デンレゼが足掻く度に不幸になるケッコンの悪魔さん 作:Nera上等兵
サムライソードとの戦闘の結果、脊髄損傷による下半身麻痺していた姫野の神経に反応があった。
その一報を聞いた因幡ナオミはすぐに病院に急行した。
「チッ!」
そこには、公安対魔特異4課の係長とマキマが居た。
わざわざ病室の前に待機しており、自分を待っているようだった。
「因幡副隊長、待ってたよ」
「マキマ部長、ここでお会いするとは意外です」
結婚の悪魔の中で唯一、人間の実体を使ってロールプレイをしている彼女は建前を述べる。
「姫野と契約を結びに来たんでしょ?私に相談なしもやるって薄情じゃないかなー」
わざとらしく首を傾げて語るマキマの顔を本気でぶん殴ってやろうかと因幡は思った。
「ここじゃ他の人に迷惑が掛かるから別室で話をしようね」
「……はい」
結婚の悪魔が分裂する元凶となったマキマの要求によって給湯室に案内された。
係長から温かいお茶を手渡された女悪魔は椅子に座って結婚の悪魔たちに向き合った。
「言いたい事はたくさんあるけど…先にどんな感じに分裂したのか聞かせてくれないかな?」
結婚の悪魔たちはお互いに向き合った後、折り畳み式の椅子に座ってマキマと向き合う。
先に口を開いたのは、係長だった。
「手っ取り早く言うとあんたにボコられて弱体化されるくらいなら自分から弱体化する事にした」
無意識に人間や契約者を破滅させ続けて来た悪魔はマキマにボコられて大分丸くなった。
だからといって毎回、弱体化されるくらいなら自分から弱体化する道を選んだ。
「でも、分裂して弱体化する悪魔だなんて聞いた事ないよ?」
「そもそも自分は人間体が本体ではありません」
例えば、コウモリの悪魔とかブタの悪魔だったら負傷して死ぬ可能性がある。
しかし、マキマと向き合う悪魔は人間体がおまけであった。
さすがに本来の姿は見せなかったが、手っ取り早く説明する為に肉体を変化させた。
「わたくしにとって姿や形、性別などいくらでも弄れるのですよ」
金髪碧眼の美少女に肉体を変化させた係長は、お嬢様言葉で自分の特性を示した。
唯一、左手の薬指に填めている結婚指輪だけが係長と示す証拠となった。
「結婚指輪は外せないの?」
「いえ、外せますよ」
結婚指輪が本体だと誰もが推測してしまうが、実際は違う。
裕福そうなお嬢様っぽい少女に化けた悪魔が指輪を外すと全身から血が噴き出した。
「この結婚指輪は、自分と契約した歴代の契約者を示す証ですのよ」
「その指輪自体が本体じゃないの?」
「そうだったら隠しますわよ。でも、変身の悪魔の力がないとこうやって血塗れになりますわね」
交戦したレゼも寿命武器で執拗に指輪を狙ってきたが、実際はそこまで弱点にならない。
破壊されたところで全身から血を噴き出すだけで能力を行使する際に変化する部位でしかない。
要するに結婚指輪を填めている人間体は、全て結婚の悪魔と契約している人物の姿となる。
「ムカデや因幡が行使する白狼たちが血塗れなのは契約した人物ではないからですのよ」
「ふーん、なんか変わってるね」
再び対魔特異4課の係長に変身した結婚の悪魔を見て相変わらず不思議な能力だとマキマは思う。
「つまり、生物じゃなくてもいいわけだ。例えば死骸とか…死体を乗っ取るとかな」
意味深な発言をした係長は、隣に座っている因幡ナオミを見た。
「死体?失礼ね!ちゃんとこの肉体は生きてるよ?」
「結婚の契約を失敗させる為にナオミと契約をした異端児がなんか言ってるな」
その為、結婚の悪魔は基本的に姿を自由に変えれるのだが、例外が居る。
それが因幡ナオミという公安の女職員をロールプレイする結婚の悪魔であった。
「どういう事?」
「こいつだけは彼女の死体を捨てないと変身できないんだ」
「だからこの肉体は死んでないって言ってるでしょ!?」
