デンレゼが足掻く度に不幸になるケッコンの悪魔さん   作:Nera上等兵

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9話 女のおっぱいを揉む事より大切な事

早川アキが住むアパートに襲来したのは嵐そのものだった。

 

 

「おりゃあ!さっさと開けんかい!借金の取り立てじゃあ!」

 

 

早川が住む部屋のドアを何度も殴打するパワーは借金取り立てごっこをしていた。

 

 

「近所迷惑だからやめろ」

「ひでぶ!?」

 

 

あまりにも騒ぎ立てるのだから結婚の悪魔はすかさずトンファーバトンで彼女を殴打する。

一応、猫に気を遣ったが、それでもパワーは倒れない。

 

 

「ワシを誰だと思っておる!?」

「ニャーコのシモベ」

「なんじゃと!?ワシはニャーコと同格なんじゃぞおっ!?」

「うるせぇよ…というか今、なんて言った?」

 

 

なので肩に乗っていたニャーコを退かして改めてバトンで顔面を殴打する。

地味に「猫が血の悪魔と同格」と発言した彼女に結婚の悪魔は苛立ちを隠せない。

もう1発殴ろうとしたが、ドアが開いたので慌てて攻撃をキャンセルした。

 

 

「…先輩、お待たせしました」

「…すまんな、躾けが甘すぎて暴走していたのでちょうど暴力で黙らせたところだ」

 

 

早川アキがうんざりしてドアを開けると寝不足に見える先輩の姿があった。

これを見ては抗議もできずに素直に応対する他なかった。

 

 

「…むしろ中途半端に暴走させて公安の地下室送りにできないかと思っていたぐらいだ」

「同感です」

 

 

彼らが隙を見せた瞬間、パワーは飼い猫を奪還し、土足で部屋の中を駆け回ってしまった。

コメカミの血管を痙攣させた2人は相手の事を思って怒りを必死に我慢して会話をする。

 

 

「猫の取り扱い説明書を持ってきた。ついでに魔人のパワーもな」

「猫の方が説明書が分厚いですね」

「猫と悪魔、どっちが大事かと言われたら猫だろ?」

「当然ですね」

 

 

金髪の壮年男性が2冊の取り扱い説明書をカバンから取り出したが、猫の方が厚かった。

さっそくアキは猫の取扱説明書を手に取って開くと真っ先に禁止事項が書かれていた。

 

 

「動物にチョコレートを与えるのはダメだと聴いてましたが、牛乳もダメなのか…」

「意外かもしれんが、下痢になったり太る原因になるんだ。ペット用のミルクの購入を勧める」

 

 

パワーが武勇伝で人様の牛を狩って牛乳を与えたと知った悪魔は彼女をバトンで殴打した。

まずは猫1匹の為に家畜を狩りまくったせいで近隣で畜産を営む牧場が全て壊滅した事。

なにより可哀そうだからと牛乳を飲ませまくった結果、めちゃくちゃ太ったと知らされたからだ。

 

 

「それに「約束通りワシのおっぱい揉ませるぞ!」「ええ!?マジで!?」…帰って良いか?」

 

 

更に大事な話をしようとしたのだが、部屋の中が騒がしい。

会話を聞く限り、猫を救ったご褒美にパワーがデンジに胸を揉ませるらしい。

少なくとも玄関のドアを全開にして聴く会話ではなかったので結婚の悪魔は気力を失った。

 

 

「今日の午前10時にマキマさんから電話がかかって来るから相談したい事があれば言っておけよ」

「分かりました」

「ついでに他所でもあんな事を言っていたら本気でしばき倒せ」

「了解です」

 

 

嵐のように現れた先輩はパワーを置いてどこかへと去って行った。

それを見届けたアキは、溜息をついて時計を見て9時半なのを確認し、電話の前で待機した。

一方その頃、デンジは半年前では信じられない光景を目撃して興奮していた。

 

 

(うおおおおおおおおおお!!)

