デンレゼが足掻く度に不幸になるケッコンの悪魔さん   作:Nera上等兵

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50話 FND 1996年 新東京国際空港 緊急着陸事故

 

 

This is a strange story.

It is based on official reports

and eyewitness accounts.

これは奇妙な話であり、

公式報告と目撃者の証言で構成されています。

 

 

 

 

明らかに異常事態が発生したのにボーイング737は離陸を続行した。

これにより、公安のデビルハンター実働部隊トップのマキマと公安対魔特異4課の係長が動く。

 

 

「公安警察だ!この旅客機に重大な欠陥が露見した為、速やかに近隣の空港に着陸要請をせよ!」

 

 

ハイジャックが発生したのに離陸発進をした機長たちに結婚の悪魔は不信感があった。

その為、ドアを蹴破った際に発した言葉に反して機長たちに事情を聴く事にしていた。

ところが、操縦席に座っているのは人間ではない。

 

 

「航空事故の悪魔の犠牲者か!」

 

 

どこかの犠牲者を操り人形にして操縦していたようだ。

嗅覚で反応できなかったのは、密閉された空間のせいで匂いが漏れなかったのだ。

死体ならまだよかったが、白骨死体とは恐れ入った。

 

 

「困った。これじゃ支配できないね」

 

 

白骨死体を用いて遠隔操作で航空機を操縦していた事実は、マキマすら困惑させた。

既に手を打ったとはいえ、部下の行動だけでは【目的】が達成できないと予想を立てていた。

いざとなれば、パイロットを操れば良いと考えていた彼女は自分の考えが甘いと分からされた。

だが、先に操縦席に乗り込んだ結婚の悪魔はそれどころじゃない!

 

 

(Master(マスター) Caution(コーション)*1が点灯してやがる…)

 

 

パイロットに機内の異常を知らせる【MASTER CAUTION】の警告灯が点灯し、警告音が鳴っている。

だからトラブルが発生したと気付いたが、真っ先にオートパイロットになっている事を確認した。

 

 

(まあ、オートパイロット*2だし、まずはドアを戻して他の警告灯の確認でもするか)

 

 

この警告灯自体は、危険を知らせる以外に意図はなく、問題に対処すれば大した事はない。

 

 

(これでよし…と)

 

 

さくっと床に落ちていたドアを元に戻して自分の肉片を接着剤代わりにして固定した。

そして現場検証できる時間の余裕があると結婚の悪魔は判断し、ゆっくりと原因を探った。

 

 

「ゲッ!?機内火災が発生してやがる!どこだ!?」

 

 

ところが、【FIRE WARN】の警告灯が点灯しているのに気付いてさきほどの余裕が吹っ飛んだ!

これは、航空機の火災を示しているのだが、どこで火災が発生しているのか全く分からない。

 

 

Quick(クイック) Reference(リファレンス) Handbook(ハンドブック)(QRH)*3はどこだ!?」

 

 

本来ならば座席に着席している状況で取り出せる状態になっているはずである。

だが、この航空機が航空事故の悪魔が調達した機体となれば、話は変わって来る。

 

 

「……あった!」

 

 

緊急用手順書を発見した結婚の悪魔は、計器を時折確認しつつ火災の項目を探す。

 

 

(……これ、メインデッキじゃね?)

 

 

チェックリストで判断する限り、【MAIN DECK FWD】、つまり機内の前方で火災が発生している。

貨物機だったら空調をオフにして貨物室の圧力を下げて酸素を抜くが、旅客機はそれができない。

だが、ここで疑問に思う。

 

 

(ホントかこれ?)

 

 

メインデッキ、要するにさきほどまで自分が居た場所で火災は感知していない。

そもそもこの航空機は、航空事故の悪魔の管理下にある。

 

 

「マキマ部長、隣の席に着席を…!?」

 

 

とりあえず、マキマの護衛担当になっている悪魔は彼女に着席を命じようと振り向いた。

 

 

(こ、航空機関士*4の座席!?ボーイング737じゃないのか!?)

 

 

ボーイング737は、機長と副操縦士の2名で運航する航空機であり、航空機関士は必要ない。*5

なのでFirst(ファースト) Observer(オブサーバー) Seat(シート)*6じゃない不要な席を目視した悪魔は余計に混乱する事となった。

 

 

(えーっと)

 

 

300型以降では垂直尾翼の前にドーサルフィンという飛行を安定させる用途があるカーブがある。

それをしっかり確認しているし、双発エンジンの小型機といえばボーイング737で間違いない。

そんな事を考えている間にも事態は刻一刻と悪化を辿っている。

 

 

「ブラックボックス*7のブレーカーを落としたよ」

「なにやってんだテメェ!?」

 

 

一方、マキマは航空事故の調査に使うブラックボックスの電源を落としたと報告をした。*8

多少であるが、航空機の知識がある悪魔は、この報告を受けて思わず本音で絶叫する事となった。

後に調査をするNTSB(エヌティエスビー)*9ARAIC(エーアルエーアイシー)*10、応援に駆け付けたBEA(ビーイーエー)*11の事故調査官も涙目である。

 

 

「私はトップシークレットの存在だからね。音声や記録が残るとまずいかと思って…」

「検閲すれば良い話だろうが!!」

 

 

まるで映画の出来事を体験しているような態度を取るマキマを見て結婚の悪魔は困惑する。

一応、エリート設定のはずなのだが、残念美人さんムーブをする意図がさっぱり分からない。

とりあえず彼女のせいで外部と交信する度にAudio(オーディオ) Control(コントロール) Panel(パネル)*12を弄り回すのが確定した。

 

 

「で?どうするの?」

「本来だったらチェックリスト通りにしますが…」

「しますが?」

「自分から分裂した存在に火災が発生しているのか調査させます」

 

 

機内火災が発生したら、真っ先にパイロットは酸素マスクを付けなければならない。

だが、火災警報が誤報であるならば、逆にそれを付けるのはまずいと判断。

とりあえず、火災が発生しているのか分裂体に調査させる事となった。

 

 

「…まあ、邪魔されるわけなんですが…」

「肉体に憑りつくタイプみたいだね、君の敵じゃなかったけど」

 

 

一瞬だけ操縦席から視線を逸らした瞬間、白骨死体が動き出したのですぐさま殴打で粉砕した。

相変わらず部下が結婚の悪魔らしくない野蛮っぷりにマキマは逆に感心する。

 

 

「操縦できるの?」

「あんたが航空機を用いる計画を聞いて嫌な予感がしてね、一応、操縦くらいは勉強し直した」

 

 

マキマの発言を受けて思い浮かべるのは、どの分裂体にも継承させていない記憶であった。

機長の彼氏から馬鹿にされる中、必死に作り笑いをやった苦い思い出がフラッシュバックする。

 

 

『君は“Basic(ベーシック) T(ティ)*13すら分かんないの~?教官の資格がある僕の彼女になるには失格だな~!』

 

 

結婚の悪魔と名乗る悪魔がコイツとは「絶対に結婚したくない」と言わしめた唯一の存在だった。

だが、頑張って彼と付き合った結果、PFD(ピーエフディ)*14に表示される画面の内容を理解できる。

淑女を演じて来たおかげで航空機の知識を豊富に得られたのは、不幸中の幸いだと言えよう。

 

 

(…あいつに比べれば、マキマの方が100億倍マシだが、コイツに介入して欲しくないな…)

 

 

だからといってマキマに能力を行使されたり、操縦してもらいたくない。

仕方なく機長席にあったヘッドセットを着けようとした瞬間、別の警告音が鳴った!

 

 

「今度は何の警報?」

Takeoff(テイクオフ) Configuration(コンフィギュレーション) Warninig(ウォーニング)(離陸警報装置)*15が作動した音かと……ん?」

 

 

新たに発生した警告をマキマに報告した結婚の悪魔は、すぐに違和感に気付く。

航行中に離陸警報装置が鳴る訳がない。*16

なにより美女に化けた自分にマウントを取る元カレが別の警告も同じ音だと教えてくれた。

ツインジェット・フライトシミュレーターのコックピットで鳴らされたのでよく覚えている。

 

 

(あっ…)

 

 

慌てて与圧システムが手動になっていないか確認したが、【MANUAL】の表示灯は点いていない。

だが、頭上前方パネル*17にあるCabin(キャビン) altimeter(アルティメーター)(客室高度計)*18に異常があった。

客室高度*19を示す長針が本来ならあり得ない1万フィートを示している。

しかもオートパイロットで機体が上昇しているので更に数値が増えている有様だった!

 

 

Cabin(キャビン) Altitude(アルティチュード) Warninig(ウォーニング)(客室高度警告)だああああ!! 酸素不足でみんな死ぬぞコレ!?」

 

 

客室高度を8000フィート*20に抑えないとまずいと結婚の悪魔は知っている。*21

故に今、鳴っている警報が客室高度警告*22だと気付いた!*23 *24

なんで江の島*25の遊覧飛行でアホみたいに上昇する必要があるかは分からない。

ただ、さっさと急降下して機内の気圧を増やさないと酸欠でみんな死ぬと理解した!

 

 

「ちょうど火災で酸素マスクが必要だし、勝手にマスクが降りて良かったんじゃないの?」*26

「それでも酸素供給は15分しか持たねぇ!!すぐに高度を調整します!」

 

 

客室高度1万4千フィートになっていないが、火災も発生してるので酸素マスクは必須だ。

結婚の悪魔は、PASS(パス) OXYGEN(オキシジェン) (乗客用酸素スイッチ)*27を手動操作して起動させた。

これにより、客室の天井から酸素マスクが降りて来る事となったが、確認している暇はない。

 

 

「こちらは機長です。シートベルトを腰に填めて酸素マスクを顔に取り付けてください」

 

 

機内アナウンスで簡潔に乗客がやるべき事を伝えてインターホンを切って操縦に専念した。

 

 

「まるで本物のパイロットみたいだね。免許を隠し持ってたりしてない?」

「航空パイロットの免許どころか航空無線通信士*28の国家資格すら持っていません」*29

「ふーん」

 

 

マキマの煽りが自分を探っているのか本音を言っているのか分からない。

ただ、彼女を副操縦士の席に座らせるのは嫌だった。

 

 

「マキマ部長は、後ろにある航空機関士の席に着席をお願いします」

「あれ?私の助力は必要ないの?」

「分裂体の対処で充分です!」

「分かった」

 

 

マキマの発言を聞き流しつつ、座席の後ろに立った結婚の悪魔は、左腕を横に伸ばす。

左手の薬指に填めている結婚指輪から血が噴き出して新たな分裂体を生み落とした。

 

 

「カナデ副操縦士、副操縦席に着席せよ」

「はい」

 

 

結婚の悪魔と契約して無様に死んだ契約者の姿を模した2名の分裂体が血溜りから生える。

スチュワーデス*30だったカナデを無理やり隣の席に座らせた悪魔は、もう1体の自分に命ずる。

 

 

「シュティーバーは基盤に入り込んで機内火災と圧力隔壁*31の調査を頼む」

Verstanden(フェアシュタンデン) (了解した)」

 

 

かつて結婚の悪魔にドイツ語とロシア語を教えてくれた彼氏の姿になった分裂体が憎たらしい。

分裂元が抱いた複雑な感情を誕生して間近で察したのか。

わざわざ生み出した本人にドイツ語で煽った後、液状化して基盤の隙間から内部配線に侵入した。

 

 

「カナデ副操縦士、フライトプラン*32と航空図*33があるか確認してくれ」

「承知しました」

 

 

航空事故の悪魔が遠隔操作で機体を操っていた以上、大した期待はしていないが、捜索を命じた。

 

 

「どんな飛行をしているか分からんから相手から報告してもらうか」

 

 

捜索結果を待つ間に周りに状況を報告するべきだが、そもそもどこに居るのか分からない。

その為、結婚の悪魔は開き直ってTransponder(トランスポンダ)(自動応答装置)*34の数値を弄った。

ハイジャックがあったので本来だったら番号を7500を入力するべきだが、今は必要ない。

与圧システムの異常と機内火災を受けて7700と入力し、緊急事態が発生したと周りに知らせた。

 

 

Squawk(スコーク)77(セブンセブン)*35、これで向こうから連絡が来る。…しゃあねぇ、やるか!」

 

 

さすがに航空機を操縦できる自信はないが、ウザかった元カレの機長のおかげで知識はある。

覚悟を決めた結婚の悪魔は、無線の周波数を東京コントロール*36に合わせる。

おそらく関東西の管理区だと思ってその周波数に設定し、ヘッドセットを身に着けた。

 

 

(東京国際空港(羽田空港)に向かう…!あそこなら多少の地理が分かる)

 

 

そして酸素マスクを着用し、マイクが正常に機能するか確認した後に口を開く。

 

 

Tokyo(トウキョー) Control(コントロール), KATAMICHI(カタミチ) AIR(エア)49(フォナイナー)request(リクエスト) from(フロム) immediate(イミーディエト) trouble(トラブル)

(東京コントロールへ、カタミチ航空49便から緊急トラブルの申請をします)

 

Trouble(トラブル) request(リクエスト) divert(ダイバード) to(トゥ) HANEDA(ハネダ), request(リクエスト) descent(ディセント) to(トゥ) and(アンド) maintain(メインテイン) 80(エイトゼロ) over(オーバー)

(トラブル申請で羽田空港に目的地を変更、8000フィートまで降下し維持したい。どうぞ)

 

 

混線した無線の中で東京コントロールの名が聴こえたので間違いなく伝わったと確信した。

 

 

Roger(ラジャー), approved(アプルーヴド) as(アズ) you(ユー) request(リクエスト)

(了解、貴機のご要請を承認しました)

 

 

受け手が不明だったが、要求が承認されたので結婚の悪魔は更に要望を出す。

 

 

Radar(レーダー) vector(ベクター), please(プリーズ)

(レーダー誘導*37をお願いします)

 

Roger(ラジャー), you(ユー) want(ウォント) right(ライト) or(オア) left(レフト) turn(ターン)?》

(了解、貴機がしたいのは右旋回ですか。それとも左旋回ですか?)

