デンレゼが足掻く度に不幸になるケッコンの悪魔さん   作:Nera上等兵

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5話 デンジと金髪のおっさんの関係

デンジは義務教育を一切受けていないから何も分からない。

漢字だって腎臓や目玉だけじゃ足りなくて金玉を売った。

その時の経験で【金玉(きんたま)】の読み方が分かるだけである。

 

 

「本当にこれでいいか?」

「ああ、問題ない」

 

 

【はやかわデンジ】と10回くらい氏名を書かされた彼は、ようやく終わったと実感する。

 

 

「これで借金は…」

「チャラだ。借金O円おめでとう」

「なんか実感しねぇな…」

 

 

向かい合って座る金髪の男は、マキマと初めて出会った時に一緒に居た奴である。

アキ曰く、そう簡単にマキマと一緒に行動できないので“えりーと”らしい。

 

 

「ちょっと聴いて良いか?」

「どうした?」

「マキマさんと一緒に仕事をしたいっす!どうすればできますかぁ?」

「悪魔をぶっ殺しまくったらマキマさんも注目すると思うぞ」

 

 

えりーとにどうやったらマキマさんと仕事ができるか訊いたら普通の返答だった。

えりーとって大した事ないな…と思うデンジであったが…。

 

 

「おっさんの名前を教えてくれないか?」

「ん?」

 

 

目の前に居るおっさんの名前が気になった。

 

 

「“金髪のおっさん”でいいぞ。まずは同居人の早川アキの名前だけ覚えればいい」

「どうきょにん?」

「これからお前と一緒に暮らす奴だ」

「誰だっけ?」

「お前が金玉を蹴っ飛ばした公安の仲間だ」

「あー!あいつか!」

 

 

とりあえず“金髪のおっさん”と呼べばいいらしい。

それならすぐに覚えられるデンジは更に疑問に思った事を訊く。

 

 

「マキマさんって男いるのか?」

「彼氏はいないはずだ、マキマさんに惚れている奴はたくさん居るがな」

 

 

マキマさんが気になっているデンジは、ライバルが多いと理解した。

 

 

(そりゃあ、そうだよな)

 

 

好きな女の子には大体そいつが好きになる男が居る。

金玉を蹴っ飛ばした奴もマキマさんが好きって分かった。

 

 

「なんだ、マキマさんと結婚したいか?」

「けっこん?」

「…マキマさんと一緒に暮らす生活ってことだ」

「はい!したいです!」

 

 

この世の中は分からない事だらけである。

ただ、前みたいにデビルハンターをやっていればいいらしい。

だったらすぐにお仕事できるとデンジは思っている。

 

 

「なあ、俺って悪魔になれるんだぞ?こわくねぇのか?」

「嫌ほど悪魔を見て来たからな、今更ビビらないさ」

「ふーん」

 

 

少なくともアキと違ってこいつは暴力を振るわない。

だが、彼と違って自分に無関心な素振りが見えた。

 

 

「じゃあ、なんであんたは俺と関わってんだ?」

「仕事だからだ、お前と違って悪魔と戦う事だけが仕事じゃないからな」

 

 

肩を竦めて本音を述べるおっさんだが、何かがおかしい。

 

 

「おっさん、マキマさんと同じで人間じゃない感じがする」

 

 

赤髪のマキマさんは、顔が整っている美人だが、同心円状の瞳が人外を彷彿させる。

人間であるはずなのにどこか化け物に感じさせる独特な雰囲気。

そんな言葉にできない何かが目の前のおっさんからも感じられたのだ。

 

 

「なんだよ、まるでマキマさんが人間じゃないみたいに言うじゃないか」

「ち、違うんです!マキマさんは人間だと思ってます!」

 

 

初恋の女性に失礼な事を言ってしまったのはデンジでも分かる。

何とか失言を取り消そうとするが、何を言えばいいか分からない。

 

 

「ああ、大丈夫だ。今の発言はマキマさんに内緒にしてやるから」

「ホントですか!?」

「それに良い線言ってる」

「……へ?」

 

 