 

 

女の子とトイレの個室に入るのは生まれて初めての経験だった。

姉妹が居たならば、もしかしたら経験したのかもしれないが、デンジに姉妹は居ない。

 

 

「どうした?ワシの胸を揉むんじゃろ?」

 

 

そんな奇跡の状況で合法的に胸を揉む事を許された。

今まで人生のどん底に居た少年にとっては奇跡的な光景であった。

 

 

「ほれ、どうした?嬉しいじゃろ?」

 

 

便器に座って足を組むパワーは可愛かった。

美人の死体に憑依した血の悪魔は、自分の可愛さを理解している。

 

 

(マジ天使…)

 

 

悪魔なのに天使とは如何に?

そんな疑問を吹っ飛ばすほどの衝撃にデンジは痺れる。

気のせいか心臓も激しく鼓動しており、ポチタも喜んでいる気がした…。

 

 

「胸を揉んでも良い。回数は3回までじゃ」

「3回?」

「ニャーコを助けた事、コウモリを殺したからもう1回、最後にワシを庇ってくれたお礼じゃ!」

 

 

お互いの同意で胸を揉めるのは3回までだ。

それでも初めての胸揉みに思わずデンジは両手をワサワサと動かす。

 

 

(ポチタ!!見てろよ!!俺が夢を叶える瞬間よぉ~~!!)

 

 

 

さっそくデンジは長袖のTシャツ越しでも分かる膨らんだ胸を一揉みした。

 

 

「アンアン!アー!キモチイイ!」

「……あ?」

 

 

初めて胸を揉んだ感想は何か硬かった。

てっきりもっと柔らかいと思ったのに意外と硬く感じた。

パワーが棒読みで嬌声を出していたのも、自分の夢が情けない気がした。

 

 

「あ」

「…なんだこれ?」

「胸パッドじゃ」

 

 

なんか違和感を覚えて動きを止めるとパワーのシャツから何かが落下した。

これが何かと聞こうとしたら、先に彼女が落とし物の名前を告げた。

 

 

「胸パッド?」

「おっぱいを大きくする不思議な道具じゃ!すごいじゃろ!?」

「え?あ?うん、なんか…こんなもんか?」

 

 

女の子は胸に胸パッドを付ける。

初めて聞いた常識であった。

少なくとも拝借したエロ本にはそんな事を書いてなかったし、写真でもつけてなかった。

 

 

「さあ!残り2回じゃ!早く揉め揉め!」

 

 

再びパッドを付けたパワーは胸を揉めと告げる。

とりあえずデンジはもう一度胸を揉む事にした。

 

 

「お!」

 

 

再び女々しく鳴くパワーだが、更にデンジは困惑する。

おっぱいを揉むという禁断でイケナイ事をしているのに何かが可笑しい。

 

 

「はい、あと一揉み!さっさとおっぱいを揉め!」

「ああ……」

 

 

パワーに急かされたデンジは最後に彼女の胸を揉んだ。

 

 

「はい!終わり、閉廷、以上!解散じゃ!!塩梅よかったじゃろ~~!!?」

 

 

デンジは「あんばい」という単語を知らない。

ただ、あれだけ夢見た女の胸を揉むという夢のシーンが終わったと実感した。

 

 

(いろいろ言いたいが…こんなもん、こんなものか?)

 

 

おっぱいを揉んだら次に何をしようかなど考えていなかった。

ただし、実際に胸を揉んでも大した達成感を得られなかった。

野良でデビルハンターをやって初めて悪魔を討伐した感動すら超えられていない。

 

 

「これで貸しはチャラじゃ!改めてよろしくなー!」

 

 

自分の肩に腕を乗せられて引き寄せられてもデンジは困惑した。

 

 

「ニャーコを助けたからデビルハンターをやる必要が無いが、マキマが怖いからのー」

 

 

あれほど美少女だったパワーがただのおっさんに感じられるのだ。

 

 

「ウヌの仕事を手伝ってやる!ワシの力があれば百人力、いや1億パワーじゃ!ガハハハッ!」

 

 

笑い方や接し方がおっさんに感じられたのかもしれない。

ただ1つ言える事としたら、パワーはトイレから飛び出して部屋の探検を始めた。

そして便器と向き合ったデンジは思う。

 

 

(俺の夢、こんなもん!?)

