デンレゼが足掻く度に不幸になるケッコンの悪魔さん 作:Nera上等兵
レゼがふと目が覚ますと見渡す限りの大空が彼女の目覚めを迎えてくれた。
台風が過ぎ去ると快晴になるものだが、心のモヤモヤも晴れた感じがした。
(なんで…)
もう二度と覚めない眠りで全てが終わったはずなのに彼女は生き返った。
全裸だったはずだが、誰かがYシャツを着させてくれたおかげで最低限は隠せていた。
(あ…)
横を見ると上半身が裸のデンジ君が三角座りで湖を見ている。
傍に寝息を立てているサメの魔人を見る限り、彼が自分たちを助けたようである。
「信じられない…どうして私を蘇らせたの?」
信じられない状況過ぎて自分にあっさりと騙されて何度も殺された彼に問いかけた。
「…俺は素晴らしき日々を送っている」
すると淡々とレゼを助けた理由をデンジは語り始めた。
「何回もボコボコにされて酷い目に遭って死んでも次の日、ウマいモン食べれば帳消しにできる」
デンジはゾンビに不意打ちで殺されてから何度も殺された。
死ぬ直前は痛いし、辛いし、なにより何度も大切な何かを失った気がした。
それでも蘇生し、美味しい物を食べられれば帳消しにできる男であった。
「でも……」
大きな流れに乗って適当に生きているデンジであるが…。
「レゼを公安に引き渡したら魚の骨がノドに突っかかる気がする」
あれほど暴れたレゼの死体を公安や日本政府は放置しない。
絶対に回収するとデンジでも分かるが、それだとなんか嫌であった。
深夜の学校デートで見かけた小動物のホルマリン漬けになってそうな感じがしたのだ。
(へえ…)
レゼは死ぬ間際に自分の死体は酷い事になると察していた。
死体を解体されてラベルが貼られた瓶の中に入れられる。
でも、死んでいるので気にする事はないと考えた瞬間、意識が途切れたのだ。
(ああ…)
ふと空を見ると、祖国に向かう飛行機が遥か上空を飛んでいた。
あれに乗れなければ今度こそ作戦が失敗となり、用済みになった自分は処分される。
味方に処分されるくらいなら敵に殺された方がマシだとレゼは思っていた。
「素晴らしき日々を送っても、時々ノドん奥がチクッてなりゃあ最悪だ」
要するにここでレゼを見捨てると後悔するので救出したという事になる。
だが、これを公安デビルハンターに知られればデンジ君はただで済まない。
あれだけ公安のデビルハンターを殺した自分を生き返らせたとなれば尚更である。
「今、私に殺されても同じ事言える?」
「殺されるなら美人にってのが座右の銘」
わざと自分に嫌われるような発言をするとデンジ君は明らかに難しい単語を知っていた。
小学校を行った事が無く“金玉”しか漢字が読めない彼が“座右の銘”を知っている。
「っぷ!あはははははは!!」
その滑稽さに腹を抱えてレゼは笑った。
今まで真面目にデンジ君について考えていた自分が馬鹿みたいだった。
「はぁあ…はあ~」
なによりまだ自分との関係が続いていくと本気で信じている様だ。
だからレゼは、一人前の男になった彼に真実を告げる。
「もしかして…私がまだキミを本気で好きだと思っているの?」
二度と自分みたいなハニートラップを仕掛けて来る女に引っ掛からないように警告する。
「キミに会ってからの表情も頬の赤らめも全部嘘だよ。訓練で身に着けたものだよ」
何度も好意的に見えた表情も頬を赤くして喜んだのも訓練で身に着けた事は事実である。
もしもデンジを始末するターゲットでなければ恋をする事も無かっただろう。
街中ですれ違う一般人程度の認識でしか彼を見れなかったと自覚できる。
(そう…全部嘘。それでいいの)
口を開いて呆然としているデンジ君は恋愛が嘘だと知ってがっかりしているのだろう。
実情としては、祭りデートの際に放った告白とお気持ち表明は嘘では無かった。