散らばった書類を重ねて両手で掴み、机の上でトントンと底部を叩いて書類を揃える。

そして書類をクリアファイルに入れてアタッシュケースの中に入れたおっさんは笑う。

マキマが悪魔だと肯定するかのような発言を繰り出し、デンジを本気で困惑させた。

 

 

「デンジ、お前は友達の悪魔と一緒に悪魔を討伐していただろ?」

「ポチタっす!」

「そうそう、今は契約したポチタと肉体が一緒になって戦えるというわけだ」

「は、はあ…?」

 

 

何が言いたいのかさっぱり分からなかった。

 

 

「公安のデビルハンターも同じでな、人間に友好的な悪魔と契約を結んでいるんだ」

「え、ええ!?」

 

 

おっさんからの発言は、デンジにとって衝撃的な発言であった。

悪魔を討伐する公務員が悪魔と契約している。

まるでゾンビの悪魔と契約していたヤクザの爺さんと同じ感じがしたのだ。

 

 

「そう慌てるな、あくまでも代償は契約者だけで周りに被害を与えない存在だ」

「どういう事!?」

「デンジと同じだ、悪魔と協力して日本で暴れる悪魔をぶっ殺している。それだけだ」

 

 

デンジはポチタに生えているチェンソーを使って伐採や悪魔の討伐をしていた。

それと同じ様に公安のデビルハンターも悪魔と協力していると分かった。

絶対に機密情報だと思ったのでアキにマウントを取れると確信したが…。

 

 

「金玉弱点野郎も悪魔と契約してるんですか?」

「むしろ、悪魔と契約してない奴はいないぞ」

「えええ!?」

 

 

悲報、日本の公務員デビルハンター、全員が悪魔と契約していた。

あれほど悪魔に近づくなとか!悪魔と契約するな!とか言っている癖にこの裏切りっぷり。

もしかしてヤクザと違って日本が管理しているヤクザなのかとデンジは思ってしまう。

どっかできいた「こくえいヤクザ」って奴。

 

 

「マキマさんから聴いたかもしれないが、お給料や福利厚生が良いのは理由がある」

「理由?」

「すぐに大怪我をするか、死ぬって事さ。だからここに入ってもすぐにみんな辞めるってわけだ」

 

 

ここでデンジはアキが自分を殴って来た理由を理解した。

お金が欲しくて公安に入っても死んでは意味がない。

実際にお金が欲しくてホイホイヤクザの後について行って死にかけて絶望した事がある。

ゾンビ共に身体を切り裂かれる思いを考えれば、確かに辞めたり死ぬ奴は多いと思う。

 

 

「でも、お前は死ぬまで働いてもらうぞ」

「はい、マキマさんから『死ぬまで一緒に働こう』って言われました」

 

 

デンジはマキマに誘われて公安のデビルハンターになる事となった。

だが、公安を辞めれば、すぐさま殺処分が待っている。

まるで他所ん家のガキを噛んだペットの犬扱いされる糞みたいな展開だ。

 

 

「でも、それは特別扱いされているって事だ」

「マキマさんからも言われました」

 

 

特別という話は何度も聴いたが、当の張本人は全く何が特別分からない。

 

 

「そもそもマキマさんと会話できる事自体が特別なんだぞ?」

「そーなんすか!?」

 

 

ところが、マキマと喋る事ができるというおっさんの話に心底驚く。

 

 

「総理大臣って知っているか?」

「日本の偉い奴?」

「そうそう、その総理大臣っていつでも会う事ってできると思うか?」

「できません」

 

 

さすがにデンジでも総理大臣は偉いって知っている。

そして気軽に会える存在では無い事も知っていた。

 

 

「マキマさんはな、その気になればいつでも総理大臣と会えるんだよ」

「ほうほう」

「だからマキマさんと何度も会話しているお前は特別だという事だ」

 

 

アメリカの大統領と気軽に会える奴と何度も話ができるのは特別。

そう考えるとデンジも納得する好待遇であった。

 

 

「言っておくが公安のデビルハンターでマキマさんと逢った事ない奴って結構居るからな?」

「へー」

「そんなマキマさんからの期待を裏切るなよ?」

「裏切るっていうか、どうすればマキマさんと仲良くなれるか考えてまーす」

 

