デンレゼが足掻く度に不幸になるケッコンの悪魔さん 作:Nera上等兵
女の胸の事で頭が一杯だったデンジは、マキマさんの発言すらまともに聴いてなかった。
そのせいで失言してしまい、早川アキに怒られたが、未だにおっぱいの事が頭から離れない。
「デンジ君には今日からバディを組んでもらう」
「…バディ?」
「相棒って事、背中を任せられる存在って大事なの」
憧れのマキマさんの話によると、どうやら自分と組む相手がいるようだ。
今までポチタと一緒に悪魔を討伐してきたが、他のデビルハンターと共闘する事は無かった。
取り分が減るというのが理由だったが、今思えば真実を知らせない為だったかもしれない。
「公安では、小規模とかパトロールは安全の為に二人一組で行動する事になるんだ」
とりあえず、男は嫌だけど、マキマさんに怒られたくないからデンジは我慢する。
それはそれとして合法的に胸を揉む方法を頭の中で模索していると…。
「ちょうどよかった。来たみたい」
廊下を力強く歩く音が聞こえて来た。
もし、暗殺者だったら0点どころか-100万点くらい減点されそうな勢いである。
「気を付けてね…彼女は魔人だから」
「……へ?」
デンジは聞き間違いだと思った。
人間の死体に悪魔が憑依する事で誕生する魔人と行動を共にするとは思わなかったのだ。
「おうおう!!ひれ伏せ人間!ワシの名前はパワー!!バディとやらはウヌか!?」
マキマさんの言葉の意味を理解する暇も無く嵐のように出現した女は衝撃的だった。
まるで「自分は鬼です」と言わんばかりに頭頂部には2本の赤い角が生えている。
滑らかなロングヘアーとは裏腹に腰から中途半端にはみ出したYシャツがチグハグさを醸し出す。
「パワー!?つーか魔人!?魔人がデビルハンターなんかやっていいのか!?」
この時代にキラキラネームという単語は、存在しない。
ただ、パワーワードの名前の上に魔人がデビルハンターをやっているという事実は衝撃的だった。
悪魔なのにデビルハンターをやっている奴と現在進行形で会っていると気付く事はなかった。
(おっ!?)
だが、デンジからすれば、そんな事は大した事では無いし、どうでもよかった。
「まあいいか!!よろしくな!」
バディになる女魔人のおっぱいが大きかった。
それだけで十分だったデンジは、快く彼女を受け入れた。
――すぐに後悔する事になるとは知らずに…。
今思い出せば、マキマさんからヒントが出されていた。
「魔人は悪魔と同じ討伐対象なんだけど…」
目の前で好き放題に言って暴れ回る姿はまさに人外そのもの。
「パワーちゃんは理性が高いから早川君の所に入れてみたんだ」
ここで言う理性というのは、どれだけ人間生活に馴染みやすいかという事。
初めてエロ本を回収した時に出会った魔人に比べれば確かに理性が高い。
「人間!早く殺させろ!ワシは血に飢えているぞ!」
それは、精神障害者よりは悪魔討伐の戦力となる程度の目安でしかない。
どれだけ狂っていても人間である存在と違って弱体化しているが悪魔なのは確かだ。
それでも常人とは違う反応を見続けたデンジは思う。
(ツラがよければある程度、許せる。問題なのは、どうやって胸を揉むかだ…)
今回の魔人は、変な瞳と赤い角を除いてちょっと臭いのを我慢すれば美少女である。
人間ではないので人権が適用されないのもあり、上手く騙しておっぱいを揉む方法を考えていた。
