デンレゼが足掻く度に不幸になるケッコンの悪魔さん   作:Nera上等兵

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49話 爆弾チェンソー VS 航空事故の悪魔

デンジやビームといった初めて航空機の機内に搭乗した者たちは盛り上がっていた。

あの早川アキも大して咎めていない時点で彼も思うところがあったのだろう。

少なくとも航空機に搭乗経験があるレゼはそう思った。

 

 

(あれ?)

 

 

ボーイング737の機内に搭乗したレゼには違和感がある。

 

 

(足音が可笑しい…)

 

 

航空機が貸し切りじゃなかったのも驚きだったが、他の乗客の足音が可笑しかった。

ベテランのデビルハンターや刺客なら気付けるミスであるが、何故か誰も警戒していない。

 

 

(私が可笑しいだけ?)

 

 

そもそも江の島を空から眺める為だけにここまで大掛かりにやるべきなのか。

レゼは反応に困ったが、周りが楽しんでいる中で水を差したくない。

 

 

「隣、失礼します」

 

 

何故か麦わら帽子を深く被っている先客に一言かけて横に座る羽目になった。

いつもの癖で通路側の席に座るのだが、さきほどの釣り大会と違って何かが可笑しい。

 

 

(絶対に可笑しい…)

 

 

サメの魔人は深く帽子を被っているので魔人だとはバレていない。

しかし、顔にジッパーがある蜘蛛の悪魔と白い両翼がある天使の悪魔は誤魔化せない。

なので周りの乗客も公安関係者かと思ったが、そうでもないらしい。

 

 

(揉めてる…)

 

 

右翼が見える窓際席に座った係長が隣の席に居るマキマと何か揉めている。

そのおかげで自分の判断は間違っていないと理解する。

 

 

《皆さま、おはようございますぅ。…あっ、こんにちは…機長です。当機は5時間後に離陸をい…いえ、10分で離陸いたします。この度はカタミチ航空49便にご搭乗頂きありがとぅございます》

 

 

ついでに機長が機内アナウンスを実施したが、明確に酔っぱらっていると分かる。

ソ連の工作員時代には、嫌ほど酔っぱらいを相手にしたので声だけで判断できた。

 

 

(これは…)

 

 

機内アナウンスを聞いた瞬間、係長の動きが変化した。

すぐに離陸を止める気だと感じたレゼは、座席の前にあるポケットに手を伸ばす。

どこの航空会社か調べてやろうと思ったのだが、ポケットに雑誌が入ってなかった。

 

 

「動くな」

 

 

ついでに窓際に座っていた麦わら帽子を被ったおっさんが首元にナイフを突きつけて来た。

それと同時に操縦席に向かった係長の頭を誰かが射撃した。

 

 

「あーあー」

 

 

【二道というカフェでバイトするレゼ】を演じて来た刺客は、腕が鈍っていると自覚している。

こうやって首元に刃を突き付けられたのに即座に返り討ちにして殺害していないからだ。

幸いにもカメラはバスの座席に残してきたので反撃で壊れる心配はない。

 

 

「俺たちの言う事を聞けば生きて帰れるぞ。OK(オーケー)?」

OK(オーケー)

 

 

右手でナイフを突きつけた男は、上着の内ポケットから拳銃を取り出そうとしたのだろう。

少しだけ視線を逸らしたのを見逃さなかったレゼは両手で刺客の右手首を捻る。

衝撃で落下するナイフが床に着地する前に彼の頚椎を抱え込んだ両腕で圧し折った。

 

 

(…やっちゃった)

 

 

同じ刺客でも格上だったレゼは無意識で刺客を殺害してしまった。

さすがに正当防衛として処理してくれると思ったが、かなり微妙な立場なので焦る。

 

 

「…え?」

 

 

やむを得ず遺体を座席にもたれかかるような姿勢にして麦わら帽子を深く被せた。

そして同僚が動くのを待っていたら何故か旅客機が発進した。

 

 

「「待てよゴラァ!!」」

 

 

発砲した刺客と頭を撃ち抜かれた係長が仲良く操縦席の前にあるドアを破壊しようと試みている。

意味が分からない状況なので刺客も対魔特異4課の職員も加勢する事は無かった。

 

 

(やっぱり幻影!)

