デンレゼが足掻く度に不幸になるケッコンの悪魔さん   作:Nera上等兵

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40話 絶対に幸せになれない2人を嘲笑う悪魔

子供にとって生まれた環境が全てであり、育つ環境で全てが決まる。

世間からみれば地獄絵図だったとしても、そこで育てられた子供たちはそれが正常だと思い込む。

ソ連は、国家に尽くす存在をみなし子から育成し、死すら恐れぬ存在を生み出した。

 

 

「それがподопытный (ポードゥイティヌイ) кролик(クローリク)(実験用ウサギ)、日本語で言えばモルモット」

 

 

ソ連軍が子供を保護するニュースはあっても、それがどうなったのかの続報はない。

だから人民は、軍の弾薬庫に秘密の部屋があってそこに子供を押し込んでいると噂が生まれた。

物の様に扱われて自由に外も出れずに死ぬまで人体実験をされ続けているという噂だ。

実情はもっと悲惨だった。

 

 

「実際は…」

「お前が生まれ育った環境も出来事も興味はない。所属組織を報告してくれただけで充分だ」

 

 

それを伝えようとしたレゼであったが、取り調べを担当する結婚の悪魔に話を遮られた。

ここから私情が混じった報告をされるよりは、別の話題を振った方が良い。

経験から導き出された悪魔は手枷を付けられた女に新たな質問を振る。

 

 

「なんで祖国よりデンジを選んだ?」

 

 

祖国に尽くす為に作られた戦士は、最後は祖国よりも標的の男を選んだ。

その理由を問われたレゼは顔を背けた。

 

 

「女に飢え過ぎて美女を見る度にフラフラと心が揺れているどうしようもない存在に…」

「言い過ぎじゃない?」

 

 

デンジの事をボロクソに言う存在にレゼは思わず声に出してしまった。

 

 

「いいや、マキマ一筋だと言っていた癖にお前に恋した挙句、まだ満足しない奴だよあいつは…」

 

 

デンジの相談を受け続けた結婚の悪魔は、彼の異質さに気付いた。

確かに普通の生活を送って幸せのはずなのだが、どこか満足していない。

 

 

「父親の借金を背負わされたデンジは幼少期から内臓を売りながらデビルハンターをやっていた。そのせいであいつの価値感が壊れたまま育ってしまい、日常じゃ満足しない存在になっちまった」

 

 

公安のデビルハンターになった彼は今までの環境と比べれば天国のはずだった。

だが、彼の様子を見るとどこか地獄だった時代を恋しがっている素振りを見せた。

 

 

「馬鹿は死ななきゃ治らないって日本のことわざがあるが、デンジの場合は死んでも治らない…。お前との殺し合いを本気で楽しんでいたように普通なら嫌がる地獄絵図を心のどこかに望む奴さ」

 

 

デンジに普通の生活を体験させろというのがマキマの命令であった。

だから早川アキの生活を通じてデンジは普通の生活を送っている。

最初は刺激的で喜んでいたが、段々こんなものかと刺激が無い生活に戸惑いを生じさせていた。

 

 

「…取り調べの続きをしなくていいの?」

「そもそもやってないぞ」

 

 

明らかに話が脱線していると感じたレゼが指摘すると悪魔が衝撃的な発言をした。

 

 

「それともお前がデンジが好きになった要素を公安の上層部に報告するか?」

「うっ…」

 

 

それどころか煽って来る有様だった。

 

 

「さて、取り調べを行うわけだが…」

「あ、ちゃんとやるんだ」

 

 

レゼを返り討ちにできる存在など限られている。

マキマの命令でしぶしぶとレゼを取り調べする事になった結婚の悪魔は…。

 

 

「その前に腹ごしらえをさせてもらうぞ」

 

 

持参したカツ丼をむしゃむしゃと食べ始めた。

 

 

「そこは私に渡そうとするんじゃないの?」

「見せつけるのも立派な揺さぶりだぞ?」

 

 