(胸を揉みたいと思っている場合じゃねぇ…)
さきほどの騒動で好き放題する相方のせいで自分の存在価値まで失われると知った。
今回は、“金髪のおっさん”が庇ってくれたが、何度もやらかせば見捨てられるのは明白だ。
こうやって自販機で缶ジュースを買える立場になったというのにすぐにそれも無理になりそうだ。
「なあ、俺にとっちゃジュースを飲めるのは夢みたいな事だぜ。だけどこんままヘマを続けたらジュースを飲む所の話じゃねーぞ?だからって嘘つき女と協力なんてできねぇけどな…」
ゴミ箱に捨ててある空き缶の底に残っている何かがデンジがジュースを味わう唯一の手段だった。
文字通り身を切って僅かに得た金も借金返済にほとんど費やして残ったのは、意地汚い生活だけ。
しかし、人間の生活を知ってしまい、後戻りできないデンジにとって相方は厄介そのもの。
「ワシが仲良くできるのは猫だけじゃ!悪魔の本能みたいなモンな人間は嫌いじゃ!」
「あっそ」
人間相手にはクソムーブする魔人ではあるが、猫とは仲良くできるらしい。
今まで討伐してきた悪魔や魔人は小型生物を捕食するイメージしかなかった。
なので少なくとも猫に愛情があるこの魔人は、少しだけマシなのかもしれない。
「そして悪魔も嫌いじゃ!悪魔はワシの飼っていたニャーコを連れ去ったからの!」
そしてパワーの発言によって思わずデンジは振り向いた。
もし、唯一の友達だったポチタが奪われたら絶望して死んでいたかもしれない。
それほどまで大事な存在を目の前に居る魔人は奪われていると知ったのだ。
「ニャーコを取り戻す前にマキマに捕まってしまった。殺されているかもしれんが、諦めきれん。ワシは悪魔からニャーコを取り戻せるなら人間の味方でも何でもしてやる!」
ただし、デンジからすればどうでもよかった。
自分が苦しんでいる時、マキマさんと出会うまで誰も手を差し伸べてくれなかった。
その経験が大きいせいで同感はできるが、同情ができなかったのだ。
「猫ォ?くだらねぇな、俺は胸を揉めるっつうなら何でもできるし、やってやるがよ…」
なによりこの魔人が猫のお世話をできるとは思えなかった。
「あーでも!犬ならまだ分かる気がする」
一応、犬っぽいポチタと一緒に過ごした経験で犬はそれほど嫌いじゃない。
むしろ、憧れの上司の犬になる為に本能で生きる彼らを見習いたいと本気に思ってる。
「…ニャーコを取り戻せたら胸を揉ませてやるっていったらどうする?」
そしたら魔人から悪魔らしい提案を受けた。
おっぱいを揉めるなら何でもするのが、今のデンジの本性である。
「……悪魔がよぉ!許せねぇ!!」
「おお」
「猫ちゃんをよぉ!さらうなんて許せねぇ!んな事!許せねぇよな!!」
「おお!!」
甘い言葉には裏がある。
そこまで親しくない女子に「エッチしよ?」って言われたらまず危機感を覚えないといけない。
楽してお金をたくさん稼げれる仕事が無いようにパワーからの提案も何かがおかしいはずだった。
「デビルハンターとして許せねぇ!そんな悪魔、俺がぶっ殺してやるぜ!」
そこまで残虐な悪魔が居るなら真っ先に公安のデビルハンターに知らせるはずである。
だが、胸を揉む事を最優先しているデンジは、ニャーコを攫った悪魔を討伐する事に決めた!
おっぱいを揉めるなら悪魔くらい討伐するなど屁でもないのだ!