 

ただ、デンジからすればどうでもいい。

どうやったらマキマさんにもう一回抱いてもらえるか。

良い匂いと温もりをもう一度感じる為にはどうすればいいかずっと考えていた。

 

 

「さて、君にはアキと合流してもらいたいんだが、まだ40分ほど時間がある」

「公衆トイレ行っても時間が余るっすね」

 

 

必要な手続きを終えた以上、野郎との長居は無用だ。

だが、40分もずっと立っているのはデンジに耐えられない。

まるで貴重な時間を浪費するようで何かしたいのだ。

 

 

「そこでだ、君の夢が叶うアドバイスをしてやろう」

「夢?」

「普通の生活をしたいんだろ?」

「してぇ!」

 

 

目の前のおっさんはなんだかんだで優しい。

 

 

「アキのアパートに行ったら言われた通りにしろ」

「それでいいのかぁ?」

「一緒に暮らす上で喧嘩する事もあるだろう。だが家に住んでいる時は素直に従え」

 

 

おっさん曰く、アキの家では指示に従えとアドバイスをもらった。

 

 

「規則正しい生活に拘るあいつが嫌いになるかもしれん。だが耐えろ。普通の生活したいならな」

 

 

普通の生活というのは、デンジは妄想で考えるしかなかった。

1日で食べれるのが食パン1枚なら毎日3枚喰えるとかジャムを塗れるとか…。

とにかく…たくさん美味しい物を食べれる事しか考えていなかった。

 

 

「先輩!もっとアドバイスください!」

 

 

デンジは挙手をして更にアドバイスを求める。

ヤクザの手下として働いてきた時は、ボコボコに殴られたので諦めた経緯がある。

だからポチタ以外に頼れる存在は居なかったが、今は違う。

 

 

「挨拶をしっかりやれば、問題ない」

「あいさつ!?」

 

 

マキマさんには恥ずかしくて訊けないし、アキの野郎にも利きたくない。

そうなると、真摯に向き合ってくれるおっさんに頼るしかなかった。

 

 

「袖口のボタンを外せ、腕に挨拶の文章を書いてやる」

「え?」

「アキの家に着いたらな、自分の腕を見て挨拶をしろ。それだけでもあいつの対応は違う」

 

 

公安一悪魔嫌いと評される早川アキだが、彼はお人好し過ぎる上に不器用だ。

相手が死んでもらいたくないから自分を鬼にして新人いびりを繰り返す常習犯だ。

上から怒られても、「その程度で折れるようなら悪魔に殺されています」と述べる奴である。

 

 

「アキは、お前の事を普通の人間だと思って接する。だが今までにお前が身に着けて来た生活は、日本では普通じゃない。そのせいで、何度も喧嘩すると思うが、アキの言われた通りに暮らせば、いつか自力で普通の生活を送る事ができる。」

 

 

とにかくおっさんは、デンジが送って来た生活は普通じゃないと何度も力説をする。

さきほど飴をもらって舐めたデンジは、その甘さに衝撃を受けたが即座にツッコミを入れられた。

普通の家庭であれば、飴など舐めさせてくれるのだから、お前は普通じゃない…と。

 

 

「ホントなのか?」

「ああ、アキの家でお世話になるんだ。家の中に居る時くらいは指示に従え」

「じゃあ、外で仕事をする時は?」

「多少の喧嘩くらいは良いだろう」

 

 

それに喧嘩自体は否定していなかった。

デンジとしても喧嘩をするなと言われると逆に対応に困ってしまう。

だから喧嘩をしてもいいという発言は、彼にとって救いとなった。

 

 

「……これでよし。家に着いたらこれを見て発言しろ」

 

 

デンジの腕には、挨拶や文章が書かれていた。

これを見てアキに挨拶するだけで喧嘩する頻度が下がるらしい。

半信半疑であったが、それでも無駄な喧嘩を避けれるならそれが一番である。

 

 

