デンレゼが足掻く度に不幸になるケッコンの悪魔さん   作:Nera上等兵

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45話 はじめての水族館!

公安対魔特異4課職員を乗せたマイクロバスは江の島水族館*1に停車した。

江の島の手前にある水族館であるが、ここを選んだのは理由がある。

 

 

(単純に貸し切りにできたのがここしかなかった…)

 

 

江の島水族館は、1994年に開館40周年を記念して外装を改装するなど歴史がある水族館だ。

近くには日本初のイルカ専用飼育施設であるマリンランドもあり、有名な観光地である。

しかし、裏を返せば老朽化した施設であり、新施設に建て替えする噂を結婚の悪魔は耳にした。

 

 

(建前は休館して大掃除となっているが、実際は金を積んで貸し切りにした…)

 

 

悪魔と魔人を連れて観光スポットをまわるなど不可能に近い。

しかし、建て替え費用を欲している水族館側の本音と大金があれば無理を通せる。

2000万円の大金で交渉した結果、なんとか水族館を貸し切りにできたのであった。

 

 

(まあ、痛いが!)

 

 

もちろん、公費を使用したら国民の反感を買う事になる。

そこで金持ちになっていた人物に化ける結婚の悪魔から徴収した金で交渉を行なったのだ。

そのせいで分裂した自分から恨まれる係長は、少しだけ酷い目に遭った。

 

 

「みんな、水族館に来たわけだけど、ちゃんと約束を守って行動しようね」

 

 

遠足で引率する先生が生徒に呼び掛けるノリでマキマが部下たちに観光の注意事項を述べている。

何故か慰安旅行のプランまで組まされた結婚の悪魔は半信半疑で彼女を眺めた。

 

 

「食べない、触らない、壊さない、盗まない、殺さないをしっかり守ろうね」

 

 

さすがにマキマの命令には誰も逆らわないだろう。

唯一、懸念材料だったパワーはマキマと同行する事になっている。

マキマの顔に泥を塗る、すなわち彼女によって即座に死刑が執行されると同意義である。

 

 

「ここはワシの死地か……?」

 

 

刑が執行される死刑囚か、戦場で死守命令を出された軍人みたいにパワーは震えていた。

 

 

「デンジ君」

「ふぁい!!」

「私ね、水族館は初めてなの。キミはどう?」

「俺も初めてでドキドキしてます!!」

「良かった。人の心はまだ残っているんだね」

「はい!おかげさまで!!」

 

 

その一方でマキマと同行して水族館をまわると知ったデンジはめちゃくちゃ嬉しそうだ。

まるで飼い主から餌を見せつけられて喜ぶ飼い犬みたいである。

実際、そんなもんだが、客観的な視点をもつ結婚の悪魔とレゼは思うところがあった。

 

 

「今日はちょっと特殊な運営をしている水族館だからね。一緒に面白い光景を見よう」

「もちろんです!」

 

 

マキマの問いかけに対してフィルムカメラを構えたデンジが元気そうに答えた。

今回の水族館では、複数の班に分かれて周ることになっている。

 

 

・マキマ、デンジ、パワー、レゼで構成されたマキマ班という名のデンジハーレム班

・早川、荒井、天使の悪魔、サメの魔人で構成された早川班という名の野郎チーム

・係長に化ける結婚の悪魔、蜘蛛の悪魔の2名で構成される監視チーム

 

 

この3班に別れて大掃除を行なっている水族館を周るのだ。

特にデンジにとってはめちゃくちゃ嬉しい班構成となっている。

 

 

(実際に組ませたが、全然羨ましくねぇ…荒井には悪いが地獄だぞアレ)

 

 

荒井ヒロカズは滅茶苦茶羨ましそうにデンジに視線を送るが、結婚の悪魔は違った。

老いの悪魔が創り出す不老の結界の中に4人をぶち込めば世界は平和になると確信するほどに…。

目に見えた地雷に悪魔は戦慄している。

 

 

「助けてー。ワシはまだ死にたくないんじゃー」

「大人しくしていれば、何もしないよ。多分」

「多分って言った!多分と言いおった!?誰かー!ワシを救って来る勇者は――」

 

