デンレゼが足掻く度に不幸になるケッコンの悪魔さん   作:Nera上等兵

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48話 それでは、空の旅をお楽しみくださいませ

マキマの提案で江の島旅行をする事になった。

そのせいで結婚の悪魔は、彼女の命令で江の島旅行の立案をする羽目になった。

 

 

(とりあえず、マキマが喜ぶ旅行なら満足してくれるだろう)

 

 

まずは、彼女が普段の生活で味わえない癒しと食欲、そして達成感を満たすのを目的と考えた。

 

 

(マキマの求めている物が分からん…)

 

 

早川家を誘ったのは、意図があるのは分かるが、何をしたいのかさっぱり分からなかった。

そこで、高嶺の花となっていたマキマを一般女性として振舞えるように意識した。

旅行中は、あくまで早川家と対等に近い存在として認識できるように仕組んだのだ。

 

 

(世界中から畏怖される存在から旅行を純粋に楽しめる女性にしてみせた)

 

 

水族館や植物園といった観光スポットでは、マキマが主導して周る事はさせなかった。

あくまで誰かと一緒に周って楽しんでもらい、感想や気持ちを他者と共有させる事にした。

 

 

(ここまでが初日の目的だった)

 

 

江の島旅行の初日は、世界から恐れられるマキマを一般女性として振舞える世界を味わせた。

これにより、マキマはいつもよりも素を見せる振舞いをしてデンジたちに惚れられた。

それを間近で確認した結婚の悪魔は、初日の旅行は成功したと実感している。

 

 

(2日目のテーマは、マキマが様々な物を与えられて自己肯定感を満たせるように仕向ける)

 

 

今までマキマは、何かしらの命令や仕事を誰かに与える存在であった。

そこで今回の旅行では、誰かから与えられる立場にする事にした。

 

 

(与える立場から与えられる立場に…それこそ気分転換にぴったりになるように…と!)

 

 

必死に活動記録と今日の計画をノートに記す結婚の悪魔は、時計を見て朝食が近いと実感する。

ノートを閉じて受話器を手に取って従業員に宿泊客のモーニングコールをお願いする事にした。

 

 

(危なかった…)

 

 

モーニングコールの際に部屋に居なかったら従業員が警察に通報する手筈となっている。

 

 

(私たちのせいで大騒動になるところだった…!)

 

 

深夜まで枕投げ大会を楽しんだレゼは、そのままデンジとアキの部屋で寝落ちしてしまった。

早朝に目覚めた彼女は、パワーを背負って慌てて寝泊りするはずだった部屋に戻った。

間一髪、ホテルの従業員によるモーニングコールに対応する事ができたのであった。

そして待ちに待った朝食を一同が味わう事となった。

 

 

「デンジ、実は言ってなかったがワシ、江の島に別荘があるのじゃ」

「すげぇなー」

 

 

朝食を味わっているパワーは息を吐くように嘘をつく。

だが、デンジからすれば、日常の事なので特に気にする事は無かった。

 

 

「へぇ、パワーちゃん。私に内緒で隠れ家を用意してたんだ。私に案内してくれるかな?」

「うげ!?」

 

 

ただ、安易な嘘をついたせいでマキマに詰め寄られたパワーは全身が汗だくになる。

ガタガタと震えており、その様子を他人事で見るのはデンジとしては楽しかった。

その後は、相変わらず口うるさいアキパイセンの提言を聞き流しつつラジオ体操を行なった。

 

 

(今日は昨日よりもすげぇ思い出を作ってやるぜぇ~)

 

 

デンジとレゼは、カメラを持参して江の島旅行で撮影を行なっている。

旅行が終わった後、金髪のおっさんにカメラを渡して現像してもらうのだ。

何枚かは検閲で戻って来ないと実感するが、それでも大切な思い出を手元に残せるのは大きい。

 

 

「デンジ君は、どんな写真を撮ったの?」

「いつ見返しても笑顔になりそうな写真を撮った」

「むむむ、なんか負けた気がする!」

 

 

同じく撮影をしているレゼから質問されたデンジは、自分の撮りたい写真を撮ったと返答した。

 

 

(やべぇ……レゼのふともも、めっちゃエロ!?)

