デンレゼが足掻く度に不幸になるケッコンの悪魔さん   作:Nera上等兵

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6話 パワーちゃんの暴虐フルパワー自伝

それは唐突だった。

 

 

「パワーちゃんをデンジ君と組ませても良い?」

 

 

マキマからあのパワーをデンジに組ませると聴いた結婚の悪魔は無言で逃亡を図った。

 

 

「待って、なんで君が逃げるの?」

「あのトラブルメーカーを外に出したら碌な事が起きないからだよ!」

 

 

全力で逃亡を図ったのにあっさりと肩を掴まれた悪魔は言い訳をする。

“血の悪魔”の魔人であるパワーは、“結婚の悪魔”と相性が最悪なのだ。

要するに一方的に理不尽な目に遭うので無関係を装うとしていた。

 

 

「でもデンジ君は、あっさりパワーちゃんを受け入れたよ?」

「そりゃあ、見た目が女だからでしょ!野郎ならアキさんみたいに喧嘩してますって!というか、もう組んでるじゃん!自分に相談する必要ある!?」

 

 

マキマ曰く、デンジはあっさりとパワーと打ち解けたというが、その理由は分かっている。

野郎と組むくらいなら自分の命を狙う地雷女と組む奴だった。

それほどまでに異様におっぱいに飢えているのだ。

 

 

「でも君が組むわけじゃないじゃない。なんでそんなに嫌がってるの?」

「あいつがやらかす度に始末書を書かされるからです!」

「確かに…大変ね」

「あんたが関連業務を自分に委託したからでしょうが!!」

 

 

部下の失態は上司の責任である。

しかし、いくら教育しても妄言癖が激しく利己的な行動をするパワーは手に負えない。

だからバディを組んだ相手の許可がもらえないとパワーは外出許可が下りないのだ。

そして上司の責任とやらを結婚の悪魔に放り投げられているので逃亡を図ったという訳だ。

 

 

「どちらかを先に対魔特異1課の岸辺さんとバディを組ませた方がよかったのでは?」

「どうしてそう思ったの?」

「むしろ、素人と素人を組ませようと思ったあんたの考えを知りたいよ!?」

 

 

日本で最底辺の生活を送っていたデンジと公安に所属する悪魔の中で一番の問題児であるパワー。

そんな奴らを組ませようと思いついたマキマの頭の中を覗いてみたい。

むしろ、自分への嫌がらせではないかと思った悪魔はマキマの顔を見る。

 

 

「まあ、監督者をつければ問題ないと思います。アキさんか姫野さんを2人につけましたか?」

「ううん、デンジ君が張り切っていたから2人だけでパトロールに向かわせたよ」

「自分に対する嫌がらせだよな!?そうだと言ってくれないと逆に困るんですけど!?」

 

 

公安対魔特異4課の課長であるマキマは、結婚の悪魔の身元を偽って係長の職に就かせた。

表向きは公安職員から憧憬の視線を浴びる存在だが、実情は班長クラスの権限しかない。

むしろ、悪魔なので人間と扱われないにも拘らず係長クラスの責任を負わないといけないのだ。

 

 

(あいつらがやらかした事、全部自分に来るじゃねぇか!!ふざけんなよテメェ!!)

 

 

問題児同士、初仕事、教育不足、監督者なし、何も起きないはずもなく…。

マキマに文句を言おうとすると執務室に設置された黒電話が鳴る。

恐る恐る受話器を取って応答すれば、予想通りにパワーがやらかしてくれた。

行政からのお叱りもあり、すぐさま現場に急行しなければならない。

 

 

「はい、はい。すぐに向かいます」

 

 

怒りで震える受話器を降ろして通話を切ってマキマの顔を見る。

 

 

「大変そうだね」

「あんたにも来てもらうぞ」

「どうして?」

「任命責任くらいは果たしてもらいます」

 

 

どうせ、こうなるのを見越してデンジとパワーを組ませたのだろう。

結婚の悪魔は胸ポケットから公用車の鍵を取り出してマキマを誘った。

 

 

「実は、パワーちゃんをデンジ君と組ませて欲しいって言って来たのは早川君なの」

「先に言えよ!?」

 

 

悪魔嫌いのアキの事だ、単純に嫌がらせで組ませたとは思えない。

魔人をあえて暴れさせて公安の地下送りさせるのが目的なのかもしれない。

 