 

Going(ゴーイング) to(トゥ) left(レフト) turn(ターン), over(オーバー)

(左旋回をするつもりです。どうぞ)

 

 

左側にある機長席に座る結婚の悪魔の応答を聞いて隣に座る結婚の悪魔は思った。

 

 

(コレ、私必要なくない?)

 

 

さきほど分裂して誕生したカナデ副操縦士は、地図を発見したが報告できるタイミングが無い。

仕方なく計器やガラスと睨めっこをしていたが、計器すらどれを示しているのか分からなかった。

 

 

Left(レフト), Heading(ヘディング) 30(トゥリーゼロ) descend(ディセンド) and(アンド) maintain(メインテイン) flight(フライト) level(レベル) 80(エイトゼロ)

(左折、方位30に8000フィートまで降下して維持せよ)

 

 

航空管制官の指示を聞いて機長席に座る結婚の悪魔は復唱をする。

 

 

Roger(ラジャー), Heading(ヘディング) 30(トゥリーゼロ) descend(ディセンド) and(アンド) maintain(メインテイン) flight(フライト) level(レベル) 80(エイトゼロ)

(了解、方位30に8000フィートまで降下して維持せよ)

 

 

機長の発言に続いて副操縦士の結婚の悪魔も今さっき聞いた異国語をうろ覚えで復唱をする。

 

 

「ラジャー!ヘディングシュート、スリーアウトチェンジ。 メインテーマはフライトエッチ」

 

 

2人で発言し、これからの行動を確認する業務なのだが、やはり違和感がある。

英語のリスニングどころかアルファベットすら分からないカナデ副操縦士は不満である。

 

 

(なんで知識や技能をくれなかったの…!?全く分かんないんだけど!?)

 

 

だって機長の結婚の悪魔だけが全てを理解してオートパイロットに設定を入力しているのだから。

ちなみに副操縦士の復唱が大惨事になるのを機長は察してその瞬間だけマイク音量をゼロにした。

 

 

KATAMICHI(カタミチ) AIR(エア)49(フォナイナー), Recuest(リクエスト) your(ユア) nature(ネイチャー) of(オブ) emergency(イマージェンシー)?》

(カタミチ航空49便へ、どのような緊急事態でしょうか?)

 

Cabin(キャビン) pressure(プレッシャー) issue(イシュー) and(アンド) fire(ファイヤ) in(イン) the() cabin(キャビン)

(客室与圧問題および客室火災)

 

《...Cabin(キャビン) pressure(プレッシャー) issue(イシュー) and(アンド) fire(ファイヤ) in(イン) the() cabin(キャビン), Roger(ラジャー) understood(アンダーストゥッド)

(…客室与圧問題および客室火災、了解。理解した)

 

 

どうやらスコーク77にした原因を管制官は知りたいらしい。

結婚の悪魔が緊急事態の内容を告げると相手は少しだけ黙り込んだ後、理解したと報告した。

ここでマイクを切った機長は、機内に潜伏して調査している結婚の悪魔と連絡を取る。

 

 

「シュティーバー、機内火災と圧力隔壁はどうなったか日本語で報告せよ」

「機内火災はコックピットと客室にあった配線の一部を焼いてまして既に鎮火しました」

「なるほど、圧力隔壁はどうだった?」

 

 

ひとまず火災が鎮火したと知って警報を切って次の報告を求めた。

 

 

()()()()()()()()()()()

「家にANA(アナ)?全日空*38がどうした?まさかこの機体がそうだと言うんじゃないだろうな?」

 

 

だが、機内を調査した結婚の悪魔が発した「機体に穴がある」という発言が信じられなかった。

そんな物があったらすぐに機体がバラバラになっているからだ。

さきほどまで英語で喋っていたので聴き取りミスをしたと思って再度、問いかける事にした。

 

 

「…すまん、ちょっと聴き取れなかった。ドイツ語でもう一度、発言してくれ」

Es(エス) gibt(ギプト) ein(アイン) Loch(ロッホ) im(イム) Flugzeugboden(フルークツォイクボーデン)!(機内の床に穴が空いてます!)」

Ist(イスト) das(ダス) dein(ダイン) Ernst(エルンスト)?(これはマジで言ってんの?)」

Ja(ヤー), genau(ゲナウ)!(はい、そうです!)」

 

 

Flugzeugboden(フルークツォイクボーデン)(航空機の床)という単語を聞いたので本当に穴が空いていると理解した。

そういえば、マキマの反応が薄いと感じた結婚の悪魔は振り向くと…。

 

 

(なに楽しんでいるんだコイツ)

 

 

危機的状況に関わらず、マキマは現在の状況を楽しんでいる様だった。

ミステリアスな美女が見せる笑顔はデンジに効果抜群だが、結婚の悪魔には通用しない。

 

 

(コイツが他人事なら航空事故の悪魔は手を出していない状況…か?)

 

 

そういえば、さきほどから爆発音がしているが、マキマの手下が交戦しているのだろうか。

ドアを固定したせいで密室になったので嗅覚では航空事故の悪魔の居場所を感じる事ができない。

 

 

Übrigens(ユーブリゲンス) wurden(ヴルデン) Denji(デンジ) und(ウント) Reze(レゼ) aus(アウス) dem(デム) Loch(ロッホ) im(イム) Flugzeug(フルークツォイク) herausgesogen(ヘラウスゲゾーゲン)

(ちなみにデンジとレゼは飛行機の穴から吸い出されたよ)

 

Warum(ヴァルム) berichtest(ベリヒテット) du(ドゥ) nicht(ニヒト)!?」

(何故報告をしない!?)

 

Es(エス) gab(ガープ) keine(カイネ) Meldepflicht(メルデプリヒト), und(ウント) den(デン) beiden(バイデン) geht(ゲート) es(エス) gut(グート)

(報告義務はなかったし、2人は無事だからです)

 

 

一連の報告で客室の与圧がなんで可笑しいのか機長を演じる結婚の悪魔は理解した。

だが、新たな疑問が生じる。

デンジとレゼ、そして航空事故の悪魔はどこに行ったのかという疑問である。

 

 

Wie(ヴィー) ist(イスト) der(デア) aktuelle(アクテュエレ) Status(シュタトゥス) von(フォン) Denji(デンジ) und(ウント) Reze(レゼ)?」

(デンジとレゼの最新状況はどうなってる?)

 

Die(ディー) beiden(バイデン) kämpfen(ケンプフェン) gegen(ゲーゲン) den(デン) Teufel(トイフェル) der(デア) Flugzeugabstürze(フルークツォイクアプシュテュルツェ)

(2人は航空事故の悪魔と戦っています)

 

 

ここでコイツを生み出した時にレゼの契約関連を任せた事を思い出した。

もう一度マキマの方を振り向くと、彼女は右手の人差し指で彼らが居る場所を示す。

 

 

(お前ら!!分かってて黙っていたなァ!?)

 

 

必要がなくなった酸素マスクを外した結婚の悪魔は、報告をしなかった分裂体に八つ当たりする!

 

 

「シュティーバー、体を張って機内の穴を塞げ!!」

Verstanden(フェアシュタンデン) (了解した)」

 

 

ドイツ語が喋れなくなるほど怒り狂った分裂元は、分裂体の肉体で床の穴を塞げと命じた。

ついでにジェスチャーでレゼ関連でなんかあったら容赦しないと示した。

 

 

KATAMICHI(カタミチ) AIR(エア)49(フォナイナー), Acknowledge(アクノリッジ)!》

(カタミチ航空49便、応答せよ!)

 

 

ついでに管制官から呼びかけがあったのでマイクを起動して応答しようとした。

だが、酸素マスクを外した影響で設定の変更に苦戦して応答するまで20秒かかってしまった。

 

 

「...Roger(ラジャー), Go(ゴー) ahead(アヘッド)

(…了解、どうぞ)

 

Haneda(ハネダ) Airport(エアポート) runway(ランウェイ) is(イズ) closed(クローズド ) due(デュー) to(トゥ) a() serious(シリアス) incident(インシンデント). over(オーバー)

(羽田空港の滑走路は重大事故で閉鎖されています。どうぞ)

 

Roger(ラジャー), Tell(テル) me(ミー) the() available(アベイラブル) runway(ランウェイ)

(了解、使用可能な滑走路を教えてください)

 

Roger(ラジャー), Can(キャン) you(ユー) land(ランド) to(トゥ) NARITA(ナリタ)?》

(了解、新東京国際空港(後の成田国際空港)には着陸できますか?)

 

Roger(ラジャー), Ah(アッ)!?」

(了解、え!?)

 

 

なんか管制官の発言が曖昧だったのでどの滑走路なら使えるか質問したつもりだった。

ところが3本もある羽田空港の滑走路が全て使えないらしく成田空港に着陸しろと指示された。

さすがに想定外だった結婚の悪魔は、どんな返答をするべきか迷う。

 

 

「えー」

 

 

とりあえず、思いついた事を発言しようとした瞬間!

 

 

「ぐえ!?」

 

 

爆発音と共に機体が激しく振動し、結婚の悪魔は舌を噛むが、驚異的な再生能力で元通りになる。

 

 

「なんだ!?エンジンか!?」

 

 

痛みと共に真っ先に思い浮かべたのは、エンジンの故障である。

左側の第一エンジンと右の第二エンジンの計器を見るが、異常は見られない。

 

 

「ゲッ!オートパイロットが解除された!?」

 

 

だが、警告音と共に【A/PP/RST】が点灯し、オートパイロットがエラーで停止したと知らせた!

別の警告音も鳴って管制官の呼びかけもあるが、【A/PP/RST】を消灯し、操縦桿を掴む!

そして機体の状態を確認する為にAttitude(アティチュード) indicator(インディケーター)(姿勢指示器)*39を目視する!

 

 

(えー、Pitch(ピッチ) Angle(アングル)*40は18度くらい、Bank(バンク) Angle(アングル)*41は25度、Horizon(ホライゾン)(水平線)が右下か)

 

 

姿勢指示器の表示を読み取る限り、機体が急上昇しつつ左旋回しようとしているのが分かった。

 

 

「いや、この急上昇じゃ失速して落ちる!!戻れ!戻れ!!…かたっ!?なんだこれ!?」

 

 

操縦桿を押して機首下げを試みるが、何故か反応が鈍い上にやたらと動作が固かった。

フライトシミュレーターを触った程度の経験しかないが、通常の感触ではない。

こういう時は、Elevator(エレベータ) Trim(トリム)(昇降舵トリム)*42を使用する。

 

 

Operate(オペレート) the() trim(トリム) switch(スイッチ)Apply(アプライ) nose(ノーズ)-down(ダウン) trim(トリム)!」

(トリムスイッチを操作します!機首下げトリム適用!)

 

 

別に緊急時に行なう動作を英語で宣言しなくてもよかった。

だが、彼氏が罵倒して鉄拳制裁するもんだから、動作をいちいち英語で発言する癖がついていた。

 

 

(嫌な記憶を思い出す…)

 

 

操縦桿にあるStabilizer(スタイビライザー) Trim(トリム) Switch(スイッチ)*43Elevator(エレベータ) Trim(トリム)と言っただけで殴られた事を思い出す。

なんでデートに誘われた女がフライトシミュレーターで暴行を受けるのかと不思議だったものだ。

そう考えてしまったが、すぐに発生した異変で異常に気付く!

 

 

(あれ?)

 

 

Stabilizer(スタイビライザー) Trim(トリム) Switch(スイッチ)を親指で上方向、奥の方に押したのに操縦桿の負担が軽減されなかった。

最初は機能したが、水平尾翼に異常があるのか、すぐに操作がブレて機首下げが上手くできない。

何度もスイッチを奥に押して操縦桿を目一杯に人力で押しているが、むしろ機首が更に上がった。

黒色の円盤であるStabilizer(スタイビライザー) Trim(トリム) Wheel(ホイール)*44が機首下げを示す回転をしているにも関わらずにだ。

 

 

(なんだこれ!?なんだこれ!?)

 

 

1+1=99みたいな解答を出されたような常識外れな状況に結婚の悪魔は本気で困惑した。

一応、操縦桿を押しているおかげで機首が上に傾く動きが鈍くはなっている。

だが、機首下げをしようと精一杯のせいでBank(バンク) Angle(アングル)(バンク角)が35度に到達した。

 

 

(そもそもRowling(ローリング)*45が可笑しい!!何故ここまで動かん!?)

 

 

左斜め上方向で旋回しようとする動きを操縦桿の操作で戻そうとするが、上手くいかない。

 

 

Rolling(ローリング) left(レフト), adjusting(アジャスティング) aileron(エルロン) trim(トリム) right(ライト)

(左に傾くので、エルロン・トリムを右に調整します)

 

 

操縦桿の操作で上手くいかないならトリムを使うしかなかった。

後部電子機器パネルにあるAileron(エルロン) Trim(トリム) Switch(スイッチ)*46を操作するが、機体の傾きが水平にならない。

 

 

Aileron(エルロン)*47(補助翼)が死んだか!…クソが!!)

 

 

そもそも機能していないので別の手段を取る必要がある。

やむを得ず、右のRudder(ラダー) Pedal(ペダル)*48を踏み込んでRudder(ラダー)(方向舵)*49を右折させる。

これにより、尾翼に当たる風が変化し、左側に揚力が働くので強制的に右にYawing(ヨーイング)*50する。

 

 

(曲がんねぇ…!というかペダルもなんか可笑しい!?)

