デンレゼが足掻く度に不幸になるケッコンの悪魔さん 作:Nera上等兵
41話 デンジがハッピーで居続ける為に必要な事
パワーが居なくなった代わりにレゼと出会った。
彼女との一週間はデンジにとって充実した日々であり、そしてなんだかんだあって交戦した。
殺し合った果てにレゼは居なくなり、代わりにパワーが戻って来た。
レゼとの日常こそがデンジにとって非日常的だったのかもしれない。
「
「豆腐?」
そう考えていた早川アキに向かってデンジが何か言い出した。
一瞬、豆腐が食べたいのかと思ったが違うようだ。
「
どうやらレゼから教わったロシア語を発言しているようだ。
意味はさっぱり分からないが、馬鹿にされている事は分かった。
「あだ!?…な、なんだよ急に!?」
「お前、俺の事を馬鹿にしただろう!?」
「馬鹿って言ってないぞ!?間抜けって言ったんだ…あだ!?」
「ああ、そうだな。だが、間抜けは見つかったようだな」
軽く頭を叩くとデンジはさきほど発言した単語の意味を暴露した。
あまりにも分かりやすい反応に却ってアキは安心した。
なのでもう一回軽く頭を叩いて朝飯の用意をする。
「ダメだよデンジ君、お世話になっている人を罵倒しちゃ…」
その様子を見たレゼが注意するが、発言と違って嬉しそうである。
今まで人殺しや破壊工作しかさせられなかった彼女はデンジからロシア語について訊ねられた。
(デンジ君ってやっぱり変わってるねー)
レゼは他人を罵倒する単語や人を馬鹿にするスラングについて求められた。
最初は困惑したものの必死に覚えようとする彼を見て嬉しく思った。
兵器としてではなく他の生き方を暗に教えてくれる事に感謝したのだ。
《強大な悪魔に対抗するには、皆が一致団結して対処する必要があるんですね》
《その通りです!悪魔は人間の恐怖で強化されます。それを防ぐには協力して立ち向かう事で…》
ブラウン管テレビに映る特番ニュースでは、ムカデ騒動について熱く議論が重ねられている。
関東地方どころか中部地方まで侵食したムカデの大群は、日本国内を大混乱に陥らせた。
《しかし、この騒動で民間人の死人が出ていないのは奇妙ですね》
《これについては、消防団や警察、デビルハンターが協力し、民間人の避難をスムーズに…》
おかげでレゼが暴れまくった事に関しては、ムカデ騒動に打ち消されてしまった。
それどころか、チェンソーマンの存在すら世間に認知されていない様だ。
(……情報を拡散させなくてよかった)
デンジと一週間過ごしたレゼは、学校デートの後に彼についての情報を拡散しようと試みた。
もしも、自分が失敗しても他国からチェンソーマンの心臓を求めて刺客を送って来る。
そのおかげでソ連が新たに用意する刺客が行動しやすくなると思ったのだ。
でも、それができなかった。
(デンジ君を苦しめたくなかったから…)
只今、レゼはデンジが所持していたカメラで撮影した写真を見ている。
2人で深夜の学校デートを楽しんだ時の一幕を切り取った存在が情報拡散を躊躇わせた。
もっと一緒に撮影しようと思ったので邪魔する要因を用意したくなかったのだ。
「飯だぞ!」
「へーい」
「今日は遅かったのう!」
家の主である早川アキの発言を聞いて同居人たちが返答をする。
「分かりました」
レゼは自分が所有していたフィルムを現像した写真を収めたアルバムを閉じた。
そして早川アキが正面に映る場所に座って食卓に向き合った。
「皆の衆!聴いてくれ!ニャーコは裏切り者じゃ!」
さっそくウィンナーを食べたパワーは自分の言いたい事を告げる!
