デンレゼが足掻く度に不幸になるケッコンの悪魔さん   作:Nera上等兵

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43話 荒井ヒロカズのドキドキデート大作戦

内閣官房長官直属のデビルハンターであるマキマさんに憧れる人は多い。

人外の様な美しさとミステリアスな雰囲気は、野郎はおろか女性まで惹かれる魅力がある。

そんな彼女から江の島旅行に誘われた早川家は大層に喜んだ。

 

 

(別に慰安旅行に行くのは結構だが、自分も行く必要ある?…ねぇよな?)

 

 

それだけだったら「良かったね」で済んだのだが、何故かマキマは結婚の悪魔も巻き込んだ。

建前として自分に配属される護衛の数を減らしたいと述べていた。

実際は「何かあると考えるべきだ」と結婚の悪魔は判断した。

 

 

「さて…」

 

 

それでも早川アキが居れば、よっぽどの事が無い限り、問題が起こらないはずだった。

そう思っていたのだが、たった1時間の間にかなりの進展があった。

まずは1時間前の出来事を振り返る。

 

 

『チェンソー様について行く!』

『マジかよ…』

 

 

それは唐突だった。

サメの魔人であるビームがどこからか慰安旅行の情報を仕入れてきた。

チェンソーマンの眷属を名乗る魔人は、デンジとの同行を願い出た。

さすがにパワーと違って外観に違和感があるので結婚の悪魔は彼の提案を却下しようとした。

 

 

『ビームも連れて行こうよ』

『正気ですか?』

『私はいつも正気だよ』

 

 

しかし、余計な事をする事に定評があるマキマが発した鶴の一声によって状況が一変した。

そもそもビームに情報を流したのは彼女かもしれないと後で思ったほどである。

 

 

『ビーム!お前も来い!!』

『行く!行く!!』

 

 

なにより偶然その場にいたデンジと意気投合してしまったのが大きい。

野郎に興味を示さないデンジであるが、レゼとの戦闘で絆を深めた影響なのだろうか。

それとも自分の無茶ぶりに応えてくれる彼が嬉しいのか。

まだ結論を決めていないのに同行を許可してしまった。

 

 

『うーん、ビームのバディはどうするべきか』

 

 

ここで結婚の悪魔は、もはや同行が必須となったビームのバディを考えた。

既にパワーが復帰したのでデンジのバディにはなれない。

だからといってセラフィムに組ませるとビームが殺されかねない。

なので早川家の監視対象となっているレゼに組ませる事にした。

 

 

『えーっと…』

『ヴヴヴヴ…!』

 

 

和解したとはいえ何度も殺し合った仲である。

面会させた後に話を聞かされた2人は、さすがにそれを聞いてどう対応するべきか迷った。

 

 

『はーい!』

『シャーク!』

 

 

だが、ありのままのデンジが好きなのは間違いないので案外、意気投合して終わった。

これでめでたしめでたしで済んだら世界はもう少し優しいはずだ。

 

 

『先輩、本気であいつらを組ませるんですか?』

『いや、マジでスマン…』

 

 

面倒事が増えると確信した早川アキに憎まれ口を叩かれた悪魔は素直に謝った。

それほどまでに自分の判断は間違っていると思ったが、どうしようもない。

ただ、これで同行者が増えないと思った。

 

 

『私も参加します』

『マキマ部長は早川家と慰安旅行をしたいと仰ったんだ。プリンシさんの席はないぞ?』

『いえ、マキマ様の手伝いをする為に同行します』

『……そうか』

 

 

何故か蜘蛛の悪魔であるプリンシまで同行を願い出た。

この件に関しては、マキマに相談する事は無かった。

なにしろプリンシが彼女の手伝いをすると断言しているのだから。

 

 

『分かった。ただし、ビームと同じように人間として振舞って欲しい』

『分かりました』

 

 

淡々と返答する彼女に結婚の悪魔は、どうやって彼らを同行させるべきか悩んだ。

早川家だけなら普通に観光ができるが、顔に違和感がある彼らだと行ける場所が限られる。

 