二道のカフェに設置されていたテレビで刑事ドラマを見た事がある。

そのドラマでは取り調べ室でカツ丼を持ち込んだ刑事が被疑者にそれを見せる光景があった。

三大欲求の食欲を刺激して全てを吐かせようとしたのだろう。

 

 

「……何か言いたそうだな?」

「別に…」

 

 

カツ丼を食べたいとは告げられない彼女は、必死に食欲の我慢を強いられた。

それを分かっているからこそ悪魔は女を煽るのだ。

 

 

「じゃあ、本題の話をしよう。お前から情報を抜き取ったら用済みになる」

「いきなり本題に入るね」

「このままだとお前は肉体をブロック単位で解体されて東京悪魔収容センターに収容される」

 

 

なにより、食欲を刺激した後に本題の中でも嫌な話を仕掛けた。

レゼの末路は、標本として日本政府が所有し、専用の施設に保管される事となる。

 

 

「それは覚悟しているよ」

「賢明な判断だな」

 

 

ところが、目の前に居る悪魔は意味深な発言をした。

何か意図があると感じたレゼは、悪魔の顔を見る。

 

 

「デンジと違って二度と何かを失う事はないからな」

「…何が言いたいの?」

 

 

デンジを引き合いに出した悪魔にレゼは瞼を痙攣させる。

 

 

「これからデンジは大切な物を全て失っていく。今の日常生活も仲間も知り合いも全て失うのさ」

「…え?」

 

 

デンジが頼る上司のはずの悪魔は、彼に訪れる結末を知っているかのように述べる。

 

 

「デンジの心臓が特別な存在である以上、世界中から押し寄せた刺客があいつの全てを奪うんだ。大切な物が次々と失っていく現実がすぐそばまで迫っている。楽しみだなー」

「上司がそれを言う事なの?」

「むしろ、デンジが破滅するのを見る為に世話をしているんだよ」

 

 

なにより結婚の悪魔は、その本性を現した。

 

 

「デンジに友達ができても心臓のせいで巻き込まれて死ぬんだよ。なんだかんで優しいからなー。理不尽な現実に足掻こうとして幸せを失い続けたあいつから笑顔が消えるのも遠くないだろう」

 

 

これからレゼみたいな刺客がデンジの心臓を狙ってくる。

それは避けられない未来であり、彼を破滅にもたらす原因でもある。

 

 

「自分のせいで周りの人が死んで大切な物を全て失い続けてもあいつは生き続けるしかないのさ。これから苦しんで!苦しんで!苦しんで!幸せになろうと足掻いても運命があいつを不幸にする。これほど壊し甲斐がある玩具など他にないぞ?なにせ死んでもいくらでも復活できるんだからな」

 

 

レゼは自分が破滅してもいいと覚悟を決めていた。

だが、自分の死後にデンジが不幸になる事は想定してなかった。

 

 

「なんであいつにカメラを渡したか分かるか?過ぎ去った幸せな日常を写真で思い出してもらって無理やりでも幸せになろうと無駄に足掻かせる意図があるんだ。すぐに心が壊れないようにな」

 

 

なにより結婚の悪魔は、デンジの破滅を望んでいた。

しかも、すぐに破滅するのではなく彼がやってきた人生の集大成が破滅になる様に仕込んだ。

 

 

「しかも日本政府は、デンジを兵器として運用したいらしくてな。仕込みが終わったらすぐにでもお前みたいに人権を剥奪し、兵器として運用するぞ。既にその話は来ているからな」

「…え?」

「これからデンジはお前と同じ事を経験する。同僚殺し、殺人…果たしてあいつはやれるかなー」

 

 

ここでレゼは、マキマがデンジを子飼いにしている理由を理解した。

あの魔女が彼の前では理想の女上司を演じている理由が分かってしまった。

最初に飴を与えておいて自分の下から逃げられない様に縛り付ける為である。

 

 

「そんな事、日本国民が許す事じゃない…!」

「人間ならそうだが、人類の敵である悪魔を酷使するなら問題はない。逆に教えて欲しいもんだ。悪魔に人権を付与する事を日本国民や世界が望むと思うか?」

 