「ワシが居ない間、デンジと寝ていたばかりか!…ワシが帰って来てもデンジと一緒に寝ておる!裏切りは人間のする最も愚かな行為だと思わぬか!?」
パワーは唯一の友達であった猫のニャーコの対応に不満があるようだ。
血の魔人である彼女は、ニャーコにしか心を開いていないので自分を疎かにされるのを嫌がった。
「なら、俺よりもっと遊んでやれよ。ニャーコだって遊んでくれる人が好きみたいだしー」
「そのつもりじゃ!」
パワーの扱いが慣れて来たデンジは、適当な発言をして自分に向けられた矛先を逸らした。
これで自分にグチグチ言って来る事はないだろうと彼女の反応を見て確信した。
「朝飯を食いに終わったらマキマさんの所に行くぞ」
そんな彼らを日常と見ているアキは淡々と今日の目的を伝える。
もうじき夏が来るのか、セミの鳴き声が聴こえる一時であった。
それからデビルハンター東京本部に辿り着いた4人は廊下を歩いていた。
(うーん…)
デンジには悩みがあった。
マキマさん一筋でいるつもりが、レゼを好きになってしまった。
そのレゼと同居生活ができて嬉しいと思ったのに…なんか思っていたのと違った。
あれほど嬉しかったはずなのに…なんか実際に夢を叶えるとこんなもんか…と感じてしまった。
(よくわかんねぇな…)
4人で食事をするのもヤクザの奴隷だった時と比べれば天国のはずなのに何かが引っ掛かる。
デンジは未だにその答えを見つけられていない。
(金髪のおっさんに相談するか)
昔だったらすぐに忘れるか、別の事を考えて誤魔化していただろう。
だが、何かと対策や提言をしてくれる上司がいるのは大きい。
デンジは自分の悩みを最近、悪魔と知った存在に報告する事に決めた。
「みんな、おはよう」
「「「おはようございます」」」
「…マス」
執務室に居たマキマの挨拶に4人が挨拶を返した。
レゼの背後に隠れたパワーだけは小声で返答した。
「今回はね、頑張ったキミたちに何かご褒美をあげたいと思って呼んだんだ」
「え?マジっすか!?」
「おいデンジ…」
マキマさんからお礼をくれると聴いてデンジは嬉しがった。
そんな彼の肩を掴んで自重しろとアキは告げる。
(これがマキマ、本物だ……)
祖国が最も恐れた存在が目の前に居る。
歴戦のレゼも冷や汗を掻くが、幸いにも彼女は友好的であった。
「私ね、しばらく忙しかったし、有給とって江の島に行ってリフレッシュをしようと思ったんだ。でも、1人だと寂しくてね。早川家も誘ってみようかと思って呼んだんだけど…一緒に来ない?」
マキマが早川家を召集したのは大した話では無かった。
江の島に旅行するつもりのマキマは、最近頑張った早川家を労って慰安旅行に誘った。
「ヤッター!」
「行きます!」
それに対してデンジは大袈裟に喜んでアキも快く即答をした!
意外と彼らは似た者同士なのかもしれない。
「キミは新入りだけど…どう?」
ただ、マキマに直接誘われたレゼの心境はめちゃくちゃである。
「参加させて頂きます…」
生殺与奪の権を公安に握られているレゼに拒否する権利はない。
頭を下げて回答をした後、はしゃぎ過ぎて転んだデンジに手を伸ばした。
「良かった。上司としてキミたちを労う機会がなくて焦ってたんだよ」
嬉しそうにマキマは本音と見られる発言を繰り出すが…。
(嘘つけ!)
マキマの机でデスクワークをやっている結婚の悪魔は心の中で悪態をついた。
彼女にとって人間とはどうでもいい存在であり、都合が良い駒には優しいだけである。
(なんかする気だな?)
必死に山積みになった書類に対応している悪魔は、マキマの真意を分析する。
(まあ、どうでもいいか)
ただ、マキマと早川家が江の島に旅行する事自体に反対はない。
むしろ、マキマが居なくなれば少しだけ平和になるのでさっさと行って欲しい。
顔には出さなかったが、無言で作業に徹する姿がそれを示していた。
(嫌じゃ!)
