エルザ密林。
数ある密林の中でも特に範囲が広く、多種多様な生態が存在する密林である。
ここには多くの草食竜や鳥竜種、飛竜種が存在するまさに生物の楽園というに相応しい場所だ。
しかし、それだけにここを通り道としている行商隊などはランポスやファンゴなどの被害にも逢いやすいのが特徴的な場所なのだ。
そんなエルザ密林を竜車を揺らしながら慎重に進んでいたとある行商隊があった
「すごいなぁ。僕、密林なんて初めてだよ!」
そういってはしゃぐのはまだ幼き日のセシルである。
「なぁ見てみなよ。あそこに見たこともない花が咲いてるよ。」
セシルがそういうと奥の方からのっそりと同じ年頃の女の子がひょこっと顔を出してきた。
「どこどこ?どこに咲いてるの?」
セシルの幼馴染みであり、ともに引っ越しの為に同じ竜車に乗っていたシェリーがセシルと同じ場所から外を覗き始めた。
「ほら、あそこだよ。あんな綺麗な花見たことないでしょ!」
「ほんとだぁ~。真っ赤で綺麗だね。前の村じゃ雪見草しかなかったもんね。」
そう、この二人は親の事情で前に住んでいた村を去り、新たな村まで行商をしに行く人達と一緒にこの密林を進んでいたのだ。
「それにしても暑いねぇ。汗が止まらないよ。」
セシルは頻りにタオルで体を拭いているが追い付かないほどに汗が流れていた。
「そうだね。こんなに暑いなんてちょっと思わなかったな。」
セシル程ではないにしてもシェリーもまた汗が止まらない状態だった。
「はっはっは。お前たちは密林は初めてだから体が驚いているんだよ。」
竜車の前から朗らかに笑いながら話しかけてくるのはセシルの父親である。
「だけど、それもあと少しの我慢だ。もうすぐエルジス村に到着するから、暫く我慢してくれ。」
そういうと父親は竜車の操舵手とまた話始めた
「楽しみだねシェリー。今度の村はどんな所なのかな?」
「うーん。暖かい所としか聞いてないから、わくわくするね!」
少しだけ的はずれな事を言いながら、新たな村に夢が膨らんでいく二人。
エルザ密林に入ってから既に二日が経過していた。このままのペースで行けば今日の夜にでも抜けれる感じだ。
「でも、大丈夫かな?」
シェリーが少しだけ不安げに呟いた。
「どうしたの?シェリー?」
セシルがシェリーの前に座って顔を覗きこんだ。
「うん・・・もしさ、この竜車がモンスターに襲われたらって思うと、ちょっと怖くて」
「なーんだそんなことか。大丈夫だよ、護衛のハンターもいるしさ。心配することないよ。」
このような行商隊は通常は料金を支払って隊を守る為のハンターを雇うことがある。
この行商隊も例外ではなく三人の護衛ハンターを雇っていた。
「・・・そうだよね。大丈夫だよね。」
シェリーは少しだけ笑いながらまた外を覗き始めた。
それから少しした時、前の竜車が急に停止をした為全ての竜車が止まり、操舵手とセシルの父親らが集まりなにやら話をし始めた。
「どうしたんだろう?」
セシルが竜車から降りると父親がやって来た
「父さん、どうしたの?急に止まっちゃって」
セシルが聞くと父親は少しだけ目を瞑りそして、すぐに笑いながら
「あぁ、少し問題が発生してな。どうやらこの道の先に飛竜が出没したとの情報が入ってな。それで今後の方針を話ていたんだ。」
「うんうん。」
「それで様子を伺う為に今日はここまでにして、明日大丈夫そうならまた出発しようってなったんだ。」
「そうなんだ・・・」
セシルは少しだけがっかりした。今日の夜に密林を抜けて新しい村を見れると思ってただけに少しだけしゅんとしてしまった
「そんな顔をするなセシル。楽しみは取っておいた方が着いたときの感動もひとしおだぞ。」
父親はセシルの頭を撫でながら、シェリーにもこの事を伝えるために竜車の中へ入っていった。
(そうだよね。一日伸びるだけだからね)
セシルも竜車の中へと入り、父親と共にぐずり始めたシェリーをなだめに行った
その日の夜。
程よい広さの場所に竜車を止めて、皆はテントを組始めた。
仮のベースキャンプの設置である。決して安全とは言えないが比較的安全な所を見定めておいたのである。
「今日はここで休むぞ。明日の朝になったら村に向けて出発するからな。早く寝るんだぞ。」
父親はそういって大人達の所へ戻っていった
「うーん、早く寝ろっていってもなあー。竜車の中でも寝ちゃったから眠くないんだよなぁ。」
「そうだねー。」
セシルとシェリーは暇をもて余す状態だった。
「あっ!そうだ。ねぇセシル君。少しだけこの辺りを見て回らない?」
「えっ?どうしたんだよ。急に」
セシルはシェリーの提案に驚き、彼女に問い掛けた
「だってさ、私達密林なんて初めて来たでしょ。この辺りは安全だっておじさんも言ってたし、少しだけだから。一緒に冒険しようよ。」
「うーん。」
セシルは少し考えた。
(確かに安全なんだろうけど、もしモンスターにでも会っちゃったら・・・)
そう考えたがセシルも危険より好奇心の方が勝っていたのが事実だった
「分かったよ。この周りなら大丈夫だろうし、なんかあったら大声だせばいいからね。行こうか。」
「やったぁ!じゃあ早速行こう!」
そういうとシェリーは携帯食料を鞄に詰めて竜車から飛び降りた
「早く早く!」
「わ・・・・分かったからちょっと待って」
セシルも慌てて鞄を下げて竜車を降りた。
過酷な運命が待っているとも知らずに二人は笑いあいながら密林の中へと足を踏み入れたのであった。