 

『どうしたもんかな』

 

 

プリンシが執務室から去っても、計画の変更を迫られた結婚の悪魔は頭を悩ました。

そして彼女が同行するという事は、必然的にバディを組んでいる荒井ヒロカズも巻き込む事となった。

その説明をする為に今、執務室で待っているという状況だ。

 

 

「…入っていいぞ」

「失礼します!」

 

 

ノック音が3回聴こえたので悪魔は入室許可を出した。

それによりヒロカズが入室して係長と向き合った。

 

 

「お呼びでしょうか?」

「ああ、そうだ。まずは腰掛けてくれ。ちょっと話が長くなるからな」

「失礼いたします」

 

 

デンジと違って真面目な荒井は許可を受けてから椅子に座り込んだ。

きちんと拳を両膝の上に乗せているところから育ちが良さが分かる。

 

 

「実は、マキマ部長が慰安旅行に行く事になったんだが、蜘蛛の悪魔が同行する事になってな。バディである荒井も参加してくれると助かるんだが…どうだ?」

「え?俺なんかが同行してもいいんですか!?」

「部長から許可をもらっている。ただ、荒井本人の意思を聞きたくてここに呼んだ」

「行きます!行きます!」

 

 

マキマさんと慰安旅行に行けると知った荒井ヒロカズは喰い付いた。

それはもう、もうじき23歳になる年齢=彼女歴なしだったサーンそのものだ。

 

 

「ちなみに早川家も参加するからな」

「なるほど…」

 

 

姫野先輩とバディを組んでいた早川アキも参加すると知った荒井は頷いた。

 

 

「真面目な人が参加して安心しました」

「同感だ」

 

 

荒井もまともな奴だからこそ長生きできないと悪魔は察している。

それでも、こういった奴が居ないと人間がつまんなく感じるのも確かである。

 

 

「予定では2泊3日の旅行になるんだが……大丈夫そうか?」

「問題ありません」

 

 

慰安旅行は夏の盆休みの時期よりは前に行なわれる事となった。

まずは、連休になると悪魔被害が多く発生するので結果的に休めなくなる事。

なにより、魔人や悪魔も参加するので人気が少ない時期を狙う為である。

 

 

「早川だけでは問題児共をまとめられるとは思えん。デンジの傍に居て様子を見て欲しい」

「デンジに関して質問をしてもよろしいですか?」

「別に構わんが…」

 

 

とりあえず、デンジが馬鹿をやって騒動を起こさなければ大丈夫のはずである。

だから結婚の悪魔は荒井にデンジの面倒を見て欲しいと告げると彼は疑問点があるようだ。

そのまま肯定されるよりは、しっかりと現状を確認する行為を評価し、耳を傾けた。

 

 

「久しぶりにデンジと出会った時、美少女を連れてましたが、あれって誰なんですか?」

「ん?」

 

 

そういえば、レゼと荒井ヒロカズは面識が無かった。

対魔2課の訓練施設に2人は居たもののムカデ騒動のせいでまともに接触していない。

彼はデンジと仲良くしている女の子が気になってしょうがないようだ。

 

 

(煽ってみるか…!)

 

 

普段だったら真面目な荒井を煽る事はしなかった。

だが、自分を道具みたいに利用したデンジを許せなかった。

 

 

「デンジの活躍に惚れて彼女になった奴さ」

「…は?」

 

 

だから2人の仲を引き裂いてやろうと結婚の悪魔はわざと煽った。

発言の意味がすぐに理解できなかったのか。

荒井は上司への受け答えが上手くできなかった。

 

 

「彼女ってあの彼女?」

「そうそう、デンジが大好きな女の子だ」

 

 

嘘は言っていない。

ようやく事態を飲み込めた荒井は衝撃を受けた。

 

 

「なん…だと?」

 

 