それを理解できる頭脳はないと分かるからこそレゼは彼を突き放す。
「私は失敗した。…キミと戦うのに時間をかけすぎた」
暢気にハニートラップをしている暇などなかったはずだ。
ただ、心臓を奪取する作戦がスムーズに成功したとしてもレゼの運命は変わらない。
接点がないはずの台風の悪魔ですら自分の名を知っていたのだ。
顔が割れた工作員など祖国は不要であり、爆弾の悪魔の心臓を後継者に移植するだろう。
「じゃあ私は逃げるから」
ダムの堤防で座り込んでいたデンジ君に今度こそ別れを告げた。
口とは裏腹に現実と向き合った彼女は祖国に帰って処罰を受けるつもりだ。
せめて彼には自分と同類の存在に引っ掛からない事を祈りつつ、その場を去ろうとした。
「一緒に逃げねぇ?」
「え?」
まさかの一言にレゼは振り返る。
そこには金髪をポリポリと掻くチンピラっぽい男が居た。
「俺も戦えるから逃げれる確率が上がるぜ」
今度はデンジ君から逃避劇のお誘いが来た。
だが、レゼは知っている。
彼がマキマの子飼いである以上、絶対に逃げきれない。
それどころか、祖国すらマキマとの戦いは望んでいないのだ。
「私はたくさん人を殺したよ?」
ぶっきらぼうでやさぐれたようにレゼはデンジに吐き捨てる発言をした。
「私を逃がすって事は、人殺しに加担するって事になるけど分かってる?」
今まで見せなかったニュアンスで発言するとデンジは驚きはしたが、覚悟は揺らがない。
「仕方なくねぇけど仕方ねぇな。まだ俺ぁ好きだし…」
確かに今までと違うレゼを見て演技をしていたとデンジにも分かる。
それでもデートをしてくれた彼女が好きなのは変わらない。
むしろ、本性を知れたので助けた甲斐があったまである。
「全部嘘だっつーけど俺に泳ぎ方を教えてくれたのはホントだろう?」
なによりレゼから色々学んだデンジは核心をついてきた。
泳ぎ方も学校の風景も武器人間の戦い方もたくさん教えてくれたのは事実だった。
(キミって本当に……)
どうしようもない存在のはずなのに時折見せる魅力的な表情が好きだった。
ゆっくりと近寄ったレゼは、デンジの顔を両手で触れて唇を近づけた。
今度こそまともなキスができると期待する彼の感情が見える様である。
「あっ」
だから首を軽く折って現実を教えた。
倒れ込むデンジを見る事も無くダムから離れる様にレゼは歩き出した。
「もう少し賢くなった方がいいよ」
最後に忠告をする為に振り返ったレゼは、二度と彼に語るつもりはない。
自分が居るせいで発生する事件に巻き込みたくない彼女はひたすらに歩き続ける。
「レゼぇ!なあっ!レゼ!!」
首を折られて動けないデンジは、豆粒のように小さくなるレゼに呼び掛けた。
「今日の昼に…!あのカフェで待ってるから!」
苦し紛れにレゼに向かって約束をしたが、彼女に聴こえたとは思えない。
すぐに後を追いたい彼は、今の自分にできる事をする!
「起きろビーム!俺のエンジンをふかせ!!」
このままでは動けないデンジは相棒の名を呼ぶ。
だが、サメの魔人も肉体を酷使し過ぎて動けない。
このままレゼを逃がせば、二度と逢えない気がしたデンジは叫ぶ!
「クソ、もっとデートしてみたかったし、結婚もしてみてぇええ!!」
それは苦し紛れの発言に過ぎなかった。
以前、“結婚”という単語を“異性と一緒に暮らす事”と教えれた。
だから適当に発言しただけであった。
「ええ!?結婚したいって!?」
しかし、“結婚”というワードに惹かれた結婚の悪魔が狭山湖の水面から飛び出してきた。
「よし、行ってこい!」
その勢いでデンジの胸部から生えたスターターロープを引っ張ってエンジンが再起動する。
脳内のアドレナリンが急速に溢れて痛みを感じなくなったデンジは覚醒した!
