンジには迷いはない!

 

 

「うおおおおおおおお!!」

 

 

さすがにムカデも手加減ができずに時速60kmで移動して彼らをぶちのめそうとした!

頭突き攻撃を回避したビームは、動き回るムカデの背中に飛び乗ってカサカサと移動を開始する!

 

 

「次んはァ~頭だァ!!」

「はい!!」

 

 

最終地点であるムカデの尻尾の先端をぶった切ってムカデのバランスを崩させた。

そして動きが少し鈍くなった隙を見逃さないビームはムカデの頭に向かって突っ込む!!

 

 

「オラアアアアアア!!」

「ヒヒーン!!」

 

 

すれ違いに30m級のムカデの首を抉った彼らは、まさに自分の考えが正しかったと思っただろう!

本領が発揮できないムカデは頭を失った事で地面に倒れ込んで動きが少しずつ鈍くなった。

 

 

「移動のビーム!!攻撃の俺!!完璧な布陣が完成しちまったなァ!!」

「はーい!!」

 

 

これで高速で動き回るレゼと交戦できると確信したデンジは更なる指示をビームに送る!!

 

 

「次はレゼだ!!嵐の中に突っ込むぞビィームゥ!!」

「はい!!」

「声がちっせぇええ!!」

「ハァイイイイィ!!!」

 

 

目の前で起こっている花火大会の中に参戦するつもりだ!

それを邪魔する全長50mmから3m級のムカデで構成された群れの中にビームたちは突っ込む!

 

 

「デンジ!?」

 

 

サメの悪魔に騎乗したデンジを見かけた早川アキは武器を構え直す!

 

 

「怪獣バトルだ!?こりゃあ、大人しく観戦するしかねぇな~!」

 

 

全長75km級と30km級のムカデVS台風の悪魔の戦闘など介入できるわけがない。

暴力の魔人は、侵入者を撃退して逃走を促す為に生み出されたムカデの群れを見て悟りを開いた!

 

 

「逃げるんだよォ!」

 

 

またしても彼は戦略的撤退を開始した。

だが、早川アキは逃げなかった。

 

 

「待てデンジ!!」

 

 

追いかけようとするアキであったが、結婚の悪魔の配下であるムカデたちは容赦しない。

 

 

「本当に味方なんだろうな!?」

 

 

20m級のムカデと触敵したアキは下段の構えで自分に迫って来るムカデの動きを確認する。

 

 

(最高の判断!)

 

 

さきほどの爆弾女との戦闘と違って未来視を使っていない。

だから未来の動きなど見えないはずなのに何故か予想できてしまった。

 

 

(最善の行動!)

 

 

跳び掛かって来るムカデの姿を見たアキは考える前に足が動いていた!

すぐさまスライディングをして20m級のムカデの腹の下を潜り抜ける!

後方で振動が発生したが、意に介さずにそのまま1回転だけ転がって立ち上がった!

 

 

(最適の思考!)

 

 

今度は5m級と10m級のムカデの姿が見える!

殺しに来るわけではないが、これ以上の侵入を防ごうと攻撃を仕掛けて来る!

初めてムカデタイプと戦うアキには、化け物たちの動きなど見た事がないはずだった。

ただ、彼は何故かムカデたちが行う次の動きを手に取るように読めた。

 

 

(最手の技能!)

 

 

一旦、自分を威嚇する動きに見えたアキは力一杯に地面を跳ねる!

その勢いを殺さずに10m級と5m級のムカデを利用して三角跳びをして彼らを乗り越えた!

 

 

(はあ!?)

(えっ!?)

 

 

さすがに殺す気がなかったとはいえ、あっさりと乗り越えられるとはムカデたちも思っていない。

いつのまにか前に進んでいた早川アキの姿を見て慌てて追いかけた!

 

 

(これが副隊長格が見ている世界か!!)

 

 

この感覚を野茂さんから聴いた事がある。

公安のデビルハンター4個班に匹敵する副隊長以上になると自然と身についている技能だと…!

 

 

(まだ俺は強くなれる…!)

 

 

この技能は、透き通る世界、至高の領域、無我の境地、型の終着、悟り…様々な呼び方がある。

道を究めた者だけが到達する世界を一瞬だけであるが、早川アキは踏み込んだのだ!

