デンレゼが足掻く度に不幸になるケッコンの悪魔さん 作:Nera上等兵
サメの魔人であるビームとの共闘で見事に台風の悪魔を討伐する事に成功した。
しかし、一時的にサメの悪魔になれる彼に騎乗してもレゼには太刀打ちできなかった。
そこでデンジは、上司である金髪のおっさんの力を借りようとした。
「ふざけんなテメェ!!」
只今、結婚の悪魔は自分の力を酷使過ぎて本領の1%も発揮できない状況である。
貯水池である狭山湖とその湖岸に強力な結界を貼りつつ大量のムカデを生成し、操作している。
それどころか東京23区の一部や近隣の県にムカデを派遣し、結界に近づけないようにした。
「デンジ君、仕事仲間と仲が良さそうでいいねー」
爆弾女が他人事のように宣うが悪魔からすれば本意ではない。
すぐさまデンジごと彼女をぶっ殺したいが、それどころじゃなくなった。
(マキマが単独で来ただと?)
(いかがなさいますか?)
このやりとりの最中、結界の外で待機している全長30km級のムカデの報告を聞いたのだ。
「そんなワケねぇだろ!!」
爆弾女とムカデ長老の発言を一蹴するように返答した結婚の悪魔だが…。
さすがにこの規模になるとマキマが出しゃばって来る事を想定する必要があった。
(それにグンマーに派遣したムカデ5億匹も全滅しました!)
(群馬県にムカデの大群を派遣したつもりはなかったが?)
(いえ、グンマーです!)
それよりも“グンマー”ってなんだよ…と結婚の悪魔はツッコミを入れたい。
情報を訊き出す度に未開の地とか家電製品が使用不可とか報告するムカデ長老に不信感すらある。
そんなやりとりがある横で「今度こそお前に勝つ!!」と発言するデンジは王道の主人公らしい。
「おっさん!突撃だ!!」
「お前らだけで行け!!」
「うわああああああ!?」
サメの悪魔に騎乗するデンジの命令に苛ついた結婚の悪魔は彼らをレゼに向かって投げつけた。
しかし、レゼはその動きが予想外だったのか普通に結婚の悪魔に殴りかかって来た。
いや、なんでだよ。
(鬱陶しいな!!)
ギミックのおかげでいくら爆発を受けても結婚の悪魔は肉体を再生する事ができる。
問題なのは、当事者であるデンジではなく傍観者が戦う羽目になっているという事だ。
「オラァ!!……あれ!?」
その隙にデンジはビームに突撃攻撃を行なわせた。
当然のことながらレゼは攻撃を回避し、代わりに結婚の悪魔がぶっ飛ばされた。
(マキマによって指揮系統が崩壊!指揮をお願いします!)
(まずお前らで考えろ!!ぐはっ!?)
さすがに戦闘中にデンジの動きを見ながら結界の外に展開するムカデの指揮はできない。
ムカデ舎弟の報告に気を取られたせいでサメの悪魔のタックルを喰らう羽目になった。
これには己の肉体の上で戦わせている全長75km級のムカデも困惑した。
「いってぇ!!」
なにより天使の悪魔が生成した寿命武器である槍が結婚の悪魔の脇腹に突き刺さった!
さすがにコレはノーダメージとはいかずに悪魔は吐血した!
ギャグみたいなシーンであるが、普通の悪魔や人間だったら致命傷に繋がる攻撃である。
「おっさん大丈夫か!?」
「これが大丈夫に見えるかこのボケナス!!」
さすがにデンジも心配したが、他人事に感じられる発言に結婚の悪魔は罵倒した!
現状は学習机の縁を指でなぞっていたら木の針に突き刺さった程度のダメージではある。
ただし、レゼから見れば大金星であった!
「すごいよデンジ君、この悪魔にダメージを与えるなんて…」
「え?おっさんって悪魔なのか?」
「あれ?知らなかったの?」
さきほどまで殺し合っていたレゼの発言にデンジは素直に驚愕した。
彼女に何度も殺された男の発言には思えず、このまま見殺しにした方がよかったのでは?