 

人権団体や市民団体が黙っていないはずであるが、デンジは悪魔の力を持っている。

自分と異なる価値観を持つ人間すら弾圧するのに悪魔の力を持つ人間と仲良くなれるわけがない。

 

 

「最悪、使い物にならなくなったら投薬して運用するから問題ない。()()()()()()()な」

 

 

なによりソ連の内情とやり方を知っている悪魔は、わざとらしくレゼを煽る。

 

 

「でも仕方ないよな?地獄の日々で夢を見ながら足掻く行為こそがあいつの幸せなんだからな」

「違う!!」

 

 

デンジは人生に絶望し、苦しみながらも夢を見るのが幸せだと宣う悪魔にレゼは反論する!

 

 

「デンジ君は苦しむ為に生まれたんじゃない!」

「赤の他人のお前には関係ないだろう?」

「私が代わりにやる!デンジ君の代わりをやればその分、不幸にならないはず!」

「いや、政府と上層部はデンジをご指名だ。お前の席などない」

 

 

血も涙もない悪魔兵器を挑発して感情的にさせた結婚の悪魔は、思考誘導を行なった。

 

 

「なら、私もデンジ君と一緒に破滅する!幸せを奪う奴を全て返り討ちにして彼を守ってあげる!どんなに死んでも私は生き返れる!デンジ君が望むなら…Я(ヤー) отдам(オッダム) всё(フショー)!(全てを捧げる!)」

Ты(トゥイ) ведь(ヴィチ) не(ニェ) отказываешься(アトカーズィヴァッツァ) от(アト) своих(スヴォイーフ) слов(スローフ)?(自分の言葉を撤回しないよな?)」

Конечно(カニェーシナ)!(もちろん!)」

 

 

冷静に考えれば分かる事だ。

デンジがそんなに悲惨な状況になるならば、上司である結婚の悪魔にも巻き添えが来る。

だからそうなる前に手を打つし、ここまでの発言はレゼを感情的にさせる話術でしかない。

 

 

Тогда(タグダー) подпиши(パドピシー) контракт(カントラクト) со(サー) мной(ムノーイ)(それなら自分と契約しろ)」

 

 

さきほどからロシア語を話しているのは書記や盗み聞きしているマキマへの嫌がらせである。

レゼもその意図に気付いたのか普通にロシア語で喋り出した。

 

 

(これでレゼはデンジの原動力となる飴になったか…)

 

 

血印が捺された書類を触れたレゼと契約を結んだ。

1999年8月31日23時59分59秒までにデンジと結婚する代わりに3つの肉体変化を与えた。

 

1.武器人間になる条件は、ピンを深く押し込んで時計周りに1回転した後に強く引っ張る

2.武器人間の状態では痛覚が一切なくなる

3.デンジの血を摂取していれば彼の居場所が分かる

 

 

他の武器人間の変身と違って周りに被害を出す条件を無理やり面倒なやり方にした。

更にレゼは無表情に見えて爆発による激痛に苦しんでいるのが分かったので痛覚を消した。

最後はあくまでおまけであるが、これでデンジの姿を見失う事はないだろう。

 

 

(もし、結婚できたのであれば、効果は永続する。せいぜい頑張れよ小娘風情が…)

 

 

結婚の悪魔は、武器人間同士が結婚するとどうなるか気になったので契約を結んだだけである。

契約が履行できずに死ぬか、痛覚が無いせいで自滅する可能性があるが…それは彼女の問題だ。

 

 

「やっぱり、あんたは信じられない」

「なら契約は無しだ」

 

 

実際は結婚の悪魔と契約したのにレゼは契約できないと日本語で断言した。

これも契約内容に含んでおり、実際は撤回される事は無い。

 

 

(まあ、破滅する未来しか見えんが…)

 

 

不老不死の武器人間夫婦の子は、人間なのかそれとも武器の性質を継ぐ化け物なのか。

少なくともデンジとレゼの子供は不幸にしかならない事は確かである。

それを分かってて結婚の悪魔は、そのリスクを伝えないし、伝える気もない。

 