 

 

それからというもの飯食って就寝して飯食って制服に着替える。

 

 

「なんだ、珍しく素直に従うな?なんかあったのか?」

「なにも…」

 

 

さすがにアキも怪しんだが、デンジはそれどころじゃなかった。

すぐにパワーを連れて先輩と共にデビルハンター本部へと向かう。

 

 

(やっぱ、俺の夢って大した事無いのかな…)

 

 

受付嬢に挨拶する際も元気が出て来ずにフラフラで倒れそうになった。

そのまま、自分の夢を応援してくれる金髪のおっさんの部屋に吸い込まれるように入室した。

 

 

「おっさん、パワーの胸を揉んできました」

「それにしては元気が無いな、なんかあったのか?」

 

 

自分と同じ金髪のおっさんに伝えると理由を訊いて来た。

だからデンジは自分が今まで抱えて来た想いを吐き出す。

 

 

「俺、胸を揉んだのに…なんか違うというか、こうじゃないというか…」

「夢を叶えたのに何かが可笑しいと思ったのか?」

「そーです!そうです!!」

 

 

夢を叶えたらもっと良い事があると思ったのだ!

マキマさんに拾われて公安のデビルハンターになった時のように!

色々苦労したが、マキマさんと食べたうどんとフランクフルトがマジで美味しかった!

だからあのような達成感を味わえると思ったのだ。

 

 

「夢なんかそんなもんだ、料理と同じだよ」

「料理?」

「そうだ、材料と調理器具を揃えて時間をかけて調理してもカレーを食べるのは一瞬だろ?」

「そーすっね」

「だから頑張っている時が辛いが楽しくて本番になるとつまらなく感じるものだ」

 

 

コレクターにありがちな夢である。

結婚の悪魔は男にも女にも自由自在に化けられる為、両方の感性を持ち合わせている。

結婚を何十回も経験した大ベテランは、女がらみで悩む少年にアドバイスをする事にした。

 

 

「つまりだな、仲良くなっていない女の胸を揉んでも楽しくないって事だ」

「えーっと…」

 

 

美少女フィギュアを買ったとして実際に飾ってから手入れをする者は少ない。

購入して手に入れるまでがドキドキしていたのに実際に入手すると愛が消えてしまう現象がある。

恋愛も同じで結婚するまで愛し合っていたはずなのに夫婦になると急激に愛が冷めるのだ。

 

 

「お前は確かに胸を揉む為に努力した。だが、パワーと恋愛したか?」

「してません」

「そりゃあ、愛がないと胸を揉んでも楽しくないだろ。常識的に考えて…」

 

 

キャバ嬢とか娼婦とか男性を楽しませるプロと違ってパワーは素人である。

そんな奴の胸を揉んでも嬉しいどころかあいつがやらかす度に憎しみが溜まっていくまである。

 

 

「デンジ、マキマさんの事、大好きか?」

「大好きっす!」

「どこが好きなんだ?」

「全部!!」

 

 

だからデンジが惚れているマキマを例にして夢の叶えた方か恋愛のサポートをしようとした。

ところが、あまりにも馬鹿過ぎてその方面でベテランの悪魔ですら判断に迷う。

 

 

「…まあいい、だがお前が見ているマキマさんは一部しか見れていない」

「というと!?」

「愛に飢えている彼女は、たくさんの犬を飼っている愛犬家でもあるのだ!」

「俺もマキマさんの犬になりたいです!」

 

 

「そういう犬じゃねぇよ!?」と結婚の悪魔はツッコミをしたい。

というか、このままだと自分がデンジをマキマにけしかける形になるから復讐されるに違いない。

そうだとしても結婚の悪魔を名乗っているせいで恋愛に関してはどうしても発言を避けられない。

 

 

「だからマキマさんの事をゆっくりと知る必要があるんだ」

「ゆっくり?」

「そうだ、恋っていうのはな、知らないほど盛り上がるんだよ、マキマさんは秘密が多いだろ?」

「はい!」

 

 