「なあ、悪魔の居場所、分かっているのか?」
「ニャーコの居場所は分かっておる!そこに悪魔が居るのじゃ!」
「ならさっさと通報した方が良くないか?」
「人間は信用できん!ニャーコを盾にされたら詰むのに悪魔討伐を優先するんじゃからな!」
後日、公安の職員の許可をもらい、魔人パワーの外出許可をもらって電車に乗っている。
パワー曰く「自分の姿を見せたり不審な行動を発見されるとニャーコを盾にされる」らしい。
人質ならぬ猫質であるが、人間より猫を愛する魔人には効果抜群だそうだ。
それを横で聴いているデンジは猫の話より重要な事を考えていた。
(悪魔をぶっ殺せば…胸を揉めるっていうが、もっと合法的に揉みてぇ…)
あくまでご褒美という形で胸を揉めるが、それだと1回しか揉めない。
ペット愛を表現すれば、ニャーコとかいう猫を通じてパワーと仲良くなれるかもしれない。
「俺もポチタっつー悪魔を飼っててさ~」
だから【同じ気持ちを理解できますよ作戦】で魔人の気を惹こうと考える。
乞食時代にプライドを捨てて頭を下げてお金を恵んでもらった経験が活きた瞬間だ。
「もう撫でる事はできねぇけどよ、俺のココでポチタは生きているからな」
「人間は愚かじゃな!」
「…ああ~!?」
デンジが胸に手を当てて共に生きていると表現しようかと思ったが、パワーの言動に阻まれた。
「そりゃあ、ポチタが死んだって事じゃろう~?死んだ命は無じゃ!心の中にいるだのなんだのは浅ましい慰めじゃ。ワシは違う!ニャーコが助かれば人間もマキマもなんかどうでもいい」
同じ座席に座っているはずなのにデンジとパワーには距離がある。
それを知らしめるように拒絶する彼女の姿から絶対に仲良くできないとデンジは確信した。
「あそこの家じゃ!あそこの家にニャーコと悪魔がいる」
「じゃあ、さくっと討伐するぞ」
電車を降りて徒歩20分くらい経った頃、街を見渡せる丘の上にポツンと一軒家がある。
堂々と案内するパワーの発言を聴きながら彼女の後ろを歩くデンジは疑問が生じた。
(なんでこいつ、まだ歩いているんだ?)
悪魔に自分の姿を見られたら猫を盾にするそうだ。
それなのに自分の発言を冗談だと鼻で笑う余裕を見せている。
ここ最近、好きな女の子に裏切られまくっているデンジは鎌をかける事にした。
「テメェが姿見せたら、猫を人質にされるだろ?こんなに近くまで来て良いのか?」
「おお?そういう設定じゃったっか?おっと言い間違いじゃ」
あの騒動で分かっていたはずだ。
こいつは自分の為に平然と嘘をつく魔人だと!
「うっ!?」
「馬鹿じゃが勘は良い。でも負けたら意味がないのう」
すぐに手斧でぶっ殺そうと思ったが、パワーの動きの方が速かった。
あっさりと返り討ちにされたデンジの脚を引っ張ってパワーは家の中に入っていく。
「コウモリ、約束通りに人間を連れて来たぞ」
「若い男か、精力が出る血が飲めそうだ。すぐに人間を用意しなかったのは気に喰わんが…」
家の中に居たのは、コウモリの悪魔であった。
パワーが生贄に差し出したデンジは悪魔に掴まれて絞り取れるように血を注ぐ道具となる。
血に飢えていた悪魔はさっそく哀れな生贄から搾り取った血を飲み込んだ。
「ま、不味い!!こんな不味い味で復活してしまったではないか!?」
どうやら人間の血は好きだが、悪魔と合体している人間の血は不味いらしい。
なので悪魔を積極的に捕食する悪魔は悪食好きのイカレ野郎となる。
「他の人間で口直しをしなければ!……口直しはデザートにしていた子供で決まりだ!!」
それでも悪魔が求めた血で間違いない。