 

知ってか知らずか血の魔人は他の班員に助けを求めるが、マキマに引っ張られて連れて行かれた。

 

 

「マキマさんに任せるのはちょっと気が引けるが…俺たちも行くぞ」

「…はい、分かりました」

 

 

真面目なアキは、問題児共をマキマさんに押し付ける形になった事に後ろめたさがあった。

それと同時にマキマさんなら問題児などすぐに対処すると確信している。

故に荒井に呼び掛けて彼女とは違う別ルートでまわる事にした。

 

 

「……2人になりましたね」

「そうだな」

 

 

江の島水族館の玄関口前に残った2名の悪魔は、彼らを見送った後に会話を始めた。

 

 

「そろそろ私に新鮮な獲物の引き渡しをお願いします」

「は?知らんが?」

 

 

ところが、刺客の引き渡しを要求してきたプリンシに結婚の悪魔は牽制する。

 

 

「あの時と同じじゃないですか。私に差し出してもいいのでは?」

「別の奴に引き渡します。プリンシさんの手をお借りするつもりはありませんが?」

 

 

確かに銃の悪魔と契約したつもりのタクシーの運転手は確かにプリンシに差し出した。

しかし、あの時は完全な密室であり、利用価値がなかった相手だからだ。

 

 

「お相手というのは?」

「この水族館を貸し切りにする為に資金を提供させた存在です」

「ああ、あなたが生み出した分裂体ですか」

「仰る通りです」

 

 

捕獲した刺客を引き渡す存在を示した結婚の悪魔はマイクロバスの手前に戻って指を鳴らした。

すると、バスの傍に置いてあったクーラーボックスが勝手に開いて中身が飛び出した。

 

 

「……こんなところに閉じ込めやがって…!」

「でも、予想通り、刺客が居ただろう?」

「ちゃんと生贄をくれるんだろうな?」

「もちろんさ」

 

 

菊川タカミネと合流した係長は、結界に取り込んだ刺客を差し出した。

日本国籍じゃない事は一目見てすぐに分かるほどには外国人の刺客である。

 

 

「このまま喰ってもいいか?」

「ダメだ」

「パスポートも無い。日本国籍も無い。ただの捨て駒、なら喰っても構わんだろ?」

 

 

彼曰く、死んでも困らん連中なら食人しても問題ないと断言した。

定期的に罪人を喰っているのは係長に化ける結婚の悪魔も認識している。

 

 

(いや、ここでやるなよ…)

 

 

逃走していた連続幼女強姦殺人犯のペドフィリアを1か月かけて喰い殺した時は呆れたほどだ。

だが、駐車場やバスで食人されると、さすがにマキマやパワーに勘付かれる。

 

 

「ここで食べるな。東京都に戻ってからゆっくりと味わってくれ」

「ケケケケ、いいね。最高だ。もう俺の出番は終わりだと分かったからな」

 

 

これで余計な出費をしなくて済むと菊川は笑う。

彼の策に填められたと係長は実感したが、分裂した存在を叱責する気力すら無かった。

 

 

「私にもくれませんか?」

「いやだ、こいつらを踊り食いしたいからな。新鮮な獲物はいくつあってもいい」

「奇遇ですね、私も新鮮な獲物が大好きです」

 

 

残念ながら日本に入国した記録が存在せず、捨て駒として運用されたテロリストに人権はない。

ソマリア沖で暴れる海賊を武力行使で殺処分するくらいには風前の灯火であった。

だからこそデンジの奮闘で公安勢力に引き込めたレゼは特例中の特例なのだ。

 

 

(なんとか止めたいんだが、東北地方の生物を喰い尽くした自分じゃ発言できねぇ…)

 

 

人間に友好的ではあるが、あくまでも問題なく食人できるのであればそれに越した事はない。

それを止めるのが、係長の仕事であるが、それができなかった。

だって、東北地方に住む熊や鹿、猪を筆頭に鳥類や昆虫を喰い尽くして絶滅させたのだから。

 

 

(ああ、自分のせいで東北地方は不作に見舞われるんだろうな…)

 

 