マキマという女は秘密が多い。

結婚の悪魔はなんとしても奴の弱点を暴こうとしているが、いつも上手くいかない。

ただ、犬の接し方から愛に飢えているのは分かった。

 

 

「だから好きな女の子と仲良くなったらな。デートに誘うんだ」

「デート?」

「そうだ。2人っきりの時間を過ごしてな、お互いを知って愛を大きくするんだ」

「…やっぱ、よく分からねぇ」

 

 

結婚コンサルタントをしていた悪魔からすれば、今までいろんな奴を見て来た。

その中でデンジは馬鹿ではあるが、恋愛自体はできる男だと理解している。

 

 

「そこでだ、マキマと2人っきりで仕事をできる時間を手配してやろう」

「え?マジすっか!?」

「マジだよ、マジ。男よりも女に仕事を教わる方が嬉しいだろ?」

「はい!そーです!!」

 

 

相手の知能指数に合わせて言葉を変えるのもお手の物である。

ちょうど、コウモリとヒルの悪魔が起こした事件の報告書が完成したところであった。

これを上手く利用すれば、仕事を覚えさせるついでにマキマと恋愛させる事も可能と判断した。

 

 

「少年よ、大志を抱けってな。さっそく手配するからまた明日も来い」

「分かりました」

 

 

とりあえず先輩に打ち明けて曇っていた心がすっきりしたデンジはこっそりと部屋を去った。

 

 

「…そうそう、歯医者に行けば歯科衛生士さんのおっぱいの感触を味わえ…っていねぇ?」

 

 

マキマの予定を頭の中で確認し終えた悪魔は最後にデンジにアドバイスをしようとした。

歯医者に行って歯科衛生士に歯茎のチェックや歯石を取る時に胸の弾力を感じる時がある。

歯の位置によっては、患者に胸を当ててまで口腔を覗かないと清掃できない時があるからだ。

だから「おっぱい」だけを感じたいのであれば歯医者に行けと言うつもりだったのだ。

 

 

「まあいいや、マキマから大切に思われているなら利用するまでだ」

 

 

さっそく内線で連絡を取ろうと黒電話に手を伸ばした。

 

 

「ケッ」

 

 

しかし、自分の行動を予想していたように電話が鳴り出した。

舌打ちをして受話器を取れば、相変わらず能天気そうなマキマの声が聴こえて来た。

デンジに盗聴器でも付けているのかと思うほどのお願いを聴いて悪魔は拳を握り締める。

 

 

「はい、判子を捺すだけの仕事を…はい、業務内容を知れる内容となっております」

 

 

男と女が付き合う姿は好きだが、自分以外でその裏で暗躍するのは気に喰わない。

自分の身体でさえも餌にして大きな物を釣ろうとするマキマとは結婚の悪魔の相性は悪い。

翌日、訪ねてきたデンジに書類を持たせて彼女の執務室に向かわせたのは言うまでもないだろう。

 

 

(すげぇ……マジですげぇ…)

 

 

そうとも知らないデンジはマキマの机で仕事をしていた。

 

 

(こんな簡単な仕事でお金を稼いでいいのか!?)

 

 

マキマから教えられた仕事は、書類を見て判子を捺すだけの仕事であった。

 

 

「これは建設省*1だね、そことここに判子を捺してね」

「はい」

 

 

しかも、マキマさんから良い匂いが漂って来る。

家庭教師でマンツーマン指導というのがあるのは知っていたが、マジでこれだった。

彼女が発する声や香り、呼吸すらデンジの心を揺るがすスパイスに過ぎなかった。

ズボンの股間が盛り上がっていると彼女にバレていないかドキドキしていた。

 

 

「…何か良い事があったの?」

「え?ああ、金髪のおっさんに相談して悩みが無くなったんです」

「へぇ」

 

 

あまりにも嬉しそうにしていたからかマキマさんから直接、声を掛けられた。

2人っきりの空間でドキドキしているデンジにとってはそれだけで幸せだった。

 

 

「ねぇ、どんな事を相談したの?私にも教えてくれない?」

「えーっと…」

「ダメ?」

「言います!マジで言いますぅ!」

 

 