「うおおおおお!レゼ!!」
何度でも蘇るチェンソーマンは、レゼに向かって全力で駆け抜ける。
そのまま彼女に抱き締めようとするが、腕を掴まれて背負い投げをされてしまった。
「まだだ!!」
それでもチェンソーマンは諦めない。
何度でも彼女を引き止めようと挑戦し、その度に返り討ちに遭った。
既にチェンソーは壊れて人間形態に戻ってもデンジは果敢にレゼに挑んだ。
「やれ!やれ!当たって砕けろ!」
その様子を観戦していた結婚の悪魔が野次を入れる。
「お前んも手伝え!」
「いい加減にして!」
「えーそう来るかー」
そのせいで2人に本気で殴られた悪魔はそのまま大木に激突して肉体が爆散した。
まるで彼らだけの世界になり、お互いの顔を見ると息を切らす姿を見せつけていた。
「「はぁはぁ…」」
全力で戦い抜いたせいで既に2人の体力は限界だった。
血と土塗れになった彼らはその場に座り込む。
「どうせ私は処分される。それでも祖国に帰らないといけないの」
「なら…さっきの約束なし!なし!俺と一緒に公安に行こうぜぇ」
半ば自暴自棄になりつつあったレゼに対してデンジは何気ない一言を告げる。
公安の職員をぶっ殺しまくったせいで投降したところで処刑されるのは目に見えていた。
「私は公安の人たちを殺しまくったんだよ…?行けるわけないじゃない」
「でもよ、そのまま逃げるよりマシだ。なあ、そうだろ?」
だから事実をデンジに告げると意外な返答があった。
「確かにそうだが…なんで今、それを言うんだ?」
さきほど肉体が爆散したはずの金髪の壮年男性が呆れた表情で立っていた。
まるでデンジ君の親御さんに見える頼もしさにレゼも何も言えなかった。
「ここで…えーっとなんだっけ?」
「出頭か?」
「そうそうそれそれ!それをすれば罪が軽くなるよな?」
デンジの言い分としては、自分から公安に行けば罪が軽くなる。
だからレゼを公安に連れて行こうというのが彼の意見であった。
「おいおい、テロリストの大量殺人鬼が死刑を免れる訳がないだろ!?」
「デンジ君、そんなわけないよ…」
結婚の悪魔もレゼも底座に彼の発言を否定した。
これが許されるのであれば、日本はとっくに滅亡しているだろう。
「でも、マキマさんの飼い犬になって働けばレゼを生かしてくれるかもしれねぇ」
それは逆転の発想だった。
一部署の公安職員を僅か数分で殲滅できるならそれは即戦力である。
ならば、自分と同じく公安に所属するのであれば、殺されないと思ったのだ。
「レゼがぶっ殺した分だけ働けば、問題ねぇだろ!?」
「問題あり過ぎだ!それなら警察も裁判所も要らねぇよ!」
すぐさま結婚の悪魔は反論するが、デンジの覚悟は揺るがない。
「じゃあ、お前も同罪だ!」
「はああ!?」
「あんたは俺がレゼと結婚したいって言ったから俺のエンジンをふかした!そうだろ!?」
「確かにそうだが?」
「ならレゼが死んだら結婚できねぇだろ!結婚できないのはお前の責任だ!」
「ふざけんな!!」
いつのまにかレゼの大罪が結婚の悪魔にも適用される理屈が展開された悪魔は切れた!