たかが取り逃したレゼをぶち殺す為だけに東北地方に住む生物の7割以上を喰い殺したのだ。

今、考えても『なにやってんだ自分…』と思うほどにはイカれた行動であった。

そう考えると目の前で起こっている争いなど些細な出来事に過ぎなかった。

食人用の刺客の配分に関して意見が分かれている一方、デンジたちは大きな水槽を見つめていた。

 

 

「うわ、でけぇ動物だな」

 

 

水槽というより、ガラス張りの先の広場に居たのは、ミナミゾウアザラシの“みなぞう”だった。

去年、江の島水族館にやって来た彼は、海の動物園というコーナーで展示されている人気者だ。

本来ならここに居るはずがないが、彼の住処が清掃されている為、一時的な引っ越しをしている。

 

 

「世界にはこういった大きな生物が居るんだよ」

「マジっすか、人類めちゃくちゃヤバいじゃん…!」

 

 

ゾウやクジラの存在を知らないデンジは、マキマさんからの説明を聞いて戦慄した。

まるでこいつらが食人をする存在だと勘違いしたのだ。

 

 

「なんじゃと!?人類の敵はワシが成敗してくれるわ!」

 

 

ついでにパワーも勘違いして血を噴き出して武器を生成しようとするが…。

 

 

「…パワーちゃん」

「はい」

「私との約束、守れるよね?」

「はい」

 

 

せっかくの水族館鑑賞を台無しにされたくないマキマに声をかけられて硬直した。

 

 

「私はね、パワーちゃんがデンジ君にとってかけがいのない存在になって欲しいの。そうすればきっと双方とも良い事があると思うからね。でも勝手な真似をするなら罰しないといけないな」

「守ります。約束を守るのじゃ…」

「良かった、キミは()()()()()()()()()()()()()()()()からね」

 

 

マキマがパワーの耳元で囁いている発言を聞いたパワーは、ビクンと震えて直立不動となる。

 

 

「デンジ!!」

「どうした」

「ワシがやらかしたらウヌも連帯責任じゃ!だからデンジを差し出すから許してくれ!」

「えぇ!?」

 

 

水族館のコーナーに飾ってある水槽を眺めていたデンジはパワーに抱き寄せられた。

そして何故かマキマさんの前に引っ張られて差し出された形となった。

パワーの発言から自分も罰せられると知った彼はアホみたいな悲鳴を出した。

 

 

「デンジ君」

「なんでしょうか」

「キミにとってパワーちゃんって大切な存在かな?」

 

 

ここでマキマは、デンジにパワーをどう思っているかと質問を繰り出した。

もしも、「要らない」とか「どこかに預けて欲しい」と言えばパワーは殺処分される。

それを察したパワーは、デンジに好感度が高くなる返答を欲しいとジェスチャーを送る。

 

 

(ああああ!?ワシの事、見とらん!?)

 

 

しかし、デンジはマキマさんの顔と胸に夢中でパワーを見ていなかった。

このせいで最悪な答えが来ると察して彼女は震えた。

 

 

「えーっと居ないと寂しい存在だと思います。血抜きで居なかった時、めちゃくちゃ静かでした」

「パワーちゃんって色々問題を起こしているけど、やっぱり居ないと寂しいんだね」

「こんな奴でも俺とバディになってます。マキマさんの期待に応えられるように頑張ります」

「ふふふ、順調にパワーちゃんと仲良くなっているようで安心したよ」

 

 

だが、100点満点中89点くらいの高得点でマキマに返答してみせた。

これにはデンジに自分の価値を賭けたパワーもご満悦。

 

 

「デンジ、ワシは信じておったぞ」

「なにが?」

「ワシのミスはウヌのミスじゃ」

「何言ってんだコイツ」

 

 

ただ、せっかく好感度が高い返答をしたデンジの好感度を下げる発言をパワーは繰り出す。

 

 

「ワシが大失敗したらデンジはマキマにお仕置きされるのじゃ!」

「はぁ!?なにを……」

 

 

相方のミスは自分にも責任があるとデンジは思っている。

だが、なんでパワーのミスで自分がマキマさんにお仕置きされないといけないのかと感じた。

 

 

(あれ?これってご褒美じゃね?)