荒井ヒロカズは京都公安対魔1課の天童ミチコと付き合う事となった。

その事を決めて実施したタイミングは最悪だったが、逆に彼女の気を惹いた。

しかし、中々接触する機会がなく電話を4回してデートを1回だけしただけだ。

 

 

「あ、あいつらって早川先輩のアパートで同居してますよね!?」

「そうだな」

「早川先輩が認めたんですか!?」

「あくまで上からの命令があったとはいえ、そうなるな」

 

 

だが、デンジは荒井の数十歩先を進んでいた。

居候している早川宅に彼女を連れ込んで同居している。

その事実は、荒井ヒロカズの人生の中で2位、3位を争う衝撃となった。

 

 

「負けてられねぇ…!俺も天童さんと同居する!!」

「恋愛は競争じゃないぞ?2人に合ったペースでやるべきだ」

 

 

何故か対抗心を焚きつけられた荒井は決意するが、結婚の悪魔はツッコミを入れた。

結婚が大好きであってデートも結婚式も興味がない悪魔だが、さすがに口に出してしまった。

 

 

「いえ、俺が悪かったんです。遠慮していたせいでズルズルと引き摺ってしまって…」

「いや、何の話だよ!?」

「天童さんとの恋愛話ですよ。俺も遠慮せずにグイグイ行くべきでした」

「状況も環境も良く分からんが、天童さんに配慮していくべきじゃないのか?」

 

 

人間が破滅するのは結構だが、荒井のお相手は公安のデビルハンターだ。

ただでさえ先の失態*1で天童の上司に謝罪したのにこれ以上やらかされると自分に飛び火する。

そのせいで本来ならやる必要が無かったアドバイスを結婚の悪魔はやる羽目になった。

 

 

「女性はな、寄り添ってもらったり、相談できる相手を好む事が多い。だからここで言ってやる。お前は彼女じゃなくてデンジの事を考えてデートをしようとしている。それはダメだ」

 

 

とりあえず、デンジに対抗心を燃やして天童とデートするのは止めろと告げた。

結婚コンサルタントに化けていた経験があるし、悪魔自身も恋愛をかなり経験している。

とんでもないやらかしをして荒井が自分を巻き込む前に悪魔は牽制する事にした。

 

 

「荒井、今から何か業務はあるか?」

「いえ、午前までです。今の時間は何もありません」

「ならば、今から恋愛について相談に乗ってやろう」

「よろしいのですか?」

「この職業だ、お前が死ぬ前に色々聞いておこうと思ってな」

 

 

荒井ヒロカズがやらかして公安対魔特異4課が巻き込まれないように相談に乗る事となった。

 

 

「さっそくだが、天童ミチコのどこが気に入った?」

「大人っぽい風貌と顔、なによりどこか母性が感じられる雰囲気です」

 

 

何かと世話好きの荒井ヒロカズだが、どこか愛情に飢えている。

愛情に飢えているのはデンジも同じだが、彼自身は共感者というか大切な人に寄り添いたい。

そんな気持ちがあった。

 

 

「さっきの口ぶりからちょっと進展があったようだが、現状はどうなってる?」

「電話して雑談したり、休日に出向いて東京のお土産を渡したりしています」

「最近はどうだ?」

「最近は、因幡隊長によるトレーニングで中々お会いできていません」

 

 

サムライソードとヤクザの襲来で自分の実力不足を実感した荒井は訓練を開始した。

そのおかげで悪魔頼りの生半可な職員よりは動ける様になった。

しかし、そのせいで天童との関係は進展する事は無かった。

 

 

「キスはしたか?」

「してません」

「握手はしたか?」

「してません」

 

 

握手すらできない関係だと結婚の悪魔もアドバイスが難しい。

職場で出会った女性職員と気軽に会いに行ける程度の仲でしかないと分かった。

 

 

(荒井の年収なら結婚相談所に登録して若い女を釣った方が良いと思うがな…)

 

 

悪魔としては、天童との恋愛を諦めて結婚相談所の登録を勧めたい。

二十代前半で年収550万円もらえる優良物件ならすぐに若い女が釣れる。

そこから吟味し、自分に合った女を選ぶべきだと思った。

 