 

 

返答を聞いたレゼは、悔しがった振る舞いをするが、デンジはそれどころじゃない!

それよりも肌見せトップスとミニスカートを履いたレゼがエロくてしょうがなかった!

下は白色のハイソックスとスニーカーというちょっと物足りないコーデが逆に興味をそそる。

なんなら全裸で溺死していた彼女に自分のYシャツを被せた時よりもエロいまである。

 

 

「デンジ君、フィルムカメラの残り枚数は大丈夫そう?」

「大丈夫ですぅ!ちゃんと新しいカメラにしたんで!」

「それなら問題なさそうだね」

 

 

それではまずいとマキマさんをみると…なんと彼女が自分の元にやって来た。

しかも、自分に気を遣ってくれる手間までかけてくれた優しさに彼は嬉しがる!

新たに支給されたフィルムカメラを見せて報告すると彼女は笑ってその場から去った。

 

 

(今日もマキマさんはきれいだなァ~~!)

 

 

マウンテンパーカーを羽織り、できるだけ肌の露出を抑えるマキマは、レゼと対照的だった。

レゼが少しエロさをアピールしているならば、彼女はむしろエロさを控えている。

いつもの彼女は、Yシャツとスラックスを履く影響でおっぱいとお尻が強調されているのだ。

あまりのエロさにデンジは直視できない時があるので、むしろ初めて彼女を直視できたまである。

 

 

(めっちゃ良い匂いした!)

 

 

なにより、彼女の残り香がデンジの鼻を優しく刺激する。

比較してはいけないと思ってしまうが、レゼとは違った魅力と香りは彼の全てを満たすようだ。

 

 

(パワーは…どうでもいいか)

 

 

ちょっとしたエロさを表現するレゼとスポーティコーデで新たな自分を見せつけたマキマさん。

そんな中、いつもの服装を身に纏うパワーに特に欲情するという事は無かった。

色んな意味で本性を知り尽くした妹に欲情する実兄なんか居る訳ないだろ理論である。

 

 

(今日も江の島旅行を楽しんでやるぜェ~!)

 

 

本日も旅行が愉しみなデンジは、さっさと朝食を食べ終えて窓を眺める。

ただの窓から見える朝の景色は自分を祝福しているようだった。

 

 

(…なんて考えているんだろうな)

 

 

読心術はないものの、単純なデンジの性格から結婚の悪魔は彼の思考を予想した。

全てが新鮮であり、少しスリルがある状況は彼の好奇心を搔き立てているようだ。

 

 

(はぁ……)

 

 

本日の計画は、本来ならば特に問題なく江の島を周る予定だった。

だが、マキマが唐突に捻じ込んだ計画がとんでもないので何かが起こると確信している。

何かあれば、自分の責任になると実感する悪魔の頭痛が収まる事は無かった。

 

 

「はいチーズ!」

 

 

ホテルで朝食を終えた一行は、ホテルの看板前で記念撮影を行なった。

後世にて私生活のマキマを映した貴重な写真と評価されるが、当事者たちは価値に気付かない。

マキマ本人も旅行で羽目を外したのか隙だらけになっていたようだ。

 

 

「次は、遊覧船に乗ります」

 

 

ホテルをチェックアウトした一行は、弁天橋に向かう事となった。

遊覧船で江の島の絶景を眺める事を計画した結婚の悪魔はきちんと天気予報を聞いていた。

本日は快晴で、風も穏やかなので予定通り、乗船しても問題ないと判断した。

 

 

「なんでこれを飲まないといけないのじゃ!」

「そうだ!そうだ!」

 

 

船に乗る前に酔い止めを飲む事になったパワーは騒ぎ立てる!