 

 

ところが、マキマさんに叱責されるのも悪くないと思った。

無意識に彼女から母性を求めている彼は、感情的になったマキマさんを見てみたいと思った。

 

 

「何かを期待しているようだけど、私がキミを怒る前に公安職員に回収されると思うよ」

「そんなー」

「人の心があるデンジ君は、私を困らせる事はしないと信じたいけど…できそう?」

「できます!できます!!ちょーできます!」

 

 

背後からパワーに抱き寄せられたデンジはマキマの前で敬礼をして彼女の発言を肯定する。

 

 

「そんなキミに使命を与えます。水族館を周って思い出作りをして後で私に感想を教えてね」

「分かりました!」

 

 

どこか厳しくも優しいマキマさんの発言は、デンジの心から魅了する。

銃の悪魔をぶっ殺したらエッチよりもマキマさんとの同居を求め始めた彼の忠誠心は揺るがない。

手を振ってデンジと別れた彼女はベンチに座ってパンフレットを眺めている姿も素敵だった。

 

 

(金髪のおっさんもマキマさんも…俺に期待してるんだ。こりゃあ応えねぇといけねぇなぁ~!)

 

 

ゾンビの悪魔とその配下に奇襲された時、デンジは夢を見る事すらできないと知って絶命した。

今までの人生はなんだったのかと感じたが、今はそんな事すら考えられない。

自分の欲望よりもマキマさんの期待を応える事を生きがいにして普通の生活を送ろうと思った。

 

 

「デンジ君、デンジ君!」

「どうした?」

 

 

マキマが居なくなった事でパワーの抱擁から解放されたデンジはレゼに声をかけられた。

 

 

「ヒトデの餌やりが始まるんだって~!一緒に見に行かない?」

「良く分からんが、行くしかねぇな!」

 

 

レゼからお誘いを受けたデンジは差し出された手を優しく掴んで引っ張られる形で誘導された。

マキマから一刻も早く離れたいパワーもデンジの後をついていく。

その様子を不敵な笑みを浮かべてマキマは見送った。

 

 

「なんだこいつ、どこが魚なんだ?」

「魚じゃないみたいだね」

 

 

水槽の中に居たのは、ヒレも尻尾もないよく分からない存在。

あえて言えば、星みたいな形をしている不思議物体であった。

 

 

「5本の腕を伸ばしている形が人の掌に似てるからヒトデって言うんだって」

「へえ、確かに俺の手と似てるな」

 

 

レゼの説明を受けたデンジは自分の掌とヒトデと呼ばれる生物と見比べた。

確かに5本指を無理やり伸ばした形が、目の前に居る生物と同じ形をしていた。

 

 

「って事は、ジャンケンで勝ちたい放題じゃん!」

 

 

要するにパーしか出せないと知ったデンジは人間様の偉大さをしみじみと感じていた。

 

 

「なんじゃ?ワシはジャンケンで1回も負けた事ないぞ?」

「じゃあ、ジャンケンするか?」

「このヒトデとやらで充分じゃ。だって、ワシに負け続けたら悔しいと思うからな」

 

 

息を吐くように嘘をつくパワーは、自分がジャンケンでは無敗だと断言する。

この時点で信憑性が皆無であるが、デンジが煽るとパワーはヒトデとジャンケンするようである。

 

 

「ジャンケン…ポン!……なにぃ!?」

 

 

目に見えた勝ちが大好きなパワーは、遥か格下であるヒトデとジャンケン勝負を挑んだ。

ところが、鑑賞しているヒトデは、餌を捕食しようと試みている。

 

 

「こやつ!グーになりおった!?」

 

 

パーの形だったヒトデは、餌を取り込もうと一時的に体を丸くしてグーの形となった。

ゆっくりとした動きだったせいで錯覚で見逃していたパワーが繰り出したのはチョキである。

ヒトデはグー、パワーはチョキ、結果はパワーの負けで終わった。

 

 

「ヒトデに負けてやんの」

「パワーちゃん、負けちゃったね」

 

 