「確かに
マキマも結婚の悪魔が分裂していたのを察してはいた。
白狼や先の騒動で出現したムカデなどは、肉体を変化させた結婚の悪魔そのものだった。
しかし、生身の女に寄生して肉体を乗っ取っているとは思わなかった。
「魔人とは違うの?」
「悪魔の肉体が滅んでいるか、肉体そのものが残っているかの違いだけど一緒にしないで」
例えば、血の魔人であるパワーは、若い女性の死体を乗っ取っている存在である。
だから厳密に表現すると血の悪魔としての肉体は滅んだが、意思と能力が引き継がれている。
精神と能力が同じであれば死体であっても悪魔として名乗れる。
目の前に居る存在は、肉体そのものは別にあるので魔人ではないというわけだ。
「で、こいつは元々、最初に分裂した半身だったんだよ」
「でも君より遥かに弱いね」
「そりゃあ、更に分裂させられたからね!どっかの誰かさんのせいで…!」
マキマにボコられた結婚の悪魔は、まずは自分を2つに分裂して自分を弱体化させた。
ところが、半身が1人の女にメロメロになってヤバい事をやり出したので作戦を変えた。
「それが公安のデビルハンターとして伝説を残した菊川タカミネだ」
「4か月のうちに結婚すると断言し、2億円を稼いだ人だね。…自作自演って事か」
「まあ、そうだな」
だから結婚の悪魔の契約をアピールする為に女と同化したい結婚の悪魔から分裂させた。
そして適当に選んだ契約者だった男に化けさせてその力を存分にアピールして去ってもらった。
そのおかげで“結婚の契約”を結ぼうとする者が後を絶たなくなった。
「だから分裂して弱体化するより契約によって自分の力を分け与えて弱体化する事にした」
ここまでの話をまとめると、結婚の悪魔は自分を分裂して弱体化しようとして失敗した。
なので3人目を生み出してその力を公安職員や民間のデビルハンターに見せつけた。
その力に衝撃や影響を受けた契約者に力を分け与えて弱体化したというわけだ。
「でも、可笑しくない?だってムカデとか白狼とか生み出しているよね?」
ここまで話を聞いたマキマは、目の前に居る悪魔が嘘をついていると見抜いた。
だったら血塗れの白狼やムカデを生み出す必要が無いからだ。
(むしろ、逆な気がするんだけど)
マキマからすれば、むしろ結婚の悪魔は自身を強化する為に分裂したと推測する。
結婚の悪魔の半身は自分の傍に居させて他の分身体は自分から遠ざけた。
すなわち、囮を置いて隠れて何かやっている以外の他にない。
「そのきっかけは、こいつが101匹のワンちゃんに囲まれたいとか言い出したせいだ」
3人に分裂した結婚の悪魔はこれで終わりにしようとしたが、致命的な失敗をした。
性格や技能の個体差を入れたせいでナオミが101匹ワンちゃんに囲まれたいと言い出した。
さすがに本体の3割を有する分裂体の意見を半身だけで抑えるのは不可能であった。
「いろいろこいつと揉めた結果、自分の許可があれば更に分裂してもいいと許可を出したのさ…。下手に干渉するとあんたに勘付かれる可能性があったからな。ムカデはその応用で生み出した」
「ふーん」
本体の3割だった結婚の悪魔は、肉体を三分割して101匹の白狼と1羽の兎を生み出した。
これが因幡ナオミに成り代わった悪魔と使役される3桁の血塗れ白狼と兎の誕生秘話となる。
「たくさんのワンちゃんに囲まれて暮らすのは私もそうだから否定はしないけど…」
7匹の愛犬を飼っているマキマは、これ自体は否定できない。
「なんで姫野に執着するの?」
ただ、姫野に執着する理由がさっぱり分からないので質問をした。
「だって私、姫野の親友だもん!困っていたら力を貸すのが当然ってワケ!」
「確かに嘘は言っていないから困る…」
ナオミの親友である姫野も破滅させて人形ごっこしたいというのがこの女の目的だ。
