デンレゼが足掻く度に不幸になるケッコンの悪魔さん   作:Nera上等兵

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47話 終わりの始まり

あれほど盛り上がった江の島の慰安旅行も一日が終わろうとしていた。

本来ならばホテルを借りるのは難しかったが、なんとかなった。

 

 

(森野ホテルのおかげでなんとか2日分は確保した…)

 

 

以前、永遠の悪魔が根城にしていた森野ホテルの件で経営グループと接触していた。

なので結婚の悪魔は、森野ホテルの運営と相談した結果、関連企業を紹介された。

そして根気強くホテルの支配人と交渉してなんとか宿泊権を勝ち取ったのだ。

 

 

「うひょおおおおおお!飯だ!飯!!」

 

 

デンジは目の前に置かれている料理を見て興奮している。

彼の隣にはそれぞれパワーとアキが座っており、向かい側にレゼとマキマが座っている。

まさに豪華な夕食を味わえるのだが、結婚の悪魔は浮かない顔をしていた。

 

 

(たったこれだけで100万円もかかるのかよ……)

 

 

バイキング形式だと大惨事になると思ったのでコース形式にした。

なのに悪魔保険やら賠償保険などいろいろ署名された挙句、アホみたいな金額を請求された。

やっぱ、利権ってクソだわと思うが、人間のやり方で契約したので文句は言えない。

 

 

「海鮮料理だけでは飽きると思いまして肉料理コースを選択いたしました」

 

 

どうせパワーは野菜を喰わないし、肉が出て来ないとすぐに文句を言う。

だから魚料理とサラダを抜いた特別コースを事前に予約したというわけだ。

 

 

「ごゆっくりお過ごしください」

 

 

江の島の外にあるホテルであるが、頑張れば江の島を見渡せる場所に建っている。

むしろ露天風呂から眺める夜空は絶景と言えるが…。

 

 

「やっぱ、肉じゃ!肉!良質なタンパク質を摂取するなら肉を食べるのが一番じゃ」

 

 

予想通り、パワーは音を立てて肉を食べていた。

デンジのマナーがまだマシに見えるほどに悪魔や魔人の食べ方は汚い。

 

 

(もうどうでもいいや…)

 

 

この後に発生する大惨事を予測しながら結婚の悪魔は席を外した。

公安対魔特異4課とマキマ部長が料理を味わう中、ベランダで支配人と合流する事となった。

 

 

「急にすまないな」

「いえ、思ったより人間寄りなんですね」

「さすがにヤバい奴は連れて来れませんよ」

 

 

まさか支配人も目の前の人物が悪魔だと思っていない。

金髪の壮年男性だと思い込んで雑談をしていた。

 

 

「ところで公安の対魔課と対魔特異課って何が違うんでしょうか?」

 

 

ホテルの支配人から質問された悪魔は、対魔課と対魔特異課の違いについて質問された。

せっかくの質問なので悪魔はしっかりと返答する事にした。

 

 

「対魔課は、悪魔を対処する部署であり、特異課は試験的に悪魔を運用している部署になります」

 

 

東京で活動する対魔課は7課も存在し、悪魔の討伐や捕獲を主任務とする。

一方で特異課は、戦力の増強を狙って捕獲した悪魔の一部をデビルハンターとして運用している。

ところが、ヤクザによる襲撃事件により、対魔特異課は甚大な被害を被って4課に集約された。

 

 

「特異課に所属する悪魔は、きちんとデビルハンターとして訓練されてるんですが、やはり悪魔。人間と価値観が相容れないのでこうやってある程度、人間の価値感を教える必要があるので…」

「だから旅行に連れて行ってホテルに宿泊させていると…?」

「えぇ、同じ職員なのは変わりませんからね。国民の為に戦う道具なので手入れが必要ですよ」

 

 

道具を使い捨てにする事は簡単である。

しかし、手入れをしなければ、いざという時に道具は本領を発揮しない。

故に公安のデビルハンターとして活動する悪魔や魔人は職員として運用されている。

 