結婚の悪魔は訝しんだ。
「あの肉体再生能力は悪魔でも別格だよ。“根源的恐怖の悪魔”かそれに匹敵する…」
ただ、余計な事をデンジに吹き込みそうになったので無言で槍を投擲した。
さすがに彼女もまずいと思ったのか。
それ以上の発言をする事は無かった。
「お前ら、殺し合うのか休戦するのかどっちかにしろ!!」
それよりデンジたちが仲良く会話をしていたせいで結婚の悪魔はどうすればいいのか分からない。
ビームも同じなのか頭を下げてわざわざ自分に騎乗している主をレゼに近づけている有様だ。
「あはははは…確かに」
祭りデートから頭の中がぐちゃぐちゃになっているレゼも自分がどうしたいのか分からない。
死んでもなお祖国に仕え続ける消耗品の道具に徹したせいで命令以外の主体性がなかった。
「デンジ君、私を殺して」
「いやだ!!」
「私を殺せないなら銃の悪魔なんか絶対に勝ってないって、上司さんもそう思うよね」
「そうだな」
爆弾の悪魔は、銃の悪魔の仲間である。
結婚の悪魔が何度も殺している戦車の悪魔と同格であり、13年前までは銃の悪魔も同格だった。
だが、あの日を境に銃そのものに恐怖する者が急増し、銃の悪魔は強大な存在になってしまった。
レゼを殺せる実力がないのであれば、銃の悪魔に絶対に勝てないのは誰もが分かっている事だ。
「だからね……油断しちゃダメ!」
「チッ!」
その事を告げたレゼは、隙を見せて無防備になったデンジの額に向かってナイフを投擲する。
これ以上、血を補給する気はない結婚の悪魔はそのナイフを掴んで構え直す。
「くっ!」
寿命武器の槍を構えたレゼは、絶対に勝てないナイフの使い手に勝負を挑む事になった。
爆弾の能力で加速し、少しでも善戦しようと試みる。
「ビーム!!」
「はい!!」
このままだとレゼが殺されると予感したデンジはビームに呼びかけた!
チェンソーマンの呼びかけに応じた彼は、そのまま一騎打ちに乱入する事となった。
(ケッ、こんな時にか…)
本来だったら瞬殺できる相手であるが、結婚の悪魔の置かれた状況が悪かった。
(鳩峯公園*1から東村山中央公園*2に敷いた最終防衛ラインがマキマに突破されました)
(東大和公園*3に展開したムカデを利用して狭山公園*4に誘導させろ)
(了解!)
埼玉県に展開するムカデのトップがマキマに殺害された影響が出ている。
結界の外に居るムカデの悪魔に化ける結婚の悪魔から続々と情報が入って来ているのだ。
それらの情報を頭の中で整理しつつ、デンジたちを巻き込まない攻撃をしないといけない。
攻撃を仕掛けているレゼはそんな事情は知らなかったが、違和感を覚えていた。
(……危なかった)
ナイフで槍術に奮闘するどころか、刃が首元を掠めるが、それ以上の追撃をして来ない。
何故かナイフを何度も構え直してデンジ君による突撃攻撃を回避していた。
(三ケ島文教通りで火災発生!ガスコンロを点けたまま避難した影響かと)
(埼玉県第6軍8師団の4個連隊で覆い被さって鎮火せよ)
(立川市の宝石店で火事場泥棒を発見!)
(手足を全てへし折って放置せよ。撃破された第6軍団長の後任はムカデ組長が継げ!以上!)
マキマのせいで指揮系統が混乱し、結界を張った結婚の悪魔宛に随時に情報展開が来た。
ここで放置すると民間人の死者が出るのでどうしても攻撃を止めてでも命令を下す必要がある。
必死に指揮系統を建て直しているせいでレゼへの追撃が疎かになったのだ。
(マキマと交戦する時はどんな対応をすればいいですか!?)