【悲報】血の悪魔、ヒトデにジャンケンを挑んで敗北する

ネット掲示板があったらスレ立てされそうな光景にパワーは恥ずかしさのあまりか震え始めた。

 

 

「ウヌらの目は節穴か?」

「え?」

「は?」

 

 

ところが、パワーはこの勝負に異議を申し立てたいようだ。

さすがのデンジもレゼもこれは予想できずに間抜けっぽい声を出してしまった。

 

 

「実はヒトデが間抜けのフリをして人類の脅威になろうとしているのを目撃したじゃろ!?」

 

 

パワーは、水槽にへばりつくヒトデを指差して陰謀論らしき発言を始めた。

 

 

「意味分からん」

「まだ分からんか!?悪魔に続いて脅威になる存在になるのがコイツだと言っておる!!」

 

 

パワーは息をするように嘘をつくが、嘘をついた時は、ちゃんと自覚している。

しかし、放置していると自分の嘘が本当だったと再認識される。

 

 

「こんなちっぽけな奴が人間様を殺せるっていうのかぁ~?」

 

 

だからデンジは、パワーの嘘を否定して無理やり彼女を正気に戻そうとした。

 

 

「ヒトデマンは、今は無害なフリをしておるが、いつか悪魔を上回る存在になり得るのじゃ!」

 

 

だが、デンジに否定されてもパワーは諦めていないようだ。

これ以上ヒートアップしてヒトデを殺されては困るデンジは、彼女を本気で殴り倒そうとする。

 

 

「……案外、人類の脅威になりえるかもね」

「え?」

 

 

ところが、レゼが真剣な顔でデンジに語りかけた。

さすがに彼女までパワーの肩を持つとは思わなかった。

 

 

「実は、ソ連の研究で悪魔を上回る脅威が出て来るって研究があったの」

「マジで!?」

 

 

デンジの反応を見て楽しんでいるレゼは半分嘘ついている。

ヒトデが脅威になるとは思ってないが、実際にソ連は悪魔以上の脅威となる存在を認識している。

 

 

「それは人類が大した事ないと思っている存在が脅威となるって話だったんだけど…」

「よく気付いた!このヒトデマンこそが人類の脅威となるのじゃ!!」

「…ホントか~?」

 

 

無駄にレゼがパワーをお膳立てしたおかげで彼女は誇らしげにヒトデの脅威を語っている。

義務教育を受けておらず馬鹿なデンジですら明らかに話が飛躍していると認識していた。

 

 

「私、ちょっと怖くなってきちゃった」

 

 

さりげなくデンジの左手を握って怯えた素振りを見せるレゼは、更に嘘をつく。

 

 

「デンジ君は恐くないの?」

「大丈夫だ!こんなヒトデマンなんか俺の敵じゃねぇ!!」

「良く言った!ワシのバディの事はある!」

「良かった…ヒトデマンが襲って来ても大丈夫だね」

 

 

レゼから頼られてパワーから自分を肯定されたデンジは、自信満々に胸を張っている。

ヒトデが人類の脅威という話からヒトデが怖いと論点をすり替えられた事に気付かない。

それがデンジの良さでもあり悪い所でもある。

 

 

「ちなみに海外では、私たちみたいな武器人間を“Devil man(デビルマン)”って呼ぶらしいよ」

「へぇー」

 

 

海外では、武器人間をDevil man(デビルマン)と呼ぶ事が多いが、ソ連は決まった名称は無い。

分類上は、гибрида(ギブリーダ) человека(チラヴェーク) и() демона(デモーナ)(人間と悪魔のハイブリット)とされるらしい。

英語圏でもDevil(デビル) human(ヒューマン) hybrid(ハイブリット)と呼称されるので、日本の呼び名の方が可笑しいかもしれない。

 

 

(どうでもいいけどね)

 

 

だが、番号で呼ばれた自分の名をレゼと上書きされたподопытный(ポードゥイティヌイ) кролик(クローリク) (実験用ウサギ)は、自分の存在意義は、最期まで祖国に尽くす消耗品と認識されていたので何も疑う事は無かった。

 

 

(そんな事よりもデンジ君を楽しく揶揄う方が面白い)

 

 