人類が同じ意思や意見をもたないように悪魔も別の考えをする者がいる。
早川家で唯一マキマと一緒に居たくないと感じたパワーは旅行を嫌がった。
「ワシはその日、急用の会議があるのお…」
「まだ日付は決めていないよパワーちゃん」
だから嘘をついて拒否しようとしたが、逆にマキマから突っ込まれた。
早川家を誘う段階なのに日付など決まっている訳が無い。
墓穴を掘って突き落とされたパワーは硬直するしかなかった。
「係長もどう?」
「小官はマキマ部長が江の島旅行を楽しめるように仕事をこなしますのでお気遣いは無用です」
ここで何故かマキマは結婚の悪魔も旅行に誘った。
これで何かあると確信した悪魔は、適当な建前を述べて拒絶した。
「君くらいの実力者じゃないと護衛がたくさん来るんだよ。だから来てくれないかなって…」
これは本音であろう。
マキマがデンジとデートした時も、3名ほどの職員が彼女の後をつけていた。
それほどまでに彼女には自由が無い。
「先のムカデ騒動の後始末がありますので…」
意訳すると「自分のせいで世間が大騒ぎになったので謹慎します」とマキマに告げた。
「来てくれると助かるよ」
「……承知しました」
ここで「検討します」などと言えば、後でお仕置きされるのが目に見えた。
絶妙なニュアンスでする発言に敏感な結婚の悪魔は、しぶしぶ彼女の要求を受け入れる事にした。
「よし、これで問題が起こったら全部、係長に押し付けよう」
「……ひでぇ」
これも本音だろう。
絶対にトラブルが発生すると確信する悪魔は思わず本音を漏らした。
「そういう事で早川家の都合に合わせるから休める日、教えて」
「俺は有給を使ってないんでいつでも行けますよ」
「分かった。どうせなら連日旅行とかどう?」
「いいですね。では…」
早川家の主である早川アキとマキマは旅行の日程のすり合わせを始めた。
「マキマさんとの旅行なんて夢みたいだぁー」
組んだ両手で後頭部を支えて頬を赤く染めているデンジは本気で旅行を嬉しがった。
「生きて来て良かったランキングベスト10に入るぜ」
とりあえず、そのランキングが気になった結婚の悪魔は詳細を確認する事にした。
「生きて来て良かったランキング1位はなんだ?」
「そりゃあもちろん、マキマさんと出会った事だ!」
「2位は?」
「レゼと出会った事!」
おそらく3位も女絡みだと結婚の悪魔は推測した。
(…ポチタが1位じゃないのか!?)
だが、あれほどポチタを恋しがっているこいつがその存在を入れないとは思えない。
「ポチタとの出会いは?」
「テント入りだ!」
「殿堂入りな?…ん?」
どうやらデンジにとってポチタとは、ランキングに入れられないほど大きな存在のようだ。
デンジの心臓になっている以上、二度と逢えないがそれでも彼は大切に思っている。
ところが、その答えをデンジが伝えた瞬間、結婚の悪魔は殺意を感じた。
(……お前、なんでそんな事に殺意を出すんだ!?ポチタに嫉妬する事か…?)
殺意を発したのは、マキマであった。
ソ連の工作員であるレゼも感じ取ったのか。
咄嗟に早川アキの背後に隠れて身を潜めている。
「ニャーコが!ニャーコのお世話が居る!!だからワシは残念じゃが居残り…」
「家を空けている間、岸辺隊長にニャーコちゃんを預けようか」
「あれでもペット好きですからね。きっと世話をしてくれますよ」
しかし、連休中にニャーコを世話しないといけないとパワーはマキマに抗議する。
そのおかげでマキマは、別の話題に気を取られて殺意は消えた様だ。
隊長のフォローをする係長の発言を聞いてパワーは全てが無駄だと悟った。
「それじゃあ、今回はお開きと言う事で。早川君はまた打ち合わせをしましょう」
「分かりました」
これで解散となった時、デンジは係長にジェスチャーを送った。
これは2人だけで話をしたいという合図である。
「マキマ部長、1時間ほど席を外してもよろしいでしょうか?」
「今日の分は終わったの?」
「はい、なんとか終わらせました」
「それならいいよ」
マキマから許可を取った結婚の悪魔はデンジを連れて自分の執務室に向かった。
パワーはアキの背後についていって説得を試みるようであった。
「で?なんのようだ?」
自室にある椅子に座って机越しにデンジと向き合った結婚の悪魔は質問をした。
「実は…あんなにレゼが好きだったのに…一緒に暮らしてもなんか変なんです」
「変?」
「なんかそのー…あれ?思ったと違う。もっとラブラブでエッチな感じかと思ったんです」