 

「じゃあ、自分1人で行きますので…」

「仕事を投げ出したいから同行します」

「本音は?」

「反応が面白そうだから」

 

 

とりあえず、建前が消えた以上、結婚の悪魔はマキマとの同行を嫌がった。

それを分かってて同行を願い出るのだから質が悪い。

 

 

「いいえ、結構です」

「これは命令です。ついでにコーヒーを買って来てください」

「どさくさに紛れて命令を追加するな!!」

 

 

ここで抵抗しても返り討ちに遭うだけである。

さっさと彼女と別れる為に結婚の悪魔は急ぎ足で自動販売機に向かった。

 

 

(ブラックコーヒーを買ってやる!!)

 

 

自販機と向き合う結婚の悪魔は、せめてもの抵抗をする。

コーヒーを買えって言われただけで苦いコーヒーを買うな…とは言われていない。

だから仕返しをしようとしたのだ。

 

 

(110円でも10円を出す手間が面倒なのに…消費税の値上げで120円になるのは嫌だな…)

 

 

1992年までは100円で買えた缶コーヒーは今では110円となった。

10円を取り出す手間が鬱陶しく感じるが、大蔵省*1の連中から話を聞くと更に値上げしそうだ。

大蔵省のゴタゴタもそうだが、来年に消費税が5%になるのだから景気が悪くなる話である。

 

 

「ケッ」

 

 

結局、微糖の缶コーヒーを2個買った。

味も多少違うが、どちらかというと温かいか冷たいかどっちを選ぶのか気になっただけである。

 

 

「お待たせしました。暖かいのと冷たいのがありますが、どちらを選びますか?」

「両方あるならどっちでもいいよ」

 

 

逆に仕返しされてしまったので温かい方の缶コーヒーをマキマに手渡す。

そしてトヨタ・クラ〇ンセダンに乗り込み鍵を差し込んでクラッチを踏み、エンジンをかける。

 

 

「ねえ、悪魔が車を運転するのってかなり珍しいけど何で免許取ったの?」

「高級車は男のステータスですよ?ローンを組んだり借金してまで買うものですので…」

 

 

半クラッチで発進し、エンジン音を聞いてさくっとシフトレバーをセカンドギアに入れる。

教習所で習った時、加速チェンジに苦戦したものだが、身体で慣れれば簡単だった。

暇潰しなのか余計な事を言う女の話を軽く流して駐車場から躍り出て現場に急行する。

 

 

「つまりファッションで車を乗りこなしてるだけって事?」

「助手席に来てまで煽りたいだけなら降ろしますよ?」

「冗談だって」

 

 

一見すると相性が良いように見える2人だが、実際はそうでもない。

マキマ配下の悪魔の中で唯一、本気で彼女に反抗を企てているのが結婚の悪魔である。

それほどまでに彼女を慕っていないし、隙あらば脱走しようとも何度も考えている。

 

 

「女になったら車を運転しないって事は理解したよ」

「全然理解してねぇだろ!?別に女でも高級車を運転してもいいだろ!?」

 

 

経済バブル崩壊により、車が男のステータスという時代は終わりつつある。

それでも若い男が高級車を乗りこなしている姿を見せるだけで女が寄って来る。

 

 

「でも男が運転する方がカッコいいじゃない」

「それは…そうかもしれませんが…」

 

 

だから野心がある男は、未だに憧れの車を求めてローンを組むのだ。

それをわざわざ指摘してくるからこそ結婚の悪魔はマキマが大っ嫌いであった。

 

 

「だから帰りにパワーちゃんたちを乗せてもいい?」

「やめろおおおお!!」

 

 

意図しない攻撃からマキマを守る役割がある結婚の悪魔は反論を繰り返す。

そしてすぐに現場に到着して無理やりマキマを車外に降ろした。

 

 

「もう少し悪魔が人間の様に運転する車に乗りたかったな…」

「面倒事起こした2人を迎えにいきますよ!」

 

 

道路に屯するカラスを追い払った結婚の悪魔は現場に急行する。

それを真顔で追いかけるマキマの表情は人外そのものに見えるほどであった。

 

 

「あっ!マキマさん!!」

「よお!マキマ!!ワシが大活躍したのにみんながうるさいのじゃ!なんとかしろ!!」

 