デビルハンターとの戦闘の傷が癒えたコウモリの悪魔は街を襲撃する気満々だった。
一方で血塗れで瀕死になったデンジを見下すようにパワーは告げる。
「よくワシの話を信用できたもんじゃ、だからこうなったのじゃから人間は愚かじゃの」
元より自分のこと以外はどうでもいいパワーに恥も後悔も無かった。
「コウモリの悪魔!!約束を果たしたのじゃ!ニャーコを返してもらう!」
もちろん、ニャーコを返してもらうつもりだった。
ニャーコが居ればそれでいいパワーは、拉致された相方の解放依頼をした。
「ん~!?そういう話だったな」
「ニャーコ!?」
「私に不味い血を持ってきた罰がまだだったな」
しかし、コウモリの悪魔はパワーを裏切った。
彼からすれば、不味い血を寄こした彼女が先に裏切ったのだ。
見せしめのように猫が入った檻ごとの飲み込んでみせた。
「ニャーコ…」
最初は太らせて喰おうと思ったパワーは何故か自分に懐く猫だけは殺せなかった。
自分と目が合ったら熊すら殺す残虐な悪魔のはずなのにニャーコだけは愛していた。
「すまん、ポチタをもう撫でらんと言っていたウヌの気持ち。今なら分かる気がする」
それがたった今、失われた以上、パワーは抵抗する事すらできなかった。
最期に思い浮かぶのは、自分が騙した金髪の少年の発言であった。
「酷い気分じゃな」
あっさりとコウモリの悪魔に捕食されて噛み砕かれたパワーは胃の中へと消えていった。
「不味い!不味い血ばかりだ!!クソ…」
人間の死体に憑依している悪魔の味も不味かった。
脂肪が多くて柔らかい女の血肉でも味が受け付けないコウモリの悪魔は、えずく素振りを見せる。
ジワジワと胃酸で溶かす猫だけでは腹が満たされない悪魔のやる事など決まっている。
「子供の血でうがいをしてやる!それに生娘に健康の女!デザートは妊婦でいいか、とにかく女を食べまくってこの不快な味を忘れてやる!!」
なんだかんだいって女の肉が好きなコウモリの悪魔は街に向かって飛んでいく。
そんな事をすれば、一時的な快楽を得る代わりにデビルハンターに始末されるという思考はない。
さっきまで廃家に身を潜んでいた理由すら忘れた悪魔は本能だけで行動していたのだ。
「痛っ!?」
ただし、本能だけで行動するのは、コウモリの悪魔だけではなかったようだ。
「私の血を飲んでいるのか!?お前はもう要らん!!消えろ!!」
瀕死の人間に自分の脚を噛まれるのは生まれて初めてだったコウモリの悪魔は驚愕する。
出血死したくない人間が自分の血を飲むなど認めたくなかった。
さくっと握り潰してそのまま捨てる気満々であった。
(ポチタが居なくなった時、俺は必死に探し回っていた)
圧倒的な力で握り締められたデンジは走馬灯を見た。
まだ眼球と金玉を売っていなかった頃、ポチタが居なくなった時があった。
必死に探し回った結果、ポチタは家の中で泣きながら待っていた。
その時ほど安心した事は無く一緒に寝たのを覚えている。
(あいつはニャーコを奪われてどんな気持ちで寝ていたんだろ)
あの時にポチタを攫われていたら悪魔の手先になっているとデンジは自信がある。
それほどまでにポチタは、世界と自分を繋ぐ数少ない友達であった。
だからその友達を奪うこの悪魔を許せなくて現実に戻って来た彼はスターターロープを引く。
「ヒャッハー!血だあああああ!!」
デビルハンターになって良い事は、気に喰わない悪魔を合法的にぶっ殺せる事だ!
自分を騙して殺したヤクザも人間じゃなくなったから悪魔になったという建前で殺した!
だから今回も同じことを繰り返す事にした!