「他に何か訊きたい事はあるか?」

「んー!!相談したいんですけど!何を相談すればいいか分からねぇ!」

「じゃあ、相談したくなったらマキマさんに言ってくれ。今回みたいに相談に乗るから」

 

 

公安って良い所じゃないかと思うデンジに対して目の前のおっさんの瞳は些か冷ややかに見える。

 

 

「よし、時間だ。行くぞ」

「はい」

 

 

これが美人だったらな…と思うデンジを察したのか。

おっさんは立ち上がってコートと帽子を身に着ける。

 

 

「先輩、お先に失礼します」

「ご苦労様、いろいろあって混乱すると思うが、こいつは悪い奴じゃない」

「…分かりました」

 

 

デンジより3年上の先輩であるアキは、目の前に居る先輩に敬意を表する。

それはそれとして金玉を蹴って来るデンジに深い嫌悪感を抱いて歯切れが悪い返答となった。

 

 

「よろしくなー」

「…本当にこいつ、大丈夫なんですか?」

「少なくとも二度と金玉を蹴って来る事は無いから安心してくれ」

「はああ…?」

 

 

さすがにデンジも怒られてしまったので金玉を蹴る事は止める事にした。

それより、偉そうなコイツと仲良くできるか考えてしまう。

無理やり連れ出される形でデンジは金髪のおっさんと別れる事となった。

 

 

「すぐにでも普通の生活を送らせろ…か。マキマさんも人が悪い」

 

 

金髪のおっさんに化けた結婚の悪魔の発言を聴く事はなく…。

 

 

「お前を見張る為に一緒に住むことになった。逃げたらお前を殺してもいいとも言われている」

「金髪のおっさんから聴いた」

「…お前、先輩にそんなあだ名で呼んだのか?」

「先輩がそう呼べって言ったんだ。俺のせいじゃない」

 

 

アキと会話しているデンジは、やっぱりコイツと合わないと思っている。

発言する度に棘がある感じがして厳しくても優しいマキマさんが恋しかった。

 

 

「…なあ、マキマさんって良い人なのか?」

「良い人に決まっている。俺の命の恩人だ」

 

 

ちょんまげっぽいのを付けているこいつすらマキマさんに惚れているのだ。

まさしく高嶺の花として自分たちの上に降臨している。

決して気軽に触れられる存在ではない。

 

 

(やっぱ、みんなマキマさんが好きなんだな…でも俺は)

 

 

でも、デンジにとってマキマと出会ったのは本当に運命だと思っている。

 

 

「マキマさん、もう一回抱きてぇなあ」

「はあああああ!?」

 

 

だからつい本音を出してしまってアキの野郎に何度も怒られた。

思うだけならいいだろう!?と反抗するが、やはり向こうの方が上だった。

 

 

「お前、何やってんだ?」

「先輩から挨拶をしろって言われてメモを見てるんだ」

 

 

そんな彼でも両腕に書かれたメモを見るのは想定だったのだろう。

結構、ドン引きしていた様子だったが、デンジは気にしない。

 

 

「これからお世話になるデンジです。よろしくおねがいします」

 

 

とりあえず、頭を下げながら発言をする。

デンジの行動に困惑しながらもドアを開けたアキに続いてデンジも入室する。

 

 

「おじゃましますー」

 

 

片言で喋る外国人みたいな発言になったが、それでも効果はあったようだ。

さきほどまでは汚物を見るような視線だったのに呆れたような視線に変化した。

呆れているのであれば、評価はまだしてもらえる為、気持ちが楽になった。

 

 

「一度にジャムを使い回すな!」

 

 

初めてジャムを塗るという行為にデンジは夢中になった。

いちごジャム、梅ジャム、オレンジジャム、バター、蜂蜜などを塗りたくる。

そして存分にトッピングした食パンを食べ終えたらアキに怒られた。

 

 

「風呂が長いんだよ!いつまで入ってるんだ!?」

 

 

本当に久しぶりに湯船に浸かって居たら怒られてしまった。

たかが2時間くらい風呂に入っていただけだというのに。

 

 

「トイレで寝るな!」

 

 