「逮捕する!!」
「やれるもんならやってみなー!」
まるで職務質問をしている警官を煽っているチンピラである。
実際、そうなのだから困る。
「午前6時13分36秒、偽計業務妨害罪*1と公務執行妨害罪*2で現行犯で逮捕する!」
「うげええ!?マジで逮捕しやがった!?」
そのせいで衝撃的な事件が発生した。
本気で激怒した結婚の悪魔が疲れ切ったデンジの右手首に手錠をかけたのだ。
これには彼もびっくりして反論をする。
「なんで公安のデビルハンターが逮捕できるんだよ!?」
「公安のデビルハンターはな、公安警察の一部署なんだよ!だから逮捕権がある!」
「マジかよ!?」
「マジだよ!!」
悪魔と戦っているせいで忘れがちだが、公安のデビルハンターは公安警察の一部でしかない。
公安警察は、公共の安全を維持を目的にする警察なのだ。
要するに法律違反をすれば、堂々とデンジを逮捕できると結婚の悪魔は告げた。
「ついでに貴様も逮捕だ!」
「……え?」
映画を鑑賞するノリでそのやりとりをしていたレゼの左手首にも手錠が填められた。
これで強制的にデンジとレゼは現行犯で逮捕される事となった。
「なんでおっさんが手錠を持ってるんだよ!?」
「近くにあったパトカーから拝借した」
「はいしゃく?」
「借りたんだよ!馬鹿が!」
ご丁寧に難しい単語をデンジに解説した結婚の悪魔は彼らをこの場に放置する事にした。
「そこで頭を冷やしてろ」
パトカーの無線機で応援を呼ぼうとしたのだが…。
今までの経験上、彼らをこのまま放置するとまずいと感じて振り返る。
(なんだこの感じ…)
さきほどまでムカデによって追い払われたはずの鳥や昆虫、小動物の姿が見える。
そんな存在たちが疲れ果てて眠り出した2人を一斉に見ている感じがした。
まるでマキマに監視されているようで気が済まない。
「ムカデの悪魔、お前に仕事をやろう」
「えー」
思い立ったらすぐに行動するのが結婚の悪魔である。
結婚の悪魔の腹から強制的に追い出されたムカデの悪魔は地面に投げ出された。
慌てて体内に戻ろうとする悪魔に公安対魔特異4課の係長は仕事を告げた。
「こいつらを回収し、自分と並走しろ」
「メリットは?」
「お前が襲われた時に対処してやる。さすがに自分も貧血でこれ以上の能力を使いたくない」
結婚の悪魔が取り込んだムカデの悪魔を利用して血塗れになった大量のムカデを生み出した。
その脅威で人間からの恐怖が増してパワーアップしたムカデの悪魔は人語を話せるようになった。
なので理由を問うと結婚の悪魔は、ありきたりな根拠を告げて2人を回収して並走しろと命じてきた。
「わかったー」
ここで逆らえば殺されるのは分かり切っているのでムカデの悪魔は命令に従う。
全長5m級の悪魔は、2人を乗せてペットのように強力な悪魔と並走する。
(……証人を作る為に協力させたが、どうするべきか)
別に結婚の悪魔が2人を運んでも良かった。
ただし、ムカデの悪魔に手伝わせる事でこの悪魔を生かす理由立てにしただけである。
「良し、2人を入れろ」
「はいはいー」
台風の悪魔が本格的に暴れる前に結界を張ったおかげで山口ダム周辺と湖岸は特に被害はない。
戦闘で破壊されたはずの景色は元通りになっており、時間が経てば民間人がやって来るだろう。
あえて言えば、デンジとレゼが交戦した場所だけ大きく破損している。
そこから12分歩いた場所に捨てられていたパトカーの後部座席のドアを結婚の悪魔は開いた。
「……これで良し」
さすがにパトカーにいちいち干渉する存在はいないだろう。
既に寿命武器は天使の悪魔に返却しており、特に問題はない。
「……なんだその花?」
「なんかあった?」
ただ、ムカデの悪魔の関節部に花が挟まれていた。