「とりあえず、大体は理解できた」
マキマが納得した様子だったので結婚の悪魔たちは…。
(絶対に納得してねぇな…)
(まだなんか疑ってる…)
絶対、この事について何を仕掛けてくると確信していた。
「私が姫野と契約してもいい?」
「やめろ!」
「やめて!」
悪魔らしい提案に結婚の悪魔たちは即座にマキマの提案を却下した。
「私の力を見せるから君たちの事をもっと教えてくれないかな?」
「公安を辞めた姫野があんたと契約するメリットは?」
「……早川君が喜ぶかも」
「せめてもう少し理由を考えて契約をしてくれ」
結婚の悪魔を弄る事だけ考えていたせいでマキマも契約するメリットがない事に気付いた。
そのおかげでなんとか姫野は悲劇を回避する事となった。
「逆に君ならどんな契約をするの?」
「姫野先輩に決めさせますよ。もちろん、彼女が断ったならそのまま何もせずに終わります」
「なんで?」
「あくまで自分の力で未来を勝ち取ってもらいたいもんでね」
結婚の悪魔は、あくまで契約者の破滅は望んでいない。
姫野が自分の力で頑張ろうと考えているならそれを尊重するつもりだった。
「でも、私なら姫野の力になれる。もうあんたの部下じゃないから干渉しないで」
「どさくさに紛れて公安のデビルハンターを退職しようとするお前がそれを言うか?」
「あ!マキマの前で暴露したな!?」
だから何かと姫野に契約させようとする結婚の悪魔を牽制した。
今なら実力差でねじ伏せられるが、マキマの眼前でやる気はない。
「なら、私がコイントスで決めてあげるよ」
そこで財布から100円を取り出したマキマがどちらが契約を担当するから決めると提案した。
ここで反論しても利点が無い上に公平に決めてくれるので双方とも頷くしかなかった。
「表の100円で」
「じゃあ、裏の桜」
係長は表、副隊長は裏を指定してマキマにコイントスをしてもらった。
100円玉を両手で抑えて受け止めた彼女は、手を開いて結果を見せた。
「表だね」
マキマの発言で誰が契約を主導するのか決まった。
そうと決まれば、ここで長居する必要はない。
「私も契約のやり取りを確認してもいい?」
「別に構いませんよ、ただし口出しはおやめください」
「……私も同感ね」
その代わりにマキマに契約に関して見られる事になった。
別にやましい事はする気は無いので結婚の悪魔も否定しなかった。
そして姫野の病室の前に訪れた係長がドアをノックする。
「あら、公安職員さんたちがゾロゾロと…なんかあったの?」
「いや、リハビリの成果が出たと聴いて駆けつけただけですよ。なんか増えちゃいましたけど」
ベッドで横になっていた姫野は入室してきた面々に向かって冗談を言う。
既に公安を辞職すると告げてあったので本当に大した事は無いと悟っていた。
「姫野~!やっぱり眼帯を外すと違和感しかないねー」
「因幡も元気そうで安心した」
「私はいつも元気だよー」
ここだけ見れば、親友たちが楽しく雑談している光景になる。
実情は……今すぐにでも主導権を握ろうと試みる行動にしか見えないが…。
「それで皆さん揃って私の武勇伝でも聞きに来たの?」
「そうしたいのは山々なんですが、姫野先輩。単刀直入に言います。今、幸せですか?」
ここで世間話を続ける気はない係長は先手を打った。
この質問の返答で契約をするかしないかをまず決める事にした。
「全然、タバコも吸えないし、ビールも飲めないし、歩けないし、闘病生活だし……」
「そうですか。でも諦めていなさそうで安心しましたよ」
「私がそんなにダメ人間だと思う?」
姫野は愚痴を溢すが、それは想定通りだった。
「そうだね」
「仰る通りです」
「それは否定できないなー」
マキマが即答すると結婚の悪魔たちも同意した。
これは姫野も想定外であり、何か小言を言おうかと口を開く。