デンジも薬が嫌いなのか彼女に同調していた。

 

 

「飲んだら100円やるぞ」

「やる!」

「なら仕方ねぇな」

 

 

早川アキが見せつけた100円硬貨と発言によって彼らは酔い止めをしっかりと舐めた。

早川家の主としての貫禄をしっかりと見せつけた形となる。

 

 

「やっぱり、早川君に任せて正解だったよ」

「いえ、俺は当然の事をしたまでです!」

 

 

マキマからの高評価を稼いだアキは、謙虚な態度で彼女と接する。

もちろん、これには裏がある。

 

 

(こうやって好感度を稼いでおかないとな)

 

 

マキマに酔い止めを渡してそこから早川アキに渡る様に結婚の悪魔は仕組んだ。

これにより、マキマの気遣いに彼は本気で感動し、更なる忠誠心を誓う事となった。

 

 

(なんか気に喰わねぇけど…)

 

 

きちんと計画を立てた悪魔の功績は、全てマキマに奪われる事となっていた。

しかし、彼女が旅行を発案した上に純粋に楽しまれているので文句が言えない。

それでも本性を現した彼女を知る結婚の悪魔からすれば、飴にしては優し過ぎると実感した。

 

 

「……本当に大丈夫なんでしょうね?」

 

 

遊覧船の船長に念を押された悪魔は無言で頭を縦に振る。

ついでに海上保安庁の船が2隻護衛に出るという書類も見せた。

 

 

(海から狙撃されないといいのだが…)

 

 

海上から江の島を眺めるツアーだが、逆に危険が孕んでいる。

狙撃手からすれば、絶好の獲物となるのでいくつか手を打ったが、それでも警戒はしている。

 

 

(なんでこんな事までしないといけないんだ……)

 

 

結婚の悪魔は、マキマの護衛という立場なので彼女が少し怪我しただけで酷い目に遭う。

 

 

「あまりを身を乗り出さないでください」

「別に落ちる訳じゃないから平気だよ」

「護衛の身になってください」

「はいはい、自重しますよ」

 

 

面倒なやり取りを全て係長に押し付けたマキマは、忠告に従って身を正す。

やたらとうるさい公安上層部や内閣府の小言から解放された彼女は本気で旅行を楽しんでいた。

そのせいでどこかポンコツに見えるマキマの魅力は、野郎共に輝いて見えた事だろう。

 

 

(…はぁ)

 

 

ライフジャケットを全員に着させて点呼を取り、船長や関係者に挨拶をする。

人類を恐怖をどん底に突き落とす事を使命にする悪魔がやる事では無かった。

 

 

「出発進行なのじゃ!」

 

 

パワーの掛け声と共に遊覧船は、江の島岩屋に近い稚児ヶ淵に向かって進んで行く。

道中で出会った名も分からない鳥を見てはしゃぐ一行は、純粋に船旅を楽しんでくれた。

 

 

(デルタポイントも問題なしと…)

 

 

因幡から借りた白狼が発する合図を元に結婚の悪魔は島内の安全を調査している。

これによって旅行の計画が変更となり、臨機応変に対応する事となる。

要するに行き当たりばったりになるので事前に安全か調査する羽目になっていた。

 

 

「ここから漁船に乗り換えます」

 

 

本来であれば、船着場から歩いて稚児ヶ淵に向かうが、今回は違った。

神奈川県知事と藤沢市長と農林水産省に何度も頭を下げて釣り船をチャーターした。

 

 

「今日の昼飯を釣るぞ!!」

 

 

理由は単純明快。

江の島近海で獲れる魚介類を釣って本日の昼飯とするのだ。

釣りのやり方をレクチャーされたデンジは胸を張ってマキマさんと向き合う。

 

 

「必ず釣ってマキマさんに魚を提供しますぅ!」

「頑張ってね」

「はい!!」

 

 

デンジの次の夢が決まった。

自分が釣った魚を調理してもらい、マキマさんに食べてもらう事である。

ポチタに夢を見せる契約をしている彼はきっとそれをやり遂げてみせるだろう。

 

 

「ビーム、俺に恥かかせんなよ!」

「はーい!!」

 

 

サメの魔人からすれば、泳いで直接獲った方が速いと思っている。

しかし、チェンソー様の傍で一緒に釣りをする事を選び、デンジの問いかけに返答した。

 

 

「オウオウ、さっさと釣ってしまえ。ワシの腹が満足するかは、ウヌらの結果で変わるからの!」

 