 

 

要するに垂直尾翼で発生する動きだけで機体を右旋回しようとしたが…無理だった。

このままだと機体がひっくり返るのだが、習った操作では対処はできなかった。

1990年代のボーイング737は方向舵の異常で事故が相次いでいたので今回も同じだと判断した。

 

 

「ぐっ!!これなら…行けた!」

 

 

なので逆転の発想をする。

人力で操作できないのなら悪魔の力を使えばいいと!

更に両腕を生やして操縦桿を4本の手で握り締めて人外の力で押すと、機体の姿勢が安定した。

 

 

(まさかMANUAL(マニュアル) REVERSION(リバージョン)(筋肉式人力操縦)をするとは…)

 

 

ボーイング737は、最新鋭機と違っていざとなれば人力でワイヤーを引っ張って操縦できるのだ!

もちろん、操縦の手間はさきほどの比ではない。

安定している隙にさきほど弄ったトリムを元に戻して動きの確認をする羽目になった。

 

 

「ああっ!?今度は下降か!」

 

 

なんとか機体が10度傾く程度までに持ち込んだが、ここで逆に機体が下降した。

操縦桿を思いっきり引いて機首上げを行なうが、何故か左に傾こうとする動きが止められない。

 

 

「…まともなのはエンジンだけ…か?」

 

 

何故か好き勝手に上下する運動と機体の傾きが永続しているので対策をする必要がある。

さきほど確認したところ、まともに機能しているのは、双発エンジンのみらしい。

よってThrust(スラスト) lever(レバー)*51を操作する為に結婚の悪魔は自身の胴体から両腕を更に生やす。

 

 

(ムムム!この動作に既視感がある。あれだ、2つの履帯の動きの差で曲折するシャベルカーだ)

 

 

最初はシャベルカーを右折させるノリで双発エンジンの出力差を調整していた。

そんなノリで試行錯誤していると、この暴れ馬の法則性が見えた。

機体が降下した時にレバーを前に倒して速度を上昇させると何故か機首が上昇した。

逆に上昇した時にレバーを後ろに倒して減速すると機体が下降しようとする動きに気付いたのだ。

 

 

(なーにこれ)

 

 

速度を落とす為に機首上げをするのではなく【機首上げ】をする為に加速する。

速度を速める為に機首下げをするのではなく【機首下げ】をする為に減速する。

パイロットの目的と手段が逆になっているが、これで一応は操縦できている。

 

 

(……いや、どんどん悪化してるぞ!?)

 

 

だが、桁違いな戦闘力を持つ悪魔の力をもってしても機体の制御がしにくくなってきた。

必死に原因を探っている悪魔であったが、その原因を知らせるかのように警告音が聴こえた。

 

 

(なんか嫌な予感がする…!)

 

 

操縦が比較的安定し、原因分析をする余裕ができた結婚の悪魔は表示されていた警告を確認する。

 

 

LOW(ロー) PRESSURE(プレッシャー)(圧力低下)?」

 

 

【LOW PRESSURE】が点灯しているのを見て真っ先にCabin(キャビン) Pressure(プレッシャー)(客室与圧)を疑った。

しかし、とっくに気付いて高度を下げているので気圧問題でこれが点灯するのは可笑しいと判断。

残った二択であるHYD(ハイド) PRESS(プレス) LIGHT(ライト)(油圧警告灯)とFUEL(フューエル) PRESS(プレス) LIGHT(ライト)(燃料圧警告灯)。

どっちも点灯して欲しくない警告灯だが、頭上前方パネルをしっかりと確認する羽目になった。

 

 

「あっ……」

 

 

HYD(ハイド) PUMPS(ポンプス)(油圧ポンプ)のsystem(システム) A(エー)にある2つの【LOW PRESSURE】が点灯している。

慌てて計器を見るとsystem(システム) A(エー)*52の油圧が完全に無くなっていると示していた。

 

 

「おい、ふざけんな!!油圧システムの1つが完全に死んでるじゃねぇか!!」*53

 

 

【OVERHEAT】の警告灯は点灯していないが、原因は大体察した。

機体の穴が広がった影響でその下を通っているsystem(システム) A(エー)が破損したと推理したのだ。

実際はレゼの爆弾により垂直尾翼が破損し、その部品が油圧ケーブルを破壊したのが原因である。

 

 

(やっぱ、YAW(ヨー) DAMPER(ダンパー)*54の警告灯も点灯してやがる!)

 

 

ついでに【YAW DAMPER】の警告灯*55がオレンジ色に点灯しているのを目撃した。

これによりYawing(ヨーイング)の動きが可笑しいと判断したのは間違いでは無かったと理解する。

 

 

(えー、あの機長は何て言ってたっけ?)

 

 

激しく揺れる操縦桿を受け止めつつクソピザデブ機長の発言を必死に思い出す結婚の悪魔は…。

Aileron(エルロン)(補助翼)などの操作とLanding gear(着陸ギヤ)*56が使えなくなったと理解した。

ついでに上下の揺れの正体は、Phugoid(フゴイド) motion(モーション)(フゴイド運動)*57の影響だと分かった。

 

 

「……大丈夫、油圧システムを1つ失ったところで飛べるし、緊急用手順書(QRH(キューアールエイチ))もある」

 

 

さっそく2本の腕を胴体から生やして操縦席の横に置いた緊急用手順書を手に取る!

ページをめくり、『LOW PRESSURE -Hydraulic Pump System A (both)』という項目を確認する。

特定のページを参照しろという事でそこを見ると『LOSS OF SYSTEM A』の題名があった。

 

 

Execute(エクセキュート) LOSS(ロス) SYSTEM(システム) A(エー) Checklist (チェックリスト)!(システムA 喪失チェックリストを実施する!)」

「はい!」

「はいじゃないが」

「じゃあ、いいえ!」

「…そうじゃない」

 

 

人間が定めたルールに基づいてチェックリストと読んだのに分裂体は空気を読まない。

だが、それを訂正している暇すら無かった。

6本腕で操縦しつつ、別の両手で開いたチェックリストの内容が正しいか確認する事にした。

 

 

Hydraulic(ハイドリック) System(システム) A(エー) pressure(プレッシャー) is(イズ) low(ロー)(油圧システムAの圧力低下)で間違いないよな?」

「はい、そうです!」

 

 

チェックリストは読み上げて相手に確認してもらう手順があるのでお飾りの副操縦士に確認した。

航空無線のやり取りがタダ漏れの状態でルールを破れないので確認をしたが…苦痛だった。

 

 

Step(ステップ) 1(ワン). System(システム) A(エー), FLT(フライト) control(コントロール) switch(スイッチ)......Confirm(コンファーム)......STBY(スタンバイ) RUD(ラダー)

(手順1、システムA、フライトコントロールスイッチ*58……確認……予備方向舵*59

 

 

まずは【FLT CONTROL A】にあるレバーを【STBY RUD】と書かれた場所に動かしてスイッチを押す。

 

 

Step(ステップ) 2(トゥ), HYD(ハイド) PUMP(ポンプ) switches(スイッチ) both(ボース)...... OFF(オフ)

(手順2、両方の油圧ポンプスイッチ……オフ)

 

 

次に【HYD PUMPS】【A】にある【ENG1】【ENG2】のスイッチをOFFにした。

これでエンジン駆動ポンプは切り替わった予備の油圧システムで機能するはずである。

要するにかなりヤバい状態であるが、航空機を着陸させる事が可能になった。

 

 

(さて、念の為にInoperative(イノペラティブ) Items(アイテムズ)(使用不能な項目)も音読しておくか…)

 

 

結婚の悪魔が発言するチェックリストを邪魔したくないのか。

固唾を呑んで無線内容を聴いている様で、ACC(航空管制官)の問いかけは無い。

まあ、4本腕で操縦桿を握りつつ、両腕でエンジン操作しながら手順を確認してるとは思うまい。

なので計器と姿勢指示器を確認しつつ、【Inoperative Items】の項目内容も音読する事にした。

 

 

「は?」

 

 

残念ながらTCAS(空中衝突防止装置)*60はチェーンソーマンを感知する事はできなかった。

ここで結婚の悪魔は、ようやく前方から何かが飛んでくるのに気付く。

驚異的な動体視力により変身したデンジが飛んでくるのを確認したが、回避は不可能だった。

 

 

(あのバカ来やがった!)

 

 

航行中の旅客機に激突する鳥をパイロットが回避できないと同じ理屈である。

とっさに緊急用手順書を切り離した腕で操縦席に貼り付ける事しかできなかった。

 

 

「うげぁああ!?」

「おぶ!?」

 

 

チェンソーマンとなっていたデンジが機長側の窓に激突し、衝撃で窓枠が外れた。

即死した彼はそのまま機内に侵入するが、シートベルトを着用していなかった機長は違った。

ただでさえ何事かと前めりになっていたので気圧差で機外に吸い出されてしまった。

 

 

「危ない!」

 

 

新たな警告灯が点灯し、入り込む暴風で操縦室にあった書類が巻き上がる。

そんな中、デンジの死体が機外に吸い出されようとしたのでカナデ副操縦士は彼の腕を掴む。

 

 

「あばばばば!」

 

 

左手でデンジを掴みながら右手で操縦桿を掴むカナデ副操縦士の頭の中はパンクしそうだった。

それでも使命を果たす為、マイクの音声を切ってマキマの方へ振り向く。

 

 

「マキマ部長、シートベルトの着用を…」

「着けてるよ」

 

 

【マキマの護衛】という使命があるので念の為に彼女にシートベルトの着用をお願いした。

だが、既にマキマはシートベルトを着用していると返答したので改めて割れた窓を見る。

すぐに分裂元が戻って来ると分かっているが、それでもさっさと操縦を代わって欲しかった。

 

 

「チェンソー様!」

 

 

そしたら機内に戻って来たデンジのピンチを感じ取ったのか。

せっかく密閉状態にしていたドアをぶち破ってサメの魔人であるビームが操縦席に侵入してきた。

 

 

「あ!」

 

 

勢いよく突っ込んだビームはそのまま機外に放り出されたが、彼は足掻いたのだろう。

変身したサメの悪魔が視界から消えるのを見送ったカナデ副操縦士は何も見なかった事にした。

「大馬鹿野郎!」という声が外から聴こえたのでなんとかなったのだろう。

 

 

(早く戻って来て!!)

 

 

リスク管理の為に結婚の悪魔の分裂体は、自立した性格と思考を持ち合わせている。

その代わりに分裂元から劣化した知識と技能しか伝達されない。

操縦桿を引けば上昇し、操縦桿を押せば下降するという知識しかない彼女は機長の帰還を願う!

 

 

「そしてお前もだ!!いい加減に鬱陶しいんだよお前は!!」

 

 

目の前に航空事故の悪魔の姿が見えたが、分裂元の攻撃により呆気なく墜落した。

これで一安心する暇もなく機体の姿勢がどんどん傾くせいで副操縦士はパニックに陥る!

 

 

「代わって!代わってェ!!」

 

 

魔人に戻したビームを掴みながら操縦席に戻って来た分裂元に操縦を代わるように懇願した!

 

 

「何を!?自分だってできない」

「ええっ!!?」

 

 

だが、機長になった結婚の悪魔は、カナデ副操縦士が何を代わって欲しいのか分からない。

操縦なのか、航空無線*61の応答か、エンジン出力の調整をして欲しいのかさっぱり分からない。

なので詳細を言わないと分からないと発言したが、言葉足らずで操縦放棄に聴こえてしまった。

 

 

「操縦を代わって!!」

「じゃあ、席も代われ!!機長側のヘッドセットとPitot(ピトー) tube(チューブ)(ピトー管)*62が破損した!」

「はい!」

 

 

航空機のピトー管は、航空機の速度を決定づける重要なセンサーである。

機外に飛び出したビームを救助した時にピトー管が破損したので機長側の計器が狂ったのだ。

副操縦士側の計器表示に切り替えればいいのだが、ヘッドセットも壊れてしまった。

 

 

「ついでにビームとデンジを安全地帯に運んでドアを閉じ直してから機長席に着席しろ」

「分かりました。操縦をお願いします」

 

 

分裂元の指示により液状化したカナデ副操縦士は、ビームとデンジの足首を掴む人間体に戻った。

その代わりに液状化で副操縦席に潜り込んだ結婚の悪魔は人間体に戻って操縦桿を握った!

 

 

I(アイ) have(ハブ) the() aircraft(エアクラフト)(自分が航空機を操縦します)」

「はい、お願いします」

 

 

Pilot(パイロット) Flying (フライング)*63を宣言し、操縦権を明確にした。

それを確認した彼女は、気絶したビームとミンチより酷い状態のデンジを機体後方に運ぶ。

 

 

(危なかった…キャプテン・ストライク*64はさすがに機体は持たん…)

 

 

マキマと同じく弱点がある代わりにギミックのおかげで不死身に近い悪魔は冷や汗を掻いた。

バード・ストライク*65ならともかく人体が稼働しているエンジンに吸い込まれるとどうなるか。

想像するだけでうんざりし、ビームが機外に飛び出してくるのも予想外過ぎた。

 

 

(つーか、垂直尾翼*66が破損してたんだが!?そりゃあ安定して飛べんわ!!)

 

 

機外から飛び出す事故があったが、その際にとんでもない物を見てしまった。

垂直尾翼の一部が破損しており、Rudder(ラダー)(方向舵)も先端が欠けて変な方向に傾いていた。

だから安定して飛べないと理解したが、ピトー管が破損したせいで更にヤバい事になった!