別に秘密にしろとは言われていないし、そもそもマキマさんなら漏らさないと確信。

甘い香りと声に魅了されたデンジの理性はあっさりと彼女を受け入れた。

 

 

「俺、約束通り、パワーの胸を揉んだんですけどなんかこうじゃないって思ったんです」

「どうして?」

「ずっと追いかけたはずなのに俺が思っていたほど大した事がなかったんです」

 

 

パワーの胸を揉んでから夢を達成するより、夢を追いかけた方が楽しいと思っていた。

それほどまでに夢を達成したはずのデンジの心はどこか狂っていた。

しかし、先輩のおかげで理解した事がある。

 

 

「でも、分かったんです。お互いを知って愛を大きくする必要があるって」

「ふーん、すごいね。デンジ君は前よりも立派な大人に近づいているって事か」

「そ、それほど大した事は…」

 

 

無理に丁寧語で話しているデンジは既に限界を迎えている。

顔を近づけて来るマキマさんの顔はとっても不思議に思えた。

笑っているのか、びっくりしているのか、困惑しているのか、さっぱり分からなかった。

しかし、ここまで女性が自分に顔を近づけて来る経験がなかったせいでデンジは鼓動が早くなる。

 

 

(まずいまずい!俺のポチタが爆発しちまうぅううう!!)

 

 

相棒であるポチタに負担をかけているのは分かっている。

そのせいでデンジは自分の心臓が爆発して死ぬという心臓病の患者だった記憶を思い出した。

それでも初めて恋した女上司が自分をじっくりと見てくれるせいで興奮していた。

 

 

「じゃあ、ここからは実践しないとね」

「……え?」

 

 

突然、マキマさんが自分の腕を優しく掴んだ事にデンジは混乱した。

彼女の言動は良く分からなかったが、本能がこれから何が起こるか知らせてくれている。

 

 

「エッチな事はね、お互いが相手の事を理解できるほど気持ちよくなるもんなんだよ」

「え、ええ?」

 

 

まるでマキマさんがエッチな事を教えてくれるような発言にデンジは混乱する。

最近、いつも混乱している気がするが、今回はマジで混乱していた。

お互いの手を重ねて指同士で触れあうと何かが可笑しく感じた。

 

 

「まずはね、顔。そして次は触りやすい手とかもいいかもね」

「あの…」

「指の長さはどれくらいか、掌は温かいか冷たいか、相手の指の形は?」

 

 

今までデンジは自分の身体を触れられる機会などほとんどなかった。

あったとすれば一緒に暮らしていたポチタくらいでそれも家族愛に近い。

 

 

「首の形、髪の感触、耳の形もしっかりと味わうといいよ」

「あ、ああ!」

 

 

もはや心電図のモニターになった気分だった。

手首を優しく手に取ってマキマさんが自分の身体を触らせる度にデンジは痙攣する。

心拍数が異常を越えて循環モニターからビー!ビー!と警音を鳴らしている状態に似ていた。

 

 

「指を噛まれた事はある?」

「かまっ!?」

 

 

ついにデンジの心の中にある循環モニターも限界が来た。

自分の指先に愛している女性が口づけをして吐息を吹きかけた。

 

 

(うおおおおおおおおおおおお!!?)

 

 

ビィイイイイイイイイイ!!という爆音がデンジの脳内に鳴り響く。

もう少しでデンジの心はマキマさんに陥落しようとしている。

 

 

「覚えて」

 

 

憧れであり、大好きで、とっても素敵な女上司がデンジの指を噛んだ瞬間。

彼の脳内にピーーーーという高音が鳴り響き、デンジの心は心肺停止、死んだのだ。

 

 

「デンジ君の目が見えなくなっても、私の噛む力で私だって分かるくらいに覚えてね」

 

 

しかし、マキマさんから放たれた一言でデンジの心はすぐさま再起動した。

最初に強めに噛んで少しすると歯の圧力が減って甘噛み状態になった。

小刻みにマッサージするように噛む姿にデンジの心は奪われたどころか…。

 

 

(これがマキマさんが俺を味わう感覚かぁ~~!?)