どうやらデンジは夢の1つを叶えた事に違和感を覚えるようだ。
例えると、あれほど欲しかった美少女フィギュアを所有したら満足してしまったような感じか。
それとも付き合っている頃は本気で好きだったのに同居したらなんか冷めた現象かもしれない。
「人生とか恋愛なんかそんなもんだぞ?こんなもんかと思うのが普通だ」
「そういうもん?」
「そうさ、言っておくけどこれは幸せな事なんだぞ?」
「へ?」
普通の定義は分からないが、少なくともデンジは普通じゃない。
クソみたいな環境で育ったせいで価値観が変になっているのでアドバイスをする事にした。
「いいか、不幸はいつでも作れる。車で人を
「そうっすね」
「でも、幸せっていうのは作るのが難しいし、それを継続するのはもっと大変だ」
幸せというのは儚いものだ。
一生続いていくと思った生活はいつか破綻する。
だから人間は必死に努力したり、自由時間を削ってまで金を稼いで延命しようとする。
一方で不幸はすぐにでも到来し、最悪な時に畳みかけてくる存在である。
「デンジ、今回はお前の努力のおかげでレゼは始末されずに公安に所属する事ができた」
「ほうほう」
「そして早川アキのアパートで暮らす事を許された。それだけで充分だろう?」
「でも……なんか、それでいいのかって…」
デンジという男は何かしらの刺激を欲している。
夢を見て行動するのは好きだが、夢を叶えると急速に現実を知って満足できなくなってしまう。
要するに【夢を叶えると満足できずに変に足掻いて結果として自分を不幸にするタイプ】である。
「じゃあ、レゼを別の部署に異動させよう。たまに会う関係の方が楽しく感じるさ」
「やだ!!」
「どうしてだ?そっちの方が刺激的だろ?恋愛も楽しくなると思うぞ?」
「なんかやだ!!」
二択の選択肢に自分が欲しい物が両方あったらどっちも獲ろうとするのがデンジである。
しかし、二兎追うものは一兎も得ずと言うように彼の技量ではどっちも手に入れる事ができない。
幸いにもレゼの好感度が高いのでさすがにすぐに破綻する事はないが…。
「そもそもお前は銃の悪魔をぶっ倒してマキマさんから願いを叶えてもらうのが夢だったはずだ」
「そーです!!」
「なのにお前はレゼに夢中になった。マキマさんから見ると他の女に現を抜かすアホだと思うぞ」
「うつつをぬかす?」
「マキマさんはな、お前が他の女に浮気する程度の関係なのかと思って嫌いになるんだよ!」
この世は、諸行無常で等価交換に基づいて機能している。
何かを手に入れる為には何かを犠牲にしないといけない。
デンジの場合は、無条件で何かを得ようとする癖に手に入ると飽きてしまって適当になるタイプ。
どこか主体性がなく流されるまま生きるせいで自業自得の不幸が来るアホとなる。
「違います!俺はマキマさんが大好き!エッチもしたいと思ってます!」
「実際にエッチしたらお前は『こんなもんか?』って言うんだろ?」
「そんなことねぇ!」
だが、デンジはそれに気づいていない。
ここで放置すると結婚の悪魔を巻き添えにして大惨事になりかねない。
だから悪魔は、本来ならやる必要が無いアドバイスをしているのだ!
「お前、祭りデートの時にレゼに言ったよな?一世一代のレゼの告白を蹴ってお前は言ったよな?『仕事を続けながら、レゼと…会うのじゃダメなの』って言ったよな?確かに結果は変わったが、実際にお前はレゼに会えているし、一緒に仕事をできる関係になった。それでも不満か!?」
祭りデートの際にカメラに仕込んだ盗聴器を介して結婚の悪魔とビームは盗聴していた。
だからレゼの告白も逃避劇の誘いもばっちり聴いていた。
だからこそ、デンジが放った過去の発言を突き付けて今のお前はどうなのかと尋ねた。
「いえ、それは…!」
対人関係の経験が豊富な悪魔が放つ濁流のような言葉の暴力にデンジは何もできない。
「誰も言わないからここで言ってやる!お前はな!!目の前の幸せを捨てて不幸になるタイプだ!ようやく掴んだ幸せで満足せずにフラフラと動いてしまって全てを台無しにする糞野郎だ!!」
「……はい」
一気にまくし立てられたデンジは反論する余裕すら与えられなかった。
結婚の悪魔が繰り出した言葉の暴力に屈した彼は、ただひだすらに受け入れるしかなかった。
「だが、お前にはまだチャンスがある!」
「……え?」
「マキマさんに嫌われたか?レゼとの関係が終わったか?どっちにもなってないよな?」
「そうです!」