 

そして通報現場に辿りつくと血塗れになったパワーと何故か頬が凹んでいるデンジが居た。

 

 

「先輩!聴いてくださいよ!!」

「分かったから落ち着け。まずは何があったのか報告しろ」

 

 

明らかにパワーに振り回されて対処できなかったのは明白だったが、一応事情を訊いてみる。

 

 

「こいつがいきなり駆け出して!屋上から飛び降りて悪魔をやっつけたんです!!」

 

 

通報現場には、悪魔の死体が転がっていた。

血で作られたハンマーがその場に残されているので大体の事情は察する。

 

 

「そしたら警察やデビルハンターに怒られて通報されたんすよ!?」

「あーあ、なるほどよくわかった」

 

 

更に周りを観察すると現場付近には「KEEP OUT」の文字が書かれたテープが張られている。

そしてパトカーが数台停まっているところを見ると警官が現場封鎖したのは間違いなかった。

まさに公安本部にかかってきた通報通りの現状だった。

 

 

「マキマさん、通報通り、民間のデビルハンターの獲物に手を出したようです」

「困ったわね」

 

 

デビルハンターには大きく2種類に分けられる。

まずは、警察や住民から通報を受けて現場に駆け付ける【民間のデビルハンター】である。

例えるなら、クマが街中に出現した際に出動する猟友会の人と言えば分かりやすいだろう。

 

 

(うわ、しかも無断で討伐したのかよ…)

 

 

引き続き、猟友会で例えると、クマを発見したとしてもすぐには射殺できない。

まずは、警官や消防団の方々に近隣住民の避難をさせて安全を確保するのだ。

しかも、避難が終えたとしても、緊急時を除いて発砲許可が下りない限り、発砲できない。

その段階でパワーが目を付けられた悪魔に手を出したから大問題となったというわけである。

 

 

(さて、どう対処しよう…)

 

 

地元の警察や猟友会が法律に基づいて行動していた時、空気を読まない奴が乱入する。

なんか東京からやって来た警視庁の機動隊員が勝手にクマを射殺したらどうなるか。

それは激怒されるどころか、訴訟される。

だって法律と暗黙の了解を破って勝手に行動したのだから。

 

 

(ああ、面倒だ…)

 

 

今回は、()()()が対象であっただけで…あくまで物事の本質は変わっていない。

()()()だけに…。

 

 

(せめて大暴れする悪魔だったらな…)

 

 

一方で民間のデビルハンターでは対処できない悪魔も存在する。

クマならともかく怪獣が出て来たら、猟友会と地元警察だけで対処できないと同じ理屈である。

しかし、過剰な武装をした警官隊や軍隊が出撃すると市民団体が騒いで妨害するのだ。

そこで日本は、公安警察の一部隊としてのデビルハンターを擁している。

 

 

「どうなっているんですかお宅の教育は!?」

「申し訳ございません!情報共有が出来ていなかった事を認識しており…」

 

 

そのせいでめちゃくちゃ怒られる羽目になった。

上司のマキマはベンチに座ってくつろいでいるというのに結婚の悪魔は何度も叱られた。

その度に返答を行なうが、元より給料泥棒と騒ぐ第三者勢力のせいで余計に時間が取られた。

 

 

「民間が手を付けた悪魔を公安が殺すのは業務妨害だよ。普通なら逮捕案件になっちゃうよ」

 

 

絶対こうなると分かっていた癖に『困ったな…』というマキマの表情に悪魔は内心でキレる!

 

 

「パワーちゃんはもうちょっと考えて行動しなきゃいけないね」

 

 

さきほどからパワーを優しく叱責するマキマだが…。

 

 

(だったらお前がしっかり教育したり、指導すればいいだろ!?)

 

 

パワーに制限をつけずに暴れさせたせいだと結婚の悪魔は内心でツッコミを入れる。

 

 

「デンジ君も彼女を制御しなきゃ」

「え?俺も~!?」

 

 

デンジに関してはしょうがない。

民間のデビルハンターの経験があっても、その育ちから誰かと共闘する機会はなかったはずだ。

自分勝手に行動した挙句、他人のせいにする魔人に対応するのは無理があるというもの。

結論から言えば、最終的な責任者となるマキマが全部悪い!