 

クーラーボックスの上に座ったパワーは偉そうに命令した後にレゼの血を啜っていた。

いざという時に吸血用のタンクとなっていたレゼに拒否権がない。

そのせいか、血の魔人に血を吸われ過ぎて緑色の瞳から光が消えて貧血状態になっていた。

 

 

「「何やってんだテメェー!?」」

「ぶふうう!?」

 

 

すかさず、デンジに素手で殴られるわ、結婚の悪魔にトンファーバトンで殴打されるわ。

鮮血を噴き出したパワーは、生える予定だった赤い角の代わりにタンコブを作る事となった。

 

 

「輸血パックで血を補給しておけ」

「分かりました…」

 

 

レゼに輸血パックを3つ渡した結婚の悪魔だったが、これは後に別の事で活かされる事となった。

それはともかく相模湾での釣りを楽しむ一行だったが…。

 

 

「よっしゃああ!!」

「また釣れましたね」

 

 

何故か荒井ヒロカズと蜘蛛の悪魔が釣り上げた魚が全体の7割を占める成果を示した。

今まで空気みたいだったからってここで存在感を示すようで結婚の悪魔は気に入らない。

 

 

「生で喰うとまずいね」

「さっき調理するって言ったよな?なんで生で喰った?」

「お腹空いたから」

 

 

しかも、天使の悪魔がちょこちょこ釣れた魚を食べてしまうのも問題だった。

さすがに自分の釣った魚しか食べなかったが、どこか不満気である。

 

 

「……あれは食べていいの?」

「悪魔が悪魔を食べるのか?」

 

 

とりあえず、結婚の悪魔が発言しようとすると彼の様子が可笑しい。

何事かと思ったら先に天使の悪魔が示した。

彼が指差した先には、クジラの悪魔がこちらに向かって来るのが見えた。

 

 

「別に食べてもいいけど…」

「まずいの分かってて言ってないか?」

「調味料は?」

「あるわけないだろ!」

 

 

結婚の悪魔と天使の悪魔は相性が悪い。

天使の悪魔が繰り出す天然ボケには何度も振り回された苦い経験を思い出す。

 

 

「デンジ、悪魔だ」

「マジで?」

「ビームと一緒に討伐して来い」

 

 

マダイ1匹しか釣れなかったデンジは、結婚の悪魔の命令で悪魔討伐する事となった。

同じくマダイ1匹しか釣れていないビームも同行させる事で存在感をアピールする。

 

 

(オーストラリアの刺客か…)

 

 

全長40m級という悪魔にしては、巨大な存在は目撃者を圧巻させる…はずだった。

だが、全長75km級や30km級のムカデを目撃している一行からすれば雑魚にしか見えなかった。

 

 

「ヒャッハー!!血だァ!!」

「ウーイィ!!」

 

 

ライフジャケットを纏うチェンソーマンがクジラの悪魔の肉体を切り裂いていく!

クジラの悪魔も負けじと攻撃を仕掛けて来るが、サメの悪魔になったビームの敵ではない。

 

 

(ん?)

 

 

そう思っていた結婚の悪魔だったが、悪魔の目的がデンジでなく漁船だと気付いた。

 

 

「あ、あの大丈夫なんでしょうね!?」

 

 

漁船の船長が責任者である結婚の悪魔に呼び掛けるが、悪魔からすればどうでも良かった。

 

 

「さすがに波が無視できませんね。さっさと始末します」

「…へ?」

 

 

それよりも、戦闘で発生した高波で漁船が揺れるのが気に喰わなかった。

呆気にとられる船長を無視した結婚の悪魔は、財布から5円玉を取り出す。

 

 

「はぁ……面倒だ」

 

 

コイン飛ばしで悪魔を殺すのは簡単である。

だが、周りに被害を出さずに仕留めるのは難しい。

ビームの乗っているデンジが負傷しないタイミングでコイン飛ばしを行なう羽目になった。

 

 

「うお!?」

「へあ!?」

 

 