 

「意外ですな、特異課は悪魔や魔人も仲間だと認識しているものかと……」

「人間と悪魔は相容れません。線引きは、はっきりしないといけませんからね」

 

 

公安対魔特異4課もずいぶん人が減ってしまった。

代わりに補充されたガルガリやセラフィムは、まだ思考が分かりやすいから楽で良かった。

 

 

(ドミニオンとヴァーチェは処分するか返却しろって言ってるのにな……)

 

 

更に編成予定だった悪魔と魔人は、同じ悪魔目線から見ても拒絶するほどの存在だ。

癇癪で殺人をするプリンシが可愛く見えるほどに狂犬である。

 

 

「なんで悪魔って人間を殺すんでしょうね?怖がらせるだけで充分だと思うんですが…」

 

 

支配人曰く、なんで悪魔は【自分の生みの親である人類】を襲うか疑問のようだ。

人間が悪魔の名を冠する概念を恐怖する事で力を増すのであれば、殺人は悪手であるはずだった。

ちょうど悪魔の専門家が居るのでさりげなく質問してきた。

 

 

「それは悪魔によりますが、少なくとも殺人をするのは余裕がない悪魔が多いですよ」

「…余裕?」

「悪魔はとにかく自分の存在意義を示そうとします。手っ取り早い方法が殺人となるだけです」

 

 

血の悪魔が殺人しないのは、マキマに監視されているだけではない。

別に殺さなくても自分が動かなくても勝手に人間が自分に恐怖を感じてくれるからである。

ところが、コウモリやヒルなど自発的に暴れないと人類から存在そのものを怖がってくれない。

故に人を殺すと共に自分の血肉にして人間界で生き延びようとしているのだ。

 

 

「それができない悪魔は公安に保護してもらう事が多いですよ」

「なるほど、だから公安の職員は悪魔の力を行使できるんですな…」

 

 

だから、公安に協力する悪魔は大抵の場合、自力で生きていける自信がなくて保護してもらうか。

そもそも安全地帯でのんびりしたいので人間に媚びを売る悪魔しかいない。

 

 

「特異課は、その中で戦闘ができて意思疎通できる悪魔や魔人を職員として運用しています」

「……信じていいんですか?」

「少なくとも国家が認めた事です。上の考えが変わらない限り、我々は出来る事をするだけですよ」

 

 

やはり、人間とは相容れないと結婚の悪魔は思ってしまう。

こうやって民間人と交流する事自体が苦痛でしょうがない。

支配人の発言が全て自分を煽っているのかと考えてしまった。

 

 

(邪魔なんだよ…お前…)

 

 

ベランダで支配人と語り合いながら刺客の警戒をするのは本当に面倒だった。

だが、自分たちを泊める判断をしてくれた以上、無碍に扱う事もできない。

だからこそ、さっさと雑談が終わらないのかと内心ではめちゃくちゃイライラしている。

 

 

「すげぇ喰ったな……」

「残すのは勿体ないしね」

 

 

支配人と結婚の悪魔が雑談をしている間に肉料理コースの提供が終わった。

残飯処理班と化した天使の悪魔の食べっぷりは誰もが驚いたものだ。

 

 

「よし、これから自由時間だけどちゃんと約束は守ってね」

 

 

これから入浴をするマキマは、部下たちに約束を強く意識させて席から立ち上がった。

 

 

「お供します」

 

 

蜘蛛の悪魔もマキマの後に続いて退室をした。

 

 

「なんか、思ったより旅行っていろいろやる事があって大変だな…」

 

 

デビルハンターとして過酷な人生を送って来たデンジは、今回の旅行の感想を簡潔に述べた。

 

 

「旅行っていうのは計画する時が一番楽しいもんだぞ」

「へぇー」

 

 

それを横で聴いた早川アキは、デンジにアドバイスをする。

 

 

「でも、こうやって誰かと楽しさを共有するっていうのが一番良いと思うぞ」

「そんなもんか?」

 