 

 

「成田まで飛べそう?」

「飛べると思いますか?」

「小腹が空いたから成田に着いたらレバノン料理*67を食べたいな。頑張って着陸させてね」

 

 

航空無線に音声が残らない状況になったおかげでマキマが質問してくる。

相変わらず当てつけで質問してくるようで結婚の悪魔は腹が立つ!

 

 

「クソがああああ!!今、言う事じゃねぇだろ!?」

「音声が残らないからってそれは酷くない?平常心で居る事も大切だと思うけど?」

「うっせぇよ!!悪魔の討伐手続きの帰りで買った小田原かまぼこ*68でも喰ってろ!!」

「やっぱり、隠し持ってたね。私の嗅覚は誤魔化せないよ」

 

 

桁違いな腕力を持ってしても制御できない操縦桿を握りながら悪魔は叫ぶ!

近寄って来たマキマの挑発を受けてカマボコを手渡して元の席に着いてもらった!

1秒間だけエンジン推力を制御する操縦装置から左手を離しただけだが、生きた心地はしない。

 

 

「戻りました!」

「操縦席に座ってそこにある本を手に取れ」

「了解です!」

 

 

ようやく戻って来たカナデ副操縦士に機長席に座って緊急手順書を持てと命じた。

Phugoid(フゴイド) motion(モーション)(フゴイド運動)が激しくなり、機体の制御ができなくなりつつある。

 

 

「…アメリカ語が読めません!!」*69

「ああ、もう…!」

 

 

しかし、お飾りの存在なので英語がさっぱり分からなかった。

分裂体の報告を受けて分裂元は、記憶と技能を継承させる為に体内から道具を取り出す!

 

 

「ほんやくこんにゃく!!」(生芋こんにゃく血塗れver.)

 

 

あとで食べようと思っていた『生芋こんにゃく』*70を血塗れにして差し出した。

まるで四次元ポケットから秘密道具を取り出すノリで発言したのでマキマもこれにはご満悦。

 

 

Connect(コネクト)

 

 

カナデ副操縦士がこんにゃくを受け取った瞬間に仕掛けを発動した!

これで英語力とドイツ語力、操縦技能と知識の一部を彼女に継承させた。

そして副操縦席のヘッドセットを身に着けると航空管制官の声が聴こえて来る。

 

 

KATAMICHI(カタミチ) AIR(エア)49(フォナイナー), Acknowledge(アクノリッジ)!》

(カタミチ航空49便、応答せよ!)

 

 

マキマに合図を送った後、マイクの起動したが、あえて管制官の呼びかけに応えない。

機体の傾きが更に広がる中、先に中断したチェックリストをやる事にする。

 

 

Execute(エクセキュート) LOSS(ロス) SYSTEM(システム) A(エー) Re(リー) Checklist (チェックリスト)!」

(システムA 喪失再チェックリストを実施する!)

 

 

後に航空無線の記録を傍聴した事故調査員の全員が本気で困惑するチェックリストが始まった。

今回は分裂元となった結婚の悪魔の英語力を身に着けたカナデ副操縦士が読み上げる形となる。

 

 

Hydraulic(ハイドリック) System(システム) A(エー) pressure(プレッシャー) is(イズ) low(ロー)?(油圧システムAの圧力低下か?)」

Affirm(アファーム)(その通り)」

 

 

問題なく英語で発言ができているカナデ副操縦士の質問を肯定した。

 

 

Step(ステップ) 1(ワン), System(システム) A(エー), FLT(フライト) control(コントロール) switch(スイッチ)......Confirm(コンファーム)......STBY(スタンバイ) RUD(ラダー)

Check(チェック)

Step(ステップ) 2(トゥ), HYD(ハイド) PUMP(ポンプ) switches(スイッチ) both(ボース)...... OFF(オフ)

Check(チェック)

 

 

さきほどやったチェックリストなので特に問題がないはずだった。

 

 

「...yeah(ヤー)Anti(アンチ)-Ice(アイス) is(イズ) on(オン)

(…うん?アンチアイス*71が起動している)

 

 

ところが、Step2ができているか確認を終えた時、別の場所で異常を発見した。

Step2で触った【HYD PUMPS】(油圧ポンプ)より上方向にアンチアイスの操作盤がある。

さきほど確認した時と違ってアンチアイスがONになっている事に気付いた。

 

 

Did(ディド) you(ユー) touch(タッチ) the() Wing(ウィング) Anti(アンチ)-Ice(アイス)?」

(ウィング・アンチアイス*72を触ったか?)」

 

 

WING(ウィング) ANTI(アンチ)-ICE(アイス)のスイッチがONの位置にあったのだ。

【L VALVE OPEN】【R VALVE OPEN】の表示灯が点灯しているので正常に作動はしている。

だが、真夏日に近づいている東京湾上空で使用する機能ではなかった。

またしてもチェックリストを中断した結婚の悪魔は、分裂体に質問した。

 

 

Don't(ドント) have(ハブ) a() pilot(パイロット) license(ライセンス), so(ソー) I(アイ) can't(キャント) touch(タッチ) it(イット)

(操縦資格がないので触れる訳が無いですよ)

 

Turn(ターン) off(オフ) Wing(ウィング) Anti(アンチ)-Ice(アイス)

(ウィング・アンチアイスを切れ)

 

Negative(ネガティブ), Don't(ドント) have(ハブ) a() pilot(パイロット) license(ライセンス)

(嫌です。操縦資格がありません)

 

 

彼女は弄ってないと返答したのでアンチアイスをオフにしろと命じた。

しかし、彼女は断固として断ったので…またしても両腕を新たに増やしてスイッチを触る。

 

 

Damn(ダム), why(ワイ) is(ィズ) this(ディス) so(ソー) stiff(スティフ)!?...Hmph(フンッ)!!」

(クソッ、なんでこんなに固いんだ!?…フンッ!!)

 

Ah(アッ)!... The() switch(スイッチ) is(イズ) broken(ブロークン)... Is(イズ) this(ディス) okay(オーケー)?」

(あっ!…スイッチが壊れましたけど…大丈夫ですかコレ?)

 

The() light(ライト) went(ウェント) out(アウト) somehow(サムハウ), Good(グッド) enough(イナフ)!... Anti(アンチ)-Ice(アイス) OFF(オフ)!」

(なんか知らんけど表示灯が消えたし、これでヨシ!…アンチアイス・オフ!)

 

Wilco(ウィルコ). Anti(アンチ)-Ice(アイス) OFF(オフ)!」

(了解です。アンチアイス・オフ!)

 

 

なんか知らんが、スイッチが固かったので力を込めたら壊れてしまった。

バキッ!という破損音を聴いて実際に壊れたのを目撃したカナデ副操縦士は英語で指摘をした。

ただ、なんか表示灯が消えたので問題ないと機長が返答したので彼女もそれに従った。

 

 

Let's(レッツ) continue(コンテニュー) with(ウィズ) the() checklist(チェックリスト)

(チェックリストを続けよう)

 

Roger(ラジャー), Step(ステップ) 3(トゥリー). Check(チェック) the() Non(ノーン)-Normal(ノーマル) Configation(コンフィギュレーション) Landing(ランディング) Distance(ディスタンス) table(テーブル) in(イン) ...」

(了解、手順3。異常時構成着陸距離表*73を確認してください…で)

 

Non(ノーン)-Normal(ノーマル) Configation(コンフィギュレーション) Landing(ランディング) Distance(ディスタンス) table(テーブル), End(エンド) of(オブ) checklist(チェックリスト)

(異常時構成着陸距離表、了解。チェックリスト終わり)

 

Umm(アーム)...I(アイ) haven't (ヘヴント) finished(フィニッシュ) the() checklist(チェックリスト) yet(イェット)

(まだチェックリストが終わっていませんが…)

 

Alternative(オルタナティブ) nose(ノーズ) wheel(ホイール) steering (ステアリング) is(イズ) optional(オプショナル) For(フォー) this(ディス) aircraft(エアクラフト). Above(アバブ) all(オール)...」

(この機体は、代替前輪操舵*74がオプション装備だ。なにより…)

 

 

航空機を操縦している結婚の悪魔は、ここで重要な事に気付いてしまった。

このボーイング737は、代替前輪操舵システムがオプション装備となっていたのだ。*75

手動で車輪を降ろす手段が存在する影響なのかもしれない。

 

 

The() Standby(スタンバイ) System(システム) hasn't(ハズント) been(ビーン) functioning(ファンクショニング)!!」

(さっきからスタンバイシステムが機能していない!!)

 

So(ソー), what(ホワット) do(ドゥ) you(ユー) mean(ミーン)?」

(つまり、どういう事?)

 

 

専門用語までは継承できていないカナデ操縦士は、現状が良く分からず機長に質問をした。

だが、それに返答できる余力はなかった。

 

 

Mayday(メーデー), Mayday(メーデー), Mayday(メーデー)!! KATAMICHI(カタミチ) AIR(エア)49(フォナイナー)!」

(メーデー メーデー メーデー!!(緊急事態発生)*76こちらカタミチ航空です!!)

 

Now(ナウ) uncontrol(アンコントロール)!!Now(ナウ) uncontrol(アンコントロール)!!Going(ゴーイング) down(ダウン)!!」

(操縦不能!!操縦不能!!墜落中!!)

 

 

ついにThrust(スラスト) lever(レバー)で双方エンジンの出力差を調整するだけでは制御できなくなった。

ここでFlap(フラップ)*77を展開すれば、減速によって機体が制御できずに墜落に繋がる。

よってフル出力で全力で降下して速度と向かい風で発生する揚力を稼ぐ事しかできなかった。

 

 

Phugoid(フゴイド) motion(モーション)(フゴイド運動)め!!機体を傾けて降下する以外に操作しようが…!)

 

 

高度を9千から7千フィートで蛇行航行していた航空機は、いっきに2千フィートまで急下降する!

この現状に生前はスチュワーデスだった契約者の姿を模している副操縦士が悲鳴を上げる!

 

 

This(ディス) can't (キャントゥ) be(ビー) true(トゥルー)!?Why(ワイ) is(ィズ) this(ディス) happening(ハプニング)!?」

(こんなの嘘でしょ!?何故なんですか!?)

 

 

分裂元に生み出されて無茶ぶりをされた挙句、墜落を味わう彼女は悲鳴を出すしかなかった。

この急勾配の降下でGround(グラウンド) Proximity(プロキシミティ) Warning(ウォーニング) System(システム)(対地接近警報装置)が作動する!

 

 

SINK(シンク) RATE(レート)SINK(シンク) RATE(レート)!》

 

 

まずは降下率を示すSINK(シンク) RATE(レート)の警告を何度も発する。

しかし、警告による奮闘もむなしく2000フィートを切ったところで警報が切り替わった!

 

 

Whoop(ウープ)Whoop(ウープ)Pull(プル) Up(アップ)!》

 

 

専用の警告音と共に「上昇しろ!」とGPWS(ジーピーダブリュエス)がパイロットに向けて警告を発する!

 

 

「そんな事!!分かってる!!」

 

 

もちろん、確認を兼ねた意図した墜落なのであっさりと対処をする。

超高速になったのでBank(バンク) Angle(アングル)50度という機体が分解しかねない角度で右上昇を行なった!

この衝撃で先端が欠けた尾翼で固定されていたRudder(ラダー)(方向舵)が別の方向にねじ曲がる。

 

 

「ふうう……マシになった」

 

 

エンジン出力の差で機体の姿勢を水平に維持してみるが、さっきよりマシになったと実感する。

 

 

(きつかった…)

 

 

機外に放り出された時、破損した影響か、方向舵が4度も傾いて固着していたのを目撃した。

だからエンジン出力調整で時間稼ぎをする間に油圧システムを復活させようとした。

しかし、頼みの綱がほぼ機能してなかったので開き直ったのだ。

 

 

「これは0.5度くらいか…?」

 

 

それほど後方乱気流に当たる方向舵の角度が重要であり、ようやく操縦が可能になったと言える。

本来ならば、さきほどの行動で機体が空中分解するはずだったが、まず機体に穴が空いている事。

そして穴を塞ぐ結婚の悪魔がゴム代わりになって引力を引き受けたので辛うじて機体が耐えた。

 

 

(ふうー)

 

 

今まで操縦していたのは、パラシュートで台風に突っ込むどころの騒ぎじゃない。

それぞれ向きが違うロケットエンジンを掲載した軽自動車に乗っていたようなものだ。

ただでさえ横滑りするのに、それとは別方向にタイヤが固まっているというカオスな状況だった。

それなのに上下運動なんかされたら、人外の力を持った悪魔ですら対処できない。

 

 

KATAMICHI(カタミチ) AIR(エア)49(フォナイナー), Acknowledge(アクノリッジ)!》

(カタミチ航空49便、応答せよ!)

 

 

ようやく管制官の声を聞く余裕ができたが、ノイズが激しい。

コックピットの窓が割れているせいで絶え間なく暴風が吹き荒れるせいで聴き取り辛かった。

しかも、さきほどの操縦で無線機の一部が破損したらしく調整してもノイズを修正できなかった。

 

 

Roger(ラジャー), Go(ゴー) ahead(アヘッド)

(了解、どうぞ)

 

KATAMICHI(カタミチ) AIR(エア)49(フォナイナー), What(ワット) happened(ハプンドゥ)

(カタミチ航空49便へ、何が起きました?)