「で?マキマさんがここに来たって事は、契約関連の話?」
「そうだよ」
「でも幽霊の悪魔との契約は解除したじゃない。他に契約している悪魔はいないけど?」
公安のデビルハンターは辞職する際に悪魔との契約を解除する義務がある。
契約した悪魔の詳細を民間に漏洩させないと同時に秘密を守る必要があるからだ。
しかし、姫野は既に誰とも契約していないのでそんな話が来るとは思ってなかった。
「そうだね、でも今のままだと病室から出れないまま人生を終える。それだと悲しいと思わない?」
「うーん、私は不自由になったけど不幸せじゃないよ。まだまだこれからってとこ!」
ただ、マキマの発言に裏があると気付いた姫野は、何故か書類を持っている係長を見る。
(なんかある)
デビルハンターとしての経験により何かがあると確信した。
「では、係長。本題を伝えてね」
「分かりました」
ここでマキマが係長にバトンパスをする。
警戒する姫野に向き合った結婚の悪魔は、本題を告げる。
「先輩、あなたは以前、幽霊の悪魔に全てを捧げようとしました。もしも、早川アキを救えるなら先輩は再び、同じ事をするおつもりでしょうか?」
「するわけないじゃない。アキ君に呪いを残す事なんてしないよ」
「ははは、安心しましたよ」
悪魔に全てを捧げて契約するなんて破滅しかない。
そして悪魔の契約で破滅する気はないと断言した彼女に書類を渡した。
「これは?」
「結婚の悪魔の“触媒契約”を記した書類となります」
「まるで私が結婚できないみたいに言うじゃなーい?」
「……契約するかしないかは貴女次第です。血に触れると悪魔と繋がれますよ」
後輩の上司から契約書を渡された姫野は、血印に触れると契約の交渉ができると知った。
(いつも私の誘いを蹴った癖に…今頃か)
姫野はアキ君を守る為に結婚の悪魔と契約を結ぼうとしたが、何度も却下された。
彼女自身は気付いていなかったが、自分の身を犠牲にする精神のせいで拒否されたのだ。
今さっき、そんな考えがないと知った悪魔は、ようやく彼女と交渉する事にした。
(面会すらしないのかー)
血印に触れた姫野の頭の中でベルが鳴った。
その瞬間、小学生低学年の少年の声が聴こえた。
「君は誰?」
「私は姫野」
直接会話するのは初めてだったが、どこか大人っぽい感じがした。
「“結婚の契約”をする?」
「しない」
だからあえて結婚の契約をしなかった。
「じゃあ、なんで僕と契約を結ぼうとしたの?」
「代わりの契約をしたいから」
「へぇ…」
係長と副隊長に化ける結婚の悪魔は、姫野の返答を聞いて驚いた。
「じゃあ、何が欲しい?悪魔を殺す力?身体能力強化?肉体再生能力?それともガン治療?」
「私は早川アキという青年の傍で最期まで見守りたいだけなの」
前から姫野は、早川に向かって「死なないで」と告げていた。
しかし、呪いのせいで短命になった彼は早死にする未来しかない。
だからこそ同じくガンが転移して短命になった彼女は彼の傍に居たいと願った。
「悪魔と契約するほどのお願いに見えないなー」
「この条件で契約できないならお断りします」
「ふーん」
早川アキと傍に居たいだけならば、彼も呼べばいい。
電話一本ですぐに駆け付ける男であるが、最期まで見守りたいというのは中々ない願いである。
「一応、君の身体をチェックするね………うわ、これはひどい」
ここでようやく姫野の肉体の惨状を知った悪魔は決めた。
「君の願いって決して変わる事が無いって約束できる?」
「もちろん…」
そして発言の裏取りをしたので結婚の悪魔は彼女と契約する事にした。
「ガンの悪魔にやられた臓器は治せないから排出する。他は治すよ」
「気前が良いじゃない」
「でも代償は大きいよ?」
「どんな代償?」
一方的に契約を決められる事は無いと姫野は聴いていた。
しかし、勝手に契約が決められたので事前情報は嘘だと感じた。