 

 

結局、ドアを突破できなかったが、ドアに衝撃を与えた結果、乗っていた乗客の大半が消えた。

まるで肉体が煙になって霧散したように…。

ここでレゼは自分の感覚が間違っていないと理解した。

 

 

「滑走路そのものが航空事故の悪魔が張った結界だ!特異4課以外は敵だと思え!!」

 

 

何が起こったか探ろうとすると、結婚の悪魔は何が起こったのか簡潔に説明した。

手っ取り早く言えば、逃げ場がない場所で知り合い以外は全員が敵という絶望的な状況であった。

 

 

「ヒャッハー!」

 

 

だが、そんな絶望的な状況であっても嬉しがる者がいる。

チェンソーマンになったデンジは、某世紀末漫画で瞬殺されそうな雑魚のように雄叫びをあげた。

旅行の一環で悪魔や刺客の対処をするアトラクションだと勘違いしているようだ。

 

 

「うぎゃああああああ!!」

 

 

だが、合法的に殺人できると察した蜘蛛の悪魔が刺客たちを虐殺をした。

デンジや天使の悪魔の出る幕はなく、結婚の悪魔の傍に居る刺客以外は全滅した。

 

 

「今すぐ投降するなら五体満足で生かしてやるが、どうする?」

「投降します…」

 

 

拳銃を全てぶっ放した刺客のリーダーは、射殺したはずの結婚の悪魔の勧告に従った。

すぐ傍にあった窓際の席に座らされた挙句、逮捕されるまでシートベルトを着用する事となった。

――この人物は、公安関係者を除けば、旅客機の機内に搭乗した人間の中で唯一の生存者となる。

 

 

「オイ!レゼ!!大丈夫かァ!?」

「だ、大丈夫!大丈夫!」

 

 

武器人間に変身するとハイテンションになるデンジは、オドオドするレゼを気にかけた。

デンジに負の面を見せたくない彼女としては、旅行を楽しんでいたレゼを演じる事しかできない。

 

 

「そいつは敵かァ!?」

「分からない。()()()()()()()()()みたいだから起こさないであげて」

 

 

最近、デンジは意外と繊細だと知ったレゼはあえて死体とは言わなかった。

それを信じたデンジは既に戦闘が終わったと理解した。

 

 

「あれぇ!?俺んの出番は!?」

 

 

カッコよくスターターロープを引っ張って変身した甲斐がないと憤慨する。

そんな中、操縦席前のドアの近くで待機する結婚の悪魔の傍にマキマがやってきた。

 

 

「君ならどうするの?」

 

 

弱体化したせいで結界を突破できない結婚の悪魔を煽るようにマキマが質問してきた。

今回の空の旅を無理やり捻じ込んだのは、彼女なので確信犯以外に何者でもない。

 

 

「滑走路から離れれば結界は解除されます。それまで待つか…貴女が手を出す案件ですよ」

「私は旅行を楽しみに来ただけだよ?」

 

 

マキマに返答をする結婚の悪魔は、わざと苛立ちを隠さなかった。

クジラの悪魔騒動の後処理の為に後処理担当を分裂で生み出したせいで弱体化している。

結界術が本領である結婚の悪魔からすれば格下が張った結界に制御されるほど屈辱なものはない。

 

 

「では、この状況も楽しんでいると?」

「私が動く事態なんかあって欲しくないと願いたいんだけどね」

 

 

あくまで傍観者の姿勢を貫こうとする彼女が何を考えているのか結婚の悪魔は理解できない。

あえて言うならば、マキマは自分の部下だけで今回の事態を対処できると考えている様だ。

 

 