デンジにとってトイレとは安心できる場所である。

誰からも自分の惨めな姿を見られる事はない理想的な環境。

つい、うっかり寝てしまったらドアを何度も叩かれて叱責されてしまった。

 

 

「あいつは本当に非常識です!」

 

 

時折、どこかに電話をかけるアキであったが、デンジは気にしない。

とりあえず、ジャムを複数塗るのはやめる。

風呂で歌うのは1曲程度で抑える。

怒られる度にアキの言う通りにするだけであった。

 

 

(ペットかよ俺は…)

 

 

まるで調教される犬だとデンジは思っている。

マキマさんの犬ならなりたいが、野郎の犬にはなりたくない。

ただ、あのおっさんがアキの言う通りにすれば、普通の生活を送れるらしい。

マキマさんと一緒に暮らす時に怒られないようにする為に必死に耐え続けた。

 

 

「なあ、魔人ってなんだ?」

 

 

状況が変わったのは、民家の2階に魔人が立て籠もったと通報を受けた時だ。

その際に警察から説明を受けたが、デンジはさっぱり理解できなかった。

 

 

「はあ?義務教育を受けてないのか?」

「自慢じゃねぇけど受けてねぇぞ」

 

 

ヤクザに雇われてデビルハンターをやってた時代は、まさに暗黒時代だった。

小学校を中退し、中学なんて夢のまた夢の存在だった。

だから普通に事実を述べたらアキの顔がすごい事になっていた。

 

 

「人の死体を乗っ取った悪魔、それが“魔人”だ」

 

 

アキからの説明を聞いてデンジは心辺りがある。

 

 

「ふーん、じゃあ俺。魔人じゃね?」

 

 

確かにあの時、ゾンビ共にポチタもろとも解体されて死んでいた。

だからポチタが自分の心臓になって動く魔人だと自覚したのだ。

 

 

「違う、魔人は頭の形状が特徴的だ。見ればすぐに分かる」

 

 

しかし、親切な早川先輩は、すぐさま否定してくれた。

それだけでデンジは何かが救われた気がした。

 

 

「人間の耐久力だが相手を舐めるなよ?魔人の人格は悪魔だ。今回はお前が殺せ。」

 

 

よく分からない鳥を捕食する人間っぽい何かは確かに頭の形状がおかしい。

クワガタみたいな突起物が生えており、なにやらこっちに何か言っている。

そう思っていたら先輩から魔人を仕留めろと命じられた。

 

 

「悪魔になって力を見せてみろ。それを見てお前が使えるか判断してやる」

 

 

とってもありがたい事を言われたからデンジは変身する気はなかった。

自分とポチタの仇である“ゾンビの悪魔”や少女を人質にした“筋肉の悪魔”ほどではない。

 

 

「オラァよ!!」

「こけえええええええええええ!?」

 

 

さくっと斧で首を刎ねるとあっさりと魔人は動かなくなって絶命した。

さすがに人間の死体を乗っ取っているという事で多少は後味が悪い結果となった。

 

 

「なんで悪魔の力を使わなかった?」

「チェンソー使うとめっちゃ痛そうなんだわ。それに俺もコイツみたいになってたと思うと…」

 

 

自分は特別どころか底辺だと思っていたが、今は特別な存在になっていた。

しかし、化け物になるまで死体だったのは否定できない事実だ。

 

 

「それでなんか楽に殺して…やりたくて…」

 

 

もしかして死んでいた方が良かったかもしれない。

こうして人間らしい生活を送っているが、死ぬまで悪魔と戦わないといけない。

そう考えると、殺して楽にしてあげる方が救いなのではないか。

死生観についてそこまで深く考えていないデンジであったが、思うところがある。

 

 

「いいか覚えておけ。魔人も立派な悪魔だ。デビルハンターが魔人に同情するな」

 

 

顔を押しのけられて壁に当てられるほど先輩に叱責される。

いや、あくまで忠告していると行った方が正しい。

 

 

「俺の家族は、全員、目の前で悪魔に殺された」

 

 

デビルハンターになるのは、楽して金を稼ぐか。

それか悪魔に知り合いを殺されて復讐の為になるのはデンジも知っている。

 