次でトドメを刺そうとしたビームたちは、目の前の標的が爆散したのを目撃する事となった。

これで裏で糸を引いているオーストラリア政府の苦情は免れないだろう。

一応、怪我が悪化して死んだと海上保安庁の船に搭載したカメラ映像で言い訳するつもりである。

 

 

「もちろん、手続きもやってくれるよね?」

「…はい」

 

 

マキマにポンと右肩を叩かれて命令された結婚の悪魔に拒否権は無い。

無線を使って海上保安庁の船に呼び掛けて死体の一部を回収する羽目になった。

 

 

「じゃあ、後始末よろしく。でも、()()()()()に遅れは許さないよ」

「分かりました…」

 

 

ちょうど釣りが終わる頃合いだったので一行は、係長を現場に残して湘南港に向かう。

海上保安庁の職員と一緒に現場検証と上に報告をする羽目になった悪魔は涙目であった。

 

 

「マキマさん!お味はどうですか!?」

「ワサビと醤油が絡み合って美味しいよ」

 

 

湘南港に辿り着いた一行は、事前に予約した料亭で釣った魚を調理してもらう事となった。

憧れの上司に自分が釣ったマダイの刺身を食べた感想を聞いたデンジは…。

 

 

「ヤッタァ!!」

 

 

喜びのあまり、傍に居たビームと一緒に即席のダンスを踊る事となった。

 

 

「ところでキミは何の魚が好きなの?」

「俺はサーモンが好きですね」

 

 

あえて荒井と向き合って座るレゼは、彼に好きな魚を聞いた。

荒井は恥ずかしそうに頬を指で掻きながら好きな魚を述べる。

これ自体に大した意味はない。

 

 

(平和っていいなー)

 

 

蜘蛛の悪魔と一緒に名前も知らない焼き魚を味わうレゼは平穏の生活をしみじみと味わう。

誰かと雑談しながら美味しい物を食べるだけの生活を彼女は今まで味わう事は無かった。

 

 

(…この格好は失敗だったな)

 

 

デンジの目を引く為にミニスカートを履いたレゼは漁船に乗るには適してないと自覚していた。

ただ、このままだとマキマにデンジの全てを奪われると危惧してしまい、こんな格好をしている。

 

 

(まあ、いっか)

 

 

目の前に居る黒髪の職員は、自分の格好を見て少し照れているようである。

たまには別の男と喋るのも悪くないと考えるしかなかった。

 

 

「思ったよりも早かったね」

「じゃあ、帰ります」

 

 

素早く事を済ませた結婚の悪魔は、マキマから暴論を言われた。

お前が「早く戻って来い」と言ったから急いで駆けつけたのにこの始末。

むしろ、さっさと帰りたい悪魔は全力で逃亡しようとした。

 

 

「私の護衛が護衛対象より先に帰ってどうするの」

「…はい」

 

 

建前としては、無駄に多い護衛を嫌ったマキマに指名された形となる。

それを指摘して来るので余計に腹が立ってしょうがない。

 

 

「じゃあ、次行こうか」

 

 

部下たちの釣った魚料理をたらふく平らげたマキマはご機嫌であった。

それに反比例するように苛立っている結婚の悪魔は、更にうんざりした。

 

 

(なんなんだよこれ…)

 

 

ここから先は、マキマが無理やり捻じ込んだ計画に沿って行動する事となる。

なんとか逃げようとする係長の腕を引っ張りながらマキマは船着き場に向かった。

 

 

「また船か」

 

 

デンジたちは、またしても船に乗る事となる。

今度は、何があるのだろうかとワクワクしていた。

 

 

「今度はバスか」

 

 

40分ほど船旅を楽しんだ一行は、バスに乗り込む事となった。

今までが順調な旅行だったせいでマキマと係長と蜘蛛の悪魔以外は特に違和感を覚えていない。

 

 

(空港?神奈川県に空港なんかなかったはずだが!?)