 

今までの人生が壮絶過ぎて可笑しくなっているデンジは、アキパイセンの発言が心に響かない。

マキマさんとの旅行は楽しかったはずなのに…何故か時間が過ぎ去ると寂しい感じがした。

 

 

「人間と悪魔、それ以外の違いを知ってるか?」

「知らねぇよそんな事…」

 

 

突然、先輩から言われてもデンジは返答しようがなかった。

パワーがレゼの右腕に噛みついて血を啜っている姿を眺めつつ欠伸をした。

 

 

「人間と悪魔はな、思考や思念を共有できるんだ」

「だから?」

「今日の料理はめちゃくちゃ美味しかっただろ?」

「そりゃあ、美味かったな」

 

 

係長からデンジの欠点を聞いているアキは、デンジの為を想って発言しているのだ。

 

 

「悪魔も同じさ。パワーも天使の悪魔も文句は言わなかっただろ?」

「そうだな」

「だから、幸せになりたいなら誰かと一緒に行動して考えを共有して楽しむのが一番さ」

 

 

早川アキのアドバイス自体はデンジの心には響いていない。

 

 

(マキマさんと一緒に過ごせるだけで充分なのか?)

 

 

ただ、憧れの女上司と一緒に居る事だけで幸せなのかと一瞬だけ考えてしまった。

 

 

「そうだよデンジ君。いろんな物を失うばかりだった私からすれば、足るを知るべきだよ」

「たるをしる?」

 

 

同じくデンジの欠点を聞かされているレゼも彼のサポートをするようにアドバイスをした。

 

 

「例えば、欲しい物があるからお金を払って買うとするじゃん」

「ああ」

「でもまた欲しい物を買い続けるとお金が無くなるよね?だから我慢が必要だと思うよ」

「確かに……」

 

 

ヤクザの下でデビルハンターをしていたデンジは、所持金の少なさでいろんな物を我慢した。

確かに不幸せな生活であったが、逆にいつか食べてみたいと思ったりして希望を失わなかった。

だが、今はなんとなく手に入るせいで逆にありがたみが消えていた。

 

 

「だから一緒に思い出を作ろうよ~。写真も撮ればいつでも振り返れるよ」

 

 

カメラを持ってパワーの席に座り直したレゼは、デンジと向き合う。

 

 

(汚れ仕事は私だけで充分だよ)

 

 

既にレゼは江の島で刺客の襲撃を受けたと情報共有をされていた。

しかし、早川アキを筆頭に大半の職員には情報共有されなかったのに衝撃を受けた。

 

 

『ちょうどいいじゃないか。お前の真価を発揮する場面だぞ』

『分かってる』

 

 

対魔特異4課の係長から自分の使命を改めて教えられたレゼは、デンジを守ると決意している。

情報が伏せられているのは自分の動きを監視する為と彼女は自覚した。

 

 

「あー喉乾いちゃったなー」

「ってオイ!?それ、俺のジュースだぞ!?」

「別に良いでしょ」

「良くねぇよ!?」

 

 

しれっとデンジが残したジュースを飲み干したレゼは彼を抱き寄せる。

 

 

「デンジ君の夢は知らないけどね。私も協力するよ」

「え!?」

 

 

ここでデンジは焦る。

銃の悪魔をぶっ殺してマキマさんに願いを叶えてもらうのが夢である。

不純な動機から成り立つ夢なのでレゼに手伝ってもらう事に躊躇したのだ。

 

 

「あれ~?もしかして私に内緒なの?」

「きゅ、急に言われても…」

「私はキミと同じ様に何度も死んでも蘇るよ。だから誰かの為に尽くしたい思っただけ」

 

 

レゼとしては、自分を思春期の女の子に戻してくれた男の子の傍に居たかった。

既に酷使されるのは確定しているが、それでも彼だけは少しでも人間として日常を送って欲しい。

 

 

「えーレゼが死ぬとやだな…」

「私もキミが死ぬ度に嫌になるなー」

 