 

「俺は下にいる警官たちと飲みに行ったことがあるけどなぁ、奥さんとか子供を守る為に命懸けで仕事をしてるんだ。お前以外は本気でやってるんだよ」

 

 

アキからそう言われたが、デンジだって真面目にやっていた。

 

 

「俺は悪魔をできるだけ苦しめて殺したいんだ。逆にお前は悪魔と友達になりにきたのか?」

 

 

“友達”という単語を聴いて今までの事を振り返ると碌な友達がいなかった。

唯一、友達といえる存在が消えてしまった以上、友達が欲しいかと言われれば…。

 

 

「友達になる悪魔がいたらなりてぇよ。俺、友達いねぇもん」

 

 

人間の友達なんかいなかった。

ヤクザからの借金取り立ての環境こそが日常だと思っていた。

持病と借金に苦しめられていつ死んでもおかしくないからこそ本気にしていなかった。

 

 

「そうか…その言葉覚えておくぜ」

 

 

ただし、自分が変な事を言ったのか早川先輩は(ふすま)を閉めてどこかに行ってしまった。

 

 

「あーあ、やっちまった」

 

 

金髪のおっさん曰く、多少の喧嘩は良いらしいが、仲良くできるならそれが一番である。

とにかく怒らせてしまったものはしょうがない。

 

 

「本当はエロ本に血をつけたくなかっただけなのに…」

 

 

思春期を迎えつつあるデンジはエッチに興味がある。

ただ、エッチといっても際どい水着とか、コスプレ衣装くらいしかしらない。

資源物回収で週刊の雑誌の表紙に映る美少女や美女くらいしか経験がなかった。

 

 

「楽に殺してやったし、血まみれにしてねぇからもらってもいいよな?」

 

 

エッチの本を開いてパラパラとめくると確かに女の子の乳首とか見えていた。

確かにこれはエッチの本だ。

 

 

「よし、エッチ確認」

 

 

このまま持ち出すと先輩にバレるのでYシャツの中に入れなければならない。

そう考えると1冊しか持ち出せないのでさくっと選んだ物を回収する事にした。

 

 

(ポチタ、契約どーり夢みたいな生活を送っているよな?)

 

 

ポチタが消える前に「デンジの夢を私に見せてくれ」と頼み込んでくれた。

そして目が覚めると消えていたのでポチタに自分の夢を見せるのがお返しとなる。

 

 

(俺の夢はもうゴールしたが、あいつはまだ追いかけているんだな)

 

 

人並の普通の生活は既に送っている。

朝昼晩のごはんを食べてふかふかなベッドで眠る生活。

確かに望んでいたが、何かが足りない気がする。

何が足りないのかと考えると未だに頑張っている先輩の姿が思い浮かぶ。

 

 

(あいつは復讐的なアレだ…)

 

 

王道漫画で親を殺されて復讐する為に努力する主人公はアキ先輩であると実感する。

 

 

(下のあいつらは、家族を守る事…)

 

 

家族や知り合いを守る為に頑張る人たちもいる事は否定しない。

でも、そう考えると自分は何の為に頑張っているのか分からない。

 

 

(生活は100点のはずなのになんか足りねぇんだよな。なんかゴールってあったっけ?)

 

 

それこそ金髪のおっさんが言っていた“けっこん”とやらをすればいいのか。

デンジに思いつくのはマキマさんしかない。

それ以外は考える余裕が無かったし、今でもマキマさんの事しか考えられない。

 

 

(マキマさん…)

 

 

未だに思い浮かべるのは、Yシャツを着ているマキマさんの姿だ。

襟から見えるネクタイが胸に沿って垂れている姿すらどこかエロく感じる。

 

 

(おっぱい、揉んでみてぇな)

 

 

女の子のおっぱいは柔らかい。

何回かマキマさんの胸に顔を埋めていたから知っている。

 

 

「待てよ、とっくの昔に無理だと諦めてたけど今ならできるんじゃねぇ?」

 

 

低賃金で働かされる土方未満の生活を送っているせいで女の胸を揉むのは無理だと諦めた。

それに借金まであったので迷惑が掛かるので女と距離を置いていたまである。

 