そしてその技能を持つデビルハンターの頂点に立つ男が、あの岸辺隊長である!

 

 

「俺は最期まで…!」

 

 

さすがにこれ以上進まれると不味いと判断した20m級のムカデが先回りして迎撃をする!

さきほどの異様な動きを見て即死攻撃が回避できると判断し、本気でアキを殺しにかかった!

 

 

( )

 

 

少しだけ移動先を変えて僅かに一閃をしただけである。

強酸攻撃と体当たりを回避した早川アキの後方に回った20m級のムカデの動きが止まった。

何事かと5m級と10m級のムカデが見守る中、20m級のムカデの胴体がズレ落ちて地面に転がる。

いくら寿命武器を使っているとはいえ、ここまであっさりと返り討ちに遭うのはあり得ない。

 

 

(どうする?)

(どうするったって俺らじゃ勝てねぇだろコレ!?)

(…見なかった事にしよう!)

(賛成!)

 

 

このムカデの悪魔たちは、結婚の悪魔が足止めをする為だけに生み出した存在である。

だからすぐに消える運命だったのだが、それでも早川アキの歩みをこれ以上妨害しなかった。

 

 

「ハァハァ…ダメか」

 

 

台風の悪魔と共にアホみたいにデカいムカデに攻撃を仕掛けたレゼは全てが無駄だと悟った。

まるで大海原に向かって小石を投げる行為に似ている状況に諦めモードだった。

 

 

「レゼェエエエエ!!」

 

 

だが、自分の名を呼ぶ存在に気付いて声をした方を見ると…。

 

 

「あははは!やっぱ、デンジ君は面白い人だよ~!」

 

 

サメの悪魔に騎乗したデンジ君が自分に迫って来るのが見えた。

頭上を覆うほどの馬鹿でかいムカデの悪魔など目に入らないらしい。

あまりの滑稽さに思わず笑ったレゼは、最期を迎える前に彼に最後の授業をしてあげる事にした。

 

 

「キタナ!チェンソー!!オ前ダケデモ殺ス!!」

 

 

75km級と30km級のムカデに殺されるのが確定している台風の悪魔にはやりたい事がある!

糞雑魚ナメクジ以下になったチェンソーマンをぶち殺そうと全身の力を込める!

 

 

「デンジ君!この世に蘇った事!後悔させてあげるよ!!」

「ビーム!!俺に後悔させるんじゃねーぞ!!」

「ハイ!!」

 

 

どう足掻いても惨殺される未来しかない台風と爆弾はせめてチェンソーマンを巻き込もうとした。

一方、スーパーチェンソーマンになったデンジは、台風を殺してレゼを倒す為に突っ込んだ!

 

 

「デンジ君!!」

「レゼ!!」

「シネ!!」

「シャークネード!!」

 

 

台風の悪魔&爆弾の武器人間 VS サメの悪魔&チェンソーマンの戦いがたった今、幕を開ける!

その戦いを平然と見守る存在が居た。

 

 

「はぁ……」

 

 

結界の発動圏内に味方の侵入を許したムカデたちに対して結婚の悪魔に苛立ちは無い。

デンジもアキも成長したのをムカデを通して確認し、人間の可能性とやらを高評価した。

 

 

「それはそれとして死んでもらうけどな」

 

 

結婚の悪魔が指を鳴らした瞬間、狭山湖(山口貯水池)と緑豊かな湖岸が赤く染まる!

生物以外の物体を全て赤く染めあげて何もない空間は白色になった!

全長5mmから30m級のムカデを100億匹も生贄にする代償で生み出した直径3kmの結界である。

これでは狭いので結界の内側である空間を捻じ曲げて直径20kmの空間へと変貌させた!