「悪魔!?」
悪魔の捕食経験がなかったコウモリの悪魔は、握り潰そうとしたのがただの人間だと思っていた。
ところがどっこい蓋を開けてみれば、両腕と頭からチェンソーを生やして暴れ回る悪魔だった。
腕を切り裂かれて滞空できなくなったコウモリの悪魔は、もう1人の悪魔と共に地上に落下した。
「ええ!?」
テナントビルの中で業務をしていたオフィスレディは目の前の光景が信じられなかった。
まるで目の前で隕石が落ちて来たような衝撃で身が固まってしまったのだ。
「人間、喰っちまうぞ!!」
「ひあっ!?ひゃああああああああ!?」
すかさず人外の姿になったデンジが叫ぶと彼女は壁に背を付けてそのまま逃げてしまった。
その様子を見ていたコウモリの悪魔は叫ぶ。
「人を逃がした!?悪魔の癖に何がしたい!?」
人間を見下す癖に人間がいないと餓死をする下級悪魔は目の前の悪魔に人間を逃した理由を問う。
それに対してデンジの返答は決まっていた。
「テメんの腹ぁ割いて胸を揉むんだァよ!!」
コウモリの悪魔に捕食されたパワーがまだ死んでいないと確信!
男らしく悪魔をぶっ殺して腹を割いて彼女とパワーを助ける。
昔に夢見たヒーローになって合法的に胸を揉む事しか考えていなかった。
困惑するコウモリの悪魔を全力で殴打し、壁をぶち抜いてそのまま地面へと転がる。
「おのれ!!」
この程度で死ぬのであれば悪魔は人間から怖がられない。
道路に落下したコウモリの悪魔は、騒動で停車した自動車を掴み上げる。
「人間を逃がす奴に…これは切れるか!?」
そしてノコノコとやってきたチェンソー野郎に自動車を投擲した。
哀れな運転手のおっさんを乗せて絶望と共にデンジを潰す…はずだった。
「ふん!!えええ!?」
このままだと受け止めても両腕のチェンソーで車を切り裂いてしまう。
そう思っていても思わず両腕で構えて踏ん張ったデンジは衝撃的な光景を目にする。
「チェンソー引っ込められたの!?」
女にモテたくてしょうがないデンジの心の影で自分の異形さからモテないと思っていた。
頭と両腕にチェンソー生やしている存在なんか女性が惚れないと確信があったのだ。
だが、チェンソーを引っ込められるなら問題ない。
「その力があって何で人間を助ける!?」
「誰が助けたって!?」
デンジの本心は、普通の生活をしたいと同じくらいに女とイチャイチャしたい。
もし、この車に乗っていたのが美女だったらさっさと逃がして自分の雄姿を見せつけた。
だが、フロントガラス越しで見えたのは、おっさんである。
「野郎の~!命なんざぁ~あ!!知るか!!」
戦場で美女が死ぬのは勿体ないが、野郎なら問題ない。
むしろ、自分のライバルをこの世から減らすようにデンジは自動車を投げ返す。
まさか、人質になりえる自動車を投げ返されると思っていなかった悪魔の顔面に激突した。
「おのれぇ!!」
ここまでコケにされる事がなかったコウモリの悪魔は能力を披露する。
高出力の超音波を放出し、化け物をぶっ飛ばして近くにあったビルごと破壊してみせた。
「に、人間。血を寄こせ」
瓦礫に埋もれたと確信したコウモリの悪魔は、さきほど車から投げ出された男を掴む。
「タバコ臭いのはこの際、我慢してやる」
もちろん、喰ったらさっそく近場に居る女を捕食しまくる予定だった。
しかし、またしてもチェンソーが始動するエンジン音を聞いて動きを止めた。
「何故、生きている!?」
「知るかボケぇ!!俺はおっぱいを揉むんだよぉおお!!」
「ち、近寄るな!!オレのそばに近寄るなああーっ!!?」
悪魔は人の恐怖によって力を増す事ができる。
しかし、悪魔自身が何かしらの現象に恐怖するとその力は大幅に弱まってしまう。
おっぱいを揉む為に悪魔をぶっ殺す思春期の男子と死を恐れて抵抗できずに後ずさる小物。
どっちが勝つかは明白だった。
「気持ちいいい!!」
気に喰わねぇ奴をぶっ殺せる快感は凄まじいものだった。
あっさりと絶命したコウモリの悪魔を肉塊を切り裂いて探し物を捜索する。
ポチタのおかげでチェンソーで作業するのが慣れているデンジはあっさりと発見する。
「おおお!!」
檻の中に居るニャーコは特に外傷も無く生きている。
そして魔人のパワーも血塗れであったが、呼吸をしているので生きている。
悪魔も討伐した事だし、あとはパワーの意識が戻れば、合法的に胸を揉めるのだ!