「君がそれ以外に望む事をもらうよ」
「例えば?」
「アキ君と一緒に居たいなら子供は要らないよね?」
「ああ、そっか……」
だが、今のやり取りを聞いて確信した。
「子供も欲しいかも…」
「えー」
せめてアキ君の子供だけでも残したいと思ってしまった。
そんな情けない自分に苛立ちがある。
「じゃあ、子供が欲しい上にアキ君の最期を見届けたいの?」
「欲張りすぎたかなー?」
「欲張りすぎだよ」
ただ、姫野らしいと結婚の悪魔は思う。
だから更に残酷な代償を得ようと考えた。
「じゃあ、こうしよう。アキ君が死んだら彼との思い出は全て忘れる」
「それだけでいいの?」
「もちろん、臓器と脊髄を治す分も含めると…寿命を10年削るってとこかな」
結婚の契約であれば、決められた期間内に結婚しろと言うだけであった。
しかし、結婚の契約を望まないので普通に寿命を指定した。
「ねえ、契約する前に聞いて良い?」
「どうしたの?」
「なんで私がアキ君をアキ君って読んでるって分かったの?」
「…記憶を見たからだよ」
ところが、うっかりミスで姫野に勘付かれてしまった。
ここで姫野は畳みかける。
「じゃあ、私がヘビースモーカーなのも分かるよね?喫煙すると死ぬ代償にしたらどうなるの?」
「それなら寿命が5年伸びるなー」
ここで隙を見せたのがまずかった。
次々と姫野は自分が好きな物を捨て始めた。
「アルコール摂取もやめる」
「料理に使うアルコールも対象でいいの?」
「ごめん、ビールと焼酎とワインと甘酒だけ禁止にする!」
「禁止じゃない!代償だよ!?守らなかったら死ぬよ!?」
無意識だと人間を破滅させる結婚の悪魔だが、意識すると意外と失敗する。
レゼの対処に悉く失敗したように姫野の追加条件を許可したせいでカオスになった。
これには、因幡ナオミに化ける結婚の悪魔もにっこり。
「これでお願いね」
「えー?」
「早く契約して!しないなら今回の話なし!」
「え?じゃあ…」
「早く契約!!」
「わ、分かった…」
結局、姫野に押されてしまって彼女に有利な契約となった。
(うーん……悪魔の機嫌次第で契約内容も代償も変わるけど…)
以下、姫野と結婚の悪魔が結んだ契約
【姫野の要望】
・脊髄の再生と転移したガン細胞の破壊
・ガンの悪魔で変異された細胞と臓器の摘出
【代償】
・契約を結んだ日から2年以内に姫野が早川アキと結婚する
・ビール、焼酎、ワイン、甘酒、日本酒、ウイスキー、梅酒の永久飲酒禁止
・永久禁煙
・臓器移植不可能
・早川アキが死んだら彼との思い出を全て忘れる
・どれか1つでも破ったら姫野が即死する
悪魔が人間に結んだ契約にしては、かなり人間に有利な条件となった。
急かされたせいで寿命の条件を付け忘れたのに悪魔は気付いたが、もう手遅れだった。
「ごほっ!?」
契約が成立した瞬間、ガンの悪魔に変異された細胞と臓器が姫野の口から飛び出してきた。
「た、たいへんー!すぐにナースコール押さないと!」
事情を横で聴いていた因幡ナオミは棒読みでボタンを押してナースを召集した。
「因幡、大丈夫…!」
「吐血して大丈夫だった奴なんていないよ!?」
マキマに笑われて慌てて動揺するフリをする因幡は吐血して笑う姫野にツッコミを入れる。
「これで私はまた戦える」
「じゃあ、公安に戻って来れるね」
姫野の決意を聞いたマキマが放った一言で結婚の悪魔たちは自分たちが利用されたと気付いた!
「いえ、私は民間のデビルハンターに転職します」
「えーなんで?」
「アキ君にしっかりと約束しちゃいましたから!」
しかし、姫野はマキマからの提案を蹴った。
「こうやって入院してたせいで身体が鈍ってますから」
「そっか、なら仕方ないね」
姫野はアキに約束した。
リハビリをしてデビルハンターの実力を取り戻したら迎えに行くと…!
