デンレゼが足掻く度に不幸になるケッコンの悪魔さん   作:Nera上等兵

8 / 49
8話 悪魔との契約とご利用は計画的に

早川アキと共にデンジの見舞いをした結婚の悪魔は困惑した。

軽く医師や看護婦に挨拶した後、デンジの様子を見に行ってたら彼は目覚めた。

別にそれ自体は良いのだが、目覚めた直後に放った一言に首を傾げる羽目になった。

 

 

「俺、夢バトルに…勝った」

「「夢バトル?」」

 

 

寝起きにこんな事を言うのだから悪夢と戦っていたのか。

アキと向き合っておそらく同じ事を考えているのだろうと言葉を発せずとも確認できた。

 

 

「俺が生きてる!あいつは死んだ!だから胸を揉みたいという夢が勝ったんだぁ」

「まてまて、意味が分からん。最初から説明しろ」

 

 

あまりにも話の流れが分からなかったので結婚の悪魔は、デンジに説明を求める。

すると彼は血の魔人との出会いからヒルの悪魔とのやりとりまでを報告してくれた。

 

 

「お前、あそこまでされてまだ悪魔を信じているのか?」

「攫われた猫を助けたいって気持ちはマジだった。それに俺は生きてる。それでいいだろ?」

 

 

血の魔人に騙されて悪魔に差し出された挙句、全身を絞られて血を飲まれてしまった。

この時点で常人は死んでいるし、生き残ったとしても精神を病んでデビルハンターを辞職する。

なのに死にかけても反省しないデンジに腹が立ったのか。

病床で横になっている彼にアキは優しく語り掛ける。

 

 

「悪魔は常に人の死を願う。それは魔人も同じだ」

「でも、パワーは良い奴だったぜ」

「騙されたお前は、コウモリの悪魔の餌食になった。それは事実だ。違うか?」

 

 

捜査の結果、事前連絡もなしに彼らは巡回エリア外にある民家に向かったと判明している。

その民家では大量の血が落ちており、さきほどのデンジの回想で答え合わせができた。

パワーが自分を騙したという事実を否定できないデンジは金髪のおっさんを見る。

 

 

「パワーは殺されるのか?」

「普通はな、お前が被害届を取り下げても刑事事件として奴を罰する事も可能だった…」

 

 

今もなお、相方を心配する少年に悪魔は告げる。

 

 

「如何せん、悪魔は人間の法律で罰せられなくてな。デンジ、お前に判断を任せる」

「……え?」

「血の悪魔の魔人であるパワーが公安の敵かそれとも味方だったのか教えてくれないか?」

 

 

ここで被害者であるデンジの一言でパワーの未来は変わる。

今まで自分の行動と虚言癖で相方に見捨てられた彼女だが、今回だけは重要な決断だ。

もしも、デンジが否定したり、言葉を濁せばすぐにでもパワーを始末する事になっていた。

 

 

「パワーは味方です」

「根拠は?…そう思った理由を聞かせてくれないか?」

 

 

デンジがパワーを庇ったのを見て心底がっかりした結婚の悪魔は理由を問う。

 

 

「ニャーコを助けたい気持ちはホントだったんです。それに俺がヘマしただけで…」

「…そうか、まだ胸を揉んでいないからとでも言うかと…」

「それもあります」

「正直で大変よろしい」

 

 

人生のどん底に居た少年は、義務教育を受けて育った少年と価値観が違う。

内戦をしている発展途上国の少年兵に日本の文化を馴染ませるのは大変困難である。

それと同じように独自の価値観を培った少年にこれ以上、言及する必要はないと判断。

 

 

「皮肉にも早川の賭けは当たったな、悪魔嫌いのお前にしては珍しい」

「俺もデンジの話を聞くまでは信じ切れていませんでしたけどね」

 

 

デンジが魔人を庇うという賭けをした早川アキに悪魔は皮肉な発言をする。

賭けを申し出た彼であり、意外な提案に驚きはしたがあえて黙認した。

 

 