 

(公安で働く今なら胸を揉めるかもしれねぇ…)

 

 

だが、公務員はお給料が安定している。

公務員は女にモテるって風の噂で聞いた事がある。

 

 

(いきなり抱くのは難しいけど胸なら強い意志と行動力があればワンチャン揉めるんじゃ…)

 

 

通りかかった女の人に抱き着くどころかおっぱいを揉むのは難しい。

でも仲良くなった女の人とデートすれば胸くらい揉ませてくれるかもしれない。

「お前以外は本気でやってるんだよ」と先輩も言ってた事だし、あとはやる気次第。

 

 

(そういう事だったのか、理解したぜ!俺の本気!俺のゴール!それは胸だ!)

 

 

目標があるのは大事である。

前までは借金返済という目標があったが、あまりにも無理だったので諦めてしまっていた。

だが、今は違う。

 

 

「まずは胸を揉む!そしたらそん時に新たなゴールを考えたい!!」

 

 

さっそくデビルハンター東京本部に戻ったデンジは、早川先輩に挨拶して別れた。

そのまま忘れない内に相談に乗ってくれる金髪のおっさんのところに逢いに行った。

そして冒頭で「おっぱいを揉むのを自分の目標にする」と断言した。

 

 

「……まあ、生きる目的を作るのは大事だ。それ自体は恥ずかしい事じゃない」

「やっぱ、そうっすよね!!みんなも女の子の事を考えたりしてますぅ?」

 

 

見下されるかと思ったが意外に好反応であったので更にデンジは質問する。

世の中の男は、下半身で物事を考えているのかと質問してしまった。

 

 

「そりゃあ、女の子にモテたいというのは男の本性だしな、大体そうじゃないか」

「ですよね!!」

 

 

同年代の奴には相談できないデンジはおっさんに相談する事しかできなかった。

アキ先輩に相談するには逆に男のプライドが邪魔をしたのだ。

ただでさえ怒られているのだから女がらみの相談くらいは避ける。

そんな理性まであった。

だが、それだと女について進展がない。

 

 

(そうだ、女と仲良くなるコツを聴いておこ!)

 

 

なにかと自分に合わせてくれるおっさんに自分に対してアドバイスをもらう事を思い付く。

 

 

「先輩!馬鹿な俺に女と仲良くなる方法を教えてください!」

 

 

目の前に居るのが男女の関係に強く影響する結婚の悪魔とはデンジは気付かなかった。

それでも相談する相手は間違っていない。

男女と結ばれる概念の名を冠する悪魔なのだから。

 

 

「そうだな、女の子は自分の事を良く見てくれる男が好きだと思うぞ」

「例えば!?」

「困っている時に積極的に手伝ってあげるとかさ」

 

 

デンジは今更、漢字や算数の勉強をする気はない。

学校に憧れはあるが、今の仕事を続ける限りは無理なので諦めた。

 

 

(女にモテる方法!女の抱き方!!保健体育くらいはマスターしてやるぜ!)

 

 

思春期を迎えた中学生が背伸びして保健体育の教科書を見回す生理現象。

女の身体について必死に学ぼうと喰らいついて行く。

 

 

(…まあ、本人が楽しければいいか)

 

 

必死に女について考えているデンジに結婚の悪魔はしっかりと彼に向き合う。

結婚というのは、自分から踏み出さない限り、成立しないのでその心意気に心が打たれた。

 

 

「まずはマキマさんについてききたい事が…」

 

 

ただし、マキマについて何度も訪ねて来るデンジに呆れを通り越してうんざりする。

いっそ、自分が女に化けてデンジを指導してやろうかと思ったほどだ。

 

 

(応援してるぞ少年、せいぜい足掻いてみせろ)

 

 

良くも悪くも結婚の悪魔がデンジの成長を願っていたのは間違いなかった。

だから何度も彼の相談に乗る事となる。

いつか、幸せな結婚ができるようにと。

――まさか僅か数か月もしない内に彼女を作るほど成長するとは思わなかったが。

 

 

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