 

話題の論点を逸らすのもレゼの得意技である。

自分が死ぬと発言した事により女の子が死ぬのが嫌がるデンジはそれを拒絶した。

 

 

「じゃあ、一緒に寝ない?」

「え!?」

 

 

ここで無意識に異性を意識させるのもレゼの得意技だ。

 

 

「おい!泊まる部屋は決まっているし、女の子の部屋に行っちゃダメって…!?」

「男子が女子の部屋に行くのは禁止だけど、女子が男子の部屋に行っちゃダメとは書いてないよ」

 

 

顔を真っ赤にしたデンジはしおりを開いて注意事項を指で示してアピールをしている。

そんな彼を正論っぽい理屈で無理やりレゼは説き伏せた。

 

 

「確かにデンジの部屋で枕投げ大会するのもいいかもしれんのう!」

 

 

レゼの血を吸って満足していた血の魔人も彼女の意見を肯定した。

これにより、デンジとアキの部屋に女性2名が侵入してくるのが確定した。

 

 

「お前らな……」

 

 

それを横で聴いていた早川アキは本気で呆れていた。

 

 

「就寝時間までは遊んでいいが、時間になったら元の部屋に戻れよ」

「パイセン!?そこは叱ってくれよ!?」

「は?ラウンジで遊ばれるより目が届く所に居た方が良いだろ?」

 

 

アキとしては、パワーとレゼが自分の監視できる場所に居てくれた方が助かった。

まさかの裏切りにデンジも本気で焦った。

 

 

「4人で枕投げ大会するってどうじゃ?」

「面白そう!景品はどうする?」

 

 

レゼとパワーが枕投げで盛り上がっている中、デンジの心境はぐちゃぐちゃである。

 

 

(なんかみんなに迷惑をかけちまっている気がする……)

 

 

心のモヤモヤは少し晴れた気がするが、逆にみんなから気を遣われた気がした。

どんどん自分が可笑しくなっているとデンジは自覚しているが何の事はない。

思春期を迎えた青年が悩まない事はないのだ。

 

 

(俺、変になっちまった…)

 

 

ただ、他者との関わりが少なかった彼の精神年齢が育っていない事を彼だけ気付いていないだけ。

パワーですらそれに気づいているのだから余計に変に悩む事になった。

 

 

「あー疲れた……」

 

 

ここでやっと支配人から解放された係長が室内に入って来た。

 

 

「すみません、ご相談したい事があります」

「あっ……」

 

 

とりあえず迷ったら、金髪のおっさんに相談するのが癖になっているデンジだったが…。

レゼに先手を打たれてしまい、黙り込んでしまった。

 

 

「分かった。ここじゃなんだからラウンジまで来てくれ」

「わかりましたー」

 

 

金髪のおっさんとレゼを見送ったデンジは、近くに寄って来たパワーの顔を見る。

 

 

「なあ」

「なんじゃ?」

「お前って幸せか?」

「血をたくさん吸えて幸せじゃ」

 

 

ここで自分の悩みが大した事ない気がした。

少なくとも唇を血で汚している間抜け面の魔人を見てそう思った。

 

 

「なんじゃ?ワシが美少女過ぎて惚れたか?」

「いや、全然。全く惚れねぇな…」

「なんじゃと!?」

 

 

ここでパワーは自分の美貌を利用して煽るが、デンジの心には響かない。

だって頬に角が突き刺してくる奴なんか好きになれるわけがない。

2人は仲良く喧嘩してすぐにアキに拳で殴られる事となった。

 

 

「ここでお前が相談してくるとは珍しい」

 

 

ラウンジにやって来た結婚の悪魔は、紙コップを手に取って麦茶を入れた。

そして近くにあった席に座ると丸い机と向かい側にレゼが座った。

 

 

「……デンジ絡みか?」

「そうだよ」

 

 

中間管理職として部下の相談を受けている悪魔からすれば、すぐに見抜ける問題である。

どうせ、デンジの事だと思って質問をしてみると正解であった。

 