「少なくともデンジが嘘をつく人間だとは思っておりませんので…」

「今度、パワーがやらかしたら自分でも庇いきれんぞ?」

「ええ、分かってます」

 

 

公安一の悪魔嫌いと評される早川アキであるが、どこかお人好しである。

暴走した事実を受けて魔人を処分する方向に動く同僚を説得したのも彼であった。

「このまま血の魔人を無断で処分すればデンジが暴走する」との一点張りで…。

 

 

「という事だ、お前とパワーを庇ってくれた早川先輩にちゃんと感謝しておけよ。下手すればな、連帯責任としてデンジまで処分される事案だったんだぞ?」

「分かってる…」

 

 

未だに先輩の行動に感謝すらしていないデンジに早川が何か言いたい様子であった。

その様子を見て彼の本心を代弁するかのように悪魔はデンジに声をかける。

 

 

「デンジ、今回の事件はマキマさんの信用を損ねるほどの事態だと理解しているか?」

「ああ」

「なんで自分や早川先輩に相談しなかった?」

「俺たちだけで悪魔を倒せると思った…」

 

 

新人が同僚や先輩に報告せずに独自の判断で行動するのは、社会において非常識といえる。

今回の場合は、デンジが独断で動いたせいであわや大量の死人が出る大惨事になりかねなかった。

 

 

「まあ、ここで責めてもしょうがない。やっちまったもんはしょうがない」

「そうっすよねー」

「そうだな、お前らを大事に思っている早川先輩が庇ってくれないとこうならなかったもんな」

「…え?」

 

 

元々、血の魔人が殺人に繋がる事件を発生させれば殺処分する暗黙の了解が存在していた。

その為、結婚の悪魔は今回の事件を受けてパワーを殺す手続きをしていた。

そしたら早川アキが頭を下げて交渉してきたのだ。

 

 

「なんで?」

「そこに本人が居るんだから訊けばいいじゃないか?なあ?」

 

 

最初に相談を受けた結婚の悪魔はそれを一蹴し、魔人を処分する手続きをするはずだった。

しかし、同僚を無理やり納得させて再び頭を下げてきた彼の姿を見てしまい、見逃す事となった。

その理由を本人から教えてもらう為に悪魔はアキに発言を促す。

 

 

「これからお前を鍛えようと思っている。いつまでも間違った常識で生きていくお前を見逃すと、マキマさんにも迷惑がかかるからな。代わりに俺の言う事を聞けばお前の今の生活は守れるぜ」

 

 

マキマによって無理やりデンジと同居しているアキは覚悟を決めた。

問題児ではあるが、デンジが助けた人々が彼に感謝している以上、放置する事はできない。

自分の手で真人間にする使命感が生まれたようだった。

 

 

「どうだ?分かったら返事をしろ」

 

 

手を伸ばすデンジにうさりんごが乗った皿を渡したアキは問いかける。

またしても重要な選択肢であり、ここで拒否すればデンジの人生は終わる。

 

 

「おう、頭の中に入れておいてやらぁ」

 

 

一応、従うようであるが、あの調子ではまたやらかすに違いない。

だから結婚の悪魔は、未だに他人事に感じてそうなデンジに念を押す。

 

 

「別に守らなくても良い。だが、お前らを庇った先輩に見捨てられたらな、未来がないと思えよ。お前が病院で入院しているのも、魔人が殺されていないのも先輩の行動があってのものだ」

「おっさんは?」

「自分か?今回の事件を受けてようやく血の魔人を始末できると確信して嬉しかったくらいだ」

 

 

ちなみに結婚の悪魔は、血の魔人であるパワーを合法的に始末できると喜んでいた。

嬉しさのあまり、大量のクラッカーや爆竹、かんしゃく玉まで購入していたのだ。

むしろ、苛立ちを必死に堪えて平常心を偽っているからこそ、デンジに警告する。

 

 

「お偉いさんはな、お前らみたいな悪魔モドキが人間として生活しているのが気に喰わないんだ。これは差別じゃなくて区別だ。悪魔の力を持つ者が人類の味方と保障できる根拠はないからな」