さっそく肉塊から救い出したデンジは彼女の頭の裏と脚に手を当てて持ち上げた。
「な、なんでじゃ…何故ワシを助けた?ウヌを殺そうとしたのに…」
目を覚ましたパワーは、ニャーコが無事なのを確認する。
そして悪魔が死んでいるのを確認した後、見捨てたはずの男に語り掛けた。
「え?悪魔殺したら胸を揉ませてくれるんだろ?ニャーコも無事だし、いいだろ!?」
本当はジェスチャーで胸を揉むポーズをデンジはやりたかった。
しかし、なんか恰好悪い感じがしたので口で改めて伝える。
お前の胸を揉みたいからニャーコもパワーも助けた…と。
「馬鹿みたいな理由じゃのう…」
パワーが今まで組んできたデビルハンターでここまで馬鹿な奴は居なかった。
ただし、彼女と接した彼らはすぐにパワーを捨ててどこかへ行ってしまった。
「騙してスマンかった。ニャーコを助けたかったのは本当じゃがな…」
そう考えると、騙してもなお、自分を信じてくれるこの男が好きになりそうだった。
温かい血を欲するパワーは、ようやくその血を分けてくれそうな存在に出会ったのだ。
「ニャーコは助かったからのう…胸は揉ましてやるわ」
悪魔は必要以上の契約は行わない。
いつでも裏切れる口約束などもってのほかである。
現にパワーはコウモリの悪魔に裏切られたし、デンジもパワーに裏切られた。
でも、デンジはしっかりと約束を果たしたのでパワーは自分の胸を彼に捧げた。
「え?」
パワーから胸を揉んでも良いという許可を聴いたデンジは一瞬だけ固まった。
「よ、よっしゃあああああああ!!」
しかし、彼にとっては東京大学に合格したほどの達成感に満たされた。
たかが、女の胸を揉む事であるが、当の本人はそれほどの難関だったのだ。
「ああっ!?」
それほど喜ぶデンジの右腕が唐突に千切れた!
右肘から先が無くなった彼はあまりの痛さに悲鳴をあげる。
「……動けるか?」
「指一本も動かせん」
「嘘だよな?俺を見捨てるんだろ?前みたいにやれよ」
「無理じゃ…ニャーコと一緒に逃げとくれ」
ただ、千切れた腕を捕食するミミズっぽい悪魔を見て分かった。
このまま戦っても勝てる気がしないと…。
しかし、パワーに逃げろと言っても彼女は動けないようだ。
「しゃらくせぇ…!」
このままで逃げられないデンジは、残っていた左手でスタータロープを引く!