 

「別にすぐにデンジを変える必要はない。ゆっくり変えていけばいい事だろ?」

「それじゃあ、ダメだと思うの」

 

 

人間には致命的な欠点が付き物である。

だからそれを正そうとするのは良い事であるが、早急な対応は逆に彼を悪化させる。

 

 

「妻を救う為に借金した挙句に死なせた結果、自暴自棄になった父親にそっくりだと思うがな」

 

 

デンジがここまで転落人生を送ったきっかけは、ヤクザから借りた借金のせいだ。

しかし、元を辿れば、デンジの母は先天性心疾患があり、デンジにも遺伝していたのが元凶だ。

 

 

(情報を確認する限り、デンジの根本的にあるのは父親似の欲望だな)

 

 

デンジの借金を調査するにあたって結婚の悪魔はしっかりと人間関係を調べた。

その際に両親との関係を調査した悪魔は、面白い事を発見した。

 

 

「違う!デンジ君はクズじゃない!」

「違わないさ、あの親父もデンジも愛情を欲している。いや、母性というべきかな」

 

 

近隣の住民に聞き込み調査した結果、デンジの両親はラブラブの関係だったそうだ。

だから母親似のデンジを両親はたっぷりと愛情を注いでいた。

あの日までは…。

 

 

「前にも言ったはずだ、デンジの母親は心臓病が原因で亡くなったわけじゃない」

「……でも、デンジ君は父親が残した借金で今まで苦労した。それは事実でしょ?」

「まあな」

 

 

デンジの母親は自殺したのだ。

自分の子に先天性心疾患が遺伝したのを知って治療費を息子に渡して欲しいと…。

しかし、その行動はデンジの父にとって裏切りどころの騒ぎじゃなかった。

 

 

「でも、そのおかげでデビルハンターとなり、今がある。そしてお前とも出会った」

「それは……」

「別に責めているわけじゃない。急激な変化は彼にとって良くないって言っているんだ」

 

 

それからというのもの、愛情が反転した父親はデンジを育児放棄した。

幸いにも4歳という年齢と体格が功を奏して何とかデンジは自力で生き残れる事ができた。

 

 

(まあ、分からんでもない)

 

 

近所から愛妻家と知られた彼は、妻が息子の為に死んだと知って絶望した。

必死に仕事をしていたツケもあり、そのまま体調を崩し、心労から酒に逃げてしまった。

 

 

(不幸は更なる不幸を呼び込むものだからな)

 

 

ここまではよくある出来事かもしれないが、新たに借金した闇金が悪かった。

悪魔から見てもドン引きする高金利のせいで更に状況が悪化した。

 

 

「せっかくデンジは、あのマキマに母性を感じているんだ。利用しない手はないだろ?」

 

 

幼少期の子供にとって両親というのは、神のような存在だ。

そこから保育士やら祖父母が関わって来て…子供が見る世界が少しずつ広がっていく。

 

 

(裏を返せば、父親が信用できずに父性を一切得られなくなったガキとも言えるが…)

 

 

だが、デンジは父親だけで対人関係が終わってしまい、彼から見える世界が成長しなかった。

だからこそ、無意識にデンジは得られなかった母性を求めているのだ。

 

 

(なによりデンジは……)

 

 

ここまでは“結婚の契約”をしている事もあり、レゼにはちゃんと内情を話してある。

だが、その続きに関してはマキマ以外には報告していない。

 

 

(父親を殺している…)

 

 

まだ物心がついていないデンジは、身の危険を感じた際に愛よりも暴力を選んだ。

もしかしたら父親の行動を真似したかもしれないが、本人に訊けないので真相は謎のままだ。

そのせいか、デンジは愛情を求めているのに暴力や過酷な環境を好むという矛盾を抱えている。

 

 

(父親が遺した呪いが大きいな……)

 

 