V(ブイ)1*1を越えました。もうじきVR(ブイアール)*2になって離陸するでしょう」

「離陸しなかったらどうなるの?」

「いえ、するはずです。永遠の悪魔よりも貧弱な結界ですよ。ループは不可と思われます」

「そんな奴よりも弱体化したんだね」

 

 

時折、辛辣な発言をしてくるのだが、何故ここでしてくるのか結婚の悪魔は理解できない。

旅行気分を台無しにされて苛立っているならば、お前が選んだせいでこうなったと言いたかった。

 

 

「…離陸した」

 

 

離陸したという事は、滑走路と機体は触れていない。

つまり、侵入が可能になったので結婚の悪魔は見た目通りに貧弱な操縦席のドアを蹴破る!*3

手加減したとはいえ大きな音を立てて倒れたドアの上に足を乗せた結婚の悪魔は宣言をする!

 

 

「公安警察だ!この旅客機に重大な欠陥が露見した為、速やかに近隣の空港に着陸要請をせよ!」

 

 

さっそく操縦席に侵入した悪魔は公安警察だと名乗り、機長たちの味方だと断言した。

それを見送ったレゼは、とりあえず残っていた輸血パックを飲み干して今後に備えた。

 

 

「…で?俺んはどうすればいい!?」

「とりあえず前の座席に移動しようよ」

「そうだなァ!」

 

 

せっかくチェンソーマンになったのに戦闘が終了してしまってデンジは不満そうだった。

それを察したレゼは、前方に居る早川先輩と合流しようとした。

 

 

(……ドアが閉まってる。どうやって直したんだろう…)

 

 

既に係長によって無理やり塞いだのか、操縦席に続くドアはしっかりと閉まっていた。

そう考えていたが、お偉いさんに面倒事を押し付ける気満々のレゼは深く考えない。

優しく右手を握ってエスコートっぽい事をするデンジに微笑みながら一緒に前に移動していた。

 

 

「あ」

「え?」

 

 

もうじきアキ先輩と合流できる!

そう実感した瞬間、床が唐突に無くなってデンジとレゼは機外に放り出された。

 

 

「うっ…」

 

 

幸いな事に落下傘を付けずに降下訓練を実施していたレゼは、その時の訓練を生かす事ができる。

すぐさまピンを深く押し込んで時計回りに一周してから思いっきり引っこ抜いた!

 

 

「ボン」

 

 

結婚の悪魔の契約により無駄に変身に手こずるようになったが、小規模の爆発で変身ができる。

そのおかげで落下するデンジの姿をすぐに確認できて現場に急行した。

 

 

「あれえええええ!?」

 

 

ダイナマイトの束で作られた前掛けを無くした代わりに背中の上にミサイルを生成する。

超長距離ミサイルに背中をくっつけた状態のレゼは、デンジを掴んで上空に舞い上がった!

 

 

「すげぇ!空を!飛んでるぅ!」

 

 

レゼに救助されたデンジは暢気に空を飛んでいる事に感動しているが…。

 

 

(これが悪魔!?)

 

 

6500フィート(約2000m)の位置から旅客機を見上げるレゼは戦慄する。

ボーイング737を覆う様に大きなスライムが付着している状態だった。

 

 

(どうやって戦うの!?)

 

 

航行する航空機の主翼や機体に飛び乗って交戦など不可能である。

だからといって爆弾の能力では旅客機を巻き添えにする過剰火力となる。

 

 

「あばばばば!」

 

 

なにより救助したデンジは向かい風を受けて上手く発言できなくなった。

レゼも旅客機を追いかけるという用途で能力を行使する事を想定していない。

 

 

(こうなったら…)

 

 

一度だけ祖国の命令で完全に人外の姿になった事がある。

その時は、何も覚えていない。

意識を取り戻した時には全てが丸コゲになっており、なにがあったかは報告を受けていない。

だが、あの祖国が再度命令してこなかった時点で何があったのかは察した。

 

 

(今ここで…)

 

 

【武器人間】には形態が複数ある。

まずは人間形態に似た悪魔の姿で変身前と比べて身体が一回り大きくなって強化される。

その代わりに思考が好戦的になり、言動にも変化が見られる。

 

 

(やるだけ)

 

 

レゼがやろうとしているのは、自分と融合している悪魔の本来の肉体に変身する事である。

いわば、第二形態であるが、これにはリスクが伴う。

 

 

(ここでやるな!!今は力が貸せない!!)

