時のよすがに導かれて   作:そういう日もある

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4話

 

 三学級がルミール村の傍の野営地についた途端、火矢が降り注いだ。

 フロルは襲撃を知っていたため周囲の生徒に向けられた矢を剣を抜いて弾いた。

 これが目立つ火矢でよかったと、心の中で安堵した。

 夜闇の中で普通の矢なら対処が遅れていたかもしれない。

 すかさず光魔法を唱えて辺りを照らし出す。

 両側の森に弓矢を構える山賊がいるのが見えた。

 

「襲撃だ!全員荷物を掲げて盾にしろ!」

 

 全体的に混乱はしていてもパニックには陥っていない。

 行軍の疲労だけが心配だった。

 フロルは馬車の馬が暴れ馬になる前に縄を断ち切ってまたがった。

 すると、狙い通り目立ったフロルに矢が集中的に降り注ぐ。

 心構えができていたから当たりそうになった矢を掴んでへし折った。

 矢の対処をしながら、周囲を見渡して赤髪の青年を見つける。

 

「シルヴァン!一頭馬を使って後列から北に逃がし始めろ。

 森には入るなよ!」

「あいよ!まさかあんたから指示を受けることになるとはね」

 

 シルヴァンが華麗に馬に飛び乗ると鹿のように駆けさせる。

 流石は王国が誇るゴーティエ家、乗馬は得意分野だ。

 

「救護班を最優先で守れ!狙いを定めず光魔法を打ち続けろ!視界を確保するんだ!」

 

 炎上が始まった馬車をフロルが蹴り飛ばして道を広げる。

 その間にも、山賊にセイロス騎士達が逆襲を始めた。

 馬上からはディミトリと従者ドゥドゥーが山賊を切り伏せながら殿を務めているのが見える。

 

「矢が切れたな。突っ込んでくるぞ!」

「フロリアヌス様、これを!」

 

 フロルは馬上で、生徒から渡された槍を握る。

 先頭の山賊を強く石突で殴りつけると、面白いように宙を舞った。

 

「ひぃ!?化け物!」

 

 動揺で足が止まった山賊にメルセデス達の攻撃魔法が次々と炸裂する。

 この様子なら問題ないだろうと馬の首を前列に向けた。

 

「殿下をお守りしてくる。こちらから攻めず応戦しろ!」

 

 フロルが動いている間にも三学級の生徒は合流しつつあった。

 貴族や騎士の子弟が先陣に立ち、既に状況の混乱は収まり掃討戦に移行している。

 長い戦乱の歴史が子供達を戦士にしていた。

 

 しかし、王子ディミトリ、皇女エーデルガルト、次期盟主クロードの三人が山賊に集中的に襲われ隊列を離れつつある。

 

「ベレスか……良かった」

 

 ジェラルトとベレスが見えたのでフロルはほっと溜息をついた。

 「必然の出会い」だ。

 結末がわからない「偶然の出会い」は先行きが見通せなくなる。

 シェズでないことを願っていたが、女神に祈りが届いたようだ。

 フロルを乗せた馬は山賊を蹴り殺しながら、ディミトリの前に辿り着いた。

 

「殿下、手助けに参りました」

 

「ありがとう。

 こちらは手を貸してくれることになった傭兵団だ。

 俺達は山賊の頭を狩る」

「俺はそんなこと言ってないぜ。

 このまま逃げようって思ってたくらいだ」

 

 すかさず笑みを張り付けたクロードが野次を飛ばした。

 それをエーデルガルトが嗤う。

 

「あら囮になるために動いたようにしか見えなかったけれど」

「決めつけはよくないな?

 言葉の裏ばかり読んでも、本心を見逃しちまう」

 

 話している間にもディミトリの槍が矢を払い、クロードの弓が山賊の足を撃ち抜き、止まったところをエーデルガルトが斧で二つに引き裂いた。

 

「ったく、ガキどもはともかく、

 この村を見捨てるわけにはいかねえ……」

「…………」

 

 ジェラルトとベレスも恐ろしい速度で山賊を狩り始める。

 万が一を考えて救援に来たが、この様子だと必要なかった。

 

「やりすぎるなよ、エーデルガルト」

「貴方こそ相手が可哀想になるわね、ディミトリ」

 

 ディミトリとエーデルガルトが足止めする間に、ジェラルトが突貫した。

 

「て、てめえ……まさか、壊刃のジェラルトか!」

「おい、いつまで遊んでる」

 

 山賊頭コスタスを怒りの一太刀で斬り伏せる。

 壊刃の名に震え上がった賊は背中を見せて逃げ始めた。

 

 フロルはというと。

 最初は調子よく賊を追い回していたが、振るっていた槍が砕けた。

 組み立て式の簡易槍がブレーダッドの紋章の怪力に耐えられなかったのだ。

 やることもないので矢傷を隠していたクロードに回復魔法をかける。

 

「毒は塗ってなさそうだ。

 あとでちゃんとマヌエラ先生に見せた方が良い」

「助かったぜ。

 賊相手に傷ついたなんて知られたら、

 ローレンツに笑われるからな。

 転んだってことにしておいてくれよ」

 

 フロルは鼻で笑った。

 

「生徒を庇った傷だって、

 素直に言った方がいいんじゃないか?」

「おっと見られてたか」

 

 このひねくれ者め。

 セイロス騎士が現れる前にまたたく間に山賊たちは壊滅した。 

 いよいよ待ちに待った、時のよすがに導かれて運命が始まった。

 

 