 

「なるほど、このままだと仲が良い男友達止まりで終わりそうだな」

「…どうすればいいですか?」

「まずはビジョンだな、お前がどうしていきたいか分からないとアドバイスがしようがない」

 

 

幸いにも天童の性格は分かっているのですぐに荒井が振られる事は無いだろう。

ただし、彼が何をしたいのかはっきり示さないと恋愛が進展しない。

 

 

「例えば、公安のデビルハンターを続けると必ず重傷を負ったり死んだりする。それは事実だろ?だから貯金したら株を運営したり、自営業を営んで安定を図らなければ双方が不幸になる」

「そうですね」

「荒井、お前が公安に入った理由は分かっている。だが、天童と今後どうしていきたい?」

「結婚したいです!」

 

 

結婚の悪魔は、今後の展望について訊ねているのに荒井はあくまで手段を告げていた。

恋愛ゲームじゃないんだから「結婚してハイ終わり!」で済まない。

むしろ、女性は結婚した先を重視し、自分の今後の生活について深く考えている。

 

 

「違う!お前は天童さんと一緒に何をしたい?民間のデビルハンター夫婦として悪魔を狩るのか?それとも2人の貯金で起業し、安定した生活をするか?それとも彼女の実家の家業を継ぐのか?」

「そこまで考えていませんでした…」

「いや、考えろ。このままじゃ恋仲が進展する前に死に別れかねないぞ」

 

 

なにより、天童が“罰の悪魔”と契約しているのが問題だった。

“呪いの悪魔”と同じように自分の健康と寿命を削るタイプなので普通に短命で終わる。

だから荒井が彼女の運命を変えない限り、普通に死に別れてバッドエンドになりかねない。

 

 

「まずやるべき事は、天童さんとこれからどうしていきたいのかのビジョンを作る事だ」

「ビジョンですか?」

「例えばデンジは、日本人として普通の生活をしたいと考えている。だからソ連の使い捨てだった工作員を平和な日常と愛情に触れさせて祖国を裏切らさせる結果に繋がった」

 

 

ここで結婚の悪魔は、デンジで例えてビジョンについて説明をする。

デンジは普通の生活をしたい。

レゼは普通の生活では無かった。

一見すると仲良くなれる関係ではないが、デンジの夢がレゼが欲していたとなれば話が別だ。

 

 

「え?」

「レゼはデンジの心臓を狙うソ連の工作員だったんだよ。アホなデンジをハニートラップで騙して心臓を奪取するつもりが、逆にデート生活がかけがいのない幸せな時間になってしまい、最終的に彼の夢と行動に惹かれてしまったレゼはソ連を裏切って投降して公安に保護されたんだ」

 

 

レゼの正体に気付いていなかった荒井に結婚の悪魔は簡潔に彼女の説明をした。

勝手にハニートラップを仕掛けた女工作員がターゲットにドはまりしてソ連から離反した。

ソ連からすれば、ふざけんな案件であるが、先に廃棄処分判定した彼らが悪いのは明白である。

確かにレゼの名と姿が割れて使いづらい道具だとしても大切に扱うべきだった。

 

 

(それに双方とも愛情に飢えているのでお揃いではある…)

 

 

当初は慰安旅行に参加するレゼを変装させるつもりだった。

だが、あえてマキマの前でダブルピースをするデンジとレゼを撮影し、ソ連に送付する事にした。

「やーい!お前らが手塩をかけた工作員、デンジにハマって恋仲になった」という意図ではない。

既に2人はマキマの支配下にいると示す事でソ連の干渉を牽制する目的であった。

 

 

「要するにだ、荒井と一緒になりたいと考える夢と日常を示さないと天童さんと結婚はできん。」

 

 

ただし、それはあくまでもソ連に向けてのアピールである。

デンジとレゼの関係は絶対に破綻すると分かっている結婚の悪魔はあえて2人の末路を語らない。

人の心を弄ぶのが得意な悪魔は、驚愕する荒井ヒロカズの思考と行動の誘導を始めた。

 