(放水が避難先の学校に命中しています!どうしましょうか!?)
(助けて!花火でムカデが追い払おうとした人間が勢い余って自宅を放火しちゃったの!!)
もうお前らが状況を見て判断しろという案件すら投げて来るから困る。
執拗に左手を穂先で狙って来る相手にナイフ1本で攻撃を捌きつつマキマの動向を探る。
「面白そうな事をやってるね」
さきほどまで無表情で歩いていたマキマは、本体の半身が意識を乗っ取ったムカデを見て笑う。
(うぜぇ…)
結界を張る前まではムカデの集合的無意識を演じていたのでマルチタスクは苦ではない。
ただし、マキマの動きに警戒しつつ能力で駆けまわるレゼの槍術に応戦するのは面倒だった。
普通の槍なら無視してもいいが、寿命武器に刺されるのは、さすがにきついのだから。
(報道ヘリが鬱陶しい!!)
なにより超巨大なムカデを動かす障害があるのだ。
大災害が発生した際に真っ先に上空に飛ばして救急隊員や被害者の声を妨害する存在である。
マキマのお膳立てとして30km級のムカデを動かすには邪魔過ぎた。
「ご覧ください!!超巨大なムカデの悪魔が狭山湖を覆っています!」
夕日テレビの本社ヘリの他に6社が所有するヘリコプターが上空を旋回している。
100万円以上する業務用ビデオカメラの前でマイクを構えた記者が状況の生中継をやっていた。
(おっ、開いてんじゃーん!)
(俺らが開けたんだよな…)
(そもそも割ってるんだが?)
(そんなの関係ねぇ!)
なんでマスコミは最悪の事態の収束が済んでいない現場の最前線に駆け付けるのか。
1991年6月に発生した雲仙岳の大火砕流の犠牲者*5も浮かばれないだろう。
「うわああああああああああ!?」
「な、なんだ!?」
なので1万匹のムカデがヘリコプターの窓ガラスを割って記者とカメラマンの前でカメラを破壊!
報道関係者の悲鳴を聴く暇もなく反対側の窓を割って脱出した。
そのまま落下死するのだが、意外とムカデ同士が念波で雑談する余裕があった。
(落語とかけまして、上空を飛ぶヘリコプターから飛び出した状況とときます)
(その心は?)
(どちらも
(やかましいわ!……ひでぶ!?)
生中継で大惨事をお茶の間にお届けしたという事件は、報道関係者に激震が走る。
後に大規模災害が発生した場合に過剰な報道規制をする法律が可決されるきっかけとなる。
これで台風の最前線で無駄に実況したり、避難所に襲来するマスコミは法規制で居なくなった。
やったぜ。
(追っ払ったか)
そもそも全長30km級のムカデが居るのにヘリを飛ばそうとするアホはデンジより馬鹿である。
左手に填めた結婚指輪を破壊されても肉体を復活させる結婚の悪魔はそう思った。
(ムカデ長老、後は頼む)
(了解!)
指揮系統を現場のムカデに移管した結婚の悪魔は、全長30km級のムカデに後始末を命じた。
その命令に従ったムカデ長老は、村山下ダムでマキマと向かい合う。
これで戦闘に専念できると思った束の間、今度はビームが頭の上に乗っかって来た!
「ビーム!テメェいい加減にしろ!!」
「チェンソー様!空飛びたがってる!俺、空飛べない」
「お望み通りに飛ばしてやるよ!!」
空中を自由に飛び回るレゼにデンジたちはついていけない。
だから結婚の悪魔は、フレンドリーファイア常連の彼らを彼女に向かって投げつけた!