 

 

「パワーちゃんは魔人になる前は、“血の悪魔”だったから血を使った戦い方が得意なんだけどね…すぐに興奮してしまうし、デビルハンターには向いてなかったかな?」

「え!?」

 

 

国家が運営する公安のデビルハンターは、残酷の事実を述べる。

このままだと、「おめぇの席ねぇから!」と告げたのだが、ここでは死刑宣告に近い。

公安の役に立たないのであれば、所属する悪魔は殺されてしまう。

そう考えると結婚の悪魔がマキマに盾突く行為は、意外と凄い事をやってたりするのだ。

 

 

「きょ、こいつが殺せって言ったんじゃぁア~!」

 

 

このままだとマキマに殺されると思ったパワーは、デンジに責任を転嫁する。

結婚の悪魔からすれば、さっさと殺された方がありがたいのだが、当の本人はそうもいかない。

 

 

「はぁ!?マキマさん!先輩!!俺言ってないです!よくそんな嘘が言えたもんだなァ!?」

 

 

当然、デンジはパワーの発言に反発し、魔人を指差して自分の無実を訴える。

 

 

「嘘じゃないわい!ウヌが言ったのじゃ!この人間が悪魔を殺せって言ったんじゃ!本当じゃ!」

 

 

ここに来る時に「ワシが大活躍した」と言ってた魔人は、命惜しさにデンジをマキマに差し出す。

まさに外道、大英帝国の三枚舌以上に舌があるせいで虚言癖すら気付いていない。

 

 

「コワ!?マジコワッ!?マキマさん、こいつ嘘つきですぜぇ!?」

 

 

もちろん、人のせいにされたくないデンジはマキマに抗議する。

 

 

「逮捕だ!逮捕!嘘なんとか名誉なんとか罪で逮捕だァ!!」

名誉棄損罪(めいよきそんざい)な」

「そうそう!それそれ!」

 

 

学は無いが、とりあえず存在すると知ってる罪状で魔人を逮捕しろとデンジは喚き散らす。

すかさず、結婚の悪魔が助け舟を出したのでそれに乗っかって抗議をした。

 

 

「ちなみに本当の事を言っても、名誉棄損罪が適用されたりする」

「ええ!?マジでぇ~!?」

 

 

ところが、すかさず先輩に梯子(はしご)を外されたので逆にデンジは驚愕していた。

 

 

(なんで適用の単語を知っているんだこいつ…)

 

 

「適用」の単語を彼が知らないと思っていた悪魔は、妙なところで頭の回転が早いと感じた。

デンジは馬鹿だが、間抜けではないらしい。

 

 

「そうじゃ!ワシは本当の事を言った!名誉棄損罪は人間用の刑罰じゃ!だからワシは違う!」

 

 

パワーはここぞとばかりに自分は無罪だと主張する!

名誉毀損罪は、不特定多数の者の前で社会的評価を害して名誉を毀損する場合に成立するのだ。

 

刑法第230条

1.公然と事実を摘示し、人の名誉を棄損(きそん)した者は、その事実の有無にかかわらず、3年以下の懲役若しくは禁錮*2又は50万円以下の罰金に処する。

2.死者の名誉を毀損した者は、虚偽の事実を摘示することによってした場合でなければ、罰しない。

 

つまり、告発内容が事実かどうか関係なしに刑罰が発生する。

なんでこうなっているのか、結婚の悪魔も良く分かっていない。

あえて言えば、厳密な捜査に基づいた冤罪(えんざい)で訴訟した警察だったが、その後の裁判結果で被告人が無罪になっても、警察は本当だと思ったので名誉棄損罪が適用されないという反論を阻止する為。

まあ、知らんけど。

 

 

「悪魔は嘘つかない!嘘をつくのは人間だけじゃ!ワシは法律を守っておる!!」

 

 

…などと現在進行形で嘘をつく悪魔が居ますが、デンジが告発した内容の場合は無罪となる。

詳しい事は省くが、「刑法第230条の2」というものがあり、正直者は刑罰を当然、除外される。

 

 

「人間は汚く嘘をつく!ワシは『やれ』って言われただけじゃ!」

 

 

ただ、あまりにもグダグダ言っているので…。

 

 

「うるせぇよ!!」

「ぶはっ!?」

 

 