 

 

本来の悪魔が人格を乗っ取る形となる為、何が起こるかはレゼも分からない。

【悲嘆の感情】がトリガーとなっているレゼは、デンジに見捨てられる光景を思い浮かべた。

…が、新形態を支援してもらう為に追加の契約をしようとした彼女は、結婚の悪魔から断られた。

 

 

(機内に重大な欠陥を複数発見した。速やかに地上に降りろ)

 

 

ただでさえ事前に分裂した結婚の悪魔は、更に機内で3人に分裂している。

そのせいで本来の実力の1割も出せず、レゼの要求を一蹴し、彼女の脳内に解決策を提示した。

 

 

(…もしかして)

 

 

旅客機を追いかけるの止めたレゼは、旅客機に付着するスライムの動きに着目した。

明らかに自分たちを意識していると感じた彼女は、地上に向かって急降下した!

 

 

(来た!やっぱりデンジ君が目当て!!)

 

 

あえて下降したチェンソーミサイルに向かって航空事故の悪魔は飛び掛かって来た!

これを見たレゼは回避行動を取って旅客機から悪魔を遠ざけようと試みる。

両腕を覆う黒色の導火線を伸ばして完全にデンジの胴体を飲み込んだ黒色ミサイルは急加速した!

 

 

(地上なら戦える!!)

 

 

さすがに旅客機が飛んでいる空域で爆弾の能力を行使する事は出来ない。

無駄に体積がある赤色スライムは、どんどんミサイルから引き離された。

 

 

(くっ!)

 

 

さすがに追い付けないと思ったのか、航空事故の悪魔は旅客機に向かって踵を返した。

それを目撃したレゼは、大きな円弧を描いてUターンする羽目になった!

 

 

(これ俺、必要なくねェ!?)

 

 

ここでデンジは、自分がこの戦場では力不足だと実感した。

彼が出来る事といえば、背後から抱き締められるレゼの感触と向かい風を味わう事くらいだ。

 

 

(要するにデンジ君を餌にしてアイツを地上に降ろせばいい!)

 

 

超音速スピードで敵地に突っ込んだ経験はあるが、誰かを抱きしめて飛ぶのは初めてである。

デンジの背後から抱き締める形で飛行するレゼは、航空事故の悪魔と並走する事となった。

 

 

「デ、デンジ君!」

「な。なん!だ!?」

 

 

向かい風で上手く喋れないレゼは、自分の下に居るデンジに呼び掛けた。

 

 

「で、こう。げきぃ!」

 

 

レゼが何を言いたいのかさっぱり分からない。

だが、デンジは確信した!

 

 

(ぶっとばせって事か!)

 

 

早速、デンジが周りを見渡すと、真上に大きな赤いボタンがある操縦桿みたい棒を発見した。

このボタンを押すと攻撃できると察して両腕から生えたチェンソーを引っ込めた。

これにより、それぞれの爆弾発射装置を掴んだデンジは笑う。

 

 

(やってやるぜェ!)

 

 

爆弾の悪魔は、敵地で暴れて血を補給できるなら無敵だが、逆の立場だと劣勢になる。

常時に血を補充しないと本領が発揮できないレゼは、4分以内に決着をつけるしかない。

さきほど機内で体内に補給した2個の輸血パックで今回の戦闘の命運が決まる事となった。

 

 

(来いよォ!!俺はここだぜ~!)

 

 

東京湾の上空で航空戦が始まったが、ゲームと違ってチュートリアルはない。

だが、デンジは意外とこういうのが得意であった。

 

 

(なにも見えねェ!!)

 

 

レゼが急上昇したせいで視界が一瞬だけ真っ暗になった!