 

 

人喰いの化け物と人間が共存できるなどあり得ない。

同じ人間ですら価値観や宗教、肌の色や風習、とにかく自分と相容れない存在を拒絶するのだ。

 

 

「それでも先輩はデンジに人間らしい生活を送れるようにしてくれるそうだ」

 

 

例えチェンソーが生えて来る化け物だとしても、金玉を蹴って来た奴だとしても青年は許した。

その優しさを踏み躙るようであれば、それはもう救いようがない馬鹿を越えたクズである。

 

 

「前も言ったが先輩に従えば、普通の生活が送れるんだ。悩む必要が無いだろ?」

「分かってる」

 

 

とりあえず、自分にも飛び火したくない悪魔は、分からず屋の少年を説得する。

どうやら説得が上手くいったような反応を示したのでそれ以上の追及は避けた。

 

 

「お前たちが公安の味方である限り、我々は全力で支援する。よく覚えておくように」

 

 

だから今回の処置を簡潔にまとめて伝える。

公安に所属する限り、デンジの人権は保障されるという事実を伝えて見せた。

 

 

「さて、ここから本題だ!苦しんだフリしてリンゴを(かじ)ってみてくれ」

「はああ!?なんで!?」

 

 

そして結婚の悪魔は、カバンから一眼レフカメラを取り出してデンジに指示する。

もちろん、言われた本人は意味が分からずに困惑するが悪魔は気にせずに発言を続ける。

 

 

「馬鹿野郎、そうしないと上層部がお前を人間と扱う根拠に納得してくれないんだよ!」

 

 

デンジは悪魔でも魔人でもない存在であり、未だに未知数の存在であった。

よって政府や公安の上層部は、デンジを悪魔や魔人と同じように扱わうべきだと意見が占める。

その対応をマキマがすればいいのだが、結婚の悪魔に対応させたせいで酷い目に遭っていた。

 

 

「つーか、どう食べれば良いんだ?」

「ヤクザにお金を取られて苦しい生活を思い出しながらリンゴを(かじ)れば良いんだ」

「なるほど、それならできるなァ!やっぱ天才だ!」

 

 

デンジとしてもどうすればいいか分からないが、金髪のおっさんのおかげで理解できた。

ポチタと一緒に苦しい生活を思い出しながら食べるリンゴの味は…とても甘く感じる。

リンゴの感触を味う間に何度もフラッシュで照らされてシャッター音が病室に鳴り響いた。

 

 

「…よし、これでばっちりだ」

「先輩、病院で撮影ってまずくないですか?」

「大丈夫だ、事前に院長と看護婦長と担当医に許可取ったから問題ない」

 

 

すかさず先輩の行動をアキが指摘するが、上司らしく手を打ったと即答した。

 

 

「これで輸血パックを投げればいいんだろうと言う上の連中を説得できればいいのだが…」

「千切れた腕が輸血しただけでくっつきましたもんね」

「ああ、万国びっくり武器人間だ。おかげさまで上に報告する内容が多くてな…」

 

 

そのまま軽く愚痴を述べた結婚の悪魔は、カメラをカバンに入れてデンジと向き合う。

 

 

「とりあえず、胸が揉めるっていう約束が叶いそうで良かったな」

「マジで今でも信じられないけどよぉ、夢が叶うって思ってなかったぜ」

「それもそうだ。こんなにお前が夢を早く叶えられるとは思ってなかったからな」

 

 

今回の事件で頑張ったデンジに声をかけて緊張をほぐすのは意図がある。

あくまでも公安は、こいつの味方だという事をアピールする一環であった。

 

 

「立派な夢があっても、志半ばで悪魔に殺されたり病気で無意味になる事があると考えれば…」

 

 

そして嫌がらせのように入り口付近で待機するアキに聴こえる音量で話を続ける。

 

 

「充実した人生や幸せってあっけなく壊れる物だな、それも壊れてから後悔する事が多い」

 