ここで結婚の悪魔は、とことん罵倒したデンジを持ち上げる。
まだ最悪の事態ではないと認識させる事で手遅れじゃないと思わせた。
「ここが境目だ、少年。レゼとマキマさんを失うか、それとも長く一緒に居られるかの瀬戸際だ」
「…はい」
「安心しろ。こうなると予想して既に手を打ってある」
元より今の生活をポチタと送りたかったと発言するデンジである。
今の生活に不満がある事自体は結婚の悪魔も察していた。
「ここで質問だ!パワーがトイレで糞を流さないと知った時!どう思った?」
「汚くて臭いと思いました!」
「パワーが風呂に入らない時、どう思った?」
「汚くて臭いと思いました!」
ここで話を変えるのがテクニックである。
デンジにも答えられる質問をする事で返答できる余裕を与えた。
「でも、お前って公安に入る前は毎日、風呂に入っていたか?」
「入ってません…」
「うわ…汚くて臭そうだなー」
今度はわざとヤクザのデビルハンター生活の時に風呂を入ったか尋ねた。
当然の様に毎日、風呂を入れる余裕はない。
公園の水で身体を洗っていたかもしれないが、少なくとも毎日ではない。
「今は毎日、風呂に入っているか?」
「入ってます」
なんでこんな事を訊くんだとデンジに思わせるのが重要である。
「風呂に入っている事に疑問があるか?」
「ありません」
さきほど風呂に入らないパワーは汚くて臭いとデンジは言った。
だから彼が毎日風呂に入るのはそうならない為にやっている。
「それだよ!それ!!お前がやるべき事は習慣にする事なんだ!」
「どういう事っすか?」
「一日三食、ご飯を食べたり毎日風呂に入ってるだろ?」
「はい」
つまり、デンジが不幸になるのは、心の中では今の生活に満足しないからである。
でも、デビルハンターの仕事は投げ出していないので継続をする事自体は苦手ではない。
「そういった当たり前を感じるのが、お前が不幸にならない為のコツだ!」
「当たり前?」
「そう、コーヒーは苦い、焼肉は美味い!苺ジャムは甘い!当たり前だよな?」
「そうっす!」
身近な例で例えてデンジの頭脳でもそれが事実だと思い込ませる。
何千人、何万人の心を弄んだ結婚の名を冠する悪魔の十八番であった。
「だからお前は人間として当たり前の事を習慣にする訓練が必要だ」
「はい!」
「そこでお前にピッタリな物を用意した!ちょっと待ってろ!すぐに出す!」
「おお!」
結婚の悪魔は、机の引き出しを開けてごそごそと目当ての物を探した!
まるでドラ〇もんが四次元ポケットに両手を突っ込んで秘密道具を取り出すようである。
これにはコロコロコミックでドラ〇もんを読んだデンジも期待する!
「漢字ドリルと計算ドリル~!」
「ええっ!?」
ドラ〇もんが秘密道具の名前を言う様に小学生の宿題を見せつけた。
それを見たデンジは話が違うと言わんばかりに驚愕した!
「お前は小学校に行っていない。だから自力で問題を解いたり取り組む事を継続するのが苦手だ」
「え?ええ?」
「そこで毎日、決められた課題をやって1週間に1回テストする事にする!」
まさかの宿題にデンジは反論する事にした。
「ちょっと待ってください!さっきの話と違う!」
「いや、違わない。それにこの宿題とテストは、パワーとレゼにもやってもらう」
反論するデンジを見越して結婚の悪魔は、彼女たちにもやらせると宣言する!
これにはデンジも困惑する。
「なんで?」
「お前、深夜の学校デートでレゼと授業をやってたそうじゃないか。どうだった?」
「楽しかったです…」
何かを言おうとしたが、レゼとの授業を思い出したデンジは授業の楽しさを知った。
「それはレゼと一緒に居たからだろ?」
「そうかも!」
「不幸にならないコツはな、誰かと一緒に行動して間違っていたら指摘してもらうのが一番さ」
「つまり?」
「レゼとパワーと一緒に宿題やテストをする事で今の日常が当たり前だと認識させるのさ」
デンジには何かしらの試練が必要である。
苦労して生きて来た人生のせいで生温い環境では満足しないのは分かっていた。
そこで小学校の宿題という彼にとって難関を味わせる事で苦労する代わりに満足させる事にした。
「確かにレゼと一緒にやるのは楽しいかもしれねぇけどよぉ、テストをやる必要があるんすか?」
「いや、テストの結果が重要なんだ」
一応、勉強自体は納得したデンジだが、テストに関しては認められないようだ。
それに対して机に肘をついて両手を組んでいる結婚の悪魔は、その理由を述べる!