いつも通り、額が割れて流血と共にチェンソーが出現する…はずだった。
「げっ…こんな時に…チェンソーが出ねぇ…」
分かっていた事だ。
変身する度に出血するせいで戦闘後は貧血で苦しんでいた事に…。
そして連戦するほど強くないと分かっていたのに…。
「なんてこったいィ、やっとコウモリちゃんを見つけたのにィ…こんな男に殺されちゃってェ」
コウモリの悪魔を探していた新手の悪魔は嘆く。
黒髪にデカい唇が印象的なミミズっぽい悪魔は恋人の死を信じられないように…。
「あら…よく見るとカワイイ顔!」
ところが、恋人を殺した金髪の少年は、彼女の好みだった。
コウモリの悪魔の仇であるはずの彼に恋する乙女は告げる。
「好みの顔をしているから見逃してあげる」
デンジにとっては悪くない選択肢だった。
このまま戦っても勝ち目がない以上、退く事も必要である。
もちろん、罠の可能性があるが、少なくともパワーを担いで逃げるより生還する可能性が高い。
「後ろの奴は?」
「殺す」
しかし、パワーが殺されると知ったデンジは思う。
(女に惚れられても嬉しくない事なんかあんのか…)
いくら人外とはいえ自分に惚れてくれる存在に出会って全然嬉しくなかった。
無意識で唾を吐いて左手を構えてこの悪魔をぶん殴ろうとしていたくらいに…。
「俺はな!後ろでおねんねしている奴とな!おっぱいを揉む約束をしてるんだぁ!!」
「くだらな~い!低俗な欲望を持つ奴にコウモリちゃんは殺されたっていうのぉ!?」
ヒルの悪魔は、目の前に居る少年が逃げると思っていた。
なのにクソみたいな願望の為に命を賭けるなどあってはならない。
「馬鹿みたいじゃな…それで死んだら意味ないじゃろ…」
横で聴いていたパワーも思わず本音が飛び出した。
「胸揉む前に死ねるっかよ……!」
それでもデンジは本気だ!
このまま悪魔をぶっ殺してパワーの胸を揉んでマキマさんに褒めてもらう。
常人から理解できない思考こそが彼の強さの源でもあったのだ!
「お前、俺を見下してんだろ!?」
「そうでしょ~!だってこんな事で悪魔と殴り合うなんて馬鹿みたいじゃない~!コウモリは私と一緒に人間を全て食べる夢を持っていた…これほど崇高な夢をぶち壊された気持ち分かるぅ!?」
「良く分かったぜ!」
そしてデンジは理解した。
「なら、せめてさっさと食べられて頂戴」
「夢バトルしようぜぇ!!」
「……はあ?」
誰もが自分に負けられないほどの夢を持っている。
復讐や家族、猫を救う為に命を賭ける存在になり得るのが“夢”である。
「あだぁああ!?」
「いいよな!!みんな!!夢をもってていいなァ!!だからよぉ!!夢バトルしようぜぇ!!」
一瞬だけ動きが止まった悪魔を何度も殴打する!
いくら夢が立派でも死んだら意味がない。
唇を殴られて無駄に痛がる悪魔が言っていた事だ!
「俺がテメェをぶっ殺したらよおぉ~~!てめぇの夢ェ!胸揉む事以下なァ!!」
なら答えは簡単である。
お互いの夢を賭けて殺し合って最後まで生き残っていたのが勝ち!
それが夢バトルである!
「吼えててカワイイワア!」
挑発に聴こえたヒルの悪魔は、面が良い少年を命乞いを聴くまで殺さないと決めた!
すなわち、ボロ雑巾のように扱って瀕死に追い込もうとしたのだ。
「コン」
無駄に戦闘が長引いたせいで何者かが呟いた言葉を聴く事は無かった。
それがヒルの悪魔の死に繋がった。
「こいつはヒルの悪魔だね。飲み込んでも良い?」
「よし」
早川アキが代償を支払って召喚した狐の悪魔に喰われてしまったのだ。
無情にも嚙み砕かれたヒルの悪魔は絶命し、狐の悪魔と一緒に消えていってしまった。
残ったのは、コウモリとヒルの悪魔の残骸。
「夢バトル…夢バトル……」
そして血を流し過ぎて意識が朦朧となったデンジ。
「た、助かったのじゃ…」
結果としてデンジの時間稼ぎで生き残ったパワーと…。
「にゃー!」
さきほどまで自分が死ぬと思っていなかったニャーコ。
「大丈夫か?」
右腕を失ったデンジに声をかける早川アキと公安対魔特異4課の面々であった。
「ヒルの悪魔、駆除確認」
デンジに本音を告げたアキは、最低限の仕事をこなす。
あとは先輩が何とかしてくれると信じて…。