 

“銃の悪魔”を殺せるなら死んでも良いと断言したアキに暗に警告する。

 

 

「なんで不幸は覚えているのに幸せの時間ってすぐに忘れるのだろうな」

 

 

人の記憶に残りやすいのは、何かしら不幸を感じたり、トラウマを抱えた事件が多い。

幸せというのは、中々実感できないのに不幸に転落すると嫌でも実感させられる。

 

 

「さてと、このベットは窮屈かもしれんが、もうじき出れるからそれまで良い子にしてくれよ?」

「…なあ、おっさん」

「どうした?」

 

 

言いたい事を言い終えた結婚の悪魔は、病室から退室しようとした。

しかし、デンジから呼び止められて振り向く。

 

 

「あんたらみてぇによ。立派な目標も夢もねぇけどさぁ、いずれ俺はテメェらと同じくらいにィ!いや、絶対に超える立派な事をやっからさ。ド~ンと期待しといてくれ」

「ああ、頑張って考えればいい。まだまだお前の人生は長いんだからな、期待して待ってるぞ」

 

 

新たな目的が生まれたデンジに手を振って結婚の悪魔は退室した。

 

 

「とりあえず、敬語は覚えておけ。俺はともかく先輩たちに馬鹿にされる前にな」

「おーーそれも考えてやるよ」

 

 

最後に彼らしい忠告を発した後、先輩に続いてアキも退室する。

退室すると上司が待機していたのでアキはすかさず頭を下げる。

 

 

「……先輩、ありがとうございました」

「…部下の失態は上司の責任だ。先に首を切られるから安心しろ」

「え?そしたら誰が俺を庇ってくれるんですか?」

「お前がデンジやパワーを庇う上司になるんだよ」

 

 

早川アキは上司に感謝しながら軽口を叩きながら廊下を進んで行く。

そして休憩所に辿り着くと、バディである姫野さんと手錠をかけられている魔人が待機していた。

 

 

「ニャ!無罪じゃったろ!?分かったならコレをとっとと外せニャ!」

 

 

何故か猫のモノマネをしているパワーの姿が…。

 

 

「どうします?」

「このまま放置した方が面白くないか?」

「同感です」

 

 

滑稽に見えたので2人は彼女の要求を無視した。

 

 

「ニャんじゃと!?これだから人間は…ワシを怒らせたらどうなるか…」

「「マキマさんに報告してもいいんだぞ?」」

「にゃーん!ワシは悪くない猫ちゃんじゃ!」

 

 

必死の抗議する魔人の対応も慣れていた。

マキマの名を出すだけで無力化できるのは都合が良かった。

 

 

「ホントにいいの?アキ君たちが見逃した魔人が殺人を起こせばただじゃ済まないよ?」

 

 

その様子を笑っていて観察していた姫野が本題を告げる。

それに対してアキは自分の考えを相棒や上司に口頭で伝える。

 

 

「俺たちはデビルハンターです。悪魔でも魔人でも使えるモンは何でも使うべきだ」

 

 

早川アキは、自分の夢が叶うなら死んでもいいと覚悟をする男である。

何が何でも夢を叶えようとするのはデンジと同じであった。

 

 

「でも、敵は敵。味方ではありません、あくまで利用するだけで馴れ合うつもりはないですよ」

 

 

これはあくまで建前である。

銃の悪魔を殺す為なら悪魔に心臓を捧げる覚悟がアキにはある。

 

 

「なあ、早川。お前に言っておきたい事がある」

「なんでしょうか?」

 

 

あくまで悪魔は敵と認識するアキに対して結婚の悪魔は申し訳なさそうに口を開く。

珍しく自分に気を遣われていると感じた彼は姫野先輩と共に上司に向き合った。

 

 

「実はな、マキマさんの指令で君には血の魔人と同居してもらう事になった」

「……え?」

 

 