 

 

マキマのプランは、海で楽しんだら次は空で楽しもうというものであった。

だが、存在しないはずの空港を示しており、絶対に何かあると結婚の悪魔は確信していた。

 

 

(うわっ……)

 

 

1時間かけてバスが走行した先には、確かに空港があった。

日本人が想像する羽田空港や成田空港と違ってこじんまりした空港だった。

離島にある空港と違って滑走路だけは無駄に長く感じる…そんな場所である。

 

 

「へぇー日本にもこんな空港があったんだ。佐賀空港より小さいんじゃない?」

 

 

いざとなれば、ツッコミ役になれる天使の悪魔は、到着した空港の感想を述べる。

マキマに連れられて入国した場所が佐賀空港だったので彼はその空港を例えで出した。

 

 

(いやいや、なんかおかしいだろ!?管制塔が無い空港なんてアメリカじゃねぇんだぞ!?)

 

 

国土が膨大過ぎて移動手段が旅客機になる外国では、管制塔が無い空港が多く存在する。

日本の本州でも佐渡空港が存在するが、滑走路が900mほどしかないなど用途が限られている。

だから、管制塔が無い癖に2000m級の滑走路がある空港はあり得ないと結婚の悪魔は判断した。

 

 

(結界か!?)

 

 

ここまでくると悪魔の仕業かと思ったが、空港も旅客機も本物であった。

そのせいで更に疑問に思った結婚の悪魔だが、空港の職員の対応を受けて嫌な予感が高まった。

 

 

(ボディチェックもなしかよ…)

 

 

旅客機に搭乗する際は、必ず荷物のチェックが行われる。

それが無い時点でまともな空港でない事は確かだ。

 

 

(ボーイング737か)

 

 

管制塔もない空港で運行するべきではない旅客機が目に入った。

 

 

(え?セスナ機とか小型ジェット機で周らんのか!?)

 

 

マキマから航空機で江の島を眺めると聴かされたが、実際に何を乗るか知らされていない。

明らかに場違いな航空機を見た瞬間、悪魔や一個人では隠蔽できる規模ではないと判断。

これにより、日本政府が何かしら絡んでいる空港である事と察した。

 

 

(観光客の姿アリ、ただし、何か可笑しい)

 

 

空港に辿り着くと他にも観光客の姿があった。

だから一見すると普通に見えるが、何故か日本人の姿がほとんどない。

国際空港になり得ない場所に日本人の姿が少ないなどあり得ない。

 

 

「俺、飛行機を初めて乗ったぜ」

「初めて!初めて!」

「なんだ、ビームも初めてか!じゃあ仲間だな!」

「はーい!」

 

 

デンジは、隣に座っているビームの話を聞いて一緒に飛行機童貞を卒業したと実感した。

飛行機童貞ってなんだよ…と他者が聞けば思う事を彼は告げない。

だって馬鹿にされるから。

 

 

(あれ?)

 

 

レゼは違和感を覚えているが、発言権がないので中々言い出せなかった。

 

 

(あ、ダメだこれ…)

 

 

離陸間近というのに操縦席に座る機長と副操縦士がキャビンアテンダントと雑談している。

これを見た結婚の悪魔は、すぐにこの航空機と運行状況に問題があると判断した。

つまり、さっさと機内から降りないと乗員と乗客全員が死ぬと理解してしまった。

 

 

「マキマ部長、キャンセル料金を支払いますのですぐに降りるべきです」

「なんで?」

 

 

なのでさっさと旅客機から降りるべきだとマキマに提言すると理由を問われた。

 

 

FAA(エフエエ)*1が定めたステライル・コックピット・ルールってご存じですか?」

「なにそれ?」

「分かりやすく言えば離陸時や着陸態勢の時に業務に必要ない会話や行動を禁止する規則です」

 

 

高速道路で走行する際にポケベル弄りつつ雑談する事は普通はしないと同じ理屈だ。

基本的な交通ルールすら守らない乗員がまともなわけがないという事である。

 

 

「やけに詳しいね?」

「結婚を前提に交際していた機長がやたらとマウント取ってきましてね。それで覚えましたよ」

 

 

今よりも航空のルールが大雑把で乗客の頼みで機長がコックピットの内部を見せてもらえる時代。

結婚の悪魔は、結婚を前提に付き合っていた大手航空会社の機長のおかげで無駄に知識があった。

 

 