 

 

発言すると相手側には言語として通じるようでちゃんとした返答が来た。

なので簡潔に状況を伝える事にした。

 

 

Hydraulic(ハイドローリック) failure(フェイラー) and(アンド) Flight(フライト) control(コントロール) problem(プロブレム). Request(リクエスト) emergency(エマージェンシー) landing(ランディング)

(油圧系統の故障および飛行操縦上の問題。緊急着陸を要請する)

 

 

ここで初めて緊急着陸の要請を出した。

これにより最優先で着陸ができる指示が来るはずだった。

だが、今まで結婚の悪魔とやり取りをしていた管制官は、頭の中で処理が追い付かなかった様だ。

 

 

(……ん?やけに反応が遅いな。もう一度言うべきか?)

 

 

客室与圧に機内火災、そして油圧系統に操縦系統に問題があり、さきほど墜落しそうだった。

ずっと付きっ切りで対応してストレスが尋常じゃない彼は、思考が乱れた。

 

 

《...Eek(イーク), I(アイ) am(アム) talking(トーキング) to(トゥ) a() dead(デッド) man(マン)...》

(…ひえっ、俺、死人と喋ってるよ…)

 

 

直訳すると、これから死ぬ人物と会話していると航空管制官が発言した事になる。

さきほどまで操縦に集中していた結婚の悪魔は、この返答にキレて皮肉を返す。

 

 

「...Reply(リプレイ) not(ノット) received(レシーブド), If(イフ) you(ユー) read(リード) me(ミー) instructions(インストゥラクションズ)

(…返答がありません。こちらの送信が聴こえたら指示に従ってください)

 

Disregard(ディスリガード)

(発言を取り消します)

 

 

本来なら管制官が発言する事が多い台詞で皮肉られた相手は慌てて前言撤回を宣言した。

それでも怒りが収まらない結婚の悪魔は更に皮肉を続けようとしたが…。

ここから更にノイズが酷くなった。

 

 

Change(チェンジ) to(トゥ) 1 2 5 . 8(ワンツーファイフポイントエイト), please(プリーズ)

125.8MHz*78に変更をお願いします)

 

「...Switching(スイッチング) to(トゥ) 1 2 5 . 8(ワンツーファイフポイントエイト)

(…125.8MHzに切り替えます)

 

 

ヘッドセットをしていても轟音と警告音でほとんど聞こえないが、辛うじて数字は聴き取れた。

おそらく東京アプローチ*79の周波数に変更しろという指示なのだろう。

無線周波数を切り替えるが、再び機体の制御が難しくなったので応答する余裕はなくなった。

 

 

KATAMICHI(カタミチ) AIR(エア)49(フォナイナー), Contact(コンタクト) Tokyo(トウキョー) Approach(アプローチ) 1 2 5 . 8(ワンツーファイフポイントエイト) over(オーバー)

(カタミチ航空49便、東京アプローチ125.8に連絡してください)

 

 

ここから今まで会話していた東京コントロールから東京アプローチに引き継がれる。

だが、やる事は大して変わっていない。

 

 

KATAMICHI(カタミチ) AIR(エア)49(フォナイナー), Tokyo(トウキョー) Approach(アプローチ) radio(レディオ) check(チェック). How(ハウ)do(ドウ) you(ユー) read(リード)?》

(カタミチ航空49便、こちらは東京アプローチです。無線チェックします。感度はどうですか?)

 

Tokyo(トウキョー) Approach(アプローチ), KATAMICHI(カタミチ) AIR(エア)49(フォナイナー), Nothing(ナッスィング) heard(ハード)

(東京アプローチ、こちらカタミチ航空49便。何も聞こえません)

 

 

悪魔なので常人ではノイズと轟音で聴き取れない単語を辛うじて認識する事はできる。

ただ、もう応答したくないので完全に対話を拒絶し、管制官の声だけを聴き取る準備に入った。

 

 

(……聴こえねぇんだけど)

 

 

ついに無線機が使い物にならなくなった。

VHF(ブイエイチエフ)(超短波)*80を弄ろうが、ヘッドセットを調整しようが、無線を変えても好転しなかった。

念の為にHF(エイチエフ)(短波)*81も触ってみたが、ダメなのでこの機器自体がお釈迦になった可能性がある。

とにかく、音信不通になった事で旅客機がいつ墜落しても可笑しくない金属の塊になった。

 

 

(自分だったら撃墜するなコレ)

 

 

市街地に旅客機が墜落するくらいなら部外者の被害が及ばない郊外で撃墜する方がマシである。

 

 

「マイク・オフ!さて、どうしたもんか」

 

 

多少の専門知識がある結婚の悪魔でもお手上げだ。

マキマの手を借りようとしたところ、カナデ副操縦士が無言で区分航空図*82を手渡してきた。

そういえば、航空図を探す様にと彼女に命じていたのを思い出し、空いていた両腕で地図を開く。

 

 

(ふむふむ、ATIS(エーティエス)*83TCA(ティーシーエー)*84Tower(タワー)*85の周波数が書いてあるのはありがたい)

 

 

当然の事ながらパイロットが必要としている情報が載っている。

VOR(ボル)/DME(デメ)の基地局と周波数も書いてあるので、その気になれば今飛んでいる位置も把握できる。

方位情報を提供するVOR(ブイオーアール)*86と距離情報を提供するDME(ディエムイー)*87を把握すれば、成田空港に行ける。

 

 

(やりたくねぇ…)

 

 

まず、結婚の悪魔は、実機を用いてVOR(ブイオーアール) Approach(アプローチ)*88をした事が無い。

一応、江東か羽田のVOR(ボル)/DME(デメ)を利用した羽田空港へのVOR(ブイオーアール) Approach(アプローチ)の知識自体はあった。

しかし、成田に向かうので佐倉か木更津、北総や成田といったVOR(ボル)/DME(デメ)を利用する必要がある。

 

 

(こんなのできるかバーカ!!)

 

 

管制官による的確な指示が無い限り、結婚の悪魔はVOR(ブイオーアール) Approach(アプローチ)をする気はなかった!

いくら緊急車両でも、周りに居る自動車や赤信号を無視して道路を爆走する事などできやしない。

だからこれからやるべき事は決まった!

 

 

Come(カム) on(オン), you(ユー) peace(ピース) of(オブ) shit(シット)Talk(トーク) or(オア) die(ダイ)!」

(動け、このポンコツが!動けってんだよ!)

 

Don't(ドント) bang(バン) on(オン) the() Radio(レイディオ)!!Focus(フォーカス) on(オン) flying(フライング)!」

(無線機を強く叩かないで!!操縦に集中して!)

 

Okay(オーケー), okay(オーケー), I(アイ) understand(アンダースタンド)...」

(はいはい、分かったよ…)

 

 

なので無線機を強く叩きまくったら同じ結婚の悪魔であるカナデ副操縦士に文句を言われた。

手伝わない癖に記憶と技能を継承して口だけ達者になったトーシロに目に物見せてやる事にした!

 

 

「......Okay(オーケー), The() stupid(ステューピッド) thing(シング) works(ワァークス) now(ナウ). All(オール) it(イット) needed(ニーデッド) was(ワズ) a()kick(キック)”!」

(……よし、このクソポンコツ動いたぞ。ほんの少し“刺激”を与えただけさ!)

 

You(ユー) actually (アクチュアリー) kicked (キックト) it(イット)...」

(本当に蹴っちゃった…)

 

Works(ワークス) every(エブリ) time(タイム)

(この手に限る)

 

 

コマ〇ドー語録で遊んでいる場合じゃないのだが、航空無線を扱うので言語が英語になっていた。

墜落せずにどれだけ飛び続けられるかタイムアタックが行われている状況でだ!

 

 

(まーた警報かよ)

 

 

メイトリ〇ス構文を使用した結婚の悪魔は、新たな警報を確認する羽目になった。

 

 

「あ」

 

 

FUEL(フューエル) PRESS(プレス) LIGHT(ライト)(燃料圧警告灯)が見事に点灯していた。

見たくもない燃料パネルに視線を移すと…【LOW PRESSURE】の警告灯が大量に点灯している。

FUEL(フューエル) PUMPS(ポンプ)(燃料ポンプ)とAUX(エーユーエックス) FUEL(フューエル) PUMPS(ポンプ)(補助燃料ポンプ)の圧力低下だそうだ。

 

 

(そういえば、燃料を確認してなかったな…)

 

 

Digital(デジタル) Sunburst(サンバースト) Fuel(フューエル) Gauges(ゲージ)(デジタル燃料残量計)を確認すると燃料が尽きると示す。

確かに短期間のフライトなのは分かっていたが、ここまで燃料が少ないとは思わなかった。

30分間飛ぶための予備燃料があると思い込んでいたのは間違いだったようだ。

 

 

(これマジ?航行中の航空機で与圧と油圧と燃料圧の圧力低下の同時警告なんて世界初じゃね?)

 

 

只今、双発エンジンの出力差によって機体の姿勢と高度を保っている状態である。

それなのにエンジン稼働に使う燃料が足りないと複数の警告と計器が示した。

 

 

(いっそ、千葉県民を生贄にして結界でも張ろうかな…)

 

 

主翼にあるメインタンクの1と2、胴体下部にあるセンタータンクの燃料が足りない。

だから燃料圧を測っているセンサーが警告を発した。

故にあと数分もしない内に燃料が完全に尽きると理解した!

よって悪魔らしい思考に辿り着いたものの…。

 

 

KATAMICHI(カタミチ) AIR(エア)49(フォナイナー), 49(フォナイナー)Acknowledge(アクノリッジ)Contact(コンタクト) NARITA(ナリタ) tower(タワー) 118.75(ワンワンエイトポイントセブンファイフ)

(カタミチ航空49便、49便!成田タワーの周波数118.75MHzと交信してください)

 

Roger(ラジャー), Switching(スイッチング) to(トゥ) 118.75(ワンワンエイトポイントセブンファイフ)

(了解、118.75MHzに切り替えます)

 

 

希望が見えたので奥の手は使用しなくて済みそうである。

東京アプローチの回りくどい指示をショートカットして空港の管制塔と交信する事となった。

 

 

NARITA(ナリタ) tower(タワー), KATAMICHI(カタミチ) AIR(エア)49(フォナイナー)!」

(成田管制塔へ、こちらカタミチ航空49便!)

 

Mayday(メーデー) Mayday(メーデー) Mayday(メーデー)KATAMICHI(カタミチ) AIR(エア)49(フォナイナー)Fuel(フューエル) system(システム) failure(フェイリャー)!!」

(メーデーメーデーメーデー!カタミチ航空49便です!燃料供給系統の故障!!)

 

Requesting(リクウェスティング) emergency(エマージェンシー) landing(ランディング) at(アット) NARITA(ナリタ) immediately(イミディエイトリー)!」

(成田空港への即時の緊急着陸を要請する!)

 

 

燃料切れの時はメーデー宣言をしろと習ったが、既に宣言している場合はどうするのだろう。

そう考えている暇すらなく思いついた英単語を並べて発言するしかなかった。

 

 

Roger(ラジャー), approved(アプルーヴド) as(アズ) you(ユー) request(リクエスト)

(了解、貴機のご要請を承認しました)

 

Cleared(クリアード) to(トゥ) land(ランド), Runway(ランウェイ) 34L(トゥリ-フォーレフト). Wind(ウィンド) 030(ゼロトゥリーゼロ) at(アット) 8(エイト) kt(ノット)

(着陸を許可します。滑走路は34Lです。風は20度方向(北北東)から8ノット*89

 

 

管制塔の担当者曰く、成田空港の西側にある滑走路に南部から進入して着陸しろとの事だった。

向かい風となるので16R(ワンシックスライト)から進入するよりは上手く減速ができそうである。

 

 

(…え? Continue(コンテニュー) Approach(アプローチ)*90どこいった?)

 

 

というか、いきなりFinal(ファイナル) Approach(アプローチ)(最終進入)*91を指示されるとは思わなかった。

Continue(コンテニュー) Approach(アプローチ)(着陸進路の維持)がないのは、意外と滑走路に近いのか。

それともMayday(メーデー)を宣言した影響なのか。

左旋回で何度も螺旋を描く機動をしていると思い込んでいた悪魔の思考が乱れた。

 

 

Roger(ラジャー), Radar(レーダー) vector(ベクター), please(プリーズ)

(了解、レーダー誘導をお願いします)

 

 

そこに辿り着く段階に行きたいので管制官に指示を請う。

 

 

「...... I(アイ) say(セイ) again(アゲイン). Radar(レーダー) vector(ベクター), please(プリーズ)

(……繰り返して伝えます。レーダー誘導をお願いします)

 

 

30秒待っても管制官からの応答が無いのでもう一度要求したが、ノイズしか聞こえない。

無線記録がどうなるかは分からないが、少なくとも自己判断で機体を動かすしかない。

左旋回をしてみると遥か遠くに成田空港が見えた。

 

 

(減速するか)

 

 

215ノット(時速398.18km)から140ノット(時速259.28km)まで速度を落とす必要がある。

だが、飛行機の揚力は速度の2乗に比例するので下手に減速すると失速して墜落する危険がある。

そこで主翼にあるFlap(フラップ)を出して翼の面積を広くする事で減速した分の揚力を補うのだ。

 

 

Flap(フラップ)はどうだ?)

 

 

ここまでが基本中の基本の話だが、今回はかなり特殊である。

今回死んだ油圧システムAは、Flap(フラップ)にほとんど関係していないが、それでも影響がある。

 

 

Commencing(コメンシング) landing(ランディング) approach(アプローチ). Decelerating(デセラレイティング) to(トゥ) 200(ツーゼロゼロ) knots(ノッツ), Flaps(フラップ) 1(ワン)

(着陸アプローチを開始する。200ノットに減速し、フラップは1)

 

Roger(ラジャー), landing(ランディング) approach(アプローチ). Decelerating(デセラレイティング) to(トゥ) 200(ツーゼロゼロ) knots(ノッツ), Flaps(フラップ) 1(ワン)

(了解、着陸アプローチ。200ノットに減速し、フラップは1)

 

 

ここでオリチャー発動!