主治医に聞き込みをしてデンジの母親の死因を知った結婚の悪魔は、父親にも疑いの目を向けた。

調査した結果、父親が自殺ではないと知った悪魔は、マキマ以外に情報を伏せる事にした。

あくまでも当時の主任務は、デンジの借金をチャラにする事だったからだ。

 

 

(デンジが不幸になること自体は問題ないんだが…)

 

 

父親の愛が反転して生まれた呪いを味わったせいでデンジの心がどこか狂ったと推測はした。

だが、結婚の悪魔は、デンジには不幸になって欲しいと思ってるので正直どうでも良かった。

マキマに調査結果をまとめたレポートを提出してデンジの過去は一件落着として済ませた。

 

 

(レゼを利用するのは悪くないな…!)

 

 

それよりも、デンジの欲望をある程度は叶える事ができるレゼに着目している。

 

 

「別に分かり切った事を相談しに来たわけじゃないだろ?」

 

 

レゼをうまく利用する事によってデンジの行動や思考を操作する事ができる。

所謂、絶好のおもちゃがあるので結婚の悪魔は、頼れる上司を振舞って相談を受けているのだ。

 

 

(どうせデンジの為に全てを捧げたいとか言い出すんだろうなー)

 

 

デンジの事が大好きなのは分かり切っていた。

なので紙コップに注いだ麦茶を啜って彼女の返答を待つ。

 

 

「今夜、デンジ君とエッチしたいと思って相談しにきたの」

「ぶふううううううっ!?」

 

 

予想外だったレゼの発言を聞いた結婚の悪魔は、思わず口から麦茶を噴き出した。

 

 

「ゴホゴホゴホ…」

「やっぱりダメか…」

 

 

丸い机を濡らしたどころか気道にまで麦茶が侵入してしまい、無駄に咽る羽目になった。

それを見たレゼは諦めたようだが、悪魔はそれどころじゃない!

 

 

(デンジといい、お前といい!!無敵ギミックをスルーして殺しにかかりやがって!!)

 

 

またしても窒息で死にかけた結婚の悪魔は、両手の指を組んで遊んでいるレゼを睨む。

 

 

「エッチだけが愛情だと思ってるのか?」

「男の子にとっては分かりやすい愛だと思うけど?」

「却下だ、却下。もっとマシな相談かと思った」

「ケチケチケチ」

 

 

男女の愛は、エッチだけではない。

例えば、お互いの感性を共有する事も愛を育むのに必要である。

一緒に楽しむ事でお互いを知ると同時に家族愛を手に入れる事ができるのだ。

だからてっきり、早川家に関連する相談課と思ったらとんでもない爆弾をぶち込んできた。

 

 

「それにエッチなんかしたら江の島旅行の思い出が台無しになるだろうが」

「でも、楽しい思い出になると思うよ」

Эротика (エロティカ) кролик(クローリク)!!(エロウサギ!!)」

Верно(ヴェールナ)(そうだよ)」

 

 

デンジの欲望を満たす為の道具になり果てたレゼは係長の罵倒を素直に受け入れた。

実際、ポチタと一緒に過ごす夢以外の夢に関しては、彼女で何とかなる問題ばかりである。

 

 

(ああ、マキマがこいつを引き離すしたいと思った気持ちが理解できるな…!)

 

 

レゼの役割は、いざという時に命を捧げて血肉を魔人や悪魔に捧げる用途が一番大きい。

死んでも復活するという特性上、使い捨ての駒として運用するのはソ連と同じだった。

 

 

(やっぱ、どっかで異動させるか…!)