「ボン!」
「「ぎゃああああああああ!!」」
遠距離攻撃である火花に触れたビームたちは爆発に巻き込まれて落下した。
さすがに彼女も疲弊しているのか威力は大した事はない。
「後2分だ、それ以上戦いが長引けば、本気であの女を跡形も無く粉砕するからな!」
追撃をしてくる前に上空を驚異的な脚力で蹴って彼らを保護した結婚の悪魔が忠告する。
どう足掻いても公安の実験道具にされる彼女の事を考えるならば存在を抹消した方が良い。
その意図はさすがに伝えなかったが、デンジもある程度、何かを察したのか。
「おっさん、一瞬だけでいい!レゼの攻撃を防いでくれ!」
「はあ?」
「俺に名案がある!」
とりあえず何か案があるようである。
無視しても良いが、マキマの方針には逆らえないのであえて彼の提案に乗る事にする。
「というか落ちてんじゃ~ん!?早く上に飛んでくれ!!」
「いくらなんでもお前らを抱えて飛び回るのは無理だ」
さすがに青年とサメの悪魔を抱えながら空中を蹴り続けて滞空するのは無理である。
出来ない事はないが、普通にソニックブームが発生し、彼らが即死しかねなかった。
「ふん」
レゼの追撃が見えたので結婚の悪魔は予想外と見られる方向に彼らを投擲する。
今度はデンジ狙いなのか、飛んでいった方向に彼女は追撃する。
「遅い」
デンジたちが飛んでいった場所に先回りした結婚の悪魔は彼らを再び投擲した。
そして無我夢中に突っ込んできた自爆攻撃を回避し、落下しながらデンジを再び掴んだ。
(ふーん)
どうやらデンジは、チェンソーのチェーンを使って何かやるつもりである。
「残り1分だ、覚悟は決めたか?」
「ああ、水の近くに降ろしてくれ」
「分かった」
タイムリミットはもうすぐである。
それを告げるとデンジは水辺で降ろせと言うので山口ダムに降ろした。
「これでいいか?」
「ばっちり!」
残り時間30秒、これでどうやってレゼを撃破するのか結婚の悪魔は気になった。
だからサメの悪魔から飛び降りたデンジの行動に不審がる事は無かった。
「今だ!」
水辺ギリギリまで近づいたデンジと水面の向こうで佇むレゼの行動に注視した。
そしたらサメの悪魔に変身していたビームが結婚の悪魔を背後から抱擁する。
「な!?」
「すみません!すみません!」
「おまっ!?」
その勢いで狭山湖に沈んだ結婚の悪魔は、自分の弱点を突いたビームに苛立つ。
必死に謝っているところを見ると彼も不本意のようだが、悪魔からすれば関係ない。
「パリン!」と結界が割れて生物以外が赤色と白色で染められた世界は崩壊した。
「……ねえ、デンジ君。上司に騙し討ちはまずいと思うよ?」
「そうだな、怒られる覚悟はある」
「言いたい事はそれじゃないけど…」
戦闘の最中、ビームから金髪のおっさんの弱点を聞いたデンジは閃いた!
適度にレゼと戦ってもらいつつ時間切れに近づいたらおっさんを沈めようと画策した。
さすがにビームも抗議したが、チェンソーマンが「俺が責任とる」と断言されれば従うしかない。
「レゼ、今度こそ2人っきりだな」
「ムカデが居るけど?」
「こまけぇ事は良いんだよ!」
全長75km級のムカデ仙人は、すぐさま本体の救出をしようとした。
だが、全長30km級のムカデ長老が縦に割れたのを目撃した自分の使命を果たそうとする。
「…ふう、私に内緒で何をやってたの?」
村山下ダムで日本刀を構えているマキマは、全長75km級のムカデに質問を繰り出した。
だが、ムカデなので返答できるはずもなく態度と行動で答えを示した。
「いいよ、おいで」
全長30km級のムカデの屍を乗り越えて戦いを望む彼女の期待に応える事となった。
一応、双方とも街に被害が出ないように手加減をしている。
そのおかげでデンジとレゼの一騎打ちに支障が出る事は無かった。
「……これがキミの作戦?」
「ああ、そうだ」
水中からの奇襲攻撃に対処したレゼは、ダムの上で作戦を決行したデンジに問いかけた。
上司を湖の底に沈めた挙句、サメの悪魔に奇襲させる作戦が本当だったのかと…。
反応からすると間違っていない様だが、何か気になる点がある。
「……なんで湖を背後にしたの?」
「俺に泳ぎ方を教えたのは間違いだったな~!」
「え~泳ぐの~?」
文字通り背水の陣であるが、デンジ君の事だから必死に戦う気はないと思っていた。
ただ、泳がれるとレゼとしても困るので毛だるそうに返答した。
((最後…か))
双方ともこの攻撃が決まらなければ終わりだと理解した。
デンジはスタータロープに手をかけてレゼは左腕を伸ばす。
5秒ほど間を開けて先に仕掛けたのはレゼであった。
スタータロープを引っ張った瞬間にデンジの右肩が吹っ飛んだ!