ここでアキの頭はパンクした。

ただでさえデンジに一般常識というものを叩き込まないといけないのだ。

それなのに虚言癖で悪魔に人間を売る魔人と一緒に生活しないといけない。

その事実を受けて呆然として上司の話を聞く事になった。

 

 

「自分もマキマさんに止めるように直訴したんだが、お前がデンジたちを庇った影響もあってな。同居計画を拒否できなかったんだ」

「なんで先に言ってくれなかったんですか!?」

「だって、先に言ったら前言撤回するだろ?あの場はお前の覚悟を見るのも目的だったんだ」

 

 

ここで大切なのは、自分はちゃんと馬鹿げた計画を否定したと宣言する事である。

これにより、自分がパワーを殺そうとしたのは早川アキの為でもあったと知らせる事ができる。

なにより、デンジの前で啖呵を切った以上、拒否する事は不可能だと知らせる意図もあった。

 

 

「なんで俺なんですか!?」

「マキマさんが問題児2人預けても大丈夫だと考えるほど信頼されているとしか言えないな…」

 

 

マキマの事だから絶対、言葉巧みにアキを納得させるだろう。

多くの人間の生きざまを見届けた結婚の悪魔ですら彼女の思考が理解できないのだ。

悪魔なりに考えた結論を述べて彼と向き合う。

 

 

「安心しろ。さっきも言った通り、何かあったら自分のところに責任が来る」

「頼ってもよろしいでしょうか?」

「相談には乗るが、手に負えない事態になりそうな案件だけ伝えてくれると助かる」

 

 

結局、マキマに利用されるだけの状況である結婚の悪魔は早川アキに同情する。

 

 

「来たるべき時が来たらマキマさんから直接連絡がくるはずだ」

「……了解です」

 

 

アキも何かを言いたそうであったが、必死に我慢して絞り出す様に同意をする。

 

 

「なによ、そんなに暗い顔をしちゃってさ!私でよければ相談に乗るよ?」

「「結構です」」

 

 

その様子を見て姫野が2人に声をかけるが、即座に拒絶された。

これには彼女もご立腹!

 

 

「はあ!?私が相談に乗ってあげようと言っているのに何その態度は!?」

 

 

乙女の心遣いを跳ね除けた2人に抗議しようとしたが…アキの目を見て口を閉じた。

 

 

「先輩、他にも何かあるんでしょうか?」

「もちろんだ、調査員の報告によると銃の悪魔の肉片が反応した悪魔の目撃現場がある」

「どこですか?」

「千葉県の銚子漁港にほど近い沖合だ。状況は追って報告する」

 

 

結婚の悪魔は無理なお願いをする時は、必ず相手の利点となる情報をもたらす事にしている。

そうすれば滅多にお願いを断れる事が無いし、なにより勝手に相手が信頼してくれるからだ。

今回は、知り合いの情報を元に餌を垂らしたら大物が釣れたとアキに報告した。

 

 

「今回の討伐任務はお前たちに一任したい。姫野先輩も問題ありませんよね?」

「もちろん」

 

 

なんで悪魔がこんな事までサポートしないといけないのか。

未だに悩む事があるが、それで現状が変わらないのであれば行動するまでだ。

契約外どころか公安の狗と化した結婚の悪魔は、自分の未来の為に奮闘する。

 

 

(マキマが何をやらかすつもりか知らんが、自分は自分の道を選ぶだけだ…)

 

 

いずれマキマから反逆し、自由を獲得するまではどれだけ働かされようとも牙を隠し続ける。

 

 

(というか、マキマの目的が分からん。なんでわざわざパワーをアキの元に寄こした…?)