 

「さて、こっから事情聴取をしようか」

「え~~!これからやるの~!?」

「かつ丼が要らないなら休憩するか」

「欲しいからやろう!」

 

 

それより隠しておいたカツ丼をレゼに見せつける。

さすがにタダで食わせるつもりがないのでそう告げると彼女は反抗する。

だが、食欲には勝てないのかあっさりと陥落した。

 

 

(これでいいのか…まあ、祖国より男を選んだ女だもんな…)

 

 

レゼが持っていた情報は大した事無かった。

ただ、おかげでソ連に居る武器人間と彼女の後任についての情報は大きい。

見返りにマキマではなく結婚の悪魔の管理下として彼女を運用する事にした。

 

 

「いつ、出れるの~」

「上の許可が出たら」

「ケチケチケチ!早くしないと花が枯れちゃうよ!」

 

 

ムカデ騒動から2日目には、暢気に抗議するくらいには普通の女になった。

適当にあしらってレゼが収容されている部屋から退室するとマキマと出会った。

 

 

「なんか隠してない?」

「デンジとレゼが交わした約束くらいしかありません」

「ホント?」

 

 

マキマの意図は未だに結婚の悪魔は理解できない。

対魔特異4課とかデンジの為と宣う彼女だが、チェンソーマンの存在を諸外国に隠す気が無い。

むしろ、上の意志に反してデンジの存在をバラすような真似をやっているまである。

 

 

(デンジが不幸になるとこっちも皺寄せが来るんだが…)

 

 

結婚の悪魔は、その意図を見抜いたので自分が参加した騒動では極力デンジの存在を隠した。

ヤクザの本部突入やムカデ騒動もその為に暗躍したまである。

 

 

「それとデンジから貴女へのメッセージがたくさんありますが、お聞きになりたいですか?」

「要らない」

「アッハイ」

 

 

それにしてもデンジの好意は一方通行である。

マキマから好かれる行動をしていないとはいえ少し可哀そうではある。

 

 

「ところで田舎のネズミと都会のネズミどっちが好き?」

「唐突過ぎるだろ!?」

 

 

いきなり変な質問をしてきたマキマに結婚の悪魔はうんざりする。

 

 

「田舎にあるパーキングエリアで暮らすネズミが好きですね」

「良い所取りはダメだよ」

「なんで二択なのかが分からん。別にいいだろそんな事」

 

 

道徳の授業とかもそうだが、何故二択になるのか分からない。

たくさんの理由や考えを問う癖に結論が決まっているのだから。

 

 

「私は田舎のネズミが好き。……でも犬に噛み殺されるネズミを見るととても安心するの」

「なるほど…」

 

 

つまり、マキマはレゼをデンジに逢わせたくないらしい。

だからといって結婚の悪魔も契約してしまった以上、引き下がれない。

 

 

「例え害獣だったとしても、駆除を続けたら何かしら問題が起きますよ」

「例えば?」

「中国でスズメを大量に駆除したら害虫が増えて大凶作になったじゃないですか」

「確かにそうだね」

 

 

論争したら絶対に勝ち目が無いので適当な例を出して悪魔は逃げようとした。

 

 

「じゃあ、質問を変えるよ。レゼちゃんをデンジ君に再会させたら最初に何をすると思う?」

 

 

ここで返答を間違えれば、レゼは死ぬし、デンジは永遠に彼女と逢えなくなる。

デンジの事だから「レゼと一緒に居たい」とか「仲間にしたい」とか言えば…そうなるだろう。

だが、デンジとレゼのやり取りを聞いていたおかげで正解を答える事が出来た。

 

 

「デンジはレゼから花をもらうと思いますよ?」

「そんな事無いと思うけど…」

 

 

確かに今までのデンジだったらレゼと一緒に居られる選択肢を選ぶはずだった。

だが、あの時に約束したのは、再会した時に花をもらうという内容だった。

 

 

「別に花なんか後でもらえるから選ばないと思うけどね」

 

 