時折見せるデンジの戸惑った顔と上目遣いは、レゼという少女を演じる工作員を誘惑させる。

彼と一緒に笑って過ごせる生活の為ならいくらでも手を汚す覚悟すらあった。

 

 

「悪魔はいろんな奴が居るようにヒトデマンもたくさんおる!まずはそいつらを探しに行くぞ!」

 

 

何故かパワーが話の主導権を握っているが、デンジはもはや気にしていない。

自分を頼りにしているレゼに良い所を見せようと奮闘している思春期の男子そのものだった。

 

 

「俺の手にかかれば、ヒトデマンなんて楽勝だぜ!」

「わー、デンジ君。頼りにしてるからねー」

「任せておけ!」

 

 

親指を突き立てて移動を促すパワーに従ってデンジは手を繋いだレゼと一緒に歩き出した。

ちょうどその時、ヒトデの展示コーナーでデンジたちと合流した結婚の悪魔は困惑する。

 

 

(なんでこいつら、ポケ〇ンのヒトデマンで熱く盛り上がってんだ…?)

 

 

事情を知らない結婚の悪魔は、何でポケ〇ンのモンスターで盛り上がっているのか分からない。

結婚以外に興味はないが、世間のブームは分析してるので流行っているゲームは知っている。

ポケ〇ンについて世間話ができる程度くらいにゲームもやり込んでいた。

 

 

「おっさん!!悪魔以外にも人間の脅威がいる事を知ったぜ!!」

「え?…ああ、居るだろうな」

 

 

デンジから「悪魔以外にも人類に脅威となり得る存在が居る」と断言された。

熊などの野生生物から自然の猛威など確かに人類の脅威となり得る存在はたくさんある。

だから話の流れは分からなかったが、デンジの発言を肯定してしまった。

 

 

「これから人類の脅威となるヒトデマンのチェックをしてくるぜ」

「は?」

 

 

なのに何故かヒトデマンの話が出て来るので結婚の悪魔の頭上には?マークが周っている。

 

 

(せめてスターミーじゃないのか?)

 

 

2つ目のジムリーダーが繰り出して来る切り札の方が脅威じゃないかと考えてしまった。

そもそも今年発売された携帯ゲームタイトルの話なのかも疑わしい。

 

 

(パワーが先導してるって事は、あいつが適当な事を言ったな?)

 

 

とりあえず、冷静に状況を分析して「ヒトデマン」と騒ぐパワーに着目する。

なにかしらの要因によってヒトデを敵視し、適当に名付けた存在だと推測した。

 

 

(ん?)

 

 

しばらくパワーと愉快な仲間たちを観察していた結婚の悪魔は、ある事に気付いた。

 

 

(ああ、そうか…)

 

 

オニヒトデの展示コーナーで大騒ぎするパワーに呼ばれたマキマが何かを言っている。

それに対してデンジが大袈裟に手を振って何かをアピールしてそれを見てレゼが笑っている。

まるでデンジにとって都合が良すぎる世界を見た結婚の悪魔は思った。

 

 

(刺客が襲来してこの空気をぶち壊してくれねぇかなー)

 

 

授業を受けている男子学生が一度は思い浮かべる光景。

学校の校舎を襲撃してくるテロリストの襲来を願うように悪魔は大惨事になる事を望んだ。

 

 

(なんでこんな時に来ねぇんだよ…)

 

 

この水族館を周る事に最終的にGOを出したのはマキマである。

その為、水族館でトラブルが発生した際の責任は全て彼女が受け持つ事になる。

だから江の島水族館に刺客が来るのを願ったが、残念ながら刺客は襲来して来なかった。

 

 

(いや、何事もなく済むならそれいいが、だったらさっきの刺客襲来はなんだったんだよ!?)