 

「どうすればいいですか?」

「お前、なんの為に自分が相談に乗ってると思ってんだ。上司に頼るべきだろ?」

「…え?」

 

 

ここで頼れる上司っぽい雰囲気を出す公安対魔特異4課の係長は初めて笑ってみせる。

 

 

「幸いにも、天童の上司であるスバルさんと交流関係があるから何とかお膳立てくらいはできる。あとは荒井が彼女の気を惹くビジョンか行動を示せるかどうかだ。まずは一緒に考えるか」

「で、ですが…」

「就職活動で考えた自己PRと志望動機と同じさ。誰かが指摘しないと永遠に欠点に気付かんぞ?」

「お願いします」

 

 

ここから40分ほどディスカッションし、荒井の夢や今後の夢を2人は考えた。

少しずつ自分の想いを話せるようになったヒロカズは、更に自分が成長したと実感しただろう。

 

 

(…なんでこんな事やってんだ?)

 

 

天童ミチコの趣味と好物からデートプランを考える悪魔は自分の行動を疑った。

ただでさえクソ忙しい上に何故か慰安旅行のプランまで考えていた。

そこにデンジとパワーとレゼの試験と今後の計画を考えつつ上への報告を練っている。

 

 

(余計な仕事を自分が増やしている気がする…いや、増やしてるなコレ…)

 

 

そこに荒井の恋愛アドバイスまでしているのだから…さすがに可笑しいと気付いた。

 

 

「良くも悪くもムカデ騒動の事件を受けて京都組が東京都に暫く派遣されている。その気になれば京都対魔1課と交流できるという訳だ。つまりだ、共同作戦と銘打って彼らと接触ができる」

「そこで交流を深めるんですね!」

「その通りだ!天童さんの好感度と自己アピールポイントを稼ぐなら今だ!」

 

 

結婚の悪魔は、デンジの心臓を狙ったレゼを始末しようと大掛かりな行動を仕掛けた。

その結果、全てが空回りした挙句、ムカデ騒動で日本中が混乱する事となった。

だが、これは悪い結果だけをもたらしたワケではない。

 

 

(まずは国民に団結するという意識を持たせた)

 

 

今まで悪魔を目撃した一般市民は、通報するか逃げるしかできなかった。

だが、民間人を殺傷しないように手加減したムカデ相手に挑んだ国民の意識が変わった。

今では、竹槍で訓練する小学生の姿があり、少なくとも意識改革があった事は確かである。

 

 

(あくまで結果論だが、被害が過小になったおかげでレゼを公安に引き込む事ができた)

 

 

レゼがやらかした事は許される事ではないが、結婚の悪魔の介入で一部が有耶無耶になったのだ。

公安のお偉いさんは、結婚の悪魔が介入しなければ対魔2課が圧勝したと結論付けている。

よってレゼが背負うはずだった大罪と責任が対魔特異4課の係長に押し付けられる形となった。

 

 

(なにより自分のせいで悪魔と生物の生態系が崩れ去った)

 

 

ただし、今回は悪い点が目立つ。

最初にレゼを取り逃がした結婚の悪魔は、苛立ちで正気を失っていた。

そのまま後を追えばいいのに捕食したムカデの悪魔を活用しようと考えた。

 

 

(なにやってんだか…)

 

 

そこで一旦、東北地方にワープしてさくっと悪魔8体を惨殺して血肉を奪い取った。

これでムカデの悪魔の素体を確保したが、それでも足りなかった。

なので熊や鹿、猪などの大型生物を狩り尽してしまった。

 

 

(いや、ホントになにやってんだ自分…)

 

 

これで九州地方*2と同じく東北地方でも「熊の絶滅宣言」がされるのも遠くないだろう。

更に生態系が崩れるのを危惧して小動物はおろか昆虫まで喰いつくしてしまった。

みんな同じように壊滅すれば、逆にバランスが取れる理論である。

 