せっかくだからと花を手に取った結婚の悪魔は、その花の名を思い出した。
「マリーゴールドじゃないか」
「詳しいね」
「こう見えても結婚コンサルタントをやってたんだぞ?主要な花言葉とセットで暗記済みさ」
その辺に生えていたとは思えないし、ムカデ騒動で飛んできたのだろうか。
少なくともデンジとレゼを乗せたムカデの悪魔の移動に巻き込まれたようである。
「ねえ、その花をくれない?」
「ん?別に良いが…」
そのまま花を置いて行こうとするとレゼがその花を求めた。
特に断る理由もなかったので彼女に花を手渡すとデンジの顔を見た。
「お花、プレゼント」
今度はレゼがマリーゴールドをデンジにプレゼントした。
「いやだ」
「え!?」
デンジに花をプレゼントしようとすると彼はあっさりと拒絶した。
まさか拒絶されるとは思っていなかったレゼはショックを受けた。
「再会したら花をくれ。そうすれば絶対に会ってくれるだろ?」
デンジ曰く、このまま花を受け取るより再会した時に受け取りたいらしい。
確かに悪くない判断だと結婚の悪魔は思う。
「勝手にやってろ」
後部座席のドアを閉めようとすると前方から鳩の大群が飛んでいるのが見えた。
まるで彼女たちを祝福するように飛んでいる鳩は1匹残らず血を噴き出して地面に落下した。
「の、能力は使わないって…」
「念の為さ。お前もさっさと助手席に乗れ」
「はい…」
このまま鳩の大群を放置すると、レゼかムカデの悪魔が群れに持って行かれそうな気がした。
それだけの理由で300羽以上の鳩を殺した結婚の悪魔はムカデの悪魔に指示を出す。
慌てて助手席に座った悪魔を確認し、パトカーを発進させた。
「こちら公安対魔特異4課から警視庁」
《警視庁です。どうぞ》
「狭山湖巡回中に特急護送案件発生。練馬5を借りてます。どうぞ」
車載無線で警視庁と連絡を取っている結婚の悪魔は、気分転換にフロントガラスを見る。
そこには、後部座席でお互いに身を寄せ合う男女の姿があった。
この光景を守る為に連絡していると考えれば苦では無かった。
(まずは先手を打った。後はどうなるか…)
警視庁にパトカーを借りた事とデビルハンター東京本部に向かう事を告げた。
これでマキマも露骨な介入をして来ないと思うが、それでも油断できない。
(マキマにも一報入れるか…やりたくねぇけど…)
デンジと爆弾の悪魔の心臓を持つ女を確保したと報告する事にした。
最初に連絡しなかったのは、第三者を挟まないと大惨事になる事を経験しているからだ。
こうしてマキマと連絡を取った結婚の悪魔が運転する車はデビルハンターの総本山に到着する。
そして手続きをしてデンジとレゼは別れる事となった。
――それから3日が経過した。
「はぁ…」
自腹で花束を買ったデンジであるが、アパートに居る間、なにもしていない。
買ってから3日も経つとさすがに花も枯れて来る。
まるで失恋した思春期の男子のように目が死んでいた。
(なんかあったのかこいつ…)
早川アキは、デンジが花束を買って来たのに困惑した。
こいつがパワーの復帰祝いをするとは思っていなかった。
だからといって花束をプレゼントする相手が全然想像できなかった。
「どうした?いつものお前らしくない」
「いやなーこと考えちまってな」
「そうか…」
こういう問題に関しては早川アキも対処法を知らない。
だからずっと放置してきたのだが、さすがにこれが続くと問題がある。
とりあえず、没頭できそうな趣味でも紹介してやろうとアキは口を開こうとする。
「おお!!」
「ピンポーン」とチャイムが鳴った瞬間、歓声を出したデンジの動きは速かった。
机の上に置いてあった花束を手に取って玄関のドアを解錠し、ドアを開いた!