いくら肉体が悪魔化しているとはいえ鍛え方が素人のデンジには限度があった。

 

 

(見えた!)

 

 

赤くなった視界がすっきりするとさきほどより上空を飛行していると感じる。

どうやら並走すると埒が明かないのでヘッドオンになるようにレゼは仕組んだようだ。

 

 

(ここだァ!!)

 

 

赤色のスライムっぽい何かと真正面に向かい合った瞬間にボタンを押す。

 

 

Великолепно(ヴェリカリェープナ)!(お見事!)」

 

 

ぶっつけ本番で2個の爆弾を投下し、見事に航空事故の悪魔に命中し、大爆発した。

航空事故の犠牲者の末路で作られた肉体の大半は崩れ落ちて東京湾に沈んで行った。

思わずロシア語でデンジを褒めるレゼだったが…。

 

 

「なん!ァか!くるぅ!!」

 

 

今まで機体の母体に徹して一切、喋らなかったデンジが何かを告げた。

 

 

「え?」

 

 

デンジの声で反応したレゼは、ミサイルを急加速させる。

今のままでは、追撃をしてくる航空事故の悪魔から逃げられない様だ。

 

 

(爆発じゃ殺せない!?…そりゃそうか)

 

 

なんでレゼは今の爆発で悪魔を殺せないか疑問だった。

だが、明らかに航空機に関係する悪魔で航空事故の悪魔なら耐えれると察した。

 

 

(地上に下りるしか…)

 

 

おそらく爆発や水没ではあの悪魔には勝てない。

頑張って心臓だけを爆散する事ができれば勝てるかもしれない。

だが、武器人間でも強力だが持久力が無い肉体は限界に近い。

 

 

(まず抜かせる!!)

 

 

ミサイルの燃焼を大幅に抑えて急な減速を行なった。

デンジもレゼもその報いを受ける代わりに航空事故の悪魔は2人の前に躍り出た。

 

 

(待ってたゼェ!!この時をよぉお!!)

 

 

すぐにデンジはボタンを押してレゼの武器人間形態から爆弾をぶちまける!

今度は大量のロケット花火が射出して悪魔の背後を爆撃した!

 

 

(早く下りないと…)

 

 

これで肉体に限界が来たレゼは地上に着陸する態勢を取った。

 

 

(えっ!?)

 

 

必死こいて旅客機を航空事故の悪魔から引き離したのに機体が目の前まで迫っていた。

なにかしらトラブルが発生しているのか、6000フィートという低空で航行している。

 

 

(ウッソ!?これじゃ引き離した意味がない!?)

 

 

これにはレゼも驚愕する!

最悪、自分たちは死んでも復活する手段があるので死ぬのも選択肢だった。

だが、旅客機に乗る乗客の内、係長とマキマ以外は普通に死ぬし、復活はできない。

今までの自分が行なった行動が水の泡になった気がしてレゼは脱力感に襲われた。

 

 

「だ!ァまァ!!」

「マ。ッ!」

 

 

ただ、旅客機が近くを航行しているのにデンジは攻撃する気満々だった。

さすがにレゼは攻撃を咎めようとするが、向かい風のせいで言葉になる発言に繋がらなかった。

 

 

(あ…)

 

 

またしてもデンジは大きな戦果を挙げたが、意味がない行動である。

それどころか発射された爆弾の爆発によって旅客機の垂直尾翼の一部が破損したのが見えた。

あれほど恐れていたフレンドリーファイアを目撃し、レゼは最後の力を振り絞る。

 

 

(このままじゃ墜落しちゃう!)

 

 

垂直尾翼を破損した旅客機は、安定していた航行が乱れて大きく機体が下がり始めた。

そのまま行けば墜落すると察したレゼは急加速し、旅客機の前方に躍り出る!

更に自分がメインエンジンの代わりになろうとした瞬間!

 

 

(しまった!)