管制官からの明確な誘導指示がないが、最終段階になったようなので勝手に着陸する事にした。

機長の発言を受けて副機長も復唱をして行動を確認し合った。

 

 

Set(セット) flaps(フラップス) 5(ファイフ), speed(スピード) 180(ワンエイトゼロ) knots(ノッツ)

(フラップを5に設定、対気速度は180ノット(時速333.36km))

 

Roger(ラジャー), Set(セット) flaps(フラップス) 5(ファイフ), speed(スピード) 180(ワンエイトゼロ) knots(ノッツ)

(了解、フラップを5に設定、対気速度は180ノット)

 

 

更にフラップを展開し、動作に問題が無い事を確認する。

さて、着陸したいのだが、Sectional(セクショナル) Charts(チャート)(区分航空図)だけではさすがに着陸を躊躇う。

 

 

(さすがにAeronautical(エロノーティカル) chart(チャート)(航空図)くらいあるはず…)

 

 

副操縦士の席周りをごそごそと漁っているとついに目当ての物を発見した!

 

 

「うおおおおおおおお!RJAA(アールジェイエーエー)(成田空港のICAO空港コード)のIFR(アイエフアール) Charts(チャーツ)だ!!」

 

 

RJAA(アールジェイエーエー)*92IFR(アイエフアール) Charts(チャーツ)*93を発見した結婚の悪魔はご機嫌になり、航空図のページをめくる!

早速、【INSTRUMENT APPROACH CHART】*94のページを見つけて目当ての情報を確認した!

 

 

MISSED(ミスト) APPROACH(アプロ-チ)(進入復行)*95は――HDG(ヘディング)が――で――1000フィート上昇し左旋回して――NRE(エヌアールイー)NARITA(ナリタ) VOR(ボル)/DME(デメ))から――でウェイポイントを――で――が―6000フィートで」

 

 

航空機を操縦する結婚の悪魔は、情報を整理する為に独り言を呟き始めた。

しかし、操縦室に吹き込む風の音と共に横で聞く副操縦士とマキマには呪文にしか聞こえない。

 

 

「皆さま、こちらは機長です。今から成田空港に緊急着陸を行ないます。…シートベルトを締めて身体を前に倒して頭を前の座席に付けてください。えー、両手は頭の上に置いてください」

 

 

更にルールに基づいて最低限ではあるが、機内アナウンスを実施し、緊急着陸の知らせを伝えた。

不時着における姿勢の指示はかなり大雑把だが、ほぼ覚えていないのでしょうがない。

 

 

Copilot(コパイロット), Perform(パフォーム) manual(マニュアル) extension(エクステンション). Ready(レディ)?」

(副操縦士、手動脚下げを実施する。準備は良いか?)

 

Ready(レディー) for(フォ) instructions(インストラクションズ)

(いつでもどうぞ)

 

 

ここから更にフラップを展開するのだが、着陸ギヤも降ろさないといけない。

しかし、油圧システムの一部が使えない影響でManual(マニュアル) Extension(エクステンション)を実施する事になる。

Quick(クイック) Reference(リファレンス) Handbook(ハンドブック)を機長から渡されたカナデ副操縦士はやるべき事を理解する。

 

 

Execute(エクセキュート) MANUAL(マニュアル) GEAR(ギア) EXTENSION(エクステンション) Checklist (チェックリスト)!」

(手動ギア展開のチェックリストを実施します!)

 

Roger(ラジャー),Execute(エクセキュート) MANUAL(マニュアル) GEAR(ギア) EXTENSION(エクステンション) Checklist (チェックリスト)

(了解、手動ギヤ展開のチェックリストを実施する)

 

 

QMSの『MANUAL GEAR EXTENSION』のページを開いた彼女は、チェックリストを読み上げ始めた。

 

 

Step(ステップ) 1(ワン). Landing(ランディング) gear(ギア) lever(レバー)......OFF(オフ)

(ステップ1、着陸ギヤのレバー……オフ)

 

Landing(ランディング) gear(ギア) lever(レバー)......OFF(オフ)......Check(チェック)

(着陸ギヤのレバー……オフ……チェック)

 

 

分裂体の発言を聞いた結婚の悪魔は、Landing(ランディング) gear(ギア)のレバーの位置がOFFにあると確認した。

この状態は油圧を遮断しているのだが、後に重力でタイヤを降ろす為に必要になる手順である。

 

 

Step(ステップ) 2(トゥ). Manual(マニュアル) Gear(ギア) Extension(エクステンション) handles(ハンドル)......Pull(プル)

(ステップ2、手動ギヤ展開ハンドル……引く)

 

Open(オープン) the() Manual(マニュアル) Gear(ギア) Extension(エクステンション) Control(コントロール) Access (アクセス) Door(ドア) and(アンド) pull(プル) The() handles(ハンドルズ)

『MANUAL GEAR EXTENSION CONTROL ACCESS DOOR』を開けてハンドルを引け)

 

Wilco(ウィルコ)......I(アイ) pulled(プルド) three(トゥリー) handles(ハンドルズ)

(了解しました……3つのハンドルを引きました)

 

Manual(マニュアル) Gear(ギア) Extension(エクステンション) handles(ハンドル)......Pull(プル)...Check(チェック)...UPLOCK(アップロック) is(ィズ) released(リリースド)...confirmation(コンファーム)

(手動ギヤ展開ハンドル……引く…チェック…アップロック解除…確認)

 

 

副操縦席の近くに【MANUAL GEAR EXTENSION CONTROL ACCESS DOOR】と書かれた扉がある。

そこにあるピンを引っ張ると、扉が開いて3つの赤いハンドルが見えたので指示通り()()()()()

その行動を報告すると復唱が来たので更にチェックリストを読み上げていく。

 

 

Step(ステップ) 3(トゥリー). wait(ウェイト) 15(ワンファイフ) seconds(セカンズ) after(アフター) the() Manual(マニュアル) Gear(ギア) Extension(エクステンション) handle(ハンドル) is(ィズ) pulled(プルド)

(ステップ3、最後の手動ギヤ展開ハンドルを引いてから15秒待ってください)

 

「… 15(ワンファイフ) seconds(セカンズ) passed(パスト)

(…15秒経過)

 

Step(ステップ) 4(フォー). Landing(ランディング) gear(ギア) lever(レバー)......DOWN(ダウン)

(ステップ4、着陸ギヤのレバー……ダウン)

 

 

赤いハンドルを全て引っ張ってから15秒待った。

そして副操縦士の発言を受けてLanding(ランディング) gear(ギア) lever(レバー)を降ろす。

これで油圧がなくてもLanding(ランディング) gear(ギア)が降りて来るはずだった。

 

 

The() landing(ランディング) gear(ギヤ) won't(ウォント) come(カム) down(ダウン)...」

(着陸ギヤが降りてきません…)

 

It(イット) must(マスト) be(ビー) taking(テイキング) a() while(ワイル) since(シンス) it's(イッツ) gravity(グラヴィティ)-driven(ドライヴン) deployment(デプロイメント) rather(ラザー) than(ザン) hydraulic(ハイドリック)

(油圧じゃなくて重力で展開するから時間がかかっているんだろう)

 

 

だが、【NOSE GEAR】、【LEFT GEAR】、【RIGHT GEAR】のどれもが緑色に点灯しなかった。

カナデ副操縦士の発言に結婚の悪魔はすぐに展開しないと知ってるので危機感はなかった。

ただ、あまりにも展開が遅いので、ろくろ首のように首を伸ばして赤いレバーを見る。

 

 

Hey(ヘイ)!?Why(ワイ) is(ィズ) this(ディス) wire(ワイヤー) pulled(プルド) out(アウト)!?」

(おい!?なんでワイヤーが引っこ抜けているんだよ!?)

 

 

そしたら、とんでもない光景を目撃した。

例えるなら、気絶したデンジの胸部に生えているスターターロープを引っ張れと指示したとする。

デンジの心臓ごとロープを胸部から引っこ抜いて地面に放置されたと同等に匹敵する光景だった。

故に怒りや嘆きよりも、困惑の感情が先に来た。

 

 

(あ、やっちゃった…)

 

 

ここでカナデ副操縦士は自分がとんでもないミスをやらかしたと実感する。

 

 

IF(イフ) a() green(グリーン) landing(ランディング) gear(ギア) indicator(インジケーター) light(ライト) still(スティル) fails(フェイルズ) to (トゥ) illuminate(イルミネート)...」

(緑色の着陸ギヤ表示灯が点灯しない場合は…)

 

「......Step(ステップ) 5(ファイフ), Wheel(ホイール) well(ウィル) light(ライト) switch(スイッチ)......ON(オン)!」

(……ステップ5、車輪格納庫の照明スイッチ……オン!)

 

 

なので開き直って表示灯が点かないのは、専用のスイッチが起動していないと暗に告げた。

わざわざチェックリストの内容を読み上げる風に見せかけるという逃げに徹した!

桁違いの腕力で着陸ギヤをワイヤーを通して破壊させた事実を隠す様に!

 

 

Negative(ネガティブ), End(エンド) of(オブ) checklist(チェックリスト)Sit(シット) down(ダウン)Set(セット) flaps(フラップス) 1(ワン)5(ファイフ), speed(スピード) 170(ワンセブンゼロ) knots(ノッツ)

(ダメ、チェックリスト終了!座れ!フラップ15に設定、対気速度は170ノット)

 

Roger(ラジャー), Set(セット) flaps(フラップス) 1(ワン)5(ファイフ), speed(スピード) 170(ワンセブンゼロ) knots(ノッツ)

(了解、フラップ15に設定、対気速度は170ノット)

 

 

もはや胴体着陸しか選択肢がなくなった悪魔は、指示も命令も適当になった。

このミスのせいで5分も時間と行動が無駄になってしまったのだから。

ついでに背後に座るマキマが何か言いたそうに見えた。

 

 

Air(エア) Band(バンド)(航空無線)を切ります」

 

 

結婚の悪魔は、無線の受信ができていないので送信も上手く行っていないと勘違いした。

なので航空無線で外部に連絡を取るのを諦めて切り上げた。

これにより、唯一の客観的な記録となる航空無線の録音はここで終わる事となった。

 

 

「4分以内に燃料切れで墜落するのに漫才をする余裕があるんだね」

「部長だけでも脱出しますか?」

 

 

いつ死んでも可笑しくない状況を楽しむマキマに結婚の悪魔は脱出を促した。

マキマのせいでブラックボックスは死んだし、まともに外部と交流できなかったのだ。

彼女が脱出するか、機体後方に移動してくれるだけで状況は好転する。

 

 

No(ノー) way(ウェイ), I'm(アイム) having(ハヴィング) too(トゥー) much(マッチ) fun(ファン) to(トゥ) leave(リーヴ)

(嫌だよ、楽し過ぎて帰る気なんてないよ)

 

 

しかし、江の島旅行を本気で楽しんでいた彼女はこの状況も楽しいようである。

わざわざ英語で発言してきたところに自分も英語で参加したかったという意思表示が見えた。

 

 

「…で?どうやって着陸するつもり?」

「ILS進入方式を用います。ただ、あくまで参考にするだけですが…」

「胴体着陸するならするならそうなるね」

 

 

今からやろうとする事を車の運転で例えると、助手席に座る人物に案内してもらうようなものだ。

車を運転する人物に早川アキが適切な指示をして目的地に向かうようなもの。

進むべき道が分からない運転手を適切なコースに導いてくれるのでその指示通りに従えば良い。

…はずだった。

 

 

(挑発してやがるな…)

 

 

現状も車で例えると、坂道とアクセルペダルの踏み具合で速度を調整している状態だ。

フットブレーキとハンドルが破損してるので指示が正しくても実行できないのだ。

アクセルペダルの踏み具合で加速と減速、左折か右折を同時にやる必要がある。

しかも、血の魔人であるパワーがハンドルを左に引っ張っている状態だと考えると…。

どれだけこの航空機が壊れているのかが分かる。

 

 

Press(プレス) the() ground(グランド) proximity(プロキシミティ) flap(フラップ) inhibit(インヒビット) switch(スイッチ) to(トゥ) deactivate(ディアクティベート) the() alert (アラート)

(対地接近警報のフラップ抑制スイッチを押して( Flap(フラップ)関連の)警報を無効にします)

 

Let's(レッツ) just(ジャスト) disable(ディスエーブル) everything(エヴリシィング)!」

(どうせなら全て無効にしようよ!)

 

Negative(ネガティブ), It(イット) even(イーヴン) hides(ハイヅ) important (インポータント) warnings(ウォーニングス)

(ダメです。重要な警告まで消えます)

 

 

なんかムカついたので英語で煽ったら逆にマキマに英語で煽り返されてしまった。

もはやオリチャー以外に着陸手段が無くなったというのにこの始末。

 

 

「ん?」

 

 

ここで壊れた窓から侵入してくる向かい風に違和感を覚えた。

だが、それを考える余裕すらなかった。

 

 

First(ファースト) Officer(オフィサー), Give(ギブ) me(ミー) the() landing(ランディング) callouts(コールアウツ)

()()()()、コールアウトしてくれ)

 

Roger(ラジャー), callouts(コールアウツ)

(了解、コールアウトします)

 

 

ついに色々とやらかしたカナデ副操縦士は、自分が生まれた存在意義を果たす時が来た!

Pilot(パイロット) monitoring(モニタリング)*96を専念させる為に最低限の知識しか伝えなかった事は後悔している。

それでもようやく本来の役割を果たせると実感した彼女に迷いは無い!