人の心など分からないマキマは自分の考えに自信があるようだ。

ここで結婚の悪魔は賭けをした。

 

 

「自分の全てを賭けてもいいですよ?」

「…言ったね?」

 

 

悪魔にとって全部を捧げるという発言は絶好のカモである。

何故なら悪魔にとって有利な契約になりやすいからだ。

だからマキマもあっさりと喰い付いて来た。

 

 

「ここで撤回されても困るから書類を作ってもいい?」

「別に構いません」

 

 

デンジは馬鹿だがアホではない。

大切な一線だけは越えない男だと信じている。

 

 

-----

 

 

「君の賭けが当たったね」

「約束は守る男だと思ってますので…」

 

 

書類を作っておいて本当に助かった。

もし口頭だったら契約ではないので反故にされる可能性が高かった。

だが、用心深い彼女にそれをさせるには、結婚の悪魔は自分の全てを賭けるしかなかった。

 

 

「次は無いよ?」

「承知しております」

 

 

そして勝利した。

マキマの負け惜しみがはっきりと聴こえるようだ。

 

 

「はい、お花」

「どうも」

 

 

初めて女性から花を受け取ったデンジは、特に感動しなかった。

枯れた花を2つもらったところで全然嬉しくなかった。

 

 

「マキマさん!先輩!!こいつ、デンジの心臓を狙っているんですよ!?」

 

 

ここで早川アキが玄関に駆け付けてデンジを庇うように前に出る。

刀を持参していない所を見ると本当に慌てて来たのだろう。

 

 

「早川君、安心して。少しでも変な真似をすれば即死するようになってるから」

 

 

どうやらマキマもレゼに何かを仕掛けたようだ。

ただ、自分の契約には介入できないのは確かなので放置するしかない。

 

 

「それに野茂さんや副隊長といった先輩方がこいつに殺されているんですよ!?」

 

 

レゼが犯した大罪をこの場に居る全員に教えるように犠牲者についてアキは触れた。

彼女の行為は決して許される物ではないと彼は言いたい様だ。

 

 

「すまんアキ!俺、死んでなかったわー!」

「野茂さん!?」

 

 

だが、玄関のドアの先に野茂さんの姿を見かけたアキは驚愕した。

確かにあの時、生首だったので生きているわけがない。

すぐさま刀を取り出して抜刀をし、刃を構えた。

 

 

「おお、良い判断だ!そうだよなー。普通は成り代われていると思うよな!」

「早川君、彼は正真正銘の対魔2課の野茂補佐官だよ」

 

 

その姿を見た野茂は早川の迅速な行動を褒め称えてマキマはネタ晴らしをする。

 

 

「間一髪、結婚の悪魔と契約を結んで肉体を復活させてもらったんだって」

「おう、そのまま事件の後処理をした後に電撃結婚してやったぜ」

 

 

あの時、結婚の悪魔は生首だったが辛うじて生きていた野茂と契約を結んだ。

3日以内に結婚しなければ死ぬが、その代わりに肉体を元通りに再生させたのだ。

 

 

「それに…」

 

 

その際に真実を知った野茂は早川の耳元に小声で告げる。

 

 

「お前が短命になったのを知った。すまんかったな」

「野茂さん…」

 

 

副隊長になったら早川を部下にすると野茂は告げていた。

だが、その願いはもう叶わないと知ったのだ。

 

 

「デンジや魔人関係、葬儀や後始末は俺に任せておけ」

「で、ですが…」

「相変わらず頭でっかちだな。相談してくれる関係じゃなかったって事か」

「そんな事ありません」

 

 

本来ならレゼが暴れたせいで公安職員が多く死んだので許される事はないはずだった。

結婚の悪魔が変な行動をしたせいでそうなったという前提がなければだが…。

 

 

『そもそも結婚の悪魔が余計な真似をしなければ対魔2課が爆弾女に無傷で勝っていた』

 

 

公安上層部は全会一致で対魔2課はレゼに勝てたと結論付けた。

実際にレゼと対峙した者は否定するが、過去と結果を重視する彼らには関係ない。

要するに結婚の悪魔の方にも責任が分散してしまい、レゼの処遇に大きな影響を与えた。

 