 

 

ここまでの動きを航空事故の悪魔は見抜いていたのだろう。

油断していたレゼは、一瞬だけ回避行動を怠ったのが致命的だった。

巨大なスライムに身を隠していた航空事故の悪魔の本体の蹴りを喰らう羽目になった。

 

 

「ぐあ!?」

「ほげええええ!?」

 

 

見事に蹴り飛ばされた2人だったが、蹴りの衝撃が凄まじくデンジが導火線から外れてしまった。

そのせいでレゼから解放された彼はあらぬ方向に飛んで行ってしまった!

 

 

「くっ!?」

 

 

なんとか蹴りの衝撃に耐えた体制を立てなおしたレゼだったが…。

正面から突っ込んでくる航空機を回避するのに精一杯である。

よってデンジは見捨てられる形となった。

 

 

「は?」

 

 

必死に成田空港に向かって操縦する結婚の悪魔は、目の前に飛んでくる存在に気付いた。

だが、どうする事も出来なかった。

 

 

「うげぁああ!?」

「おぶ!?」

 

 

鳥の激突に耐えられる窓であっても高速で飛んでくるチェンソーマンには耐え切れない。

チェンソーの頭部が操縦席の窓に正面衝突し、窓枠が変形した衝撃で窓が外れてしまった。

気圧の差で結婚の悪魔は機外に吸い込まれて機内に突入したデンジも吸い上げられた。

 

 

「危ない!」

 

 

間一髪、スチュワーデスの格好をしてる副操縦士が機外に飛び出したデンジの死体を掴む。

これで最悪の事態は避けられる事となった。

分裂元となった結婚の悪魔は吸い出されたが、その程度は死なない事は知っていた。

 

 

「マキマ部長、シートベルトの着用を…」

「着けてるよ」

 

 

だから分裂元より先に護衛対象に声をかけるが、ただちには問題ないようである。

一方その頃、吸い出された結婚の悪魔は、左の主翼のエンジンとの激突を辛うじて回避した。

 

 

「…っておい!?」

 

 

必死に操縦席に戻ろうとすると、とんでもない光景が見えた。

操縦室に突入して負傷したデンジを救助しようとしたのか。

何故かサメの悪魔が割れた操縦席の窓から機外に放り出されて空中を舞う!

鮫が空を飛んだり、竜巻になったり、宇宙に向かうのは、サメ映画で充分である。

 

 

「大馬鹿野郎!」

 

 

既に大幅に弱体化した結婚の悪魔は、ビームの尻尾を掴むのが精一杯だった。

どうせならデンジは東京湾に沈んでくれた方が後が楽だと思うほど余裕がない。

 

 

(ああ、全てが鬱陶しい!!)

 

 

さきほど機外に放り出された時、垂直尾翼が破損しているのが見えた。

道理で上手く操縦できないどころか油圧系統が死んだのかと結婚の悪魔は理解した。

 

 

(まずは元に戻れ!!)

 

 

自分の血をビームに分けた結婚の悪魔は、彼の肉体を人間体に戻した。

血の悪魔と違ってかなりリスクがあるが背に腹は代えられなかった。

無駄にデカいサメの悪魔では、割れた窓から戻る事ができないのだから。

 

 

「そしてお前もだ!!」

 

 

ついでにデンジを捕食しようと口を開いて突っ込んでくる航空事故の悪魔の姿も見えた!

 

 

「いい加減に鬱陶しいんだよお前は!!」

 

 

結婚の悪魔は、自分の肉体の一部を引き千切って航空事故の悪魔に向かって投擲する!

本来だったら物体が高速で突っ込んだ程度では航空事故の悪魔は殺せない。

だから航空事故の悪魔は、わざわざ肉片にぶつかりに行った!

 

 

(かかったなアホが!!)

 

 

だが、この動きを結婚の悪魔は予想していた!

 

 

(ただの肉体を投擲したかと思ったか馬鹿め!)