 

(自重するルール作っておかないと絶対にまたやらかすな……)

 

 

公安対魔2課の訓練施設で職員が目撃したムカデの大群は、東北に住む動物の成れ果てであった。

そこで終わるならまだ良かったが、それでも上手くいかず更に結婚の悪魔は怒り狂った。

最終的に公安勢力に所属していない悪魔と魔人、42体を腹いせで惨殺する結果に終わった。

 

 

『こわ!?』

 

 

生まれたてホヤホヤだったムカデの悪魔は運が良かった。

デンジとレゼの祭りデートにウキウキしていた結婚の悪魔は生け捕りを選んだのだから。

タイミングが少しでもズレていたら凶悪な悪魔に虐殺されたと知って震えていた。

 

 

「……どうせ、先のムカデ騒動で悪魔の活動が鈍化してるしな」

 

 

そのせいで公安も民間も悪魔ハンターと名乗る存在は、閑古鳥が鳴いている状態である。

なにせ東北と関東、中部地方に潜んでいた悪魔の大半が狩り尽されたのだから。

なので悪魔の脅威などないのに関東地方に過剰な戦力が配備される事となったのだ。

 

 

「イヤー、ホントですね。まさか悪魔の通報が1週間もないなんて思いませんでした」

「…そうだな」

 

 

まさか目の前の上司のせいで悪魔が狩り尽くされたなど荒井が気付くわけがなかった。

素直な感想を述べる彼を直視できずに悪魔は顔を背けた。

 

 

「じゃあ、さっそく共同訓練という建前で計画を組ませてもらうぞ」

「ありがとうございます!」

 

 

やらかし過ぎてマキマからお仕置きされた結婚の悪魔は、荒井の為にデートプランを練った。

やっちまったもんはしょうがないで済ませる悪魔は、そう簡単には挫折も後悔もしない。

さっそく組んだ計画を元に京都組に一報を入れて調整を行なった。

 

 

(よく考えたら皮肉を言ってるんじゃね?)

 

 

荒井の話を信じた結婚の悪魔だが、冷静に考えて皮肉を言われているのだと疑った。

実際に2人が交流できるようにセッティングした様子を見てそう思ったのだ。

 

 

「いつみても元気そうやなぁ」

「はい、もっと頑張らないといけないと思って…」

 

 

天童ミチコの誉め言葉に照れている荒井は気付いていない。

「暗に休息を勧められている」のだが、逆効果になっていた。

この光景を見て結婚の悪魔は、彼の報告をそのまま受け入れるのは危険と判断した。

 

 

「いやーおおきに、東京のやり方が分からへんって事で助かるわー」

 

 

天童の上司であるスバルの発言の意味は2つだと推測できる。

1つ目は、文字通りの意味。

だが、わざわざ口に出すという事は、逆にこんなやり方で良いのかと問われている。

 

 

「正直、自分も東京のやり方は理解できん。だからこうやってペアでやらせた」

「ほんまなのか?東京もんは堅苦しいのが好きとちゃうと思うとったが…」

 

 

京都弁は直接的な批判をせずに相手に気付きを与える皮肉が多い。

そのせいで本音なのか皮肉なのか悪魔は全く理解できない。

 

 

「悪魔が脅威の世の中だ、地方のやり方を取り入れて共闘できるようにしておきたい」

 

 

とりあえず、適当に褒めて批判を躱すつもりだった。

 

 

「それに信頼できる人材を確保したいという意図もある」

「マキマはんがおれば、いくらでも人材は確保できるやろ?」

「彼女に頼りっぱなしもどうかと思っているんでね、いくつか手を打たせて頂いている」

「この一環も?」

「もちろん、他部署との共闘も方針としてやっている」

 

 

なにより、スバル班長はマキマを疑っている素振りがある。

悪魔としては好都合ではあるが、先の失態のせいで波風を立てたくないのが本音だ。

 

 