 

「早川君」

「はい!」

 

 

さきほどまで野茂補佐官と会話していた早川アキはマキマに呼ばれて駆けつけた。

 

 

「このレゼも早川君のアパートで世話をして欲しいの」

「お、お言葉ですが、ここは悪魔収容施設ではありません。いくらマキマさんの頼みでも…」

 

 

マキマによってレゼを押し付けられると知ったアキはさすがに反論した。

ただでさえ学も常識も無いデンジとクソをたまにしか流さない血の魔人と暮らしているのだ。

その気になれば、いつでも爆発できる武器人間の女と同居するのは御免であった。

 

 

「大丈夫、これで最後だし、補充もされないよ」

「で、ですが…」

「銃の悪魔討伐遠征に参加する資格があるキミなら大丈夫だと思ってる」

「……え?」

 

 

しかし、マキマから重要な事を言われて必死に抗議していた彼の動きが鈍った。

 

 

「早川、今回の事件での奮闘を上層部が高評価していてな」

「いや、自分はそこまで……」

「お前たちの奮闘で民間人の犠牲者は出なかった。それは胸を張って良い」

「ありがとうございます」

 

 

すかさず結婚の悪魔もマキマのフォローし、アキに感謝した。

さすがに上司たちから感謝されて悪い気がしない彼は赤くなった頬をポリポリと掻いた。

 

 

「ただな、銃の悪魔の選抜メンバーが決まりってなくてな。暫く作戦はないと思った方が良い。」

「分かりました」

 

 

しかし、銃の悪魔を討伐するのは、更なるメンバーが必要である。

それを理解している早川アキは追及する事はなかった。

 

 

「んー?どういう事?」

 

 

さきほどから会話について来れないデンジは、改めて何が起こったか説明を求めた。

 

 

「つまりだな、これからレゼも一緒に早川家で暮らしてもらう事になった」

「え?」

「なんだ、嫌だったのか?」

 

 

こういう時に反応する結婚の悪魔は、デンジの求めた回答をした。

すぐさま彼はレゼと向き合う。

 

 

「やったー!!何度も殺された甲斐があったぜェ!!」

 

 

気まずそうにしているレゼの両手を握ったデンジは喜んで握手を続けた。

あれほど酷い目に遭ったというのに美女というだけでここまで嬉しそうにしている。

本人が嬉しそうにしているとはいえ、あまりにも馬鹿っぽくて全員がドン引きした。

 

 

「うーん、これは帰った方がいいね」

 

 

マキマですら玄関に向かって歩き出すのだからよっぽどであろう。

いつになく空気になったパワーは必死に玄関のドアに向かって指を差す。

よっぽどマキマに帰って欲しいのだろう。

 

 

「じゃあなアキ!また相談に来てくれよ!あっ、手伝いは結構だ!」

「分かりました。来週ご相談させてもらいます」

 

 

電撃結婚した野茂も気まずくなってアキに声をかけた後に玄関から脱出した。

マキマは既にアパートの1階に降りたので部屋に残るのは係長のみだ。

 

 

「おっさん!」

「どうした?」

 

 

突然、デンジが声をかけてきたので結婚の悪魔も反応する。

もしかしたらレゼに関して何か聞きたい事があるのかと思った。

 

 

「彼女ゲットしたぜ!」

 

 

ポケ〇ンゲットだぜ!のノリで報告してきたので悪魔は何も言えない。

むしろ、こういった時の返答内容を教えて欲しいくらいだった。

 

 

「馬鹿な真似をやって殺されないように注意しろよ」

「えぇー!?」

 

 

とりあえず、またハニートラップに引っ掛かるのは間違いないだろう。

さすがにレゼと早川がそれを許すとは思えないが…警告はしておいた。

真意が伝わっているとは思えないが…。

 

 

「先輩、本当にこの女、大丈夫なんですか?」

「デンジの心臓を狙いに来て逆にハートを射抜かれて恋をする女だ。多分、問題ない」

「え?」

 

 

爆弾女に警戒していたアキであったが、先輩の一言を受けて振り返った。

 

 

「これがひざまくらかー」

 

 

そこには、女刺客の両膝に頭を乗せてリラックスしているデンジが居た。

 

 

「……本当に大丈夫なんですか?」

「なんか心配になって来た…」

 

 

思った以上にデンジとレゼが打ち解けているので悪魔とアキは別の心配をした。

 

 

(このままエッチするんじゃないだろうな?)