 

 

一瞬だけマキマの目的について探ったが、未だに理由が分からずに困惑している。

自分の嫌がらせを兼ねているのは分かるが、現時点では彼女の目的は不明であった。

あえて考えるならパワーを巡って彼らが三角関係になるのを狙っているかもしれない。

 

 

(いや、ありえねぇ…)

 

 

男女の仲を考えると結婚に関する事を考えてしまうのが、結婚を冠する悪魔の悩みの1つだ。

部下の2人に魔人の対応を任せて先に病院から飛び出した悪魔は、タクシーに乗り込む。

 

 

「お客さん、どこに向かいますか?」

「デビルハンター東京本部に向かってくれ」

「分かりました」

 

 

運転手に行き先を伝えた悪魔は後部座席にもたれかかる。

景色が高速で過ぎ去っていく中で空に浮かぶ雲はそれほど動きが変わらないように見えた。

 

 

「お客さん、公安職員なんですね。珍しいですよ、わざわざタクシーを使って移動するなんて…」

「まあな、国民から取り立てた税金を還元する為に使用するというのが自分のポリシーさ」

 

 

日本の国防を担っている公安職員は、自分が公安職員とは名乗らない。

しかし、デビルハンターだけは公安職員と名乗る規則になっている。

民間のデビルハンターに自称されるのを避ける為と、警察や消防団と連携しやすくする為だ。

 

 

「あっしの甥も公安のデビルハンターをやってましてね。会う度に愚痴だらけなんですわ」

「愚痴ならまだいいさ、次に会う時には物言わない状態で発見される事が多いからな」

 

 

なにより、どんな末路になろうとも…すぐに身元を特定できるように報告するのだ。

いわば、日本国民をできるだけ死なせないようにヘイトを稼ぐのも公安の仕事になっていた。

 

 

「ところで知ってますかお客さん、お金を払うだけ悪魔と契約できる話を…」

「とんだ守銭奴も居たもんだ、お金の悪魔とか返済の悪魔ぐらいしか思いつかん」

 

 

お金を払うだけで悪魔と契約できるなど聴いた事が無い。

しかし、期限までに結婚を迫る契約を結ぶ結婚の悪魔はそれを否定できなかった。

だから赤信号の度に後部座席に振り向いて話題を振る運転手に関係しそうな悪魔の名を告げた。

 

 

「それがですね、お金を払うだけで拳銃と弾をくれる悪魔が居るんですよ」

「それ、悪魔の契約か?密売による取引にしか思えんが…」

 

 

お金を払って拳銃を手に入れること自体は問題ない。

問題なのは、日本は許可された者しか銃を所持できずに発砲を規制している法律があるからだ。

 

 

「いえ、あくまで噂で聞いただけなんですが、子供の小遣いで契約できるほど安い価格だそうで」

「困ったな、少年法*1では悪魔との契約に関する記述が無い。どうやって罰するべきか迷うな…」

「例え話ですよ、今の子供は学校以外に外出を許さない親が増えてますからね」

「おかげさまで経済は不況だ、我々のボーナスにも影響が出ているほどにな」

 

 

この世界に出現する悪魔は、自分の名を冠する存在を人々に恐れられる事で力を増す。

13年前に出現した銃の悪魔は、僅か5分の間に大勢の人々を殺して消息不明となった。

そのせいで誰もが銃を恐れてアメリカですら民間人による銃の所持が規制されたほどだ。

 

 

(つまり、銃と弾を貸す事で契約者とやらに暴れてもらうのが目的というわけか)

 

 

いくら銃器があったとしても弾が限られる以上、多くの人は殺せない。

しかし、大勢の契約者が一斉に暴れれば、多くの犠牲者と共に報道によって恐怖が拡散する。

これにより民衆が更に銃を恐れてしまい、結果的に銃の悪魔が強化される事となる。

 

 

(でも、これは手段でしかない)

 

 

だが、結婚の悪魔は、既に銃の悪魔が事実上死んでいる事を知っている。

いくら発砲事件で大暴れしたとしても、銃の悪魔は既に無力化されていた。

一応、復活する手段も存在するが、だったらこんな回りくどい作戦をやらない。

 

 

(ソ連かアメリカ、中国…少なくとも他国の仕業か)

 

 

銃の悪魔の肉体は、既に大国によって分割されて保管されている。

日本はその権利がなかったせいで所持できなかったが、合法的に所持できる手段は存在する。

 

 

(どうやって対処するべきか)

 