 

 

Localizer(ローカライザー) Alive(アライブ)

(ローカライザーの針が動きました)

 

Glideslope(グライドスロープ) Intercept(インターセプタ)

(降下経路を捉えた)

 

 

ILS(計器着陸装置)が発する電波を拾ったと確認し、降下率3度になるように降下する。

それを達成する為のやり取りだが、もはや形だけの発言になっている。

 

 

Whoop(ウープ) Whoop(ウープ) Pull(プル) Up(アップ)

 

 

既に対地接近警報装置が「降下するな!」と警告を発している。

こんな警報が出てまともに着陸できるはずがない。

 

 

It's (イッツ) really(リィアリィ) bumpy(バンピィ), isn't(イズント) it(イット)?」

(すごく揺れます。揺れません?)

 

The() stick(スティック) shaker(シェイカー) is(イズ) vibrating(ヴァイブレーティング) so(ソー) hard(ハード) I(アイ) can't(キャント) even(イーブン) think(シンク) straight(ストレイト)

(操縦桿の振動が激し過ぎて何も考えられん)

 

 

Sterile(ステライル) Cockpit(コックピット) Rule(ルール)(業務に必要ない会話しないルール)を破っているのは自覚している。

高度1万フィート以下を飛行する時点で適用されないといけないルールなのだから。

だから結婚の悪魔も今更、分裂体の私語を咎める気はない。

 

 

(嫌な予感がする…)

 

 

対地接近警報装置が発する《Whoop(ウープ) Whoop(ウープ) Pull(プル) Up(アップ)》の警告が聞き慣れた頃であった。

あと少しで着陸というタイミングで唐突に警報が切り替わった。

 

 

Beep(ビープ)Windshear(ウィンドシア) Windshear(ウィンドシア) Windshear(ウィンドシア)

 

 

機体が横転しないように操縦する結婚の悪魔は、新たな警告を聞いて叫ぶ!

 

 

「ここでWindshear(ウィンドシア)(風の断層)*97かよおおおお!?」

 

 

対地接近警報装置にWindshear(ウィンドシア)の警報機能が備わっている事を始めて知った。

それと同時に減速を知らせる警告以上に操縦桿が揺れている原因も理解する!

 

 

(あのクソ悪魔!まだ生きてやがる!!)

 

 

本来、Windshear(ウィンドシア)が発生する条件は、悪天候がほとんどである。

管制塔(Tower(タワー))や航空管制官(ACC(エーシーシー))から何の報告がないので航空事故の悪魔が仕組んだと判断!

警告が《Go(ゴー) around(アラウンド) Windshear(ウィンドシア) ahead(アヘッド)(前方にウィンドシアあり、着陸復航せよ)》になる。

だが、下降気流に叩きつけられてでも飛ばす以外に選択肢はない!

 

 

Five(ファイフ) hundred(ハンドレット)!(500フィート!)」

Stabilized(スタビライズド)*98…は無理だ!POH(ピーオーエイチ)(操縦手引書)*99EP(イーピー)(緊急手順)*100を読む余裕をくれ!」

 

 

事前に打ち合わせした通り、カナデ副操縦士が現在の高度を告げて機長の返答を待った。

Landing(ランディング)(着陸)とは、パイロットが意図した航空機の墜落である。

なので航空運用規定では、Stabilized(スタビライズド)と発言するべきなのだが、結婚の悪魔はツッコミを入れた。

そもそも機内火災で緊急用手順書(QRH)を軽く見ただけなのでルール自体分かっていなかった。

 

 

(あ、ダメだコレ…)

 

 

割れた操縦席の窓から侵入してきた向かい風でこのままじゃ着陸できないと直感で分かった。

着陸復航の余裕はないが、この速度で叩きつけられたら結婚の悪魔とマキマ以外はお陀仏になる。

だが、着陸復航をすれば、燃料切れからの電源喪失と油圧系統の完全消失による墜落となる。

 

 

Two(トゥ) hundred(ハンドレット)Minimum(ミニマム)*101(200フィート!最低降下高度!)」

 

 

時間は待ってくれない。

カナデ副操縦士が発した最低降下高度を聞いて結婚の悪魔は二択を迫られた。

Belly(ベリー) landing(ランディング)(胴体着陸)か、Go(ゴー) around(アラウンド)(着陸復航)か!

 

 

Go(ゴー) around(アラウンド)(着陸復航)!」

 

 

このままだと高速で地面に叩きつけられると思った結婚の悪魔は着陸復航を決断した!

Flap(フラップ)の角度を調整し、両エンジンともスロットルを全開して急加速をする!

 

 

(クソが!!)

 

 

ついでに航空事故の悪魔の体内に入り込んだ自身の肉片を介して無理やり爆散させた!

これにより、航空事故の悪魔は完全に死亡し、二度と航空機や気象に介入する事は無かった。

ついでに無線の受信も出来るようになったが、知る由は無い。

 

 

「貴重な燃料が~~!?」

 

 

着陸復航のせいでただでさえ足りない燃料を消費する事にカナデ副操縦士が悲鳴をあげる!

 

 

()()()()()になって機体を動かせばいいんじゃないの?」

「やかましい!!」

 

 

ついでにマキマから最終手段を提示されたが、機長は否定できない。

ただ、ジェットコースターを楽しむノリで発言したマキマを強い口調で牽制した。

 

 

「第二エンジンに愛着は無いな?」

「だ、第二エンジン停止!このままじゃ第一エンジンも止まります!」

 

 

ついに右側のエンジンが燃料不足で停止した。

冗談を言う機長に対して副操縦士は、次に起こり得る現実を伝えた!

 

 

「緊急着水はどう?」

「無理です!機体がバラバラになります!」

 

 

すかさず繰り出されたマキマの提案を即座に結婚の悪魔は一蹴した。

50m真下にある海面に着水する事は、同じ高さから飛び降りたコンクリート床と同等の衝撃だ。

 

 

「それほど海面の着水で発生する減速に機体と人体が耐えられないって事だね」

「機体のダメージコントロールできる滑走路の方がまだマシです」

 

 

マキマ自身が海上着陸が不可能だと分かっているから余計に質が悪い。

減速が出来ていないこの機体では、着水でバラバラになると分かって選択肢を提示した。

 

 

(クソ!)

 

 

与圧漏れ、油圧死亡、燃料切れ、速度の手動調整不可能という四重苦に見舞われた。

幸いにもボーイング747*102と違って油圧が死んでも操縦桿で無理やり動翼を動かせる。

よってやる事は1つしかない!

 

 

「ブラックボックスを真水に漬けなきゃ!」*103

「なんで緊急着水をする前提で話を進めているんだテメェは!?」

 

 

機体を減速させる為に急上昇させる最中、マキマの冗談が炸裂した。

お前のせいでブラックボックスに一切記録が残らないのにと文句を言いたかった!

 

 

「第一エンジンも停止しました!」

 

 

トラブル続きの旅客機は、千葉県の上空を滑空する物体にジョブチェンジをした!

ブラックボックスが機能していると思っているカナデ副操縦士は印象に残る記録を残そうとする。

 

 

This(ディス) isn't(イズント) a() plane(プレイン)This's(ディスィズ) canoe(カヌー) with(ウィズ) wings(ウィングス)!!」

(こんなの飛行機じゃないわ!羽のついたカヌーよ!!)

 

Well(ウェル), get(ゲット) in(イン) and(アンド) start(スタート) paddling(パドリング)!!」

(だったら漕げばいいだろ!!)

 

 

高度2500フィートから落下する航空機で繰り広げる会話ではなかった。

エンジンが停止した事で電源も落ちてデジタル計器が使い物にならなくなった。

本来ならば、RAM-Air Turbine*104が機体の下部に展開して最低限の電力を稼ぐはずである。

 

 

The() RAM(ラム)-Air(エア) Turbine(タービン) isn't(イズント) working(ワーキング)!」

(ラムエア・タービンが動いていません!)

 

She’s (シーズ) dead(デッド). She(シー) paddled(パドルド) across(アクロス) the() river(リバー) along(アロング) with(ウィズ) landing(ランディング) gear(ギヤ)

(あいつは死んだよ。着陸ギヤと一緒に三途の川を漕いで渡っちまったさ)

 

 

継承した航空機の知識と食い違う光景を目撃し、カナデ副操縦士は機長に事実を告げた。

だが、もはやそれどころじゃない分裂元は雑なジョークで返答した!

 

 

(ボーイング737にRAM(ラム)はねぇよ。油圧と燃料が無いからAPU(エーピーユー)(補助動力装置)も使えん)

 

 

横暴教官だった彼氏が結婚の悪魔にマウントを取る際にいろんな雑学を教えてくれた。

分裂体にその彼氏の存在そのものを伝えたくないので、あえて教えなかった。

 

 

(そうさ、信じられるのは、自分の知識と経験、そして過去の航空事故の教訓だけさ)

 

 

対地接近警報装置が執拗に鳴り響かせる警報すら雑音に聴こえる。

ああ、なんで気付かなかったのだろう。

操縦桿を握る腕を液状化させて基盤に染み込ませて直接、機体を操作する事にした!

 

 

(最初からこうすればよかった…!あのクソピザデブのせいで余計な思考をしちまった…)

 

 

『得られた知識と経験を元に人間らしく行動し過ぎた』と結婚の悪魔は後悔している。

ただ、どこの配線やピストンをどう弄ればいいのか把握できているので、それ自体は悪くはない。

オートパイロットで自動操縦をすれば良いと発言する者ほど航空機を操縦できないものである。

 

 

(ああ、楽だ…)

 

 

只今、空飛ぶ棺桶は、成田空港の16R(ワンシックスライト)に向かってグライダーのように降下中。

機体の側面に気流を当てててフォワードスリップ*105を行ない、滑走路に向かう。

これを人力でやるパイロットが居るからこそ人間というのは侮れないと悪魔は思う。

 

 

Belly(ベリー) landing(ランディング)(胴体着陸)」

 

 

横滑りの滑空で滑走路に胴体着地した旅客機の機体は大きく方向転換を行なう。

一応、機首が滑走路と並行するが、その代わりに大きく機体が横に揺れながら滑り続ける!

 

 

「止まれ!止まれ!止まれ!!」

 

 

右翼の先端が滑走路で破損したが、その衝撃で弾かれて機体が安定した。

旅客機の胴体は滑走路の摩擦で高熱となるが、それでも止まる気配はない。

タイヤは出てないのでブレーキーが使用できなかった。

このままだと滑走路で止まらずに周りの建造物に被害が出る事になる。

 

 

「逆噴射は?」*106

「エンジンが動いていないので不可能です!」*107

 

 

マキマのアドバイスを一蹴し、結婚の悪魔は侵入先の場所に結界を張る。

滑走路で高度が固定して低速になったおかげで座標が安定し、結界を作る事が可能になった。

 

 

「シュティーバー、()()()()()

 

 

しかし、血と生贄が欲しいので機体の穴を塞いでいる分裂体に呼び掛けた。

 

 

Es(エス) ist(イスト) mir(ミア) eine(アイネ) Ehre(エーレ), meinem(マイネム) Herrn(ヘルン) mein(マイン) Blut(ブルート) darzubringen(ダールツーブリンゲン)

(我が主に血を捧げる事は、自分にとって名誉な事です)

 

meinem(マイネム) Herrn(ヘルン)... Pah(パー)!」

(我が主か…ケッ!)

 

 

ゲルマン人の元カレの姿を模す結婚の悪魔の発言に反吐が出た。

ここでの【我が主】は、分裂元の結婚の悪魔を示していない。

同じ分裂体の1つに過ぎないカナデ副操縦士も意味を理解して怒りのあまり吐血した。

 

 

「ああ、しんどい…」

 

 

まるで他の女に彼氏を寝取られた事実よりも最悪な発言に係長の精神はズタボロである。

文句を言いたかったが、我慢し、代償を払って作った結界に旅客機を侵入させた。

これにより、旅客機は結婚の悪魔の支配下に置かれて自由に弄る事ができる。

 

 

「はぁ……やっぱ、人間が定めたルールはクソだわ…」

 

 

人間の規則に基づいて今まで行動してきた悪魔はついにボロを出す。

クジラの悪魔騒動で2体の分裂体を作ってなかったら操縦する必要すらなかった。

よって、その元凶を作ったマキマに当てつけのように本音を漏らした。

 

 

「でも人間が定めた規則を利用すれば、悪魔にとってもプラスになれる」

「ケッ、二度とやるかこんな事…」

 

 

外界から隔絶された空間で旅客機の運動と位置エネルギーを弄って姿勢も正す。

結界に旅客機が滞在したのは、200分の1秒の出来事であったが、全てが終わった。

結婚の悪魔が本音を漏らした時には、旅客機は滑走路上で少しだけ傾いて止まっていた。

 

 

「なんとか着陸できたけどこれで終わり?」

「いいえ、着陸後のチェックをします。機長らしくな」

 

 

なんとか着陸できたのを確認したマキマは、機長である結婚の悪魔に確認を取る。

だが、結婚の悪魔は、乗員が無事だからこそチェックリストをやると発言した。

さきほど彼女が発言した通り、人間の規則に基づいているから悪魔の仕業ではないと示す為に。

 

 

Aircraft(エアクラフト) Operation(オペレーション) Manual(マニュアル)(航空運用規定)*108がありませんが、POH(ピーオーエイチ)で代用します」

「なるほど、早く終わらせてね」

「はい、今から避難チェックリストを実施します。カナデ副操縦士は自分の発言を復唱しろ」

「ラジャー」

 

 

ようやくPilot's(パイロッツ) Operating(オペレーティング) Handbook(ハンドブック)をまともに読める結婚の悪魔は嬉しそうに返答をした。

結婚の悪魔が発する単語が時折理解できないマキマは、部下に全て任せてリラックスをする。

結婚の悪魔たちがチェックリストに基づいて器具を確認しているのを見てマキマは思った。

 