「そうか、なら安心した」

 

 

岸辺隊長を紹介しても良かったが、後が面倒になる。

 

 

「お互い、今の関係を築けたままで居られると嬉しいのだがな…」

「そんなしょーもない事言うてはるな。あんたがそれ言うたらお終いやん」

「少なくとも部下たちはお互いを知ろうとしているようで安心したよ」

「うちの若いモンは欲張りやからな」

 

 

京都組の部下を立たせる為に褒めつつ、荒井と天童の話し合いを見守っていた。

 

 

「…ちょいええか?マキマさんって独身なのか?」

「少なくとも恋愛している様子ではない。高嶺の花だから近づく者も居ないと思う」

「なんかおかしい思わへんか?」

「契約している悪魔すら知る事を許されないんだ。疑うつもりはない」

 

 

マキマの評判を知っているだけのベテランは、すぐに彼女を疑う。

故に無駄に彼女を探索しようとするスバル先輩に牽制をする羽目になった。

 

 

「それに彼女が居なければ、特異4課は成り立たない。頼るしかできないのさ」

 

 

未だにマキマの野望を結婚の悪魔は知らない。

だが、結婚の悪魔は自身の野望を誰にも伝えないので彼女のやり方には同感している。

 

 

(そうだ、デンジや荒井に夢がある様に自分も野望があるのさ…)

 

 

悪魔同士で仲良くなることはまずない。

故に擦れ違っていたとしても自分に利点があればマキマに協力する。

ビジネスの関係であれば、関係が拗れてもすぐに対応ができるのだから。

 

 

「それより黒瀬さんはすごいな。初対面の悪魔に対応できるなど…うちの課でも居ないぞ」

「せやな。黒瀬は――」

 

 

蜘蛛の悪魔と雑談できる黒瀬を褒めつつ、スバル班長からの話を聞くフリをする。

 

 

(あーあー、くだらねぇ……)

 

 

デンジの相談もそうだが、しっかり聴いているようで結婚の悪魔は適当にあしらっている。

相談相手を貶めようと画策している時ですら自分の発言を誰もが信じるのだから困ったものだ。

今回は、荒井の為にやっているフリをして京都組の情報収集を行なっている。

 

 

(京都組から利点になる情報はなさそうだな…)

 

 

マキマの護衛でもある結婚の悪魔は、彼女が死ぬリスクを極限まで下げている。

いずれ裏切ろうとしているのだが、なにかと彼女にお世話になってくれた恩は返している。

だからこそ、マキマにとって利点になりそうな情報を必死に探していたのだ。

 

 

(京都公安対魔1課、スバル班長は黒…と報告するか)

 

 

マキマの行動を疑う存在を悪魔は彼女に密告するつもりである。

何も得られる物もない彼は、いずれ破滅へと導かれるだろうが…悪魔としては関係ない。

 

 

(荒井は……幸せならいっか)

 

 

一応、スバルの部下は何とか救うつもりである。

蜘蛛の悪魔と対峙してすぐに対応できる黒瀬を死なせるのは勿体なかった。

彼らの信頼と信用を稼ぐ間にマキマの妨害を避けようと悪魔は努力する羽目になった。

 

 

(それにしても…)

 

 

ここまで考えた結婚の悪魔は思った。

荒井の中で眠る白狼がなんかムカつくと!

 

 

(因幡の奴が貸し出したと思うが…スヤスヤ寝てるんじゃねぇぞ!!!)

 

 

血塗れの白狼が進んでそこに入ったとは思えないので因幡の仕込みであろう。

だから介入はしないが、係長に化ける悪魔は荒井の中で爆睡する白狼を恨む。

だが、結婚の悪魔は知らない。

この存在が後にとんでもない事をしでかすとはこの時、想像だにしなかった。

 

 

*1
早川アキの契約悪魔に関する手続きの業務の時に荒井が天童に付き合って欲しいと告白した事件

*2
九州では熊が生息しておらず、2012年に環境省が熊の絶滅を宣言した

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