 

 

ソ連と決定的な違いとしては、早川家に編入させて疑似家族関係になっているという点だ。

ただし、これはあくまでデンジをコントロールする為の飴に過ぎない。

飴の自覚がなくなって鞭が必要になるのであれば、用済みであった。

 

 

「なんでそんなにデンジに執着する?別に一緒の待遇だった男の子程度の認識で充分だろ?」

「だって…」

「だって?」

 

 

どうせ、同じ不死身な存在で国家に飼われる存在だから気になったとでも言うのだろう。

…と一瞬だけ考えた結婚の悪魔は、さきほどの轍を踏む事はない。

 

 

(どうせデンジに一目惚れ…いやエッチしたいからとでも言うんだろうな…)

 

 

既に学習した悪魔に隙は無い。

だが、レゼの返答は予想の斜め上を行く事となった。

 

 

「初めて女性にチンチンを見せたと言ってくれたから…」

「……は?それだけか?」

「初めてチンチンを見せてくれたならエッチもしてあげないとダメかと思って…」

「チンチン見ただけでマウント取る女、初めて見た…」

 

 

どうやらデンジのチンチンを見た事でレゼは責任を取ろうとしたようである。

結婚の悪魔は、その情報を聞いて更に頭を悩ます結果になった。

 

 

(意味分からん。本気で意味分からん…!)

 

 

野郎が女子の下着姿や全裸を見たと男友達にマウント取るのは分かる。

話の流れから仲良くなった女子とエッチしたと分かるから。

だが、チンチンを見ただけでマウント取る女は初めての経験で…どう反応すればいいか困った。

 

 

(乳母や母親に面と向かってそれを言えるのかよ!?)

 

 

チンチンを見ただけで威張れるなら、世界中の母親や乳母、看護婦がマウント取り放題になる。

 

 

(せめて年収とか性格とか言えよ!?別にデンジでもよくねぇ?…みたいになるだろうが!)

 

 

しかも、その発言だと別にデンジの必要性がない。

100歩譲って自分と同じ兵器の待遇に同情したから慰めるって言ってくれた方が助かった。

 

 

「真面目に言ってんのか!?」

「真面目に悩んだから相談に来てるんですけどー!」

 

 

上司が相談に乗ってくれないと理解したレゼは勝手に不貞腐れた。

40代()()の婚活相談に乗った事がある結婚の悪魔ですら本気で頭が痛い問題となる。

 

 

「デンジがマキマに向ける感情に悪影響が出るからダメだ」

「へーそうなんだー」

「ただし、エッチに手を出さなければ同じベッドでデンジと一緒に寝てもいい」

 

 

あくまでもマキマに求めている母性に悪影響を与えなければいいのだ。

少なくともマキマでは叶えられない夢は、レゼなら叶える事ができるのだから。

 

 

「なんで?エッチは禁止じゃなかったの?」

「添い寝くらいは良いって事だよ!同衾と勘違いするな!」

「じゃあ…」

「絶対に朝方は自分の部屋に居ろよ。さすがにそれは自分でもどうしようもないからな」

「ありがとう…!これで枕投げ大会が延長できる…!」

「本音はそれか…」

 

 

これでデンジとアキの宿泊部屋にレゼとパワーが泊まる事になる。

さすがに早川家の当主が居る限り、致命的な間違いは発生しないだろう。

そう確信した悪魔が男部屋の宿泊許可を出すとレゼはすぐに立ち上がってその場を立ち去った。

 

 

(なーにやってんだか……)

 

 

またしても致命的なミスを犯したかもしれないと結婚の悪魔は確信した。

これから枕投げ大会が開幕するが、さすがに窓や備品が壊れるとは思いたくない。

 

 

(まあ、これが最後の休息になるからな…)

 

 

翌日のプランを遂行すれば、二度とデンジたちはまともな生活が送れないと分かっている。

だからこそ平穏な日常を味わえる江の島旅行で楽しんでもらったのだ。

 

 

(……マキマも酷い事をするもんだ)

 

 

今夜、枕投げ大会を楽しむ早川家だが、今日をもって幸せな時間はピークとなる。

江の島旅行の2日目から疑似家族の幸せが坂道を転がり落ちる様に転落する事となる。

 

 

(これがデンジにとって一番幸せな時間になるなんてな…)

 

 

そして結婚の悪魔が予想した通り、デンジの幸せは今日がピークを迎えた。

明日から彼の転落人生が始まり、そして二度と今日ほどの幸せは得られなくなった。

 

 

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