 

 

甘噛みをしっかりと覚える為に人生で一番気を集中させた。

今なら東京大学を卒業できると通常時なら思ったが、今はそうでもない。

 

 

「覚えました」

 

 

何があってもマキマさんが自分の指を噛む感触を忘れないと確信するほど彼は覚えた。

 

 

(もう二度と忘れねぇ…マキマさんに飼われるのが俺の夢だったんだ!)

 

 

デンジはゾンビの悪魔に殺されたどころかマキマさんにも殺されたと実感してしまった。

もはや恋どころか無自覚に母性に飢えているデンジは餌を求める雛鳥まで知能が退化する。

 

 

「あ、あああ!?ああああ!?」

「どう?胸を触ってみて」

 

 

しかし、デンジの手がマキマさんの胸に触れた瞬間、彼の体内に落雷が発生する。

1億ボルトの電圧に匹敵するほど彼の身体を痙攣させて椅子から転び落ちるほどの衝撃を与えた。

 

 

「ああああ、ああああ!?」

 

 

100℃のお湯に1時間浸かったほどデンジの全身は真っ赤に染まる。

特にマキマさんの噛まれた右腕は彼女の唾液と共に痙攣し、使い物にならなくなった。

生半可な童貞ですらここまで壮絶な状況にならないが、デンジは違った。

 

 

(こ、これが愛!?)

 

 

ついにマキマさんとの唇がデンジの唇に迫って来た。

ファーストキスまでされるのかと思ったデンジは、周りの時間が止まったと感じた。

再び心肺停止に陥る感覚にポチタとの約束を破ってこのまま死んでもいいと思わせたほどだった。

 

 

「ねえ」

「はい!」

 

 

そんな彼女からお願いをされたら、素直に従うしかない。

結婚の悪魔がこの場を目撃したら吐き気を通り越して吐血している状況だが彼は気にしない。

マキマさんの言う事なんでも聞くワンワンに成り下がった存在に選択肢は残されてなかった。

 

 

「デンジ君にお願いがあるんだけどいいかな?」

「はい!!」

 

 

仰向けに倒れたデンジの腰の上に乗っかったマキマは彼にお願いをした。

そしてきちんと返事を聴いて満足できたのか落ちていた椅子を建て直して座った。

 

 

「銃の悪魔を倒して欲しいの」

「銃の悪魔?」

 

 

すぐにデンジは、その目的を達成するのは難しいと感じた。

何故ならここまでやってくれた女性がお願いをするというのはそれほど困難。

もしかしたら不可能なお願いだと感じてしまうほどの余裕ができたとも言えた。

 

 

「13年前にアメリカで出現して世界中で大暴れをした後に姿を隠した悪魔なの。その被害規模から世界中のデビルハンターが殺したがっているほど強大な悪魔なんだ」

 

 

かつて13年前に出現した銃の悪魔は多くの人を殺した。

今まで恐怖されてきた悪魔は存在したが、これほど国境を越えて大暴れしたのは初めてだった。

故に世界中のデビルハンターはおろか世界中の軍隊も血眼に捜索しているほどの存在。

世界中から紛争や戦争がなくなったのも、この悪魔が原因とする専門家が多く居るほどの影響力。

 

 

「私はね、デンジ君ならそんな悪魔でも殺せると思うんだ」

「俺が…?」

「そう、キミは他のデビルハンターの誰よりも特別だから」

 

 

マキマは嘘を言っていない。

確かに目の前の少年は特別で銃の悪魔を完全に殺しきれる存在であると知っている。

 

 

「もしもデンジ君が銃の悪魔を殺せたら、私がキミの願い事なんでも1つだけ叶えてあげる」

 

 

デンジは世界は壊れたと思った。

さっきまでは自分が壊れたと思ったのに今では世界の常識と方式と物理法則が狂ったと思った。

何でも言う事をきいてくれるという事は、逆にあり得ないのではないかと思い込んだほどだ。

 

 

「それって銃の悪魔を俺が殺したら、マキマさんは願い事を1つ叶えてくれるって事っすか!?」

「うん」

 

 