 

 

「さて、どうなる事やら…」

 

 

全長30km級のムカデと95億匹のムカデに結界の外を任せた。

結婚の悪魔が任意で解除しない限り、絶対に内側から壊せない結界の中にいるのは関係者のみ。

 

 

「ムカデ仙人、悪いが作戦変更だ。デンジたちの足場になってやれ」

 

 

空中を浮かんでいた全長75km級のムカデは結婚の悪魔の指示に従って動かなくなった。

これで自由に空が飛べないデンジたちは、ムカデの巨体という足場で戦えるだろう。

 

 

「ふふふふ、くだらねぇな」

 

 

さすがにここまでやらかすとマキマに弱体化されるのは目に見えている。

だが、久しぶりに隠していた力を使う快感には勝てなかった。

この点は、人間も悪魔も同じだな…と結婚の悪魔は笑う。

 

 

「ああ、心地良い……」

 

 

赤い大地に白い空、そして結界の全体に鳴り響く鐘の音色は結婚の悪魔に安らぎを与えてくれる。

無駄に足掻く台風の悪魔によって貯水池の水が巻き上がるが、それすら心地良い。

もはや人間の恐怖すらどうでもいい領域に達した悪魔からすれば、この景色がお気に入りだった。

 

 

「クッソ!!」

 

 

台風の悪魔が放つ暴風に巻き込まれた早川アキは近くにあった電柱にしがみ付いた!

既に寿命武器は納刀しており、どこかに飛んでいく心配はない。

 

 

「なんて世界だ!!」

 

 

街への被害はない代わりに見渡す限り、白色と赤色しか存在しない世界に来てしまった。

紅白といえば縁起が良いかもしれないが、それしかない世界は下手すれば闇より恐ろしい。

一応、生物に関しては、従来の色が残されているようで彼の肉体の色は正常である。

 

 

「うわあああああああ!?」

 

 

声がした方を振り向くと白い翼のせいで吹っ飛ばされる天使の悪魔の姿が見えた。

彼なりに足掻いているが、アホみたいに空気抵抗がある部位のせいで全然抵抗できていない。

 

 

「ふん!」

「ああっ!?」

 

 

偶然にも自分の方に飛んできたので間一髪、天使の悪魔のYシャツを左手で掴む事に成功した。

天使の悪魔に触れると寿命を吸い取られるが、布越しで直接触れなければ問題ない。

以前、ヤクザの本拠地を攻めた際、ハンカチを手渡した時を思い出した彼に迷いは無かった。

 

 

「う、うぐ……!な、なにかにつかまれぇ…」

 

 

それでも利き手でない方で掴み続けるのには限界がある。

なにせ2つの白翼を生やした悪魔の抵抗は自分の非ではない。

だからアキはバディである天使の悪魔に努力しろと呼びかけた。

 

 

「…ぃんだ」

「ああ!?」

「いいんだ!手を放してくれ!!」

 

 

だが、天使の悪魔は手を放せと命じる。

このまま手を放せば、肉体自体は人間の強度しかない彼がどうなるか分かり切った事なのに。

 

 

「前も言っただろ!?僕には!死ぬ覚悟ができている!今日が死期だったんだ!!」

 

 

天使の悪魔は前から自分は死にたがっていると告げた。

悪魔の中で人間に友好的なのにその存在が居るだけで不幸になる人がいる。

その矛盾にずっと苦しみ続けた悪魔は、死に救いを求めた!

 

 

「悪魔は死んでも地獄で蘇る!だから僕を見捨てろ!キミまで巻き添えになる事はない!」

 

 

助けられる命があるならば、手を差し伸べて救うべきである。

だが、それを重視して自分が命を落しては意味がない。

早川アキには銃の悪魔を倒すという目的がある。

 

 

「この…!!」

 

 

少しの間だが、早川アキという人間の本質に触れた天使の悪魔は見捨てろと断言する。

それを否定しようにもシャツを掴む握力には限界がある。

 

 

「あ!」

 

 

ついにバディがシャツから手を放した。

その瞬間を目撃した天使の悪魔は、瞼を閉じて暴風に身を任せた。

脳裏に思い浮かぶのは、異様な自分に初めて優しくしてくれた少女の顔であった。

 

 

(え?)

 

 

ところが、何者かに手を握られた感触がして天使の悪魔は瞼を開ける!