 

それは世界中に散らばった銃の悪魔の肉片を取り込んだ悪魔の討伐である。

あまりにも高速で動き回った銃の悪魔は、摩擦や戦闘の衝撃で肉体の一部を世界中にばら撒いた。

悪魔は、悪魔の肉体を取り込む事で強化できるので裏を返せば戦利品として所持できるのだ。

 

 

「捜査のご協力に感謝する」

「へへへへ、チップをくれると助かりますわ」

「はぁ……()()()到着したら支払うさ」

「まいどあり!」

 

 

信号機が黄色に点滅した事でタクシーは停車した。

噂話でも捜査に提供したとする運転手は、振り向いて更なるお代を要求する。

しぶしぶと金髪の男はズボンのポケットから財布を取り出して中を覗く。

 

 

「お前の命をな!!」

 

 

すかさず運転手が公安職員の頭に向けて拳銃を発砲をする。

前屈みになっていたせいでバックドアガラスに返り血が飛ぶ事は無い。

哀れにも頭を撃ち抜かれた公安職員はバランスを崩してそのまま座席の下へと消えていった。

 

 

「へへへへ、まんまと騙されてやんの」

 

 

タクシーの運転手は金を払って銃の悪魔と契約している。

公安職員を殺せば大金が手に入るという事で多額の借金返済の為に人類を裏切ったのだ。

 

 

「お前もな」

「え?」

 

 

状況証拠が欲しかった結婚の悪魔はあえて撃たれた。

まんまと引っ掛かった馬鹿に感謝し、肉体を液状化して助手席の足元に潜伏していたのだ。

そして隙を見せた瞬間に助手席から出現した悪魔は、余所見していた運転手の顔を殴打する。

その衝撃でブレーキペダルから足が離れるが、悪魔は運転手の足ごと粉砕してペダルを踏み直す。

 

 

「あ"あ"あ"ああ…!?」

「うるさいな、無事に到着できなさそうだから代金もチップの支払いも無しだ」

 

 

激痛のあまり声も出せずに悶絶する運転手をポイ捨てするかのように後部座席に投げ飛ばした。

さきほど打って変わって犠牲者になった彼は衝撃で後部座席から転がり落ちてしまった。

 

 

「ホント、馬鹿だな。()()()()()()()()()()()()()()()()だろ?」

 

 

その瞬間、信号が青になったので悪魔は自分の推理が間違っていない事を確認しながら運転する。

もしも、公安職員の知り合いだったならば、仕事上ではバディを組む事を知っているはずである。

愚痴を聴かされているなら尚更知っていないとおかしい。

なにより、何度も後部座席を覗いてくる行為は、まともに運転する気が無いと知らせていた。

 

 

「プリンシさん」

「はい」

「残さず喰っていいよ」

 

 

金髪のおっさんに化けている結婚の悪魔の発言を受けて人間体の脇腹から何かが噴き出した。

その正体は、マキマの手下である“蜘蛛の悪魔”である。

彼女は、結婚の悪魔の行動を監視する為に体内に潜んでいた監視員であった。

 

 

「よろしいのですか?」

「こいつの所持品を漁れば問題ない。それにマキマさんが利用する価値すらないからな」

「承知しました」

 

 

ようやく体内から異物が出て行ってくれた結婚の悪魔は清々した。

これで少しの時間だけであるが、自分の自由を謳歌できるのだ。

なお、助手席に置いたカメラで捕食現場を撮影したい好奇心があったが、さすがに我慢した。

 

 

「あえて到着を遅くするから、ごゆっくりどうぞ」

 

 

蜘蛛の悪魔は強酸で皮膚を溶かして啜る様に捕食するので、犠牲者が即死できないと知っている。

銃の悪魔と契約したつもりのクズが発する悲鳴を聴きながら笑顔で運転するその表情は…。

まさしく悪魔そのものだった。

 

 

*1
未成年の加害者が持つ権利と更生の機会を守る法律。これが制定された時代はともかく現代では形骸化している

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。