「パパパパパワー!!」
そこにはポーズを決めたパワーが居る。
相変わらず片側のYシャツがズボンから飛び出しており、何も変わっていないと分かる。
「ワシ!復活じゃ!!恋しかったじゃ~ろう!そうだと言え!!」
「…はぁー」
分かっていた事だ。
レゼがここに来ることなどあり得ないって事に…。
カフェに行くべきか迷ったが、マスターには迷惑をかけられなかった。
それだけの理由で早川が借りたアパートで待機していたのだ。
「なんじゃあその花!?まさかワシの復活祝いに用意したのかあ!?気が利くのう!」
デンジが持っていた花束を見てパワーは勘違いしたが無理もないだろう。
バディが花束を持って待機していたら復帰祝いと考えてもおかしくはない。
「これはワシの花じゃ!差し出せ!!」
頬を赤くして喜ぶ彼女の姿は、レゼを彷彿とさせるものだった。
覗き込むパワーの顔を見たデンジは、無言で花束の花を食べ始めた。
「おい!!ワシの花を食べるな!!」
それを見たパワーは玄関に入ってドアを閉めてデンジの蛮行を止めようと試みる。
突き出す彼女の顔を左手で押しのけてデンジはひたすら花を食べていく。
レゼが居なくてパワーが居る生活こそが日常だと思い知った彼に躊躇いは無い。
「……なんかあったんだな?」
「ああ、でも…どうでもよくなった」
とりあえず、アキはデンジの心境を察して追及する事はない。
キッチンに向かって何かを作ろうとするとまたしてもチャイムが鳴った。
「デンジ、代わりに出てくれ」
「はいはい」
家の主に命令されたデンジは、花束を放り出して玄関に向かった。
そして気怠そうにドアを開いた!
「……え?」
そこには、さきほどまで望んでいたレゼの姿があった。
両手にはそれぞれ枯れた花を持っており、片方は自分がプレゼントした花だと直感で分かった。
「ごめんなさいデンジ君、花が枯れちゃった…」
すぐさま花を受け取りたいデンジだが、その場から動けない理由がある。
「女の子からお花をもらう関係になったのは驚いたよ。これもキミが頑張ったおかげだね」
憧れのマキマさんが日本刀を携えて待機しているのだから。
さすがのデンジもここで選択肢を間違えれば、ヤバい事が起こる事くらい理解できた。
「そう身構えるな、別にここで彼女を公開処刑する為に来たんじゃないからな」
ただ、金髪のおっさんの姿を見た瞬間、デンジは少しだけ安心した。
なにかと自分の相談に乗ってくれる存在は大きかったのだ。
「デンジ君」
「マキマさん…」
女上司からの問いかけにいつもならだらけているデンジの背筋がピンと伸びる。
彼の背後に居たはずのパワーは涙目になってアキの背中に隠れている有様だ。
「単刀直入に言うよ」
マキマが突き出した条件とは…。
「キミはこの
マキマからの質問を横で聴いた結婚の悪魔は悪質な質問に眉を
何故なら全部外れだからだ。
「お花をもらいたいです」
「どうして?」
「花をもらう約束をしていたからです」
だが、デンジはマキマの提示した内容を全て外す回答をした。
これには参ったと言わんばかりにマキマは肩を竦めた。
「君の賭けが当たったね」
「約束は守る男だと思ってますので…」
これでレゼの首の皮が一枚繋がった。
結婚の悪魔と早川家の管理下、レゼを監視するという条件を満たしたのだ。
約束では無くて書類で決めた契約なのでマキマですら撤回できないものである。
「次は無いよ?」
「承知しております」
マキマからの最終通告に結婚の悪魔は返答する。
ギロチンの刃はレゼだけではなく自分にもあると分かっていた。
(とりあえず賭けは勝ったが…生きた心地がしないな)
一か八かの賭けに勝ったわけだが、それでも結婚の悪魔はマキマに勝てる気がしない。
どこまでを予測しているのか分からず更に警戒心を強める結果となった。
「はい、お花」
「どうも」
萎れた2本の花を受け取ったデンジはレゼを見る。
その時の彼女の表情はとっても嬉しそうな感じがした。
そしてデンジが選んだ選択により、2人の人生が大きく変わる事となった。