そのままオウム返しをするほどに動揺したデンジだがすぐに冷静になった。

むしろ、胸を揉んだりキスをするよりも更に進んだ行為もできると思ったので狂っていた。

 

 

「な、なんでもってまさかセッ「なんでもだよデンジ君」…ま、マジかよ」

 

 

マキマさんとあんな事やこんな事ができる。

拝借したエロ本で見た光景しか想像できなかった行為ができるという事実。

 

 

「それほどまでに強い悪魔なんだよ」

「へ、へぇ…そんな奴が居たんすね」

「その頃のデンジ君は物心があるか分からないほどの歳だもの、仕方ないかもね」

 

 

もちろん、マキマは銃の悪魔を討伐する事は困難だと説明する。

銃の悪魔が引き起こした被害からアキ先輩の仇そのものである事。

なによりたった5分活動しただけで120万以上の命が失われたと告げた。

 

 

「ここまでで質問ある?」

「でも、世界中が探しているって事は、ライバルが多いって事っすよね?」

「いいえ、この約束はデンジ君しかしていないの。だからキミ次第だよ」

 

 

デンジの疑問としては、銃の悪魔の居場所とそれを狙うライバルたちを気にしていた。

しかし、彼女にとってはそれは大した事はなかった。

 

 

「デンジ君なら倒せると思う?」

 

 

本題はたった1つであり、デンジが返答する内容も決まっていた。

 

 

「モチロロンです!俺がすげぇドカンと頑張れば大丈V(ブィ)でしょう!」

 

 

左手でピースサインを作ってデンジは胸を張る。

必ず銃の悪魔を倒すと宣言した彼を見たマキマは満足したのか。

それ以上の愛情表現をデンジに繰り出す事は無かった。

 

 

「そうだね、まずは銃の悪魔を見つける手段を教えないとね」

 

 

その代わりにデンジに公安だけが所持できる保管品を見せた。

これを利用すれば、必ず銃の悪魔に辿り着くと教えて彼女との共同作業は終わりを迎えた。

すぐさまデンジは、彼女にお礼を告げて優しく扉を閉めた後、金髪のおっさんのところに向かう!

 

 

「おっさん!金髪のおっさん!!」

「なんだ、せめてノックしろよ。いきなりドアを開けるのはマナー違反って言ったろ?」

 

 

どうせ碌でもない事をマキマに吹き込まれたと察している結婚の悪魔に隙は無い。

銃の悪魔を討伐しろとか(そそのか)されたと予測してあえて触れるつもりはなかった。

ここで欲しいのは、彼が何を求めているという事だ。

 

 

「…で?何か用か?」

 

 

口が無駄に乾いているので悪魔はティーカップを手に取って紅茶を飲む。

さきほどまで通話をしまくったせいで喉がカラカラだったのだ。

 

 

「銃の悪魔を討伐してマキマさんとエッチをしたいんですが、どうすればいいんですか!?」

「ぶふううううううっ!?」

 

 

予想だにしてなかったデンジの発言に結婚の悪魔は紅茶を噴き出す。

マキマや遥か格上の悪魔の攻撃であっても死なない悪魔が今、一番死にかけるほどの衝撃だった。

 

 

「ゲホゲホゲホ…」

「あっ、すみません。ストレート過ぎました」

 

 

頼りになる先輩がお茶を噴き出して咽ている姿を見てさすがのデンジも罪悪感が生まれた。

一方、無敵ギミックをスルーされたせいで窒息で死にかけている悪魔はそれどころじゃない。

 

 

(この野郎!!マキマにすら知られていない弱点を突きやがって!!)

 

 

どれだけ肉体を破壊されても死なずに復活できる結婚の悪魔だが、致命的な弱点が存在する。

それを予想外の形でデンジに攻撃された悪魔は彼を睨む。

 

 

「お前、それを誰かに言うなよ。マジで殺されるからな」

「あ、やっぱりそうか。先輩に聞いてよかったぜ…」

 

 

何とか窒息死を免れた悪魔は、デンジを死地に送ると決意した。

ちょうど彼にぴったりな案件がやってきたのだから。

 

 

*1
国土交通省の前身となる組織。2001年の中央省庁再編で消滅した

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