「チェーン!?」
千切られた右腕にはチェーンがくっついており、これで何かする気のようだ。
その瞬間、デンジは無事だった左腕も切り離してチェーンを鞭のように振り回した!
無駄に怪力であるので当たるとレゼもただではすまないが、単調の攻撃なので回避は容易い!
(遅いよ)
チェーンが激突して飛び散るコンクリートの破片を蹴りながらレゼは寿命武器を振り回す!
高速で突っ込む破片が激突した頭のチェンソーが割れると同時に両腕のチェーンが破壊された。
両肩から切り離されたチェーンは二度と動く事は無い。
(獲った!)
そのまま前に踏み込んだレゼは、両腕を失ったデンジ君の首を穂先で貫こうと試みる!
「なっ!?」
槍は一点を突き刺すか、敵を薙ぎ払う用途で使用される。
だから胴体から頭が射出されると予想できなかったレゼは突き攻撃を空振りしてしまう。
咄嗟に槍を横に薙ぎ払うとチェーンごとデンジの頭はコンクリートの地面をバウンドした!
「でもこれで終わりだよ」
だからといって無防備になったのに変わりはない。
槍を地面に投げ捨てて胴体に手を当てようとしたレゼは…。
「え!?」
祖国が欲しがっていた心臓がデンジの胸部から高速で飛び出したのを目撃する!
さすがに心臓を破壊するわけにはいかず、体当たりを回避するが地面に落下させる気はない。
心臓と繋がっているチェーンを掴んでそのまま胴体から千切ろうと強く引っ張る!
「うっ?!」
エンジン音が鳴り響いたと同時にさきほど飛び出したチェーンが高速で巻き取られた!
どうやら両足に生えたチェンソーがチェーンを巻き取っているようである。
(ぐっ!?)
後方に重心を倒していたせいで前めりに倒れ込む彼女はデンジにぶつかった。
その衝撃で足から生えたチェンソーは引っ込んで2人はダムの縁から飛び出す。
(この…!)