「なんでお前は、あのマキマさんに認められたと思う?」
「俺が特別な人間だから!俺ってなんだかんだすごいし!」
「違う!お前が実際に少女を操っていた悪魔をぶっ殺して成果を見せたからだ」
これが重要である。
この世は結果が全てであり、特に公安のデビルハンターなら成果を見せないといけない。
「お前が特別な人間だけならな!牢屋にずっと閉じ込めて保護した方が管理が楽なんだよ」
「でも、俺は一人前のデビルハンターとして活動してるぞ?」
「そうだ、お前がマキマさんが認めるほどのデビルハンターとして実績を示したからだ」
マキマが未だに謎が多いデンジを公安のデビルハンターにしたのは腕を買ってるからだ。
もしも、デンジが筋肉の悪魔に勝てなければ、認められずに殺処分か保管行きだっただろう。
「それと同じ様にテストで頑張って成果を見せれば、それだけ幸せになれるって事だ」
「例えば?」
「テストで良い結果を出したら、美味しい食べ物とかお前らに渡してやる」
「……なんかやる気が出て来た」
悪魔を討伐する成果を見せないといけないのに比べれば、小学生のテストなんて屁みたいなもん。
特に借金返済の為に最低限の計算はできるデンジは少しだけ自信があった。
「詳しい話は明日だ。今からパワーと一緒にパトロールに行ってこい。当たり前が大事だからな」
「分かった!」
レゼと一緒に勉強ができるというのもデンジには魅力的である。
金髪のおっさんとマンツーマン指導を受けるくらいなら彼女と遊びながら覚える方が良かった。
「ありがとうなーおっさん!俺がんばるからー!」
「ああ、頑張って来いよ」
手を振って挨拶をしたデンジは退室したと同時にドアを閉めた。
それを見届けた結婚の悪魔は、内心で彼を見下した。
(悪魔が人間の為に行動する訳ねぇだろう!バーカ!)
そもそも、この漢字ドリルや計算ドリルは血の魔人を始末する為の道具であった。
人間みたいな扱いをされたいと騒ぐ彼女にまずはこれを与えて結果を出させる。
最初は彼女でも解ける問題を出すが、徐々に難しくしていく。
(これはお前らを上げ落としにして絶望させる為の道具なんだよ)
ある時を境に指数関数のグラフみたいに難易度を急上昇させる。
当然、難関のテストについて行けずにパワーが赤点を取る事が多くなる。
次第に虚言癖を通り越して物理的に実害を与えてくるだろう。
(まあ、レゼは騙せないから別の手を使うが…)
そうなった時に証拠を集めて上に報告し、パワーを始末する手筈だった。
しかし、レゼも試験を受けさせる以上、露骨な真似はできない。
だから連帯責任を活用し、3人を貶めようと悪魔は考えていた!
(ホント、人間という奴はすぐに騙される。カルト教団と同じやり口だというのに…)
辛かったり、落ち込んでいる時に寄り添ってくれる人間はありがたく感じるものだ。
不安を煽られた後に口先三寸で誘導されて恩人の言葉を信じ込ませるなどよくある事だ。
早川アキもそうだが、なんでこんな単純な事に騙されるのか、結婚の悪魔はさっぱり分からない。
(ああ、楽しみだ。盛大な上げ落としをしてやろうじゃないか)
嘘は言わないが、自分に利点が無ければ真実も言わない悪魔は未来を想像してほくそ笑む。
マキマに指摘されるまで無自覚に4桁の契約者を破滅させてきた悪魔に死角はない。
(絶対にあり得ない希望を目指して不幸の中で足掻く人間ほど滑稽なもんはないからなー)
学校のテストの結果を連帯責任し、3人の絆をズタズタに裂くのもいい。
それか、結果が悪いパワーだけ虐めて2人に対する嫌悪感を増幅させてもいい。
レゼだけ褒美を与えて罪悪感で苦しめるのもいいだろう。
(やるなら徹底的にだ…!)
デンジから見れば、気軽に相談できる頼もしい大人なのだが、これは悪魔が作り出した幻影だ。
どう調理しても美味しい結果があるので結婚の悪魔は彼らを破滅させようと一手を打つ。
(デンジ、せいぜい今の幸せを知らずに噛み締めてろ!どうせすぐに地獄を知るんだからな!)
人間は不幸になった時にようやく今までの何気ない幸せを思い出して死ぬほど後悔するのだ。
デンジに幸せな未来など無いと知っている悪魔は、少しでも苦しんで生きて欲しいと思っている。
自分に実害がなければ、とことん他者を破滅させてしまう存在なのだから!