 大修道院に戻ってきて、フロルにとっての本題はここから。

 ベレスの選択がそのままフォドラの運命を決定づける。

 是非とも青獅子の学級に入ってもらいたいと考えるのは当然だ。

 早速ベレスに媚びを売りに来たのだが、改めてみると違和感も大きい。

 惹かれるような、奇妙な感覚に陥る。

 軽く頭を振って違和感を追い出した。

 

「お茶でもどう?」

 

 話のとっかかりが思いつかずに誘うと、ベレスはなにも言わず表情も変えずに頷いた。

 事情を知らなければぎょっとするだろう。

 まだベレスの中にいる女神ソティスが馴染んでいないせいで、感情が死んでいるのだ。

 

 中庭の一席を確保して、フロルはカップにセイロスティーを注いだ。

 パルミラの南方から採れるこの茶葉は王国で手に入らないので密かな楽しみだった。

 香りを味わってから口をつけて、舌を火傷しないようにゆっくり楽しむ。

 ほっと息を吐き出して小さな焼き菓子を口に入れた。

 

 これもなかなか悪くないな。

 

「さて、俺の名はフロリアヌス、フロルでいい。

 金髪の王子様みたいな奴いただろ、あれの従兄弟だ」

「似ていない」

「ん?ああ、髪と目の色な。

 もともと金髪だったんだが、訳あって今の色になった」

 

 ブレーダッドの血筋は代々金髪にも拘わらず、フロルの髪と瞳は碧色をしている。

 理由はフロル自身にもわかっていない。

 

「レアみたいだね」

「そりゃフォドラいちの誉め言葉だな」

 

 フロルがくつくつと笑った。

 

「ディミトリと俺で継承権がごたついているが、

 あいつが王様になるんじゃないか?

 つまりどこにでもいる貴族だと思ってくれ」

「貴族はどこにでもはいないよ」

 

 ベレスの直球の答えに、フロルは少し言葉に窮する。

 しばらくして口を開いた。

 

「この大修道院なら右を向いても左を向いても貴族ばかりだ。

 どこにでもいるで間違ってない。

 それで聞き飽きただろうが、まずは礼を言わせてくれ。

 助けてくれてありがとう。命の恩人だ」

「貴方は余裕がありそうだった」

 

 フロルにとって、知っていた賊の襲撃は大した問題ではない。

 そんな余裕を見透かしたベレスに、フロルも動揺することなく頷く。

 

「そうか?そうかもな。

 じゃあディミトリの命の恩人てことで感謝を受け取ってくれ」

「わかった」

「ほかの生徒から色々質問攻めされただろうから俺はやめておく」

「そう」

 

 先ほどから返ってくるのはほとんど相槌ばかり。

 ベレスは会話を広げようという気をみせない。

 機械的に紅茶と焼き菓子を口に入れていくだけだ。

 フロルの話もあまり興味がなさそうだった。

 ここは遠回りするより、直球で勝負すべきだ。

 

「……なのでこれからの話をしたい」

 

 緊張しながら本題を告げる。

 

「是非とも青獅子の学級の教師になって貰いたい」

「なぜ?」

「なんで教師になるって知ってるかは秘密だ。

 教師になって欲しい理由だけどな。

 山賊の襲撃にはおかしな点が幾つかあった。

 なにに気付いた?」

「下手だった」

 

 傭兵らしい視点に頷く。

 

「確かに襲撃に成功したわりにはやり方が甘い。

 魔獣でも誘導してぶつければ良かった」

 

 同盟グロスタール家もやっている、よく使われる手段だ。

 対処が困難で被害も大きくなる。

 フロルもスレン相手に一度使ったことがある。

 思ったより事前準備と誘導が大変だった。

 とはいえ、賊が手間を惜しんで死んだなら間抜け過ぎる。

 

「手を抜いたわけだ。

 でも当然だろ。

 貴族の子弟が大半の俺達も金を直接持ってるわけじゃない。

 身代金を要求するため生かしておかないと意味がないんだ」

「たしかに」

「と……言いたいところなんだけどな。

 それじゃあ、おかしな点がある」

 

 梯子を外されたベレスが瞼をぴくりと動かした。

 ようやく見せた変化に、フロルが愉快そうに指を三本上げた。

 

「あの時賊が狙ったのは皇女、王子、次期盟主。

 賊が身代金を狙うには身分が高すぎる。

 報復で国を挙げて狙われることになる。

 普通の賊じゃ考えられないんだ。

 俺はこの事件の裏にいる人間を捕まえたい。

 教師が協力してくれるなら動きやすいだろ?」

「貴方になんの利があるの?」

「それを知りたいならもう少し仲良くなってからだな」

 

 ベレスは顎に手をやってどうするかを悩んだ。

 それを見ながらフロルが焼き菓子に手を伸ばす。

 

 いずれ、フォドラに隠れた闇の深さをベレスも知ることになる。

 ただ、今は話すことができない。

 ベレスが知らないままでいたほうが都合が良いこともあるのだ。

 

「……報酬はでる?」

 

 しばらくして、ベレスが導き出した問いは、至極傭兵らしいものだった。

 

「財布の大きさは自慢できる」

「わかった」

 

 差し出した手を握り返した。

 

 肩の荷が一つ下りた。

 これでどのような道を辿っても、王国の勝利は揺るがない。

 フロルが死んでもディミトリが上手くやってくれるだろう。

 

 ふとベレスが疑問を口にする。

 

「ところで、自分と会ったことは?」

「一度でも会ったら君みたいな美人間違いなく声をかけてる」

「そう」

 

 フロルの軽口を、これまた軽く流した。

 ベレスはそれ以上の質問を投げかけることはなかった。

 

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