 

(航空機のパイロットって大変なんだね)

 

 

こうなるように仕組んだとはいえ、実際に搭乗した結果、二度とやらないと決意する。

無事な着陸では無かったが、なんとか航空機は滑走路上で止まる事ができた。

すぐに公安対魔特異4課の係長による機内アナウンスが実施されて乗客は一安心する事となる。

 

 

「ハッ!」

 

 

機内アナウンスを聞いて…ここまで気を失っていたパワーは目覚める。

生還した事に誰もが驚愕したり喜びを分かち合う中で、さっきまで気絶していた彼女は口を開く。

 

 

「ワシ、飛行機パイロットだったかもしれん」

 

 

航空機を操縦した感覚がある血の魔人は周りにそう告げるが、誰も本気で受け止めなかった。

こうしてカタミチ航空49便は地上に戻って来られたが、これは仕組まれたものである。

すぐにこの旅客機の不時着事故を打ち消すほどの大惨事が成田空港で発生する事となる。

 

 

*1
計器の異常等を知らせる警告灯の事、この警告灯を無視して飛行を続ければ重大な事故に繋がる可能性がある

*2
方位や高度、速度をシステムに入力し、巡航中の操縦を自動化する事でパイロットの負担を軽減する装置の事

*3
通常とは異なる状況や緊急事態に適用されるすべての手順が使いやすい形式で記載されている便覧の一種

*4
Flight Engineer、複雑に進化した航空機のシステムに対処しきれない2人のパイロットに代わって業務を行う職種

*5
ボーイング737は、ボーイング製のジェット旅客機として初めて2人乗務が可能になった機体である

*6
副操縦士席のすぐ後ろに位置する折り畳みの席。計器盤や外部の視界が良好なので訓練生が用いる事がある

*7
コックピットボイスレコーダー(CVR)とフライトデータレコーダー(FDR)の事、オレンジ色の箱に入っている

*8
航空事故の調査に利用するブラックボックスの記録を意図的に停止させる事はまずない。

*9
National Transportation Safety Board(国家運輸安全委員会)の略、 アメリカの事故調査機関

*10
JTSB(運輸安全委員会)の前身となる組織で航空・鉄道事故調査委員会の略。日本の事故調査機関

*11
フランスの事故調査機関なのだが、国家機関にしては建物がしょぼいので某笑顔動画でネタになっている

*12
無線送信やインターホンでの会話に切り替えたり、送信に使用する無線機の変更ができるパネルの事

*13
真ん中に姿勢指示器、左に対気速度計、右側に高度計、下には方向指示計器のT字型の計器配置の事。

*14
Primary Flight Displayの略、複数の計器をデジタル化してまとめた電子ディスプレイの事

*15
主にフラップの出し忘れなど離陸体勢の旅客機に異常がある場合にパイロットに強い警告を発するシステム

*16
裏を返せば、離陸前に離陸警報装置が作動すれば、その乗員は航空機を飛ばす資格がないと示す事になる

*17
Forward Overhead Panelの事、操縦席の正面にある窓より上にあるパネルを示している

*18
航空機のシステムで与圧された客室内の気圧をフィート(高さ単位)に換算して表示する計器

*19
航空機に搭乗している乗客が過ごす気圧状態(与圧)を高度で示したもの

*20
約2438m FAA(連邦航空局)は、航空機の客室高度はこの高さ制限を超えてはならないと規定している

*21
分かりやすく言えば、高い山に登ると酸素が薄くなる現象で高山病の危険がどんどん高まっている状況

*22
客室が与圧異常により、高度約1万フィートに相当する空気が薄い状態だとパイロットに知らせる警告システム

*23
現実でもヘリオス航空522便のパイロットが警報を勘違いし、酸欠で意識を失い最終的に燃料切れで墜落した

*24
2026年現在、離陸警報装置と客室高度警告の警告音を別にしたり、表示灯の改善等の対策がされている

*25
江の島(Enoshima)、神奈川県神奈川県藤沢市にある陸繋島。都内からアクセスしやすい観光スポット

*26
客室高度が1万4千フィートを越えると自動的に酸素マスクが客室に落ちて来るシステムになっている

*27
客室高度が1万4千フィートを越える事は稀の事例であり、火災時に手動にして酸素マスクを降ろす事が多い

*28
航空機のパイロットや整備士、管制官が所持している国家資格。これがないと航空機のパイロットになれない

*29
一応、公安警察所属なので警察の通信機器を扱える陸上特殊無線技士は持っているが、ここでは役に立たない

*30
女性客室乗務員。ちなみに作中だとJAL(日本航空)がギリギリ呼び名を残している。廃止は1996年9月30日

*31
飛行中に機内の与圧環境を維持し、急減圧を防ぐ役割を持つ障壁の事。ここでは貨物室の壁も見ろと命じた

*32
Flight plan(飛行計画)、航空機が離陸から着陸までどのように飛行するかを記した計画の事

*33
航空機が航行する為に作られた地図の事。航空路や地理、航空管制の情報が書かれている

*34
地上レーダーの電波データを受信し、旅客機の高度や速度、識別番号を送信して存在をアピールする装置の事

*35
Mayday(遭難信号)と同意義の緊急事態宣言。無線機故障以外の深刻なトラブルを周りに伝える

*36
東京航空交通管制部(Tokyo area control center 略語はTokyo ACC)。航空路管制業務などをする組織の事

*37
レーダー画面で航空機の位置と動きを把握している航空管制官に安全な航路で飛べるように指示してもらう事

*38
全日本空輸株式会社(ALL NIPPON AIRWAYS CO., LTD) 日本の航空会社を代表する安全な航空会社の1つ

*39
機体の姿勢と地平線との相対関係を示す計器の事、ちなみに西側諸国と東側諸国の航空機で読み方が変わる

*40
Pitch angle(ピッチ角)、機体の機首が水平線から上下に何度傾いているか示す角度の事

*41
Bank angle(バンク角)、機体が旋回する際に必要な向心力を得る為に機体を傾ける角度の事

*42
機首の上下を示すピッチ角の調整で操縦桿にかかる力(舵圧)を0にしてパイロットの負担を軽減するシステム

*43
操縦桿の親指が当たる位置にある2つに分裂したスイッチ、同時に同じ方向に操作する事でトリムが作動する

*44
Stabilizer Trimが作動する動きが確認できる装置。ちなみに対気速度が速いと手動では操作できなくなる

*45
航空機の胴体を軸として横転する事。分かりやすく言えば、腕を真っ直ぐに突き出したまま回転させる動作

*46
飛行機の主翼についている補助翼(Aileron)の角度を微調整し、左右の傾きを自動的に水平に保つ機能

*47
航空機の胴体を軸として横転(ローリング)させるのに使用される動翼の事

*48
Rudder(方向舵)を動かす為のペダル。足を置く場所に設置されており、自動車のペダルと似ている

*49
垂直尾翼後部にある可動翼で主に機首の左右の動きを操作する

*50
上下を軸として横回転する事、分かりやすく言えば、腕を真っ直ぐに突き出したまま左右に振る動作

*51
機長と副操縦士の真ん中に位置するエンジン推力を制御する操縦装置。エンジンの数だけ操作レバーがある

*52
機体の主要な機能を動かす2つのメイン油圧システムの内の1つ

*53
油圧システムは、人体で例えると心臓から送り込まれた血液と手足を動かす筋肉である

*54
自動的にRudder(ラダー)(方向舵)の動きを微調整してパイロットの負担を軽減するシステムの事

*55
方向舵を自動操舵して左右の揺れを小さくする安定増幅装置が故障しているのを伝える警告灯

*56
航空機の下部にある離発着時や地上に待機する際に使用するタイヤを含む着陸装置の事

*57
位置エネルギー(高度)と運動エネルギー(速度)が交互に入れ替わる現象で周期的な上下運動をする

*58
ここでは補助翼や方向舵など動翼を動かすための油圧系統を切り替えるスイッチを示す

*59
メインの油圧系統が故障した際に、バックアップのスタンバイ油圧系統を使用して方向舵を動かすシステム

*60
Traffic alert and Collision Avoidance System、航空機同士が空中衝突するのを防ぐ為に警告するシステム

*61
Airband(航空無線) パイロットと航空管制官が交信している無線の事、基本は英語でやりとりをする

*62
正面から受ける風圧と横を抜ける風圧の差で対気速度(空気に対する相対的な速度)を求めるセンサー

*63
実際に操縦桿を握って飛行操作を行う役割の事、ここでは操縦を代わる際のルールを最低限守った発言となる

*64
機長が航行中の航空機のエンジンに巻き込まれる事。現実世界では2回ほど似た様な危機があったりする

*65
鳥が乗り物や建物に激突する事故の事。日本では、年間1000件ほど航空機にバードストライクが発生している

*66
航空機の尾部に垂直に配置される安定板の事、直進飛行を維持し機体の左右方向の安定性を維持する重要部位

*67
野菜を中心とした料理が豊富。ちなみに成田空港にはレバノン料理店はない (事故の原因ではない。イイネ?)

*68
小田原かまぼこ、2006年11月に地域団体商標に登録された神奈川県の小田原市の名産品

*69
“Roger”をロジャーではなく、ラジャーと発音をしてるのである意味正解だったりする

*70
日本国内で生産される生芋こんにゃくは、9割以上を群馬県が占めるが、ここでは神奈川県の湘南地域産を示す

*71
ここでは航空機に備わっている氷結防止システムを示す。エンジンとウィングの2種類がある

*72
主翼前端の氷の形成や氷を除去する機能。本来は航行中のみに使用するが、B-737のみ地上で使用する時がある

*73
航空機が通常とは異なる故障・異常状態の際に必要となる着陸滑走距離を算出するための表の事

*74
NOSE WHEEL STEERING ALT、前輪操向システムを代替(ALT)モードで別の油圧システムに切り替える機能

*75
操縦している機体のモデルであるB737-300は、Alternate nose wheel steeringがオプション装備である

*76
(Mayday)緊急事態宣言、スコーク77との違いは、発言による緊急事態宣言となる

*77
高揚力装置の事、主翼の後方にある板状の可動翼で、離着陸時に翼の面積と湾曲を増やして揚力を増大させる

*78
羽田空港や成田空港近辺を管轄する進入管制が使用する周波数の1つ

*79
東京アプローチ(Tokyo Approach)、羽田空港や成田空港の空域を担当し、航空機を空港に誘導する組織

*80
Very High Frequency(超短波)の略、近距離通信用で主に空港周辺や陸上空域での管制官との通信に使用する

*81
High Frequency(短波)の略、洋上飛行中や長距離の通信に使用される。VHFと比べて通信の安定はしない

*82
Sectional Chart、日本全体を8つのエリアに分割して発行されている有視界飛行方式向けの地図

*83
Automatic Terminal Information Service(飛行場情報放送業務)の略。離着陸に必要な情報を提供する

*84
Terminal Control Areaの略、VFR機に対して当該機の要求に基づくレーダー誘導等を実施してくれる空域の事

*85
管制塔、ここでは成田空港の管制塔を示す

*86
VHF omnidirectional radio range(超短波全方向式無線標識施設)の略

*87
Distance Measuring Equipment(距離測定装置)の略

*88
空港の滑走路へ近づく計器進入方式の1つ。非精密進入方式なので高度はパイロットが管理する必要がある

*89
8ノット=時速14.816km 体感としては、少し強めのそよ風程度

*90
滑走路への着陸はまだ許可できないが、着陸する為の進入を継続せよ…という管制官からの指示

*91
最終進入点(Final Approach Fix)を通過した後、滑走路の中央線に向かって真っ直ぐ降下する最終段階の事

*92
RJAA:New Tokyo International Airport(新東京国際空港) = 成田国際空港のICAO空港コード

*93
Instrument Flight Rules Charts(計器飛行方式航空図)、計器飛行方式の際に使用する専用の航空図

*94
計器飛行方式(IFR)で飛行する際、安全に空港の滑走路上まで誘導する為の進入経路図の事

*95
パイロットが計器飛行方式で安全に着陸できないと判断した際に、着陸を断念してやり直しをする手順の事

*96
通信をしたり、モニターを監視し、報告する事で操縦を行うパイロットの行動をサポートする役割がある

*97
下降気流と上昇気流が激しく入り乱れた状態の事、地面に叩きつけられるように降下させられる危険がある

*98
航空運用規定で定められている発言、これが言えなければ着陸復航をする。通常の運航ならね!

*99
Pilot's Operating Handbookの略、ここではボーイング社が発行したボーイング737の公式手順書を示す

*100
Emergency Proceduresの略、ここでは緊急手順の項目を見ている暇がないと示した

*101
Minimum Descent Altitude(最低降下高度)非精密進入を行う場合の限界高度であり着陸するか判断する

*102
ジャンボジェットという愛称で呼ばれた大型4発ジェット旅客機。多くの乗客を乗せて世界中の空を飛んだ名機

*103
海水に浸かったブラックボックスは、基盤がサビたり故障するので真水に漬けて塩分を取る必要がある

*104
補助動力装置として装備される風力原動機で操縦の為の最低限必要な動力を得ようとする

*105
高度が高すぎる際、対気速度を上げずに急な降下角で高度を処理する航空機の機動の事

*106
逆噴射装置を使用してエンジンが発する推力を反転し、ブレーキー機能を果たす手段の事

*107
そもそも燃料切れで両エンジンが止まっているので使えるわけがない

*108
ここではカタミチ航空とかいう明らかに不自然な名前の航空会社が作った航空機の操縦手順書を示す

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