 

 

それどころかマリンランドを周っても特にトラブルらしい出来事は起きていない。

 

 

「チェンソー様はサメとイルカ、どっちが好き!?」

「もちろん、サメだ!だってカッコいいじゃん!」

「やったー!!」

 

 

せいぜいイルカに対抗心を燃やしたサメの魔人であるビームがデンジに選ばれて嬉しがった事。

 

 

「係長、イルカとサメの違いをみんなに分かる様に解説してね」

「え?」

 

 

刺客襲来を願った事を見抜いたマキマから無茶ぶりされた事くらいであった。

 

 

「サメは魚でエラ呼吸をしてますが、イルカは哺乳類で海面に出て肺呼吸をしてます」

 

 

仕方なく結婚の悪魔は、サメとイルカの違いを述べる羽目になった。

 

 

「イルカとサメの生殖法の違いについても解説をお願いします」

「いや、ここに専門のプロが居るんですから飼育員に訊きましょうよ!?」

 

 

公安対魔特異4課は、充実した水族館巡りを行なう事ができた。

 

 

「マキマさん、慰安旅行にお誘いくださりありがとうございます」

「早川君、まだ始まったばかりだよ」

「それでも、先にお礼を言いたかったんです」

「ありがとう。誘った甲斐があったよ」

 

 

水族館巡りを終えてマイクロバスに乗り込んだマキマに早川アキが感謝をしていた。

まだ始まったばかりだというのに気が早いのか、真面目なのか。

純粋にマキマを慕う彼の姿を見て結婚の悪魔は思った。

 

 

(あれ?マキマにとって都合が良い展開な世界だったりするのか?)

 

 

デンジにとって都合が良すぎる展開に反吐が出た結婚の悪魔であったが、ここで考え直した。

むしろ、マキマが自尊心と見栄と好奇心を満たす為の慰安旅行ではないかと疑ってしまった。

 

 

「はぁー。全くうるさくてゲームができないよ」

「その割には土産をたくさん買ってるな?」

 

 

真っ先にバスの座席に座った天使の悪魔は、騒動で携帯ゲーム機に集中できないと抗議する。

しかし、天使の悪魔の傍を通り掛かった荒井は、足元にある紙袋の山を指摘した。

 

 

「なんか水族館で故郷を思い出したんだ。だからお礼に買っただけだよ」

「そうか」

 

 

天使の悪魔には謎が多い。

それを詮索する気はなかった荒井ヒロカズは自分の席に座った。

 

 

(畜生!デンジの奴、羨ましいぜ!!)

 

 

座席の後方をこっそり覗いた荒井は、レゼといちゃいちゃするデンジに嫉妬した。

デンジは、レゼとお揃いのリングを買っていたのだ。

まさにラブラブカップル、無意識にハンカチを噛むほどには羨ましかった。

 

 

(負けられねぇ!!)

 

 

しかし、荒井も負けっぱなしで終わるつもりはない。

京都公安対魔1課課の天童ミチコさんとラブラブな交際をしようと試みている。

 

 

(すげぇ。荒井の考えている事が手に取るように分かる…!)

 

 

その荒井の様子をフロントミラーで確認した結婚の悪魔は、彼に1つアドバイスしてあげたい。

 

 

(相手のペースに合わせろって言ってるだろが!)

 

 

あくまでも恋愛というのは、ケースバイケース。

これが正解というのは存在しないが、女性は自分を労わってくれる存在が大好きである。

天童の意志や意見に反して暴走しそうな荒井に破局しそうな雰囲気を感じ取ってしまったのだ。

 

 

(なにやってんだろ自分……)

 

 

慰安旅行を立案し、商社や観光地と打ち合わせし、最終的にマキマにプランを確認してもらった。

何度もダメ出しされた挙句、全てマキマの功績となり、当の本人は部下全員から慕われている。

それを眺めて余計な思考をしていた結婚の悪魔は、現状を振り返って正気に戻った。

 

 

(はよ、慰安旅行終わらんかなー)

 

 

無理やり慰安旅行に召集されてしまった悪魔は、慰安旅行がすぐに終わる事を願っている。

 

 

「それでは、出発します。江ノ島水族館のスタッフに向けて手を振ってあげてください」

 

 

結婚の悪魔は、水族館スタッフに感謝するように告げてマイクロバスを発進させた。

無事に水族館での鑑賞プランを終えた一行は、次の目的地に向かう事となった。

 

 

*1
2003年12月まで開業されていた水族館。新江の島水族館の前身となる水族館

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