 

 

体内に仕込んでいた(しきみ)の毒が航空事故の悪魔の体内に突っ込む。

もがき苦しみながら悲鳴をあげて落ちる悪魔を嘲笑った結婚の悪魔は頑張って操縦席を目指す。

 

 

(あ、やっちまった…)

 

 

その際に機外の部品を破損させてしまうが、ビームを失うリスクと引き換えと思えば…。

代わりが効く部品の損害なんてどうでもよかった。

 

 

『遅かったね』

 

 

いざ、割れた窓から機内に戻るとマキマからとんでもない事を言われた気がした。

だが、ちゃんとマキマから発言を聞く余裕はない。

操縦経験がない副操縦士に化ける分裂体から旅客機の操縦を引き継がないといけないのだから。

 

 

(今がチャンス!!)

 

 

さすがに悪魔に通じる猛毒の耐性を航空事故の悪魔は持っていなかった。

ここで爆散させると却って状況が悪化すると分かったレゼに迷いは無い。

 

 

(私と一緒にドライブだよ!!)

 

 

赤色のスライムを隠れ蓑にしていた本体は、赤色のハゲワシみたいな姿であった。

その鳥っぽい悪魔を導火線で巻きつけたレゼは大海原に向かって急降下した。

アホみたいに加速した悪魔たちはそのまま硬い海面に叩きつけられると思われた。

 

 

(でも、私はこれ以上は遠慮しておくよ!)

 

 

しかし、デンジの事が心配なレゼは、彼を殺そうとした悪魔と無理心中をする気はない。

猛毒で苦しむ航空事故の悪魔を海面に向かって思いっきり投げつけて急上昇する。

直前まで一直線で急降下していたせいで体勢の立て直しに苦労したが、辛うじて上昇できた!

 

 

Иди(イチ) в() ад(アド)!(地獄に堕ちろ!))

 

 

デンジ以外とは一緒に地獄に行く気はないレゼは、本音を吐き捨てた。

そして安全と思われる高度で航空事故の悪魔が落ちた場所を見ると全てが終わっていた。

海面に落下した悪魔が海面と激突して出来上がった水柱の痕跡が少しだけ見えただけである。

 

 

「あ」

 

 

ここで血が足りずに変身が解けたレゼは、海面に向かって落下する事となる。

さきほどの悪魔が辿った末路の二の舞になるかと思われた。

 

 

Ich(イッヒ) wurde(ヴルデ) vom(フォム) Kapitän(カピテーン) ausgeschimpft(アウスゲシップト), also(アルゾー) bin(ビン) ich(イッヒ) gekommen(ゲコメン), um(ウム) zu(ツー) helfen(ヘルフェン)!」

(機長に怒鳴られたから助けに来たぞ!)

 

 

デンジとレゼが機外に居る事を知らせなかった結婚の悪魔は分裂元に叱られてしまった。

ここで無様にレゼが死ぬと更に大目玉を喰らうと理解したので彼女を助けに動いたのだ。

さっきと同じ声だが、相手がドイツ語で喋っているのでレゼにも発言の意味が理解できない。

 

 

「た、助かった…」

 

 

高速で伸びて来た血塗れの物体に包まれたレゼは旅客機の方角に引っ張られた。

そのおかげで自分を救助しにきたのだと実感し、脱力して瞼を閉じた。

これにより、レゼの戦闘は終わったが、まだ事件は終わっていない。

 

 

「クソがああああ!!」

 

 

暴れ馬と化した旅客機の操縦に手こずる結婚の悪魔は、苛立ちの上限を越えそうだ。

航空事故の悪魔は、海の藻屑となったが、置き土産は未だ健在だったのだ。

果たして無事に旅客機を着陸させて江の島旅行の続きはできるのか。

それは未来の悪魔のみが知る。

 

 

*1
離陸決定速度(ディシジョンスピード)、この速度を超えると何があったとしても航空機は滑走路から離陸しないといけない

*2
引き起こし速度(ローテンションスピード)、この速度になるとローテートと発言し、操縦捍を引いて機首上げをして浮揚を始める

*3
2001年9月11日にアメリカで発生した同時多発テロ事件まで操縦席のドアの強度は貧弱だった

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