激怒した結婚の悪魔は、隠し持っていたトンファーバトンでパワーの左頬を本気で殴打する。

アメリカ警察が採用している護身用の武器ではあるが、使い方次第では凶器になった。

殴打された彼女はギャグ漫画のように10mの上空に吹っ飛んで顔面から着地する。

 

 

「ウヌ!!本気で殴りおったな!?暴行罪じゃ!!ふげえ!?」

「人間の法律に悪魔が適用されないって言ったのはお前だろうが!!」

 

 

すかさず立ち上がって鼻血を垂らしながら抗議する魔人の頭を金髪の男がトンファーで殴打する。

脳天直撃を喰らって涙目になったパワーは両手で頭を押さえて痛みを堪える。

 

 

「この通り、この魔人は痛みを知らないと学習しない。一緒に行動するなら覚えておくように」

「おけぃ!よく分かったぜぇ!」

 

 

結婚の悪魔が化ける金髪のおっさんからアドバイスをもらったデンジは素直に頷いた。

 

 

「ウヌ!それにデンジ、覚えて…」

「静かにできるよね?」

 

 

それでもパワーは怒りで暴走しそうだったが、マキマからの一言で縮こまった。

肉体が500万回爆散させられても復活できる結婚の悪魔と違って肉体の強度が人間並みなのだ。

さきほど彼女が暴れていたのも、マキマから罰させられないように奮闘しているだけだった。

 

 

「で、できる…」

「ああん?なんだこいつ…」

 

 

事情を知らないデンジは、やけに震える魔人に困惑するが、悪魔からすればそれが当然である。

 

 

「偉いねパワーちゃん。正直どっちが足を引っ張ったとか気にしてないよ」

 

 

一応、仲裁する感じで優しくパワーに問いかけるマキマであるが…。

 

 

「私は2人の活躍を見たいんだ、私に活躍を見せられそう?」

 

 

散々な目に遭って来た結婚の悪魔もびっくりの脅し方をしていた。

もし、ここで断れば、即座にパワーは殺される。

しかも凄惨に長く苦痛が続くように殺されるのだ。

 

 

「みせ!みせっ!見せるっ!」

 

 

パワーも察したのか。

素直にそう伝えるしか選択肢が残ってなかった。

 

 

「パワーちゃん、私は期待しているの。…先に車に戻ってるね」

「承知しました」

 

 

暗に自分にも釘を刺してきたと実感した結婚の悪魔は彼女の発言を肯定する。

 

 

「ははん?ワシの恐ろしさを知って尻尾撒いてワシの車に逃げよったわい!」

「いや、お前は車を運転してここに来てねぇだろ?」

「ワシは車を運転した!そしてマキマに勝った!それが事実じゃ!!」

 

 

そのまま自分が乗って来た車に戻ったのを確認したパワーはすぐに本性を現した。

即座に結婚の悪魔は、パワーにツッコミを入れるが、今回は殴打をしない。

むしろ、このまま泳がせておいて更なる失言でマキマにお仕置きされるのを期待している。

 

 

「なんだ、お前。マキマさんに弱いのか?」

「違う!!ワシは負けてやったんじゃ!」

 

 

ここまでボコボコにされても、暴言を吐ける魂胆だけは見習いたい。

デンジは、パワーという魔人がマキマを恐れていると感じたようだ。

その指摘に対してパワーは大声で反論する!

 

 

「それにワシが弱いと思うか!?」

「うん」

「なんじゃと!?ワシを信じろ!!それとも、ウヌはワシを信じられないのか!?」

 

 

とりあえず、血の魔人を嫌う結婚の悪魔は、こいつを殺処分できないと知って心底がっかりした。

少なくとも早川アキのところに責任が向かうように手続きをすると決めてその場を立ち去る。

 

 

(それにこんな奴でも女だからな、上手くいけばデンジの夢が叶うかもな…)

 

 

ここまでされても、デンジはパワーの胸を凝視していた。

思春期を迎えた青年は、美女の死体に寄生した魔人でも欲情するというわけだ。

すぐさま、さきほど打ち合わせした通り、管理者と責任者に連絡を取り、この場を収めた。

 

 

「……はあ?」

 

 

それから数日後、またしても結婚の悪魔が頭を悩ます事件が発生した。

 

 

「分かった、すぐに向かう」

 