(このままこの女の所業を許すんじゃないだろうな?)

 

 

ただ、考えている事は違った。

アキは過去を引き摺るが、結婚の悪魔はそれほど引き摺らない。

だから悪魔の方が変な考えをしてしまった。

 

 

「オイオイオイ!なんじゃウヌは!?新参の癖に慣れ慣れしくないか!」

 

 

マキマが居なくなった瞬間、パワーがレゼに突っかかってきた。

 

 

「デンジはワシのバディじゃ!勝手にワシの所有物を奪うな!」

 

 

さっそく三角関係が始まる…どころか全面戦争が始まりそうな予感である。

ここでデンジもさすがにまずいと思ったが動けない。

 

 

「キミが血の魔人だね?」

「そうじゃが?」

「どうしたら許してくれる?」

 

 

だが、レゼは下手に出た。

こんな事をすればパワーは更に調子に乗る。

 

 

「ウヌの血を差し出せ!!」

「いくらでも飲んで良いよ」

「うむ、良い心がけじゃ!」

 

 

パワーが血を差し出せと命じるとあっさりとレゼは受け入れた。

そのまま彼女は血の魔人に噛まれて吸血されてしまった。

 

 

「オイ、パワー飲み過ぎだ!!また血を抜かれたいのか!?」

「もがもが…」

 

 

吸血でレゼを殺すつもりなのかと思うほどパワーは首元に刺さった牙を抜かない。

このままレゼが死ぬと思ったデンジは慌ててパワーを引き離そうとした。

 

 

(し、しあわせ……)

 

 

初めて兵器や刺客としての活躍を求められなかったレゼは嬉しそうに血を捧げる。

既に早川家の所有物だと認識している兵器は抵抗すらしなかった。

 

 

(デンジ君、私は今幸せだよー)

 

 

ソ連が生み出した最高傑作の兵器はたった今、完全に崩壊した。

早川家に編入されたレゼは、デンジの幸せが少しでも続くように支援するだけの存在になった。

 

 

「確かに敵意はなさそうですね」

「そうだな」

 

 

呆れる様な光景を見たアキは先輩である係長に本音を告げた。

結婚の悪魔もここまでレゼがアホになるとは思わなかった。

 

 

(でもすぐにこの関係は終わるんだろうなー)

 

 

ただし、結婚の悪魔はレゼとデンジが幸せになるとは思っていない。

むしろ、これが地獄の始まりだと推測して内心でほくそ笑んだ。

その予想は実際に当たっていた。

 

 

(こいつらが絶望する姿を想像するだけでワクワクするなー)

 

 

世界や運命がデンジとレゼの心と体を本気で破壊し、不幸にしようと試みる。

幸せは継続するのが難しいのに不幸になるのは簡単である。

だから2人は破滅する未来しかなかった。

それは事実だった。

 

 

(早く破滅しないかなー)

 

 

しかし、デンジとレゼに関わったせいで結婚の悪魔も巻き込まれる事となる。

それどころかデンジに向かうはずだった不幸が悪魔にも襲来する事となった。

 

 

(それが運命だからなー仕方ないなー。)

 

 

この世界は残酷だ。

そんな残酷な世界で武器人間の2人が絶望な状況下で足掻く事になる。

運命を弄った結果、デンジとレゼが幸せになろうと足掻く度に不幸が撒き散らされる。

そのせいで彼らが苦しむ頃には結婚の悪魔は更に苦しむ事になるとは想像だにしていなかった。

 

 

 

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