すぐさまチェーンから両手を放したレゼは、誰かが自分を抱きしめた感触がした。
もちろんお相手はデンジでいつのまにか生やした両腕で彼女を強く抱きしめたのだ。
「シケてても…ごぼごぼ!?」
胴体に頭を戻したデンジは決め台詞を言う前に着水し、そのまま沈んで行った。
力強く抱擁されている状況から逃れようと足掻こうとするレゼは走馬灯を見た。
(あ…)
死ぬ前に見る走馬灯というのは、自分の人生の中で印象に残っている記憶が多いと聞くが…。
深夜の学校デートで2人で遊んだプールの事を思い出してしまった。
あの瞬間だけは純粋な女の子として水遊びを楽しんだ最初で最後の安らぎの時間。
二度と訪れない光景を思い浮かべていたら思いっきり水を吸ってしまう。
(苦しい…きつい…)
でも、何故だかそれほど辛くはなかった。
既に何度も死を経験しているかもしれない。
少なくとも今のレゼは湖底に道連れにされた女の子に過ぎない。
(…無様だね)
祖国に尽くす事しか残されていなかったので何度も死にたいと思った人体実験に耐えて来た。
タッグを組んでいた同僚を試験に合格する為に殺したし、前任者となる同僚も殺した。
もうじき任期が終わり、顔が割れた自分は後任者によって殺される。
(でも良かった)
そんな絶望な未来から解放されると考えると悪くないと思った。
二度と祖国に戻れなくなると確信するが、そもそも帰った所で死ぬ未来しかない。
(
相手を殺して自分も殺し続けた自分が好きになった男に抱かれて溺死させられる。
悪くないと思った。
ハニートラップを駆使した自分が逆に劣情に溺れた末路にはぴったりだった。
(
この状況を漢字で例えるなら“仲良死”となるか。
そう思ったレゼはデンジの肉体に身を寄せて抵抗を止めた。
武器人間になった事で浮上する事が無い2人はそのまま湖底に辿り着いた。
衝撃で泥が巻き上がって視界がどんどん暗くなっていく。
(
最期に楽しかった思い出作りに協力してくれたデンジに別れを告げたレゼは意識を失った。
デンジは何度も意識が復活したり消えたりを繰り返してレゼが死んだ後に息を引き取った。
1週間だけの恋愛に溺れた2人は、そのまま湖底で身を寄り添うように溺死する事となった。
誰かが発見しない限り、彼らはずっと湖底で永遠に眠り続ける事だろう。
(…で?コレどうすればいいんだ?)
ひとまず先に湖底に沈んでいた結婚の悪魔は、仲良く溺死した2人を見て困惑した。
泥が巻き上がり、視界が悪くなるのもそうだが、なんか手を出したくない。
(ビームか、救助隊の救援を待つか)
確かに水が弱点ではあるが、それだけでは死なない。
人間形態を物質に変化させれば呼吸する必要が無いのであるが、それだと結界が邪魔になる。
なので結界を解除して沈んだ後は、普通に湖底で泳ぐ魚の群れを観察していた。
(あーあー、せっかく魚の生態を間近に観察できる機会だったのにな…)
どうせ水面に上がればマキマにボコられるのは分かっているので束の間の楽しみをしていたのだ。
水を吸って風船のように膨んだ遺体を何度も見た経験がある悪魔としては、水を差された気分だ。
(いっそ、死ねたらマキマから…解放される気がしねぇ)
人間は死ねば終わりなので、悪魔目線から見ると本当に羨ましい。
概念を失わない限り、悪魔は現世か地獄で生き続けるのだから。
(アホらし…)
その気になれば湖底から脱出できる悪魔は、後始末の事を考えてスルーした方が良いと判断した。
溺死した遺体と一緒に引き揚げられないように泥に減り込みながら移動を開始した。
(あ、ムカデ仙人が死んだ)
丁度、全長75km級のムカデがマキマによって討伐されたと確認できた。
その瞬間、能力を解除し、ムカデの死骸と血液を塵に変えて存在をこの世から抹消する。
これでマキマによってムカデの悪魔が討伐されたと公安上層部が判断するだろう。
(どう言い訳しようかな)
被害総額は、公安対魔2課訓練施設を含めて200億円ほどであろうか。
どちらかというと事件後の調査費用の方が高くなる可能性もある。
下水道管とかの工事や調査を考えると担当する公務員の方々に頭を下げたくなった。
(ま、いっか)
一連の事件の責任を取らさせても問題はない。
いっそ、マキマから逃げられると思えば安いもんだ。
そう考えた結婚の悪魔は他人事のように湖底を移動した。
まるで仲良く死んだ2人の世界から逃れようとしているかのように…。
(寿命武器を回収しないとな…)
なお、天使の悪魔の生成した寿命武器を誰かに拾われないようにしているだけだ。
悪魔は人間の味方ではないが、ある程度の関係を築いた悪魔には配慮する事がある。
血塗れの物体から人間形態に戻った悪魔は、そのまま水面へと浮上していった。