 

まずは“コウモリの悪魔”と“ヒルの悪魔”が大暴れして多くの負傷者が出たと報告を受けた。

コウモリの悪魔の方はデンジによって討伐されたが、その際に一般男性を見捨てたそうだ。

ヒルの悪魔に関しては、騒動を受けた駆けつけた公安対魔特異4課によって討伐された。

しかし、被害規模がデカすぎるので対応して欲しいとの連絡が来てしまったのだ。

 

 

「やけに悪魔が出て来るな!?地獄でぜったい何か起きてるだろ!?」

 

 

ここまで頻繁に強い悪魔が暴れれば、日本という国家が滅亡しかねない状況である。

未だに存続するのは、基本的に個室で暴れる程度で済ませる悪魔しか出てこないからだ。

それなのにここ最近、厄介な悪魔が襲撃しているのを受けて結婚の悪魔は疑いをかける。

 

 

(デンジと出会ってから碌な事が起きてない気がする…)

 

 

最近、運が悪いと感じているが、そのきっかけがデンジと遭遇したせいかもしれない。

当然の事ながら理不尽であるが、マキマの執着っぷりといい何かがおかしい。

それでも結婚の悪魔は、法律と規則に基づいて行動する。

そうすれば、自分が有利になると分かっているのだから。

 

 

「ひとまず、お前たちに怪我が無さそうで安心した」

「先輩、お忙しいところ申し訳ございません」

 

 

現場に駆け付けるとヒルとコウモリの肉塊が至るところで散らばっていた。

早川アキの表情とあいさつからして初期対応は終わっていると判断。

 

 

「状況を簡潔に報告せよ」

「はい、生存者の救出と保護活動を終えて警察と共同で現場検証を行なっております」

「魔人とデンジはどうした?」

「負傷したデンジは救急搬送されて魔人は重要参考人として拘束されました」

 

 

状況を確認したところ、既に早川アキは自分のできる事を全て行なったようだ。

ついでに姫野先輩が隠れて缶ビールを飲んでいるところを見ると早く帰りたいのだろう。

 

 

「死者は出たか?」

「いえ、今のところは、その報告を受けていません」

 

 

最後に一番重要な質問に返答してくれた早川アキに向けて笑う。

そして彼らの苦労を労うように口を開く。

 

 

「よろしい、ここは自分が受け持つ。一旦、車内で待機して休息を取れ」

「ハッ!」

 

 

一言で表すと面倒な案件となった。

東京都のど真ん中でこれほどの事件があると権限で揉み消すのが難しい。

これから始まる記者会見に説明するストーリーを考えながら現場を俯瞰する。

 

 

(早川の態度を見るに“銃の悪魔”とは無関係か。逆に違和感があるのだが…)

 

 

ぶっちゃけ銃の悪魔の肉片を取り込んで調子に乗って暴れてくれた方が良かった。

それなら上層部に報告しやすいし、記者団にも銃の悪魔の脅威は去っていないと断言できる。

 

 

(くだらねぇ…)

 

 

人間は、自分に都合の良い事を信じる事が多い。

さきほどまで自分と向き合っていた公安職員たちもそうだ。

あの場に居た職員は、銃の悪魔の居場所を知ろうと躍起になっているが、実は意味がない。

既に銃の悪魔が倒されている以上、むしろ脅威なのは肉片を所有している国家群の方だ。

なのでアキの復讐心が無意味だと知っているが、それを指摘するほど優しくない。

 

 

(せいぜい足掻けよ人間が……)

 

 

ここで悪魔の肉片を捕食し、自分の肉体を強化してもマキマに力を没収されるのは分かっていた。

真面目に働いて馬鹿を見るならば、適度に手を抜くべきである。

 

 

(決して叶わない夢を追い求める姿が面白いのだから…)

 

 

だから結婚の悪魔は、自分の利点にならない限り、嘘は言わないが事実も告げない。

無駄に人間が無意味な事で足掻く姿を見るのが、この悪魔の数少ない趣味なのだから。

 

 

*1
財務省の前身となる組織で金融と財政を司っていた。2001年の中央省庁再編で財務省と金融庁に別れて消滅した

*2
2022年の改定で「3年以下の拘禁刑」となった。拘禁刑は懲役と禁固を一本化させたもので詳しい事はググれ

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