「だから護衛対象よりも早く席に座ったんだね」

 

 

護衛対象を意識せずに主翼が良く見える窓際の席に座った事をマキマに指摘されてしまった。

それは別にいいが、結婚の悪魔は彼女の発言に裏があると推測する。

 

 

(自分がある程度、航空機の知識があると分かってやがる…話したつもりはないが…)

 

 

イタリア人だったら心から笑えるマウント話も自尊心がデカい日本人がすれば苦痛でしかない。

しかも、相手を格下判定し、見下す様に自分の功績や技術を見せびらかすならば尚更である。

故に悪魔としても黒歴史であり、他言した事は無かったし、分裂体にも記憶を継承させていない。

 

 

「とにかく安全が確保できません。速やかに…」

 

 

席から立とうすると、機長から機内アナウンスが流れる事となった。

 

 

「皆さま、おはようございますぅ。…あっ、こんにちは…機長です。当機は5時間後に離陸をい…いえ、10分で離陸いたします。この度はカタミチ航空49便にご搭乗頂きありがとぅございます」

 

 

呂律が回らない機長のアナウンスを聞いた結婚の悪魔は思った。

 

 

(酔っとる!?)

 

 

航空ルールの不順守、飲酒操縦、聴き慣れない航空会社。

スリーアウトチェンジどころか、このまま離陸すれば乗客が人生から退場しかねない。

 

 

(さすがに我慢できん!こいつらをとっちめてやる!!)

 

 

ここまで異常な光景を無視できずに結婚の悪魔は席から立ち上がる。

すぐさまコックピットから機長を操縦席から引き摺り出すと決めた。

 

 

(ぐへっ!?)

 

 

その瞬間、後頭部を撃ち抜かれた。

そういえば刺客の事をすっかり忘れていたと思いつつ前の席に向かって倒れ込む。

 

 

「動くな!」

 

 

そりゃあ、刺客だって自殺したいわけではない。

あからさまに怪しい航空機が飛び立つ前に事を起こした。

 

 

(ナイスだ!!)

 

 

さすがに動きで気付いたものの結婚の悪魔はわざと撃たせた。

これにより、めちゃくちゃ怪しい航空機が滑走路から飛び立つ事はなくなった。

後はさくっと殴り倒すだけで事件が解決し、空港にも合法的に警察を呼ぶ事ができる。

 

 

「え?」

「おい!?」

 

 

そう確信した悪魔であったが、明確な銃声があったにも関わらず航空機はエンジンを始動させた。

これにはリーダー格と思われる刺客も驚愕し、さきほどまでドアが開いていた操縦席に向かう。

ついでに頭から血を流している結婚の悪魔も彼に同行した。

 

 

「「ん?」」

 

 

ところが、開いていたドアがいきなり閉まったと同時に離陸を開始した。

安全の為の指示もないせいで転倒する者が多い中、彼らは動く。

 

 

「「待てよゴラァ!!」」

 

 

刺客はドアに向かって拳銃をぶっ放し、結婚の悪魔もドアに向かって蹴りを入れる。

ところが、びくともしないどころか、さきほどまで居た観客の大半が消えてしまった。

いや、そもそもそんな乗客など存在しなかった。

それに気づかなかっただけである。

 

 

「しまった…!」

 

 

ここで結婚の悪魔は致命的なミスを犯したと実感した。

空港も航空機も本物であった。

だが、滑走路は注視してなかった。

 

 

(航空事故の悪魔の仕業か…!)

 

 

航空ルールの不順守、飲酒操縦、聴き慣れない航空会社、ハイジャック、航空事故の悪魔の襲来。

旅客機に搭乗する乗客が絶対に遭遇したくない事例をコンプリートした事になる。

 

 

「ヒャッハー!!」

 

 

前言撤回、迷惑な客も追加となる。

発砲を目撃したデンジがスターターロープを引っ張ってチェンソーマンとなったのだ!

こうして、いつの間にか大空に旅立っていた航空機の中で大惨事が起こる事となった。

 

 

*1
連邦航空局の事。アメリカ合衆国運輸省の下部組織の1つで航空輸送の安全維持を担当する

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