 

 

「おおおおおおおお!!」

「なっ!?」

 

 

結婚の悪魔が手を貸したのかと思ったら人間が自分の手首を掴んでいた。

ちょうどその時、強風が少しだけ収まったので無理やり引き戻された。

 

 

「な、なに、何で!?なんで僕の手を触った!?死にたいのか!?」

 

 

天使の悪魔は、自分の肌と触れた人間の寿命を吸い取る能力がある。

これは彼自身もコントロールできておらず、仲良くしていた少女や村人を殺してしまった。

そんな邪悪な能力を恐れなかった青年に彼は問いかけた!

 

 

「死にたいワケねえだろ!!俺は最期まで生き続けてやるからな!!」

 

 

寿命が2年すらない早川アキは死ぬつもりがなかった。

ムカデとの戦闘でまだ自分が成長すると実感した以上、まだ生き続けるつもりだ。

 

 

「…なあ、どれくらい寿命が減った?」

「……2ヶ月くらい」

 

 

天使の悪魔の回答に姫野先輩との約束が更に果たせなくなると感じた。

脊髄損傷で下半身不随になっている彼女は再会を望んでいない。

自力で立てるようになったら自分に会いに来ると彼自身が分かっていた。

 

 

「そうか……」

 

 

その猶予が少しだけ失われただけである。

電柱を背にして座り込んだアキは、止血帯で自分と電柱を結んだ。

そして天使の悪魔が飛ばされないようにゆっくりと彼を背後から抱き締める。

 

 

「お願いだから…死にたいならどっか、遠くで死んでくれ」

 

 

あの日、早川アキは、弟がグローブを取りに実家に入った瞬間を目撃した。

その直後、銃の悪魔が突っ込んできた余波で両親も弟も実家も失った。

 

 

「目の前で死なれるのだけは…」

 

 

もし、もう少しだけ弟と話していれば…。

自分がグローブを取りに戻れと言わなければ…。

そもそも外で遊ばずに家に居れば苦しまずに死ねたかもしれない。

自分が自分で自分のせいで…と、ずーっと早川アキは家族の死を引き摺っていた。

 

 

「もう御免だ……!」

 

 

天使の悪魔に告げた言葉は本心であり、銃の悪魔に抱く復讐心の本質でもある。

自分を恐れずに優しく抱きしめてくれる人間に天使の悪魔は何も言えない。

 

 

(人間君、君は本当に優しいんだね…)

 

 

バディの優しさを感じる天使の悪魔は、あの少女の事を思い出す。

もはや、どんな声だったのかも思い出せないが、まだ死にたくないな…と思う事ができた。

 

 

(もう少しだけ一緒に居てあげるよ…)

 

 

天使の悪魔の存在を一番恐れているのは、天使の悪魔であった。

今まで早く死にたいと思っていた悪魔は、人間の優しさと温もりを知って生きる希望が生まれた。

 

 

(結婚の悪魔、それで構わないよね?)

 

 

姿も性別も性格すらも偽る事ができる結婚の悪魔が羨ましかった。

自分を分裂させたり、肉体をいくらでも再生できて結界まで作れる。

それなのに人間のフリまでできる化け物っぷりに畏怖すると同時に憧れていた。

 

 

(田舎のネズミ派だけど、こうやって愛されるなら都会のネズミでもいいかなー)

 

 

きっと短命になった人間君の最期を看取るのが自分の使命になると彼は確信した。

その日を迎えるまで命の恩人である彼の夢を手伝うのも悪くないと思った。

 

 

(やべぇ……こいつらの事、忘れた…)

 

 

なお、結婚の悪魔は、天使の悪魔の存在を忘れていた。

そのせいで早川アキの寿命が更に削られる事になったのに後悔する。

 

 

(まあ、彼自身がやった事だし、しゃあねぇか!)

 

 

ただ、後悔自体はするが、それを活かす為に結婚の悪魔は引き摺らない。

いつか、マキマに復讐するまでどんな些細な事でも活かすつもりだった。

 

 

(せいぜい頑張れよー!)

 

 

例え、早川アキと天使の悪魔のバディがマキマに仕組まれたと知っていても…。

人間と悪魔が少しでも夢を見る事で、自分に有利になるなら結婚の悪魔は協力する。

嘘は言わないが、自分の利点にならない限り真実も告げないのがこの悪魔のポリシーなのだから。

 

 

 

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