「まあ、代わりの人材を手配するから問題ないよ。頑張ってね」
「は?」
「え?」
次に放ったマキマの発言に係長も副隊長も困惑した。
そんな話など初耳だし、そもそも公安対魔特異4課は人員を募集していない。
「じゃあ、案内してもらうよ」
姫野に誘いを断られるのはマキマも想定していた。
だから目の前に居る結婚の悪魔たちに呼びかける。
それから1時間20分後、タワマンの最上階で暮らす結婚の悪魔の玄関をマキマは破壊した。
「おーおー派手にやったな」
「賠償されても知りませんよー。私は見てないから知らないで通しますけどー」
同じ結婚の悪魔の住宅が襲撃されているのに分裂元は冷静であった。
むしろ、もっとやれと暗にマキマに伝えている有様だった。
「おっと」
菊川タカミネの双剣をトンファーバトンで弾き返す。
さすがにここでマキマを負傷させる気は係長に化ける結婚の悪魔はなかった。
「これで一堂に会したね」
因幡ナオミの肉体の中に潜む3桁の白狼と兎を含めれば、これで結婚の悪魔が勢揃いした。
ナオミがそう告げると結婚の悪魔の半身の顔に向かって唾を飛された。
それをやったのは、同じく結婚の悪魔である。
「久しぶりだな。相変わらず悪趣味な事してんな」
「俺からすれば、お前らの方が悪趣味に見える。わざわざマキマを連れて来て何の用だ?」
菊川タカミネに化ける結婚の悪魔は、自分の姿に深くこだわっていない。
下手すればすぐにでも逃げれるのだが、さすがに自分相手だと逃走できなかった。
「マキマ部長がお前に用があるって仰るから案内しただけだ」
「リスク分散の為に干渉はしないんじゃなかったのか?」
そもそも結婚の悪魔は、分裂した存在と接触は避けていた。
マキマに勘付かれるのを避ける為だったが、何故か自分がそれを破って来た。
その事実に苛立つタカミネは、自分の半身に苛立った様子で尋ねた。
「不干渉を貫いた結果、結婚の悪魔と結婚の悪魔が同士討ちになっちまってな」
「それはお前らの問題だろ?俺を巻き込むなよ!」
せっかく自由を謳歌していたのに台無しにされたのでタカミネは一戦交えようかと思ったほどだ。
「あんただけ勝ち逃げするのは許さないよ」
因幡ナオミのロールプレイをする結婚の悪魔が放った一言が全てを物語っている。
「なんだよ俺のセフレになりに来たのかと思ったぞ?」
「あ"あ"?分裂元に喧嘩を売るなんて良い度胸してるじゃない」
だから逆に喧嘩を売られた彼女は、殺意剥き出しで鞭を取り出した!
派生元を今度こそ仕留めようとするタカミネも本気だった!
結婚の悪魔の1割と2割がここで殺し合ったところで利点など無い。
「はいはいそこまで」
本来の派生元である半身が2人の殺し合いを止めた。
「ふふふふ、良い金づるができてよかったよ」
「マキマ部長、本音が漏れてますよ」
ついでに本音を漏らしたマキマに注意した。
「「「はあ……」」」
マキマは、結婚の悪魔を支配下にした事で自分の仕事量を減らした。
更に因幡ナオミを編成した事で千葉公安対魔1課を事実上掌握した。
更に資金源の心配もなくなったのだ。
ウキウキとしてソファーに座るマキマの姿を見て3人の結婚の悪魔が溜息をついた。
「客人なんだけど何かない?」
「玄関ごとドアを破壊する客人なんていねぇよ!」
搾取する気満々の女悪魔に菊川タカミネは抗議する。
さすがに怒りが収まって冷静になった彼は、とにかく彼女を追い払う気のようだ。
「ほら、警報が鳴った。警備員には伝えておくから今回は帰ってくれ」
逃げる気満々の彼に対してマキマは逃がす気はない。
「私のお給料じゃ買えないものがあってね。いろいろ協力して欲しいんだ」
「断る!!」
いつも直前に意志が折れる係長と違って好戦的であった。
なので肉体を1秒間に10回爆発をさせたマキマは係長に向かって振り返る。
「無力化したからデビルハンター東京本部に連れて行こうか」
「お、おう…」
「うわーミンチより酷いね。……ザマみろ」
ここまで運転してきた結婚の悪魔にマキマは結婚の悪魔の回収をお願いした。
その様子を見た結婚の悪魔は、結婚の悪魔が悲惨な状況になったのを見て嘲笑った。
文章にすると意味が分からないが、文章通りなので困る。
「因幡副隊長と彼が居れば暫く旅行に行けそうだね」
他人事のように話すマキマだったが、今回はこれが目的だった。
自分の元から逃げ出した結婚の悪魔を全て回収した彼女の笑みが崩れる事は無かった。
「因幡ちゃんは、私の愛犬たちの世話をよろしくね」
「は、はい」
さすがにお気に入りの身体を破壊されたくないナオミはマキマに従うしかない。
江の島に旅行するマキマに代わって彼女の愛犬を全て世話をする任務を命じられた。
「今度、私の許可なく逃走した場合は、この処置じゃすまないからね」
「承知しました」
「分かりました」
「あばばばばば!?」
ソファーでくつろいでいるマキマの放った発言が全てを物語っている。
爆散し続ける分身体を見て支配下に置かれた悪魔たちは素直に彼女の発言に従うしかなかった。
こうして最後まで逃げ切ろうとした結婚の悪魔はマキマに回収される事となった。